2019年10月4日金曜日

ブログコーナー移転のお知らせ

ブログですが、今後は、森 智幸 公認会計士・税理士事務所のホームページ内のブログコーナーに掲載することにいたしました。ご了承ください。

新しいブログコーナーのページはこちらです。


今後ともよろしくお願いいたします。

2019年9月16日月曜日

Twitter開設のお知らせ

森 智幸 公認会計士・税理士事務所のTwitterを始めました。
アカウントはこちらです。
よろしくお願いいたします。

2019年9月14日土曜日

「社会福祉法人の会計監査人に関するアンケート結果」の公表

1.第二次アンケートも含めた結果

今年の1月27日に「会計監査実施法人に対するアンケート調査の第1次調査の結果についての感想」というブログを書きましたが、令和元年8月30日付で第2次調査の結果も含めた「社会福祉法人の会計監査人に関するアンケート結果」が厚生労働省より各所轄庁に発出されました。
 このアンケート結果は、いろいろなサイトに掲載されていますが、ここでは大阪府のサイトをご紹介しておきます。大阪府のサイトはこちらです。

2.会計監査までの準備期間

(1)前回の決定時期

 アンケート結果には、自由記入欄の結果として各社会福祉法人のご意見も記載されています。
 前回の第1次アンケートにも自由記入欄の記載はありましたが、今回、私が取り上げるのは会計監査が開始されるまでの準備期間についてのご意見です。

 ご存知のように、平成29年4月1日から開始する事業年度より、サービス活動収益30億円超又は負債総額60億円超の法人は会計監査人の設置が義務付けられることになりました(社会福祉法(以下「法」)37条)。そのため、この会計監査人の設置が義務付けられた社会福祉法人(特定社会福祉法人)は、公認会計士又は監査法人による社会福祉法に基づく会計監査を受けることになりました(法45条の2①)。

 この社会福祉法に基づく監査の対象は前年の平成28年9月26日の社会保障審議会で決定したと記憶していますが(ちなみに、私も傍聴人として参加していました。)、このあたりから会計監査人候補の選定に入った法人が多かったのではないかと思います。もちろん、それ以前に、サービス活動収益が30億円を超えている法人の中には会計監査人設置の義務付けは確実ということですでに会計監査人予定者を決定していた法人もありました。

 そこで、平成28年10月以降に会計監査人候補の選定を行った法人が、概ねどのような経緯をもって社会福祉法に基づく会計監査に入っていったのかを簡単に記載します。

(2)会計監査に入るまで

 平成28年9月26日に会計監査人の設置が義務付けられる社会福祉法人の対象が決定して以降、対象となった社会福祉法人はプロポーザルを行い、会計監査人候補の選定に入りました。ここで「会計監査人候補」と記載しているのは、会計監査人は評議員会で決定されるため(法43条①)、定時評議員会が開催される以前においては、正式に会計監査人として選任されていないためです。
 プロポーザルは早いところでは平成28年10月~11月には行っていましたが、遅いところでは平成29年1月~2月という法人もありました。
 いずれにしろ、多くの法人では、平成28年10月から平成29年2月ぐらいまでには会計監査人候補が選定されていたのではないかと思います。
 会計監査人候補が選定されたら、次に行われるのは予備調査です。予備調査では、内部統制に依拠した会計監査が実施できるかの調査、会計及び内部統制に関する問題点の指摘、その他反社会的勢力との関わりの有無の調査などを行います。
 この予備調査とその報告は、遅くとも平成29年3月までには終わっていたのではないかと思います。というのは、4月に入ると期末決算の時期に入るので法人側も対応が難しくなるからです。
 総じて見て見ると、会計監査人の選定から予備調査の報告までの期間は、おおむね平成28年10月から平成29年3月までの約6ヶ月ということになります。
 そして、予備調査の報告が終わった後は、6月に開催される評議員会で会計監査人の選任が行われ、7月から会計監査が行われるという流れとなりました。

(3)会計監査までの準備期間

 予備調査については、通常、監査法人から予備調査報告書が提出され、会計及び内部統制の問題点が指摘されます。その後は、指摘された事項について改善を行うことになります。しかしながら、特に内部統制については改善といっても一朝一夕にできるとは限らず、時間を要するものもあります。
 これを踏まえると、平成28年10月から平成29年3月までの最長6ヶ月間であっても改善を行うには期間が短いといえます。4月からは期末決算に入るので3月までには改善を終了させる必要がありますが、法人によっては予備調査報告を受けてから3月末までの期間が、3ヶ月間あるいは2ヶ月間ぐらいしかなかったかもしれません。

(4)上場準備会社では?

 以前、このブログでは「会計監査人の設置基準の引下げ延期」というブログを書きましたが、この中で私は、

「私見ですが、平成29年度から実施した社会福祉法人の監査では、社会福祉法人側に十分な準備期間がなかったのでは、と感じました。
 ちなみに、上場会社の場合、上場準備期間があり最短で2年、状況によってはそれ以上の期間を経て上場に至るのですが、社会福祉法人の制度改革ではこのような期間がなかったと思います。
 そのため、多くの社会福祉法人は準備不十分なまま、いきなり法定監査に突入してしまったので、気の毒な感じがします。
 従って、今回、会計監査人の設置基準が延期となりましたが、監査の準備期間が設けられたという点ではよかったと個人的には思っています。」

 と記載しました。

 もう少し、実務の現状を記載すると、上場を目指す会社では上場準備監査のショート・レビューが行われる前にコンサルティング会社などが入って、会計及び内部統制の問題点を指摘し、あらかじめ改善しておくという実務が行われることが多いです。人によっては「プレ・ショート・レビュー」という言い方をする人もいます。
 このように、上場を目指す会社は、上場後の法定監査(金融商品取引法監査)が行われる前に任意監査である上場準備監査、さらには上場準備監査が行われる前の「プレ・ショート・レビュー」を経ています。この期間は最低2年間ですが、3年以上かかっている会社は多く見られます。
 これに比べると、社会福祉法人の場合は、いわゆる法定監査を受けるまでの期間が短すぎると思いました。

3.アンケート結果より

 アンケート結果にもこの点がいくつか記載されています。
 以下抜粋します。

「平成 28 年度から予備調査を実施したが、法人の事業規模から考えると、十分な準備期間であったとはいえない。特定社会福祉法人以外の法人でも、早期に予備調査を実施し、内部統制の不備や会計上の誤りについて修正すべきと考える。また、会計監査人の選任にあたっては、「医療・福祉業界」に精通した、専門性の高い監査法人の選定が重要である。この点を踏まえると、今回の会計監査人の設置基準引き下げが延期となり、会計監査の準備期間が設けられたという点では良かったと考える 。」

 会計監査人の設置基準引き下げが延期になり会計監査の準備期間が設けられた点ではよかったという点は、上記2(4)に記載したとおり私も同意見です。

「公認会計士の話によると、一般企業で上場する場合は、上場準備期間があり、それを経て会計監査を受けるための体制も整っていくとの事であり、 社福法人においても会計監査受ける場合は、同様の対応が必要なのではないか。」
 
 こちらも上記2(4)に記載したとおり、上場会社では上場するまでに上場準備期間があります。法定監査に入るまでには相応の期間が必要と個人的には考えていますが、少なくとも、社会福祉法人の場合は期間が短すぎると思います。もう少し、法定監査に入るまでの準備期間を長く設けるべきと思います。

4.まとめ

 正直申し上げて、多くの社会福祉法人では現状の内部統制や経理レベルでは、監査法人が行う本来のレベルの会計監査に対応するには難しいと思います。
 そのため、監査法人がまともに会計監査を行うと、現場にもかなりの混乱と負担がかかってしまいます。実際、アンケート結果にも監査対応を行う職員の負担や現場の混乱についても記載されていました。
従って、会計監査に対応するためには、早めに公認会計士などの専門家を入れて、予備調査が行われるまでに、できる限り十分な時間をとる必要があります。

2019年9月6日金曜日

独立開業のお知らせ

 令和元年8月末日をもって平安監査法人を退社し、同年9月1日より独立開業いたしました。
 名称は「森 智幸 公認会計士・税理士事務所」(英語表記:Tomoyuki Mori CPA Office)です。

 事務所のホームページはこちらです。

 もちろん、このブログは引き続き、連載してまいります。
 今後ともよろしくお願いいたします。


2019年8月30日金曜日

大手コンビニで水増契約

1.はじめに

大手コンビニ会社で、社員が水増契約を行い、4億3千万円を私的流用していたというニュースがありました。会社のニュースリリースを見ると

「当社のIT部門の元従業員(50代男性・在籍35年)が、2011年から2019年までの約9年間にわたって取引先と共謀し、業務委託料の水増しにより予備費の名目で取引先にプールさせ、これを私的用途に使用していました。金額は合計約4.3億円となります。」

 と記載されていました。
 非常に多額の横領ですが、日本経済新聞の記事などを見た限りでは、私がこれまで記載した内部統制の不備の典型例のような感じもします。


2.不正の背景

水増契約の場合、通常、取引先に協力者がいます。今回も取引先の男性が共謀していたということです。
 また、この大手コンビニ会社のIT部門を担当する男性は、長くこの部門を担当し、また、システム委託を一人で担当していたと報道されています。
 これらから推測すると、共謀関係が生じたのは、このIT部門の職員が一人で長く担当していたためと考えられます。同じ担当者同士が長い間、取引を行っていると人間関係が深くなります。そうなると、共謀関係も生じるリスクがあるというわけです。

3.どのような内部統制の不備か

水増契約の対策については、過去のブログ「転売を目的としたパソコンの不正購入(2)」でも記載しましたが、発注依頼者と発注担当者を分けることが有効です。このときのブログでは「発注依頼者と発注担当者も分ける必要があります。これらが同じ人だと、取引先と共謀して架空取引や水増契約のリスクがあるからです。」と記載しました。
 今回のケースでは、詳細は不明ですが、IT部門のシステム委託を一人で担当していたということから、発注依頼者と発注担当者が分けられていなかった可能性が高いと思います。
 実際、朝日新聞の記事では「男性社員が04年ごろからこの取引先への業務委託を1人で担っていたため、チェック機能が働かなかったなどと説明。」と記載されています。
 これは、内部統制のデザインに問題がある、典型的な不備といえそうです。

4.システムやサービスの特性

今回はシステムの業務委託ということですが、こういった取引は有形ではなく無形のサービスであるため、目に見えません。そのため、システム取引やサービス取引は注意する必要があります。これも過去のブログ「架空取引に係る内部統制」においても、「サービス提供の場合、サービスを受けたかどうかの確認が難しいケースもあります。」と記載しました。すなわち、サービス取引は成果物が目に見えないものなので、有形のものと比べるとわかりにくいのです。
 過去にも新幹線の受発注システムで架空取引が行われたこともありました。

5.内部通報制度

今回のケースは内部通報制度で発覚したということです。
 「架空取引に係る内部統制」でも「内部通報制度は内部統制の一つです。構築した内部統制を巧妙にくぐり抜けるケースもありますが、内部通報制度により内部統制の弱点を補えることもあります。」と記載したとおり、内部通報制度を設けることは非常に有効です。
 また、内部通報制度により社外の弁護士らが調査していたということですが、同ブログでも「方法としては、例えば、顧問契約をしている法律事務所にホットラインを設けるという方法が考えられます。このようにすれば、従業員が安心して通報できるからです。」と記載しました。
 内部通報制度はこのように外部の弁護士などにつながるようにするのがよいと思います。

6.まとめ

今回のケースも典型的な内部統制の不備という印象です。
 我が国の会社は、どちらかというと社員が悪いことをするという前提で内部統制を構築する傾向はあまりないように感じます。
 一方で、内部統制の強化は、自社内で従業員の不正が起こって初めて行うということが多くみられます。
 確かに、従業員を性悪説で見ることは、我が国では会社の社風にあわないところが多いかもしれませんが、一度起こると、企業イメージも悪化するので、念には念を入れて不正を防止する内部統制の構築に力を入れるべきだと思います。

2019年8月25日日曜日

「梅田」が「大阪梅田」へ~変わる関西の駅名

1.阪急・阪神が梅田駅の名称を改称


 阪急電鉄と阪神電鉄は、令和元年10月1日より梅田駅の名称を「大阪梅田」駅に改称します。
 理由としては、JRは「大阪」なのに、阪急と阪神は「梅田」となっていて、ほぼ同じ場所にあるのに駅名が異なっていることから外国人観光客からは「わかりにくい」という声が上がっているため、と言われています。
 確かに、最近、関西に訪れる外国人観光客は急激に増えています。いま私が住んでいる京都も外国人を見ない日は全くないほど、外国人観光客が町中にいます。
 外国人といっても様々ですが、私の知る限り、アメリカでは"OSAKA"の知名度は高かったです。多くのアメリカ人が"TOKYO"と"OSAKA"は知っていました。
 また、おそらく、どのガイドブックにも、大阪は日本第2の都市として紹介されているでしょうから、関西に来る外国人は"OSAKA"の名前が頭に入っていると思います。
 そんな中で、阪急と阪神の駅名が「梅田」となっていると「では、阪急と阪神のOSAKA駅はどこにあるのか?」と思ってしまっても不思議ではありません。梅田駅のほかに阪急や阪神の大阪駅があるのだろうと思う人は多いと思います。

2.かつての阪急の行先案内表示


 私も小学校の時に関西に引っ越してきたので、当時は関西の事情が分からず、「梅田」という場所は大阪駅とは全く別の場所にあるのだろうと思っていました。そのため、「梅田」と「大阪」は別物という印象が強かったです。
 そんな当時、阪急のとある駅で不思議なものを見ました。
 駅のホームに設置している行先案内表示ですが、そこには行先が「大阪」と表示されていたのです。これは昭和50年代後半、西暦では1980年代の話です。「大阪梅田」ではなく「大阪」の二文字のみでした。
 「あれ? 「梅田」じゃないの?」ととても不思議に思いましたが、どうも阪急は当時から梅田=大阪という認識だったようです。
 ちなみに、阪急電車の車両の方向幕には「梅田」と表示されていました。時刻表も「梅田」でした。従って、方向幕や時刻表には「梅田」となっているのに、駅のホームの案内表示は「大阪」という別の表示がされているという二重表記が阪急沿線では行われていました。
 今思うと、阪急は駅名を「梅田」ではなく「大阪」と名乗りたかったのかなと思ってしまいます。

3.「三宮」は「神戸三宮」へ


 少し前ですが、阪急と阪神の「三宮」は「神戸三宮」に変更となりました。
 これは「三宮がどこにあるのかがわかりにくい」という声が多かったということや神戸の中心ということを示したいということだったそうです。
 一方、JRは「三ノ宮」という駅名であり、「ノ」が入りますが、読み方は「さんのみや」であり、阪急や阪神と同じです。
 そのため、大阪と梅田のように同じ場所にあって駅名が異なるというものではありません。従って、大阪と梅田と異なり、三宮は「神戸」であるということを示したいということのようです。
 三宮は神戸市役所もあり、神戸の中心地ですが、県外ではそのことを意外に知られていないようです。このあたりは、例えば、名古屋の栄のような感じでしょうか? 
 そのため、JR神戸駅が神戸の中心と思ってしまう人もいるそうです。しかしながら、実はJR神戸駅は神戸の中心ではありません。
 ちなみに、阪急の行先案内表示は昔から「三宮」でした。こちらが「神戸」とならなかったのは、相互乗り入れしている神戸高速鉄道に「高速神戸」という駅があるためです。
 

4.「河原町」は「京都河原町」へ


 阪急京都線の終点は河原町駅ですが、こちらも令和元年10月1日より「京都河原町」に変わるということです。阪急の説明では「「京都」の中心部に位置するターミナル駅であることを分かりやすくするため」ということです。
 確かに、「河原町」だと府外の人はここが京都の繁華街だということはわかりにくいと思います。
 こちらも三宮と同様、京都の中心部であることを示すための変更です。

5.目的は?


 今回は阪急の駅名の変更を取り上げましたが、では駅名を変更する理由は何でしょうか? これは最終目的は収益の増加、利益の増加のためと推測されます。
 まず、国内人口は少子化、人口減が進んでいるため、限定した地域でのみ営業を許可されている私鉄の鉄道事業は需要は頭打ちです。また、関西はJRおよび私鉄が競合する路線が多く、鉄道激戦区となっています。
 このような中、私鉄は乗客数の確保に、これまでとなく力を入れています。そうしないと、現状のままではジリ貧になることが明らかだからです。
 一方で、我が国は空前のインバウンドブームです。さらには、東京オリンピック、大阪万博と国際的イベントが控えています。この絶好機を逃すことなく、外国人旅行客を取り込みたいところです。
 このように、鉄道需要が頭打ちになっている関西私鉄としては、生き残りをかけて乗客数の確保を行いたい、そのための手段の一つとして駅名の改称を行っているものと考えられます。

2019年8月3日土曜日

公認会計士試験が埼玉県で実施されない理由

1.令和元年公認会計士試験の会場

令和元年8月 23 日、24 日及び 25 日に令和元年公認会計士試験が実施されます。本日は令和元年8月3日なので、あと約3週間後となります。
 私も身近に論文式試験受験者がいるので、頑張って欲しいと思っています。
 
 さて、少し前になりますが、令和元年7月23日に、公認会計士試験の試験場が発表されました。試験場の一覧は金融庁の「令和元年公認会計士試験論文式試験の試験場について」に掲載されています。

 全国の会場のうち、関東と近畿の試験会場を抜粋すると以下のとおりです。

 関 東 財 務 局   
①目黒区駒場3丁目8番1号 東京大学(駒場キャンパス)
②葛飾区新宿6丁目3番1号 東京理科大学(葛飾キャンパス)

 近 畿 財 務 局  
茨木市岩倉町2番 150 号 立命館大学(大阪いばらきキャンパス)


2.埼玉県で実施されない理由

上記のように、関東では、東京都目黒区の東大駒場キャンパスと東京都葛飾区の東京理科大葛飾キャンパスが会場となっています。
 また、近畿では、大阪府茨木市の立命館大学いばらきキャンパスとなっています。
 このように、公認会計士試験では、毎年、関東財務局の管轄地では東京都、近畿財務局の管轄地では大阪府が試験会場となっています。
 
 それでは、公認会計士試験は、例えば埼玉県では実施されないのでしょうか。
 実は、税理士試験では東京都に加えて、埼玉県も試験地になっています。これを見ると、公認会計士試験も埼玉県で実施できそうな感じもします。ちなみに、関東財務局はさいたま市にあります。

 しかしながら、原則として公認会計士試験は埼玉県では実施されません。
 なぜかというと、公認会計士試験の試験実施地は公認会計士試験規則第2条で「公認会計士試験は、毎年一回以上、東京都、大阪府、北海道、宮城県、愛知県、石川県、広島県、香川県、熊本県、福岡県、沖縄県その他審査会の指定する場所において行う。」と定められていて、埼玉県は入っていないからです。
 
 一方、税理士試験の試験実施地については、税理士法第5条で「税理士試験は、北海道、宮城県、埼玉県、東京都、石川県、愛知県、大阪府、広島県、香川県、福岡県、熊本県、沖縄県及び国税審議会の指定するその他の場所において行う」と定められています。こちらでは、埼玉県が明記されています。従って、税理士試験では埼玉県も試験会場になっているというわけです。

 もちろん、これは税理士試験は受験者数がとても多いので、一つの会場では収容しきれないという事情があるのだと思うのですが、試験実施地は実は法令で明確に定められているということがおわかりいただけると思います。
 
 ただし、税理士試験は、近畿では、大阪府に加えて京都府で実施されることもあります(令和元年度は京都会場はなし。)。しかし、税理士法第5条では「京都府」の地名は記載されていません。推測ですが、おそらく「国税審議会の指定するその他の場所において行う」という条文が根拠となっているのだと思います。
 その意味でいくと、公認会計士試験規則にも「その他審査会の指定する場所において行う。」と記載されているので、東京都や大阪府など明記されている都道府県以外の場所でも試験地になる可能性はあるかもしれません。
 可能性があるとすると、公認会計士試験の短答式受験者が激増し、一つの大学等で収容しきれなくなったときでしょうか。
 しかしながら、現時点では、受験者数から見ても、埼玉県や京都府、あるいは神奈川県や兵庫県といった他地域で公認会計士試験が実施されることはないといえます。

3.試験会場に関する注意点

最後に、試験会場に関する注意点を記載しておきます。受験生の方の参考となれば幸いです。

①下見はかならず行くこと
 乗車する電車、乗換駅、降車駅を確認するとともに、降車駅から会場までの道順、時間もつかんでおく必要があります。また、大学会場の場合、正門から校舎までの距離もかなりあるキャンパスもあるので、そのあたりも事前チェックしておく必要があります。

②試験会場に近いホテルに宿泊すること
 これは、交通機関の遅延リスクを低減することと疲労をためないことが理由です。
 当日は、人身事故などで鉄道が止まるリスクもあります。このような場合、試験会場に近いホテルであれば、バスやタクシーで試験会場に到着することができます。
 また、試験当日はとても疲れます。しかも真夏なのでとても暑く、さらに疲れます。できる限り、電車に乗る時間を減らしたほうが、体力の消耗を防ぐことができます。

③机が小さい場合も想定すること
 大学の会場によくありがちですが、机がとても小さいときがあります。机が小さい場合、机上における文房具が限られてくるので、最低限置くものをあらかじめ決めておくとよいです。
 ちなみに、試験会場が合同庁舎の場合、机は長机で広いことが多いようです。
 机のサイズが受験地によって違うのは不公平な感じがしますが、広い机を求めて合同庁舎が会場となる地域で受験して合格した公認会計士もいるということです。 

2019年7月27日土曜日

契約書に係る監査上の論点~吉本興業の「契約書なし」をみて

1.吉本興業の「契約書なし」問題
 吉本興業の、いわゆる闇営業問題に関連して、吉本興業が所属タレントと契約書を作成していなかったという論点が出てきました。
 さらに、この「契約書なし」問題に関して公正取引委員会の山田昭典事務総長が「契約書面が存在しないということは、競争政策の観点から問題がある」と述べたというニュースも出てきました。(契約書なし「競争政策上、問題」=公取事務総長、吉本興業に懸念」(時事通信)「吉本興業の契約書なし、「問題がある」 公取委総長発言」(朝日新聞)
 私は、闇営業問題に関心はないのですが、この「契約書なし」問題を見て思い出したことがあったので、今回は、財務諸表監査における契約書にかかる論点を記載したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.「契約書なし」の会社
(1)契約書を作成する意義
 財務諸表監査を行うとき、内部統制のデザインの評価や運用評価、実証テストを行いますが、この過程で取引の契約についても、どのように行われているのかを見るために契約書の閲覧などを行います。
 当然のことながら、まずは取引の契約を締結した場合は契約書の作成が必要です。一応、民法上は口頭でも契約は成立するのですが、企業の内部統制上、契約書を作成することが必要です。そうしないと、金額や支払相手などが不明確になるため、例えば、架空取引や水増し請求による過大支払いなどが行われてしまい会社に損害が発生するリスクがあるからです。(「架空取引に係る内部統制」「経営者による内部統制の無効化とハコ企業」参照)

(2)地方でよく見られるケース
 上場会社では何らかの取引を行うときは、まず間違いなく契約書を交わしていますが、「経営者による内部統制の無効化とハコ企業」でも記載したように、資金繰りが逼迫した企業では内部統制の無視・無効化が横行し、契約書を取り交わさないで取引を行っていたケースも見られました。
 
 このように上場会社レベルでは「契約書なし」というのはイレギュラーなケースですが、非上場会社や非営利法人では「契約書なし」というケースが時々出てきます。特に、この「契約書なし」は地方でよく見られるという印象があります。
 何度か見たのは、地元の工務店と工事契約を締結するケースです。なぜかというと、地方では、地域の人は昔からの顔なじみで、お互いによく知っているため、わざわざ契約書を作成する必要はないという文化ができてしまっているからのようです。
 そのため、契約書を作成しなくても「まあ、別にいいじゃないか」というお互いの信頼関係で物事が進んでしまうというわけです。

 また、非上場会社あたりでは「収入印紙の節約をしたいから」という理由で契約書を作成しない会社も時々見られます。
 
 しかしながら、契約書を作成しないと上記のように、会社に損害が生じるリスクがあるので、契約書は作成する必要があります。

3.契約書の偽造
 立命館大学早稲田大学の教授や公認会計士・監査審査会会長を務められた千代田邦夫教授は、公認会計士資格も保有されており、旧二次試験合格後は会計士補として監査業務にも携われていました。
 その千代田教授の著作「監査論の基礎」(税務経理協会)の前書きの中に、契約書の偽造を発見したときの話が記載されています。
 千代田氏が会計士補として、ある会社の監査に行ったとき、売上の監査を行うために売買契約書の提示を求めたそうです。しかし、会社は何かと理由をつけて提示してこなかったため、おかしいなと思い何とか粘ったところ、やっと出てきたのは契約書のコピーだったそうです。そこで、千代田氏が閲覧したところ、おかしなところに気づいたといいます。何かというと、契約書のコピーは何通もあったようですが、収入印紙の消印の位置がどの契約書も同じだったのだそうです。ますます怪しいと思い、問い詰めると、ついに担当者が白状したそうです。会社が何をしたのかというと、セロファン紙の間に収入印紙を挟み込み、その上から割印を行い、これを偽造した契約書においてコピーをしたということです。
 
 なお、監査の現場では契約書類や証憑類は必ず原本を確認するようにしています。そうしないと、この話のように不正が行われても看過してしまう可能性があるからです。そのうえで監査調書にするためにコピーをとることになります。
 ちなみに、私の場合は「原本確認の上、森がコピー」と記載して原本を確認したことを記すようにしています。このようにすれば、会社がコピーしてきたものをそのまま受け取っていないということがわかるからです。
 
4.監査法人の「契約書なし」問題
 以上は、会社等と取引先との契約に関してでしたが、最後に監査法人と契約している公認会計士との契約について触れたいと思います。これは吉本興業とタレントとの契約と同じケースとなります。
 監査法人も契約している非常勤の公認会計士とは非常勤契約に係る契約書を作成する必要があります。もちろん、常勤の公認会計士とは雇用契約を締結していますから雇用契約書の作成が必要です。
 日本公認会計士協会は、監査法人に対して品質管理レビューを行っていますが、この品質管理レビューのときは、非常勤会計士と交わした契約書の有無は必ずチェックしています。そのため、通常の監査法人であれば、非常勤会計士との契約書は作成しています。
 監査法人だったら当然であろう、と思われるかもしれませんが、どうもこの業界では長い間、それこそ吉本興業のように契約書が作成されず、契約関係があいまいになっていた時期が続いていたようです。おそらく、もともと、この業界は徒弟制度が長く続いていたため、「何でそんなもの作らないといけないんだ」という感覚があったのだと思います。
 しかしながら、日本公認会計士協会による品質管理レビューで、非常勤会計士との契約書の有無はチェックするようになったため、品質管理レビューを受ける監査法人では契約書を作成するようになりました。

2019年7月14日日曜日

京都に進出する地方私鉄

1.静鉄が京都にホテルをオープン

先日、京都の西洞院通(にしのとういんどおり)を歩いていたら、西洞院通錦小路下ルに「静鉄ホテルプレジオ京都四条」というホテルが建設されていました。
 「静鉄」とは静岡鉄道の略称で、もちろん文字通り静岡の鉄道会社です。
 京都と静岡は距離も離れていますし、京都で静岡の会社といっても馴染みがないので、最初は「静岡の会社が何故京都に?」と思いました。
 
西洞院通から見た静鉄ホテルプレジオ四条京都の外観です。


2.シナジー効果 

しかし、考えてみると、静鉄が自社の観光会社で京都ツアーを組んで、静岡の人に京都旅行に行っていただき、さらに静鉄ホテルに宿泊していただくことで収益を得ようという戦略も考えられるので、それを考慮すると、静鉄が京都にホテルをオープンさせることは変わったことではないと思います。静鉄ホテルプレジオはビジネスホテルという位置づけですが、ビジネスホテルであっても観光旅行にも利用できます。また、静鉄グループ内には「静鉄観光サービス株式会社」という観光会社があります。

 それと、もう一つ考えられるのは、日本では少子高齢化で人口減少が進んでいるため、自社のテリトリー以外の地域に進出して、需要を取り込もうという戦略です。
 静鉄は静岡を地盤としていますが、少子高齢化が進む中、おそらく静岡県内の活動だけでは需要が頭打ちになってくると思います。しかし、いま、京都への観光旅行はとても人気がありますので、京都にホテルをオープンさせれば、静岡県以外の地域でも収益を上げることができます。
 これは全社戦略レベルにおいて、事業領域や事業ポートフォリオをどのようにしていくか、という話になってきます。

 鉄道会社の中には、このように自社系列のホテルや観光会社を経営している会社があります。これは、自社系列の観光会社を利用する消費者に、同時に自社系列のホテルも利用していただければ、収益の相乗効果が得られるからです。
 さらに、静岡県外の人が静鉄ホテルプレジオを利用した場合、宿泊時の案内や宿泊後の案内で静岡県への観光旅行を提案することで、静鉄ホテルプレジオを利用した静岡旅行に来て頂ける可能性もあります。そのようになれば、静鉄グループの収益増加に繋がります。
 このように、複数の事業等の組み合わせによる相乗効果をシナジー効果といいます。

3.相鉄フレッサイン

地方私鉄ではなく、今は首都圏の大手私鉄という位置づけですが相鉄も「相鉄フレッサイン」というビジネスホテルを京都に開業しています。
 相鉄相模鉄道の略称で、神奈川県を地盤とする私鉄です。私が物心ついたときは地方の準大手私鉄という位置づけでしたが、平成2年に首都圏の大手私鉄という格付けとなりました。
 ちなみに「相鉄」は「そうてつ」と読みます。京都では馴染みがない鉄道であるため、「相鉄」を読めない人は多いようです。
 
綾小路通烏丸西入にある相鉄フレッサイン。

 私が見たのは綾小路通烏丸西入ルにある相鉄フレッサインです。初めて見たのは3年ほど前です。綾小路通は四条通の一つ南の通りですが、綾小路通を歩いていたら、「相鉄」の文字が目に入ってきたため、「京都に相鉄?」と驚いた記憶があります。
 調べると、現在、相鉄グループ内には観光会社はないようです。かつて相鉄観光という観光会社があったということですが、現在は近畿日本ツーリスト神奈川となっているということです。
 従って、相鉄の場合は観光会社を使ったシナジー効果を目的としているのではなく、神奈川県以外の地域での収益増加を目的としたものといえそうです。なお、相鉄フレッサインは首都圏以外にも長野、大阪、兵庫、広島、さらには韓国にもホテルを開業しています。
 また、相鉄は5年前にホテルサンルートを買収し、ホテル事業に力を入れています。

4.まとめ

私鉄は、鉄道事業を行う地域が限られているため、鉄道事業に限っては収益の機会もその地域に限られます。特に、中小私鉄の場合は、せいぜい地盤は一つの府県にとどまります。
 しかしながら、鉄道会社は阪急から始まったといわれる多角化戦略をとる会社が多いので、このように自分のテリトリー以外の地域にホテルを開業することで、他地域で収益をあげて、グループの収益増加につなげることも可能です。
 特に、ホテルに関していえば、京都では、外国からの観光客の急増のため、今ホテルをオープンすれば、間違いなく儲かります。そのため、京都は異常とも思えるホテルの開業ラッシュです。
 静鉄や相鉄の京都でのホテル開業は、地方私鉄の一つのビジネスモデルとして参考になるかもしれません。 

2019年7月8日月曜日

「会計・監査ジャーナル」の電子版についての感想

1.はじめに
 近年のIT技術の進歩は著しいものがあります。電子書籍もその一つです。
 日本公認会計士協会も、数年前より機関紙である「会計・監査ジャーナル」について電子版も利用できるようにし、会員・準会員(日本公認会計士協会に登録をしている公認会計士や公認会計士試験合格者など)に電子版の利用を促しています。
 今回はこの電子書籍について思うことを述べたいと思います。

2.「会計・監査ジャーナル」の電子版
 日本公認会計士協会は、この「会計・監査ジャーナル」の電子版の機能向上を目的とした会員アンケートを行っていましたが、先日、そのアンケート結果が会員・準会員専用ページで公表されていました。
 会員・準会員専用なので、アンケート結果などその内容は記載することはできませんが、電子版を利用している会員・準会員(以下「会員等」)は徐々に増えてきているようです。
 しかしながら、使いやすさについては使いにくいと思っている会員等も結構いるようです。実は、正直申し上げて、私も「会計・監査ジャーナル」の電子版については使いにくいと思っている会員の一人です。
 それでは、なぜ私が使いにくいと思っているのか、電子書籍の種類に即して説明します。

3.Kindleの種類
(1)ハイライト機能などを使えるもの 
 私は、通常の電子書籍ではアマゾンのKindleを使用しています。
 このKindleによる電子書籍については、その方式について2種類あります。一つは、①「文字列のハイライト、検索、辞書の参照、引用などの機能」(アマゾンの説明書きより)を使用できるもの、もう一つは②これらの機能がついていないもの、です。
 どちらが使いやすいかというと、まちがいなく①のほうです。

 ①の様式は、テキストデータによるものなので、普段、Webで検索するように、その本の中のある用語を検索することができます。また、読んでいて意味がわからない用語や漢字が読めない場合についても、その用語をタップすると、辞書やウィキペディアの説明が示されます。
 ハイライト機能は、気になった用語や文章にマーカーを引くように色をつけることができるものです。ハイライトした用語や文章は、一覧で見ることができます。そのため、後で読んだところを思い出して探すときに便利です。
 ブックマーク機能というものもあります。これは、気になったページに付箋を貼るような機能です。これも、ブックマークしたページを一覧で見ることができます。

 基本的には、電子書籍を利用する場合は、この方式で販売されている書籍のほうがよいです。
 アマゾンの場合は、これらの機能を使用できない場合、「文字列のハイライト、検索、辞書の参照、引用などの機能が使用できません」と記載されているので、この説明の有無を確かめる必要があります。

(2)ハイライト機能などが使えないもの
 これに対して、上記のように「文字列のハイライト、検索、辞書の参照、引用などの機能が使用でき」ない電子書籍もあります。
 これは、イメージとしては、書面をスキャンしてPDF化したようなイメージです。
 PDFを利用される方はおわかりだと思いますが、このように書面をスキャンしてPDFにした場合、検索機能を使用できません。
 ハイライト機能などが使えないタイプはこれに似た電子書籍です。
 このタイプの場合、文章中心の書籍はとても使いにくいです。次に記載しますが、Kindleでこのタイプは、たいてい固定レイアウト型という、どの大きさの画面であってもページレイアウトが変わらないタイプです。
 このタイプは、どちらかというと写真や図が多く入った書籍によく見られます。このような書籍であれば、ハイライト機能などが使えない固定レイアウト型でも、使えることは使えます。私の場合、例えば「地球の歩き方」を電子書籍で購入しましたが、Kindleではハイライト機能などが使えない固定レイアウト型でした。しかしながら、「地球の歩き方」を現物で持つと荷物が多くなるし、重くなるので、電子書籍にしました。どちらかというとやむを得ないという気持ちが強かったです。

4.リフロー型と固定レイアウト型
 次に、リフロー型固定レイアウト型について記載します。
 リフロー型とは、文字の大きさや行数などによって、ページレイアウトが変わる電子書籍です。Kindleの場合、ハイライト機能などを使える電子書籍はこちらになります。
 一方、固定レイアウト型とは、上記のように、どの大きさの画面であってもページレイアウトが変わらない方式で、画面は拡大できますが、文字自体を大きくしたり、行数を変えることはできません。

5.「会計・監査ジャーナル」電子版の場合
 そこで本題ですが、会計・監査ジャーナルの電子版はKindleではなく、名称は伏せますが、別の電子書籍アプリを使用しています。
 このアプリにおいては、会計・監査ジャーナルは固定レイアウト型になっています。すなわち、文字自体を大きくしたり、行数を変えたりすることはできず、パソコンから見ても、iPadからみてもレイアウトは変わりません。
 一方で、検索機能やハイライト機能はついています。その他ペンによる書き込み機能もついています。
 しかしながら、Kindleのようにハイライトした用語や文章をあとで一覧で見ることはできません。また辞書機能もありません。
 それと、Kindleと比べると検索スピードが遅いです。テキストデータであれば、もっと早くなるのではないかと思います。
 
6.まとめ
 私個人の感想ですが、会計・監査ジャーナル電子版は、検索機能やハイライト機能などはついているものの、使いにくいという印象です。その原因は、会計・監査ジャーナル電子版が固定レイアウト型だからだと思います。
 確かに、雑誌については固定レイアウト型が向いているといわれていますが、会計・監査ジャーナルは後々においても仕事や勉強で使用するコンテンツが多いので、いろいろと事情があるのだとは思いますが、リフロー型によるテキストデータにして、Kindleのように、保存機能やメモ機能をつけた電子書籍化がよいのではないかと個人的には思います。

2019年6月30日日曜日

公益法人information~C(2)の計算式が壊れたら

1.はじめに

 平成31年2月11日のブログ「公益法人インフォメーション~電子申請システムリニューアル」で公益法人informationのシステムが新しくなったというお話をしました。(注:このときのブログで「公益法人インフォメーション」という書き方をしてしまいましたが正確な表記は「公益法人information」でした。)
 今回は、この公益法人informationで導入された新システムの留意点について記載したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。
(今回の内容は、一緒に業務を行っていただいた公認会計士のご協力によるものです。感謝申し上げます。)

2.C(2)の計算式が壊れたらどうすればよいのか

(1)行挿入の注意点

 「公益法人インフォメーション~電子申請システムリニューアル」でも記載しましたが、新システムではエクセルでの作成となりました。そのため、自分のパソコン内で作成できるようになり、また、編集も行いやすくなったため、旧システムよりも便利になったと思います。
 しかしながら、注意点もあります。

 C(2)(控除対象財産を集計する表)など、いくつかのブックには行を追加するときの注意点が記載されています。
 手元に資料がないので記憶に頼りますが、行を追加するときは、①自分で行挿入をしてはならない、②1行目ではなく2行目以下の行をコピーして挿入しなければならない、という注意書きが記載されていたと思います。

 エクセルだとつい、自分で行挿入をしてしまいがちですが、これは必ず守らなければなりません。
 

(2)自分で行挿入をしてしまうとどうなるのか

 この注意書きは、もちろん理由があって記載されています。
 それでは、2行目以下をコピーしないで自分で行挿入をしてしまうとどうなるのでしょうか。
 結論を申し上げますと、この場合、1号財産や2号財産などの合計額があわなくなってしまいます。

 自分で行挿入しただけで何故合計がおかしくなるのか疑問に思われる方も多いと思います。実は、この現象が生じる理由は、1号財産や2号財産の集計表の末尾にある小計欄の計算式にあります。
 通常、エクセルでこのような簡単な表を作成したときの合計を求めるときはSUM関数を使用します。しかしながら、新システムで使用されているエクセルでは、小計欄にカーソルをあわせていただければわかるのですが、C(2)の小計欄ではSUMIF関数が使用されています。
 これが、自分で行挿入をしてしまうと合計額があわなくなる理由です。
 なお、この小計欄のセルは「保護」が行われているので、自分では計算式を触ることはできません。

(3)SUMIF関数とは

 SUM関数であれば、1行目だけ気をつければ、自分で行挿入をしても、その行が合計範囲に含まれるので、合計額の集計はもれなく行うことができます。
 しかしながら、SUMIF関数とは、マイクロソフトのページによれば「指定した条件を満たす範囲内の値を合計する」関数です。従って、指定した条件が含まれないと、その行の数字は集計されません。
 これが、自分で行挿入してしまうと合計額があわなくなる原因です。

(4)AZの列に注目

 具体的に申し上げますと、自分で行挿入してしまうと、その行に「指定した条件」が含まれなくなってしまうのです。

 私の記憶によれば、C(2)の1号財産のSUMIF関数は確か「(AZ:AZ,1,AL:AL)」だったと思います。
 SUMIF関数では、順番に「範囲」、「検索条件」、「合計範囲」が示されます。C(2)の1号財産の例でいうと、範囲がAZの列、検索条件が「1」、合計範囲がALの列ということになります。

 それでは、この検索条件の「1」とは何かというと、実はAZの列に「1」という数字が記載されていて、その数字の「1」が検索条件となっているという仕組みになっているのです。

 AZの列にカーソルをあわせると、エクセルの表では全く見えませんが、上のバーのところ(計算式などが示されるところ)に「1」と表示されます。「1」を白色にして見えなくしているのですが、まちがいなく「1」が入力されています。これがSUMIF関数の条件の正体です。

(5)合計があわなくなる理由

 そこで、合計があわなくなる理由ですが、自分で行挿入してしまうと、AZの列に「1」が入力されていない状況になってしまうからです。そのため、SUMIF関数では、その行に入力された数値を認識しないのです。
 従って、その行の数値が認識されないことから、SUMIF関数で集計した合計額があわなくなるという現象が生じてしまうというわけです。

(6)壊れた計算式を修復する方法

 それでは、誤って自分で行挿入してしまい、C(2)の計算式が壊れてしまったらどうすればよいのでしょうか。

 その解決策は、自分で行挿入してしまった行のAZの列に半角で「1」を入力することです。そうすれば、SUMIF関数がその行のALの列に入力した数値を認識してくれます。その結果、合計額もあうようになります。

 注意点は、この「1」を入力する列のセルを「結合」することです。セルを結合しないとSUMIF関数が条件を読み取ってくれません。
 

3.検算は必ず行う

 C(2)をはじめ、その他の別表においてもエクセルで集計した合計数値は、必ず電卓または算盤で検算する必要があります。
 エクセルなどのスプレッドシートは大変便利なツールですが、計算式や計算範囲に不備があると集計漏れなどの誤りが生じてしまいます。
 従って、面倒でも、必ず電卓または算盤を使って手作業で検算を行い、その集計が正しく行われているかどうかを確認する必要があります。
 今回の場合だと、C(2)の合計があわないということは、どこかの行の挿入にミスがあったということです。
 このようにして、計算合計の確認と誤りがあればエクセルの修正を行って、正しい数値を出す必要があります。