多くの公益法人では、名称は多少異なりますが「事務局長」という地位の職員が存在します。また、社会福祉法人では、同じく「事務局長」のほか、「施設長」という地位の職員が存在します。
今回は、このようなポストに就任されている職員の選任及び解任に係る留意点について記載します。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
1.「重要な使用人」又は「重要な役割を担う職員」
まず、公益法人においては、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第90条④柱書において「理事会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を理事に委任することができない。」として、第3号で「重要な使用人の選任及び解任」を掲げています。
また、社会福祉法人においても、社会福祉法第45条の13④柱書において「理事会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を理事に委任することができない。」として、第3号で「重要な役割を担う職員の選任及び解任」を掲げています。
これは、このような重要な使用人や重要な役割を担う職員は、法人の業務運営において非常に重要な役割を果たしているため、理事の独断で選任したり、あるいは解任してしまうと、法人運営に深刻な影響を及ぼすおそれがあることから、理事会の決議により慎重な判断を行わせるためです。
2.「重要な使用人」又は「重要な役割を担う職員」とは?
(1)法令上の規定は?
それでは、「重要な使用人」及び「重要な役割を担う職員」とは具体的にはどのような人を指すのかというと、法令上には規定はありません。
そうなると、法人の規模、組織形態、組織階層、権限などを総合的に勘案して判断せざるを得ないと考えられます。すなわち、その法人の状況にあわせて決定する必要があるということです。
以下、具体例を見ていきます。
(2)「事務局長」
一般的に考えると、「事務局長」は、実質的に法人の実務の運営のトップであることが通常ですから、「重要な使用人」又は「重要な役割を担う職員」に該当すると考えられます。他の名称では「事務長」、「法人本部長」といった肩書も見られますが、法人運営の責任者である常勤職員が該当すると考えられます。これは組織図を見れば、おおよそ判断がつくと思われます。
(3)「施設長」、「院長」、「館長」
社会福祉法人における「施設長」も「重要な役割を担う職員」に該当すると考えられます。施設長は、各施設の管理運営を担っており、その最高責任者ですから重要性はあると考えられます。
他にも、病院運営を行っている法人では「院長」、児童館運営を行っている法人では「館長」といった地位の人がいますが、「院長」、「館長」も該当すると考えられます。
(4)「管理部長」、「経理部長」、「営業部長」
管理部長、経理部長、営業部長といったところはどうでしょう。
株式会社でも「支配人その他の重要な使用人」の選任及び解任は取締役会での決議事項であり、IRを見ていても、このような部長については重要な使用人としている会社が多いようです。
実質的に判断することが重要なので、このような部長の職務権限や実際の実務状況などを勘案する必要があります。逆に、「部長」という肩書がついていても、大きな責任や権限がない「名ばかり部長」であれば、重要な使用人や重要な役割を担う職員とはいえないでしょう。
(5)参与、顧問、相談役
「参与」という肩書も時々見られます。もちろん、上述のようにその職務内容や職務権限などを総合的に勘案して判断する必要があります。
また、よく見られるのは役所の人が、春の人事異動で「参与」、「顧問」、「相談役」といった肩書で入社し、その後、6月頃に理事や事務局長などに就任するケースです。この場合は、理事や事務局長に就任することを含んでの入社なので、重要性はあるとみてよいのではないでしょうか。
3.構築すべき内部統制
以上のように、「重要な使用人」又は「重要な役割を担う職員」については、肩書のみでは簡単に判断できないため、実質的に判断する必要があるのですが、その都度、重要性を判断していては恣意的な選任・解任になる恐れがあります。
そこで、このような「重要な使用人」又は「重要な役割を担う職員」の具体的な内容については、法人の規程に記載しておく必要があるといえます。例えば、理事会運営規程の中で定めておくというのも一つの手段であると考えられます。
この際、組織での位置づけ(組織図は参考になると思われます)や職務権限規程の内容、法人の規模、実際の実務状況などを総合的に勘案する必要があります。
また、「重要な使用人」又は「重要な役割を担う職員」の対象となった職員に対してはその旨を本人に伝えて、自身のポストの重要性を認識して頂く必要があります。
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