2019年5月19日日曜日

巨人がPwCコンサルティングと契約~デジタルトランスフォーメーションの実現に向けて

1.はじめに
 プロ野球・読売巨人軍はPwCコンサルティング合同会社とオフィシャルサプライヤー契約を締結したと、令和元年5月17日付で発表しました(「「PwCコンサルティング」とオフィシャルサプライヤー契約 革新的・先進的な来場者サービス開発へ」)。

 内容は、PwCコンサルティング合同会社が「オフィシャル・デジタルトランスフォーメーション・アドバイザー」となるというものだということです。
 このデジタルトランスフォーメーションですが、球団公式ページでは「「デジタルトランスフォーメーション」(通称:DX)とは、テクノロジーを活用してビジネスモデル全体を改善し、変化するビジネス環境に適応させることで、最終消費者にとってより優れた価値を提供できる状態にすることを意味します。」と記載されています。

2.デジタルトランスフォーメーションが起こすイノベーション
 デジタルトランスフォーメーションは、行政庁においても、日本であらゆる分野で導入を進めるべく、様々な研究が進んでいます。
 例えば、総務省の情報通信白書平成30年版では、デジタルトランスフォーメーションは段階を経て社会に浸透し、影響を及ぼすと記載されています。
 同白書によれば、以下のような段階を経て社会が変革していくとされています。
①「まず、インフラ、制度、組織、生産方法など従来の社会・経済システムに、AI、IoTなどのICTが導入される。」
②「次に、社会・経済システムはそれらICTを活用できるように変革される。さらに、ICTの能力を最大限に引き出すことのできる新たな社会・経済システムが誕生することになろう。」
③「その結果としては、例えば、製造業が製品(モノ)から収集したデータを活用した新たなサービスを展開したり、自動化技術を活用した異業種との連携や異業種への進出をしたり、シェアリングサービスが普及して、モノを所有する社会から必要な時だけ利用する社会へ移行し、産業構造そのものが大きく変化していくことが予想される。」

3.巨人は遅れている?
 いま、なぜ巨人がPwCコンサルティングとデジタルトランスフォーメーションに関する契約を締結した理由は、推測ですが観客動員、ファン獲得においてITの推進が遅れているという危機感があったのではないかと思います。というのは、現在のプロ野球球団にはソフトバンク、楽天といったIT系の企業が参入していますが、これらの球団は観客動員などにおいて自社のITテクノロジーを導入して様々な工夫をしているからです。
 例えば、ソフトバンク「AIチケット」というものを発売しています。ソフトバンクホークスの公式ページの説明によれば、「過去の販売実績データに加えて、リーグ内の順位や対戦成績、試合日時、席種、席位置、チケットの売れ行きなど多様なデータから、試合ごとの需要をAI (機械学習) により予測し、需要に応じて価格が変動するチケット」ということです。
 また、楽天は、今年から球場での完全キャッシュレスを始めました。公式ページの説明によれば、「チケット・グッズ・飲食等をお買い求めの際、原則として現金がご利用いただけなくなります。」ということです。
 チケットレス化も進んでいます。BCN+Rというサイトの記事によれば、チケットの電子化によるチケットレスを導入しているのは、オリックス、埼玉西武、中日、阪神、福岡ソフトバンク、北海道日本ハム、横浜DeNAの7球団ということです。
 しかしながら、各球団でこういった取り組みが進む中、残念ながら盟主・巨人の名前が出てきません。
 なぜ、巨人がこのような取り組みを行っていないのかというと、これも推測ですが「やりたいと思っているし、やらないとまずいという意識はあるものの、導入するための人材や技術がそろっていない」からではないかと思います。
 このあたりについては長くなるので、次回「変わるプロ野球のビジネスモデル」というタイトルで記載したいと思います。

2019年5月12日日曜日

役員選任の決議方法の実務~個別決議と一括決議

1.はじめに
 平成29年(2017年)5月28日のブログ「機関運営の留意点~公益法人及び社会福祉法人共通」では、役員の選任方法として複数人を一括して決議する一括決議は不可であり、各役員等について個別に決議する個別決議を行う必要があることを記載しました。
 とはいえ、法人によっては改選時の役員候補者数が数十名というところもあり、まともに個別決議を行うと膨大な時間がかかってしまうという実務上の問題点もあります。
 そこで、今回は役員の選任決議の実務について記載したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.平成29年5月28日のブログの再掲
 まず、平成29年5月28日のブログを再掲します。

  「役員(理事及び監事)は公益法人では社員総会又は評議員会で、社会福祉法人では評議員会で選任することになりますが、この選任は各役員について個別に決議を行う必要があると解されます。すなわち、一括決議は不可と解されます。

  趣旨は、役員の選任という重要な意思決定について、法は理事の選任議案の内容をすべての社員ないし評議員に通知すると規定するなど(一般法38条①Ⅴ、同法施行規則4条③イ、一般法181条①Ⅲ、同法施行規則58条①、社福法45条の9⑩、同法施行規則2条の12)、慎重に審議を行うことを要求していますが、これを個別決議ではなく、一括決議にしてしまうと、社員又は評議員の意思が反映されないことになり、法の趣旨が没却されてしまうからです。

  例えば、理事候補がA,B,C,D,E,F,Gの6名がいるとします。評議員のうちXはA~Gの6名につき選任案に賛成ですが、評議員YはA~Fの選任には賛成であるものの、Gについては選任に反対と考えているとします。
  このとき、一括決議により「評議員全員の賛成により理事候補全員の選任について異議なしとします」としてしまうと、評議員Yの意思が反映されない結果となってしまいます。そうなると、評議員会で慎重に審議を行い役員を選任するという法の目的が達成されなくなります。
  そのため、役員の選任決議は一括決議ではなく、個別決議で行う必要があります。」(引用終)

 3.内閣府「特に留意する事項について」
  この役員選任の決議方法は、実は法令で明記されているわけではありません。法の趣旨を鑑みると、一括決議はふさわしくないということです。

  ただし、全くどこにも記載されていないものなのかというとそうではなく、公益法人の場合は、平成20年10月10日に内閣府公益認定等委員会から出された「移行認定又は移行認可の申請に当たって定款の変更の案を作成するに際し特に留意すべき事項について 」(以下「特に留意する事項について」)のP12~13にこの論点の記載がなされています。
  
  引用すると以下のとおりです。

 「法は、社員総会又は評議員会に理事の選任権を形式的に付与しているだけでなく、理事の選任過程の適正を確保するため、種々の方策を講じている。 
                  (中略)
  このように、法及び公益法人認定法は、あらゆる規律を通して、選任手続を可能な限り慎重ならしめ、社員総会(評議員会)における実質的な審議を経て適正に理事が選任されるための種々の方策を講じている。
                  (中略) 
  また、理事の選任議案を社員総会(評議員会)で決議する方法について、例えば、4人の理事の選任議案の決議(採決)を4人一括で決議(採決)することとした場合には、本来、1つ1つの議案(1人1人の理事の選任議案)ごとに賛成又は反対の意思を表明することができるはずの社員(評議員)に対して、全議案についてすべて賛成か又はすべて反対かという投票を強制することとなり、上記の法の趣旨が没却されることとなる。」

 とし、結論として、

 「このような法の趣旨及び考え方を踏まえ、
 ① 公益社団法人が、定款の定めにより、社員総会の普通決議の決議要件(定足数)を大幅に緩和し、あるいは撤廃することは許されない(問題の所在①)
 ② 社員総会又は評議員会で理事の選任議案を採決する場合には、各候補者ごとに決議する方法を採ることが望ましく 、特例民法法人の移行に際し、その定款(の変更の案)に、社員総会又は評議員会の議事の運営方法に関する定めの一つとして、「理事の選任議案の決議に際し候補者を一括して採決(決議)すること」を一般的に許容する旨の定めを設けることは許されない(問題の所在②)こととなる。 」

 と記載しています。
  公益法人の立入検査で、行政庁が一括決議が不可であることを指摘する場合、この「特に留意する事項について」が根拠となっています。

 4.実務上の対応策
  しかしながら、上述したように、役員候補者数が30名や40名といった数十名となる法人の場合、各候補者ごとに決議する方法を採ると相当な時間がかかってしまいます。
  また、それなりの法人になると、総会はホテルの会議場などを借りることが多いですが、1時間あたりの費用も大きいものがあります。
  ついでにいうと、多くの法人では、総会終了後は懇親会があります。そのため、懇親会が始まる時刻までには総会を終了させる必要がありますが、個別決議をまともにやると時間が読めなくなります。
  
  そこで、実務上は、以下の対応策が考えられます。
 
 ①まず、議長が、役員の選任については各候補者ごとに決議を行う方法が原則であることを説明する。
 ②ただし、時間と手数の関係上、一括して決議を行いたい旨を説明するが、一括決議に反対する人がいれば、申し出てほしいことをアナウンスする。
  あるいは、一括決議を行うことについて、社員または評議員に対して賛否を問う。
 ③反対する人がいなければ、全員が一括決議に賛成したということになる。また、賛否を問うた場合、賛成多数であれば、もちろん、一括決議に賛成したということになる。
 ④以上の手続を経た上で一括決議で進める。
 
  このような方法は、株式会社の株主総会の実務ではよく見られます。
  あくまで、私見ですが、参考としていただけますと幸いです。 

2019年5月4日土曜日

財務諸表などの日付表示~令和元年を迎えて

1.令和元年がスタート
 平成31年4月30日をもって平成が終了し、翌日5月1日より、元号が平成から令和に変わりました。新しい元号の始まりです。
 我が国は元号を使用する国なので、元号を使用するのが原則ですが、一方で西暦も使用されています。西暦とは「キリスト生誕の年と信じられている年を紀元とする西洋の暦」(コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典より)でありますので、本来は我が国の暦の数え方としてはなじまないものです。しかしながら、世界の主要各国がキリスト教徒の関係で西暦を使用していることから、国際化が進んだ我が国でも元号と併記して使用されています。
 従って、元号を使用することが基本ではあるのですが、戦後の我が国では、昭和、平成、令和と3つの元号が使用されており、しかも、年の途中で元号が変わっているので、年数などを数えるときに手間取ってしまうことは否めません。

2.財務諸表などの日付表示
 元号の改廃は、有価証券報告書、計算書類等などの年度表示にも影響があります。
 非営利法人おいても、公益法人が作成する計算書類等、社会福祉法人が作成する計算関係書類の年度表示をどうすればよいのかという問題が出てきます。

 ちなみに、内閣府が各都道府県知事及び各指定都市市長宛に、平成31年4月2日付で出した「元号を改める政令等について」では、以下の申し合わせ事項が示されています。

〇改元日前までに作成した文書において、改元日以降、「平成」の表示が残っていても、有効であること
改元日以降に作成する文書には、「令和」を用いること。やむを得ず「平成」の表示が残る場合でも有効であるが、混乱を避けるため、訂正等を行うこと
〇元号を改める政令の公布日から施行日前までに作成し公にする文書には、「平成」を用いること
〇法令については、「平成」を用いて改元日以降の年を表示していても、有効であり、原則、改元のみを理由とする改正は行わないこと
〇国の予算における会計年度の名称については、原則、改元日以降は「令和元年度」とすること

3.有価証券報告書
 それでは、決算書などではどうでしょうか。
 まずは有価証券報告書です。

 この有価証券報告書については、税務研究会のコラム「有報の日付表示、あなたは和暦派?それとも西暦派?【1分で読める!「経営財務」記者コラム】」では、「有報における開示に関する規定を定めた「企業内容等の開示に関する内閣府令」の第三号様式」に触れています。

 コラムによると、「【提出日】については「平成 年 月 日」となっており、【事業年度】も同様に当該様式上は和暦で示されている。」ため、「和暦表示をしなければならないように思えるが、実務上は全て西暦表示でも問題はないという。特別な手続き等は不要で、西暦表示に統一したい企業は、任意で西暦に変更ができる。」ということです。
 さらに、同コラムでは、有価証券報告書において西暦表示を行っている企業数を調べた結果「トヨタ自動車や日立製作所、ファーストリテイリングなど、500社以上が西暦表示」であったということです。

実際、トヨタ自動車の直近の有価証券報告書の表紙を見てみると

【事業年度】2018年3月期
      (自  2017年4月1日  至  2018年3月31日)

 と記載されていました。

 従って、有価証券報告書においては元号表記でも西暦表記でもどちらでもよいということになります。

4.会社法における計算書類等
 次に、計算書類等です。計算書類等は会社法に定められたものなので、会社法に定めるすべての会社が対象となります。
 この計算書類等については、知る限り、日付表示に制限はありません。従って、元号でも西暦でも問題はありません。
 元号で表記されている会社でも、西暦を併記しているところもあります。
 
5.公益法人の計算書類等と定期提出書類
 一般社団法人・一般財団法人及び公益社団法人・公益財団法人では、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律において計算書類等を作成することが義務付けられています。
 こちらの計算書類等においても日付表示に制限はありません。従って、どちらでもよいということになります。なお、私が見る限りでは元号表示が多い印象です。

 しかしながら、あくまで私見ですが、公益認定を受けた一般財団法人及び一般財団法人(公益法人)では、元号で記載するほうがよいと思います。
 理由は、計算書類等は定期提出書類(事業報告等の提出書類)と一緒に提出しますが、定期提出書類は元号表示になるため、それにあわせておくほうがよいためです。

 以前、このブログで公益法人インフォメーションの電子申請がリニューアルされたことを書きましたが、エクセルで作成された新システムでは、日付表示はプルダウンとなっていて、そのリストには元号しか載っていません。ちなみに、新元号が発表される前の段階の事業計画書等の提出書類にかかるプルダウンメニューのリストには「平成」と「令和」ではなく、「平成」と「新元号」という表示で載っていました。

 従って、公益法人においては、元号表示がよいと思います。

6.社会福祉法人の計算関係書類
 社会福祉法人は、すべての法人が計算関係書類、社会福祉充実残額計算シートをWAMネットを通じて所轄庁に提出します。
 このとき提出する計算関係書類は社会福祉充実残額計算シート内で作成しますが、社会福祉充実残額計算シートでは、すでに元号表示が行われているので、すべての法人の計算関係書類は元号表示となります。

 この点は、同じ非営利法人であっても公益法人とは異なるところです。公益法人の場合は統一された書式というものはなく、各法人の自由となるからです。そのため、元号か西暦かという問題が出てきますが、社会福祉法人では所轄庁の提出書類に関しては元号で統一されているので、選択に困る点はありません。

 ただし、理事会や評議員会で使用する計算関係書類では、元号と西暦の併用表示でもよいと思います。