2019年8月30日金曜日

大手コンビニで水増契約

1.はじめに

大手コンビニ会社で、社員が水増契約を行い、4億3千万円を私的流用していたというニュースがありました。会社のニュースリリースを見ると

「当社のIT部門の元従業員(50代男性・在籍35年)が、2011年から2019年までの約9年間にわたって取引先と共謀し、業務委託料の水増しにより予備費の名目で取引先にプールさせ、これを私的用途に使用していました。金額は合計約4.3億円となります。」

 と記載されていました。
 非常に多額の横領ですが、日本経済新聞の記事などを見た限りでは、私がこれまで記載した内部統制の不備の典型例のような感じもします。


2.不正の背景

水増契約の場合、通常、取引先に協力者がいます。今回も取引先の男性が共謀していたということです。
 また、この大手コンビニ会社のIT部門を担当する男性は、長くこの部門を担当し、また、システム委託を一人で担当していたと報道されています。
 これらから推測すると、共謀関係が生じたのは、このIT部門の職員が一人で長く担当していたためと考えられます。同じ担当者同士が長い間、取引を行っていると人間関係が深くなります。そうなると、共謀関係も生じるリスクがあるというわけです。

3.どのような内部統制の不備か

水増契約の対策については、過去のブログ「転売を目的としたパソコンの不正購入(2)」でも記載しましたが、発注依頼者と発注担当者を分けることが有効です。このときのブログでは「発注依頼者と発注担当者も分ける必要があります。これらが同じ人だと、取引先と共謀して架空取引や水増契約のリスクがあるからです。」と記載しました。
 今回のケースでは、詳細は不明ですが、IT部門のシステム委託を一人で担当していたということから、発注依頼者と発注担当者が分けられていなかった可能性が高いと思います。
 実際、朝日新聞の記事では「男性社員が04年ごろからこの取引先への業務委託を1人で担っていたため、チェック機能が働かなかったなどと説明。」と記載されています。
 これは、内部統制のデザインに問題がある、典型的な不備といえそうです。

4.システムやサービスの特性

今回はシステムの業務委託ということですが、こういった取引は有形ではなく無形のサービスであるため、目に見えません。そのため、システム取引やサービス取引は注意する必要があります。これも過去のブログ「架空取引に係る内部統制」においても、「サービス提供の場合、サービスを受けたかどうかの確認が難しいケースもあります。」と記載しました。すなわち、サービス取引は成果物が目に見えないものなので、有形のものと比べるとわかりにくいのです。
 過去にも新幹線の受発注システムで架空取引が行われたこともありました。

5.内部通報制度

今回のケースは内部通報制度で発覚したということです。
 「架空取引に係る内部統制」でも「内部通報制度は内部統制の一つです。構築した内部統制を巧妙にくぐり抜けるケースもありますが、内部通報制度により内部統制の弱点を補えることもあります。」と記載したとおり、内部通報制度を設けることは非常に有効です。
 また、内部通報制度により社外の弁護士らが調査していたということですが、同ブログでも「方法としては、例えば、顧問契約をしている法律事務所にホットラインを設けるという方法が考えられます。このようにすれば、従業員が安心して通報できるからです。」と記載しました。
 内部通報制度はこのように外部の弁護士などにつながるようにするのがよいと思います。

6.まとめ

今回のケースも典型的な内部統制の不備という印象です。
 我が国の会社は、どちらかというと社員が悪いことをするという前提で内部統制を構築する傾向はあまりないように感じます。
 一方で、内部統制の強化は、自社内で従業員の不正が起こって初めて行うということが多くみられます。
 確かに、従業員を性悪説で見ることは、我が国では会社の社風にあわないところが多いかもしれませんが、一度起こると、企業イメージも悪化するので、念には念を入れて不正を防止する内部統制の構築に力を入れるべきだと思います。

2019年8月25日日曜日

「梅田」が「大阪梅田」へ~変わる関西の駅名

1.阪急・阪神が梅田駅の名称を改称


 阪急電鉄と阪神電鉄は、令和元年10月1日より梅田駅の名称を「大阪梅田」駅に改称します。
 理由としては、JRは「大阪」なのに、阪急と阪神は「梅田」となっていて、ほぼ同じ場所にあるのに駅名が異なっていることから外国人観光客からは「わかりにくい」という声が上がっているため、と言われています。
 確かに、最近、関西に訪れる外国人観光客は急激に増えています。いま私が住んでいる京都も外国人を見ない日は全くないほど、外国人観光客が町中にいます。
 外国人といっても様々ですが、私の知る限り、アメリカでは"OSAKA"の知名度は高かったです。多くのアメリカ人が"TOKYO"と"OSAKA"は知っていました。
 また、おそらく、どのガイドブックにも、大阪は日本第2の都市として紹介されているでしょうから、関西に来る外国人は"OSAKA"の名前が頭に入っていると思います。
 そんな中で、阪急と阪神の駅名が「梅田」となっていると「では、阪急と阪神のOSAKA駅はどこにあるのか?」と思ってしまっても不思議ではありません。梅田駅のほかに阪急や阪神の大阪駅があるのだろうと思う人は多いと思います。

2.かつての阪急の行先案内表示


 私も小学校の時に関西に引っ越してきたので、当時は関西の事情が分からず、「梅田」という場所は大阪駅とは全く別の場所にあるのだろうと思っていました。そのため、「梅田」と「大阪」は別物という印象が強かったです。
 そんな当時、阪急のとある駅で不思議なものを見ました。
 駅のホームに設置している行先案内表示ですが、そこには行先が「大阪」と表示されていたのです。これは昭和50年代後半、西暦では1980年代の話です。「大阪梅田」ではなく「大阪」の二文字のみでした。
 「あれ? 「梅田」じゃないの?」ととても不思議に思いましたが、どうも阪急は当時から梅田=大阪という認識だったようです。
 ちなみに、阪急電車の車両の方向幕には「梅田」と表示されていました。時刻表も「梅田」でした。従って、方向幕や時刻表には「梅田」となっているのに、駅のホームの案内表示は「大阪」という別の表示がされているという二重表記が阪急沿線では行われていました。
 今思うと、阪急は駅名を「梅田」ではなく「大阪」と名乗りたかったのかなと思ってしまいます。

3.「三宮」は「神戸三宮」へ


 少し前ですが、阪急と阪神の「三宮」は「神戸三宮」に変更となりました。
 これは「三宮がどこにあるのかがわかりにくい」という声が多かったということや神戸の中心ということを示したいということだったそうです。
 一方、JRは「三ノ宮」という駅名であり、「ノ」が入りますが、読み方は「さんのみや」であり、阪急や阪神と同じです。
 そのため、大阪と梅田のように同じ場所にあって駅名が異なるというものではありません。従って、大阪と梅田と異なり、三宮は「神戸」であるということを示したいということのようです。
 三宮は神戸市役所もあり、神戸の中心地ですが、県外ではそのことを意外に知られていないようです。このあたりは、例えば、名古屋の栄のような感じでしょうか? 
 そのため、JR神戸駅が神戸の中心と思ってしまう人もいるそうです。しかしながら、実はJR神戸駅は神戸の中心ではありません。
 ちなみに、阪急の行先案内表示は昔から「三宮」でした。こちらが「神戸」とならなかったのは、相互乗り入れしている神戸高速鉄道に「高速神戸」という駅があるためです。
 

4.「河原町」は「京都河原町」へ


 阪急京都線の終点は河原町駅ですが、こちらも令和元年10月1日より「京都河原町」に変わるということです。阪急の説明では「「京都」の中心部に位置するターミナル駅であることを分かりやすくするため」ということです。
 確かに、「河原町」だと府外の人はここが京都の繁華街だということはわかりにくいと思います。
 こちらも三宮と同様、京都の中心部であることを示すための変更です。

5.目的は?


 今回は阪急の駅名の変更を取り上げましたが、では駅名を変更する理由は何でしょうか? これは最終目的は収益の増加、利益の増加のためと推測されます。
 まず、国内人口は少子化、人口減が進んでいるため、限定した地域でのみ営業を許可されている私鉄の鉄道事業は需要は頭打ちです。また、関西はJRおよび私鉄が競合する路線が多く、鉄道激戦区となっています。
 このような中、私鉄は乗客数の確保に、これまでとなく力を入れています。そうしないと、現状のままではジリ貧になることが明らかだからです。
 一方で、我が国は空前のインバウンドブームです。さらには、東京オリンピック、大阪万博と国際的イベントが控えています。この絶好機を逃すことなく、外国人旅行客を取り込みたいところです。
 このように、鉄道需要が頭打ちになっている関西私鉄としては、生き残りをかけて乗客数の確保を行いたい、そのための手段の一つとして駅名の改称を行っているものと考えられます。

2019年8月3日土曜日

公認会計士試験が埼玉県で実施されない理由

1.令和元年公認会計士試験の会場

令和元年8月 23 日、24 日及び 25 日に令和元年公認会計士試験が実施されます。本日は令和元年8月3日なので、あと約3週間後となります。
 私も身近に論文式試験受験者がいるので、頑張って欲しいと思っています。
 
 さて、少し前になりますが、令和元年7月23日に、公認会計士試験の試験場が発表されました。試験場の一覧は金融庁の「令和元年公認会計士試験論文式試験の試験場について」に掲載されています。

 全国の会場のうち、関東と近畿の試験会場を抜粋すると以下のとおりです。

 関 東 財 務 局   
①目黒区駒場3丁目8番1号 東京大学(駒場キャンパス)
②葛飾区新宿6丁目3番1号 東京理科大学(葛飾キャンパス)

 近 畿 財 務 局  
茨木市岩倉町2番 150 号 立命館大学(大阪いばらきキャンパス)


2.埼玉県で実施されない理由

上記のように、関東では、東京都目黒区の東大駒場キャンパスと東京都葛飾区の東京理科大葛飾キャンパスが会場となっています。
 また、近畿では、大阪府茨木市の立命館大学いばらきキャンパスとなっています。
 このように、公認会計士試験では、毎年、関東財務局の管轄地では東京都、近畿財務局の管轄地では大阪府が試験会場となっています。
 
 それでは、公認会計士試験は、例えば埼玉県では実施されないのでしょうか。
 実は、税理士試験では東京都に加えて、埼玉県も試験地になっています。これを見ると、公認会計士試験も埼玉県で実施できそうな感じもします。ちなみに、関東財務局はさいたま市にあります。

 しかしながら、原則として公認会計士試験は埼玉県では実施されません。
 なぜかというと、公認会計士試験の試験実施地は公認会計士試験規則第2条で「公認会計士試験は、毎年一回以上、東京都、大阪府、北海道、宮城県、愛知県、石川県、広島県、香川県、熊本県、福岡県、沖縄県その他審査会の指定する場所において行う。」と定められていて、埼玉県は入っていないからです。
 
 一方、税理士試験の試験実施地については、税理士法第5条で「税理士試験は、北海道、宮城県、埼玉県、東京都、石川県、愛知県、大阪府、広島県、香川県、福岡県、熊本県、沖縄県及び国税審議会の指定するその他の場所において行う」と定められています。こちらでは、埼玉県が明記されています。従って、税理士試験では埼玉県も試験会場になっているというわけです。

 もちろん、これは税理士試験は受験者数がとても多いので、一つの会場では収容しきれないという事情があるのだと思うのですが、試験実施地は実は法令で明確に定められているということがおわかりいただけると思います。
 
 ただし、税理士試験は、近畿では、大阪府に加えて京都府で実施されることもあります(令和元年度は京都会場はなし。)。しかし、税理士法第5条では「京都府」の地名は記載されていません。推測ですが、おそらく「国税審議会の指定するその他の場所において行う」という条文が根拠となっているのだと思います。
 その意味でいくと、公認会計士試験規則にも「その他審査会の指定する場所において行う。」と記載されているので、東京都や大阪府など明記されている都道府県以外の場所でも試験地になる可能性はあるかもしれません。
 可能性があるとすると、公認会計士試験の短答式受験者が激増し、一つの大学等で収容しきれなくなったときでしょうか。
 しかしながら、現時点では、受験者数から見ても、埼玉県や京都府、あるいは神奈川県や兵庫県といった他地域で公認会計士試験が実施されることはないといえます。

3.試験会場に関する注意点

最後に、試験会場に関する注意点を記載しておきます。受験生の方の参考となれば幸いです。

①下見はかならず行くこと
 乗車する電車、乗換駅、降車駅を確認するとともに、降車駅から会場までの道順、時間もつかんでおく必要があります。また、大学会場の場合、正門から校舎までの距離もかなりあるキャンパスもあるので、そのあたりも事前チェックしておく必要があります。

②試験会場に近いホテルに宿泊すること
 これは、交通機関の遅延リスクを低減することと疲労をためないことが理由です。
 当日は、人身事故などで鉄道が止まるリスクもあります。このような場合、試験会場に近いホテルであれば、バスやタクシーで試験会場に到着することができます。
 また、試験当日はとても疲れます。しかも真夏なのでとても暑く、さらに疲れます。できる限り、電車に乗る時間を減らしたほうが、体力の消耗を防ぐことができます。

③机が小さい場合も想定すること
 大学の会場によくありがちですが、机がとても小さいときがあります。机が小さい場合、机上における文房具が限られてくるので、最低限置くものをあらかじめ決めておくとよいです。
 ちなみに、試験会場が合同庁舎の場合、机は長机で広いことが多いようです。
 机のサイズが受験地によって違うのは不公平な感じがしますが、広い机を求めて合同庁舎が会場となる地域で受験して合格した公認会計士もいるということです。