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2019年8月30日金曜日

大手コンビニで水増契約

1.はじめに

大手コンビニ会社で、社員が水増契約を行い、4億3千万円を私的流用していたというニュースがありました。会社のニュースリリースを見ると

「当社のIT部門の元従業員(50代男性・在籍35年)が、2011年から2019年までの約9年間にわたって取引先と共謀し、業務委託料の水増しにより予備費の名目で取引先にプールさせ、これを私的用途に使用していました。金額は合計約4.3億円となります。」

 と記載されていました。
 非常に多額の横領ですが、日本経済新聞の記事などを見た限りでは、私がこれまで記載した内部統制の不備の典型例のような感じもします。


2.不正の背景

水増契約の場合、通常、取引先に協力者がいます。今回も取引先の男性が共謀していたということです。
 また、この大手コンビニ会社のIT部門を担当する男性は、長くこの部門を担当し、また、システム委託を一人で担当していたと報道されています。
 これらから推測すると、共謀関係が生じたのは、このIT部門の職員が一人で長く担当していたためと考えられます。同じ担当者同士が長い間、取引を行っていると人間関係が深くなります。そうなると、共謀関係も生じるリスクがあるというわけです。

3.どのような内部統制の不備か

水増契約の対策については、過去のブログ「転売を目的としたパソコンの不正購入(2)」でも記載しましたが、発注依頼者と発注担当者を分けることが有効です。このときのブログでは「発注依頼者と発注担当者も分ける必要があります。これらが同じ人だと、取引先と共謀して架空取引や水増契約のリスクがあるからです。」と記載しました。
 今回のケースでは、詳細は不明ですが、IT部門のシステム委託を一人で担当していたということから、発注依頼者と発注担当者が分けられていなかった可能性が高いと思います。
 実際、朝日新聞の記事では「男性社員が04年ごろからこの取引先への業務委託を1人で担っていたため、チェック機能が働かなかったなどと説明。」と記載されています。
 これは、内部統制のデザインに問題がある、典型的な不備といえそうです。

4.システムやサービスの特性

今回はシステムの業務委託ということですが、こういった取引は有形ではなく無形のサービスであるため、目に見えません。そのため、システム取引やサービス取引は注意する必要があります。これも過去のブログ「架空取引に係る内部統制」においても、「サービス提供の場合、サービスを受けたかどうかの確認が難しいケースもあります。」と記載しました。すなわち、サービス取引は成果物が目に見えないものなので、有形のものと比べるとわかりにくいのです。
 過去にも新幹線の受発注システムで架空取引が行われたこともありました。

5.内部通報制度

今回のケースは内部通報制度で発覚したということです。
 「架空取引に係る内部統制」でも「内部通報制度は内部統制の一つです。構築した内部統制を巧妙にくぐり抜けるケースもありますが、内部通報制度により内部統制の弱点を補えることもあります。」と記載したとおり、内部通報制度を設けることは非常に有効です。
 また、内部通報制度により社外の弁護士らが調査していたということですが、同ブログでも「方法としては、例えば、顧問契約をしている法律事務所にホットラインを設けるという方法が考えられます。このようにすれば、従業員が安心して通報できるからです。」と記載しました。
 内部通報制度はこのように外部の弁護士などにつながるようにするのがよいと思います。

6.まとめ

今回のケースも典型的な内部統制の不備という印象です。
 我が国の会社は、どちらかというと社員が悪いことをするという前提で内部統制を構築する傾向はあまりないように感じます。
 一方で、内部統制の強化は、自社内で従業員の不正が起こって初めて行うということが多くみられます。
 確かに、従業員を性悪説で見ることは、我が国では会社の社風にあわないところが多いかもしれませんが、一度起こると、企業イメージも悪化するので、念には念を入れて不正を防止する内部統制の構築に力を入れるべきだと思います。

2019年8月25日日曜日

「梅田」が「大阪梅田」へ~変わる関西の駅名

1.阪急・阪神が梅田駅の名称を改称


 阪急電鉄と阪神電鉄は、令和元年10月1日より梅田駅の名称を「大阪梅田」駅に改称します。
 理由としては、JRは「大阪」なのに、阪急と阪神は「梅田」となっていて、ほぼ同じ場所にあるのに駅名が異なっていることから外国人観光客からは「わかりにくい」という声が上がっているため、と言われています。
 確かに、最近、関西に訪れる外国人観光客は急激に増えています。いま私が住んでいる京都も外国人を見ない日は全くないほど、外国人観光客が町中にいます。
 外国人といっても様々ですが、私の知る限り、アメリカでは"OSAKA"の知名度は高かったです。多くのアメリカ人が"TOKYO"と"OSAKA"は知っていました。
 また、おそらく、どのガイドブックにも、大阪は日本第2の都市として紹介されているでしょうから、関西に来る外国人は"OSAKA"の名前が頭に入っていると思います。
 そんな中で、阪急と阪神の駅名が「梅田」となっていると「では、阪急と阪神のOSAKA駅はどこにあるのか?」と思ってしまっても不思議ではありません。梅田駅のほかに阪急や阪神の大阪駅があるのだろうと思う人は多いと思います。

2.かつての阪急の行先案内表示


 私も小学校の時に関西に引っ越してきたので、当時は関西の事情が分からず、「梅田」という場所は大阪駅とは全く別の場所にあるのだろうと思っていました。そのため、「梅田」と「大阪」は別物という印象が強かったです。
 そんな当時、阪急のとある駅で不思議なものを見ました。
 駅のホームに設置している行先案内表示ですが、そこには行先が「大阪」と表示されていたのです。これは昭和50年代後半、西暦では1980年代の話です。「大阪梅田」ではなく「大阪」の二文字のみでした。
 「あれ? 「梅田」じゃないの?」ととても不思議に思いましたが、どうも阪急は当時から梅田=大阪という認識だったようです。
 ちなみに、阪急電車の車両の方向幕には「梅田」と表示されていました。時刻表も「梅田」でした。従って、方向幕や時刻表には「梅田」となっているのに、駅のホームの案内表示は「大阪」という別の表示がされているという二重表記が阪急沿線では行われていました。
 今思うと、阪急は駅名を「梅田」ではなく「大阪」と名乗りたかったのかなと思ってしまいます。

3.「三宮」は「神戸三宮」へ


 少し前ですが、阪急と阪神の「三宮」は「神戸三宮」に変更となりました。
 これは「三宮がどこにあるのかがわかりにくい」という声が多かったということや神戸の中心ということを示したいということだったそうです。
 一方、JRは「三ノ宮」という駅名であり、「ノ」が入りますが、読み方は「さんのみや」であり、阪急や阪神と同じです。
 そのため、大阪と梅田のように同じ場所にあって駅名が異なるというものではありません。従って、大阪と梅田と異なり、三宮は「神戸」であるということを示したいということのようです。
 三宮は神戸市役所もあり、神戸の中心地ですが、県外ではそのことを意外に知られていないようです。このあたりは、例えば、名古屋の栄のような感じでしょうか? 
 そのため、JR神戸駅が神戸の中心と思ってしまう人もいるそうです。しかしながら、実はJR神戸駅は神戸の中心ではありません。
 ちなみに、阪急の行先案内表示は昔から「三宮」でした。こちらが「神戸」とならなかったのは、相互乗り入れしている神戸高速鉄道に「高速神戸」という駅があるためです。
 

4.「河原町」は「京都河原町」へ


 阪急京都線の終点は河原町駅ですが、こちらも令和元年10月1日より「京都河原町」に変わるということです。阪急の説明では「「京都」の中心部に位置するターミナル駅であることを分かりやすくするため」ということです。
 確かに、「河原町」だと府外の人はここが京都の繁華街だということはわかりにくいと思います。
 こちらも三宮と同様、京都の中心部であることを示すための変更です。

5.目的は?


 今回は阪急の駅名の変更を取り上げましたが、では駅名を変更する理由は何でしょうか? これは最終目的は収益の増加、利益の増加のためと推測されます。
 まず、国内人口は少子化、人口減が進んでいるため、限定した地域でのみ営業を許可されている私鉄の鉄道事業は需要は頭打ちです。また、関西はJRおよび私鉄が競合する路線が多く、鉄道激戦区となっています。
 このような中、私鉄は乗客数の確保に、これまでとなく力を入れています。そうしないと、現状のままではジリ貧になることが明らかだからです。
 一方で、我が国は空前のインバウンドブームです。さらには、東京オリンピック、大阪万博と国際的イベントが控えています。この絶好機を逃すことなく、外国人旅行客を取り込みたいところです。
 このように、鉄道需要が頭打ちになっている関西私鉄としては、生き残りをかけて乗客数の確保を行いたい、そのための手段の一つとして駅名の改称を行っているものと考えられます。

2019年7月27日土曜日

契約書に係る監査上の論点~吉本興業の「契約書なし」をみて

1.吉本興業の「契約書なし」問題
 吉本興業の、いわゆる闇営業問題に関連して、吉本興業が所属タレントと契約書を作成していなかったという論点が出てきました。
 さらに、この「契約書なし」問題に関して公正取引委員会の山田昭典事務総長が「契約書面が存在しないということは、競争政策の観点から問題がある」と述べたというニュースも出てきました。(契約書なし「競争政策上、問題」=公取事務総長、吉本興業に懸念」(時事通信)「吉本興業の契約書なし、「問題がある」 公取委総長発言」(朝日新聞)
 私は、闇営業問題に関心はないのですが、この「契約書なし」問題を見て思い出したことがあったので、今回は、財務諸表監査における契約書にかかる論点を記載したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.「契約書なし」の会社
(1)契約書を作成する意義
 財務諸表監査を行うとき、内部統制のデザインの評価や運用評価、実証テストを行いますが、この過程で取引の契約についても、どのように行われているのかを見るために契約書の閲覧などを行います。
 当然のことながら、まずは取引の契約を締結した場合は契約書の作成が必要です。一応、民法上は口頭でも契約は成立するのですが、企業の内部統制上、契約書を作成することが必要です。そうしないと、金額や支払相手などが不明確になるため、例えば、架空取引や水増し請求による過大支払いなどが行われてしまい会社に損害が発生するリスクがあるからです。(「架空取引に係る内部統制」「経営者による内部統制の無効化とハコ企業」参照)

(2)地方でよく見られるケース
 上場会社では何らかの取引を行うときは、まず間違いなく契約書を交わしていますが、「経営者による内部統制の無効化とハコ企業」でも記載したように、資金繰りが逼迫した企業では内部統制の無視・無効化が横行し、契約書を取り交わさないで取引を行っていたケースも見られました。
 
 このように上場会社レベルでは「契約書なし」というのはイレギュラーなケースですが、非上場会社や非営利法人では「契約書なし」というケースが時々出てきます。特に、この「契約書なし」は地方でよく見られるという印象があります。
 何度か見たのは、地元の工務店と工事契約を締結するケースです。なぜかというと、地方では、地域の人は昔からの顔なじみで、お互いによく知っているため、わざわざ契約書を作成する必要はないという文化ができてしまっているからのようです。
 そのため、契約書を作成しなくても「まあ、別にいいじゃないか」というお互いの信頼関係で物事が進んでしまうというわけです。

 また、非上場会社あたりでは「収入印紙の節約をしたいから」という理由で契約書を作成しない会社も時々見られます。
 
 しかしながら、契約書を作成しないと上記のように、会社に損害が生じるリスクがあるので、契約書は作成する必要があります。

3.契約書の偽造
 立命館大学早稲田大学の教授や公認会計士・監査審査会会長を務められた千代田邦夫教授は、公認会計士資格も保有されており、旧二次試験合格後は会計士補として監査業務にも携われていました。
 その千代田教授の著作「監査論の基礎」(税務経理協会)の前書きの中に、契約書の偽造を発見したときの話が記載されています。
 千代田氏が会計士補として、ある会社の監査に行ったとき、売上の監査を行うために売買契約書の提示を求めたそうです。しかし、会社は何かと理由をつけて提示してこなかったため、おかしいなと思い何とか粘ったところ、やっと出てきたのは契約書のコピーだったそうです。そこで、千代田氏が閲覧したところ、おかしなところに気づいたといいます。何かというと、契約書のコピーは何通もあったようですが、収入印紙の消印の位置がどの契約書も同じだったのだそうです。ますます怪しいと思い、問い詰めると、ついに担当者が白状したそうです。会社が何をしたのかというと、セロファン紙の間に収入印紙を挟み込み、その上から割印を行い、これを偽造した契約書においてコピーをしたということです。
 
 なお、監査の現場では契約書類や証憑類は必ず原本を確認するようにしています。そうしないと、この話のように不正が行われても看過してしまう可能性があるからです。そのうえで監査調書にするためにコピーをとることになります。
 ちなみに、私の場合は「原本確認の上、森がコピー」と記載して原本を確認したことを記すようにしています。このようにすれば、会社がコピーしてきたものをそのまま受け取っていないということがわかるからです。
 
4.監査法人の「契約書なし」問題
 以上は、会社等と取引先との契約に関してでしたが、最後に監査法人と契約している公認会計士との契約について触れたいと思います。これは吉本興業とタレントとの契約と同じケースとなります。
 監査法人も契約している非常勤の公認会計士とは非常勤契約に係る契約書を作成する必要があります。もちろん、常勤の公認会計士とは雇用契約を締結していますから雇用契約書の作成が必要です。
 日本公認会計士協会は、監査法人に対して品質管理レビューを行っていますが、この品質管理レビューのときは、非常勤会計士と交わした契約書の有無は必ずチェックしています。そのため、通常の監査法人であれば、非常勤会計士との契約書は作成しています。
 監査法人だったら当然であろう、と思われるかもしれませんが、どうもこの業界では長い間、それこそ吉本興業のように契約書が作成されず、契約関係があいまいになっていた時期が続いていたようです。おそらく、もともと、この業界は徒弟制度が長く続いていたため、「何でそんなもの作らないといけないんだ」という感覚があったのだと思います。
 しかしながら、日本公認会計士協会による品質管理レビューで、非常勤会計士との契約書の有無はチェックするようになったため、品質管理レビューを受ける監査法人では契約書を作成するようになりました。

2019年7月14日日曜日

京都に進出する地方私鉄

1.静鉄が京都にホテルをオープン

先日、京都の西洞院通(にしのとういんどおり)を歩いていたら、西洞院通錦小路下ルに「静鉄ホテルプレジオ京都四条」というホテルが建設されていました。
 「静鉄」とは静岡鉄道の略称で、もちろん文字通り静岡の鉄道会社です。
 京都と静岡は距離も離れていますし、京都で静岡の会社といっても馴染みがないので、最初は「静岡の会社が何故京都に?」と思いました。
 
西洞院通から見た静鉄ホテルプレジオ四条京都の外観です。


2.シナジー効果 

しかし、考えてみると、静鉄が自社の観光会社で京都ツアーを組んで、静岡の人に京都旅行に行っていただき、さらに静鉄ホテルに宿泊していただくことで収益を得ようという戦略も考えられるので、それを考慮すると、静鉄が京都にホテルをオープンさせることは変わったことではないと思います。静鉄ホテルプレジオはビジネスホテルという位置づけですが、ビジネスホテルであっても観光旅行にも利用できます。また、静鉄グループ内には「静鉄観光サービス株式会社」という観光会社があります。

 それと、もう一つ考えられるのは、日本では少子高齢化で人口減少が進んでいるため、自社のテリトリー以外の地域に進出して、需要を取り込もうという戦略です。
 静鉄は静岡を地盤としていますが、少子高齢化が進む中、おそらく静岡県内の活動だけでは需要が頭打ちになってくると思います。しかし、いま、京都への観光旅行はとても人気がありますので、京都にホテルをオープンさせれば、静岡県以外の地域でも収益を上げることができます。
 これは全社戦略レベルにおいて、事業領域や事業ポートフォリオをどのようにしていくか、という話になってきます。

 鉄道会社の中には、このように自社系列のホテルや観光会社を経営している会社があります。これは、自社系列の観光会社を利用する消費者に、同時に自社系列のホテルも利用していただければ、収益の相乗効果が得られるからです。
 さらに、静岡県外の人が静鉄ホテルプレジオを利用した場合、宿泊時の案内や宿泊後の案内で静岡県への観光旅行を提案することで、静鉄ホテルプレジオを利用した静岡旅行に来て頂ける可能性もあります。そのようになれば、静鉄グループの収益増加に繋がります。
 このように、複数の事業等の組み合わせによる相乗効果をシナジー効果といいます。

3.相鉄フレッサイン

地方私鉄ではなく、今は首都圏の大手私鉄という位置づけですが相鉄も「相鉄フレッサイン」というビジネスホテルを京都に開業しています。
 相鉄相模鉄道の略称で、神奈川県を地盤とする私鉄です。私が物心ついたときは地方の準大手私鉄という位置づけでしたが、平成2年に首都圏の大手私鉄という格付けとなりました。
 ちなみに「相鉄」は「そうてつ」と読みます。京都では馴染みがない鉄道であるため、「相鉄」を読めない人は多いようです。
 
綾小路通烏丸西入にある相鉄フレッサイン。

 私が見たのは綾小路通烏丸西入ルにある相鉄フレッサインです。初めて見たのは3年ほど前です。綾小路通は四条通の一つ南の通りですが、綾小路通を歩いていたら、「相鉄」の文字が目に入ってきたため、「京都に相鉄?」と驚いた記憶があります。
 調べると、現在、相鉄グループ内には観光会社はないようです。かつて相鉄観光という観光会社があったということですが、現在は近畿日本ツーリスト神奈川となっているということです。
 従って、相鉄の場合は観光会社を使ったシナジー効果を目的としているのではなく、神奈川県以外の地域での収益増加を目的としたものといえそうです。なお、相鉄フレッサインは首都圏以外にも長野、大阪、兵庫、広島、さらには韓国にもホテルを開業しています。
 また、相鉄は5年前にホテルサンルートを買収し、ホテル事業に力を入れています。

4.まとめ

私鉄は、鉄道事業を行う地域が限られているため、鉄道事業に限っては収益の機会もその地域に限られます。特に、中小私鉄の場合は、せいぜい地盤は一つの府県にとどまります。
 しかしながら、鉄道会社は阪急から始まったといわれる多角化戦略をとる会社が多いので、このように自分のテリトリー以外の地域にホテルを開業することで、他地域で収益をあげて、グループの収益増加につなげることも可能です。
 特に、ホテルに関していえば、京都では、外国からの観光客の急増のため、今ホテルをオープンすれば、間違いなく儲かります。そのため、京都は異常とも思えるホテルの開業ラッシュです。
 静鉄や相鉄の京都でのホテル開業は、地方私鉄の一つのビジネスモデルとして参考になるかもしれません。 

2019年6月23日日曜日

キャッシュ・フロー計算書~消費税及び地方消費税の取扱い

1.はじめに

令和元年(2019年)6月19日の日本経済新聞に「企業投資、最高の52兆円 「ため込む」より「使う」 」という見出しの記事がありました。
 これによると、日本企業は、将来の企業の成長のために積極的に投資を行っているということです。日本経済新聞の調査では、その裏付けとして「投資キャッシュ・フロー」が「3年連続で最高」となり、「趨勢的に」増加しているということです。

 この記事に出てくる「投資キャッシュ・フロー」はキャッシュ・フロー計算書の「投資活動によるキャッシュ・フロー」のことと推測されますが、この「投資活動によるキャッシュ・フロー」には機械などの設備投資、有価証券の売買、貸付金の支出・回収などを記載する区分です。
 そのため、企業は、機械などを購入した場合、キャッシュ・フロー計算書にその支出額を反映する必要がありますが、今回は、キャッシュ・フロー計算書において、機械などを購入したときの消費税及び地方消費税の取扱いに関する留意点について記載したいと思います。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.キャッシュ・フロー計算書と消費税及び地方消費税

日本公認会計士協会が作成している「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」では、36項に、キャッシュ・フロー計算書における消費税及び地方消費税(以下「消費税等」)の処理が記載されています。
 
 それによれば、「消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の「キャッシュ・フロー計算書」上の表示」として3つの方法が記載されています。

① 課税対象取引に係るキャッシュ・フローを消費税等込みの金額で表示する方法
② 課税対象取引に係るキャッシュ・フローを消費税等抜きの金額で表示する方法
③ 消費税等抜きの資産・負債の増加額若しくは減少額に、又は収益若しくは費用の額に、これらに関連する消費税込みの債権・債務の期中増減額を調整して、各表示区分の主要な取引ごとのキャッシュ・フローを表示する方法

 このうち、実務で多く用いられているのは③の方法ではないかと思います。
 
 なお、消費税等の取扱いについては、
「消費税等の申告による納付又は還付に係るキャッシュ・フローは、課税取引に関連付けて区分することが実務的に困難なため、「法人税等の支払額」と同様に「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分に消費税等支払額(還付額)又は未払(未収)消費税等の増減額として記載する。」
 とされています。
 実務では間接法の採用が多いので、間接法を前提とすると、「営業活動によるキャッシュ・フロー」に「未払消費税等の増減額」または「未収還付消費税等の増減額」といった科目で表示されます。

3.投資活動によるキャッシュ・フローにおける消費税等の取扱い

(1)「投資」と「財務」は収入・支出ベースで記載

それでは、機械設備の購入などを行ったとき、投資活動によるキャッシュ・フローでは税抜金額で表示するのか、それとも税込金額で表示するのか、さてどちらでしょうか?
 
 以下、間接法を前提として記載しますが、間接法で作成するキャッシュ・フロー計算書においても、直接法と異なるのは「営業活動によるキャッシュ・フロー」のみであって、「投資活動によるキャッシュ・フロー」と「財務活動によるキャッシュ・フロー」の記載は直接法と同じです。すなわち、機械設備の購入であれば、その機械設備の購入に伴って支払った支出金額が「投資活動によるキャッシュ・フロー」に記載されます。
 すなわち、収入・支出ベースで記載することになります。

(2)機械設備の購入の仕訳

一例として機械設備の購入を取り上げます。
 例えば、機械設備を購入したときの仕訳は以下のとおりです。

【設例】
 R✕2年3月に機械設備を648千円(税込)で購入した。税率は8%とする。
 会計処理は税抜方式とする。
 決算期は3月とする。なお、機械の稼働月は4月であるため、減価償却は行わないものとする。

【仕訳】(単位:千円)
(借方)機械設備   600 (貸方)現金預金 648
    仮払消費税等 48

 簿記3級レベルの知識があれば、すぐにできる仕訳ではないかと思います。
 

(3)上記2③の方法の場合どうなるのか

次に、消費税等の取扱いについて記載します。
 上記2ではキャッシュ・フロー計算書における消費税等の取扱いについて、①~③の方法を記載しましたが、実務上多く用いられていると思われる「③消費税等抜きの資産・負債の増加額若しくは減少額に、又は収益若しくは費用の額に、これらに関連する消費税込みの債権・債務の期中増減額を調整して、各表示区分の主要な取引ごとのキャッシュ・フローを表示する方法」を前提に記載します。

 この場合、上記(2)の機械の稼働は購入にかかるキャッシュ・フローは600千円なのか、それとも648千円なのか、どちらになるのでしょうか。
 間接法であっても、投資活動によるキャッシュ・フローは収入・支出ベースで記載するので、一見、現金預金の支払額648千円のような感じもします。

 ちなみに、営業キャッシュ・フローの計算において、売上債権や仕入債務の増減額は税込金額を使用しています(上記2③参照)。

 そこで、以下、極端に簡単な設例を記載します。

【設例】
①決算期は3月とする。
②R✕1年度期首時点では、現金預金1,000千円、負債0円、純資産1,000千円であった。
③R✕2年3月に機械設備を648千円(税込)で購入した。税率は8%とする。なお、機械の稼働月は4月であるため、減価償却は行わないものとする。(上記3(2)の設例と同じ)
④税率は8%とする。
⑤会計処理は税抜方式とする。
⑥その他の取引はなかったものとする。

 その他の取引はなかったものとしますので、収益、費用は0となり、当期純利益も0とします。
 機械の購入の会計処理は上記3(2)の通りです。
 その結果、期末の貸借対照表は以下の構成になります。

 資産:現金預金352千円、未収還付消費税等48、機械設備600 資産合計1,000
 負債:0円
 純資産:1,000千円
 
 ここで、間接法でキャッシュ・フロー計算書を作成すると以下のようになります。(単位:千円)

【営業活動によるキャッシュ・フロー】
当期純利益0
未収還付消費税等の増減額△48
営業活動によるキャッシュ・フロー△48
【投資活動によるキャッシュ・フロー】
有形固定資産の購入による支出
投資活動によるキャッシュ・フロー
現金及び現金同等物の増減額△648
現金及び現金同等物の期首残高1,000
現金及び現金同等物の期末残高352


 ?の部分には、600か648のどちらかが入ることになりますが、逆算していただければおわかりのように?には600が入ります。
 なぜかというと、消費税等の増減は、全額が営業キャッシュ・フローにおいて処理されているからです(上記2参照「「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分に消費税等支払額(還付額)又は未払(未収)消費税等の増減額として記載する。」
 そのため、投資活動によるキャッシュ・フローは税抜金額となるわけです。
 従って、税抜方式の場合、投資活動によるキャッシュ・フローも税抜の金額が記載されることがわかりました。

4.まとめ

以上のように、間接法で税抜方式の場合、投資活動によるキャッシュ・フローで消費税法の課税仕入、課税売上に該当する取引は税抜処理で処理することになります。

 このように見てみると、特に難しくないように思えるのですが、債権債務は税込金額で増減額を算出していること、投資活動によるキャッシュ・フローは収入・支出ベースで記載することを思い浮かべると、結構迷う方はおられます。

 もっとも、キャッシュ・フロー計算書は精算表で作成されている会社が多いと思います。精算表では、貸借対照表に記載される有形固定資産の金額も税抜で記載されますし、増減の金額も税抜で記載された総勘定元帳、あるいは固定資産台帳の増加額、減少額を記載しますので、特に考えなくとも機械的に作成できます。

 精算表はかなり簡単にキャッシュ・フロー計算書を作成できるため、実務上、便利ですが、時々、キャッシュ・フロー計算書の構造も考えてみると意外な発見があり面白くなるかもしれません。

2019年6月16日日曜日

ドラッグストアの商品区分別の粗利益率

1.はじめに
 前回のブログでは「ドラッグストアの売上構成比率~食品売上割合はどのぐらいあるのか?」というタイトルで、各ドラッグストアの売上構成比率を見てみました。
 今回は、各商品区分別の利益率を見てみたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.対象としたドラッグストアとその期間
 対象としたドラッグストアとその決算期は、以下の通りです。
 これは前回と同じです。
  • ウエルシアホールディングス株式会社(平成31年2月期) (以下「ウエルシア」)
  • 株式会社コスモス薬品(平成30年5月期)(以下「コスモス」)
  • 株式会社ココカラファイン(平成30年3月期)(以下「ココカラファイン」)
  • 株式会社マツモトキヨシホールディングス(平成30年3月期)(以下「マツモトキヨシ」)
  • 株式会社ツルハホールディングス(平成30年5月期)(以下「ツルハ」)
3.算出方法
 各社とも、有価証券報告書の「第2 【事業の状況】」の「3 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」に記載されている「③ 仕入及び販売の実績」より、売上高と仕入実績の金額を使用しました。
 正確には、売上総利益「売上-売上原価」という式で算出します。この売上原価は「期首棚卸高+当期仕入額-期末棚卸高」という式で算出します。すなわち、本来は期首と期末の棚卸高を考慮する必要があるのですが、「③ 仕入及び販売の実績」では、商品区分別の棚卸高が記載されていませんので、簡便的に売上高-仕入高の差額を売上総利益とみなして計算してみました。
 ここでは、売上高と仕入高の差額を「みなし粗利益」と呼び、売上高に対するみなし粗利益の率を「みなし粗利益率」と呼ぶことにします。

4.大手ドラッグストアの商品区分別の「みなし粗利益率」
(1)ウエルシア
 医薬品他のみなし粗利益は38.9%となりました。調剤は37.3%、化粧品は31.5%です。一方、食品は20.2%でした。当然のことながら、食品よりも医薬品や化粧品の利益率のほうが高いという結果が出ています。

【ウエルシア】
区分
当連結会計年度
(自 平成30年3月1日
至 平成31年2月28日)
金額(百万円)
みなし粗利益
みなし粗利益率
売上高仕入高
医薬品・衛生介護品・ベビー用品・健康食品163,777100,04363,73438.9%
調剤129,81181,45448,35737.3%
化粧品136,24593,30742,93831.5%
家庭用雑貨116,65485,76930,88526.5%
食品172,971138,08434,88720.2%
その他59,68751,2958,39214.1%
合計779,148549,954229,19429.4%

(2)コスモス
 コスモスの医薬品のみなし粗利益率は34.4%、化粧品は24.0%でした。
 医薬品のみなし粗利益率は他社と比較すると低いものとなっています。医薬品もかなり値引きして販売しているのでしょうか?
 化粧品のみなし粗利益もあまり高くありません。
 全体的にみなし粗利益率は高くないという印象です。

【コスモス】

区 分
当連結会計年度
(自 平成29年6月1日
至 平成30年5月31日)
金額(百万円)
みなし粗利益
みなし粗利益率
売上高仕入高
医 薬 品85,77256,22729,54534.4%
化 粧 品57,68343,83213,85124.0%
雑 貨93,56675,23418,33219.6%
一 般 食 品313,470274,60438,86612.4%
そ の 他7,5066,66584111.2%
合計557,999456,564101,43518.2%

(3)ココカラファイン
 ココカラファインの医薬品のみなし粗利益は41.0%、化粧品は24.5%でした。
 化粧品の利益率はコスモスと同じぐらいなので、化粧品の利益率はあまり高くないという印象です。
 食品の利益率は9.0%となっており、他社と比較すると低いものとなっています。これは扱う食品の種類によって異なってくるものと推測されます。
 前回のブログで記載しましたが、ココカラファインはマツモトキヨシと同様、医薬品、化粧品の販売に力を入れ、食品の販売にはあまり力を入れていない従来型のドラッグストアなので、利益率の高い食品はあまり扱っていないのかもしれません。

【ココカラファイン】

区分
当連結会計年度
(自 平成29年4月1日
至 平成30年3月31日)
金額(百万円)
みなし粗利益
みなし粗利益率
売上高仕入高
医薬品108,48763,96044,52741.0%
化粧品104,51078,95525,55524.5%
健康食品10,5167,0603,45632.9%
衛生品40,96530,26310,70226.1%
日用雑貨47,78239,3828,40017.6%
食品38,37034,9203,4509.0%
合計350,630254,54096,09027.4%

(4)マツモトキヨシ
 医薬品のみなし粗利益は39.9%、化粧品のみなし粗利益率は29.5%となりました。ウエルシアと近い水準です。
 
【マツモトキヨシ】
区分
当連結会計年度
(自 平成29年4月1日
至 平成30年3月31日)
金額(百万円)
みなし粗利益
みなし粗利益率
売上高仕入高
医薬品171,532103,01068,52239.9%
化粧品217,454153,27564,17929.5%
雑貨96,51373,74422,76923.6%
食品51,93645,1636,77313.0%
合計537,437375,194162,24330.2%

(5)ツルハ
 ツルハの医薬品のみなし粗利益率は40.3%、化粧品は30.2%となりました。
 食品は「その他」に含まれますが、こちらは21.2%となっています。

【ツルハ】

区 分
当連結会計年度
(自 平成29年6月1日
至 平成30年5月31日)
金額(百万円)
みなし粗利益
みなし粗利益率
売上高仕入高
医薬品155,67792,98562,69240.3%
化粧品122,73885,69637,04230.2%
日用雑貨178,246138,03440,21222.6%
育児用品20,84217,8083,03414.6%
その他190,279150,00640,27321.2%
合計667,784484,530183,25427.4%

5.まとめ
 当然といえば当然ですが、どのドラッグストアも医薬品と化粧品のみなし粗利益率は高いものとなっています。一方、食品のみなし粗利益率は低いものとなっています。
 しかしながら、計算してみてわかったことは、同じ商品区分でもドラッグストアによって、みなし粗利益が異なるということです。
 医薬品のみなし粗利益はコスモス以外は概ね40.0%前後となっていますが、コスモスは34.4%です。 
 化粧品はウエルシア、マツモトキヨシ、ツルハが概ね30.0%前後、コスモスとココカラファインは24%ぐらいでした。コスモスとココカラファインが低いのは、低価格戦略をとっているためなのか、あるいは扱う化粧品の種類によるものなのか、このあたりは、もっと深く調べないと結論は出ないといえます。
 雑貨は18~23%あたりでしょうか。ウエルシアだけ26.5%と高くなっています。
 食品については、ウエルシア、ツルハ(医療用具等を含む)が20%台ですが、コスモスは12.4%、ココカラファインは9.0%、マツモトキヨシは13.0%でした。ココカラファインとマツモトキヨシの利益率が低いのは、前述したように、この2社は食品売上にはそれほど力を入れていないことが影響していると推測されます。一方、コスモスは食品に関しては、明らかに低価格戦略をとっていることが背景にあります。
 今回は、「③ 仕入及び販売の実績」の数字を使用した、みなし粗利益率を算出してみましたが、財務諸表の数値に基づいた経営指標も算出して比較してみると、またいろいろなことが見えてくると思います。
 今回はここまでとします。