2018年3月5日月曜日

実査の留意点(1)

1.概要
 3月に入りましたが、日本の多くの会社は3月決算が多いので、3月末日が決算日となります。また、公益法人も3月決算の法人が多く見られます。公益法人は外郭団体系の法人も多く、地方自治体の予算との関係があるためです。社会福祉法人は、法令で3月決算と決まっています(社会福祉法45条の23②)。従って、全ての社会福祉法人は3月決算となります。医療法人も3月決算の法人が多く見られます。
 このような3月決算の会社等のうち、法令で公認会計士又は監査法人の監査を受けなければいけない会社等や任意で公認会計士又は監査法人の監査を受けている会社等は、3月末日あたりに公認会計士又は監査法人による実査が行われます。
 このうち、社会福祉法人で会計監査を受けている法人は、今回が初めての実査となります。
 そこで、今回は実査について、留意点を記載します。なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.実査の対象
(1)無形固定資産は実査の対象とはならないのか
 実査の対象は、絶対的に決まっているものではありませんが、通常、現金、預金通帳、証書、有価証券、手形、切手、印紙、有形固定資産などです。
 無形固定資産については、姿かたちがないので実査の対象とされていないことが多く、そのため実査を行っていない公認会計士や試験合格者がよく見られますが、無形固定資産についても、方法を工夫すれば、種目によっては実在性の立証は可能です。
 例えば、固定資産台帳に載っているソフトウェアについて、業務の担当者の席に赴いて、パソコンを開いていただき、そのソフトウェアを稼働していただきます。そうすることで、そのソフトウェアが実在しているかどうかを確かめることはできます。もちろん、担当者には、そのソフトウェアの使用状況を質問します。
 大抵の場合は、実在性に問題はないのですが、ときどき、業務の担当者が経理担当者に「こんなソフトウェアありましたっけ?」と言っているときもあります。
 よくあるのは、最初の頃は使用していたものの、購入後、しばらくして他社からより性能のよいソフトウェアが発売されたため、そちらに乗り換えたというケースです。そのため、以前のソフトウェアが使用されずに忘れ去られているというものです。
 また、上の方の判断で業務用ソフトウェアを購入したのはよいのですが、現場ではそのソフトウェアに関心がなく、使用しないでそのままほったらかしにしている、というケースもあります。
 その他、購入したのはよいですが、実務に使用してみると使い勝手が悪いので、すぐに他のソフトウェアに切り替えたというケースもあります。

(2)ソフトウェアの評価の妥当性
 そうなると、評価の妥当性の問題が出てきます。
 ソフトウェアは通常5年で償却するので、帳簿価額がゼロ円になるのは早いのですが、ソフトウェアの進展は日進月歩です。新しいソフトウェアが発売されると、償却期間中でも、上記のように新しいソフトウェアに乗り換えるケースは珍しくありません。
 この場合、以前のソフトウェアは遊休資産と考えられます。昔は、このようなソフトウェアについては個別に評価減を行う実務がよく見られました。現在の制度会計では、固定資産の評価は減損会計基準に従いますので、使用していないソフトウェアは遊休資産とみて、(イ)重要なものについては、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位として取り扱い、(ロ)重要性の乏しいものは、これまでの使用状況等に鑑みて、資産グループに含めて取り扱う、とすることが妥当と考えられます(私見です)。

3.アサーション
 このように、実査は「実物検査」の略とも言われるように、実在性の立証を目的とするものですが、同時に、評価の妥当性の判断を行うときもあります。監査を行う公認会計士等は監査手続を機械的に行わず、現場の状況を見て適宜判断することが必要です。