2018年7月29日日曜日

組織化の理論と実務(3)

1.概要
 前回までは、テイラーの科学的管理法と現代企業での実務の応用について説明しました。
 今回は、自動車のフォードが生み出したフォード生産方式と実務への応用について記載していきたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください

2.フォード生産方式
(1)T型フォードの成功
 20世紀初頭の米国において、自動車は富裕層の持ち物でした。しかし、フォードは低価格のT型フォードを市場に投入し、富裕層しか持つことができなかった自動車を大衆も持つことができるようにしました。
 大衆もT型フォードを購入できたのは、その低価格ですが、この低価格化を実現するために、フォードは生産方式において「標準化」「移動組立方式」をとりいれました。
 これにより、短期間で大量生産が可能となり、製造原価も抑えることができるようになりました。

(2)標準化
 T型フォードは、全て色は黒色で、種類も同じでした。これはフォードが大量生産を行うために、部品や作業を標準化したからです。
 具体的には、設計をシンプルにし、シャーシ、エンジン、ブレーキといった部品も単一のものとし、細分化しました。また、生産ラインも細分化し、一つ一つの作業を単純化しました。

(3)移動組立方式
 ベルトコンベアで仕掛品が次々と流れてきて、工員がそれぞれの場所で組み立てていくというのは現代の工場ではごく自然のシステムですが、当時は斬新なものでした。
 細分化された部品を、細分化された生産ラインで、それぞれが単純作業により組み立てていくことで、大量生産が可能となりました。
 また、単純作業であるため、熟練工は必ずしも必要ではなく、非熟練工であっても作業を行うことができるようになりました。

3.実務への応用
(1)サービス業や管理業務でも可能
 このように、業務を細分化し、単純化することで短時間で大量生産するという方式はメーカーに限定した話のように思われますが、サービス業や管理業務でもこの方式を導入することは可能です。

(2)ある会計事務所の例
 私が聞いた話では、ある会計事務所は各別表の担当者が決まっていて、流れ作業で税務申告書を作成しているということです。具体的には、交際費担当者、寄附金担当者、減価償却費担当者などいろいろな別表担当者がいて、顧客担当の税理士や専門職員から提出された数値表の数値を、それぞれの別表担当者が税務申告ソフトに入力していくということのようです。さらに、これらの入力担当者は税理士などではなくパートタイムの職員が行っているそうです。
 この事例はまさにフォード生産方式の応用といえます。
 別表ごとに入力担当者を決めて入力していくというのは、業務を細分化して単純作業にするという標準化にあたりますし、流れ作業で行っていくことは移動組立方式にあたります。さらに、上述のように移動組立方式では一つ一つの作業が単純化されているため、非熟練工でも作業を行うことができるようになりましたが、この例においても単純な入力作業であるため税務の専門家ではないパートタイムの職員でも行うことができます。
 このように税務申告書作成業務にフォード生産方式を取り入れることで、大量の税務申告書の作成が可能となり、売上も大きな額となっているようです。

(注)聞いた話をもとにしたイメージ図です

4.最後に
 このような「標準化」と「移動組立方式」を導入するためには、まず業務プロセスを把握しておかなければなりません。
 しかしながら、日本の中小企業、非営利法人で自社の各業務の業務プロセスを把握しているところは少数です。
 現在、働き方改革が問題となっていますが、業務の効率化を行うためには、その前提として自社の業務プロセスをしっかりと把握することが必要です。
 

2018年7月22日日曜日

組織化の理論と実務(2)

1.課業管理と作業研究
 課業管理を行うには課業(task)を設定する必要があります。この課業の設定のためには作業研究を行う必要があります。
 作業研究とは、具体的には時間研究動作研究を行うことです。
 これにより、ある業務の各プロセスにどのぐらいの時間がかかっているのか、また、どのような動作によって行われているのかを調べます。そして、この結果に基づいて、作業の時間と動作を標準化し、課業を設定します。

2.自社の業務プロセスの把握
(1)概要
 テイラーの科学的管理法は、工場での作業を対象に行ったものなので、どちらかというと単純作業についての管理法といえます。
 しかしながら、19世紀後半から20世紀初めと異なり、現代の企業は第3次産業が発展していますので、必ずしもそのまま当てはまるというわけではありません。
 とはいえ、課業管理すらできていない企業等があるのも事実なので、企業等の生産性をあげるには、まず課業管理から始めていく必要があります。そのためには、上記のように、時間研究と動作研究が必要です。

(2)業務プロセスの可視化
 この時間研究と動作研究ですが、管理業務や役務提供業務の場合は、その前に業務プロセスの可視化を行う必要があります。
 具体的には、フローチャートを作成して、自分たちが行っている業務がどのようなプロセスから成り立っているのかを客観的に把握する必要があるということです。
 また、このフローチャートを文書化したものが業務記述書です。
 まず、このように業務のプロセスを明らかにした上で、時間研究と動作研究を行うほうが効果的といえます。
 ちなみに、上場企業では内部統制監査が義務付けられていますが、大抵の企業は①フローチャート、②業務記述書、③リスクコントロールマトリックス(RCM)を作成しています。これらを俗に「3点セット」と呼ばれています。これらは制度上、作成を要求されているわけではないのですが、この3点セットを作成する実務が定着しています。なお、金融庁は必ずしも3点セットを作成する必要はないと公表しています。



3.差別的出来高給制の応用
 差別的出来高給制もテイラーの科学的管理法の重要な一つです。これは課業を達成できた労働者には標準的な賃金よりも多くの賃金が支払われるのに対して、課業を達成できなかった労働者に対しては標準的な賃金よりも少ない賃金しか支払われないというものです。
 ただし、これは大昔の工場の単純労働作業を前提にしたものであり、現代企業では導入することは現実的ではありません。
 しかしながら、課業の達成度により従業員を評価することで、昇給や昇格に反映させるということは可能です。
 この従業員の評価を昇給や昇格に反映するということは、どの企業等でも行っていることではあると思いますが、問題はこれまでに述べたように、作業研究に基づいた課業を設定していないがゆえに、その評価が客観的ではないという点です。評価が客観的でないと、従業員は不満を持ち、不信感を持ちます。そうなると、モチベーションの低下に繋がり、企業等の生産性は低下してしまいます。
 従って、重要なのは作業研究の妥当性です。ここが科学的、客観的に行われないと、課業の量の妥当性にも欠陥が出てしまいます。その結果、従業員の評価についても妥当性を欠くことになります。

4.標準化と点数化
(1)主観性の排除
 課業の設定は、作業研究の結果に基づいた作業の時間と動作の標準値に基づくことになりますが、ここは上記のように、科学的、客観的に行う必要があります。とりわけ、標準値の妥当性には注意する必要があります。
 そして、課業の達成度に基づいた従業員の評価は客観的に行う必要があります。言い換えれば、従業員の評価においては主観性を排除する必要があるということです。
 それでは、主観性を排除するにはどのようにすればよいのかということですが、参考として、ここでは全くの別ジャンルであるプロ野球について紹介したいと思います。

(2)米国球団の点数化による数値評価
 現在のアメリカのメジャーリーグ球団では、選手を評価する際、主観性を排除し、点数化した数値評価を行うことが主流になっています。
 具体的には、いくつかの評定基準を設けて、それぞれに点数をつけていき、その点数を合計した総合点で評価するというものです。この点数をつける際には、相対的な評価は行いません。あくまで絶対評価による採点です。
 参考として、巨人軍のお家騒動で有名となった清武英利氏の『巨魁』(WAC)より一部を引用してみます。
(清武英利著『巨魁』(WAC) P231より)

 当時、巨人でも、ベースボール・オペレーション・システム(BOS)という選手の評価を数値化するシステムを導入して、主観性を排除した選手評価を行うことにしたそうです。この本には、当時の様子が詳しく書かれているのですが、その中に上の図表も掲げられています。
 これによれば、直球(ストレート)の平均球速が152キロ~158キロの投手は80点、また直球(ストレート)の最速が158キロ以上の投手は80点という点数がつけられます。
 これを、直球制球値、防御率、与四死球率、奪三振率といった様々な評定基準によっても行い、総合評価を行うというわけです。
 このようにすれば、これまでスカウトの主観により評価してきたものが、数値により客観化されます。そうすれば、主観性を排除でき、誰もが納得する評価を行うことができます。
 さらには、この評価を行うことで、それまで目につかなかった埋もれた才能を持つ選手も発掘することもできます。「マネー・ボール」で有名となったビリー・ビーンのアスレチックスはこれにより強くなりました。

(3)企業実務への応用
 (2)は野球の世界の話でしたが、業務の達成度を点数化することは企業実務でも可能です。例えば、上の図ではないですが、ある業務の課業を日数で設定し、課業日数で達成した場合は70点、課業日数より少ない日数で達成すれば、75点、85点・・・、逆に課業日数を超えれば65点、60点・・・という評価を行えば客観的な評価を行うことができます。
 もちろん、上記のように、その前提には作業研究に基づいた標準値の妥当性が重要となります。とても達成できないノルマを課せられると従業員の心身に過剰なストレスがかかりブラック企業化してしまいます。
 また、企業や業務によっていろいろな形態がありますので、全員が納得する形で課業を設定することが重要です。 

2018年7月16日月曜日

組織化の理論と実務(1)

1.はじめに
 社会には、株式会社を始め、さまざまな人の集合体があります。監査法人や会計事務所、非営利法人である公益法人、社会福祉法人、医療法人なども人の集合体です。
 しかしながら、このような人の集合体が必ずしも「組織」として機能しているとは限らず、結果として非効率な業務となり、得られたであろう利益を逸失していることも少なくありません。得られたであろう利益とは、会計上の利益に限らず、優秀な人材であったり、時間であったり、世間の評判であったりと有形のみならず無形のものも含まれます。場合によっては、いま社会で問題となっている「ブラック企業」と化してしまいます。
 そこで、今回はこれまでとジャンルは異なりますが、「組織化」についての方法とその背景にある理論について記載していきたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.「組織化」のメリット
 「組織」というと何となく人間性が失われた無味乾燥的なイメージがあるかもしれません。よく「組織の歯車になりたくない」という話も聞かれますが、これは組織という概念に、このようなネガティブなイメージがあるからかもしれません。
 確かに、組織にはそのようなネガティブな面があることも事実ですが、それは行き過ぎた場合であって、人の集まりを組織化することで、いろいろなメリットもあります。
 例えば、役割分担をすることで、一人で時間をかけて何種類もの作業を行わなければならないところを、それまでよりも短い時間で目標を達成することができます。また、個人では達成が難しい大きな目標も、組織で行えば達成することもできます。そうすれば、金銭的な利益も増え、給料が上がる機会も増えてきます。

3.「組織化」のための理論の必要性 
 このように個人の集団を組織化することで、いろいろなメリットを享受することができるのですが、組織化を順調に進められるところは必ずしも多くはありません。その原因の一つは、組織化を進めたいと考えても、その背景にある理論を知らないことにあります。
 組織化といっても、思いつきで行うと効果は出ません。組織化に向けては経営学の理論がありますので、まずはこれが基本になります。もちろん、人間の集団であり、さらに取り巻く環境もさまざまですから絶対的にベストという組織は存在しません。しかしながら、組織の理論を基礎にして組織化を進めるほうが、その過程で生じるトラブルやロスを少なくできます。

4.テイラーの科学的管理法と実務への応用
(1)概要 
 経営学の組織論にはいろいろな理論がありますが、その理論のスタートして挙げられるのは「テイラーの科学的管理法」です。この「テイラーの科学的管理法」が基礎になり、今日の組織論が築かれています。従って、「テイラーの科学的管理法」を知ることが組織化を行うにあたっては必要といえます。
 
(2)内容
 テイラーの科学的管理法の主な内容は①課業管理、②作業研究、③差別的出来高給制、④職能別職長制、です。
 ただし、これらの内容については、世の中の書物やWeb上でも詳細に解説が行われていますので、本稿では簡単に書きたいと思います。
 本稿では、むしろ内容の解説よりも、(イ)これらが生み出された背景と現代の企業等との共通点、(ロ)現代の企業等がどのように実務に応用すればよいのか、を記載したいと思います。

5.課業管理
(1)意義
 課業管理とは、1日に行うべき仕事量を設定して、その達成度を管理することです。

(2)現代企業との共通点
(ⅰ)組織的怠業
 課業管理は、この後に説明する作業研究や差別的出来高給制と密接に結びつきます。
 19世紀後半から20世紀はじめのアメリカ社会では、賃金はいわゆる「出来高払い」でした。すなわち、建前では仕事を行えば行うほど、それに応じて賃金が支払われるということです。
 しかしながら、この場合、仕事をすればするほど賃金が増大するため、雇用主側にとっては大きな負担となります。そのため、雇用主は賃金が高くなると労働者の賃率を下げるという行動に出ます。これが繰り返し行われると、労働者側は「働けば働くほど損になる」と考えるようになります。このような考えが労働者全体にも広がり、次第に労働者集団においても「あまり働かないようにしよう」という共通認識が生まれます。そして、ついには労働者が組織的に働かないような行動をとるようになります。これを組織的怠業といいます。
 
(ⅱ)現代の企業の状況
 現代の企業においても、組織的怠業とまではいきませんが、個人レベルでわざと仕事を一生懸命行わないようにしようとする傾向は見られます。
 その理由は以下のとおりです。
 仕事がよくできる人は、仕事にかかる時間も短く能率的に業務を行うことができます。これを見た上司は「彼・彼女は仕事がよくできる」という高い評価を行いますが、同時に、仕事がよくできるということで、さらに仕事を振るようになります。
 一方、仕事を振られた従業員は、命じられた仕事を終了したにもかかわらず、さらに仕事が増えることになります。それで給料が増えればよいですが、特別手当がつくことはあまりありません。それどころか残業が増大し、しかもサービス残業となるケースも多く見られます。その結果、実質賃金は低下することになります。
 これが続くと、仕事を振られた従業員は「働けば働くほど損になる」と考えるようになります。
 その結果、従業員は「仕事を一生懸命やって早く終わらすと、さらに仕事を振られる。それだったら、わざと遅く行ったほうがいい。そのようにして『いつも手が一杯で忙しい』と思わせれば仕事が振られなくなる。」と考えるようになります。
 これは、上述のように19世紀後半から20世紀初めのアメリカの労働者に共通するところがあるといえます。

(ⅲ)実務への応用
 従業員がこのようにわざと仕事を遅く進めるようになると、会社としては大きな機会損失が発生します。すなわち、本来であれば、もっと業務が効率的に早く進んでいろいろな収益を得る機会が増えたかもしれないのに、その機会を得られない可能性があるということです。その結果、会社は成長しないことになりますし、さらには日本経済の国際的競争力も進まないことになります。
 しかしながら、このようなことになるのは従業員の自覚に問題があるのではなく、会社の組織のあり方に問題があります。これは、上述のアメリカの組織的怠業を見れば明らかです。大昔のアメリカはこのような状況であったために、テイラーの科学的管理法が生み出されたのです。
 そこで、このようになってしまう原因を明らかにする必要がありますが、ヒントになるのがテイラーの科学的管理法です。
 上述のように課業管理は、作業研究や差別的出来高給制と密接な関係がありますが、企業がこのような状況に陥る原因は、まずこの課業管理がしっかりとできていないことに原因があります。
 課業は1日に行うべき仕事量であり、いわゆるノルマです。モノを売る営業では達成すべき販売数や売上高が定められていますが、サービス系や管理業務系では、私が見たところ、一人あたりの課業を具体的、客観的に設定している会社はあまり多くありません。どちらかというと主観的に不明確な量の業務を命じている感じです。
 テイラーの科学的管理法が生み出された背景には、まだまだいろいろなものがありますが、次回以降、順次説明しながら、組織改革のポイントを説明していきたいと思います。


2018年7月7日土曜日

キャッシュ・フロー計算書作成の必要性(2)

1.「収入・支出」と「収益・費用」の違い
 キャッシュ・フロー計算を行うにあたっては、「収入・支出」「収益・費用」の違いを知っておくことが重要です。
 一見すると「収入・支出」と「収益・費用」は何となく同じような感じがしますが、これらは異なります。例えば、前受金のように、収入(キャッシュイン・フロー)があったからといって収益になるとは限りませんし、有形固定資産の購入のように支出(キャッシュアウト・フロー)があったからといって費用になるとは限りません。
 このように、「収入・支出」の認識と「収益・費用」の認識にはタイミングのズレが生じます。キャッシュ・フロー計算書はこのタイミングのズレを調整し、「収益・費用」を「収入・支出」の関係にする計算書です(間接法の場合)。

2.タイミングのズレが生じる理由
 「収入・支出」の認識と「収益・費用」の認識にタイミングのズレが生じるのは、現行の会計が発生主義会計で行われているためです。
 例えば、100万円の売上があり、それを掛売上とした場合、

(借方)売掛金 100 (貸方)売上 100

 という仕訳をおこします(単位は万円)。
 これは発生主義会計による仕訳です。これが現金主義会計であれば、売上時点で100万円の収入はないので、売上の認識は行いません。

 もう一つ例を挙げると、100万円の現金払いで機械を購入した場合、

(借方)機械 100 (貸方)現金 100

 という仕訳をおこします(単位は万円)。
 現金主義会計であれば、100万円の支出があったため、機械の購入時点で100万円の費用を計上することになります。
 しかしながら、発生主義会計のもとでは、購入時点で全額を費用認識は行いません。費用は減価償却費という形で、耐用年数期間に渡って費用計上します。

 このように、現行の会計は発生主義で行われているため、「収入・支出」の認識と「収益・費用」の認識にタイミングのズレが生じます。
 ただし、これはあくまでタイミングのズレであって、収益は必ず収入に結びつきますし、費用も必ず支出に結びつきます。
 実は、企業会計原則では、第二 一Aで「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。」と定めています。
 発生主義会計を行っていると、「収入・支出」の概念を忘れがちですが、「収益・費用」は「収入・支出」と結びついているということを知っておく必要があります。

3.貸借対照表と損益計算書の関係
 我が国の会計基準は、利益計算において長らく収益費用アプローチと呼ばれる方法をとってきました。その下では、貸借対照表は損益計算の連結環と呼ばれます。
 詳細は割愛しますが、この場合、貸借対照表は「収入・支出」と「収益・費用」のズレをおさめているものというイメージでよいと思います。
 例えば、売掛金は収益として認識しているものの、収入はまだありませんので「収益・未収入」となります。機械などの有形固定資産は支出したものの費用にはなっていませんので「支出・未費用」です。このあたりはシュマーレンバッハの貸借対照表論が参考になります。

4.間接法の考え方
 前回、間接法に触れましたが、間接法は当期純利益に貸借対照表項目や非資金損益などを加算減算して営業活動によるキャッシュ・フローを算定する方法です。
 間接法では、当期純利益という損益計算書項目に、売掛金の増減額や買掛金の増減額の貸借対照表項目が加算減算されるので、初めての人だと「何で当期純利益に貸借対照表科目を足したり引いたりするのか」「売掛金が増加したとき何で当期純利益から減算するのか」と思われるかもしれません。
 しかしながら、これまでみてきたように、貸借対照表は「収入・支出」と「収益・費用」のズレをおさめているものと見ることができますので、貸借対照表科目の増減を当期純利益に加算減算することで、当期純利益から営業活動によるキャッシュ・フローを算出することができます。
 例えば、売掛金が期首から期末にかけて20万円増加したとします。売掛金は「収益・未収入項目」ですから、損益計算では収益として認識しているものの、キャッシュ・フロー計算では未収入なので、収益と収入に20万円のズレが生じているということを表しています。この場合だと、収益が収入よりも20万円多いので、収益の額を収入の額にするには、収益から20万円減算することが必要です。 
 従って、間接法では、売掛金が増加した場合、当期純利益から減算するというわけです。
 以下に、利益計算とキャッシュ・フロー計算の関係を図表で記載しました。
 参考としていただけますと幸いです。