2018年8月29日水曜日

社会福祉法人向けセミナー開催のお知らせ

 平成30年10月に社会福祉法人向けセミナーを開催することになりました。
 テーマは、会計監査でよく問題となる主要論点の解説です。

 会場は以下の3会場です。セミナー開始時刻はいずれも14時00分です。

 10月4日(木)   ハートピア京都
 10月9日(火)   阪急グランドビル
 10月11日(木) 神戸国際会館

 現在、平安監査法人HPへのアップロードを準備中ですが、先行して以下のページを印刷していただき、FAXでお申し込みいただいても結構です。
 FAX番号は 075-256-1231 です。

 今回はどの会場も席数数が少なくなっていますので、ぜひお早めにお申し込みください。
 
 皆様のご来場をお待ちしております。
 
 

2018年8月26日日曜日

公益法人の立入検査のポイント(1)

1.概要
 8月も終わりに近づき、9月になろうとしています。9月になると行政庁による公益法人の立入検査が本格的に始まります。もちろん、8月に実施しているところもありますが、どちらかというと9月以降が多くなります。
 公益法人の制度改革以後、ほぼすべての公益法人(公益認定を受けた一般社団法人及び一般財団法人をいいます。以下同じ。)には立入検査が入っていますが、近年設立された公益法人やこれから公益法人を設立しようとされる方もいらっしゃると思います。特に、事業承継や相続税対策のために今後、公益法人を設立したいという方は多くいらっしゃいます。
 そこで、今回は公益法人の立入検査のポイントについて記載したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.立入検査とは何か
 立入検査の根拠は、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)の第27条①に求められます。
 認定法27条①では「行政庁は、公益法人の事業の適正な運営を確保するために必要な限度において、内閣府令で定めるところにより、公益法人に対し、その運営組織及び事業活動の状況に関し必要な報告を求め、又はその職員に、当該公益法人の事務所に立ち入り、その運営組織及び事業活動の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。」と定められています。
 これを根拠に、行政庁が立入検査を行うわけです。
 立入検査は、条文のとおり、公益法人の事業について適正な運営ができているかどうかを調べるために行われます。
 具体的には、大きく分けて①機関運営や公益事業の実施といったガバナンス面と②内部統制を含む会計面について調べられます。

3.行政庁ごとの実施例
 立入検査のスタイルは行政庁によって異なります。
 私もこれまで数多くの立入検査に立ち会ってまいりました。
 ここでは、私の知っている範囲で各行政庁の立入検査の実施状況を記載してみます。ただし、私の記憶違いもあるかもしれませんので、あくまで参考でお願いいたします。

(1)内閣府
 日数:1日
 時刻:午前11時~午後4時頃
 人数:2名
 内容:ガバナンス面と会計面(事業報告等を含む)
 頻度:概ね4年に1回
 特徴:内閣府はプロパー職員は少なく、大抵他の省庁から出向されている方です。
東京から出張されるので、関西あたりに来られるときは日帰りになります。

(2)京都府
 日数:1日
 時刻:午後1時~午後5時30分
 人数:3~4名 うち1名は公認会計士
 内容:ガバナンス面と会計面
 頻度:概ね3年に1回
 特徴:①京都府は、ガバナンス面と会計面のそれぞれについて担当者がつき、同時並行で検査を行っていきます。会計面は公認会計士が行います。時間が午後のみと短い分、役割分担を行って効率的に行うということだと思います。そのため、担当者数も多めになります。
②事前に立入検査のチェックポイントが送られてきます。これにより、どのようなことを検査されるのかを事前に知ることができます。
③事業報告等については立入検査当日は見ないことになりました。

(3)滋賀県
 日数:1日
 時刻:午前10時(だったと思います)~午後5時30分
 人数:2名
 内容:ガバナンス面と会計面(事業報告等を含む)
 頻度:概ね3年に1回
 特徴:①滋賀県は前半をガバナンス面、後半を会計面といった感じで進めていました。役割分担はなく、ガバナンス面、会計面を二人で一緒に見ていました。
 ②滋賀県は滋賀県公益認定等委員会のHPで、立入検査実施計画を公表し、どの年度にどの公益法人に立入検査を行うのかというスケジュールを公表しています。また、立入検査チェックシートも公表しています。これにより、どのようなことを検査されるのかを事前に知ることができます。

(4)大阪府
 日数:1日
 時刻:午前10時~午後5時30分
 人数:3~4名 うち1名は公認会計士
 内容:ガバナンス面と会計面(事業報告等を含む)
 頻度:4年に1回
 特徴:ガバナンス面と会計面についてそれぞれ担当者がつき、同時並行で行っていきます。京都府と同じスタイルですが、大阪府は終日実施します。
 頻度は4年に1回となったそうです。

(5)兵庫県
 日数:1日
 時刻:午前9時30分~午後5時30分
 人数:2名
 内容:ガバナンス面と会計面(事業報告等を含む)
 頻度:概ね3年に1回
 特徴:事業報告等の担当者、ガバナンス面・会計面の担当者がいて、同時並行で行っていきます。
 事前に準備していただきたい資料のリストが送られてきます。

 日数は、どの行政庁も通常は1日です。ただし、ごくまれに2日間にわたって行われるところもあるそうです。
 また、終了時刻ですが、予定よりも早い時刻に終わることもよくあります。

4.最後に
 今回は、立入検査の概要面について記載しました。
 公益法人であれば、立入検査は必ず実施されます。これから公益法人を設立することを考えられている方は、公益法人は設立したら終わりではなく、設立後もいろいろな規制が続くということを知っていただきますようお願いいたします。

2018年8月18日土曜日

組織化の理論と実務(4)

1.概要
 今回は組織化を行うための手段として伝統的組織論に基づく管理原則を紹介したいと思います。
 この管理原則は、集団を組織として機能させるためには、押さえておくべき基本原則です。組織化が行われていない、あるいは組織化が不十分な会社等はこの管理原則に不備が見られることが非常に多いです。

 管理原則にはいろいろなものがありますが、ここでは数回にわたって(1)命令一元化の原則、(2)専門化の原則、(3)スパン・オブ・コントロール、(4)権限責任一致の原則、(5)階層化の原則、(6)権限委譲の原則、をあげてみたいと思います。

2.命令一元化の原則
(1)意義
 命令一元化の原則とは、部下は直属の上司一名から命令や指示を受けるべきであるとする原則です。

 なぜかというと、部下が複数の上司から命令や指示を受けると、部下が混乱するからです。具体例を上げると、二人の上席からそれぞれ期限のある仕事をふられると、ふられた部下としては、2つも同時に期限のある仕事を進めることは困難となりどうすればよいのか困ってしまいます。
 また、A部長とB部長とで主張が異なるというケースもあります。そうなると部下はどちらの方針で行動すればよいのかわからなくなってしまいます。

 このように、複数の上司から命令や指示を受けると、部下が混乱してしまい業務を効率的に行うことが困難となってしまいます。これは、結果として組織全体の業務効率が落ちることにつながります。
 従って、部下は直属の1名の上司から命令・指示を受ける体制とすることを原則とする必要があります。

 なお、命令一元化の原則は絶対的なものではなく、ファンクショナル組織やマトリックス組織のように、複数の上司により命令・指示が出るという組織もあります。

(2)命令一元化の原則確立の方法
 組織化がうまく行っていない会社等ではこの命令一元化の原則が取り入れられていないケースが多く見れらます。これは階層化の原則や権限委譲の原則にもつながるのですが、職務権限規程に基づいた指揮命令系統が確立されていないことが原因です。
 そのため、例えば、スタッフが課長から指示を受けて行ったことが、翌日部長にひっくり返されて、また仕事を一からやり直さなければならないといった理不尽なことが起きてしまいます。

 命令一元化の原則を確立するには、職務権限規程と組織図をしっかりと作り、指揮命令系統を具体的に定めるとともに、上の人間や他の部署の人間が権限を無視して口出しをしないという組織風土を醸成することも必要です。

 そのためには、トップの役割が重要となります。このような組織風土は、役員や従業員任せではなかなか形成されません。役員や従業員の多くは、現状を変えることに抵抗があるためです。そのため、トップは現状の組織風土を破壊する意気込みでドラスティックに改革を行う必要があります。
 
3.専門化の原則
(1)意義と効果
 専門化の原則とは、業務を細分化し、その細分化した業務について専門的に行うこととする原則です。

 専門化については、業務プロセスを細分化し、ひとつひとつの作業を単純化することから始まります。これは「組織化の理論と実務(3)」で触れた業務の標準化につながります。このように標準化された各業務を特定の人間が行うことが専門化となります。
 具体例をあげると、営業であれば営業を、経理であれば経理を、法務であれば法務を、といったように会社の業務を細分化してそれぞれの業務について専門的に業務を行うということです。

 このように、特定の業務を専門的に行うと、経験値が高まり業務のスピードが高まります。また、長い期間、専門的に行うため、その業務に対する深度も増します。その結果、組織全体として業務の効率化が進みます。

(2)中小企業における問題点
 一見すると、専門化の原則は当然のように思われるかもしれませんが、この専門化の原則が取り入れられていない会社等は実は多く見られます。特にいわゆる中小企業では、その傾向が強く見られます。

 例えば、管理部という部署があり、その下に総務課、経理課といった課を組織上は設けているのですが、実際は経理課の職員が総務の業務も行っていたり、管理部長が営業も行っていたり、というケースが見られます。

 これは中小企業では人が少ないことが原因なのですが、一方で、トップの意識に問題があることが原因と思われるケースも多く見られます。すなわち、トップが「管理系の人間は売上に貢献していないのだから、そんなに人を置く必要はない。」と考え、管理系の業務の人員を極端に少なくしているケースがあるのです。そのため、管理系の人員が不足し、経理の人が総務も行うということが起こってしまうわけです。

 これでは、専門化が実現できません。例えば、経理の人は経理の仕事のみを行うことで、スキルが向上し業務スピードも上がってきます。しかし、経理の人が総務の仕事も行うようだと、経理業務のスピードが上がらないどころか、大量の業務をこなさなければならず、業務効率が下がってしまいます。これは結果的に会社全体の業務効率が落ちる結果となります。

 確かに、ホワイトカラーの人員と人件費が必要以上に多いと、間接部門の肥大化となり、会社全体の収益性は落ちます。バブル崩壊後の日本企業では、直接に収益を生み出さない間接部門が肥大化していたところが多かったため、リストラクチャリング(事業の再構築)を進めていきました。
 しかしながら、管理業務の人員が少なすぎると、上記のように、逆に業務の効率性が落ち、収益性も落ちてしまいます。

 従って、専門化の原則を進めるために必要な最低限の人員は揃えて、専門化を促進し、会社全体の業務効率を上げていく必要があります。

2018年8月5日日曜日

監事監査のあり方~公益法人・社会福祉法人共通

1.概要
  公益認定を受けた公益社団法人は、理事会の設置が公益認定のための要件となっていますので(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)5条十四  ハ)、監事の設置が必要です(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」61条)。また、一般財団法人は監事を設置しなければならないとされているので(一般法170条①)、公益認定を受けた公益財団法人も監事が設置されています。
  また、社会福祉法人では、社会福祉法で監事を置かなければならないと定められていますので(社会福祉法(以下「社福法」36条①)、社会福祉法人も必ず監事が設置されています。
  今回は、この監事による監事監査のあり方について記載していきたいと思います。
  なお、本稿は私見であることにご留意ください。

 2.監事監査の内容
監事は、理事の職務の執行を監査するとされています(一般法99条、社福法45条の18①)。監事監査には会計監査業務監査が含まれます。会計監査については、計算関係書類の適正性について監査を行います。また業務監査は、理事の職務の遂行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実がないかどうかについて監査を行います。
 監事は監事監査を行うと、その内容を記載した監査報告書を発行します(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行規則36条及び45条、社会福祉法施行規則2条の27及び2条の36)。

3.監事監査の現状
 このように監事は会計監査と業務監査を行う義務があります。従って、監事は会計監査と業務監査を行った上で、自ら結論を形成し、監査報告書を作成し、署名押印を行う必要があります。
 しかしながら、行政庁名は伏せますが、監査を行わないで監査報告書に署名押印のみを行っている監事がいるのではないか、ということで公益法人の立入検査では、本当に監事が会計監査と業務監査を行ったのかを確かめるようになってきています。
 具体的には、監事が監査を行ったことを示す証拠の提示が求められてきています。
 このとき提示するものとしては監事が行った監査手続とそれに対する結果や指摘事項などを示した書面が望ましいといえます。名称は「監事監査レポート」、「指摘事項一覧」など様々で、決まったものはありません。
 ちなみに、監査法人による株式会社の財務諸表監査では、監査役レポートの提示を求めています。内部統制を構成する要素で最も重要なのは統制環境ですが、統制環境が適切に機能しているかどうかは、ガバナンスが機能しているかどうかを見る必要があるからです。このガバナンスが機能しているかどうかの判定の手段の一つが監査役レポートです。すなわち、監査役レポートを見れば、監査役がどのようなレベルの監査を行っていて、ガバナンスがどのぐらい効いているのかといったことを知る上で一つの目安となるからです。

4.監事監査のあり方
 すでに決算期を過ぎた法人で、このような監事監査レポートが作成されていない法人は、今から監事に作成してもらうことはできませんので、このまま行くしかありません。しかしながら、今後は監事には監事監査レポートを作成してもらう必要があるといえます。見方を変えると、監事は自分が監査を行ったことを示すためにも監事監査レポートを作成する必要があります。もちろん、適切に監査を行うことが前提です。
 また、よく見られるのは、監事監査を行っている場合でも、決算時に設けられた監事監査の日にやって来て数時間で終わり、というものですが、期末後の日に数時間、決算書、残高証明書、元帳を見ても実効性のある監査は期待できません。従って、今後は期末決算時だけではなく、期中にも監事監査を行うことが望まれます。
 実際、中間時、期末時の少なくとも年2回、監事監査を行っている法人は存在します。また1~2時間で終えるのではなく、朝から夕方まで1日かけてしっかりと行っています。
 さらに、実効性のある監査を行うためには、年間の監査計画も作成する必要があります。
 上述のように、監事監査がしっかりと機能しているかどうかは、内部統制の最重要要素である統制環境に影響を与えます。統制環境は内部統制のすべての要素に影響を与えますから、監事がしっかりとその役割を果たしていないと、法人の内部統制全体に悪い影響を与えることになります。
 従って、法人運営を行うにあたっては、監査を適切に行うことができる監事を選任する必要があるといえます。