残高確認を行うと、被監査会社が認識している金額とは異なる金額が相手先から回答されてくるときがあります。
このように、「確認依頼した情報や企業の記録に含まれる情報と確認回答者の提供した情報との間にある差異」を確認差異といいます(監査基準委員会報告書(以下「監基報」)505 5(5))
一般に、確認差異が生じたときは虚偽表示の兆候を示している可能性があるので、差異内容を分析する必要があります(監基報505 13、A21)。しかしながら、全ての確認差異が必ずしも虚偽表示を示しているとは限りません(監基報505 A22)。
そこで、今回は、虚偽表示を示しているものではない確認差異の一例について記載します。
1.収益と費用の認識のタイミングの違いによるもの
よく見られるのは、収益と費用の認識のタイミングの違いによるものです。
これは、収益の認識基準と費用の認識基準によって、収益と費用の計上時期が異なるためです。
具体例をあげると、被監査会社が収益の認識基準について出荷基準を適用しているが、取引先は費用の認識基準として納品基準を適用しているような場合です。
例えば3月決算の被監査会社が3月31日に商品を出荷したとします。そうなると、被監査会社では出荷基準ですから、出荷の事実に基づき3月31日に収益計上を行います。
仕訳は、以下のとおりです。
(借方)売掛金 ・・・ (貸方)売上 ・・・
しかしながら、取引先は仕入の認識については納品基準、すなわち、納品の事実に基づいて費用計上します。より具体的には、納品日に仕入計上を行うということです。
通常は3月31日に出荷した商品が届くのは、翌日の4月1日や、翌々日の4月2日といった時期になります。そのため、相手先では、例えば4月1日に商品が納品されたら、4月1日に仕入計上を行います。
仕訳は以下のとおりです。
(借方)仕入 ・・・ (貸方)買掛金 ・・・
確認を行うときは、確認基準日を設定します。この場合は被監査会社が3月決算ですから、基準日を平成✕年3月31日とします。すなわち、平成✕年3月31日時点の売掛金の実在性などについて相手に照会を行うわけです。
そうなると、上記の通り、3月31日時点では、被監査会社では売掛金を計上していますが、取引先ではこの取引にかかる買掛金は計上していません。なぜならば、3月31日時点では商品は納品されていないからです。
このように、収益と費用の認識のタイミングの違いによって、確認差異が生じることがあります。
ちなみに、親子会社間でこのような差異が生じたときは未達取引として処理し、債権債務の残高をあわせます。
余談ですが、日々販売と仕入を行っている親子会社の間で、債権と債務の残高が一致していたら逆に怪しいです。
2.当座預金
未取立小切手や未呈示小切手がある場合は、被監査会社の当座残高と金融機関が回答する残高に差異が生じるときがあります。
未取立小切手の場合は、被監査会社が受け取った小切手を金融機関が取り立てを行っていない状態なので、金融機関の当座残高のほうが少なくなります。
一方、未呈示小切手の場合は、被監査会社が小切手を振り出したものの、取引先が自社の金融機関に小切手を提示していない状態なので、金融機関の残高のほうが多くなります。
なお、「預金に関する内部統制」で記載したように、銀行残高調整表を作成して差異原因を把握しておく必要があります。
3.消費税等の端数
消費税等の計算における端数処理に係る差異が生じている時もあります。
課税仕入に係る消費税を計算するときは、支払対価の合計額に108分の6.3を乗じますが、このときに生じた端数は切り捨てます。(なお、実務上は地方消費税をあわせて計算されますが。)
しかしながら、相手方がこの消費税の計算を行うときに、端数切り捨てではなく、四捨五入をしていたり、切り上げ計算をしていたりすると、1円の差異が生じるときがあります。
結論としては、相手方の計算誤りですが、このような確認差異が生じる時もあります。
4.投資有価証券
投資有価証券について残高確認を行うこともあります。金額のほか、株式数などを回答していただきます。
関係会社以外の株式会社が発行した株式を引き受けると、通常、投資有価証券として計上しますが、この投資有価証券を時価評価していたり、減損を行っていたりすると、引受時の金額とは異なってきます。そうなると、確認差異が生じます。
以上、虚偽表示を示しているものではない確認差異について、よくある例を4点あげてみました。
他にも、このような確認差異はあります。契約内容や取引条件はいろいろなものがあります。そうなると、確認差異が発生することも多くなります。
例えば、商品の仕入に係る運送費はこちら持ちの後払い(運送費は取引先とは別の運送会社に係るものだが、代金は一旦取引先に支払う)という場合、被監査会社は運送費を含めた金額を買掛金計上しているものの、相手先にとっては運送費分については自社の売上債権ではありませんから、売掛金には計上されないはずです。そうなると、運送費相当額の金額の確認差異が生じる可能性があります。
このように、確認差異の発生原因は定型的なものではありませんから、監査人は被監査会社による差異原因の回答を検討するときは、契約内容や取引条件を十分に把握する必要があります。
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