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2019年7月27日土曜日

契約書に係る監査上の論点~吉本興業の「契約書なし」をみて

1.吉本興業の「契約書なし」問題
 吉本興業の、いわゆる闇営業問題に関連して、吉本興業が所属タレントと契約書を作成していなかったという論点が出てきました。
 さらに、この「契約書なし」問題に関して公正取引委員会の山田昭典事務総長が「契約書面が存在しないということは、競争政策の観点から問題がある」と述べたというニュースも出てきました。(「契約書なし「競争政策上、問題」=公取事務総長、吉本興業に懸念」(時事通信)、「吉本興業の契約書なし、「問題がある」 公取委総長発言」(朝日新聞))
 私は、闇営業問題に関心はないのですが、この「契約書なし」問題を見て思い出したことがあったので、今回は、財務諸表監査における契約書にかかる論点を記載したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.「契約書なし」の会社
(1)契約書を作成する意義
 財務諸表監査を行うとき、内部統制のデザインの評価や運用評価、実証テストを行いますが、この過程で取引の契約についても、どのように行われているのかを見るために契約書の閲覧などを行います。
 当然のことながら、まずは取引の契約を締結した場合は契約書の作成が必要です。一応、民法上は口頭でも契約は成立するのですが、企業の内部統制上、契約書を作成することが必要です。そうしないと、金額や支払相手などが不明確になるため、例えば、架空取引や水増し請求による過大支払いなどが行われてしまい会社に損害が発生するリスクがあるからです。(「架空取引に係る内部統制」「経営者による内部統制の無効化とハコ企業」参照)

(2)地方でよく見られるケース
 上場会社では何らかの取引を行うときは、まず間違いなく契約書を交わしていますが、「経営者による内部統制の無効化とハコ企業」でも記載したように、資金繰りが逼迫した企業では内部統制の無視・無効化が横行し、契約書を取り交わさないで取引を行っていたケースも見られました。
 
 このように上場会社レベルでは「契約書なし」というのはイレギュラーなケースですが、非上場会社や非営利法人では「契約書なし」というケースが時々出てきます。特に、この「契約書なし」は地方でよく見られるという印象があります。
 何度か見たのは、地元の工務店と工事契約を締結するケースです。なぜかというと、地方では、地域の人は昔からの顔なじみで、お互いによく知っているため、わざわざ契約書を作成する必要はないという文化ができてしまっているからのようです。
 そのため、契約書を作成しなくても「まあ、別にいいじゃないか」というお互いの信頼関係で物事が進んでしまうというわけです。

 また、非上場会社あたりでは「収入印紙の節約をしたいから」という理由で契約書を作成しない会社も時々見られます。
 
 しかしながら、契約書を作成しないと上記のように、会社に損害が生じるリスクがあるので、契約書は作成する必要があります。

3.契約書の偽造
 立命館大学、早稲田大学の教授や公認会計士・監査審査会会長を務められた千代田邦夫教授は、公認会計士資格も保有されており、旧二次試験合格後は会計士補として監査業務にも携われていました。
 その千代田教授の著作「監査論の基礎」(税務経理協会)の前書きの中に、契約書の偽造を発見したときの話が記載されています。
 千代田氏が会計士補として、ある会社の監査に行ったとき、売上の監査を行うために売買契約書の提示を求めたそうです。しかし、会社は何かと理由をつけて提示してこなかったため、おかしいなと思い何とか粘ったところ、やっと出てきたのは契約書のコピーだったそうです。そこで、千代田氏が閲覧したところ、おかしなところに気づいたといいます。何かというと、契約書のコピーは何通もあったようですが、収入印紙の消印の位置がどの契約書も同じだったのだそうです。ますます怪しいと思い、問い詰めると、ついに担当者が白状したそうです。会社が何をしたのかというと、セロファン紙の間に収入印紙を挟み込み、その上から割印を行い、これを偽造した契約書においてコピーをしたということです。
 
 なお、監査の現場では契約書類や証憑類は必ず原本を確認するようにしています。そうしないと、この話のように不正が行われても看過してしまう可能性があるからです。そのうえで監査調書にするためにコピーをとることになります。
 ちなみに、私の場合は「原本確認の上、森がコピー」と記載して原本を確認したことを記すようにしています。このようにすれば、会社がコピーしてきたものをそのまま受け取っていないということがわかるからです。
 
4.監査法人の「契約書なし」問題
 以上は、会社等と取引先との契約に関してでしたが、最後に監査法人と契約している公認会計士との契約について触れたいと思います。これは吉本興業とタレントとの契約と同じケースとなります。
 監査法人も契約している非常勤の公認会計士とは非常勤契約に係る契約書を作成する必要があります。もちろん、常勤の公認会計士とは雇用契約を締結していますから雇用契約書の作成が必要です。
 日本公認会計士協会は、監査法人に対して品質管理レビューを行っていますが、この品質管理レビューのときは、非常勤会計士と交わした契約書の有無は必ずチェックしています。そのため、通常の監査法人であれば、非常勤会計士との契約書は作成しています。
 監査法人だったら当然であろう、と思われるかもしれませんが、どうもこの業界では長い間、それこそ吉本興業のように契約書が作成されず、契約関係があいまいになっていた時期が続いていたようです。おそらく、もともと、この業界は徒弟制度が長く続いていたため、「何でそんなもの作らないといけないんだ」という感覚があったのだと思います。
 しかしながら、日本公認会計士協会による品質管理レビューで、非常勤会計士との契約書の有無はチェックするようになったため、品質管理レビューを受ける監査法人では契約書を作成するようになりました。

2019年6月30日日曜日

公益法人information~C(2)の計算式が壊れたら

1.はじめに

 平成31年2月11日のブログ「公益法人インフォメーション~電子申請システムリニューアル」で公益法人informationのシステムが新しくなったというお話をしました。(注:このときのブログで「公益法人インフォメーション」という書き方をしてしまいましたが正確な表記は「公益法人information」でした。)
 今回は、この公益法人informationで導入された新システムの留意点について記載したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。
(今回の内容は、一緒に業務を行っていただいた公認会計士のご協力によるものです。感謝申し上げます。)

2.C(2)の計算式が壊れたらどうすればよいのか

(1)行挿入の注意点

 「公益法人インフォメーション~電子申請システムリニューアル」でも記載しましたが、新システムではエクセルでの作成となりました。そのため、自分のパソコン内で作成できるようになり、また、編集も行いやすくなったため、旧システムよりも便利になったと思います。
 しかしながら、注意点もあります。

 C(2)(控除対象財産を集計する表)など、いくつかのブックには行を追加するときの注意点が記載されています。
 手元に資料がないので記憶に頼りますが、行を追加するときは、①自分で行挿入をしてはならない、②1行目ではなく2行目以下の行をコピーして挿入しなければならない、という注意書きが記載されていたと思います。

 エクセルだとつい、自分で行挿入をしてしまいがちですが、これは必ず守らなければなりません。
 

(2)自分で行挿入をしてしまうとどうなるのか

 この注意書きは、もちろん理由があって記載されています。
 それでは、2行目以下をコピーしないで自分で行挿入をしてしまうとどうなるのでしょうか。
 結論を申し上げますと、この場合、1号財産や2号財産などの合計額があわなくなってしまいます。

 自分で行挿入しただけで何故合計がおかしくなるのか疑問に思われる方も多いと思います。実は、この現象が生じる理由は、1号財産や2号財産の集計表の末尾にある小計欄の計算式にあります。
 通常、エクセルでこのような簡単な表を作成したときの合計を求めるときはSUM関数を使用します。しかしながら、新システムで使用されているエクセルでは、小計欄にカーソルをあわせていただければわかるのですが、C(2)の小計欄ではSUMIF関数が使用されています。
 これが、自分で行挿入をしてしまうと合計額があわなくなる理由です。
 なお、この小計欄のセルは「保護」が行われているので、自分では計算式を触ることはできません。

(3)SUMIF関数とは

 SUM関数であれば、1行目だけ気をつければ、自分で行挿入をしても、その行が合計範囲に含まれるので、合計額の集計はもれなく行うことができます。
 しかしながら、SUMIF関数とは、マイクロソフトのページによれば「指定した条件を満たす範囲内の値を合計する」関数です。従って、指定した条件が含まれないと、その行の数字は集計されません。
 これが、自分で行挿入してしまうと合計額があわなくなる原因です。

(4)AZの列に注目

 具体的に申し上げますと、自分で行挿入してしまうと、その行に「指定した条件」が含まれなくなってしまうのです。

 私の記憶によれば、C(2)の1号財産のSUMIF関数は確か「(AZ:AZ,1,AL:AL)」だったと思います。
 SUMIF関数では、順番に「範囲」、「検索条件」、「合計範囲」が示されます。C(2)の1号財産の例でいうと、範囲がAZの列、検索条件が「1」、合計範囲がALの列ということになります。

 それでは、この検索条件の「1」とは何かというと、実はAZの列に「1」という数字が記載されていて、その数字の「1」が検索条件となっているという仕組みになっているのです。

 AZの列にカーソルをあわせると、エクセルの表では全く見えませんが、上のバーのところ(計算式などが示されるところ)に「1」と表示されます。「1」を白色にして見えなくしているのですが、まちがいなく「1」が入力されています。これがSUMIF関数の条件の正体です。

(5)合計があわなくなる理由

 そこで、合計があわなくなる理由ですが、自分で行挿入してしまうと、AZの列に「1」が入力されていない状況になってしまうからです。そのため、SUMIF関数では、その行に入力された数値を認識しないのです。
 従って、その行の数値が認識されないことから、SUMIF関数で集計した合計額があわなくなるという現象が生じてしまうというわけです。

(6)壊れた計算式を修復する方法

 それでは、誤って自分で行挿入してしまい、C(2)の計算式が壊れてしまったらどうすればよいのでしょうか。

 その解決策は、自分で行挿入してしまった行のAZの列に半角で「1」を入力することです。そうすれば、SUMIF関数がその行のALの列に入力した数値を認識してくれます。その結果、合計額もあうようになります。

 注意点は、この「1」を入力する列のセルを「結合」することです。セルを結合しないとSUMIF関数が条件を読み取ってくれません。
 

3.検算は必ず行う

 C(2)をはじめ、その他の別表においてもエクセルで集計した合計数値は、必ず電卓または算盤で検算する必要があります。
 エクセルなどのスプレッドシートは大変便利なツールですが、計算式や計算範囲に不備があると集計漏れなどの誤りが生じてしまいます。
 従って、面倒でも、必ず電卓または算盤を使って手作業で検算を行い、その集計が正しく行われているかどうかを確認する必要があります。
 今回の場合だと、C(2)の合計があわないということは、どこかの行の挿入にミスがあったということです。
 このようにして、計算合計の確認と誤りがあればエクセルの修正を行って、正しい数値を出す必要があります。

2019年5月19日日曜日

巨人がPwCコンサルティングと契約~デジタルトランスフォーメーションの実現に向けて

1.はじめに
 プロ野球・読売巨人軍はPwCコンサルティング合同会社とオフィシャルサプライヤー契約を締結したと、令和元年5月17日付で発表しました(「「PwCコンサルティング」とオフィシャルサプライヤー契約 革新的・先進的な来場者サービス開発へ」)。

 内容は、PwCコンサルティング合同会社が「オフィシャル・デジタルトランスフォーメーション・アドバイザー」となるというものだということです。
 このデジタルトランスフォーメーションですが、球団公式ページでは「「デジタルトランスフォーメーション」(通称:DX)とは、テクノロジーを活用してビジネスモデル全体を改善し、変化するビジネス環境に適応させることで、最終消費者にとってより優れた価値を提供できる状態にすることを意味します。」と記載されています。

2.デジタルトランスフォーメーションが起こすイノベーション
 デジタルトランスフォーメーションは、行政庁においても、日本であらゆる分野で導入を進めるべく、様々な研究が進んでいます。
 例えば、総務省の情報通信白書平成30年版では、デジタルトランスフォーメーションは段階を経て社会に浸透し、影響を及ぼすと記載されています。
 同白書によれば、以下のような段階を経て社会が変革していくとされています。
①「まず、インフラ、制度、組織、生産方法など従来の社会・経済システムに、AI、IoTなどのICTが導入される。」
②「次に、社会・経済システムはそれらICTを活用できるように変革される。さらに、ICTの能力を最大限に引き出すことのできる新たな社会・経済システムが誕生することになろう。」
③「その結果としては、例えば、製造業が製品(モノ)から収集したデータを活用した新たなサービスを展開したり、自動化技術を活用した異業種との連携や異業種への進出をしたり、シェアリングサービスが普及して、モノを所有する社会から必要な時だけ利用する社会へ移行し、産業構造そのものが大きく変化していくことが予想される。」

3.巨人は遅れている?
 いま、なぜ巨人がPwCコンサルティングとデジタルトランスフォーメーションに関する契約を締結した理由は、推測ですが観客動員、ファン獲得においてITの推進が遅れているという危機感があったのではないかと思います。というのは、現在のプロ野球球団にはソフトバンク、楽天といったIT系の企業が参入していますが、これらの球団は観客動員などにおいて自社のITテクノロジーを導入して様々な工夫をしているからです。
 例えば、ソフトバンクは「AIチケット」というものを発売しています。ソフトバンクホークスの公式ページの説明によれば、「過去の販売実績データに加えて、リーグ内の順位や対戦成績、試合日時、席種、席位置、チケットの売れ行きなど多様なデータから、試合ごとの需要をAI (機械学習) により予測し、需要に応じて価格が変動するチケット」ということです。
 また、楽天は、今年から球場での完全キャッシュレスを始めました。公式ページの説明によれば、「チケット・グッズ・飲食等をお買い求めの際、原則として現金がご利用いただけなくなります。」ということです。
 チケットレス化も進んでいます。BCN+Rというサイトの記事によれば、チケットの電子化によるチケットレスを導入しているのは、オリックス、埼玉西武、中日、阪神、福岡ソフトバンク、北海道日本ハム、横浜DeNAの7球団ということです。
 しかしながら、各球団でこういった取り組みが進む中、残念ながら盟主・巨人の名前が出てきません。
 なぜ、巨人がこのような取り組みを行っていないのかというと、これも推測ですが「やりたいと思っているし、やらないとまずいという意識はあるものの、導入するための人材や技術がそろっていない」からではないかと思います。
 このあたりについては長くなるので、次回「変わるプロ野球のビジネスモデル」というタイトルで記載したいと思います。

2019年5月12日日曜日

役員選任の決議方法の実務~個別決議と一括決議

1.はじめに
 平成29年(2017年)5月28日のブログ「機関運営の留意点~公益法人及び社会福祉法人共通」では、役員の選任方法として複数人を一括して決議する一括決議は不可であり、各役員等について個別に決議する個別決議を行う必要があることを記載しました。
 とはいえ、法人によっては改選時の役員候補者数が数十名というところもあり、まともに個別決議を行うと膨大な時間がかかってしまうという実務上の問題点もあります。
 そこで、今回は役員の選任決議の実務について記載したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.平成29年5月28日のブログの再掲
 まず、平成29年5月28日のブログを再掲します。

  「役員(理事及び監事)は公益法人では社員総会又は評議員会で、社会福祉法人では評議員会で選任することになりますが、この選任は各役員について個別に決議を行う必要があると解されます。すなわち、一括決議は不可と解されます。

  趣旨は、役員の選任という重要な意思決定について、法は理事の選任議案の内容をすべての社員ないし評議員に通知すると規定するなど(一般法38条①Ⅴ、同法施行規則4条③イ、一般法181条①Ⅲ、同法施行規則58条①、社福法45条の9⑩、同法施行規則2条の12)、慎重に審議を行うことを要求していますが、これを個別決議ではなく、一括決議にしてしまうと、社員又は評議員の意思が反映されないことになり、法の趣旨が没却されてしまうからです。

  例えば、理事候補がA,B,C,D,E,F,Gの6名がいるとします。評議員のうちXはA~Gの6名につき選任案に賛成ですが、評議員YはA~Fの選任には賛成であるものの、Gについては選任に反対と考えているとします。
  このとき、一括決議により「評議員全員の賛成により理事候補全員の選任について異議なしとします」としてしまうと、評議員Yの意思が反映されない結果となってしまいます。そうなると、評議員会で慎重に審議を行い役員を選任するという法の目的が達成されなくなります。
  そのため、役員の選任決議は一括決議ではなく、個別決議で行う必要があります。」(引用終)

 3.内閣府「特に留意する事項について」
  この役員選任の決議方法は、実は法令で明記されているわけではありません。法の趣旨を鑑みると、一括決議はふさわしくないということです。

  ただし、全くどこにも記載されていないものなのかというとそうではなく、公益法人の場合は、平成20年10月10日に内閣府公益認定等委員会から出された「移行認定又は移行認可の申請に当たって定款の変更の案を作成するに際し特に留意すべき事項について 」(以下「特に留意する事項について」)のP12~13にこの論点の記載がなされています。
  
  引用すると以下のとおりです。

 「法は、社員総会又は評議員会に理事の選任権を形式的に付与しているだけでなく、理事の選任過程の適正を確保するため、種々の方策を講じている。 
                  (中略)
  このように、法及び公益法人認定法は、あらゆる規律を通して、選任手続を可能な限り慎重ならしめ、社員総会(評議員会)における実質的な審議を経て適正に理事が選任されるための種々の方策を講じている。
                  (中略) 
  また、理事の選任議案を社員総会(評議員会)で決議する方法について、例えば、4人の理事の選任議案の決議(採決)を4人一括で決議(採決)することとした場合には、本来、1つ1つの議案(1人1人の理事の選任議案)ごとに賛成又は反対の意思を表明することができるはずの社員(評議員)に対して、全議案についてすべて賛成か又はすべて反対かという投票を強制することとなり、上記の法の趣旨が没却されることとなる。」

 とし、結論として、

 「このような法の趣旨及び考え方を踏まえ、
 ① 公益社団法人が、定款の定めにより、社員総会の普通決議の決議要件(定足数)を大幅に緩和し、あるいは撤廃することは許されない(問題の所在①)
 ② 社員総会又は評議員会で理事の選任議案を採決する場合には、各候補者ごとに決議する方法を採ることが望ましく 、特例民法法人の移行に際し、その定款(の変更の案)に、社員総会又は評議員会の議事の運営方法に関する定めの一つとして、「理事の選任議案の決議に際し候補者を一括して採決(決議)すること」を一般的に許容する旨の定めを設けることは許されない(問題の所在②)こととなる。 」

 と記載しています。
  公益法人の立入検査で、行政庁が一括決議が不可であることを指摘する場合、この「特に留意する事項について」が根拠となっています。

 4.実務上の対応策
  しかしながら、上述したように、役員候補者数が30名や40名といった数十名となる法人の場合、各候補者ごとに決議する方法を採ると相当な時間がかかってしまいます。
  また、それなりの法人になると、総会はホテルの会議場などを借りることが多いですが、1時間あたりの費用も大きいものがあります。
  ついでにいうと、多くの法人では、総会終了後は懇親会があります。そのため、懇親会が始まる時刻までには総会を終了させる必要がありますが、個別決議をまともにやると時間が読めなくなります。
  
  そこで、実務上は、以下の対応策が考えられます。
 
 ①まず、議長が、役員の選任については各候補者ごとに決議を行う方法が原則であることを説明する。
 ②ただし、時間と手数の関係上、一括して決議を行いたい旨を説明するが、一括決議に反対する人がいれば、申し出てほしいことをアナウンスする。
  あるいは、一括決議を行うことについて、社員または評議員に対して賛否を問う。
 ③反対する人がいなければ、全員が一括決議に賛成したということになる。また、賛否を問うた場合、賛成多数であれば、もちろん、一括決議に賛成したということになる。
 ④以上の手続を経た上で一括決議で進める。
 
  このような方法は、株式会社の株主総会の実務ではよく見られます。
  あくまで、私見ですが、参考としていただけますと幸いです。 

2019年5月4日土曜日

財務諸表などの日付表示~令和元年を迎えて

1.令和元年がスタート
 平成31年4月30日をもって平成が終了し、翌日5月1日より、元号が平成から令和に変わりました。新しい元号の始まりです。
 我が国は元号を使用する国なので、元号を使用するのが原則ですが、一方で西暦も使用されています。西暦とは「キリスト生誕の年と信じられている年を紀元とする西洋の暦」(コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典より)でありますので、本来は我が国の暦の数え方としてはなじまないものです。しかしながら、世界の主要各国がキリスト教徒の関係で西暦を使用していることから、国際化が進んだ我が国でも元号と併記して使用されています。
 従って、元号を使用することが基本ではあるのですが、戦後の我が国では、昭和、平成、令和と3つの元号が使用されており、しかも、年の途中で元号が変わっているので、年数などを数えるときに手間取ってしまうことは否めません。

2.財務諸表などの日付表示
 元号の改廃は、有価証券報告書、計算書類等などの年度表示にも影響があります。
 非営利法人おいても、公益法人が作成する計算書類等、社会福祉法人が作成する計算関係書類の年度表示をどうすればよいのかという問題が出てきます。

 ちなみに、内閣府が各都道府県知事及び各指定都市市長宛に、平成31年4月2日付で出した「元号を改める政令等について」では、以下の申し合わせ事項が示されています。

〇改元日前までに作成した文書において、改元日以降、「平成」の表示が残っていても、有効であること
〇改元日以降に作成する文書には、「令和」を用いること。やむを得ず「平成」の表示が残る場合でも有効であるが、混乱を避けるため、訂正等を行うこと
〇元号を改める政令の公布日から施行日前までに作成し公にする文書には、「平成」を用いること
〇法令については、「平成」を用いて改元日以降の年を表示していても、有効であり、原則、改元のみを理由とする改正は行わないこと
〇国の予算における会計年度の名称については、原則、改元日以降は「令和元年度」とすること

3.有価証券報告書
 それでは、決算書などではどうでしょうか。
 まずは有価証券報告書です。

 この有価証券報告書については、税務研究会のコラム「有報の日付表示、あなたは和暦派?それとも西暦派?【1分で読める!「経営財務」記者コラム】」では、「有報における開示に関する規定を定めた「企業内容等の開示に関する内閣府令」の第三号様式」に触れています。

 コラムによると、「【提出日】については「平成 年 月 日」となっており、【事業年度】も同様に当該様式上は和暦で示されている。」ため、「和暦表示をしなければならないように思えるが、実務上は全て西暦表示でも問題はないという。特別な手続き等は不要で、西暦表示に統一したい企業は、任意で西暦に変更ができる。」ということです。
 さらに、同コラムでは、有価証券報告書において西暦表示を行っている企業数を調べた結果「トヨタ自動車や日立製作所、ファーストリテイリングなど、500社以上が西暦表示」であったということです。

実際、トヨタ自動車の直近の有価証券報告書の表紙を見てみると

【事業年度】2018年3月期
      (自  2017年4月1日  至  2018年3月31日)

 と記載されていました。

 従って、有価証券報告書においては元号表記でも西暦表記でもどちらでもよいということになります。

4.会社法における計算書類等
 次に、計算書類等です。計算書類等は会社法に定められたものなので、会社法に定めるすべての会社が対象となります。
 この計算書類等については、知る限り、日付表示に制限はありません。従って、元号でも西暦でも問題はありません。
 元号で表記されている会社でも、西暦を併記しているところもあります。
 
5.公益法人の計算書類等と定期提出書類
 一般社団法人・一般財団法人及び公益社団法人・公益財団法人では、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律において計算書類等を作成することが義務付けられています。
 こちらの計算書類等においても日付表示に制限はありません。従って、どちらでもよいということになります。なお、私が見る限りでは元号表示が多い印象です。

 しかしながら、あくまで私見ですが、公益認定を受けた一般財団法人及び一般財団法人(公益法人)では、元号で記載するほうがよいと思います。
 理由は、計算書類等は定期提出書類(事業報告等の提出書類)と一緒に提出しますが、定期提出書類は元号表示になるため、それにあわせておくほうがよいためです。

 以前、このブログで公益法人インフォメーションの電子申請がリニューアルされたことを書きましたが、エクセルで作成された新システムでは、日付表示はプルダウンとなっていて、そのリストには元号しか載っていません。ちなみに、新元号が発表される前の段階の事業計画書等の提出書類にかかるプルダウンメニューのリストには「平成」と「令和」ではなく、「平成」と「新元号」という表示で載っていました。

 従って、公益法人においては、元号表示がよいと思います。

6.社会福祉法人の計算関係書類
 社会福祉法人は、すべての法人が計算関係書類、社会福祉充実残額計算シートをWAMネットを通じて所轄庁に提出します。
 このとき提出する計算関係書類は社会福祉充実残額計算シート内で作成しますが、社会福祉充実残額計算シートでは、すでに元号表示が行われているので、すべての法人の計算関係書類は元号表示となります。

 この点は、同じ非営利法人であっても公益法人とは異なるところです。公益法人の場合は統一された書式というものはなく、各法人の自由となるからです。そのため、元号か西暦かという問題が出てきますが、社会福祉法人では所轄庁の提出書類に関しては元号で統一されているので、選択に困る点はありません。

 ただし、理事会や評議員会で使用する計算関係書類では、元号と西暦の併用表示でもよいと思います。

2019年4月22日月曜日

公益法人~事業報告等に係る提出書類作成における留意事項

1.はじめに
 3月決算の公益法人(公益認定を受けた一般社団法人又は一般社団法人をいいます(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)2条ⅰ~ⅲ))は、決算書を作成した後、事業報告等に係る提出書類の作成を行うことになります。
 今回は、別紙4における別表の作成上の留意点を記載します。
 ただし、留意点については、いろいろとあるため、誤りやすい点のうち重要なものについて記載したいと思います。

2.別表A
(1)A(1)~過去に生じた剰余金の加算
 別表A(1)での留意点は、過去に収支相償を満たさなかった場合に生じた剰余金がある場合、経常収益計の2欄に加算することを忘れないようにする点です。
 この剰余金は正味財産増減計算書には出てこないので、別途、計算シートを作成して管理しておく必要があります。過去の別表A(1)をひっくり返して、その場で電卓で計算すると、誤る可能性が高くなるので、ひとまとめにしておくほうがよいと思います。

(2)A(3)~利益の繰入額は1円未満端数切り上げ
 収益事業等から生じた利益の繰入額を計算するとき、通常、1円未満の端数が生じると思います。この1円未満の端数の扱いですが、これは切り上げになります。(内閣府の手引きP32参照)
 また、ここに至るまでの計算(管理費の按分、按分後の費用の控除)では、端数には手を付けず、そのまま計算します。その結果算出された収益事業等から生じた利益に50%を乗じた数値においてのみ1円未満の端数切り上げという処理を行います。
 この点は間違いが多いところです。ここを四捨五入、切り上げといった処理をしてしまうと、正味財産増減計算書内訳表の他会計振替額とA(3)で計算した結果に1円の差異が生じるなど、何かと具合が悪くなります。
 従って、正味財産増減計算書内訳表の他会計振替額を計算するときは、エクセルでワークシートを作成して計算過程をしっかりと残しておくことが望まれます。

3.別表B
(1)別表B(5)での特定費用準備資金積立額・取崩額の記載忘れ
 別表B(5)は公益目的事業会計、収益事業等会計、法人会計の費用を計算し、公益目的事業比率を計算する計算シートですが、Ⅴ、Ⅵの特定費用準備資金の当期積立額、当期取崩額の記載漏れに注意する必要があります。また、取崩額の欄はマイナス額で記載する点にも注意する必要があります。

 なお、旧システムでは、別表B(1)がシステムに組み込まれていたのに対して、B(5)はエクセルだったため、計算結果がリンクしていませんでした。しかし、新システムではB(1)、B(5)どちらもエクセルになり、計算結果もリンクするようになったので、B(5)を作成すれば、B(1)も自動的に作成されるようになりました。

4.別表C
(1)別表C(2)~財産目録と一致させる
 別表C(2)では公益目的保有財産や特定費用準備資金の帳簿価額について記載するシートですが、名称、場所・物量、並び順は財産目録と一致させる必要があります。行政庁は財産目録との一致状況を必ず見ています。言い換えると、財産目録は、別表C(2)のためにあるといってもよいでしょう。従って、財産目録もC(2)を意識して、不整合が生じないように作成する必要があります。また、財産目録には、共用割合を明記しておく必要があります。
 なお、新システムでは、資産取得資金、特定費用準備資金は様式チェックにより自動反映する方式となりました。

(2)別表C(1)~対応負債の計算は有利選択
 別表C(4)では4に「対応負債の額の計算」という欄があります。
 この対応負債の計算方法には2種類ありますが、4のタイトルの横にはカッコ書きで「(次の2つの方法のうち、いずれかを選択し、○を記載してください)」と記載されていますので、どちらか有利な方を選ぶことになります。
 この選択は、特に会計に携わっている方だと「継続適用」しないといけないのでは、と思ってしまいがちですが、これは選択となります。
 ときどき、施行規則22条7項の計算式と22条8項の計算式を入れ替えると、従前では遊休財産額の保有上限額を超過してしまっていたものが、セーフになるケースがあります。

2019年4月15日月曜日

公益法人・公益目的事業比率~F(2)表の作成の実務

1.はじめに
 公益法人(公益認定を受けた公益社団法人又は公益財団法人をいいます。(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)2条ⅰ~ⅲ)も3月決算の法人が多いため、4月に入ると決算の時期に入ります。
 決算が終わると、決算数値を前提に、定期提出書類を作成することになります。
 定期提出書類については、いろいろな書類がありますが、今回は経費の配賦にかかるF(2)表の作成にかかる留意点について記載したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.公益目的事業比率
 公益法人では、財務3基準の一つである、公益目的事業比率をクリアしなければなりません。
 具体的には、①公益目的事業の費用、②収益事業等の費用、③法人会計の費用について、①公益目的事業の費用÷(①公益目的事業の費用+②収益事業等の費用+③法人会計)という計算式で算出された割合が50%以上となることが必要となります(認定法15条)。
 なお、これらの費用は、必ずしも会計上の費用とは限らず、みなし費用(例:特定費用準備資金の積立額)なども含みます。
 公益法人は公益目的事業を行うことが目的にもかかわらず、収益事業等や管理費の割合のほうが大きいとなると、本来の目的を達していないことになるためです。そのため、公益目的事業をしっかりと行うようにするために、公益目的事業比率の基準が設けられています。

3.経費の配賦
 このように、公益法人の事業において発生した費用は、①公益目的事業の費用、②収益事業等の費用、③法人会計の費用のいずれかの費用とする必要がありますが、必ずしも、①~③のそれぞれにおいて固有に発生する費用とは限りません。
 そこで、①~③において共通に発生する費用については配賦計算を行う必要があります。
 この配賦計算については、法令で絶対的に定められた基準というものはありません。内閣府から示されているのは、FAQ問Ⅴ-3-②の例示で示された配賦基準ぐらいです。
 FAQ問Ⅴ-3-②では、(イ)建物面積比、(ロ)職員数比、(ハ)従事割合、(ニ)使用割合が掲げられています。
 なお、FAQ問Ⅴ-3-②では「これ以外に適当と判断した基準があれば、それを採用していただいても構いません。」と記載されています。従って、(イ)~(二)は例示列挙ということになります。

4.決算の実務
 公益法人の経理などに携わっている方は、ここまではご存知の方が多いと思います。
 しかしながら、決算を終えて、いざF(2)表を作成する段階となると、時間がかかったり、どのように進めればよいのか迷ったりする方が結構多く見られます。また、F(2)の数値にミスが生じ、提出後、行政庁から補正提出を求められるケースもよく見られます。
 原因の一つは、F(2)表を作成するときに、基礎資料が存在しないためであることがあげられます。
 言い換えると、正味財産増減計算書内訳表を作成するときには、何らかの配賦割合で計算しているのですが、そのときの配賦割合を資料として残していないため、F(2)表を作成するときに、配賦基準はわかっているものの、配賦割合はどのように記載すればよいのかがわからなくなってしまうというものです。
 例えば、ある費用は職員数比で配賦することになっているのに、F(2)表で職員数比で配賦計算してみたら、正味財産増減計算書内訳表の数値とあわない、ということもあります。そうなると、正味財産増減計算書内訳表の数値とF(2)表の数値が整合しなくなり、どうすればよいのか困ってしまうことになります。
 従って、正味財産増減計算書内訳表を作成するときには、F(2)表の作成も意識して、配賦割合、計算過程、計算結果を資料として残しておくことが必要です。
 可能であるならば、正味財産増減計算書内訳表を作成するときに、一緒にF(2)表も作成しておくというのも一つの方法です。

5.直接対応は記載不要
 F(2)表の作成の実務として、知っておくべきは「直接対応」については記載はする必要はないというものです。
 F(2)表は、公益目的事業会計、収益事業等会計、法人会計にまたがって発生する費用について、配賦基準と配賦割合を示す表なので、ある会計に直接的に発生し、配賦計算をする必要がない費用については記載はする必要はありません。
 この直接対応まで記載してしまうと、かなりの時間がかかります。逆に言えば、直接対応を記載しなければ、F(2)の作成時間はかなり短くなります。
 なお、この点は複数の行政庁と確認済みです。

6.端数処理
 F(2)表で困るのは、端数処理の関係で、公益目的事業会計、収益事業等会計、法人会計の各数値の合計と費用の合計額が1円あわないときがあることです。
 そのため、F(2)表を作成したあとは、計算チェックを行う必要があります。
 しかしながら、これらを電卓で検算していると時間がかかるし、非常に疲れます。
 そこで、おすすめの方法をご紹介します。それは、1の位の数値を足し算し、その数値と合計額の1の位の数値が一致しているかどうかをチェックするというものです。
 例えば、何らかの配賦割合により、公益5,122、収益2,569、法人658という結果になったとします。一方合計額は8,350円とします。
 それぞれを足すと5,122+2,569+658=8,349となり、1円不足します。
 この場合、法人会計あたりで1円を調整する必要がありますが、これをすべて計算しているととても疲れます。
 しかしながら、1の位のみを計算すれば、2+9+8=19となり1の位は9となります。これは合計額の8,350の1の位の0とは一致しません。そうすれば、この行は端数処理による不整合があることがすぐに分かります。
 このようにしていけば、時間の節約につながるのではないかと思います。
 
 以上、参考としていただけますと幸いです。

2019年3月17日日曜日

貸倒懸念債権の貸借対照表上での表示

1.はじめに
 債権は貸倒見積高の算定にあたっては①一般債権、②貸倒懸念債権、③破産更生債権等に区分されます(金融商品会計基準27項) 
 では、これらの債権は貸借対照表ではどの区分に表示すればよいのかというと、この点については制度上、明記がありません。
 そこで、今回は、債権の貸借対照表表示について記載します。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.貸借対照表での表示
 貸借対照表のでの表示ですが、①一般債権と③破産更生債権等については問題はないでしょう。
 ①一般債権は流動資産に計上されます。科目名でいうと、受取手形、売掛金、リース債権、完成工事未収入金といった科目となります。
 ③破産更生債権等は固定資産のうち投資その他の資産に計上されます。こちらの科目名は破産更生債権等となります(財務諸表規則32条1項10号)。
 ここまでは問題はないのですが、では②貸倒懸念債権についてはどの区分に表示すればよいのかが問題となります。

3.正常営業循環基準
(1)貸倒懸念債権の意義
 まず、貸倒懸念債権の意義について記載します。
 貸倒懸念債権とは「経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権」をいいます(金融商品会計基準27項(2))。
 イメージとしては、まだ経営破綻には至っていないので相手方も苦しいながらも経営は続けているため回収可能性は残されているものの、請求を行ってもなかなか入金がされないような債権というものです。

(2)流動資産と固定資産の区分法
 次に、貸借対照表の流動資産と固定資産の区分法について記載します。
 まず、流動資産と固定資産の区分は「正常営業循環基準」によります。
 次に、正常営業循環基準で区分できないものについては「1年基準」によります。
 正常営業循環基準とは、文字通り、正常な営業サイクル(例:販売業でいえば、仕入→販売→入金)に属する資産及び負債は流動項目とし、それ以外は固定項目とするというものです。
 一方、1年基準は、正常営業循環基準に該当しない科目について、決算日後1年以内に回収や支払が行われる資産及び負債を流動項目、1年を超える資産及び負債については固定項目とするものです。

 この流動・固定分類については結構誤解されがちですが、まず第1次的には「正常営業循環基準」が適用されます。1年基準で区分するようなイメージを持たれている方も多いのですが、1年基準はあくまで2次的な区分法です。

 正常営業循環基準によれば、1年で投資の回収ができないものも流動資産に計上されることがあります。例えば、長期請負工事における完成工事未収入金です。工事期間が1年を超える長期工事においては、請負工事に対する債権の回収も1年を超えてきます。しかしながら、この債権は長期工事という正常な営業サイクルに属するものなので、流動資産に計上されます。

(3)破産更生債権等が固定資産に区分される理由
 そのため、 経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権である一般債権は当然のことながら流動資産に計上されます。正常な営業サイクルに属する債権だからです。
 では、破産更生債権等が固定資産に区分される理由ですが、これは破産更生債権等は、経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権であることから、正常な営業サイクルから外れた債権であるためです。経営破綻に陥った場合、会社に対する売上債権については、こちらが請求を行っても支払ってはくれません。例えば、債権者集会を経た後、清算配当が払われる形となります。配当があればまだよいかもしれません。少なくとも全額の回収はまず無理です。すなわち、正常な営業サイクルからは外れてしまっています。
 そのため正常営業循環基準により、固定資産に区分されるとされているものと解されます。

4.貸倒懸念債権の表示
 これらを鑑みると、貸倒懸念債権は「経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権」であるため、貸倒懸念債権の状態では、まだ正常な営業サイクルに属している債権といえます。
 このような入金が滞っている場合は、通常は取引は停止しますが、請求は続けていきます。その請求により、金額や入金時期は不規則ですが、少しづつ入金はされていくケースもあります。そのため、投資の回収を行っている状況にあることから、依然として正常な営業サイクルに属する債権といえます。

 なお、参考ですが、「金融商品会計に関する実務指針」112項では、貸倒懸念債権の要件について具体的に記載しています。
「債務の弁済に重大な問題が生じているとは、現に債務の弁済がおおむね1年以上延滞している場合のほか、弁済期間の延長又は弁済の一時棚上げ及び元金又は利息の一部を免除するなど債務者に対し弁済条件の大幅な緩和を行っている場合が含まれる。」
「債務の弁済に重大な問題が生じる可能性が高いとは、業況が低調ないし不安定、又は財務内容に問題があり、過去の経営成績又は経営改善計画の実現可能性を考慮しても債務の一部を条件どおりに弁済できない可能性の高いことをいう。」
「財務内容に問題があるとは、現に債務超過である場合のみならず、債務者が有する債権の回収可能性や資産の含み損を考慮すると実質的に債務超過の状態に陥っている状況を含む。 」

 従って、回収ペースは落ちているものの、債権の回収段階にある貸倒懸念債権は正常な営業サイクルに属しているといえますので、正常営業循環基準により流動資産に区分することが妥当といえます。

2019年2月11日月曜日

公益法人インフォメーション~電子申請システムリニューアル

1.概要
 少し前になりますが、公益法人informationの電子申請システムが新しくなりました。
 以前のシステムは、何かと使いづらい面がありました。この点は、内閣府や行政庁も認識されていたようで、ある行政庁の説明会では「現状の公益法人インフォメーションは使いにくいので、新しいシステムに移行します。」という説明をしていたという話を公益法人関係者から聞いたことがあります。
 実際、私も、ある行政庁関係者とこんな会話がありました。

「今の公益法人インフォメーションはいかがですか?」
「う~ん・・・」
「ですよね・・・ いろいろと使いづらい点があり申し訳ございません。」

2.どのように使いづらかったのか
(1)保存が面倒
 では、どのように使いづらかったのかかというと、まず、とにかく注意しないと保存ができなかったという点です。
 実際に公益法人インフォメーションを使用された方はよくご記憶だと思いますが、まず各別紙、別表の作成を行ったときは、右下の「登録」ボタンとクリックする必要があります。
 普通の感覚では「登録」ボタンを押せば登録されて保存されたものと思うのですが、実はそれだけでは不十分で、その後に出てくる別紙や別表の一覧が出てくる画面の下の方にある「一時保存」というボタンをクリックする必要がありました。
 この2段階の操作を行って初めて、作成した別紙、別表が公益法人インフォメーションに保存されます。
 もちろん、手順を踏めば問題はないのですが、結構多くの人がトラップに陥って、せっかく作成した別表、別紙を保存できず、また一から作成するという悲劇を起こしてしまいました。
 なぜかというと、旧システムではパソコンを一定時間使用しないままだと、画面がクラッシュしてしまったからです。結構この時間が短くて、私の記憶だと5分位だったと思います。
 そうなると、登録ボタンはクリックしたものの、一時保存をクリックしていていなかったために、パソコンをしばらく動かさなかったことから画面がクラッシュし、時間をかけて作成した別表、別紙が保存されなかったという、泣くに泣けない悲劇が起こってしまったというわけです。

(2)「自動計算」の仕組みがまちまち
 別紙、別表はいろいろと数値を入力するとことがありますが、自分でクリックしないと計算結果が反映されないところもあれば、勝手に自動計算されるところもありました。このあたりがまちまちなので、計算ボタンのクリックを忘れてしまう人もよくいました。
 私の記憶では、別紙1の収支相償の欄で計算ボタンのクリックし忘れが多かった印象があります。ただ、これは旧システムの表記が紛らわしかったからだと思います。旧システムの手引きが削除されてしまったため、記憶に頼るしかないのですが、あたかも自動的に別表A(1)の計算結果が反映されるような表記だったと記憶しています。
 かと思えば、別紙1の遊休財産の計算結果や別表H(1)の計算結果は自動的に反映されていました。
 このように、画面によって、どれがボタンをクリックしないといけないのか、自動計算されるのかが分かりづらく、ミスが生じるということもありました。

(3)その他
 その他では、行の追加や削除に時間がかかり使いづらかったという記憶があります。
 役員名簿や社員総会・評議員会・理事会の議事内容を記載する欄がありますが、このあたりでは、行を追加したり削除することが多くなります。このとき、エクセルのようにサクサクと行かないので、時間がかかります。
 また、別表B(5)や別表F(1)(2)のように一部がエクセルになっているという謎の構造もありました。それだったらこれらもシステムにして、計算結果が自動反映されるようにすれば時間の短縮になるのに、と思ったこともあります。

3.新システムはエクセルで作成
 このような旧システムでしたが、新システムではエクセルで作成するという形式に変わりました。
 まだ、電子申請は行ったことはありませんが、まずエクセル一式が入った圧縮ファイルをダウンロードするところから始まります。
 このエクセルについては、事業報告等の提出の場合は「流用」ができます。このあたりは旧システムと同様です。しかしながら、事業計画等や届け出については流用はありませんでした。もっとも、流用しなくても大きな問題はない書類ではあります。
 なお、たまたまだったのかはわかりませんが、私がダウンロードしたときは妙に時間がかかりました。従って、早めにダウンロードしておくほうがよいかと思います。
 エクセルには計算式が組み込まれていますので、必要なところは自動計算されます。このあたりは旧システムよりも使いやくすくなったという印象です。
 また、エクセルなので行の追加や削除も行いやすくなりました。
 さらに、エクセルなので、旧システムのように画面がクラッシュして保存されないということもありません。エクセルの保存ボタンをクリックすればよいので使いやすくなりました。
 このエクセルを新システムにアップロードして提出するという流れです。

 ただし、旧システムと異なる点もあります。
 新システムでは、提出する前に「様式チェック」というものがあります。これをクリアしないと申請できません。
 これは形式的なチェックなので、数値の誤りまではチェックされません。
 試しに、この様式チェックを使ってみましたが、こちらも妙に時間がかかりました。このあたりは今後改善されるではないかと思いますが、今年の電子申請は早めに行うほうがよいと思います。

2019年2月3日日曜日

日EU・EPA発効~その効果とビジネスへの影響

1.はじめに
 2019年2月1日付で日EU・EPAが発効されました。(注:マスコミなどでは「日欧EPA」と呼んでいますが、政府、各省庁は「日EU経済連携協定(日EU・EPA協定)」と呼んでいます。ここでは「日EU・EPA」と記載することにします。)
 これにより、日本とEUとの間で巨大な自由貿易圏が誕生しました。日本からの輸出、日本からの輸入についても関税が引き下げられ、最終的にはゼロとなります。一部品目については、発効日の2019年2月1日付で即時撤廃、すなわち関税がゼロとなりました。

2.そもそもEPAとは何か
 2018年12月30日にはTPP(Trans-Pacific Partnership 環太平洋パートナーシップ)が発効され、こちらもアジア太平洋地域に巨大な自由貿易圏が誕生しました。
 ここで、EPAやTPPと、自由貿易圏を巡っていろいろな用語が出てきます。自由貿易圏についての言葉であるということはわかりますが、どのような違いがあるのでしょうか?

 自由貿易の促進については、もともと1995年に発足したWTO(World Trade Organization 世界貿易機関)が発端です。このWTOにより自由貿易を発展させていこうという動きが始まりました。しかしながら、原則として、現在加盟している全164の加盟国及び地域のすべての同意が必要であるため、先進国と発展途上国との対立もあり、全会一致は困難なものとなりました。

 そこで、2国間で協定を締結する動きが出てきました。2国間であれば、WTOよりも交渉などを進めやすいからです。このようにしてできたのがFTA(Free Trade Agreement 自由貿易協定)です。このFTAは「特定の国や地域の間で,物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的とする協定」です(外務省HPより)。

 このFTAは、関税などの削減・撤廃を目的としてものですが、こういった貿易面のみならず、「貿易の自由化に加え,投資,人の移動,知的財産の保護や競争政策におけるルール作り,様々な分野での協力の要素等を含む,幅広い経済関係の強化を目的とする協定」(外務省HPより)がEPA(Economic Partnership Agreement 経済連携協定)です。簡単に言ってしまえば、EPAは貿易のみならず、ヒトやサービス、種々の規制といった面についても自由化していこうというものといえます。

 さらに、2国間の協定から、さらに範囲を広げて地域で協定を締結しようという流れも出てきました。このようにすれば、各国とそれぞれに協定を締結するよりも、一度に複数の国と協定を締結できるので効率的です。そのような中で誕生したのがTPP(Trans-Pacific Partnership 環太平洋パートナーシップ)です。
 今回の日EU・EPAも、日本とEUの間での協定ですが、地域間での協定といえます。
(参考:経済産業省「【60秒解説】TPP、EPA、FTA・・・何が違う?」)

3.日EU・EPAとTPPの参加国
(1)日EU・EPA
 日EU・EPAは、日本とEUの協定となりますので、EU加盟国が参加国となります。
 
 日本・ベルギー・ブルガリア・チェコ・デンマーク・ドイツ・エストニア・アイルランド・ギリシャ・スペイン・フランス・クロアチア・イタリア・キプロス・ラトビア・リトアニア・ルクセンブルク・ハンガリー・マルタ・オランダ・オーストリア・ポーランド・ポルトガル・ルーマニア・スロベニア・スロバキア・フィンランド・スウェーデン・英国

(2)TPP
 TPPの参加国は日本を含めて11カ国です。そのため「TPP11(イレブン)」という呼び方をすることもあります。
 
 日本・オーストラリア・ブルネイ・カナダ・チリ・マレーシア・メキシコ・ニュージーランド・ペルー・シンガポール・ベトナム

 TPPは米国が不参加を表明したことにより先行きが危ぶまれましたが、日本の安倍首相のリーダーシップによりTPPの実現に至りました。そのため、他国は日本にとても感謝をしているということです。

4.ビジネスへの影響
 今回の日EU・EPAでは、輸入ワインの関税が即時撤廃となり、小売業では値下げセールが行われるなど、輸入品に注目が集まっています。しかしながら、上記のように、EPAは貿易のみならず、ヒトやサービスといった面でも自由化が進められていきます。
 ちなみに、FTAやEPAについては、日本はすでに多数の国と締結しています。外務省のHPによると、2018年8月現在で

 シンガポール,メキシコ,マレーシア,チリ,タイ,インドネシア,ブルネイ,ASEAN全体,フィリピン,スイス,ベトナム,インド,ペルー,オーストラリア,モンゴルが発行済で、これにEUが加わりましたので、16カ国及び地域と発行済ということになります。

 このEPAはヒトやサービス面の自由化も促していると書きましたが、現在、我が国ではインドネシア、ベトナム、フィリピンとのEPAにより介護人材の受け入れが進んでいます。このように、少子化が進む我が国において、ヒトの移動も行われています。ちなみに技能実習生制度はEPAとは異なる制度です。
 
 このように、貿易面だけでなく、さまざまな分野においてEPAの効果が徐々に出てきますので、どのような自由化が進んでいるのかを常にチェックすることが必要です。


2018年12月25日火曜日

公益財団法人を設立するときの注意点(2)

1.はじめに
 以前、「公益財団法人を設立するときの注意点(1)」では、親族規制について記載しました。
 今回は、公益財団法人を設立するまでの過程について記載します。

2.一般財団法人の設立
 公益財団法人を設立するには、まず、一般財団法人を設立する必要があります。いきなり、公益財団法人は設立できません。なぜかというと、公益財団法人とは、一般財団法人のうち、公益認定を受けた法人を指すからです(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下、認定法)4条2号)。すなわち、一般財団法人を設立し、その後、行政庁から公益認定を受けて公益財団法人に至るわけです。



3.一般財団法人の設立における留意点
 一般社団法人や一般財団法人の設立は簡単だ、という話をよく聞きます。しかしながら、これはケースによって異なります。もう少し具体的に言うと、財務会計がどの程度行われているかによって設立までの時間が異なってきます。
 確かに、一般財団法人の場合、定款を作成すれば、ほぼ手続きは終了といってもよいほど比較的簡単にできます。しかしながら、設立登記を行った後、2ヶ月以内に税務署などに設立時貸借対照表を届け出る必要があります。設立時貸借対照表を作成するには資産、負債の関係が明らかになっていなければなりません。これは登記手続きを行う前に終了させておきたいところですが、場合によっては意外に時間がかかります。

 以下、ケースに分けて説明します。

 まず、①全く活動実績がない新規設立の場合と②それまで任意団体として活動してきた場合の2つに分けます。

①全く活動実績がない新規設立の場合
 この場合は、比較的簡単に設立できます。
 財務会計については、これまで活動実績がないため、会計帳簿はありません。従って、設立時貸借対照表を作成すればよいことになります。ただし、どのような財産を法人の資産にするのか、その範囲と金額について定める必要があります。金額については、現金預金であればわかりやすいですが、固定資産の場合は価額のつけ方が難しい場合もあります(文化財など)。

②それまで任意団体として活動してきた場合
 この場合、どのような会計を行ってきたかによって異なります。具体的には、複式簿記による会計を行ってきたかどうかによります。

(イ)複式簿記を行ってきた場合
 それまで、複式簿記による会計を行ってきた場合は、比較的スムーズに設立できます。複式簿記によれば、資産、負債、正味財産の関係が明らかになっているためです。そのため、設立時貸借対照表の作成にはそれほど時間はかかりません。もちろん、資産の実在性など、会計上適正である必要があるので、そのチェックに多少時間がかかる場合もあります。

(ロ)複式簿記を行っていなかった場合
 複式簿記を行っていなかった場合は、いわゆる単式簿記の方式になっているため、資産、負債の関係を明らかにするまでに時間がかかりやすい傾向にあります。
 現金や預金の残高の把握には時間はかからないことが多いですが、例えば、所有する固定資産については減価償却を行っていないため、減価償却を行った後の帳簿価額の計算に時間がかかることもあります。具体的には、いつ取得して、何年経過しているのか、取得価額はいくらだったのかといった情報の把握に意外に時間がかかります。
 負債に関しても、未払金を計上したことがないので、債務がどこまであるのかの把握に結構時間がかかります。

 このように、設立時貸借対照表を作成することは、一見、簡単なように見えますが、ケースによって完成するまでの時間が変わってきます。こういったところで、一般財団法人の設立までのハードルは異なってきますので、設立する場合は、現状の把握を行うことが必要です。 

2018年12月18日火曜日

LEDランプと修繕費

1.LEDの特徴
 LEDとははLight Emitting Diodeの頭文字をとったものです。日本語では発光ダイオードといいます。
 このLEDは従来の白熱灯・蛍光灯と比べて、少ない消費電力で使用でき、熱の発生も少なく、寿命も長いことが特徴です。
 そのため、企業等においても蛍光灯からLEDに変えるところが増えてきています。

2.収益的支出と資本的支出との関係
 従来の蛍光灯からLEDに取り替えた場合、その取替費用につき、税務上の処理が問題となります。

 税務上、資本的支出については、法人税法基本通達7-8-1では「法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額が資本的支出となる」とされています。

 また、収益的支出については、法人税法基本通達7-8-2で「法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の通常の維持管理のため、又はき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額が修繕費となる」とされています。

 LEDは、上記の通り、従来の白熱灯や蛍光灯と比べて機能が高いものといえます。
 そのため、LEDの取り替えにかかる支出は、感覚的には資本的支出になりそうな感じがします。

3.LEDへの取替費用は修繕費
 しかしながら、国税庁の質疑応答事例では、

「当社では、節電対策として自社の事務室の蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替えることを考えていますが、その取替に係る費用については、修繕費として処理して差し支えありませんか。」

という照会に対して、

「蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替えることで、節電効果や使用可能期間などが向上している事実をもって、その有する固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増しているとして資本的支出に該当するのではないかとも考えられますが、蛍光灯(又は蛍光灯型LEDランプ)は、照明設備(建物附属設備)がその効用を発揮するための一つの部品であり、かつ、その部品の性能が高まったことをもって、建物附属設備として価値等が高まったとまではいえないと考えられますので、修繕費として処理することが相当です。」

という回答を出しています。

 なお、この質疑応答事例では注記として
「平成29年7月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。
 この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。」

 とされていますが、上記の通り、LEDの取替費用は収益的支出として修繕費で処理して、まず問題はないと考えられます。
 修繕費としてよい理由は上記の国税庁の回答のとおりですが、私見では、これは日本政府がLEDを普及させたいという思惑があることから、税務上もLEDの普及を促進するために損金算入を認めてバックアップしているのではないかな、と思っています。
 
 なお、会計上の処理ですが、税務上の考えが会計上の考えになるわけではありませんが、このLEDの会計処理については、上記の国税庁の見解は会計の観点から見ても妥当ではないとはいえませんので、修繕費として処理して問題はないと考えられます。 

2018年11月25日日曜日

公認会計士試験・条文の表示方法~「項」や「号」の記載

1.「出題の趣旨」
 先日、平成30年公認会計士試験論文式試験の合格発表がありました。
 現在の試験制度では、「出題の趣旨」が公認会計士・監査審査会から公表されています。
 「出題の趣旨」は、問題を出題した試験委員が、出題の内容、出題の目的、答案記載上のポイントなどを記載したものです。
 どちらかというと、答案記載上のポイントはあまり書かれておらず、出題の内容、出題の目的に記載されたものが多くなっています。そのため、受験生はあまり「出題の趣旨」を読んでいないようなのですが、「出題の趣旨」は試験委員が記載したものであり、専門学校が介在していない直接的な情報なので、合格するためには、読んでおくことが望まれます。
 今回は、平成30年公認会計士試験論文式試験の「出題の趣旨」から個人的に気になったところをあげてみたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.条文の表示
(1)「項」、「号」の記載
 租税法のコーナーですが、「解答にあたっては、適用条文の正確な理解及び表示(必要に応じて「項」、「号」まで)が求められる。 」という記載がなされていました。

 これは非常に気になりました。試験委員がこのような記載をするということは、条文をしっかりと記載していない受験生がいる、ということです。
 この記載によれば「項」、「号」を記載していない受験生がいるのだと思います。「項」や「号」を示すことはとても大事です。同じ「○条」でも「項」や「号」によって内容は異なるからです。
 これは租税法だけでなく、会社法でも同様です。

(2)「項」や「号」を示さないとどうなるか
 例えば、会社法の場合ですが、監査役の取締役会への出席義務を記載するとき、

「監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない(会社法383条1項)。」

 と書くべきですが、仮に、

「監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない(会社法383条)」

 と書いてしまうと、どの条文を示しているのかが不明になってしまいます。というのは383条は1項から4項までありますが、1項には監査役の取締役会への出席義務が定められているのに対して、2項は、監査役の取締役会招集請求権について記載されています。3項は一定の場合における監査役による取締役会招集権、4項は特別取締役による取締役会の場合の不適用についての定めです。
 「383条」だけだと1項から4項までを含んでいることになり、どの項の条文であるのかがわかりません。従って、「383条1項」と明示する必要があるわけです。

 「号」についても同様です。
 例えば、株式会社の商号については、

「株式会社の商号は登記事項である(911条3項2号)。」

 と書くべきですが、仮に

「株式会社の商号は登記事項である(911条)。」あるいは「株式会社の商号は登記事項である(911条3項)。」と書いてしまうと、どの911条のどの部分を示しているのかがわからなくなります。

 このように、「項」や「号」が記載されていないと、どの条文を示しているのかが不明になります。従って、答案としては条文を示していない、すなわち法律要件を示していないということになってしまいます。そうなると、十分な点数がつかない、あるいは、全く点数がつかないということになります。(私見ですが、この場合、全く点数がつかない可能性が高いと思います。)
 このようなことになってしまっては、これまでの努力が水の泡となってしまうので、答案を書くときは普段の答案練習の時から慎重に行うことが重要です。

3.条文番号の表記
 それに加えて個人的に気になっているのが、条文番号の表記です。
 お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、拙著「「社会福祉充実計画」の作成ガイド」(中央経済社)や当ブログでは、例えば、

「理事長が欠席した場合でも、定足数を満たしていれば理事会は成立します(法45条の14④)。」
「この報告を行う趣旨は、理事会による理事長および業務執行理事に対する職務の執行の監督を機能させるためです(法45条の13②二)」
 
 といったように「項」は丸で囲った書き方で書いています。また、「号」は漢数字が多く、時々ローマ数字で書いています。

 しかしながら、本来は例えば「法45条の13第2項2号」といった書き方をすべきです。

 では、なぜ拙著や当ブログではこのような書き方になっているのかというと、理由は以下のとおりです。
 実は、拙著「「社会福祉充実計画」の作成ガイド」(中央経済社)を執筆しているとき、私のもともとの原稿では「法○条○項○号」といった記載をしていたのですが、1回目の校正のとき、中央経済社様から「項や号は、①にするなど、略して記載してください。」という要請があったためです。
 従って、このような記載をしているというわけです。

4.「第」はつける必要があるか
 次に、「第…項」といったように「第」までつける必要があるのかという点ですが、これは「出題の趣旨」の会社法のコーナーが参考になります。
 一部を引用してみます。

(イ)「本件債権の弁済期が到来していれば、現物出資財産の価額(会社法 199 条1項3号)は当該債権に係る負債の帳簿価額(券面額)と同額に定められているから、会社法 207条9項5号により、同条の手続は不要である。」

(ロ)「また、Aは当該出資の履行の仮装に関与した取締役に当たり、そのことについて職務を行うについて注意を怠らなかったとはいえないから、Aも甲会社に対して責任を負い(会社法 213 条の3第1項)、BとAの責任は連帯する。 」

 これらを見ると、基本的には「第」は不要ですが、一部で必要なときがあります。 
 それは、(ロ)のように、条の部分が「…条の…」となっている場合です。この場合、「第」をつけないと、「213条の3 1項」といったように数字が続いてしまい、わかりにくくなります。この場合だと「213条の31」と見えてしまうかもしれません。従って、このような場合は「第」をつけると読みやすくなります。

 なお、私の記憶では、会社法でこのような条文の書き方がされたのは、弥永真生教授の「リーガルマインド会社法」(有斐閣)ではなかったかと思います。勝手な推測ですが、このテキストを書くときも出版社から「条文は省略して書いてほしい」と言われたのではないかと思います。
 しかしながら、試験委員も務められた著名教授の本がこのような記載をしているといっても、条文の略書はしない方がよいと思います
 
5.まとめ
 条文は「○条○項○号」といった記載をして、法律要件をしっかりと示すことが重要です。そのためには、普段からテキスト・参考書よりは、条文を読むほうがよいです。
 以上、参考としていただけますと幸いです。

2018年11月18日日曜日

消費税軽減税率制度のポイント(3)

1.Q&Aの改正
 平成30年11月、国税庁は「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)」に追加を行いました。
 この中で、店内飲食についてもQ&Aが追加されました。

2.休息スペースでの飲食
 休息スペースでの飲食については、「消費税軽減税率制度のポイント(2)」でも記載しましたが、産経新聞の記事の一部について疑義が生じたので、この点についても記載しました。
 以下、再掲します。

 「購入した飲食料品がトレーに載せられて座席に運ばれたり、返却が必要な食器に盛られて提供されたりすると、外食と判断される。このため、そうしたサービスはできないようにして、全ての飲食料品を持ち帰りができる状態で販売するよう徹底する。コンビニ業界は、こうした施策で、取り扱う飲食料品は持ち帰りと定義でき、客がイートインで飲食したとしても税率は8%になるとみている。」

 という記載があります。
 しかし、「店内飲食禁止」としているのであれば、客がイートインで飲食することはできないはずです。見て見ぬふりをするということでしょうか。もし、そうであれば、記事にもあるように、外食業界からは強い批判が出るのは必至です。
 このあたりは、産経新聞が誰からどのような取材をしたのかが不明なのでなんとも言えませんが、いずれにしろ、抜け穴がないように調整をする必要があります。

 疑義が生じたのは、ゴシックの部分の「客がイートインで飲食したとしても税率は8%になるとみている」という点です。

 この点については、今回のQ&Aの問46の(注)で明らかになりました。
 以下、引用します。

「(注) 「飲食はお控えください」といった掲示を行っている休憩スペース等であったとしても、実態としてその休憩スペース等で顧客に飲食料品を飲食させているような場合におけるその飲食料品の提供は「食事の提供」に当たり、軽減税率の適用対象となりません。したがって、店内飲食か持ち帰りかの意思確認を行うなどの方法で、軽減税率の適用対象となるかならないかを判定していただくこととなりますのでご留意ください。」 

 従って、店内飲食を禁止している場合、飲食料品の販売は軽減税率の対象となりますが、もし休息スペースで飲食した場合は、軽減税率の対象とはならず、消費税率は10%となります。
 すなわち、産経新聞の記事のように、税率は8%とはならないので注意する必要があります。

3.意思確認の方法
 なお、この問46は「大半の商品(飲食料品)が持ち帰りであることを前提として営業しているスーパーマーケットの場合」の意思確認を想定したものであり、Qでは「全ての顧客に店内飲食か持ち帰りかを質問することを必要とするものではなく、例えば、「休憩スペースを利用して飲食する場合はお申し出ください」等の掲示を行うなど、営業の実態に応じた方法で意思確認を行うこととして差し支えありません。」としたうえで、次に「なお書き」で、店内飲食を禁止した場合も記載しています。
 以下、引用します。

 「なお、「飲食はお控えください」といった掲示を行うなどして実態として顧客に飲食させていない休憩スペース等や、従業員専用のバックヤード、トイレ、サッカー台のように顧客により飲食に用いられないことが明らかな設備については、飲食設備に該当しません。そのため、ほかに飲食設備がない場合には、持ち帰り販売のみを行うこととなりますので、意思確認は不要となります。」

 これは、先日の新聞報道にあったコンビニエンスストア業界の取り組みに相当するものです。
 
 しかしながら、導入当初は相当混乱することが予想されます。
 休息スペースがあるスーパーマーケットは、飲食禁止にするほうがレジでの店員の負担を減らすことができるのではないかと思いますが、休息スペースで飲食できることで、お客さんを呼び込めるという販売上のメリットもあるので、あちらを立てればこちらが立たずといったところでしょうか。

2018年11月3日土曜日

建設仮勘定の留意点(2)

1.はじめに
 前回、建設仮勘定を使用する場面では、会計処理の誤りが多く見られる、という話をしました。
 今回は、その誤りの発生を防止するための対策をご紹介したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.費用処理してしまう誤りへの対策案
(1)概要
 よく見られるのは、建設に係る支出を、本来は建設仮勘定で処理すべきところを、費用処理してしまう誤りです。これは、社会福祉法人など非営利法人でよく見られます。
 原因の一つとしては、建物の建設は頻繁に行われるわけではないので、経理担当者が建設仮勘定による処理に慣れていないことがあげられます。
 本来であれば、内部統制のデザインの一つとして、例えば、経理担当者は日商簿記2級以上の資格を有する者にする、各種研修会の受講を義務付ける、経理雑誌の購読を行う、といったことも必要です。しかしながら、多くの公益法人、社会福祉法人、医療法人といった非営利法人では、まだそこまでの体制が整っていないのが現状です。
 もちろん、経理担当者がそれなりの知識を有していても、誤りやすい分野でもあります。
 そこで、この誤りを防止するための対策案をあげてみます。

(2)支出の範囲の把握
 まず、あらかじめ建設に係る支出の範囲と見積額を把握することがあげられます。
 建設を行うためには、設計から始まりますが、建設計画に基づいて設計から工事完了までに至るすべての作業と見積額を一覧にして把握します。
 そして、この一覧をもとに支払予定表を作成し、前もって支払時期や支払予定額を把握します。期中において、その時点の建設仮勘定の額と支払予定額を比較して大きな差異がないかどうかをチェックしていけば、建設仮勘定への集計漏れは防ぐことができます。
 監査において、よく見られたのは設計や測量など工事に入る前に発生する支出を費用処理する誤りでした。また、工事業者への前払金も建設仮勘定で処理しますが、時々この前払金も費用処理してしまう誤りも見られました。
 しかしながら、このようにすれば、建設仮勘定にすべきところを費用処理する誤りも防止できるでしょう。

(3)上長のチェック
 次に必要なのは、やはりというか上長のチェックです。
 振替伝票のチェックのときに、上長は建設に係る支出が建設仮勘定で会計処理されているかどうかをチェックすることが必要です。
 また、上に記載したように、建設仮勘定の額と支払予定額を比較して、建設仮勘定への計上漏れがないかどうかも上長が確かめる必要があります。

3.建設仮勘定の振替
 建設仮勘定は、当該建物等が完成した時点で建設仮勘定に振り返る必要がありますが、この振替を失念していたり、タイミングを誤ったりするというミスも時々見受けられます。
 建設仮勘定の振替を忘れてしまうと、減価償却の開始が遅れる可能性ができます。そうなると、費用の計上漏れが発生してしまいます。
 通常は建物が完成したら、ほぼ同時期に稼働するでしょうから、その月から減価償却を開始します。
 このあたりの対策となると、支払予定表に、工事が完了して建物等が完成したら本勘定に振り替えるということを明記しておいて、常に意識しておくということが一つの手段として考えられます。


 


2018年10月29日月曜日

建設仮勘定の留意点(1)

1.建設仮勘定とは
 建設仮勘定とは、必ずしも決まった定義があるわけではありませんが、建設が完成するまでに行った支出を仮勘定として集計した勘定科目といえます。イメージとしては、建設に関する支出を建物等が完成するまでプールしておく勘定といった感じです。
 ちなみに、英語では Construction in Progress といい、頭文字をとってCIPということもあります。

2.よくある問題点
 社会福祉法人では新しい介護施設などの建設、医療法人では新病棟の建設といったように、社会福祉法人や医療法人では建設に関する支出が比較的よく出てきます。
 しかしながら、個々の社会福祉法人や医療法人においては、毎年新施設や新病棟を建設するわけではないので、経理担当者にとっては建設仮勘定はあまり馴染みがない科目といえます。そのため、会計処理の誤りがよく見られます。
 会計処理の誤りには、金額が小さいものもあれば、大きいものもあります。建設仮勘定の会計処理を誤ると、どちらかというと金額が大きい誤りにつながることが多くなるので注意が必要です。
 
 以下、よく見られる会計上の問題点を記載します。

① 建設中の施設等にかかる支出は建設仮勘定で会計処理すべきところ、費用勘定で処理していた。
② 建設仮勘定を建物勘定に振り替えることを失念していた。
③ 建設仮勘定の建物勘定への振り替えのタイミングを誤った。
 
3.費用勘定で処理した場合の問題点
 建設に係る支出は、建物等が完成するまで建設仮勘定に計上する必要があります。
 しかしながら、これらを費用処理すると、建物が完成して建物勘定に振り替えたときに、建物の取得価額が本来の金額よりも少なくなってしまいます。
 その結果、減価償却費も本来の金額よりも小さくなってしまいます。
 これは、費用配分の誤りであり、適正な期間損益計算を阻害することになります。

4.建物勘定への振り替えの失念やタイミングを誤った場合の問題点
 建設仮勘定は建物が完成すると建物勘定に振り返る必要がありますが、これを失念したりタイミングを誤ったりすると、減価償却費の計上のスタートがズレる可能性が出てきます。「可能性」といったのは、減価償却の開始の時期は、建物が事業の用に供されたときから始めるためです。そのため、建物が完成したからといってすぐに可動するとは限らないためです。
 この場合も、本来計上されるべき費用が計上されないことになるので、適正な期間損益計算が行われないことになります。

5.不正リスク
 最後に、建設仮勘定は、建設に関係がない支出を建設仮勘定に計上することで、費用を減少させ、利益を増大させるという不正が行われるリスクもあります。
 このように、建設仮勘定は危険性が高い科目といえます。
 従って、施設や病棟などの建設が行われる期間においては、建設仮勘定の取扱については注意する必要があります。
 「建設仮勘定の留意点(2)」では、上記のような誤りを防ぐための内部統制について説明したいと思います。





2018年10月21日日曜日

消費税軽減税率制度のポイント(2)

1.コンビニのイートインコーナーは消滅する?
 先日、コンビニエンスストア業界が店内での飲食禁止を条件に、酒類を除く全ての飲食料品を軽減税率の対象とするということで財務省と調整しているというマスコミ報道がありました。この報道の発信源がどこで、また、どのような意図で報道されたのかは不明ですが、いったん、この報道を前提に記載します。

 「消費税軽減税率制度のポイント(1)」にも記載しましたが、店内飲食の場合は標準税率10%が適用され、テイクアウトのような持ち帰り販売の場合は軽減税率8%が適用となります。
 コンビニエンスストアのイートインコーナーは、店内飲食(食事の提供)に該当しますので、イートインコーナーで飲食することを前提に販売すれば、飲食料品であっても標準税率10%が適用されることになります。

 今回の報道が真実だとすれば、このようなコンビニエンスストア内での店内飲食は、平成31年10月1日以後は行うことができなくなるということになります。

2.抜け穴がある?
 産経新聞の平成30年10月3日付の記事「コンビニ業界が全食品を軽減税率対象で調整 消費増税で イートインは「休憩施設」」では、タイトル通りイートインコーナーを休息施設と位置づけるとしていますが、記事の中に

「購入した飲食料品がトレーに載せられて座席に運ばれたり、返却が必要な食器に盛られて提供されたりすると、外食と判断される。このため、そうしたサービスはできないようにして、全ての飲食料品を持ち帰りができる状態で販売するよう徹底する。コンビニ業界は、こうした施策で、取り扱う飲食料品は持ち帰りと定義でき、客がイートインで飲食したとしても税率は8%になるとみている。」
 
 という記載があります。
 しかし、「店内飲食禁止」としているのであれば、客がイートインで飲食することはできないはずです。見て見ぬふりをするということでしょうか。もし、そうであれば、記事にもあるように、外食業界からは強い批判が出るのは必至です。
 このあたりは、産経新聞が誰からどのような取材をしたのかが不明なのでなんとも言えませんが、いずれにしろ、抜け穴がないように調整をする必要があります。
 
3.店内飲食と持ち帰り販売の判定方法
(1)判定時は課税資産の譲渡等を行う時
 このように、店内飲食は標準税率、持ち帰り販売は軽減税率がそれぞれ適用ということになるので、この両方を行っている飲食店等は販売時のレジ打ちが大変となることが予想されます。
 上記1.のコンビニエンスストア業界の話も、レジ打ちの対策という目的もあるようです。
 
 この店内飲食と持ち帰り販売の判定は、「消費税軽減税率制度のポイント(1)」でも記載したように事業者が課税資産の譲渡等を行う時に判定することになります。

(2)具体的な判定方法
 それでは、その判定は具体的にはどのようにすればよいのかという問題がありますが、「消費税の軽減税率制度に関する取扱通達」(以下「軽減通達」)の11では、例示として顧客に意思確認を行うことが示されています。

 以下、軽減通達の該当条文を引用します。

(持ち帰りのための飲食料品の譲渡か否かの判定)
11 事業者が行う飲食料品の提供等に係る課税資産の譲渡等が、食事の提供(改正法附則第34条第1項第1号イ《31年軽減対象資産の譲渡等に係る税率等に関する経過措置》に規定する「食事の提供」をいう。以下この項において同じ。)に該当し標準税率の適用対象となるのか、又は持ち帰りのための容器に入れ、若しくは包装を施して行う飲食料品の譲渡に該当し軽減税率の適用対象となるのかは、当該飲食料品の提供等を行う時において、例えば、当該飲食料品について店内設備等を利用して飲食するのか又は持ち帰るのかを適宜の方法で相手方に意思確認するなどにより判定することとなる。

 「適宜の方法」とされていますので、例えば、レジスペースで店員が「お持ち帰りですか、それとも店内で召し上がりますか?」と顧客にたずねるというものがあげられます。これは、ファーストフードなどでは、よく行われている方法です。
 
(3)張り紙も可
 もちろん、「適宜の方法」でよいので、これ以外の方法によっても可能です。
 先月、日本公認会計士協会京滋会で行われた研修では、大阪国税局課税第2課の担当者より、この判定方法としては、上記のほか、張り紙を掲示して申し出てもらう、という方法も考えられるという説明がありました。
 例えば、原則として持ち帰り販売とし、張り紙で「店内で飲食を希望される方は申し出てください。」と記載しておくという方法があります。その逆でもよいでしょう。

 その他にも、持ち帰りか店内飲食かを選択できるボタンをつけた端末をレジに置いて、顧客にボタンを押していただく、というのもよいかと思います。このような端末は見たことはありませんが、そのうちできるのではないかと個人的には予測しています。

2018年10月14日日曜日

経営難の病院を乗っ取る手口(1)

1.医療法人のハコ化
 最近、産経新聞に平成30年10月9日付で「「医療・福祉」の倒産最多 経営難、暴力団つけ込む 年間見込み」という記事が掲載されました。
 
 まず、記事の冒頭部分を引用します。

「医療⾏為などの診療報酬を主要な収⼊源とする「医療・福祉事業」の1〜8⽉の倒産件数が前年同期⽐40件増の196件に上り、年間件数が過去最多を更新する⾒込みであることが9⽇、⺠間信⽤調査会社「東京商⼯リサーチ」(東京)の調査で分かった。病院・医院の倒産に加え、⾝売りも続発。経営難につけ込んだ暴⼒団やブローカーらが、医療機関の診療報酬請求権を売買するなど暗躍している。」

 赤文字ゴシックは私によるものですが、経営難に陥った医療法人等に対して、反社会的勢力がつけ込んでいることが記載されています。この記事では、その後、その乗っ取りの手口が具体的に記載されています。

2.資金繰りの悪化が招くハコ企業への転落
 以前、このブログでは「経営者による内部統制の無効化とハコ企業」というタイトルでブログを記載しました。
 このブログでは、資金繰りが悪化したときは内部統制の無効化が発生しやすくなり、その結果、「ハコ企業」に陥りやすくなることから、資金繰りは絶対に悪化させないようにする必要がある、という趣旨の文章を記載しました。
 資金繰りが悪化した上場企業の中には、この過程を通じてハコ企業になってしまったところも少なくないのですが、この点は医療法人、社会福祉法人、公益法人も注意する必要があるということも記載しました。理由は、こういった非営利法人は内部統制が脆弱であるためです。例えば、理事会や監事などのガバナンスも弱いため、外部の人間に簡単につけ込まれやすい傾向があるためです。

3.経営悪化の原因
 医療法人などの医療・福祉関係事業者の一部が経営難に陥り、資金繰りが悪化している理由はいろいろとありますが、記事にも記載されているように国家財政の悪化によって、診療報酬が抑制傾向にあることが原因の一つです。
 診療報酬は、公定価格なので自分で価格を決定することができません。一方で我が国の財政は悪化していますから保険による診療報酬の支払は極力少なくしたいところです。そのため、同じ医療業務を行っても、売上が段々と少なくなり、コスト削減に失敗してしまうと資金繰りが苦しくなっていくという図式です。
 このように、資金繰りが悪化すると、経営を続けていくことが苦しくなります。そうなると、冒頭に記載したように、資金の援助をちらつかせる外部の人間につけ込まれ、内部統制の無効化が次々と発生し、ハコ企業に陥ることになります。

4.診療報酬請求権の売却
 乗っ取りと利益を得る手口についても産経新聞の記事に記載されています。
 要約すると、

①理事長の権限が強いワンマン経営の病院に、トップの信頼を得て経営中枢に入り込む
②診療報酬請求権を売却して運転資金を工面するという提案を承諾させ、実際に金融機関に診療報酬請求権を売却する
③さらに金融機関からその診療報酬請求権を入手する
④ブローカーに診療報酬請求権を高値で売却する

 ということです。

 なお、この診療報酬請求権の売却ですが、これ自体は問題はありません。いわゆるファクタリングです。健全な法人でも、資金繰りをよくするためファクタリングを行っているところもあります。

 ファクタリングの会計処理は概ね以下のとおりです。

【仕訳例】
(1)売掛金1,000を金融機関に譲渡する

 (借方)未収金 1,000 (貸方)売掛金 1,000

(2)金融機関から950の入金があった。

 (借方)現金預金 950 (貸方)未収金 1,000
     支払手数料 50

 なお、支払手数料は非課税取引となりますので課税仕入にしないように注意する必要があります。

 今回はここまでとします。
 次回は診療報酬請求権が売却される背景について説明します。

2018年10月8日月曜日

消費税軽減税率制度のポイント(1)

1.軽減税率制度の概要
 消費税及び地方消費税(以下「消費税等」)の税率は、平成31年10月1日より8%から10%に引き上げられる予定です。
 この一方で、「酒類・外食を除く飲食料品」と「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」は消費税の軽減税率制度が適用され、これらに係る消費税率は8%となります。ただし、現行(消費税率6.3%、地方消費税率1.7%)とは異なり、軽減税率のもとでは同じ8%でも消費税率は6.24%、地方消費税率は1.76%となります。

2.軽減税率制度の対象となる人
 軽減税率制度は、一見すると飲食料品の売上や仕入を行う、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、売店、飲食業といった業者のみが対象となるように思えますが、このような業者のみならず、その対象はもっと幅広いものとなります。
 例えば、課税事業者で、飲食料品の売上がない場合でも、飲食料品の仕入がある場合は軽減税率制度の対象となります。どのような場合かというと、例としては会議のときに、会議費としてお茶やお菓子を購入する場合です。また、交際費として取引先へのお菓子などの食料品をお土産として購入する場合も該当します。福利厚生費として、従業員のためにおやつや飲み物を購入する場合も該当します。
 従って、軽減税率の対象は、非常に幅広いものとなり、かなり多くの事業者が対象となると想定されるので注意が必要です。

3.テイクアウトと店内飲食
 テイクアウトの場合は、飲食料品の販売となるため軽減税率の対象となります。一方、店内飲食の場合は標準税率(10%)が適用されます。
 この点について、先日、「コンビニに行ったとき、家で食べるつもりで弁当を買ったが、店を出るとき気が変わって、イートインで弁当を食べたときはどうなるのか?」という質問がありました。この類の質問・疑問は多くの人が持っているのではないかと思います。
 この場合は、軽減税率の対象となり、標準税率の適用は一切ありません。
 なぜかというと、軽減税率が適用されるかどうかの判定は、事業者が課税資産の譲渡等を行う時で行うことになるためです。
 具体的には、この場合、弁当を販売する時点で軽減税率か標準税率の適用かが決まるということになります。家で食べるつもりということで販売すれば、この時点で軽減税率の適用が決定されます。
 従って、一度決まった税率は、その後変わることは絶対にありません。

2018年9月9日日曜日

公益財団法人を設立するときの注意点(1)

1.はじめに 
 公益財団法人(公益認定を受けた一般財団法人をいいます。(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)2条Ⅱ)は、個人が寄附した場合でも一定の要件を満たせば、譲渡所得税について非課税になるなど税法上のメリットがあるため、近年、富裕層を中心に公益財団法人を設立したいというニーズが非常に高まっています。
 確かに、公益財団法人は個人、法人にとって税法上のメリットがありますが、公益法人は個人や法人が節税を行うために設けられた制度ではありませんので、あくまで、公益の増進のために行うという意思をもって設立することが必要です。
 今回は、この公益財団法人を設立するにあたっての注意点を記載していきます。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.税法上のメリットの例
(1)譲渡所得税の非課税
 個人が土地や有価証券といった財産を法人に寄附(法人に対する贈与又は遺贈のほか、法人を設立するための財産の提供)を行った場合、原則として、その時における価額に相当する金額(時価)により、これらの資産の譲渡があつたものとみなされることから、資産の取得時から寄附時までの値上がり益に対して所得税が課税されることになります(所得税法59条①Ⅰ)。
 しかしながら、これらの財産を公益法人等に寄附した場合に、その寄附が一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、譲渡所得税については非課税となります。すなわち、税金は課せられません(租税特別措置法40条)。

(2)相続税の非課税
 個人が相続財産を公益法人に寄附した場合、原則として、その寄附をした財産や支出した金銭は相続税の対象とはならず、非課税となります。すなわち税金は課せられません(租税特別措置法70条)。

3.親族規制
(1)ファミリー経営は不可
 公益法人には、このような税法上のメリットがあるため、相続税対策や事業承継対策として公益財団法人を設立したいという富裕層は非常に多くなってきています。
 しかしながら、公益財団法人はあくまで公益の増進を目的とする法人なので、この目的を第一にして設立を行う必要があります。すなわち、税法上のメリットを得るために設立する法人ではありませんから、自分の好きなように運営できるものではないということを知っておく必要があります。

(2)親族規制の内容
 公益法人は上記の通り、公益の増進を目的として運営される法人なので、特定の一族による支配運営が行われると、その一族の私利私欲のために公益財産が悪用される恐れがあります。
 そこで、公益法人では親族規制を設けています。
 具体的には、まず、各理事について、当該理事及びその配偶者又は三親等内の親族(これらの者に準ずるものとして当該理事と政令で定める特別の関係がある者を含む。)である理事の合計数が理事の総数の3分の1を超えないものであるというものです。これは監事についても、同様です(認定法5条Ⅹ)。
 評議員については、法令上は親族規制は設けられていませんが、上記の譲渡所得税の非課税の特例の適用を受けるためには、評議員についても親族規制を設ける必要があります(租税特別措置法40条)。

(3)許容範囲はどこまでか
 親族規制は、3分の1規定とも言われることがありますが、「3分の1を超えない」ということが要件となっていますので、3分の1まではOKということになります。
 具体例では、理事が6人いる場合、2人までは配偶者や三親等内の親族等であっても問題はないということなります。

(4)三親等内の親族とは
 三親等内の親族は本人及び配偶者の曽祖父・曾祖母や叔父・叔母を含みます。従って、範囲は広いものとなります。ただし、従兄弟姉妹(いとこ)は四親等なので、範囲外となります。
 参考資料として社会福祉法人向けのものですが、兵庫県が親族関係図を公表していますので、ご参照ください。

(5)特別の関係がある者
 特別の関係がある者とは以下のとおりです(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行令4条)。
 以下をご覧になってもわかるように、範囲は広いものとなります。
 自分の会社の使用人(従業員)を理事にはめ込んで、ワンマン経営を行おうということも不可です。

一 当該理事と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
二 当該理事の使用人
三 前二号に掲げる者以外の者であって、当該理事から受ける金銭その他の財産によって生計を維持しているもの
四 前二号に掲げる者の配偶者
五 第一号から第三号までに掲げる者の三親等内の親族であって、これらの者と生計を一にするもの

4.最後に
 このように、公益法人になるためには、まず親族の3分の1規定をクリアする必要があります。すなわち、自分のファミリーや自社の従業員とは全く関係のない外部の人を評議員、理事、監事にする必要があるということです。
 ポイントとしては、せっかく作った公益法人が悪意のある人間に乗っ取られることがないよう、信頼のおける人に就任していただくことです。
 従って、人選には時間をかける必要があります。
 公益法人はファミリーのみで構成することはできませんから、すぐには人は集まりません。結局、一朝一夕では公益法人は設立できないということをおさえておく必要があります。
 なお、注意点は他にもまだまだありますので続きを次回以降、記載していきたいと思います。