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2019年8月3日土曜日

公認会計士試験が埼玉県で実施されない理由

1.令和元年公認会計士試験の会場

令和元年8月 23 日、24 日及び 25 日に令和元年公認会計士試験が実施されます。本日は令和元年8月3日なので、あと約3週間後となります。
 私も身近に論文式試験受験者がいるので、頑張って欲しいと思っています。
 
 さて、少し前になりますが、令和元年7月23日に、公認会計士試験の試験場が発表されました。試験場の一覧は金融庁の「令和元年公認会計士試験論文式試験の試験場について」に掲載されています。

 全国の会場のうち、関東と近畿の試験会場を抜粋すると以下のとおりです。

 関 東 財 務 局   
①目黒区駒場3丁目8番1号 東京大学(駒場キャンパス)
②葛飾区新宿6丁目3番1号 東京理科大学(葛飾キャンパス)

 近 畿 財 務 局  
茨木市岩倉町2番 150 号 立命館大学(大阪いばらきキャンパス)


2.埼玉県で実施されない理由

上記のように、関東では、東京都目黒区の東大駒場キャンパスと東京都葛飾区の東京理科大葛飾キャンパスが会場となっています。
 また、近畿では、大阪府茨木市の立命館大学いばらきキャンパスとなっています。
 このように、公認会計士試験では、毎年、関東財務局の管轄地では東京都、近畿財務局の管轄地では大阪府が試験会場となっています。
 
 それでは、公認会計士試験は、例えば埼玉県では実施されないのでしょうか。
 実は、税理士試験では東京都に加えて、埼玉県も試験地になっています。これを見ると、公認会計士試験も埼玉県で実施できそうな感じもします。ちなみに、関東財務局はさいたま市にあります。

 しかしながら、原則として公認会計士試験は埼玉県では実施されません。
 なぜかというと、公認会計士試験の試験実施地は公認会計士試験規則第2条で「公認会計士試験は、毎年一回以上、東京都、大阪府、北海道、宮城県、愛知県、石川県、広島県、香川県、熊本県、福岡県、沖縄県その他審査会の指定する場所において行う。」と定められていて、埼玉県は入っていないからです。
 
 一方、税理士試験の試験実施地については、税理士法第5条で「税理士試験は、北海道、宮城県、埼玉県、東京都、石川県、愛知県、大阪府、広島県、香川県、福岡県、熊本県、沖縄県及び国税審議会の指定するその他の場所において行う」と定められています。こちらでは、埼玉県が明記されています。従って、税理士試験では埼玉県も試験会場になっているというわけです。

 もちろん、これは税理士試験は受験者数がとても多いので、一つの会場では収容しきれないという事情があるのだと思うのですが、試験実施地は実は法令で明確に定められているということがおわかりいただけると思います。
 
 ただし、税理士試験は、近畿では、大阪府に加えて京都府で実施されることもあります(令和元年度は京都会場はなし。)。しかし、税理士法第5条では「京都府」の地名は記載されていません。推測ですが、おそらく「国税審議会の指定するその他の場所において行う」という条文が根拠となっているのだと思います。
 その意味でいくと、公認会計士試験規則にも「その他審査会の指定する場所において行う。」と記載されているので、東京都や大阪府など明記されている都道府県以外の場所でも試験地になる可能性はあるかもしれません。
 可能性があるとすると、公認会計士試験の短答式受験者が激増し、一つの大学等で収容しきれなくなったときでしょうか。
 しかしながら、現時点では、受験者数から見ても、埼玉県や京都府、あるいは神奈川県や兵庫県といった他地域で公認会計士試験が実施されることはないといえます。

3.試験会場に関する注意点

最後に、試験会場に関する注意点を記載しておきます。受験生の方の参考となれば幸いです。

①下見はかならず行くこと
 乗車する電車、乗換駅、降車駅を確認するとともに、降車駅から会場までの道順、時間もつかんでおく必要があります。また、大学会場の場合、正門から校舎までの距離もかなりあるキャンパスもあるので、そのあたりも事前チェックしておく必要があります。

②試験会場に近いホテルに宿泊すること
 これは、交通機関の遅延リスクを低減することと疲労をためないことが理由です。
 当日は、人身事故などで鉄道が止まるリスクもあります。このような場合、試験会場に近いホテルであれば、バスやタクシーで試験会場に到着することができます。
 また、試験当日はとても疲れます。しかも真夏なのでとても暑く、さらに疲れます。できる限り、電車に乗る時間を減らしたほうが、体力の消耗を防ぐことができます。

③机が小さい場合も想定すること
 大学の会場によくありがちですが、机がとても小さいときがあります。机が小さい場合、机上における文房具が限られてくるので、最低限置くものをあらかじめ決めておくとよいです。
 ちなみに、試験会場が合同庁舎の場合、机は長机で広いことが多いようです。
 机のサイズが受験地によって違うのは不公平な感じがしますが、広い机を求めて合同庁舎が会場となる地域で受験して合格した公認会計士もいるということです。 

2019年4月7日日曜日

2018年度(平成30年度)修了考査~合格率急落の理由を推測すると・・・

1.対受験者数合格率56.1%
 平成31年4月5日(金)に、修了考査の合格発表がありました。
 修了考査とは、公認会計士試験に合格し、補習所を卒業した公認会計士試験合格者が受験する試験です。この修了考査に合格しないと公認会計士として登録できません(他に、登録の要件として実務要件があります。)
 今回の合格発表で驚いたのは合格率です。日本公認会計士協会のサイトによると対受験者数合格率が56.1%となっていました。(ちなみに、対受験願書提出者数合格率は51.8%)
 これは驚きました。なぜかというと、修了考査の対受験者数合格率は10年以上、70%前後で推移していたからです。
 ちなみに、平成29年度は69.3%だったので13.2ポイントの大幅な下落となりました。
 しかしながら、当然ではありますが、日本公認会計士協会からは合格率が大幅に下落した理由については一切コメントはありません。
 そこで、今回は合格率が急落した理由を推測してみようと思います。なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.税理士会へのアピール?
 完全な推測なので、保証はありませんが、この合格率の急落を見て、私が最初に思ったのは、税理士会へのアピールではないかというものです。すなわち、税法ができない人は合格させていませんよ、ということではないかということです。
 とはいっても、何のことか不明の方も多いと思いますので、まず、日本公認会計士協会と日本税理士会連合会との関係の歴史を簡単に書きます。

3.業際問題
 税理士になるには、まず税理士試験を合格する必要があります(税理士法3条1項1号)。
 しかしながら、公認会計士は、税理士試験に合格しなくても、税理士法3条1項4号により、自動的に税理士となる資格を有することになり、所定の手続きを経て税理士登録をすると、税理士として業務を行うことができます。すなわち、試験を受けなくても税理士になることができます。
 これに対して、6~7年前でしょうか、日本税理士会連合会が「公認会計士も税理士試験の税法科目に合格しなければ税理士登録できないようにすべき」と主張し始めました。これは、当時、公認会計士試験合格者数が大幅に増加していたため、公認会計士による税理士登録者が大幅に増加することによる警戒感があったものと思われます。
 この問題はそれ以前にも、昔から度々発生した論点なのですが、このときは税理士会がかなり強行だったため、お互いが新聞広告を出すなど、かなり泥沼化していました。
 しかし、最後は日本公認会計士協会による主張で手打ちになりました。

4.国税審議会における実務補習の指定
 このとき、日本公認会計士協会にとって大きかったのは、補習所で税法の講義を行っていることでした。公認会計士の場合は、公認会計士試験に合格してもすぐに会計士登録はできず、補習所の講義の受講と定期考査をパスして卒業する必要があります。これは我が国の公認会計士制度において長く行われてきた制度です。
 当時の業際問題では、この補習所の実績が評価されたと聞いています。そこで、最終的には、税理士法を改正することにより補習所の講義を国税審議会が指定する研修とすることなどにより決着しました。
 日本公認会計士協会のサイトから一部引用すると、以下のとおりです。

「平成29年4月1日以後に公認会計士試験に合格した者のうち税理士資格を取得できるのは、公認会計士法第16条第1項に規定する実務補習団体等が実施する研修のうち財務省令で定める税法に関する研修を修了した者とされるとともに、当該研修は、改正税理士法施行規則第1条の3第1項において国税審議会が指定する研修とされました。」

「 なお、実務補習規程等の関係規程の改正の主なポイントは、以下のとおりです。
・実務補習の充実策の一環として、監査科目だけではなく、税法科目も重要な科目と位置付け、考査の合格基準について従来の税法科目の考査2回で各回4割以上の取得に加え、税法科目全体で6割以上の取得を設ける。
・税法科目の考査2回については全国統一問題で同一日時に実施する。
・実務補習の考査及び修了考査の問題をウェブサイトで公表する。」

 なお、「平成29年11月1日以後に実務補習所に入所する補習生(再入所を含む。)から適用」するということです。

 一方、日本税理士会連合会のサイトでも同じ内容が記載されていますが、考査と修了考査については以下のことも記載されています。

「考査及び修了考査の試験問題の過去5年分が公開され、研修運営状況が国税審議会に定期的に報告されることともされており、税理士試験との同等性等について継続的に確認されていくことになります。」

5.税理士試験との同等性
 要するに、補習所の税法の考査と修了考査の税法試験については、税理士試験と同じレベルである必要がある、ということですが、今回の修了考査もこれが背景にあったのではないかと私は推測しています。
 平成30年度の修了考査を受験する公認会計士試験合格者は、主に平成27年合格の人になると思いますので、上記の税理士法改正の影響は受けてはいません。しかしながら、国税審議会における実務補習の指定制度が平成30年から本格的に始まっていますので、今回の修了考査も、制度開始元年の試験にあたるといえばあたります。
 修了考査の税法試験も税理士試験と同じレベルであるとするならば、合格する人も、税理士試験を合格するレベルの人とする必要があります。となると、必然的に採点も厳しくなると思います。
 もともと、修了考査の税法は問題量が無茶苦茶多く、とても制限時間内で完答できるレベルではないものです。試験時間は3時間ですが、4時間分の問題量があると言われています。
 従って、受験者の税法の点数はあまり高くないはずですが、最終的には総点数の60%を基準として修了考査運営委員会が相当と認めた得点比率が合格基準となっていますので、必ずしも税法の点数が芳しくなくても、合格は可能です。また、おそらく総点数の60%を満たしている受験生も多くはないと思いますので、最終的には相対評価で合格を決めているものと推測されます。
 ただし、「満点の40%に満たない科目が1科目でもある場合は、不合格となることがあります。」とされています。いわゆる足切りです。
 修了考査も税理士試験と同じレベルという建前となった現在、前回までよりは、採点を厳しくした可能性があります。もしかしたら、これまでよりも足切りが多くなったのかもしれません。
 このように、今回の修了考査の合格率の大幅な下落は、税法科目の採点が厳しくなり、税理士試験に合格できないレベルの受験生は合格させていませんよ、という税理士会へのアピールではないかというのが私の推測ですが、もちろん、何があったのかは不明ですし、真相は闇の中です。
 いずれにしろ、税法科目は計算が多く、差がつきやすい科目なので受験される方は、しっかりと勉強する必要があります。

2018年11月25日日曜日

公認会計士試験・条文の表示方法~「項」や「号」の記載

1.「出題の趣旨」
 先日、平成30年公認会計士試験論文式試験の合格発表がありました。
 現在の試験制度では、「出題の趣旨」公認会計士・監査審査会から公表されています。
 「出題の趣旨」は、問題を出題した試験委員が、出題の内容、出題の目的、答案記載上のポイントなどを記載したものです。
 どちらかというと、答案記載上のポイントはあまり書かれておらず、出題の内容、出題の目的に記載されたものが多くなっています。そのため、受験生はあまり「出題の趣旨」を読んでいないようなのですが、「出題の趣旨」は試験委員が記載したものであり、専門学校が介在していない直接的な情報なので、合格するためには、読んでおくことが望まれます。
 今回は、平成30年公認会計士試験論文式試験の「出題の趣旨」から個人的に気になったところをあげてみたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.条文の表示
(1)「項」、「号」の記載
 租税法のコーナーですが、「解答にあたっては、適用条文の正確な理解及び表示(必要に応じて「項」、「号」まで)が求められる。 」という記載がなされていました。

 これは非常に気になりました。試験委員がこのような記載をするということは、条文をしっかりと記載していない受験生がいる、ということです。
 この記載によれば「項」、「号」を記載していない受験生がいるのだと思います。「項」や「号」を示すことはとても大事です。同じ「○条」でも「項」や「号」によって内容は異なるからです。
 これは租税法だけでなく、会社法でも同様です。

(2)「項」や「号」を示さないとどうなるか
 例えば、会社法の場合ですが、監査役の取締役会への出席義務を記載するとき、

「監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない(会社法383条1項)。」

 と書くべきですが、仮に、

「監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない(会社法383条)

 と書いてしまうと、どの条文を示しているのかが不明になってしまいます。というのは383条は1項から4項までありますが、1項には監査役の取締役会への出席義務が定められているのに対して、2項は、監査役の取締役会招集請求権について記載されています。3項は一定の場合における監査役による取締役会招集権、4項は特別取締役による取締役会の場合の不適用についての定めです。
 「383条」だけだと1項から4項までを含んでいることになり、どの項の条文であるのかがわかりません。従って、「383条1項」と明示する必要があるわけです。

 「号」についても同様です。
 例えば、株式会社の商号については、

「株式会社の商号は登記事項である(911条3項2号)。」

 と書くべきですが、仮に

「株式会社の商号は登記事項である(911条)。」あるいは「株式会社の商号は登記事項である(911条3項)。」と書いてしまうと、どの911条のどの部分を示しているのかがわからなくなります。

 このように、「項」や「号」が記載されていないと、どの条文を示しているのかが不明になります。従って、答案としては条文を示していない、すなわち法律要件を示していないということになってしまいます。そうなると、十分な点数がつかない、あるいは、全く点数がつかないということになります。(私見ですが、この場合、全く点数がつかない可能性が高いと思います。)
 このようなことになってしまっては、これまでの努力が水の泡となってしまうので、答案を書くときは普段の答案練習の時から慎重に行うことが重要です。

3.条文番号の表記
 それに加えて個人的に気になっているのが、条文番号の表記です。
 お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、拙著「「社会福祉充実計画」の作成ガイド」(中央経済社)当ブログでは、例えば、

「理事長が欠席した場合でも、定足数を満たしていれば理事会は成立します(法45条の14④)。」
「この報告を行う趣旨は、理事会による理事長および業務執行理事に対する職務の執行の監督を機能させるためです(法45条の13②二)
 
 といったように「項」は丸で囲った書き方で書いています。また、「号」は漢数字が多く、時々ローマ数字で書いています。

 しかしながら、本来は例えば「法45条の13第2項2号」といった書き方をすべきです。

 では、なぜ拙著や当ブログではこのような書き方になっているのかというと、理由は以下のとおりです。
 実は、拙著「「社会福祉充実計画」の作成ガイド」(中央経済社)を執筆しているとき、私のもともとの原稿では「法○条○項○号」といった記載をしていたのですが、1回目の校正のとき、中央経済社様から「項や号は、①にするなど、略して記載してください。」という要請があったためです。
 従って、このような記載をしているというわけです。

4.「第」はつける必要があるか
 次に、「第…項」といったように「第」までつける必要があるのかという点ですが、これは「出題の趣旨」の会社法のコーナーが参考になります。
 一部を引用してみます。

(イ)「本件債権の弁済期が到来していれば、現物出資財産の価額(会社法 199 条1項3号)は当該債権に係る負債の帳簿価額(券面額)と同額に定められているから、会社法 207条9項5号により、同条の手続は不要である。」

(ロ)「また、Aは当該出資の履行の仮装に関与した取締役に当たり、そのことについて職務を行うについて注意を怠らなかったとはいえないから、Aも甲会社に対して責任を負い(会社法 213 条の3第1項)、BとAの責任は連帯する。 」

 これらを見ると、基本的には「第」は不要ですが、一部で必要なときがあります。 
 それは、(ロ)のように、条の部分が「…条の…」となっている場合です。この場合、「第」をつけないと、「213条の3 1項」といったように数字が続いてしまい、わかりにくくなります。この場合だと「213条の31」と見えてしまうかもしれません。従って、このような場合は「第」をつけると読みやすくなります。

 なお、私の記憶では、会社法でこのような条文の書き方がされたのは、弥永真生教授の「リーガルマインド会社法」(有斐閣)ではなかったかと思います。勝手な推測ですが、このテキストを書くときも出版社から「条文は省略して書いてほしい」と言われたのではないかと思います。
 しかしながら、試験委員も務められた著名教授の本がこのような記載をしているといっても、条文の略書はしない方がよいと思います
 
5.まとめ
 条文は「○条○項○号」といった記載をして、法律要件をしっかりと示すことが重要です。そのためには、普段からテキスト・参考書よりは、条文を読むほうがよいです。
 以上、参考としていただけますと幸いです。

2018年9月1日土曜日

キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)と資金繰り(1)

1.概要
 今回は、近年、経営指標としても注目されているキャッシュ・コンバージョン・サイクル(Cash Conversion Cycle 以下「CCC」)について記載します。
 CCCとは、簡単に言うと資金を投下してから資金が回収されるまでの期間をいいます。このCCCの数値が小さければ、資金効率がよいということになります。
 
2.CCCの仕組み
(1)計算式と図
 計算式は以下のとおりです。

 CCC=売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-仕入債務回転期間

 計算式だけだとわかりにくいので、図で示してみます。

【図1】

 この場合の仕入は掛仕入、売上は掛売上を前提としています。
 上図から分かる通り、CCCは掛仕入の代金を支払ってから売掛金の回収が完了するまでの期間です。資金の投下のために出ていったお金が、成果として入ってくるまでの期間ともいえるでしょう。
 これからも分かる通り、この期間が短ければ短いほどよいことになります。逆に、長いということは、お金が入ってくるまでの期間が長いということですから、資金繰りが苦しくなります。
 そのため、CCCが長くならないようにするとともに、CCCを短くしていくことが資金繰りのためには重要です。

(2)資金繰りの重要性
 以前、「事業計画と資金繰表~継続企業の前提(2)」では「企業の継続性が成り立たなくなるとは、経営が破綻するということですが、より具体的に言うと、資金繰りがショートするということです。」と述べました。企業の存続は資金繰りにかかっています。そのため、資金繰りの管理は非常に重要です。
 しかしながら、現実には資金繰りの管理がうまく行かず、破綻するケースも見られます。特に、損益計算上では黒字なのに、資金繰りがショートする「黒字倒産」のケースも見受けられます。これは「キャッシュ・フロー計算書作成の必要性(1)」「キャッシュ・フロー計算書作成の必要性(2)」で述べたように、発生主義会計のもとでは「収益・費用」と「収入・支出」にタイミングのズレがあることから、発生主義会計の損益計算書のみを見ていると、キャッシュ・フローが盲点になってしまうからです。
 従って、キャッシュ・フロー計算書を作成し、キャッシュ・フローを管理する必要があるというわけです。
 ただし、キャッシュ・フロー計算書は結果を示したものに過ぎず、ここからキャッシュ・フローを改善するにはどのような手段をとればよいのかということになると、キャッシュ・フロー計算書のみでは苦しいものがあります。
 しかしながら、今回のCCCは資金繰りの指標を示すものなので、CCCを計算してCCCを短くする方策をとり、資金繰りを管理することで、資金繰り及びキャッシュ・フローの改善につながります。

3.公認会計士試験より
 最後に、平成30年度の公認会計士試験にもCCCの問題が出ていましたので紹介します。
 ちなみに、なぜ知っているのかというと、身近に受験生がいるので公認会計士試験については気になっているためです。なお、試験問題は金融庁の公認会計士・監査審査会のこちらのページで見ることができます。
 CCCが出ていたのは会計学(午前)の問題です。(会計学(午前)は管理会計論です。)
 そこで、会計学(午前)の第2問問題1の一部を引用してみます。ぼやけていますがご容赦ください。
 
(平成30年公認会計士試験論文式試験会計学(午前)の問題より)

 問2では、20☓1年と20☓2年のCCCが問われています。
 「ク」の欄は簡単に求めることができます。
  CCC=売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-仕入債務回転期間 ですから、

 62+58-51=69日 となります。
 
 なお、この会計学(午前)第2問問題1は、見たところとても時間がかかるのでまともに手をつけてはいけない問題です。その中で「ク」だけは単独でできる問題でした。
 
 ちなみに、以前にもCCCの問題は管理会計論で問われています。

4.最後に
 CCCは以前より管理会計の世界で紹介されていたものですが、近年CCCを重視する企業も増えています。
 中小企業などではキャッシュ・フロー計算書やCCCを取り入れられていないところが多く見られますが、資金繰りの管理・改善のためにぜひ、導入していただきたいと思います。


2018年4月24日火曜日

有形固定資産の除却について

1.概要
 使用されなくなった機械や備品などは処分を行うことになりますが、この処分について会計上は除却として処理することになります。
 今回は、除却に係る論点について記載します。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.除却に係る会計処理
(1)期中の減価償却費を計上する処理
 除却を行う場合でも、減価償却が進行中の有形固定資産であれば、原則として期首から除却時までの減価償却費を計上します。
 簿記の教科書に記載されている仕訳はこの方法です。公認会計士試験、税理士試験、簿記検定試験を受験するために勉強された方はこの方法をマスターされていると思います。
 例えば、工具器具備品を除却した場合の仕訳例は以下の通りです。

【仕訳例】(間接法の場合)
(借方)減価償却累計額 ・・・ (貸方)工具器具及び備品 ・・・
    減価償却費   ・・・
    固定資産除却損 ・・・

(2)期中の減価償却費を計上しない処理
 一方、実務上、減価償却費を計上しない会計処理を適用している会社もあります。この場合、期首帳簿価額が固定資産除却損となることになります。
 仕訳例は以下の通りです。

【仕訳例】(間接法の場合)
(借方)減価償却累計額 ・・・ (貸方)工具器具及び備品 ・・・
    固定資産除却損 ・・・

 結果として期中の減価償却費が固定資産除却損に含まれる形となります。
 財務諸表監査上も、この会計処理も概ね問題なしとして判断しています。ただし、継続適用することが前提です。ある年は、減価償却費を計上し、別の年は減価償却費を計上しないという処理は認められません。
  
3.除却漏れ
 有形固定資産が除却されたら、上記のように会計上にも反映することになりますが、ときどきこの除却の処理が行われていないときがあります。
 原因は、除却の情報が経理部に届いていないためです。そのため、固定資産の除却の仕訳がおこされず、固定資産台帳にも計上されたままということが生じてしまいます。
 これを防止するための一つの方法は、有形固定資産についても実査を行うことです。
 実査を行う場合は、前提として、全ての有形固定資産について、購入時に管理番号を付したシールを添付しておくことです。管理番号は固定資産台帳に付した番号がよいでしょう。そのほうが、照らし合わせやすいからです。
 また、下記4にも記載していますが、現場から除却の情報が経理部にもれなく届く組織作りも必要です。
 なお、私の経験上、支店や店舗に行くと、固定資産台帳に計上されている有形固定資産について、現場の管理者がどこにあるのかを全く把握されていなかったり、そもそも、固定資産台帳に計上されている有形固定資産そのものについて「こんなのあるのですか?」といったように、あるのかないのかも把握されていなかったりするケースがよくありました。
 従って、内部統制の一環として、現場の管理者も固定資産台帳の内容を把握する体制作りが必要です。

4.除却に係る内部統制
 除却については、確実に廃棄処分されることが必要です。廃棄予定のものを、従業員が持ち帰って、リサイクル業者に売却して、金銭を得るというリスクも想定されます。また、パソコンについては情報漏洩が発生しないように、データを確実に消去する必要があります。
 固定資産の除却については、廃棄にかかる稟議書により、廃棄の承認を得てから廃棄処理を行うという流れにする必要があります。
 また、廃棄の際は、廃棄業者によって確実に回収されたことを確かめるために、複数人で立ち会い、さらに廃棄証明を発行してもらうことが望まれます。写真を撮っておくことも有効です。
 そして、廃棄が終わったら、経理部や固定資産台帳の管理者にその旨の情報が届くよう、廃棄証明書など廃棄したことが分かる証憑一式を稟議書のコピーとともに経理部に届けるようにする体制とするとよいでしょう。

2018年3月5日月曜日

実査の留意点(1)

1.概要
 3月に入りましたが、日本の多くの会社は3月決算が多いので、3月末日が決算日となります。また、公益法人も3月決算の法人が多く見られます。公益法人は外郭団体系の法人も多く、地方自治体の予算との関係があるためです。社会福祉法人は、法令で3月決算と決まっています(社会福祉法45条の23②)。従って、全ての社会福祉法人は3月決算となります。医療法人も3月決算の法人が多く見られます。
 このような3月決算の会社等のうち、法令で公認会計士又は監査法人の監査を受けなければいけない会社等や任意で公認会計士又は監査法人の監査を受けている会社等は、3月末日あたりに公認会計士又は監査法人による実査が行われます。
 このうち、社会福祉法人で会計監査を受けている法人は、今回が初めての実査となります。
 そこで、今回は実査について、留意点を記載します。なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.実査の対象
(1)無形固定資産は実査の対象とはならないのか
 実査の対象は、絶対的に決まっているものではありませんが、通常、現金、預金通帳、証書、有価証券、手形、切手、印紙、有形固定資産などです。
 無形固定資産については、姿かたちがないので実査の対象とされていないことが多く、そのため実査を行っていない公認会計士や試験合格者がよく見られますが、無形固定資産についても、方法を工夫すれば、種目によっては実在性の立証は可能です。
 例えば、固定資産台帳に載っているソフトウェアについて、業務の担当者の席に赴いて、パソコンを開いていただき、そのソフトウェアを稼働していただきます。そうすることで、そのソフトウェアが実在しているかどうかを確かめることはできます。もちろん、担当者には、そのソフトウェアの使用状況を質問します。
 大抵の場合は、実在性に問題はないのですが、ときどき、業務の担当者が経理担当者に「こんなソフトウェアありましたっけ?」と言っているときもあります。
 よくあるのは、最初の頃は使用していたものの、購入後、しばらくして他社からより性能のよいソフトウェアが発売されたため、そちらに乗り換えたというケースです。そのため、以前のソフトウェアが使用されずに忘れ去られているというものです。
 また、上の方の判断で業務用ソフトウェアを購入したのはよいのですが、現場ではそのソフトウェアに関心がなく、使用しないでそのままほったらかしにしている、というケースもあります。
 その他、購入したのはよいですが、実務に使用してみると使い勝手が悪いので、すぐに他のソフトウェアに切り替えたというケースもあります。

(2)ソフトウェアの評価の妥当性
 そうなると、評価の妥当性の問題が出てきます。
 ソフトウェアは通常5年で償却するので、帳簿価額がゼロ円になるのは早いのですが、ソフトウェアの進展は日進月歩です。新しいソフトウェアが発売されると、償却期間中でも、上記のように新しいソフトウェアに乗り換えるケースは珍しくありません。
 この場合、以前のソフトウェアは遊休資産と考えられます。昔は、このようなソフトウェアについては個別に評価減を行う実務がよく見られました。現在の制度会計では、固定資産の評価は減損会計基準に従いますので、使用していないソフトウェアは遊休資産とみて、(イ)重要なものについては、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位として取り扱い、(ロ)重要性の乏しいものは、これまでの使用状況等に鑑みて、資産グループに含めて取り扱う、とすることが妥当と考えられます(私見です)。

3.アサーション
 このように、実査は「実物検査」の略とも言われるように、実在性の立証を目的とするものですが、同時に、評価の妥当性の判断を行うときもあります。監査を行う公認会計士等は監査手続を機械的に行わず、現場の状況を見て適宜判断することが必要です。 

2017年11月25日土曜日

予算統制と月次決算

1.公認会計士試験短答式試験・管理会計論
 平成29年12月10日(日)に、平成30年公認会計士試験第Ⅰ回短答式試験が行われます。公認会計士試験合格を目指している弊法人スタッフも第Ⅰ回短答式試験のため試験休暇に入りました。
 スタッフを激励しながら、金融庁の公認会計士・監査審査会に掲載されている過去の試験問題を見てみたところ、平成29年第Ⅱ回短答式試験の管理会計論に、こんな問題がありました。
 なお、今回は、予算統制と月次決算について記載しますが、それはこの問題がきっかけです。

平成 29 年試験 第Ⅱ回短答式試験問題 管理会計論
問題11
予算管理に関する次の記述のうち,正しいものの組合せとして最も適切な番号を一つ選 びなさい。( 5 点)

 ア.資本予算は設備投資予算に代表される長期予算であるが,短期予算としての総合予算 の中に組み込まれることがある。 

イ.予算編成の方法を大別すると,組織階層にかかわらせてトップ・ダウン方式又はボト ム・アップ方式の 2 つの予算編成のタイプが考えられる。トップ・ダウン方式にこだわり過ぎると,各部門担当者のやる気を阻害してしまい,予算統制の機能が損なわれるおそれがないとはいえない。 

ウ.予算による統制は,事前統制・期中統制・事後統制という活動に分類される。この場 合,各責任センターの予算と実績とを比較し,その分析結果を報告して是正措置を実施する活動は専ら事後統制として行われる。 

エ.予算スラックとは,参加型の予算編成の過程において,部門管理者が予算の厳格度を 緩和することによって形成される予算額をいう。それゆえ,収益予算を容易に達成可能な水準に低く設定したり,費用として許容される予算額を過少に見積もることによって形成される。

 1.アイ   2.アウ  3.アエ  4.イウ  5.イエ   6.ウエ 

 私も試しに解いてみました。
 ちなみに、公認会計士試験の短答式試験は絶対評価で各肢の◯✕を判定するのではなく、相対的に考えて解答を選択するという点が重要です。これは、以前、某専門学校の講師をしていた某法科大学院の某教授の教えです。

2.各肢について
(1)アについて 
 まず、アですが、まあどうなんでしょう。そういうこともあるのかもしれませんが、はっきり判断できません。こういう場合は保留です。
 「~することがある。」「必ずしも・・・とはいえない。」といった判断に迷う肢は無理に判定しないことです。
 短答式試験は保留をうまく使うことが大事です。

(2)イについて
 前半は◯です。予算編成にはトップ・ダウン方式ボトム・アップ方式があります。
 そこで後半の文章を考えます。後半は「トップ・ダウン方式にこだわり過ぎると,各部門担当者のやる気を阻害してしまい,予算統制の機能が損なわれるおそれがないとはいえない。 」と記載されています。これも、確かにトップ・ダウン方式にこだわり過ぎると、上からの押し付けのようになってしまい、各部門担当者の意見が反映されませんからやる気が失せるでしょう。このような「押し付け予算」は、各部門の予算は各部門の実情を反映したものではないので、そのような予算と実績を比較して差異分析しても「どうすりゃいいんだ。もっとこっちのことを考えろ。」となるかもしれません。そうなると、予算統制の機能の一つである行動の改善につながらない恐れもあります。
 そのため、◯のような気がしますが、こちらもはっきりと言い切れないのでとりあえず保留にしましょう。

(3)ウについて
 こちらが、今回のブログのきっかけとなった肢です。
 まず、「予算による統制は,事前統制・期中統制・事後統制という活動に分類される。」は◯です。
 次に、「この場合,各責任センターの予算と実績とを比較し,その分析結果を報告して是正措置を実施する活動は専ら事後統制として行われる。 」ですが、まあ概ねそうでしょう、ということで一見◯に思えるのですが、しかし、期中で月次決算において予算実績分析も行うし、どうなんでしょう、ということで判断しにくい肢です。
 この「専ら」という言葉のとらえ方が難しいですね。一般的に、予算と実績の比較は最終的には、期末時に行う予実分析が重要といえると思いますので、「専ら」といっても別におかしくはない感じもします。
 ということなので、この肢も保留です。

(4)エについて
 この肢は簡単です。予算スラックについて書かれていますが、後半の「それゆえ,収益予算を容易に達成可能な水準に低く設定したり,費用として許容される予算額を過少見積もることによって形成される。」という記述が誤りです。赤字の部分は「過大」が正しいです。従って、(エ)は✕です。
 予算スラックが生じるときは、部門担当者は費用の予算を過大に見積もっています。費用を多めに見積もっておくほうが、費用の予算目標を達成しやすいからです。予算目標を達成すれば、その部門担当者の評価が上がります。そうなると、部門担当者の出世や給料にも影響します。
 そのため、部門担当者は達成しやすい予算を組むという「予算の歪曲化」が生じるわけです。
 従って、部門予算を組むときは、部門からあがってきた予算をそのまま受け入れるのではなく、予算編成担当者は、各部門の限界を少し超えるぐらいの予算に変更させることがよいでしょう。
 ちなみに、このように、予算編成担当者と各部門の予算スラックをめぐる攻防を予算ゲームといいます。

3.総合判定
 (ア)から(エ)の肢を見てきましたが、(エ)は確実に✕なので選択肢の3,5,6が消えます。
 残るは1,2,4ですが、(ア)から(ウ)は保留にしてしまいました。そこで、この(ア)から(ウ)の中で、比較しながら相対的に考えると、(イ)はおそらく◯でしょう。そうなると、2が消えます。
 従って、最終的には(ア)と(ウ)を比較することになりますが、(ウ)は「専ら」という言葉のとらえかたが難しいのですが、期中の予算実績分析も行われること、一方、(ア)は誤っているとはいえないということを考えると、(ウ)が消えるということになりそうです。
 そうなると正解は1ということなります。公認会計士・監査審査会から公表された正解も1です。

 しかし、これはなかなか難しい問題です。
 ちなみに、TACの本試験特別座談会には「文意を読み取るのが難しいので、正答を2分の1まで絞れればそれで十分でしょう。」と記載されていました。つまり、間違ってもかまわないということです。

4.期中の予算統制
 そこで、本題ですが、(ウ)の記載にある「各責任センターの予算と実績とを比較し,その分析結果を報告して是正措置を実施する活動」は、実務上、期末の予算実績分析のみならず、期中の予算実績分析でも行われます。

 目的は色々ありますが、主として差異分析により、各行動の改善につなげることです。
 一番簡単な例は、費用の場合は経費節減活動です。例えば、水道光熱費が月次予算を上回った場合、長時間残業により電気代、エアコン代がかなりかかったことが原因だということがわかれば、残業時間を極力減らして、電気代、エアコン代を減少させようか、というものです。このような改善を予算実績の差異分析から導き出します。

 ただ、経費節減活動は正直、あまり劇的な効果は出ないことが多いです。費用を劇的に減少させるには業務プロセスそのものを変革させることです。
 このような例があります。
 あるお菓子メーカーは、原料メーカーから工業用チョコレートを固形で購入していましたが、あるときから原料メーカーは液体のままタンクローリーでチョコレートを納品するようにしたそうです。
 そうすると、お菓子メーカーでは、固形チョコレートのときと比較して、包装をほどく手間と人件費、固形チョコレートを溶解するコストと時間が劇的に減少したそうです。原料メーカーもチョコレートを冷やして固形にするためのコストと時間が減少しました。
 もっとも、この事例は費用減少の例ではなく、お互いが満足を得られるように工夫した事例なのですが、費用の減少の参考としても見ることができます。
 この事例から分かることは、創意工夫によって、業務プロセスを変革させていくことが必要だということです。

 このような、行動改善、ひいては業務プロセスの改善を行うためには、まず大前提として月次決算を行うこと、そして、翌月の早い時期に予算実績分析を行うことです。
 このとき、注意すべきは、月次決算は現金主義で行うのではなく、発生主義会計で行うことです。
 具体的には、未収、未払の計上、毎月の棚卸、減価償却費の月次計上、賞与引当金や退職給付引当金といった人件費に係る引当金の月次計上などです。

 このように、月次決算を発生主義会計で行い、早期に予算実績分析を行うことで、期中に活動の改善につなげることができ、期末に向けて予算達成に向けた行動を取ることができます。すなわち、予算上の利益を達成するすることにつながります。逆に言えば、月次決算で予算実績分析を行わなければ、活動の早期改善が行われないことになり、期末付近の決算見込時に慌てることになります。
 あと、余談ですが、この予算についても期中を通して硬直的ではなく、環境変化に応じて予算を改定していくことも必要です。
 
 以上、期中の予算統制について見てきましたが、株式会社のみならず、公益法人は財務3基準(特に収支相償)、社会福祉法人は社会福祉充実残額の有無の判定といった法令上の要求を満たす必要もありますので、期中から予算実績分析を行い、行動の改善につなげていくことが重要です。

2017年7月15日土曜日

意見不表明の2つの意味

 東芝の平成28年度第3四半期の四半期レビューにおいて結論の不表明がなされたことが大きな話題となりました。なお、マスコミなどでは「意見不表明」と記載されているところが多いですが、四半期レビューなので、正確には「結論の不表明」となります。「意見不表明」は期末監査において使用する用語です。
 今回は、この「意見不表明」について記載します。なお、あくまで私見であることにご留意ください。

1.意見不表明は「意見」なのか
 結論から言うと、意見不表明は「意見」の一つです。
 かつては、意見不表明(昔は「意見差控」と呼んでいました)が意見なのか、それとも意見ではないのか、という論争が学会を中心に起こっていました。しかし、平成23年(2011年)12月に公表された監査基準委員会報告書705「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見」の第2項で「本報告書における除外事項付意見には、限定意見、否定的意見、及び意見不表明の三つの類型がある。」とされ、制度においては意見不表明も意見の一つであることが明確になりました。

 余談ですが、私は次のような経験があります。監査の現場で、あるスタッフが「このままでは意見不表明となる可能性がある」と言ったところ、クライアント側が「そんな・・・ 我々は監査契約を結んで、監査報酬も払っているのです。それなのに、意見を出さないなんて契約違反なのではないですか!?」と強硬に反論してきました。当時は監査基準委員会報告書が出ていない時代でしたが、確かに、監査契約を締結した側からすると、違和感があるかもしれません。今回の東芝の件でも、このような論調の記事がありました。

 しかし、冒頭に述べたように意見不表明も意見の一つです。意見不表明としたからといって、監査人が責任や義務を放棄したのではありません。そうではなく、監査人は責任や義務を果たしたといえます。

2.本来の意見不表明
 まず、前述のように意見不表明が意見であることを明確にした上で、次に、本来の意見不表明の意義を述べます。
 本来、一般的に、意見不表明とは、「重要な監査手続を実施できなかったことにより、財務諸表全体に対する意見表明のための基礎を得ることができなかったとき」(監査基準第四 五 2)に行うものです。具体例としては、(イ)天災により本社が被災し会計帳簿などが消失した、(ロ)監査契約締結時期が遅く、実査、立会など重要な監査手続が実施できなかった、(ハ)特捜部や裁判所などに会計帳簿等を押収されてしまい、監査手続を実施できなかった、(ニ)被監査会社側が監査手続の実施に制約を課してきた、などのケースがあります。
 公認会計士試験の受験生の方も、意見不表明というとこの内容で学習されていると思います。

 ちなみに、監査基準委員会報告書705第8項では「監査人は、意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手できず、かつ、未発見の虚偽表示がもしあるとすれば、それが財務諸表に及ぼす可能性のある影響が、重要かつ広範であると判断する場合には、意見を表明してはならない。」という書き方をしていますが、内容は同じです。
 
 なお、監査基準では、①構成単位の監査人(監査基準では「他の監査人」)が実施した監査の重要な事項について、その監査の結果を利用できないと判断したときに、更に当該事項について、重要な監査手続を追加して実施できなかった場合や、②将来の帰結が予測し得ない事象又は状況について、財務諸表に与える当該事象又は状況の影響が複合的かつ多岐にわたる場合(いわゆる「未確定事項」)について、意見不表明の可能性について判断しなければいけない旨が記載されています。

 まとめると、意見不表明とは重要な監査手続を実施できず十分かつ適切な監査証拠を入手できなかったことが、いわば前提要件であるといえます。

3.実務上の意見不表明
 しかし、実務で出てくる意見不表明は、このような本来の意見不表明とは異なっているものが見られます。典型例は、会計処理について監査人側とクライアント側が対立して、クライアントが監査人の指導に従わないケースです。

 このような意見不表明のケースでは、実際には監査手続は行っています。また、監査手続を行った結果、監査証拠も入手しています。監査チームは現場に行って、監査手続を行っています。
 では、この場合の意見不表明とは何でしょうか。
 私見ですが、これは事実上の不適正意見です。
 
 監査意見には、無限定適正意見、限定付適正意見、不適正意見、意見不表明の4種類があります。
 不適正意見とは「経営者が採用した会計方針の選択及びその適用方法、財務諸表の表示方法に関して不適切なものがあり、その影響が財務諸表全体として虚偽の表示に当たるとするほどに重要であると判断した場合」(監査基準第4 四 2)に表明するものです。

 しかし、監査実務ではこの不適正意見が出てくることは滅多にありません。 
 その理由ははっきりしないのですが、長年の監査の実務慣行のようです。
 監査実務においても、重要性の高い会計上の論点について、クライアント側が修正を拒むようなとき、審査担当を含んだ監査チームや社員会では「意見を出すかどうか」という判断基準で議論を進めていきます。

 以下、簡単な例をあげて説明します。ここでは減損会計を例にあげます。
 例えば、ある資産又は資産グループについて、どうみても減損の兆候があると判断されるのに、クライアントは減損の兆候を認識していないとします。減損の兆候を認識していませんから、当然、その次の段階である減損損失の認識の判定も行っていません。
 そこで、この資産又は資産グループについて監査人側で計算してみると、減損損失の認識を行う必要があり、その結果、減損損失の測定も必要であることが妥当と判断したとします。この場合、監査人は、クライアントに対して減損損失を認識し測定することを指導します。
 しかし、クライアント側はそれを拒否し、減損損失の認識及び測定を行わなかったとします。そうなると、クライアントは本来、認識すべき減損損失を計上していないことになります。

 さらに、この認識すべき減損損失の額がかなり巨額であり、重要性の基準値を超えてしまっていたとします。ここで、重要性の基準値とは、簡単に言うと、財務諸表において重要であると判断する虚偽表示の金額のことです。そのため、この金額を超えるとその財務諸表には重要な虚偽表示があるということになります。

 普通に考えると、この場合、本来認識すべき減損損失が計上されておらず、しかもその金額は多額であるため、重要な虚偽表示があると判断されるレベルなのですから、不適正意見を表明するということになりそうです。
 しかし、監査実務では、例えば、「減損会計の適用の要否の判断において、十分かつ適切な監査証拠を入手することができなかった。この結果、(中略)何らかの修正が必要かどうかについて判断することができなかった。」といった記載で意見不表明とされることが通常となっています。

 監査人は減損に関する監査手続を行っているのに「十分かつ適切な監査証拠を入手することができなかった」とは違和感がありますが、この場合は、クライアントから減損損失の兆候、認識及び測定に関する監査証拠が提示されなかったため、これらに関する十分かつ適切な監査証拠を入手できなかったと解釈するものと考えられます。クライアントは、減損に関する会計処理を行っていないのですから、減損に関する会社作成資料はありません。そのため、監査人側としては、資料が提示されなかったので、監査手続のしようがない、という考えなのだと思います。

 このあたりは、監査実務の慣行なので、理論的ではない部分があるのですが、前述したように、この場合の意見不表明は、事実上の不適正意見と考えてよいと思います。すなわち、監査人の判断では、事実上その財務諸表は全体として虚偽の表示ということです。