今回は利益相反取引についての留意点を記載します。
1.利益相反取引の意義
利益相反取引とは、法人と理事との間で利益が相反することとなる取引をいいます。例えば、法人が、ある理事からモノを買うという場合です。法人からは理事にお金を払うので、法人にとっては財産が流出しますが、理事にとっては財産が流入します。このように一方にとっては利益になるものの、一方にとっては利益とならないような取引が利益相反取引です。
2.利益相反取引の例
1.では法人が理事からモノを買うという例をあげましたが、よく見られるのは、理事が代表取締役をつとめる株式会社と法人との取引です。モノを購入する場合もあれば、サービスの提供の場合もあります。
もちろん、理事長が代表取締役をつとめる株式会社と法人の取引も利益相反取引の対象です。
なお、参考ですが、条文では「自己又は第三者のために」とされていますが、この点につき大阪高裁平成2年7月18日の判決では「取締役が実質上支配する場合を含めて規制が及ぶ」としています。他の株式会社の代表取締役でなくとも、過半数を保有する株主であったり、過半数まで保有してなくともその会社を実質的に支配している場合も含むという事例です。
3.利益相反取引を行う場合の手続き
(1)理事会での承認
このような利益相反取引を行う場合は、理事会で該当する取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければなりません(法45条の16④、一般法84条①柱書)。
開示すべき重要な事実については、法令には具体的な記載はありませんが一般的に、取引の内容、取引理由、取引先名、取引予定日、金額の総額、個数、単価、支払予定日といったところでしょうか。
このうち、「単価」と記載した理由は、通常の取引価額と大きな乖離がないことを示すためです。例えば、ある理事が代表取締役をつとめる文房具の小売会社からラインマーカーを1本1万円で購入するとなると、明らかに不合理です。総額しか記載していないと、このような通常の取引価額との比較ができなくなり、不明瞭な取引が行われる恐れがあります。
なお、この承認は事後承認でもよいという東京高裁の判決(昭和34年3月30日)がありますが、私見では、事前の承認が望ましいといえます。
(2)当該理事は決議に参加できない
この理事会では、当該理事は特別の利害関係を有するため、理事会の決議には加わることはできません(第45条の14⑤)。理事は、社会福祉法人のため忠実にその職務を行わなければならないとされていますが(法45条の16①)、このような利益相反取引を行う理事は、法人のために決議を行うことは期待できないからです。
実務上は、このような理事はいったん退出していただいて決議を行うことがよく見られます。
なお、特別の利害関係を有する理事がいるときは議事録に当該理事の氏名を記載する必要があります(社会福祉法施行規則2条の17③四)。
(3)事後報告
利益相反取引を行った理事は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を理事会に報告しなければなりません(法45条の15④、一般法92条②)。
これは理事会の承認の有無にかかわらず、報告する必要があります。
4.損害賠償責任
理事、監事若しくは会計監査人(以下この款において「役員等」という。)又は評議員は、その任務を怠つたときは、社会福祉法人に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負うとされています(法45条の20①)。
これは利益相反取引の場合、理事会の承認があったかどうかを問いません。すなわち、理事会の承認があった場合でも、任務懈怠により法人に損害が生じた場合は、損害賠償責任を負うということです。
次に任務懈怠があったことが要件となりますが、法は以下の理事について任務懈怠があったと推定するとしています(法45条の20③)。
(イ)利益相反取引を行った理事
(ロ)社会福祉法人が当該取引をすることを決定した理事
(ハ)当該取引に関する理事会の承認の決議に賛成した理事
「推定」規定なので、反証があれば免責されます。
ただし、自己のためにした取引を行った理事については、任務を怠ったことが当該理事の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができないとされています。また、当該理事の責任については、責任の一部免除や責任限定契約などについても適用されません(法45条の20④、一般法116条)。
このように、理事の責任が重くなっているのは、利益相反取引は法人に損害を与えるリスクが高いため、法はより慎重に手続きを行うことを求めているためといえます。
従って、利益相反取引の可能性がある取引については直ちに判別できる内部統制を構築することが必要です。また、私見ですが、利益相反取引は極力行わないことがよいといえます。
ただし、自己のためにした取引を行った理事については、任務を怠ったことが当該理事の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができないとされています。また、当該理事の責任については、責任の一部免除や責任限定契約などについても適用されません(法45条の20④、一般法116条)。
このように、理事の責任が重くなっているのは、利益相反取引は法人に損害を与えるリスクが高いため、法はより慎重に手続きを行うことを求めているためといえます。
従って、利益相反取引の可能性がある取引については直ちに判別できる内部統制を構築することが必要です。また、私見ですが、利益相反取引は極力行わないことがよいといえます。