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2019年9月14日土曜日

「社会福祉法人の会計監査人に関するアンケート結果」の公表

1.第二次アンケートも含めた結果

今年の1月27日に「会計監査実施法人に対するアンケート調査の第1次調査の結果についての感想」というブログを書きましたが、令和元年8月30日付で第2次調査の結果も含めた「社会福祉法人の会計監査人に関するアンケート結果」が厚生労働省より各所轄庁に発出されました。
 このアンケート結果は、いろいろなサイトに掲載されていますが、ここでは大阪府のサイトをご紹介しておきます。大阪府のサイトはこちらです。

2.会計監査までの準備期間

(1)前回の決定時期

 アンケート結果には、自由記入欄の結果として各社会福祉法人のご意見も記載されています。
 前回の第1次アンケートにも自由記入欄の記載はありましたが、今回、私が取り上げるのは会計監査が開始されるまでの準備期間についてのご意見です。

 ご存知のように、平成29年4月1日から開始する事業年度より、サービス活動収益30億円超又は負債総額60億円超の法人は会計監査人の設置が義務付けられることになりました(社会福祉法(以下「法」)37条)。そのため、この会計監査人の設置が義務付けられた社会福祉法人(特定社会福祉法人)は、公認会計士又は監査法人による社会福祉法に基づく会計監査を受けることになりました(法45条の2①)。

 この社会福祉法に基づく監査の対象は前年の平成28年9月26日の社会保障審議会で決定したと記憶していますが(ちなみに、私も傍聴人として参加していました。)、このあたりから会計監査人候補の選定に入った法人が多かったのではないかと思います。もちろん、それ以前に、サービス活動収益が30億円を超えている法人の中には会計監査人設置の義務付けは確実ということですでに会計監査人予定者を決定していた法人もありました。

 そこで、平成28年10月以降に会計監査人候補の選定を行った法人が、概ねどのような経緯をもって社会福祉法に基づく会計監査に入っていったのかを簡単に記載します。

(2)会計監査に入るまで

 平成28年9月26日に会計監査人の設置が義務付けられる社会福祉法人の対象が決定して以降、対象となった社会福祉法人はプロポーザルを行い、会計監査人候補の選定に入りました。ここで「会計監査人候補」と記載しているのは、会計監査人は評議員会で決定されるため(法43条①)、定時評議員会が開催される以前においては、正式に会計監査人として選任されていないためです。
 プロポーザルは早いところでは平成28年10月~11月には行っていましたが、遅いところでは平成29年1月~2月という法人もありました。
 いずれにしろ、多くの法人では、平成28年10月から平成29年2月ぐらいまでには会計監査人候補が選定されていたのではないかと思います。
 会計監査人候補が選定されたら、次に行われるのは予備調査です。予備調査では、内部統制に依拠した会計監査が実施できるかの調査、会計及び内部統制に関する問題点の指摘、その他反社会的勢力との関わりの有無の調査などを行います。
 この予備調査とその報告は、遅くとも平成29年3月までには終わっていたのではないかと思います。というのは、4月に入ると期末決算の時期に入るので法人側も対応が難しくなるからです。
 総じて見て見ると、会計監査人の選定から予備調査の報告までの期間は、おおむね平成28年10月から平成29年3月までの約6ヶ月ということになります。
 そして、予備調査の報告が終わった後は、6月に開催される評議員会で会計監査人の選任が行われ、7月から会計監査が行われるという流れとなりました。

(3)会計監査までの準備期間

 予備調査については、通常、監査法人から予備調査報告書が提出され、会計及び内部統制の問題点が指摘されます。その後は、指摘された事項について改善を行うことになります。しかしながら、特に内部統制については改善といっても一朝一夕にできるとは限らず、時間を要するものもあります。
 これを踏まえると、平成28年10月から平成29年3月までの最長6ヶ月間であっても改善を行うには期間が短いといえます。4月からは期末決算に入るので3月までには改善を終了させる必要がありますが、法人によっては予備調査報告を受けてから3月末までの期間が、3ヶ月間あるいは2ヶ月間ぐらいしかなかったかもしれません。

(4)上場準備会社では?

 以前、このブログでは「会計監査人の設置基準の引下げ延期」というブログを書きましたが、この中で私は、

「私見ですが、平成29年度から実施した社会福祉法人の監査では、社会福祉法人側に十分な準備期間がなかったのでは、と感じました。
 ちなみに、上場会社の場合、上場準備期間があり最短で2年、状況によってはそれ以上の期間を経て上場に至るのですが、社会福祉法人の制度改革ではこのような期間がなかったと思います。
 そのため、多くの社会福祉法人は準備不十分なまま、いきなり法定監査に突入してしまったので、気の毒な感じがします。
 従って、今回、会計監査人の設置基準が延期となりましたが、監査の準備期間が設けられたという点ではよかったと個人的には思っています。」

 と記載しました。

 もう少し、実務の現状を記載すると、上場を目指す会社では上場準備監査のショート・レビューが行われる前にコンサルティング会社などが入って、会計及び内部統制の問題点を指摘し、あらかじめ改善しておくという実務が行われることが多いです。人によっては「プレ・ショート・レビュー」という言い方をする人もいます。
 このように、上場を目指す会社は、上場後の法定監査(金融商品取引法監査)が行われる前に任意監査である上場準備監査、さらには上場準備監査が行われる前の「プレ・ショート・レビュー」を経ています。この期間は最低2年間ですが、3年以上かかっている会社は多く見られます。
 これに比べると、社会福祉法人の場合は、いわゆる法定監査を受けるまでの期間が短すぎると思いました。

3.アンケート結果より

 アンケート結果にもこの点がいくつか記載されています。
 以下抜粋します。

「平成 28 年度から予備調査を実施したが、法人の事業規模から考えると、十分な準備期間であったとはいえない。特定社会福祉法人以外の法人でも、早期に予備調査を実施し、内部統制の不備や会計上の誤りについて修正すべきと考える。また、会計監査人の選任にあたっては、「医療・福祉業界」に精通した、専門性の高い監査法人の選定が重要である。この点を踏まえると、今回の会計監査人の設置基準引き下げが延期となり、会計監査の準備期間が設けられたという点では良かったと考える 。」

 会計監査人の設置基準引き下げが延期になり会計監査の準備期間が設けられた点ではよかったという点は、上記2(4)に記載したとおり私も同意見です。

「公認会計士の話によると、一般企業で上場する場合は、上場準備期間があり、それを経て会計監査を受けるための体制も整っていくとの事であり、 社福法人においても会計監査受ける場合は、同様の対応が必要なのではないか。」
 
 こちらも上記2(4)に記載したとおり、上場会社では上場するまでに上場準備期間があります。法定監査に入るまでには相応の期間が必要と個人的には考えていますが、少なくとも、社会福祉法人の場合は期間が短すぎると思います。もう少し、法定監査に入るまでの準備期間を長く設けるべきと思います。

4.まとめ

 正直申し上げて、多くの社会福祉法人では現状の内部統制や経理レベルでは、監査法人が行う本来のレベルの会計監査に対応するには難しいと思います。
 そのため、監査法人がまともに会計監査を行うと、現場にもかなりの混乱と負担がかかってしまいます。実際、アンケート結果にも監査対応を行う職員の負担や現場の混乱についても記載されていました。
従って、会計監査に対応するためには、早めに公認会計士などの専門家を入れて、予備調査が行われるまでに、できる限り十分な時間をとる必要があります。

2019年7月27日土曜日

契約書に係る監査上の論点~吉本興業の「契約書なし」をみて

1.吉本興業の「契約書なし」問題
 吉本興業の、いわゆる闇営業問題に関連して、吉本興業が所属タレントと契約書を作成していなかったという論点が出てきました。
 さらに、この「契約書なし」問題に関して公正取引委員会の山田昭典事務総長が「契約書面が存在しないということは、競争政策の観点から問題がある」と述べたというニュースも出てきました。(「契約書なし「競争政策上、問題」=公取事務総長、吉本興業に懸念」(時事通信)、「吉本興業の契約書なし、「問題がある」 公取委総長発言」(朝日新聞))
 私は、闇営業問題に関心はないのですが、この「契約書なし」問題を見て思い出したことがあったので、今回は、財務諸表監査における契約書にかかる論点を記載したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.「契約書なし」の会社
(1)契約書を作成する意義
 財務諸表監査を行うとき、内部統制のデザインの評価や運用評価、実証テストを行いますが、この過程で取引の契約についても、どのように行われているのかを見るために契約書の閲覧などを行います。
 当然のことながら、まずは取引の契約を締結した場合は契約書の作成が必要です。一応、民法上は口頭でも契約は成立するのですが、企業の内部統制上、契約書を作成することが必要です。そうしないと、金額や支払相手などが不明確になるため、例えば、架空取引や水増し請求による過大支払いなどが行われてしまい会社に損害が発生するリスクがあるからです。(「架空取引に係る内部統制」「経営者による内部統制の無効化とハコ企業」参照)

(2)地方でよく見られるケース
 上場会社では何らかの取引を行うときは、まず間違いなく契約書を交わしていますが、「経営者による内部統制の無効化とハコ企業」でも記載したように、資金繰りが逼迫した企業では内部統制の無視・無効化が横行し、契約書を取り交わさないで取引を行っていたケースも見られました。
 
 このように上場会社レベルでは「契約書なし」というのはイレギュラーなケースですが、非上場会社や非営利法人では「契約書なし」というケースが時々出てきます。特に、この「契約書なし」は地方でよく見られるという印象があります。
 何度か見たのは、地元の工務店と工事契約を締結するケースです。なぜかというと、地方では、地域の人は昔からの顔なじみで、お互いによく知っているため、わざわざ契約書を作成する必要はないという文化ができてしまっているからのようです。
 そのため、契約書を作成しなくても「まあ、別にいいじゃないか」というお互いの信頼関係で物事が進んでしまうというわけです。

 また、非上場会社あたりでは「収入印紙の節約をしたいから」という理由で契約書を作成しない会社も時々見られます。
 
 しかしながら、契約書を作成しないと上記のように、会社に損害が生じるリスクがあるので、契約書は作成する必要があります。

3.契約書の偽造
 立命館大学、早稲田大学の教授や公認会計士・監査審査会会長を務められた千代田邦夫教授は、公認会計士資格も保有されており、旧二次試験合格後は会計士補として監査業務にも携われていました。
 その千代田教授の著作「監査論の基礎」(税務経理協会)の前書きの中に、契約書の偽造を発見したときの話が記載されています。
 千代田氏が会計士補として、ある会社の監査に行ったとき、売上の監査を行うために売買契約書の提示を求めたそうです。しかし、会社は何かと理由をつけて提示してこなかったため、おかしいなと思い何とか粘ったところ、やっと出てきたのは契約書のコピーだったそうです。そこで、千代田氏が閲覧したところ、おかしなところに気づいたといいます。何かというと、契約書のコピーは何通もあったようですが、収入印紙の消印の位置がどの契約書も同じだったのだそうです。ますます怪しいと思い、問い詰めると、ついに担当者が白状したそうです。会社が何をしたのかというと、セロファン紙の間に収入印紙を挟み込み、その上から割印を行い、これを偽造した契約書においてコピーをしたということです。
 
 なお、監査の現場では契約書類や証憑類は必ず原本を確認するようにしています。そうしないと、この話のように不正が行われても看過してしまう可能性があるからです。そのうえで監査調書にするためにコピーをとることになります。
 ちなみに、私の場合は「原本確認の上、森がコピー」と記載して原本を確認したことを記すようにしています。このようにすれば、会社がコピーしてきたものをそのまま受け取っていないということがわかるからです。
 
4.監査法人の「契約書なし」問題
 以上は、会社等と取引先との契約に関してでしたが、最後に監査法人と契約している公認会計士との契約について触れたいと思います。これは吉本興業とタレントとの契約と同じケースとなります。
 監査法人も契約している非常勤の公認会計士とは非常勤契約に係る契約書を作成する必要があります。もちろん、常勤の公認会計士とは雇用契約を締結していますから雇用契約書の作成が必要です。
 日本公認会計士協会は、監査法人に対して品質管理レビューを行っていますが、この品質管理レビューのときは、非常勤会計士と交わした契約書の有無は必ずチェックしています。そのため、通常の監査法人であれば、非常勤会計士との契約書は作成しています。
 監査法人だったら当然であろう、と思われるかもしれませんが、どうもこの業界では長い間、それこそ吉本興業のように契約書が作成されず、契約関係があいまいになっていた時期が続いていたようです。おそらく、もともと、この業界は徒弟制度が長く続いていたため、「何でそんなもの作らないといけないんだ」という感覚があったのだと思います。
 しかしながら、日本公認会計士協会による品質管理レビューで、非常勤会計士との契約書の有無はチェックするようになったため、品質管理レビューを受ける監査法人では契約書を作成するようになりました。

2019年5月19日日曜日

巨人がPwCコンサルティングと契約~デジタルトランスフォーメーションの実現に向けて

1.はじめに
 プロ野球・読売巨人軍はPwCコンサルティング合同会社とオフィシャルサプライヤー契約を締結したと、令和元年5月17日付で発表しました(「「PwCコンサルティング」とオフィシャルサプライヤー契約 革新的・先進的な来場者サービス開発へ」)。

 内容は、PwCコンサルティング合同会社が「オフィシャル・デジタルトランスフォーメーション・アドバイザー」となるというものだということです。
 このデジタルトランスフォーメーションですが、球団公式ページでは「「デジタルトランスフォーメーション」(通称:DX)とは、テクノロジーを活用してビジネスモデル全体を改善し、変化するビジネス環境に適応させることで、最終消費者にとってより優れた価値を提供できる状態にすることを意味します。」と記載されています。

2.デジタルトランスフォーメーションが起こすイノベーション
 デジタルトランスフォーメーションは、行政庁においても、日本であらゆる分野で導入を進めるべく、様々な研究が進んでいます。
 例えば、総務省の情報通信白書平成30年版では、デジタルトランスフォーメーションは段階を経て社会に浸透し、影響を及ぼすと記載されています。
 同白書によれば、以下のような段階を経て社会が変革していくとされています。
①「まず、インフラ、制度、組織、生産方法など従来の社会・経済システムに、AI、IoTなどのICTが導入される。」
②「次に、社会・経済システムはそれらICTを活用できるように変革される。さらに、ICTの能力を最大限に引き出すことのできる新たな社会・経済システムが誕生することになろう。」
③「その結果としては、例えば、製造業が製品(モノ)から収集したデータを活用した新たなサービスを展開したり、自動化技術を活用した異業種との連携や異業種への進出をしたり、シェアリングサービスが普及して、モノを所有する社会から必要な時だけ利用する社会へ移行し、産業構造そのものが大きく変化していくことが予想される。」

3.巨人は遅れている?
 いま、なぜ巨人がPwCコンサルティングとデジタルトランスフォーメーションに関する契約を締結した理由は、推測ですが観客動員、ファン獲得においてITの推進が遅れているという危機感があったのではないかと思います。というのは、現在のプロ野球球団にはソフトバンク、楽天といったIT系の企業が参入していますが、これらの球団は観客動員などにおいて自社のITテクノロジーを導入して様々な工夫をしているからです。
 例えば、ソフトバンクは「AIチケット」というものを発売しています。ソフトバンクホークスの公式ページの説明によれば、「過去の販売実績データに加えて、リーグ内の順位や対戦成績、試合日時、席種、席位置、チケットの売れ行きなど多様なデータから、試合ごとの需要をAI (機械学習) により予測し、需要に応じて価格が変動するチケット」ということです。
 また、楽天は、今年から球場での完全キャッシュレスを始めました。公式ページの説明によれば、「チケット・グッズ・飲食等をお買い求めの際、原則として現金がご利用いただけなくなります。」ということです。
 チケットレス化も進んでいます。BCN+Rというサイトの記事によれば、チケットの電子化によるチケットレスを導入しているのは、オリックス、埼玉西武、中日、阪神、福岡ソフトバンク、北海道日本ハム、横浜DeNAの7球団ということです。
 しかしながら、各球団でこういった取り組みが進む中、残念ながら盟主・巨人の名前が出てきません。
 なぜ、巨人がこのような取り組みを行っていないのかというと、これも推測ですが「やりたいと思っているし、やらないとまずいという意識はあるものの、導入するための人材や技術がそろっていない」からではないかと思います。
 このあたりについては長くなるので、次回「変わるプロ野球のビジネスモデル」というタイトルで記載したいと思います。

2019年5月12日日曜日

役員選任の決議方法の実務~個別決議と一括決議

1.はじめに
 平成29年(2017年)5月28日のブログ「機関運営の留意点~公益法人及び社会福祉法人共通」では、役員の選任方法として複数人を一括して決議する一括決議は不可であり、各役員等について個別に決議する個別決議を行う必要があることを記載しました。
 とはいえ、法人によっては改選時の役員候補者数が数十名というところもあり、まともに個別決議を行うと膨大な時間がかかってしまうという実務上の問題点もあります。
 そこで、今回は役員の選任決議の実務について記載したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.平成29年5月28日のブログの再掲
 まず、平成29年5月28日のブログを再掲します。

  「役員(理事及び監事)は公益法人では社員総会又は評議員会で、社会福祉法人では評議員会で選任することになりますが、この選任は各役員について個別に決議を行う必要があると解されます。すなわち、一括決議は不可と解されます。

  趣旨は、役員の選任という重要な意思決定について、法は理事の選任議案の内容をすべての社員ないし評議員に通知すると規定するなど(一般法38条①Ⅴ、同法施行規則4条③イ、一般法181条①Ⅲ、同法施行規則58条①、社福法45条の9⑩、同法施行規則2条の12)、慎重に審議を行うことを要求していますが、これを個別決議ではなく、一括決議にしてしまうと、社員又は評議員の意思が反映されないことになり、法の趣旨が没却されてしまうからです。

  例えば、理事候補がA,B,C,D,E,F,Gの6名がいるとします。評議員のうちXはA~Gの6名につき選任案に賛成ですが、評議員YはA~Fの選任には賛成であるものの、Gについては選任に反対と考えているとします。
  このとき、一括決議により「評議員全員の賛成により理事候補全員の選任について異議なしとします」としてしまうと、評議員Yの意思が反映されない結果となってしまいます。そうなると、評議員会で慎重に審議を行い役員を選任するという法の目的が達成されなくなります。
  そのため、役員の選任決議は一括決議ではなく、個別決議で行う必要があります。」(引用終)

 3.内閣府「特に留意する事項について」
  この役員選任の決議方法は、実は法令で明記されているわけではありません。法の趣旨を鑑みると、一括決議はふさわしくないということです。

  ただし、全くどこにも記載されていないものなのかというとそうではなく、公益法人の場合は、平成20年10月10日に内閣府公益認定等委員会から出された「移行認定又は移行認可の申請に当たって定款の変更の案を作成するに際し特に留意すべき事項について 」(以下「特に留意する事項について」)のP12~13にこの論点の記載がなされています。
  
  引用すると以下のとおりです。

 「法は、社員総会又は評議員会に理事の選任権を形式的に付与しているだけでなく、理事の選任過程の適正を確保するため、種々の方策を講じている。 
                  (中略)
  このように、法及び公益法人認定法は、あらゆる規律を通して、選任手続を可能な限り慎重ならしめ、社員総会(評議員会)における実質的な審議を経て適正に理事が選任されるための種々の方策を講じている。
                  (中略) 
  また、理事の選任議案を社員総会(評議員会)で決議する方法について、例えば、4人の理事の選任議案の決議(採決)を4人一括で決議(採決)することとした場合には、本来、1つ1つの議案(1人1人の理事の選任議案)ごとに賛成又は反対の意思を表明することができるはずの社員(評議員)に対して、全議案についてすべて賛成か又はすべて反対かという投票を強制することとなり、上記の法の趣旨が没却されることとなる。」

 とし、結論として、

 「このような法の趣旨及び考え方を踏まえ、
 ① 公益社団法人が、定款の定めにより、社員総会の普通決議の決議要件(定足数)を大幅に緩和し、あるいは撤廃することは許されない(問題の所在①)
 ② 社員総会又は評議員会で理事の選任議案を採決する場合には、各候補者ごとに決議する方法を採ることが望ましく 、特例民法法人の移行に際し、その定款(の変更の案)に、社員総会又は評議員会の議事の運営方法に関する定めの一つとして、「理事の選任議案の決議に際し候補者を一括して採決(決議)すること」を一般的に許容する旨の定めを設けることは許されない(問題の所在②)こととなる。 」

 と記載しています。
  公益法人の立入検査で、行政庁が一括決議が不可であることを指摘する場合、この「特に留意する事項について」が根拠となっています。

 4.実務上の対応策
  しかしながら、上述したように、役員候補者数が30名や40名といった数十名となる法人の場合、各候補者ごとに決議する方法を採ると相当な時間がかかってしまいます。
  また、それなりの法人になると、総会はホテルの会議場などを借りることが多いですが、1時間あたりの費用も大きいものがあります。
  ついでにいうと、多くの法人では、総会終了後は懇親会があります。そのため、懇親会が始まる時刻までには総会を終了させる必要がありますが、個別決議をまともにやると時間が読めなくなります。
  
  そこで、実務上は、以下の対応策が考えられます。
 
 ①まず、議長が、役員の選任については各候補者ごとに決議を行う方法が原則であることを説明する。
 ②ただし、時間と手数の関係上、一括して決議を行いたい旨を説明するが、一括決議に反対する人がいれば、申し出てほしいことをアナウンスする。
  あるいは、一括決議を行うことについて、社員または評議員に対して賛否を問う。
 ③反対する人がいなければ、全員が一括決議に賛成したということになる。また、賛否を問うた場合、賛成多数であれば、もちろん、一括決議に賛成したということになる。
 ④以上の手続を経た上で一括決議で進める。
 
  このような方法は、株式会社の株主総会の実務ではよく見られます。
  あくまで、私見ですが、参考としていただけますと幸いです。 

2019年5月4日土曜日

財務諸表などの日付表示~令和元年を迎えて

1.令和元年がスタート
 平成31年4月30日をもって平成が終了し、翌日5月1日より、元号が平成から令和に変わりました。新しい元号の始まりです。
 我が国は元号を使用する国なので、元号を使用するのが原則ですが、一方で西暦も使用されています。西暦とは「キリスト生誕の年と信じられている年を紀元とする西洋の暦」(コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典より)でありますので、本来は我が国の暦の数え方としてはなじまないものです。しかしながら、世界の主要各国がキリスト教徒の関係で西暦を使用していることから、国際化が進んだ我が国でも元号と併記して使用されています。
 従って、元号を使用することが基本ではあるのですが、戦後の我が国では、昭和、平成、令和と3つの元号が使用されており、しかも、年の途中で元号が変わっているので、年数などを数えるときに手間取ってしまうことは否めません。

2.財務諸表などの日付表示
 元号の改廃は、有価証券報告書、計算書類等などの年度表示にも影響があります。
 非営利法人おいても、公益法人が作成する計算書類等、社会福祉法人が作成する計算関係書類の年度表示をどうすればよいのかという問題が出てきます。

 ちなみに、内閣府が各都道府県知事及び各指定都市市長宛に、平成31年4月2日付で出した「元号を改める政令等について」では、以下の申し合わせ事項が示されています。

〇改元日前までに作成した文書において、改元日以降、「平成」の表示が残っていても、有効であること
〇改元日以降に作成する文書には、「令和」を用いること。やむを得ず「平成」の表示が残る場合でも有効であるが、混乱を避けるため、訂正等を行うこと
〇元号を改める政令の公布日から施行日前までに作成し公にする文書には、「平成」を用いること
〇法令については、「平成」を用いて改元日以降の年を表示していても、有効であり、原則、改元のみを理由とする改正は行わないこと
〇国の予算における会計年度の名称については、原則、改元日以降は「令和元年度」とすること

3.有価証券報告書
 それでは、決算書などではどうでしょうか。
 まずは有価証券報告書です。

 この有価証券報告書については、税務研究会のコラム「有報の日付表示、あなたは和暦派?それとも西暦派?【1分で読める!「経営財務」記者コラム】」では、「有報における開示に関する規定を定めた「企業内容等の開示に関する内閣府令」の第三号様式」に触れています。

 コラムによると、「【提出日】については「平成 年 月 日」となっており、【事業年度】も同様に当該様式上は和暦で示されている。」ため、「和暦表示をしなければならないように思えるが、実務上は全て西暦表示でも問題はないという。特別な手続き等は不要で、西暦表示に統一したい企業は、任意で西暦に変更ができる。」ということです。
 さらに、同コラムでは、有価証券報告書において西暦表示を行っている企業数を調べた結果「トヨタ自動車や日立製作所、ファーストリテイリングなど、500社以上が西暦表示」であったということです。

実際、トヨタ自動車の直近の有価証券報告書の表紙を見てみると

【事業年度】2018年3月期
      (自  2017年4月1日  至  2018年3月31日)

 と記載されていました。

 従って、有価証券報告書においては元号表記でも西暦表記でもどちらでもよいということになります。

4.会社法における計算書類等
 次に、計算書類等です。計算書類等は会社法に定められたものなので、会社法に定めるすべての会社が対象となります。
 この計算書類等については、知る限り、日付表示に制限はありません。従って、元号でも西暦でも問題はありません。
 元号で表記されている会社でも、西暦を併記しているところもあります。
 
5.公益法人の計算書類等と定期提出書類
 一般社団法人・一般財団法人及び公益社団法人・公益財団法人では、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律において計算書類等を作成することが義務付けられています。
 こちらの計算書類等においても日付表示に制限はありません。従って、どちらでもよいということになります。なお、私が見る限りでは元号表示が多い印象です。

 しかしながら、あくまで私見ですが、公益認定を受けた一般財団法人及び一般財団法人(公益法人)では、元号で記載するほうがよいと思います。
 理由は、計算書類等は定期提出書類(事業報告等の提出書類)と一緒に提出しますが、定期提出書類は元号表示になるため、それにあわせておくほうがよいためです。

 以前、このブログで公益法人インフォメーションの電子申請がリニューアルされたことを書きましたが、エクセルで作成された新システムでは、日付表示はプルダウンとなっていて、そのリストには元号しか載っていません。ちなみに、新元号が発表される前の段階の事業計画書等の提出書類にかかるプルダウンメニューのリストには「平成」と「令和」ではなく、「平成」と「新元号」という表示で載っていました。

 従って、公益法人においては、元号表示がよいと思います。

6.社会福祉法人の計算関係書類
 社会福祉法人は、すべての法人が計算関係書類、社会福祉充実残額計算シートをWAMネットを通じて所轄庁に提出します。
 このとき提出する計算関係書類は社会福祉充実残額計算シート内で作成しますが、社会福祉充実残額計算シートでは、すでに元号表示が行われているので、すべての法人の計算関係書類は元号表示となります。

 この点は、同じ非営利法人であっても公益法人とは異なるところです。公益法人の場合は統一された書式というものはなく、各法人の自由となるからです。そのため、元号か西暦かという問題が出てきますが、社会福祉法人では所轄庁の提出書類に関しては元号で統一されているので、選択に困る点はありません。

 ただし、理事会や評議員会で使用する計算関係書類では、元号と西暦の併用表示でもよいと思います。

2019年3月17日日曜日

貸倒懸念債権の貸借対照表上での表示

1.はじめに
 債権は貸倒見積高の算定にあたっては①一般債権、②貸倒懸念債権、③破産更生債権等に区分されます(金融商品会計基準27項) 
 では、これらの債権は貸借対照表ではどの区分に表示すればよいのかというと、この点については制度上、明記がありません。
 そこで、今回は、債権の貸借対照表表示について記載します。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.貸借対照表での表示
 貸借対照表のでの表示ですが、①一般債権と③破産更生債権等については問題はないでしょう。
 ①一般債権は流動資産に計上されます。科目名でいうと、受取手形、売掛金、リース債権、完成工事未収入金といった科目となります。
 ③破産更生債権等は固定資産のうち投資その他の資産に計上されます。こちらの科目名は破産更生債権等となります(財務諸表規則32条1項10号)。
 ここまでは問題はないのですが、では②貸倒懸念債権についてはどの区分に表示すればよいのかが問題となります。

3.正常営業循環基準
(1)貸倒懸念債権の意義
 まず、貸倒懸念債権の意義について記載します。
 貸倒懸念債権とは「経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権」をいいます(金融商品会計基準27項(2))。
 イメージとしては、まだ経営破綻には至っていないので相手方も苦しいながらも経営は続けているため回収可能性は残されているものの、請求を行ってもなかなか入金がされないような債権というものです。

(2)流動資産と固定資産の区分法
 次に、貸借対照表の流動資産と固定資産の区分法について記載します。
 まず、流動資産と固定資産の区分は「正常営業循環基準」によります。
 次に、正常営業循環基準で区分できないものについては「1年基準」によります。
 正常営業循環基準とは、文字通り、正常な営業サイクル(例:販売業でいえば、仕入→販売→入金)に属する資産及び負債は流動項目とし、それ以外は固定項目とするというものです。
 一方、1年基準は、正常営業循環基準に該当しない科目について、決算日後1年以内に回収や支払が行われる資産及び負債を流動項目、1年を超える資産及び負債については固定項目とするものです。

 この流動・固定分類については結構誤解されがちですが、まず第1次的には「正常営業循環基準」が適用されます。1年基準で区分するようなイメージを持たれている方も多いのですが、1年基準はあくまで2次的な区分法です。

 正常営業循環基準によれば、1年で投資の回収ができないものも流動資産に計上されることがあります。例えば、長期請負工事における完成工事未収入金です。工事期間が1年を超える長期工事においては、請負工事に対する債権の回収も1年を超えてきます。しかしながら、この債権は長期工事という正常な営業サイクルに属するものなので、流動資産に計上されます。

(3)破産更生債権等が固定資産に区分される理由
 そのため、 経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権である一般債権は当然のことながら流動資産に計上されます。正常な営業サイクルに属する債権だからです。
 では、破産更生債権等が固定資産に区分される理由ですが、これは破産更生債権等は、経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権であることから、正常な営業サイクルから外れた債権であるためです。経営破綻に陥った場合、会社に対する売上債権については、こちらが請求を行っても支払ってはくれません。例えば、債権者集会を経た後、清算配当が払われる形となります。配当があればまだよいかもしれません。少なくとも全額の回収はまず無理です。すなわち、正常な営業サイクルからは外れてしまっています。
 そのため正常営業循環基準により、固定資産に区分されるとされているものと解されます。

4.貸倒懸念債権の表示
 これらを鑑みると、貸倒懸念債権は「経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権」であるため、貸倒懸念債権の状態では、まだ正常な営業サイクルに属している債権といえます。
 このような入金が滞っている場合は、通常は取引は停止しますが、請求は続けていきます。その請求により、金額や入金時期は不規則ですが、少しづつ入金はされていくケースもあります。そのため、投資の回収を行っている状況にあることから、依然として正常な営業サイクルに属する債権といえます。

 なお、参考ですが、「金融商品会計に関する実務指針」112項では、貸倒懸念債権の要件について具体的に記載しています。
「債務の弁済に重大な問題が生じているとは、現に債務の弁済がおおむね1年以上延滞している場合のほか、弁済期間の延長又は弁済の一時棚上げ及び元金又は利息の一部を免除するなど債務者に対し弁済条件の大幅な緩和を行っている場合が含まれる。」
「債務の弁済に重大な問題が生じる可能性が高いとは、業況が低調ないし不安定、又は財務内容に問題があり、過去の経営成績又は経営改善計画の実現可能性を考慮しても債務の一部を条件どおりに弁済できない可能性の高いことをいう。」
「財務内容に問題があるとは、現に債務超過である場合のみならず、債務者が有する債権の回収可能性や資産の含み損を考慮すると実質的に債務超過の状態に陥っている状況を含む。 」

 従って、回収ペースは落ちているものの、債権の回収段階にある貸倒懸念債権は正常な営業サイクルに属しているといえますので、正常営業循環基準により流動資産に区分することが妥当といえます。

2019年2月3日日曜日

日EU・EPA発効~その効果とビジネスへの影響

1.はじめに
 2019年2月1日付で日EU・EPAが発効されました。(注:マスコミなどでは「日欧EPA」と呼んでいますが、政府、各省庁は「日EU経済連携協定(日EU・EPA協定)」と呼んでいます。ここでは「日EU・EPA」と記載することにします。)
 これにより、日本とEUとの間で巨大な自由貿易圏が誕生しました。日本からの輸出、日本からの輸入についても関税が引き下げられ、最終的にはゼロとなります。一部品目については、発効日の2019年2月1日付で即時撤廃、すなわち関税がゼロとなりました。

2.そもそもEPAとは何か
 2018年12月30日にはTPP(Trans-Pacific Partnership 環太平洋パートナーシップ)が発効され、こちらもアジア太平洋地域に巨大な自由貿易圏が誕生しました。
 ここで、EPAやTPPと、自由貿易圏を巡っていろいろな用語が出てきます。自由貿易圏についての言葉であるということはわかりますが、どのような違いがあるのでしょうか?

 自由貿易の促進については、もともと1995年に発足したWTO(World Trade Organization 世界貿易機関)が発端です。このWTOにより自由貿易を発展させていこうという動きが始まりました。しかしながら、原則として、現在加盟している全164の加盟国及び地域のすべての同意が必要であるため、先進国と発展途上国との対立もあり、全会一致は困難なものとなりました。

 そこで、2国間で協定を締結する動きが出てきました。2国間であれば、WTOよりも交渉などを進めやすいからです。このようにしてできたのがFTA(Free Trade Agreement 自由貿易協定)です。このFTAは「特定の国や地域の間で,物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的とする協定」です(外務省HPより)。

 このFTAは、関税などの削減・撤廃を目的としてものですが、こういった貿易面のみならず、「貿易の自由化に加え,投資,人の移動,知的財産の保護や競争政策におけるルール作り,様々な分野での協力の要素等を含む,幅広い経済関係の強化を目的とする協定」(外務省HPより)がEPA(Economic Partnership Agreement 経済連携協定)です。簡単に言ってしまえば、EPAは貿易のみならず、ヒトやサービス、種々の規制といった面についても自由化していこうというものといえます。

 さらに、2国間の協定から、さらに範囲を広げて地域で協定を締結しようという流れも出てきました。このようにすれば、各国とそれぞれに協定を締結するよりも、一度に複数の国と協定を締結できるので効率的です。そのような中で誕生したのがTPP(Trans-Pacific Partnership 環太平洋パートナーシップ)です。
 今回の日EU・EPAも、日本とEUの間での協定ですが、地域間での協定といえます。
(参考:経済産業省「【60秒解説】TPP、EPA、FTA・・・何が違う?」)

3.日EU・EPAとTPPの参加国
(1)日EU・EPA
 日EU・EPAは、日本とEUの協定となりますので、EU加盟国が参加国となります。
 
 日本・ベルギー・ブルガリア・チェコ・デンマーク・ドイツ・エストニア・アイルランド・ギリシャ・スペイン・フランス・クロアチア・イタリア・キプロス・ラトビア・リトアニア・ルクセンブルク・ハンガリー・マルタ・オランダ・オーストリア・ポーランド・ポルトガル・ルーマニア・スロベニア・スロバキア・フィンランド・スウェーデン・英国

(2)TPP
 TPPの参加国は日本を含めて11カ国です。そのため「TPP11(イレブン)」という呼び方をすることもあります。
 
 日本・オーストラリア・ブルネイ・カナダ・チリ・マレーシア・メキシコ・ニュージーランド・ペルー・シンガポール・ベトナム

 TPPは米国が不参加を表明したことにより先行きが危ぶまれましたが、日本の安倍首相のリーダーシップによりTPPの実現に至りました。そのため、他国は日本にとても感謝をしているということです。

4.ビジネスへの影響
 今回の日EU・EPAでは、輸入ワインの関税が即時撤廃となり、小売業では値下げセールが行われるなど、輸入品に注目が集まっています。しかしながら、上記のように、EPAは貿易のみならず、ヒトやサービスといった面でも自由化が進められていきます。
 ちなみに、FTAやEPAについては、日本はすでに多数の国と締結しています。外務省のHPによると、2018年8月現在で

 シンガポール,メキシコ,マレーシア,チリ,タイ,インドネシア,ブルネイ,ASEAN全体,フィリピン,スイス,ベトナム,インド,ペルー,オーストラリア,モンゴルが発行済で、これにEUが加わりましたので、16カ国及び地域と発行済ということになります。

 このEPAはヒトやサービス面の自由化も促していると書きましたが、現在、我が国ではインドネシア、ベトナム、フィリピンとのEPAにより介護人材の受け入れが進んでいます。このように、少子化が進む我が国において、ヒトの移動も行われています。ちなみに技能実習生制度はEPAとは異なる制度です。
 
 このように、貿易面だけでなく、さまざまな分野においてEPAの効果が徐々に出てきますので、どのような自由化が進んでいるのかを常にチェックすることが必要です。


2019年1月27日日曜日

会計監査実施法人に対するアンケート調査の第1次調査の結果についての感想

1.はじめに
 平成30年11月5日に「会計監査人の設置基準の引下げ延期」というタイトルでブログを書きましたが、このとき厚生労働省は同時に、会計監査人監査の対象となっている社会福祉法人に対してアンケートを実施しました。アンケートの詳細については日本公認会計士協会のページにも掲載されていますので御覧ください。
 このアンケートですが、会計監査実施法人に対するアンケート調査の第1次調査の結果が大阪府のページに掲載されていました。こちらにつきましてはMMPG様よりお知らせいただきました。ありがとうございます。
 以下、感想を記載したいと思います。なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.「会計監査及び予備調査で発見に至った会計処理の誤り」
 P7では「会計監査及び予備調査で発見に至った会計処理の誤り」が記載されています。
 発生割合が大きい項目について上位3つを抜粋すると以下のとおりです。
  • 「賞与引当金、徴収不能引当金について」→35.2%
  • 「減価償却(国庫補助金等特別積立金取崩額を含む)の計算について」→24.2%
  • 「収益及び費用(人件費、事業費、事務費)への発生主義(実現主義)の適用について」→20.4%

 確かに、これらの科目についての誤りは多く見られました。
 簡単に主な誤りを記載すると、賞与引当金については①未計上であった場合や②計上していても法定福利費分を含めていなかった、というものが多く見られました。
 減価償却費については、減価償却費の計上というよりは減価償却累計額の期首残高の誤りが多く見られました。これは減価償却の計算方法の取扱が平成12年、平成23年、平成29年と3回にわたって改正されたため、この過程で固定資産管理ソフトへの入力誤りなどがあったためと推測されます。
 発生主義については、収益よりは費用の発生主義の適用不備が見られました。例えば、締日翌日から期末日までの期間に係る未払給与の計上漏れ、それに伴う法定福利費の計上漏れ、経費の未払計上漏れ、支払利息の未払費用計上漏れ、などです。
 なお、私の範囲内ですが、会計監査人監査の対象となる社会福祉法人では、月次決算で発生主義会計を適用している法人も多くみられました。こういった法人では重大なカットオフエラーは見受けられませんでした。
 逆に、月次決算を現金主義会計で行っていると、期末時に大きなカットオフエラーが生じやすい傾向がありました。やはり、常日頃から発生主義会計を行っていれば、期末に大きなエラーが生じるリスクは少なくなるといえます。
 この点は「月次決算と費用のカットオフエラー」にも記載しましたのでご参照いただけますと幸いです。

3.任意監査の効果
 平成28年度に任意監査を受けていた社会福祉法人は、上記2で示したものを含む会計処理の誤りが期末監査で生じることが非常に少なかったという結果も出ていました。
 厚労省の記載によると、以下のとおりです。

「平成28年度に任意で会計監査を受けている法人、受けていない法人で、誤りの発生割合と修正額を比較したところ、顕著な差がありました。平成28年度は任意になりますが、会計監査のアプローチが適正な財務報告に有効であることを示しています。」

 この点については、当ブログでも「会計監査人の設置基準の引下げ延期」においても「この点を踏まえると、社会福祉法人側では、設置基準の引き下げが決まってから予備調査を始めるのではなく、今の時点から予備調査を受け、任意監査契約を締結することが望まれます。この任意監査の期間に、内部統制の不備や会計上の誤りを修正していくわけです。そうすれば、法定監査に入ってから、監査法人に大きな指摘(金額の大きい会計上の誤りなど)を受ける可能性は低くなります。」と記載しましたが、そのとおりの結果となりました。

 なお、任意監査については「監査法人による任意監査」にも記載しましたが、監査法人の監査は、法定監査を受ける義務がない一定規模未満の会社や非営利法人等であっても、一定の要件を満たせば、任意監査契約を締結することで任意監査を受けることができます。

4.不正の抑止力
 会計監査による効果については、「カ.不正の発見可能性が高まり、不正の抑止力になった」の自由記載について、以下が紹介されていました。
  • 会計監査を通じて、実際に不正の発見はなかったが、不正の抑止力になっていると感じる。
  • ポイントとなるところについて改善することで、不正防止の環境が整いつつある。
  • 見られている感もあるので良いと思う。
 社会福祉法人については、経営者不正もありますが、従業員不正もよく発生しているという印象があります。
 従業員不正については、内部統制の運用上の不備よりは、そもそも、内部統制の仕組み(デザイン)自体が構築されていないという整備上の不備が多く見られます。
 従業員不正については、このブログでも上場企業も含めていろいろと事例を紹介してきましたが、まず仕組みそのものを構築する必要があります。そうしないと、管理者が不正の発生に気をつけていても、牽制が効いていないため、従業員不正の発生可能性が高くなってしまうからです。
 従業員不正の防止のための内部統制については、「平成30年度民間社会福祉施設長研修会で使用したレジュメについて」において、京都府の「平成30年度民間社会福祉施設長研修会」で使用したレジュメを紹介しています。京都府のページに資料が掲載されていますので、参考としていただけますと幸いです。
 

2019年1月13日日曜日

理事、監事の改選期における注意点~社会福祉法人

1.はじめに
 社会福祉法人では平成29年度から新制度が始まりました。そのため、平成31年度は理事、監事の改選期にあたります。
 そこで、理事、監事の改選期において、注意する点をあげたいと思います。

2.任期の確認
 役員の任期は「選任後二年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時までとする。ただし、定款によつて、その任期を短縮することを妨げない。」(社会福祉法(「以下」法)45条)とされています。
 ほとんどの理事、監事は平成29年6月に選任されたと思われますので、その理事、監事は(元号は変わりますが)平成31年度が改選期になります。

 注意すべきは、この間に理事、監事の交代があった場合です。
 「役員の任期の計算方法~公益法人・社会福祉法人」の再掲になりますが、例えば、平成30年3月に理事に選任された場合、平成31年度の定時評議員会の終結の時までが任期となりますので注意する必要があります。多くの社会福祉法人は6月に定時評議員会を開催するので、この場合だと、平成30年3月に選任された理事は平成31年(2019年)6月までが任期となります。期間は約1年3ヶ月となります。旧制度と異なり、丸々2年間ではなくなったので、注意が必要です。



3.監事の選任
 「監事選任における留意点~公益法人及び一般社団法人等、社会福祉法人」でも記載さいましたが、評議員会を開催するときに監事の選任に関する議案を評議員会に提出するには、監事(監事が二人以上ある場合にあっては、その過半数)の同意を得なければなりません(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)72条①、法43条③)。
 この趣旨は監事の地位の安定性を保つためですが、その手段として監事の同意書を書面でもらっておく必要があります。(就任承諾書とは異なります。)。

 再掲となりますが、埼玉県久喜市の公式ホームページ内の「社会福祉法人の運営について」という社会福祉法人向けのページに、Word版で監事の同意書のひな形が掲載されています。

4.就任承諾書
 今回、改選によって改めて選任されるので、就任承諾書も必要です。前回、記載したから今回は不要ということにはなりませんので注意が必要です。
 就任承諾書については、前回のものを使用すればよいですが、兵庫県の「社会福祉法人制度改革に関する資料について」にも掲載されていますので、ご紹介しておきます。
 
 その他、欠格事由などについても確認をしておく必要があります。

5.理事長の選定
 定時評議員会により、理事が選任されたら、その後に理事会を開催して理事長を選定する必要があります(法45条の13③)。
 理事長は理事であることが前提ですから、理事の任期が終了した時点で理事長の地位も消滅しています。従って、改選期においては改めて理事会で理事長を選定する必要がありますので失念しないようにする必要があります。
 
 なお、理事長選定のための理事会は、定時評議員会の直後に開催しても構いません。むしろ、日を空けてしまうとその間、理事長不在ということになってしまい、機関運営上好ましくありません。

 なお、この場合の開催方法ですが、「新理事による理事会の招集方法」にも記載したように、招集手続の省略によって開催すればよいでしょう(法45条の14⑨、一般法94条②)。
 招集手続の省略とは、理事及び監事の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができるというものですが、全員の同意は、書面でなくても問題はありません。口頭でも可能です。

 その他の方法では、同じく「新理事による理事会の招集方法」にも記載したように、決議の省略による方法でも構いません。

2018年12月18日火曜日

LEDランプと修繕費

1.LEDの特徴
 LEDとははLight Emitting Diodeの頭文字をとったものです。日本語では発光ダイオードといいます。
 このLEDは従来の白熱灯・蛍光灯と比べて、少ない消費電力で使用でき、熱の発生も少なく、寿命も長いことが特徴です。
 そのため、企業等においても蛍光灯からLEDに変えるところが増えてきています。

2.収益的支出と資本的支出との関係
 従来の蛍光灯からLEDに取り替えた場合、その取替費用につき、税務上の処理が問題となります。

 税務上、資本的支出については、法人税法基本通達7-8-1では「法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額が資本的支出となる」とされています。

 また、収益的支出については、法人税法基本通達7-8-2で「法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の通常の維持管理のため、又はき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額が修繕費となる」とされています。

 LEDは、上記の通り、従来の白熱灯や蛍光灯と比べて機能が高いものといえます。
 そのため、LEDの取り替えにかかる支出は、感覚的には資本的支出になりそうな感じがします。

3.LEDへの取替費用は修繕費
 しかしながら、国税庁の質疑応答事例では、

「当社では、節電対策として自社の事務室の蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替えることを考えていますが、その取替に係る費用については、修繕費として処理して差し支えありませんか。」

という照会に対して、

「蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替えることで、節電効果や使用可能期間などが向上している事実をもって、その有する固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増しているとして資本的支出に該当するのではないかとも考えられますが、蛍光灯(又は蛍光灯型LEDランプ)は、照明設備(建物附属設備)がその効用を発揮するための一つの部品であり、かつ、その部品の性能が高まったことをもって、建物附属設備として価値等が高まったとまではいえないと考えられますので、修繕費として処理することが相当です。」

という回答を出しています。

 なお、この質疑応答事例では注記として
「平成29年7月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。
 この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。」

 とされていますが、上記の通り、LEDの取替費用は収益的支出として修繕費で処理して、まず問題はないと考えられます。
 修繕費としてよい理由は上記の国税庁の回答のとおりですが、私見では、これは日本政府がLEDを普及させたいという思惑があることから、税務上もLEDの普及を促進するために損金算入を認めてバックアップしているのではないかな、と思っています。
 
 なお、会計上の処理ですが、税務上の考えが会計上の考えになるわけではありませんが、このLEDの会計処理については、上記の国税庁の見解は会計の観点から見ても妥当ではないとはいえませんので、修繕費として処理して問題はないと考えられます。 

2018年11月25日日曜日

公認会計士試験・条文の表示方法~「項」や「号」の記載

1.「出題の趣旨」
 先日、平成30年公認会計士試験論文式試験の合格発表がありました。
 現在の試験制度では、「出題の趣旨」が公認会計士・監査審査会から公表されています。
 「出題の趣旨」は、問題を出題した試験委員が、出題の内容、出題の目的、答案記載上のポイントなどを記載したものです。
 どちらかというと、答案記載上のポイントはあまり書かれておらず、出題の内容、出題の目的に記載されたものが多くなっています。そのため、受験生はあまり「出題の趣旨」を読んでいないようなのですが、「出題の趣旨」は試験委員が記載したものであり、専門学校が介在していない直接的な情報なので、合格するためには、読んでおくことが望まれます。
 今回は、平成30年公認会計士試験論文式試験の「出題の趣旨」から個人的に気になったところをあげてみたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.条文の表示
(1)「項」、「号」の記載
 租税法のコーナーですが、「解答にあたっては、適用条文の正確な理解及び表示(必要に応じて「項」、「号」まで)が求められる。 」という記載がなされていました。

 これは非常に気になりました。試験委員がこのような記載をするということは、条文をしっかりと記載していない受験生がいる、ということです。
 この記載によれば「項」、「号」を記載していない受験生がいるのだと思います。「項」や「号」を示すことはとても大事です。同じ「○条」でも「項」や「号」によって内容は異なるからです。
 これは租税法だけでなく、会社法でも同様です。

(2)「項」や「号」を示さないとどうなるか
 例えば、会社法の場合ですが、監査役の取締役会への出席義務を記載するとき、

「監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない(会社法383条1項)。」

 と書くべきですが、仮に、

「監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない(会社法383条)」

 と書いてしまうと、どの条文を示しているのかが不明になってしまいます。というのは383条は1項から4項までありますが、1項には監査役の取締役会への出席義務が定められているのに対して、2項は、監査役の取締役会招集請求権について記載されています。3項は一定の場合における監査役による取締役会招集権、4項は特別取締役による取締役会の場合の不適用についての定めです。
 「383条」だけだと1項から4項までを含んでいることになり、どの項の条文であるのかがわかりません。従って、「383条1項」と明示する必要があるわけです。

 「号」についても同様です。
 例えば、株式会社の商号については、

「株式会社の商号は登記事項である(911条3項2号)。」

 と書くべきですが、仮に

「株式会社の商号は登記事項である(911条)。」あるいは「株式会社の商号は登記事項である(911条3項)。」と書いてしまうと、どの911条のどの部分を示しているのかがわからなくなります。

 このように、「項」や「号」が記載されていないと、どの条文を示しているのかが不明になります。従って、答案としては条文を示していない、すなわち法律要件を示していないということになってしまいます。そうなると、十分な点数がつかない、あるいは、全く点数がつかないということになります。(私見ですが、この場合、全く点数がつかない可能性が高いと思います。)
 このようなことになってしまっては、これまでの努力が水の泡となってしまうので、答案を書くときは普段の答案練習の時から慎重に行うことが重要です。

3.条文番号の表記
 それに加えて個人的に気になっているのが、条文番号の表記です。
 お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、拙著「「社会福祉充実計画」の作成ガイド」(中央経済社)や当ブログでは、例えば、

「理事長が欠席した場合でも、定足数を満たしていれば理事会は成立します(法45条の14④)。」
「この報告を行う趣旨は、理事会による理事長および業務執行理事に対する職務の執行の監督を機能させるためです(法45条の13②二)」
 
 といったように「項」は丸で囲った書き方で書いています。また、「号」は漢数字が多く、時々ローマ数字で書いています。

 しかしながら、本来は例えば「法45条の13第2項2号」といった書き方をすべきです。

 では、なぜ拙著や当ブログではこのような書き方になっているのかというと、理由は以下のとおりです。
 実は、拙著「「社会福祉充実計画」の作成ガイド」(中央経済社)を執筆しているとき、私のもともとの原稿では「法○条○項○号」といった記載をしていたのですが、1回目の校正のとき、中央経済社様から「項や号は、①にするなど、略して記載してください。」という要請があったためです。
 従って、このような記載をしているというわけです。

4.「第」はつける必要があるか
 次に、「第…項」といったように「第」までつける必要があるのかという点ですが、これは「出題の趣旨」の会社法のコーナーが参考になります。
 一部を引用してみます。

(イ)「本件債権の弁済期が到来していれば、現物出資財産の価額(会社法 199 条1項3号)は当該債権に係る負債の帳簿価額(券面額)と同額に定められているから、会社法 207条9項5号により、同条の手続は不要である。」

(ロ)「また、Aは当該出資の履行の仮装に関与した取締役に当たり、そのことについて職務を行うについて注意を怠らなかったとはいえないから、Aも甲会社に対して責任を負い(会社法 213 条の3第1項)、BとAの責任は連帯する。 」

 これらを見ると、基本的には「第」は不要ですが、一部で必要なときがあります。 
 それは、(ロ)のように、条の部分が「…条の…」となっている場合です。この場合、「第」をつけないと、「213条の3 1項」といったように数字が続いてしまい、わかりにくくなります。この場合だと「213条の31」と見えてしまうかもしれません。従って、このような場合は「第」をつけると読みやすくなります。

 なお、私の記憶では、会社法でこのような条文の書き方がされたのは、弥永真生教授の「リーガルマインド会社法」(有斐閣)ではなかったかと思います。勝手な推測ですが、このテキストを書くときも出版社から「条文は省略して書いてほしい」と言われたのではないかと思います。
 しかしながら、試験委員も務められた著名教授の本がこのような記載をしているといっても、条文の略書はしない方がよいと思います
 
5.まとめ
 条文は「○条○項○号」といった記載をして、法律要件をしっかりと示すことが重要です。そのためには、普段からテキスト・参考書よりは、条文を読むほうがよいです。
 以上、参考としていただけますと幸いです。

2018年11月18日日曜日

消費税軽減税率制度のポイント(3)

1.Q&Aの改正
 平成30年11月、国税庁は「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)」に追加を行いました。
 この中で、店内飲食についてもQ&Aが追加されました。

2.休息スペースでの飲食
 休息スペースでの飲食については、「消費税軽減税率制度のポイント(2)」でも記載しましたが、産経新聞の記事の一部について疑義が生じたので、この点についても記載しました。
 以下、再掲します。

 「購入した飲食料品がトレーに載せられて座席に運ばれたり、返却が必要な食器に盛られて提供されたりすると、外食と判断される。このため、そうしたサービスはできないようにして、全ての飲食料品を持ち帰りができる状態で販売するよう徹底する。コンビニ業界は、こうした施策で、取り扱う飲食料品は持ち帰りと定義でき、客がイートインで飲食したとしても税率は8%になるとみている。」

 という記載があります。
 しかし、「店内飲食禁止」としているのであれば、客がイートインで飲食することはできないはずです。見て見ぬふりをするということでしょうか。もし、そうであれば、記事にもあるように、外食業界からは強い批判が出るのは必至です。
 このあたりは、産経新聞が誰からどのような取材をしたのかが不明なのでなんとも言えませんが、いずれにしろ、抜け穴がないように調整をする必要があります。

 疑義が生じたのは、ゴシックの部分の「客がイートインで飲食したとしても税率は8%になるとみている」という点です。

 この点については、今回のQ&Aの問46の(注)で明らかになりました。
 以下、引用します。

「(注) 「飲食はお控えください」といった掲示を行っている休憩スペース等であったとしても、実態としてその休憩スペース等で顧客に飲食料品を飲食させているような場合におけるその飲食料品の提供は「食事の提供」に当たり、軽減税率の適用対象となりません。したがって、店内飲食か持ち帰りかの意思確認を行うなどの方法で、軽減税率の適用対象となるかならないかを判定していただくこととなりますのでご留意ください。」 

 従って、店内飲食を禁止している場合、飲食料品の販売は軽減税率の対象となりますが、もし休息スペースで飲食した場合は、軽減税率の対象とはならず、消費税率は10%となります。
 すなわち、産経新聞の記事のように、税率は8%とはならないので注意する必要があります。

3.意思確認の方法
 なお、この問46は「大半の商品(飲食料品)が持ち帰りであることを前提として営業しているスーパーマーケットの場合」の意思確認を想定したものであり、Qでは「全ての顧客に店内飲食か持ち帰りかを質問することを必要とするものではなく、例えば、「休憩スペースを利用して飲食する場合はお申し出ください」等の掲示を行うなど、営業の実態に応じた方法で意思確認を行うこととして差し支えありません。」としたうえで、次に「なお書き」で、店内飲食を禁止した場合も記載しています。
 以下、引用します。

 「なお、「飲食はお控えください」といった掲示を行うなどして実態として顧客に飲食させていない休憩スペース等や、従業員専用のバックヤード、トイレ、サッカー台のように顧客により飲食に用いられないことが明らかな設備については、飲食設備に該当しません。そのため、ほかに飲食設備がない場合には、持ち帰り販売のみを行うこととなりますので、意思確認は不要となります。」

 これは、先日の新聞報道にあったコンビニエンスストア業界の取り組みに相当するものです。
 
 しかしながら、導入当初は相当混乱することが予想されます。
 休息スペースがあるスーパーマーケットは、飲食禁止にするほうがレジでの店員の負担を減らすことができるのではないかと思いますが、休息スペースで飲食できることで、お客さんを呼び込めるという販売上のメリットもあるので、あちらを立てればこちらが立たずといったところでしょうか。

2018年11月5日月曜日

会計監査人の設置基準の引下げ延期

1.厚労省の事務連絡より
 平成30年11月2日付で、厚生労働省社会・援護局福祉基盤課は、事務連絡として公益社団法人全国老人福祉施設協議会宛で「「社会福祉法人における会計監査人に係る調査と 平成 31 年4月の引下げ延期について(周知)」を送付しました。
 
 これによると、

「今般、平成 28 年社会福祉法改正による会計監査人の設置を円滑に進めていくため、会計監査の実施による効果や導入する場合の課題等について、
(1)平成 29 年度の会計監査を実施した全ての社会福祉法人(約 400 法人)を対象とした調査
(2)収益 10 億円を超える法人又は負債 20 億円を超える法人(約 1,700 法人)を対象とした調査

を、二段階で実施いたします。」

 とし、これに続けて

「このため、法人の準備期間等を考慮し、平成 31 年4月から会計監査人の設置基準を引下げることは行わないこととしましたので、貴団体の会員に周知をいただくようお願いいたします。」

 と記載しています。(文中のゴシックと色付けは筆者)

 そのため、当初は、サービス活動収益が20億円を超える社会福祉法人または負債の部の合計額が40億円を超える社会福祉法人は、平成31年度より会計監査人の設置が義務付けられる予定でしたが、延期となりました。
 従って、平成31年度も引き続き、会計監査人の設置が義務付けられる社会福祉法人は、サービス活動収益が30億円を超える社会福祉法人または負債の部の合計額が60億円を超える社会福祉法人となります。
 ちなみに、これは私が所属する総合経営グループが会員となっているMMPG様より、本日の昼過ぎに参考情報として連絡があり知ることになったものです。

2.監査の準備期間
 前回は、私も傍聴人として参加した平成28年9月26日の社会保障審議会 (福祉部会)で、会計監査人の設置基準が発表されたので、9月下旬には発表があるかなと思っていたのですが、なかなか出てこないので今回は少し遅いなと感じてはいました。
 あくまで推測ですが、いろいろな力が働いたのかもしれません。

 なお、もともと厚労省は福祉部会で、
「・ 平成29年度、平成30年度は、収益30億円を超える法人又は負債60億円を超える法人
・ 平成31年度、平成32年度は、収益20億円を超える法人又は負債40億円を超える法人
・ 平成33年度以降は、収益10億円を超える法人又は負債20億円を超える法人
と段階的に対象範囲を拡大。
 ただし、段階施行の具体的な時期及び基準については、平成29年度以降の会計監査の実施状況等を踏まえ、必要に応じて見直しを検討する。」
 
 としていたので、平成29年度以降の会計監査の実施状況等を踏まえるために何らかの調査を行うのだろうとは思っていましたが、これから行うとは想定していませんでした。

 ただ、私見ですが、平成29年度から実施した社会福祉法人の監査では、社会福祉法人側に十分な準備期間がなかったのでは、と感じました。
 ちなみに、上場会社の場合、上場準備期間があり最短で2年、状況によってはそれ以上の期間を経て上場に至るのですが、社会福祉法人の制度改革ではこのような期間がなかったと思います。
 そのため、多くの社会福祉法人は準備不十分なまま、いきなり法定監査に突入してしまったので、気の毒な感じがします。
 従って、今回、会計監査人の設置基準が延期となりましたが、監査の準備期間が設けられたという点ではよかったと個人的には思っています。

 この点を踏まえると、社会福祉法人側では、設置基準の引き下げが決まってから予備調査を始めるのではなく、今の時点から予備調査を受け、任意監査契約を締結することが望まれます。この任意監査の期間に、内部統制の不備や会計上の誤りを修正していくわけです。そうすれば、法定監査に入ってから、監査法人に大きな指摘(金額の大きい会計上の誤りなど)を受ける可能性は低くなります。
 従って、今回の延期を、監査の先延ばしでなく、監査を受けるための十分な準備期間の設置と捉えていただけますとよいかと思います。

2018年11月3日土曜日

建設仮勘定の留意点(2)

1.はじめに
 前回、建設仮勘定を使用する場面では、会計処理の誤りが多く見られる、という話をしました。
 今回は、その誤りの発生を防止するための対策をご紹介したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.費用処理してしまう誤りへの対策案
(1)概要
 よく見られるのは、建設に係る支出を、本来は建設仮勘定で処理すべきところを、費用処理してしまう誤りです。これは、社会福祉法人など非営利法人でよく見られます。
 原因の一つとしては、建物の建設は頻繁に行われるわけではないので、経理担当者が建設仮勘定による処理に慣れていないことがあげられます。
 本来であれば、内部統制のデザインの一つとして、例えば、経理担当者は日商簿記2級以上の資格を有する者にする、各種研修会の受講を義務付ける、経理雑誌の購読を行う、といったことも必要です。しかしながら、多くの公益法人、社会福祉法人、医療法人といった非営利法人では、まだそこまでの体制が整っていないのが現状です。
 もちろん、経理担当者がそれなりの知識を有していても、誤りやすい分野でもあります。
 そこで、この誤りを防止するための対策案をあげてみます。

(2)支出の範囲の把握
 まず、あらかじめ建設に係る支出の範囲と見積額を把握することがあげられます。
 建設を行うためには、設計から始まりますが、建設計画に基づいて設計から工事完了までに至るすべての作業と見積額を一覧にして把握します。
 そして、この一覧をもとに支払予定表を作成し、前もって支払時期や支払予定額を把握します。期中において、その時点の建設仮勘定の額と支払予定額を比較して大きな差異がないかどうかをチェックしていけば、建設仮勘定への集計漏れは防ぐことができます。
 監査において、よく見られたのは設計や測量など工事に入る前に発生する支出を費用処理する誤りでした。また、工事業者への前払金も建設仮勘定で処理しますが、時々この前払金も費用処理してしまう誤りも見られました。
 しかしながら、このようにすれば、建設仮勘定にすべきところを費用処理する誤りも防止できるでしょう。

(3)上長のチェック
 次に必要なのは、やはりというか上長のチェックです。
 振替伝票のチェックのときに、上長は建設に係る支出が建設仮勘定で会計処理されているかどうかをチェックすることが必要です。
 また、上に記載したように、建設仮勘定の額と支払予定額を比較して、建設仮勘定への計上漏れがないかどうかも上長が確かめる必要があります。

3.建設仮勘定の振替
 建設仮勘定は、当該建物等が完成した時点で建設仮勘定に振り返る必要がありますが、この振替を失念していたり、タイミングを誤ったりするというミスも時々見受けられます。
 建設仮勘定の振替を忘れてしまうと、減価償却の開始が遅れる可能性ができます。そうなると、費用の計上漏れが発生してしまいます。
 通常は建物が完成したら、ほぼ同時期に稼働するでしょうから、その月から減価償却を開始します。
 このあたりの対策となると、支払予定表に、工事が完了して建物等が完成したら本勘定に振り替えるということを明記しておいて、常に意識しておくということが一つの手段として考えられます。


 


2018年10月29日月曜日

建設仮勘定の留意点(1)

1.建設仮勘定とは
 建設仮勘定とは、必ずしも決まった定義があるわけではありませんが、建設が完成するまでに行った支出を仮勘定として集計した勘定科目といえます。イメージとしては、建設に関する支出を建物等が完成するまでプールしておく勘定といった感じです。
 ちなみに、英語では Construction in Progress といい、頭文字をとってCIPということもあります。

2.よくある問題点
 社会福祉法人では新しい介護施設などの建設、医療法人では新病棟の建設といったように、社会福祉法人や医療法人では建設に関する支出が比較的よく出てきます。
 しかしながら、個々の社会福祉法人や医療法人においては、毎年新施設や新病棟を建設するわけではないので、経理担当者にとっては建設仮勘定はあまり馴染みがない科目といえます。そのため、会計処理の誤りがよく見られます。
 会計処理の誤りには、金額が小さいものもあれば、大きいものもあります。建設仮勘定の会計処理を誤ると、どちらかというと金額が大きい誤りにつながることが多くなるので注意が必要です。
 
 以下、よく見られる会計上の問題点を記載します。

① 建設中の施設等にかかる支出は建設仮勘定で会計処理すべきところ、費用勘定で処理していた。
② 建設仮勘定を建物勘定に振り替えることを失念していた。
③ 建設仮勘定の建物勘定への振り替えのタイミングを誤った。
 
3.費用勘定で処理した場合の問題点
 建設に係る支出は、建物等が完成するまで建設仮勘定に計上する必要があります。
 しかしながら、これらを費用処理すると、建物が完成して建物勘定に振り替えたときに、建物の取得価額が本来の金額よりも少なくなってしまいます。
 その結果、減価償却費も本来の金額よりも小さくなってしまいます。
 これは、費用配分の誤りであり、適正な期間損益計算を阻害することになります。

4.建物勘定への振り替えの失念やタイミングを誤った場合の問題点
 建設仮勘定は建物が完成すると建物勘定に振り返る必要がありますが、これを失念したりタイミングを誤ったりすると、減価償却費の計上のスタートがズレる可能性が出てきます。「可能性」といったのは、減価償却の開始の時期は、建物が事業の用に供されたときから始めるためです。そのため、建物が完成したからといってすぐに可動するとは限らないためです。
 この場合も、本来計上されるべき費用が計上されないことになるので、適正な期間損益計算が行われないことになります。

5.不正リスク
 最後に、建設仮勘定は、建設に関係がない支出を建設仮勘定に計上することで、費用を減少させ、利益を増大させるという不正が行われるリスクもあります。
 このように、建設仮勘定は危険性が高い科目といえます。
 従って、施設や病棟などの建設が行われる期間においては、建設仮勘定の取扱については注意する必要があります。
 「建設仮勘定の留意点(2)」では、上記のような誤りを防ぐための内部統制について説明したいと思います。





2018年10月21日日曜日

消費税軽減税率制度のポイント(2)

1.コンビニのイートインコーナーは消滅する?
 先日、コンビニエンスストア業界が店内での飲食禁止を条件に、酒類を除く全ての飲食料品を軽減税率の対象とするということで財務省と調整しているというマスコミ報道がありました。この報道の発信源がどこで、また、どのような意図で報道されたのかは不明ですが、いったん、この報道を前提に記載します。

 「消費税軽減税率制度のポイント(1)」にも記載しましたが、店内飲食の場合は標準税率10%が適用され、テイクアウトのような持ち帰り販売の場合は軽減税率8%が適用となります。
 コンビニエンスストアのイートインコーナーは、店内飲食(食事の提供)に該当しますので、イートインコーナーで飲食することを前提に販売すれば、飲食料品であっても標準税率10%が適用されることになります。

 今回の報道が真実だとすれば、このようなコンビニエンスストア内での店内飲食は、平成31年10月1日以後は行うことができなくなるということになります。

2.抜け穴がある?
 産経新聞の平成30年10月3日付の記事「コンビニ業界が全食品を軽減税率対象で調整 消費増税で イートインは「休憩施設」」では、タイトル通りイートインコーナーを休息施設と位置づけるとしていますが、記事の中に

「購入した飲食料品がトレーに載せられて座席に運ばれたり、返却が必要な食器に盛られて提供されたりすると、外食と判断される。このため、そうしたサービスはできないようにして、全ての飲食料品を持ち帰りができる状態で販売するよう徹底する。コンビニ業界は、こうした施策で、取り扱う飲食料品は持ち帰りと定義でき、客がイートインで飲食したとしても税率は8%になるとみている。」
 
 という記載があります。
 しかし、「店内飲食禁止」としているのであれば、客がイートインで飲食することはできないはずです。見て見ぬふりをするということでしょうか。もし、そうであれば、記事にもあるように、外食業界からは強い批判が出るのは必至です。
 このあたりは、産経新聞が誰からどのような取材をしたのかが不明なのでなんとも言えませんが、いずれにしろ、抜け穴がないように調整をする必要があります。
 
3.店内飲食と持ち帰り販売の判定方法
(1)判定時は課税資産の譲渡等を行う時
 このように、店内飲食は標準税率、持ち帰り販売は軽減税率がそれぞれ適用ということになるので、この両方を行っている飲食店等は販売時のレジ打ちが大変となることが予想されます。
 上記1.のコンビニエンスストア業界の話も、レジ打ちの対策という目的もあるようです。
 
 この店内飲食と持ち帰り販売の判定は、「消費税軽減税率制度のポイント(1)」でも記載したように事業者が課税資産の譲渡等を行う時に判定することになります。

(2)具体的な判定方法
 それでは、その判定は具体的にはどのようにすればよいのかという問題がありますが、「消費税の軽減税率制度に関する取扱通達」(以下「軽減通達」)の11では、例示として顧客に意思確認を行うことが示されています。

 以下、軽減通達の該当条文を引用します。

(持ち帰りのための飲食料品の譲渡か否かの判定)
11 事業者が行う飲食料品の提供等に係る課税資産の譲渡等が、食事の提供(改正法附則第34条第1項第1号イ《31年軽減対象資産の譲渡等に係る税率等に関する経過措置》に規定する「食事の提供」をいう。以下この項において同じ。)に該当し標準税率の適用対象となるのか、又は持ち帰りのための容器に入れ、若しくは包装を施して行う飲食料品の譲渡に該当し軽減税率の適用対象となるのかは、当該飲食料品の提供等を行う時において、例えば、当該飲食料品について店内設備等を利用して飲食するのか又は持ち帰るのかを適宜の方法で相手方に意思確認するなどにより判定することとなる。

 「適宜の方法」とされていますので、例えば、レジスペースで店員が「お持ち帰りですか、それとも店内で召し上がりますか?」と顧客にたずねるというものがあげられます。これは、ファーストフードなどでは、よく行われている方法です。
 
(3)張り紙も可
 もちろん、「適宜の方法」でよいので、これ以外の方法によっても可能です。
 先月、日本公認会計士協会京滋会で行われた研修では、大阪国税局課税第2課の担当者より、この判定方法としては、上記のほか、張り紙を掲示して申し出てもらう、という方法も考えられるという説明がありました。
 例えば、原則として持ち帰り販売とし、張り紙で「店内で飲食を希望される方は申し出てください。」と記載しておくという方法があります。その逆でもよいでしょう。

 その他にも、持ち帰りか店内飲食かを選択できるボタンをつけた端末をレジに置いて、顧客にボタンを押していただく、というのもよいかと思います。このような端末は見たことはありませんが、そのうちできるのではないかと個人的には予測しています。

2018年10月14日日曜日

経営難の病院を乗っ取る手口(1)

1.医療法人のハコ化
 最近、産経新聞に平成30年10月9日付で「「医療・福祉」の倒産最多 経営難、暴力団つけ込む 年間見込み」という記事が掲載されました。
 
 まず、記事の冒頭部分を引用します。

「医療⾏為などの診療報酬を主要な収⼊源とする「医療・福祉事業」の1〜8⽉の倒産件数が前年同期⽐40件増の196件に上り、年間件数が過去最多を更新する⾒込みであることが9⽇、⺠間信⽤調査会社「東京商⼯リサーチ」(東京)の調査で分かった。病院・医院の倒産に加え、⾝売りも続発。経営難につけ込んだ暴⼒団やブローカーらが、医療機関の診療報酬請求権を売買するなど暗躍している。」

 赤文字ゴシックは私によるものですが、経営難に陥った医療法人等に対して、反社会的勢力がつけ込んでいることが記載されています。この記事では、その後、その乗っ取りの手口が具体的に記載されています。

2.資金繰りの悪化が招くハコ企業への転落
 以前、このブログでは「経営者による内部統制の無効化とハコ企業」というタイトルでブログを記載しました。
 このブログでは、資金繰りが悪化したときは内部統制の無効化が発生しやすくなり、その結果、「ハコ企業」に陥りやすくなることから、資金繰りは絶対に悪化させないようにする必要がある、という趣旨の文章を記載しました。
 資金繰りが悪化した上場企業の中には、この過程を通じてハコ企業になってしまったところも少なくないのですが、この点は医療法人、社会福祉法人、公益法人も注意する必要があるということも記載しました。理由は、こういった非営利法人は内部統制が脆弱であるためです。例えば、理事会や監事などのガバナンスも弱いため、外部の人間に簡単につけ込まれやすい傾向があるためです。

3.経営悪化の原因
 医療法人などの医療・福祉関係事業者の一部が経営難に陥り、資金繰りが悪化している理由はいろいろとありますが、記事にも記載されているように国家財政の悪化によって、診療報酬が抑制傾向にあることが原因の一つです。
 診療報酬は、公定価格なので自分で価格を決定することができません。一方で我が国の財政は悪化していますから保険による診療報酬の支払は極力少なくしたいところです。そのため、同じ医療業務を行っても、売上が段々と少なくなり、コスト削減に失敗してしまうと資金繰りが苦しくなっていくという図式です。
 このように、資金繰りが悪化すると、経営を続けていくことが苦しくなります。そうなると、冒頭に記載したように、資金の援助をちらつかせる外部の人間につけ込まれ、内部統制の無効化が次々と発生し、ハコ企業に陥ることになります。

4.診療報酬請求権の売却
 乗っ取りと利益を得る手口についても産経新聞の記事に記載されています。
 要約すると、

①理事長の権限が強いワンマン経営の病院に、トップの信頼を得て経営中枢に入り込む
②診療報酬請求権を売却して運転資金を工面するという提案を承諾させ、実際に金融機関に診療報酬請求権を売却する
③さらに金融機関からその診療報酬請求権を入手する
④ブローカーに診療報酬請求権を高値で売却する

 ということです。

 なお、この診療報酬請求権の売却ですが、これ自体は問題はありません。いわゆるファクタリングです。健全な法人でも、資金繰りをよくするためファクタリングを行っているところもあります。

 ファクタリングの会計処理は概ね以下のとおりです。

【仕訳例】
(1)売掛金1,000を金融機関に譲渡する

 (借方)未収金 1,000 (貸方)売掛金 1,000

(2)金融機関から950の入金があった。

 (借方)現金預金 950 (貸方)未収金 1,000
     支払手数料 50

 なお、支払手数料は非課税取引となりますので課税仕入にしないように注意する必要があります。

 今回はここまでとします。
 次回は診療報酬請求権が売却される背景について説明します。

2018年10月8日月曜日

消費税軽減税率制度のポイント(1)

1.軽減税率制度の概要
 消費税及び地方消費税(以下「消費税等」)の税率は、平成31年10月1日より8%から10%に引き上げられる予定です。
 この一方で、「酒類・外食を除く飲食料品」と「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」は消費税の軽減税率制度が適用され、これらに係る消費税率は8%となります。ただし、現行(消費税率6.3%、地方消費税率1.7%)とは異なり、軽減税率のもとでは同じ8%でも消費税率は6.24%、地方消費税率は1.76%となります。

2.軽減税率制度の対象となる人
 軽減税率制度は、一見すると飲食料品の売上や仕入を行う、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、売店、飲食業といった業者のみが対象となるように思えますが、このような業者のみならず、その対象はもっと幅広いものとなります。
 例えば、課税事業者で、飲食料品の売上がない場合でも、飲食料品の仕入がある場合は軽減税率制度の対象となります。どのような場合かというと、例としては会議のときに、会議費としてお茶やお菓子を購入する場合です。また、交際費として取引先へのお菓子などの食料品をお土産として購入する場合も該当します。福利厚生費として、従業員のためにおやつや飲み物を購入する場合も該当します。
 従って、軽減税率の対象は、非常に幅広いものとなり、かなり多くの事業者が対象となると想定されるので注意が必要です。

3.テイクアウトと店内飲食
 テイクアウトの場合は、飲食料品の販売となるため軽減税率の対象となります。一方、店内飲食の場合は標準税率(10%)が適用されます。
 この点について、先日、「コンビニに行ったとき、家で食べるつもりで弁当を買ったが、店を出るとき気が変わって、イートインで弁当を食べたときはどうなるのか?」という質問がありました。この類の質問・疑問は多くの人が持っているのではないかと思います。
 この場合は、軽減税率の対象となり、標準税率の適用は一切ありません。
 なぜかというと、軽減税率が適用されるかどうかの判定は、事業者が課税資産の譲渡等を行う時で行うことになるためです。
 具体的には、この場合、弁当を販売する時点で軽減税率か標準税率の適用かが決まるということになります。家で食べるつもりということで販売すれば、この時点で軽減税率の適用が決定されます。
 従って、一度決まった税率は、その後変わることは絶対にありません。

2018年9月29日土曜日

平成30年度民間社会福祉施設長研修会で使用したレジュメについて

 平成30年8月7日にキャンパスプラザ京都で開催された「平成30年度民間社会福祉施設長研修会」で使用した資料が京都府の「平成30年度民間社会福祉施設長研修会 会議資料」というページに掲載されています。

 私のレジュメは「資料3」として掲載されています。
 京都府による指導監査の重点ポイントが記載された資料も掲載されています。

 「社会福祉法人会計でのチェックポイント」というタイトルですが、内容は内部統制です。もともと京都府がこのタイトルを「仮題」として設定されていたのですが、そのまま使用しました。 

 参考としていただけますと幸いです。 


2018年9月12日水曜日

社会福祉法人向けセミナー~Web申込みについて


 平成30年10月に開催する社会福祉法人向けのセミナーですが、Web申込みもできます。
  
 Web申込みのページはこちらです。

 皆様のご参加をお待ちしています。