満期保有目的の債券は、原則として取得原価をもって貸借対照表価額としますが、債券を債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としなければなりません(金融商品会計基準(以下「基準」)16)。
保有している債券の発行会社が安定していれば問題はありませんが、債券発行会社によっては異常事態が発生することもあります。実際に債券のデフォルトは発生しています。
今回は、満期保有目的の債券について減損を行うケースと減損を行った後の会計処理について記載します。
1.償却原価法を適用する理由
債券にも時価のあるものと時価がないものがあります。時価を把握できるのであれば、債券であっても通常は時価評価を行いますが、満期保有目的の債権については償却原価法を適用します。
その理由は、時価が算定できるものであっても、満期保有目的の債券は、満期まで保有することによる約定利息及び元本の受取りを目的としており、満期までの間の金利変動による価格変動のリスクを認める必要がないためです(基準71)。
2.減損を行うケース
(1)時価がある場合
満期保有目的の債券について時価があるものについては、時価が著しく下落したときは、回復する見込があると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とします。(基準20)。
ここで「著しく下落した」という要件ですが、個々の銘柄の有価証券の時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合は「著しい下落」に相当するとされています(実務指針91)。
この場合は、合理的な反証がない限り、
時価が取得原価まで回復する見込みがあるとは認められないため、減損処理を行わなければなりません(実務指針91)。
30%以上50%未満の下落率の場合、状況に応じ、個々の企業において時価が「著しく下落した」と判断するための合理的な基準を設け、当該基準に基づき回復可能性の判定の対象とするかどうかを判断する、とされていますので、経理マニュアル等において具体的な基準を定めておく必要があります(実務指針91)。
この回復可能性について、実務指針91では「債券の場合は、単に一般市場金利の大幅な上昇によって時価が著しく下落した場合であっても、いずれ時価の下落が解消すると見込まれるときは、回復する可能性があるものと認められるが、格付の著しい低下があった場合や、債券の発行会社が債務超過や連続して赤字決算の状態にある場合など、信用リスクの増大に起因して時価が著しく下落した場合には、通常は回復する見込みがあるとは認められない。」としています。
そのため、特に30%以上50%未満の下落率の場合は、「時価の著しい下落」の判定について具体的な判断基準を設け、「回復可能性」の判定にも具体的な基準も設けておく必要があります。このあたりは保有する有価証券に係る内部統制です。ポイントは恣意的な判断を行わせないようにする点です。具体的な基準がないと、都合のよい方に判断し、本来減損すべきところを減損しないという虚偽表示が発生する恐れがあります。
(2)時価がない場合
時価を把握することが極めて困難と認められる(市場価格がなく、かつ、時価を合理的に算定できない)債券の貸借対照表価額は、債権の貸借対照表価額に準ずるとされていることから(基準19(1))、このような債券については、償却原価法を適用した上で、債権の貸倒見積高の算定方法に準じて信用リスクに応じた償還不能見積高を算定し、会計処理を行います。なお、償還不能見積高の算定は、原則として、個別の債券ごとに
行うものとするとされています(金融商品会計に関する実務指針(以下「実務指針」)93)。
3.減損を行った場合
満期保有目的の債権についても、このように減損の要件を満たした場合は減損を行う必要があります。
そこで、満期保有目的の債券について減損を行った場合、その後の会計処理がどうなるのかという点ですが、この場合は、その後は償却原価法の適用は行いません。
その理由は、減損を行った場合、その債券については取得価額と減損後の債券金額との差額は金利の調整差額ではないからです(金融商品会計に関するQ&A 25)。
4.最後に
株式会社の他、公益法人や社会福祉法人においても満期保有目的の債券を保有している法人はよく見られます。多くの法人は国債や地方債といった安全性の高い債券に投資していますが、法人によっては国債や地方債よりもリスクの高い債券に投資しているケースもあります。そのため、法人の有価証券規程や経理マニュアルにおいて減損会計の適用の要否を判定する具体的な基準を設けているかどうかを確認する必要があります。
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