2019年6月30日日曜日

公益法人information~C(2)の計算式が壊れたら

1.はじめに

 平成31年2月11日のブログ「公益法人インフォメーション~電子申請システムリニューアル」で公益法人informationのシステムが新しくなったというお話をしました。(注:このときのブログで「公益法人インフォメーション」という書き方をしてしまいましたが正確な表記は「公益法人information」でした。)
 今回は、この公益法人informationで導入された新システムの留意点について記載したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。
(今回の内容は、一緒に業務を行っていただいた公認会計士のご協力によるものです。感謝申し上げます。)

2.C(2)の計算式が壊れたらどうすればよいのか

(1)行挿入の注意点

 「公益法人インフォメーション~電子申請システムリニューアル」でも記載しましたが、新システムではエクセルでの作成となりました。そのため、自分のパソコン内で作成できるようになり、また、編集も行いやすくなったため、旧システムよりも便利になったと思います。
 しかしながら、注意点もあります。

 C(2)(控除対象財産を集計する表)など、いくつかのブックには行を追加するときの注意点が記載されています。
 手元に資料がないので記憶に頼りますが、行を追加するときは、①自分で行挿入をしてはならない、②1行目ではなく2行目以下の行をコピーして挿入しなければならない、という注意書きが記載されていたと思います。

 エクセルだとつい、自分で行挿入をしてしまいがちですが、これは必ず守らなければなりません。
 

(2)自分で行挿入をしてしまうとどうなるのか

 この注意書きは、もちろん理由があって記載されています。
 それでは、2行目以下をコピーしないで自分で行挿入をしてしまうとどうなるのでしょうか。
 結論を申し上げますと、この場合、1号財産や2号財産などの合計額があわなくなってしまいます。

 自分で行挿入しただけで何故合計がおかしくなるのか疑問に思われる方も多いと思います。実は、この現象が生じる理由は、1号財産や2号財産の集計表の末尾にある小計欄の計算式にあります。
 通常、エクセルでこのような簡単な表を作成したときの合計を求めるときはSUM関数を使用します。しかしながら、新システムで使用されているエクセルでは、小計欄にカーソルをあわせていただければわかるのですが、C(2)の小計欄ではSUMIF関数が使用されています。
 これが、自分で行挿入をしてしまうと合計額があわなくなる理由です。
 なお、この小計欄のセルは「保護」が行われているので、自分では計算式を触ることはできません。

(3)SUMIF関数とは

 SUM関数であれば、1行目だけ気をつければ、自分で行挿入をしても、その行が合計範囲に含まれるので、合計額の集計はもれなく行うことができます。
 しかしながら、SUMIF関数とは、マイクロソフトのページによれば「指定した条件を満たす範囲内の値を合計する」関数です。従って、指定した条件が含まれないと、その行の数字は集計されません。
 これが、自分で行挿入してしまうと合計額があわなくなる原因です。

(4)AZの列に注目

 具体的に申し上げますと、自分で行挿入してしまうと、その行に「指定した条件」が含まれなくなってしまうのです。

 私の記憶によれば、C(2)の1号財産のSUMIF関数は確か「(AZ:AZ,1,AL:AL)」だったと思います。
 SUMIF関数では、順番に「範囲」、「検索条件」、「合計範囲」が示されます。C(2)の1号財産の例でいうと、範囲がAZの列、検索条件が「1」、合計範囲がALの列ということになります。

 それでは、この検索条件の「1」とは何かというと、実はAZの列に「1」という数字が記載されていて、その数字の「1」が検索条件となっているという仕組みになっているのです。

 AZの列にカーソルをあわせると、エクセルの表では全く見えませんが、上のバーのところ(計算式などが示されるところ)に「1」と表示されます。「1」を白色にして見えなくしているのですが、まちがいなく「1」が入力されています。これがSUMIF関数の条件の正体です。

(5)合計があわなくなる理由

 そこで、合計があわなくなる理由ですが、自分で行挿入してしまうと、AZの列に「1」が入力されていない状況になってしまうからです。そのため、SUMIF関数では、その行に入力された数値を認識しないのです。
 従って、その行の数値が認識されないことから、SUMIF関数で集計した合計額があわなくなるという現象が生じてしまうというわけです。

(6)壊れた計算式を修復する方法

 それでは、誤って自分で行挿入してしまい、C(2)の計算式が壊れてしまったらどうすればよいのでしょうか。

 その解決策は、自分で行挿入してしまった行のAZの列に半角で「1」を入力することです。そうすれば、SUMIF関数がその行のALの列に入力した数値を認識してくれます。その結果、合計額もあうようになります。

 注意点は、この「1」を入力する列のセルを「結合」することです。セルを結合しないとSUMIF関数が条件を読み取ってくれません。
 

3.検算は必ず行う

 C(2)をはじめ、その他の別表においてもエクセルで集計した合計数値は、必ず電卓または算盤で検算する必要があります。
 エクセルなどのスプレッドシートは大変便利なツールですが、計算式や計算範囲に不備があると集計漏れなどの誤りが生じてしまいます。
 従って、面倒でも、必ず電卓または算盤を使って手作業で検算を行い、その集計が正しく行われているかどうかを確認する必要があります。
 今回の場合だと、C(2)の合計があわないということは、どこかの行の挿入にミスがあったということです。
 このようにして、計算合計の確認と誤りがあればエクセルの修正を行って、正しい数値を出す必要があります。

2019年6月23日日曜日

キャッシュ・フロー計算書~消費税及び地方消費税の取扱い

1.はじめに

令和元年(2019年)6月19日の日本経済新聞に「企業投資、最高の52兆円 「ため込む」より「使う」 」という見出しの記事がありました。
 これによると、日本企業は、将来の企業の成長のために積極的に投資を行っているということです。日本経済新聞の調査では、その裏付けとして「投資キャッシュ・フロー」が「3年連続で最高」となり、「趨勢的に」増加しているということです。

 この記事に出てくる「投資キャッシュ・フロー」はキャッシュ・フロー計算書の「投資活動によるキャッシュ・フロー」のことと推測されますが、この「投資活動によるキャッシュ・フロー」には機械などの設備投資、有価証券の売買、貸付金の支出・回収などを記載する区分です。
 そのため、企業は、機械などを購入した場合、キャッシュ・フロー計算書にその支出額を反映する必要がありますが、今回は、キャッシュ・フロー計算書において、機械などを購入したときの消費税及び地方消費税の取扱いに関する留意点について記載したいと思います。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.キャッシュ・フロー計算書と消費税及び地方消費税

日本公認会計士協会が作成している「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」では、36項に、キャッシュ・フロー計算書における消費税及び地方消費税(以下「消費税等」)の処理が記載されています。
 
 それによれば、「消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の「キャッシュ・フロー計算書」上の表示」として3つの方法が記載されています。

① 課税対象取引に係るキャッシュ・フローを消費税等込みの金額で表示する方法
② 課税対象取引に係るキャッシュ・フローを消費税等抜きの金額で表示する方法
③ 消費税等抜きの資産・負債の増加額若しくは減少額に、又は収益若しくは費用の額に、これらに関連する消費税込みの債権・債務の期中増減額を調整して、各表示区分の主要な取引ごとのキャッシュ・フローを表示する方法

 このうち、実務で多く用いられているのは③の方法ではないかと思います。
 
 なお、消費税等の取扱いについては、
「消費税等の申告による納付又は還付に係るキャッシュ・フローは、課税取引に関連付けて区分することが実務的に困難なため、「法人税等の支払額」と同様に「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分に消費税等支払額(還付額)又は未払(未収)消費税等の増減額として記載する。」
 とされています。
 実務では間接法の採用が多いので、間接法を前提とすると、「営業活動によるキャッシュ・フロー」に「未払消費税等の増減額」または「未収還付消費税等の増減額」といった科目で表示されます。

3.投資活動によるキャッシュ・フローにおける消費税等の取扱い

(1)「投資」と「財務」は収入・支出ベースで記載

それでは、機械設備の購入などを行ったとき、投資活動によるキャッシュ・フローでは税抜金額で表示するのか、それとも税込金額で表示するのか、さてどちらでしょうか?
 
 以下、間接法を前提として記載しますが、間接法で作成するキャッシュ・フロー計算書においても、直接法と異なるのは「営業活動によるキャッシュ・フロー」のみであって、「投資活動によるキャッシュ・フロー」と「財務活動によるキャッシュ・フロー」の記載は直接法と同じです。すなわち、機械設備の購入であれば、その機械設備の購入に伴って支払った支出金額が「投資活動によるキャッシュ・フロー」に記載されます。
 すなわち、収入・支出ベースで記載することになります。

(2)機械設備の購入の仕訳

一例として機械設備の購入を取り上げます。
 例えば、機械設備を購入したときの仕訳は以下のとおりです。

【設例】
 R✕2年3月に機械設備を648千円(税込)で購入した。税率は8%とする。
 会計処理は税抜方式とする。
 決算期は3月とする。なお、機械の稼働月は4月であるため、減価償却は行わないものとする。

【仕訳】(単位:千円)
(借方)機械設備   600 (貸方)現金預金 648
    仮払消費税等 48

 簿記3級レベルの知識があれば、すぐにできる仕訳ではないかと思います。
 

(3)上記2③の方法の場合どうなるのか

次に、消費税等の取扱いについて記載します。
 上記2ではキャッシュ・フロー計算書における消費税等の取扱いについて、①~③の方法を記載しましたが、実務上多く用いられていると思われる「③消費税等抜きの資産・負債の増加額若しくは減少額に、又は収益若しくは費用の額に、これらに関連する消費税込みの債権・債務の期中増減額を調整して、各表示区分の主要な取引ごとのキャッシュ・フローを表示する方法」を前提に記載します。

 この場合、上記(2)の機械の稼働は購入にかかるキャッシュ・フローは600千円なのか、それとも648千円なのか、どちらになるのでしょうか。
 間接法であっても、投資活動によるキャッシュ・フローは収入・支出ベースで記載するので、一見、現金預金の支払額648千円のような感じもします。

 ちなみに、営業キャッシュ・フローの計算において、売上債権や仕入債務の増減額は税込金額を使用しています(上記2③参照)。

 そこで、以下、極端に簡単な設例を記載します。

【設例】
①決算期は3月とする。
②R✕1年度期首時点では、現金預金1,000千円、負債0円、純資産1,000千円であった。
③R✕2年3月に機械設備を648千円(税込)で購入した。税率は8%とする。なお、機械の稼働月は4月であるため、減価償却は行わないものとする。(上記3(2)の設例と同じ)
④税率は8%とする。
⑤会計処理は税抜方式とする。
⑥その他の取引はなかったものとする。

 その他の取引はなかったものとしますので、収益、費用は0となり、当期純利益も0とします。
 機械の購入の会計処理は上記3(2)の通りです。
 その結果、期末の貸借対照表は以下の構成になります。

 資産:現金預金352千円、未収還付消費税等48、機械設備600 資産合計1,000
 負債:0円
 純資産:1,000千円
 
 ここで、間接法でキャッシュ・フロー計算書を作成すると以下のようになります。(単位:千円)

【営業活動によるキャッシュ・フロー】
当期純利益0
未収還付消費税等の増減額△48
営業活動によるキャッシュ・フロー△48
【投資活動によるキャッシュ・フロー】
有形固定資産の購入による支出
投資活動によるキャッシュ・フロー
現金及び現金同等物の増減額△648
現金及び現金同等物の期首残高1,000
現金及び現金同等物の期末残高352


 ?の部分には、600か648のどちらかが入ることになりますが、逆算していただければおわかりのように?には600が入ります。
 なぜかというと、消費税等の増減は、全額が営業キャッシュ・フローにおいて処理されているからです(上記2参照「「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分に消費税等支払額(還付額)又は未払(未収)消費税等の増減額として記載する。」
 そのため、投資活動によるキャッシュ・フローは税抜金額となるわけです。
 従って、税抜方式の場合、投資活動によるキャッシュ・フローも税抜の金額が記載されることがわかりました。

4.まとめ

以上のように、間接法で税抜方式の場合、投資活動によるキャッシュ・フローで消費税法の課税仕入、課税売上に該当する取引は税抜処理で処理することになります。

 このように見てみると、特に難しくないように思えるのですが、債権債務は税込金額で増減額を算出していること、投資活動によるキャッシュ・フローは収入・支出ベースで記載することを思い浮かべると、結構迷う方はおられます。

 もっとも、キャッシュ・フロー計算書は精算表で作成されている会社が多いと思います。精算表では、貸借対照表に記載される有形固定資産の金額も税抜で記載されますし、増減の金額も税抜で記載された総勘定元帳、あるいは固定資産台帳の増加額、減少額を記載しますので、特に考えなくとも機械的に作成できます。

 精算表はかなり簡単にキャッシュ・フロー計算書を作成できるため、実務上、便利ですが、時々、キャッシュ・フロー計算書の構造も考えてみると意外な発見があり面白くなるかもしれません。

2019年6月16日日曜日

ドラッグストアの商品区分別の粗利益率

1.はじめに
 前回のブログでは「ドラッグストアの売上構成比率~食品売上割合はどのぐらいあるのか?」というタイトルで、各ドラッグストアの売上構成比率を見てみました。
 今回は、各商品区分別の利益率を見てみたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.対象としたドラッグストアとその期間
 対象としたドラッグストアとその決算期は、以下の通りです。
 これは前回と同じです。
  • ウエルシアホールディングス株式会社(平成31年2月期) (以下「ウエルシア」)
  • 株式会社コスモス薬品(平成30年5月期)(以下「コスモス」)
  • 株式会社ココカラファイン(平成30年3月期)(以下「ココカラファイン」)
  • 株式会社マツモトキヨシホールディングス(平成30年3月期)(以下「マツモトキヨシ」)
  • 株式会社ツルハホールディングス(平成30年5月期)(以下「ツルハ」)
3.算出方法
 各社とも、有価証券報告書の「第2 【事業の状況】」の「3 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」に記載されている「③ 仕入及び販売の実績」より、売上高と仕入実績の金額を使用しました。
 正確には、売上総利益「売上-売上原価」という式で算出します。この売上原価は「期首棚卸高+当期仕入額-期末棚卸高」という式で算出します。すなわち、本来は期首と期末の棚卸高を考慮する必要があるのですが、「③ 仕入及び販売の実績」では、商品区分別の棚卸高が記載されていませんので、簡便的に売上高-仕入高の差額を売上総利益とみなして計算してみました。
 ここでは、売上高と仕入高の差額を「みなし粗利益」と呼び、売上高に対するみなし粗利益の率を「みなし粗利益率」と呼ぶことにします。

4.大手ドラッグストアの商品区分別の「みなし粗利益率」
(1)ウエルシア
 医薬品他のみなし粗利益は38.9%となりました。調剤は37.3%、化粧品は31.5%です。一方、食品は20.2%でした。当然のことながら、食品よりも医薬品や化粧品の利益率のほうが高いという結果が出ています。

【ウエルシア】
区分
当連結会計年度
(自 平成30年3月1日
至 平成31年2月28日)
金額(百万円)
みなし粗利益
みなし粗利益率
売上高仕入高
医薬品・衛生介護品・ベビー用品・健康食品163,777100,04363,73438.9%
調剤129,81181,45448,35737.3%
化粧品136,24593,30742,93831.5%
家庭用雑貨116,65485,76930,88526.5%
食品172,971138,08434,88720.2%
その他59,68751,2958,39214.1%
合計779,148549,954229,19429.4%

(2)コスモス
 コスモスの医薬品のみなし粗利益率は34.4%、化粧品は24.0%でした。
 医薬品のみなし粗利益率は他社と比較すると低いものとなっています。医薬品もかなり値引きして販売しているのでしょうか?
 化粧品のみなし粗利益もあまり高くありません。
 全体的にみなし粗利益率は高くないという印象です。

【コスモス】

区 分
当連結会計年度
(自 平成29年6月1日
至 平成30年5月31日)
金額(百万円)
みなし粗利益
みなし粗利益率
売上高仕入高
医 薬 品85,77256,22729,54534.4%
化 粧 品57,68343,83213,85124.0%
雑 貨93,56675,23418,33219.6%
一 般 食 品313,470274,60438,86612.4%
そ の 他7,5066,66584111.2%
合計557,999456,564101,43518.2%

(3)ココカラファイン
 ココカラファインの医薬品のみなし粗利益は41.0%、化粧品は24.5%でした。
 化粧品の利益率はコスモスと同じぐらいなので、化粧品の利益率はあまり高くないという印象です。
 食品の利益率は9.0%となっており、他社と比較すると低いものとなっています。これは扱う食品の種類によって異なってくるものと推測されます。
 前回のブログで記載しましたが、ココカラファインはマツモトキヨシと同様、医薬品、化粧品の販売に力を入れ、食品の販売にはあまり力を入れていない従来型のドラッグストアなので、利益率の高い食品はあまり扱っていないのかもしれません。

【ココカラファイン】

区分
当連結会計年度
(自 平成29年4月1日
至 平成30年3月31日)
金額(百万円)
みなし粗利益
みなし粗利益率
売上高仕入高
医薬品108,48763,96044,52741.0%
化粧品104,51078,95525,55524.5%
健康食品10,5167,0603,45632.9%
衛生品40,96530,26310,70226.1%
日用雑貨47,78239,3828,40017.6%
食品38,37034,9203,4509.0%
合計350,630254,54096,09027.4%

(4)マツモトキヨシ
 医薬品のみなし粗利益は39.9%、化粧品のみなし粗利益率は29.5%となりました。ウエルシアと近い水準です。
 
【マツモトキヨシ】
区分
当連結会計年度
(自 平成29年4月1日
至 平成30年3月31日)
金額(百万円)
みなし粗利益
みなし粗利益率
売上高仕入高
医薬品171,532103,01068,52239.9%
化粧品217,454153,27564,17929.5%
雑貨96,51373,74422,76923.6%
食品51,93645,1636,77313.0%
合計537,437375,194162,24330.2%

(5)ツルハ
 ツルハの医薬品のみなし粗利益率は40.3%、化粧品は30.2%となりました。
 食品は「その他」に含まれますが、こちらは21.2%となっています。

【ツルハ】

区 分
当連結会計年度
(自 平成29年6月1日
至 平成30年5月31日)
金額(百万円)
みなし粗利益
みなし粗利益率
売上高仕入高
医薬品155,67792,98562,69240.3%
化粧品122,73885,69637,04230.2%
日用雑貨178,246138,03440,21222.6%
育児用品20,84217,8083,03414.6%
その他190,279150,00640,27321.2%
合計667,784484,530183,25427.4%

5.まとめ
 当然といえば当然ですが、どのドラッグストアも医薬品と化粧品のみなし粗利益率は高いものとなっています。一方、食品のみなし粗利益率は低いものとなっています。
 しかしながら、計算してみてわかったことは、同じ商品区分でもドラッグストアによって、みなし粗利益が異なるということです。
 医薬品のみなし粗利益はコスモス以外は概ね40.0%前後となっていますが、コスモスは34.4%です。 
 化粧品はウエルシア、マツモトキヨシ、ツルハが概ね30.0%前後、コスモスとココカラファインは24%ぐらいでした。コスモスとココカラファインが低いのは、低価格戦略をとっているためなのか、あるいは扱う化粧品の種類によるものなのか、このあたりは、もっと深く調べないと結論は出ないといえます。
 雑貨は18~23%あたりでしょうか。ウエルシアだけ26.5%と高くなっています。
 食品については、ウエルシア、ツルハ(医療用具等を含む)が20%台ですが、コスモスは12.4%、ココカラファインは9.0%、マツモトキヨシは13.0%でした。ココカラファインとマツモトキヨシの利益率が低いのは、前述したように、この2社は食品売上にはそれほど力を入れていないことが影響していると推測されます。一方、コスモスは食品に関しては、明らかに低価格戦略をとっていることが背景にあります。
 今回は、「③ 仕入及び販売の実績」の数字を使用した、みなし粗利益率を算出してみましたが、財務諸表の数値に基づいた経営指標も算出して比較してみると、またいろいろなことが見えてくると思います。
 今回はここまでとします。

2019年6月9日日曜日

ドラッグストアの売上構成比率~食品売上割合はどのぐらいあるのか?

1.はじめに
 前回の「スギHDとココカラファインが経営統合へ~両社の経営成績を比較してみると」では、後半でウェルシアとココカラファインの販売構成比率を比較してみました。
 今回は、他の大手ドラッグストアも含めた販売構成比率を比較し、各社の特徴を見てみたいと思います。

2.対象としたドラッグストアとその期間
 対象としたドラッグストアとその決算期は、以下の通りです。

  • ウエルシアホールディングス株式会社(平成31年2月期) (以下「ウエルシア」)
  • 株式会社コスモス薬品(平成30年5月期) ) (以下「コスモス」)
  • 株式会社ココカラファイン(平成30年3月期) (以下「ココカラファイン」)
  • 株式会社マツモトキヨシホールディングス(平成30年3月期) (以下「マツモトキヨシ」)
  • 株式会社ツルハホールディングス(平成30年5月期) (以下「ツルハ」)

 大手ドラッグストアとなると、スギホールディングス株式会社と株式会社サンドラッグも入りますが、前回のブログで記載したように、スギホールディングス株式会社は「調剤、物販、その他」という区分だったので対象から外しました。
 また、株式会社サンドラッグは「ドラッグストア事業」「ディスカウント事業」という区分でしたので、こちらも対象から外しました。

3.大手ドラッグストアの販売構成比率の比較
 各社とも、有価証券報告書の「第2 【事業の状況】」の「3 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」に記載されている「③ 仕入及び販売の実績」のうち、販売実績について開示されているデータを一部加工して比率を出してみました。
 なお、各社の表のうち、最も構成比率が高い区分については赤ゴシックとしています。

(1)ウエルシア
 ウエルシアについては、前回のブログで見たとおり、食品売上の割合が最も高くなっています(22.2%)。食品売上割合より少し低い比率(21.0%)で医薬品・衛生介護品・ベビー用品・健康食品が続いています。


【ウエルシア】
当連結会計年度
(自 平成30年3月1日
至 平成31年2月28日)
区分金額(百万円)構成比率
医薬品・衛生介護品・ベビー用品・健康食品163,77721.0%
調剤129,81116.7%
化粧品136,24517.5%
家庭用雑貨116,65415.0%
食品172,97122.2%
その他59,6877.7%
合計779,148100.00%
(有価証券報告書を一部加工)

(2)コスモス
 コスモスは一般食品の売上構成比率が56.2%となっています。つまり、売上の半分以上が食品です。次に高いのが雑貨の16.8%となっています。
 ちなみに、同社の有価証券報告書の説明によると「一般食品」とは「加工食品・日配食品・調味料・菓子・飲料・酒」をいい、さらにこの中に記載されている「日配食品」とは「毎日消費される食品の総称であり、パン、牛乳、豆腐、納豆、卵など」ということです。
 また、健康食品やダイエット食品は「医薬品」に含まれています。
 これを見ると、コスモスは圧倒的に食品の売上構成比率が高いドラッグストアといえます。
 

【コスモス】
当連結会計年度
(自 平成29年6月1日
至 平成30年5月31日)
区 分金額(百万円)構成比率
医 薬 品85,77215.4%
化 粧 品57,68310.3%
雑 貨93,56616.8%
一 般 食 品313,47056.2%
そ の 他7,5061.3%
合 計557,999100.00%
(有価証券報告書を一部加工)

(3)ココカラファイン
 ココカラファインは、前回のブログで見たとおり、医薬品の構成比率が最も高くなっています(30.9%)。次いで、化粧品の販売構成比率が高くなっています(29.8%)。
 なお、ココカラファインは有価証券報告書に構成比率が記載されているので、数値は転載しました。

【ココカラファイン】(単位:百万円)

当連結会計年度
(自 2017年4月1日
至 2018年3月31日)
構成比率(%)
ドラッグストア・調剤事業
医薬品108,48730.9%
一般用医薬品53,74815.3%
調剤54,73815.6%
化粧品104,51029.8%
健康食品10,5163.0%
衛生品40,96511.7%
日用雑貨47,78213.6%
食品38,37010.9%
全店計350,633100.0%
卸売37,849
小 計388,482
介護事業2,484
セグメント間消去       △2
合 計390,963
(有価証券報告書を一部加工)

(4)マツモトキヨシ
 マツモトキヨシは化粧品の売上構成比率が最も高くなっています(39.2%)。次いで、医薬品の売上構成比率が続いています(30.9%)。
 なお、有価証券報告書の「第2【事業の状況】」の中の「1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」「(3)会社の対処すべき課題」「① 新業態の開発、多店舗展開」では、「創業の原点である薬・化粧品・調剤の3つを柱に「高い専門性」「情報発信基地としての役割」「買物の楽しさ」を追求した新しいビジネスモデルの構築に取組んでまいります。」と記載されています。
 医薬品、化粧品の割合が高いのは、このような理念が背景にあるためと推測されます。


【マツモトキヨシ】
商品別
当連結会計年度
(自 平成29年4月1日
至 平成30年3月31日)
金額(百万円)構成比率
小売事業
医薬品171,53230.9%
化粧品217,45439.2%
雑貨96,51317.4%
食品51,9369.4%
小計537,43796.9%
卸売事業16,9583.1%
合計554,395100.0%
(有価証券報告書を一部加工)

(5)ツルハ
 ツルハは「その他」の売上構成比率が最も高くなっています(28.3%)。
 注書きによると「その他のおもな内容は、食品・健康食品・医療用具等であります。」ということです。おそらく、この中でも食品の売上割合が最も高いと推測されますので、ツルハも食品の売上構成比率が最も高いドラッグストアといえそうです。
 次いで高いのは日用雑貨(26.5%)となっています。
 なお、ツルハも有価証券報告書に構成比率が記載されているので、数値は転載しました。


【ツルハ】
品目
当連結会計年度
(自 平成29年5月16日
至 平成30年5月15日)
金額構成比
(百万円)(%)
商品
医薬品155,67723.1
化粧品122,73818.2
日用雑貨178,24626.5
育児用品20,8423.1
その他190,27928.3
小計667,78499.2
不動産賃貸料3670.1
手数料収入6930.1
インターネット販売等4,3920.6
合計673,238100
(有価証券報告書を一部加工)


4.まとめ
 これらを見てみると、各大手ドラッグストアの方向性が見えてきます。
 ウエルシア、コスモス、ツルハは食品の売上構成比率が最も高くなっています。従って、この3社は食品の売上にかなり力を入れているドラッグストアといえます。
 ドラッグストアが食品の売上に力を入れる理由は、前回のブログで記載したとおり、食品の安売りで客を呼び寄せるためです。食品の粗利益率は低いですが、食品の安売りでやって来たお客が、ついでの買い物で、粗利益率の高い薬品や化粧品を購入してもらって利益を出すというビジネスモデルですが、ウエルシア、コスモス、ツルハはこのビジネスモデルを採用していると考えられます。
 一方、ココカラファインは医薬品、次いで化粧品、マツモトキヨシは化粧品、次いで医薬品の売上構成比率が最も高くなっています。この2社は従来型のドラッグストアといえそうです。
 
 しかし、比率を算出してみた結果、コスモスの食品の売上構成比率が56.2%とは驚きました。
 食品の売上の構成比率が高いウエルシア、コスモス、ツルハの比率を並べてみると以下の通りですが、ウエルシア、ツルハよりも圧倒的に高くなっています。
  • ウエルシア 22.2%
  • コスモス  56.2%
  • ツルハ   28.3%
 これをみても、コスモスの食品の売上への力の入れ方はかなりのものがあるといえます。

 このように、食品の販売に力を入れるドラッグストアと医薬品・化粧品の販売に力を入れるドラッグストアについては、売上構成比率を出してみるとはっきりと分かります。
 ココカラファインとマツモトキヨシは資本提携をしていますが、この2つは販売構成は似ています。そのあたりも考慮した提携かもしれません。
 今後、大手ドラッグストアの業界再編が加速していきそうですが、各社がどちらに属するドラッグストアか、という点もポイントになるかもしれません。