2018年2月27日火曜日

架空取引に係る内部統制

1.はじめに
 2月に入って、東証1部上場企業2社で役員と従業員の不正事例がありました。
 社名は伏せますが、東証の業種区分では1社はサービス業(以下A社)、もう1社は電気機器に分類される会社(以下B社)です。
 もちろん、内部のことはわかりませんので、あくまで外からの視点であり、推測の部分があることをお断りしておきます。また、本稿は私見であることにご留意ください。

2.両社の不正事例
 A社はサービス業ですが、A社のIRによると、出版事業部担当の取締役が取引先と結託し、A社に対して架空請求や水増し請求を行い、キックバックや不適切な利益供与を受けている疑いが強まったということです。これは内部通報により発覚したということです。
 一方、B社は、報道によると、工場で経理を担当していた従業員が務していた工場や事業所で、支払いに必要な書類を偽造し、自分で開設した架空口座に送金していたということです。こちらも、工場の同僚が不自然な取り引きに気付き、不正が発覚したということです。

3.架空取引による不正
 物品の購入や経費の支払いにおいて、実際に行っていない取引を、証憑類の偽造などにより、あたかも取引を行ったように装い、会社の現金預金を引き出し、自分の口座に入金するという手口は、昔から行われている典型的な不正の手口です。架空仕入、架空請求などいろいろな呼び方がありますが、本稿では架空取引と称します。
 以前、私が担当した弊社のセミナーで、「社会福祉法人が構築すべき内部統制」というタイトルで、社会福祉法人の不正事例を紹介したことがあります。架空取引による着服もいくつか紹介しましたが、発注から支払いまでを一人で行っているケースが多く見られました。
 発注から支払いを一人で行うと、不正の発生の可能性が非常に高くなります。そのため、購買取引についての内部統制の整備・運用が必要となります。

4.購買取引に係る内部統制
 購買取引に係る不正を防止するための内部統制のポイントを簡単に書くと次のとおりです。
 ①発注者と発注担当者は別の人にする
 ②納品時の検収担当者は発注者とは別の人にする。
 ③支払いの担当者は、発注者や検収担当者とは別の人にする。
 ④支払い担当者は、発注書、納品書、請求書を照合する。

 他にも内部統制のポイントはありますが、とりあえず上記をまず記載します。この中でも②は重要といえます。発注担当者が検収も行ってしまうと、架空仕入や横流しなども可能となってしまうからです。
 例えば、商品100個を注文したということにして、架空の発注を行い、さらに偽の納品書を作成して100個納品されたということにします。納品書には納品を確認した旨の検収印も押印します。そして、さらに偽の請求書を発行し、発注書、納品書、請求書を支払い担当に回します。支払い担当者は、発注に基づいて正しく納品されたと思ってしまい、請求書に基づいて、架空口座に入金してしまう、というわけです。
   ただし、不正の場合、かなり巧妙な手口があるので、A社とB社の事例も外から見るだけでは、何とも言えません。また、サービス提供の場合、サービスを受けたかどうかの確認が難しいケースもあります。
 さらに、内部統制は複数の担当者の共謀によって有効に機能しなくなるという弱点もあります。すなわち、絶対的なものではないということです。
 そのため、A社、B社も購買取引にかかる内部統制は存在していたのだとは思いますが、もしかしたら不備があったのかもしれませんし、内部統制の弱点が出てしまったのかもしれません。

5.内部通報制度
 今回のケースは、A社のケースは内部通報制度により発覚し、B社の場合は、工場の同僚が不自然な取引に気づき、社内調査が行われて発覚したということです。
 内部通報制度は内部統制の一つです。構築した内部統制を巧妙にくぐり抜けるケースもありますが、内部通報制度により内部統制の弱点を補えることもあります。
 最近は、社会福祉法人や公益法人を見ることが多いのですが、内部通報制度を設けられていない法人が多く見られます。内部通報制度は、内部統制を強化する仕組みといえますので、内部通報制度を設けることが期待されます。
 方法としては、例えば、顧問契約をしている法律事務所にホットラインを設けるという方法が考えられます。このようにすれば、従業員が安心して通報できるからです。会社内部の人間に通報する仕組みだと握りつぶされる恐れがありますし、従業員も消極的になりますので、外部に情報提供できる仕組みのほうがよいと考えられます。特に従業員数の少ない組織では外部窓口は有効と考えられます。

2018年2月18日日曜日

敷金の論点

1.概要
 今回は、敷金に関する会計上の論点を記載します。
 敷金は、特に大きなリスクはない科目ですが、一部に注意すべき論点があります。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.敷引きと消費税
 関西地方でよく見られる商習慣として、「敷引き」(しきびき)というものがあります。これは賃貸契約を行ったとき、敷金のうち貸主に対して一部金額は返還しないということを契約により定めるものです。
 この場合、消費税の課税関係については、敷引き部分は権利の設定の対価となるため、資産の譲渡等の対価として課税の対象となります消費税法基本通達5-4-3)。この処理については、失念されているケースがよく見られますので注意が必要です。
 なお、敷引きの会計処理ですが、会計基準で一定の処理が定まっていないため、会計慣行によることになります。よく見られるのは、税務上、敷引きは法人税法上の繰延資産に該当するため、長期前払費用として計上し、原則5年(賃貸契約期間が5年未満の場合は契約期間)で償却するというものです。私見では、会計上もこのような償却処理でよいと考えられますが、償却期間は、もし賃貸契約期間が5年以上の場合は、賃貸契約期間が妥当と考えられます。 

【設例1】
・期首に敷金10,000を支払った。
・敷金のうち2,000は敷引きとして家主に返還しない契約となっている。
・賃貸契約は5年である。
・当社は消費税等の納税義務者である。
・税抜処理を行っている。

【仕訳例】
①敷金の支払時
(借方)敷    金 8,000    (貸方)現金預金 10,000
    長期前払費用 1,852
    仮払消費税等  148

②期末時
(借方)長期前払費用償却 370  (貸方)長期前払費用 370


3.資産除去債務
(1)会計処理
 制度会計上は、「建物等の賃借契約において、当該賃借建物等に係る有形固定資産(内部造作等)の除去などの原状回復が契約で要求されていることから、当該有形固定資産に関連する資産除去債務を計上しなければならない場合」があります(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 9項)。
 ただし、「当該賃借契約に関連する敷金が資産計上されているときは、当該計上額に関連する部分について、当該資産除去債務の負債計上及びこれに対応する除去費用の資産計上に代えて、当該敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、そのうち当期の負担に属する金額を費用に計上する方法によることができる」(同適用指針 9項)。
 すなわち、原則は敷金についても、一定の要件を満たす場合、資産除去債務を計上する必要がありますが、容認処理として、敷金の回収不能部分を見積もって、その金額を一定期間において償却処理することができるというものです。

【設例2】
・期首に敷金10,000を支払った。
・敷金のうち2,000は原状回復費用に充てられるため返還が見込めないと認められたことから、当社の同種の賃借建物等への平均的な入居期間(5 年)で費用配分する。
・資産除去債務の負債計上及びこれに対応する除去費用の資産計上を行わない方法による。

【仕訳例】
①敷金の支払時
(借方)敷金 10,000 (貸方)現金預金 10,000

②期末時
(借方)費用(敷金の償却) 400 (貸方)敷金 400

(2)償却期間
 敷金に関する資産除去債務に係る論点の一つに、償却期間があります。
 同適用指針では27項において、「当期の負担に属する金額は、同種の賃借建物等への平均的な入居期間など合理的な償却期間に基づいて算定することが適当と考えられる。 」と記載されています。これはあくまで例示なので、合理的な償却期間であれば問題はありません。言い換えると、根拠のない非合理な償却期間は認められないということです。
 設定する場合は、例えば、過去の入居期間の実績を集計し「過去はこのような平均期間であり、今回も平均期間である◯年の入居を予定している。従って、償却期間は◯年とする。」といったように、根拠を文書化しておく必要があります。

(3)原状回復費用の見積り
 原状回復費用の見積りについては、私の経験上、業者に見積り額の算出を依頼すれば金額を算出してくれるところが多かったと記憶しています。そのため、業者に見積り依頼をしてみるとよいと思います。可能な限り客観性をもたせることが重要です。

(4)消費税の課税関係
 資産除去債務に係る敷金の償却の場合、回収が最終的に見込めないと認められる部分の金額については消費税の課税の対象とはならないと考えられます。
 消費税の課税の対象は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等ですが、回収が最終的に見込めない部分の金額は、あくまでも見積もりであるため、対価性がないといえるからです。敷引きの場合は、賃貸借契約において、一定金額は返還しないと定められているため、対価性が認められます。しかし、資産除去債務に係る敷金の場合は単なる将来の見積であり、反対給付として対価を受け取る取引とはいえないからです。

2018年2月11日日曜日

「社会福祉充実計画の承認等に関するQ&A」の追加・修正(1)

1.概要
  少し前になりますが、平成30年1月23日付で「社会福祉充実計画の承認等に関するQ&A(vol.3)」が厚生労働省社会・援護局福祉基盤課より事務連絡として公表されました。タイトルのとおり、社会福祉充実計画の承認に関するQ&Aの追加・修正版となります。
 追加・修正されたところは赤字及び下線で記載されているため、わかりやくすくなっています。
 なお、追加・修正Q&Aは平成30年度から適用するということになっています。社会福祉法人は全て3月決算なので、「平成30年度から」ということは平成30年4月1日からということになります。社会福祉充実残額の算定や充実計画の策定は期末日後に行われるので、平成30年4月1日以後に行われる社会福祉充実残額の算定等からこの追加・修正Q&Aも適用されるものと解されます。
 今回は、追加・修正Q&Aからいくつかピックアップして内容を見てみたいと思います。

2.主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等の特例
(1)追加・修正後のQ&A
 問37において主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等の特例について、追加・修正が行われています。
 この論点は、拙著「「社会福祉充実計画」の作成ガイド」(中央経済社)の最終校正日後に出たものであったため、本には載せることができなかった論点です。この論点については、当ブログの第1回「「社会福祉充実計画」の作成ガイド」P69について」に記載しています。
 まず、Q&Aを引用してみます。

問37 「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等の特例」については、「再取得に必要な財産」と「必要な運転資金」の合計額が法人全体の年間事業活動支出を下回る場合は、施設・事業所の経営の有無に関わらず、これに該当する全ての法人がその適用を受けられるものと考えて良いのか。【事務処理基準3の(7)関係】

(答)
1.貴見のとおり取り扱って差し支えない。

 赤文字の部分が追加・修正された部分となりますので、vol.2版ではこの部分がなかったということです。
 内容としては変わっているところはなく、適用要件をより明確にしたというものです。

(2)当初の経営協の見解
 この論点は、上述の当ブログ第1回に記載したとおり、当初、全国社会福祉法人経営者協議会(以下「経営協」)は機関紙である「経営協情報」で、「「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等」とあることから、特例計算の対象となるのは社会福祉協議会、共同募金会、助成等を主たる事業とする法人が想定され、これら以外の通常の社会福祉法人は特例計算の対象とならないと考えられる」としていました。
 ちなみに、経営協という組織は、社会福祉法人に携わった方であればご存知だと思いますが、諸団体の中でも別格の有力団体です。そのため、経営協の意見は、実質的に厚生労働省の意見といっても過言ではないと思います。従って、私も経営協の意見を著書に記載したわけです。

(3)vol.2の見解
 しかしながら、原稿締切後の平成29年2月13日付でQ&A vol.2が発出され、上記問37の赤字下線部分を除いたものが掲載されました。
 ただ、当ブログ第1回にも記載しましたが、当初、私は平成28年12月の案から計算要件が変更となったため、その確認のためのQ&Aなのかと思いました。
 おそらく、vol.2では、私のような捉え方をした方も多かったと推測されますので、今回のvol.3で適用要件を明確にしたものと思われます。
 従って、社会福祉協議会、共同募金会、助成等を主たる事業とする法人以外の通常の社会福祉法人であっても、計算要件を満たせば「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等の特例」を適用できることになりました。
 余談ですが、この結果、特例の名称では「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等」が対象となっているにもかかわらず、「施設・事業所の経営の有無に関わらず、これに該当する全ての法人がその適用を受けられる」ということになってしまいました。

3.特例計算の選択の自由
(1)概要
 この特例計算ですが、特例計算の適用要件を満たした場合であっても、必ず特例計算によらなければならないわけではなく、原則の計算方法によってもかまいません。
 今回、vol.3では、新たに問38が設けられ、その点が明確になりました。

問38 「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等の特例」の要件に該当する場合であっても、法人の判断として特例の適用を受けないことは可能か。【事務処理基準3の(7)関係】

(答)
1.貴見のとおり取り扱って差し支えない。

 実は、平成29年度版の社会福祉充実残額算定シートでは、特例計算の計算要件である「再取得に必要な財産」と「必要な運転資金」の合計額が法人全体の年間事業活動支出を下回った場合、自動的に特例計算によって計算される計算式が組まれていました。
 しかしながら、特例計算だと社会福祉充実残額が出てしまうが、原則計算だと社会福祉充実がマイナスとなり、発生しないというケースもあります。このような場合、原則計算を選択するほうが社会福祉法人にとって有利となります。すなわち、有利選択ができるということです。
 今回の問38はこの点を確認したものです。

(2)社会福祉充実残額算定シートの改善
 上記の通り、平成29年度版の算定シートでは、計算要件を満たすと自動的に特例計算で計算されてしまっていましたが、30年1月時点で発出された平成30年度版の社会福祉充実残額算定シート(案)[Excel版]では、その点が改善されました。
 具体的には、「6.「社会福祉充実残額」」の欄で、「計算の特例適用 ※「5.計算の特例」の適用有無を変更する場合、以下のセルから選択すること。」という説明書が設けられ、F77のセルに「適用する」「適用しない」の選択欄が設けられました。これによって、算定シート上でも、特例計算を適用するか、原則計算を適用するかの選択を行えるようになりました。
 従って、平成30年度からは、エクセルの計算式を自分で組み直すことなく、選択ボタンで選択することにより、どちらも自動計算されることになったので、便利になりました。

2018年2月4日日曜日

決算期における機関運営の留意点~社会福祉法人

1.概要
 2月に入りましたが、社会福祉法人では決算承認のための理事会や定時評議員会のスケジュールを組まれているところもあるかと思います。法人の中にはすでにスケジュールが決定されているところもあります。
 今回は、これまでのブログでも既出の論点ではありますが、決算期のスケジュールの留意点を記載いたします。

2.決算承認理事会と定時評議員会の間隔
 決算承認理事会と定時評議員会の間は中2週間(14日間)以上あける必要があります。これは、計算書類等は定時評議員会の2週間前の日から5年間、主たる事務所に備え置かなければならないとされているからです(社会福祉法(以下「法」)45条の32①)。
 これは、評議員が定時評議員会で計算書類等を審議するにあたって、計算書類等を事前に確認する期間を与えるためです。
 そのため、中14日間以上の期間をあける必要があるのですが、これを14日後としてしまう誤りが非常に多く見られます。中14日とは決算承認理事会と定時評議員会の間が丸々14日ということです。すなわち、備置きの日の翌日から定時評議員会の日までが14日ということです。
 従って、この誤りをおかさないようにするためには、+15日(以上)とおさえておくとよいと思います。
 例えば、6月7日に決算承認理事会を開催する場合は、定時評議員会の日は7日+15日=22日以降となります。
 なお、このことから決算承認理事会は6月15日までに開催しておく必要があります。16日以後だと6月30日を越えてしまうからです。

3.定時評議員会の招集
(1)理事会の決議
 評議員会を招集するためには、評議員会の日時及び場所、目的などを理事会で決議する必要があります(法45条の9⑩、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」181条①)。
 その上で、理事が評議員会の日の一週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、評議員に対して、書面でその通知を発しなければなりません(法45条の9⑩、一般法182条①)。

(2)計算書類等の添付
 定時評議員会では、評議員会に書面で招集通知を発するとき、理事会の承認を受けた計算書類等を添付する必要があります(法45条の29)。
 招集通知に計算書類等を添付していなければ、法令違反となりますので十分注意する必要があります。

4.評議員会議事録
 評議員会を開催した後は、評議員会議事録を作成することになりますが、この議事録には議事録の作成に係る職務を行った者の氏名の記載が必要です(社会福祉法施行規則(以下「施行規則」)2条の15③七)。
 この記載は失念しやすいので注意が必要です。よくある誤りは議事録署名人と混同してしまう誤りです。議事録署名人とは別に議事録作成者の氏名を記載する必要があります。
 なお、この議事録作成者については法令上の制限はありませんので、事務職員であっても問題はありません。
 もちろん、この評議員会議事録の作成者の氏名の記載は、定時評議員会、臨時評議員会のどちらの議事録でも同じです。事業計画書及び収支予算書について評議員会の決議が必要な法人は3月に臨時評議員会を開催することになりますので、この機会に記載いたします。
 最後に、この論点については、拙著「「社会福祉充実計画」の作成ガイド」(中央経済社)のP115にも記載例とあわせて記載しています。