1.はじめに
2月に入って、東証1部上場企業2社で役員と従業員の不正事例がありました。
社名は伏せますが、東証の業種区分では1社はサービス業(以下A社)、もう1社は電気機器に分類される会社(以下B社)です。
もちろん、内部のことはわかりませんので、あくまで外からの視点であり、推測の部分があることをお断りしておきます。また、本稿は私見であることにご留意ください。
2.両社の不正事例
A社はサービス業ですが、A社のIRによると、出版事業部担当の取締役が取引先と結託し、A社に対して架空請求や水増し請求を行い、キックバックや不適切な利益供与を受けている疑いが強まったということです。これは内部通報により発覚したということです。
一方、B社は、報道によると、工場で経理を担当していた従業員が勤務していた工場や事業所で、支払いに必要な書類を偽造し、自分で開設した架空口座に送金していたということです。こちらも、工場の同僚が不自然な取り引きに気付き、不正が発覚したということです。
3.架空取引による不正
物品の購入や経費の支払いにおいて、実際に行っていない取引を、証憑類の偽造などにより、あたかも取引を行ったように装い、会社の現金預金を引き出し、自分の口座に入金するという手口は、昔から行われている典型的な不正の手口です。架空仕入、架空請求などいろいろな呼び方がありますが、本稿では架空取引と称します。
以前、私が担当した弊社のセミナーで、「社会福祉法人が構築すべき内部統制」というタイトルで、社会福祉法人の不正事例を紹介したことがあります。架空取引による着服もいくつか紹介しましたが、発注から支払いまでを一人で行っているケースが多く見られました。
発注から支払いを一人で行うと、不正の発生の可能性が非常に高くなります。そのため、購買取引についての内部統制の整備・運用が必要となります。
4.購買取引に係る内部統制
購買取引に係る不正を防止するための内部統制のポイントを簡単に書くと次のとおりです。
①発注者と発注担当者は別の人にする
②納品時の検収担当者は発注者とは別の人にする。
③支払いの担当者は、発注者や検収担当者とは別の人にする。
④支払い担当者は、発注書、納品書、請求書を照合する。
他にも内部統制のポイントはありますが、とりあえず上記をまず記載します。この中でも②は重要といえます。発注担当者が検収も行ってしまうと、架空仕入や横流しなども可能となってしまうからです。
例えば、商品100個を注文したということにして、架空の発注を行い、さらに偽の納品書を作成して100個納品されたということにします。納品書には納品を確認した旨の検収印も押印します。そして、さらに偽の請求書を発行し、発注書、納品書、請求書を支払い担当に回します。支払い担当者は、発注に基づいて正しく納品されたと思ってしまい、請求書に基づいて、架空口座に入金してしまう、というわけです。
ただし、不正の場合、かなり巧妙な手口があるので、A社とB社の事例も外から見るだけでは、何とも言えません。また、サービス提供の場合、サービスを受けたかどうかの確認が難しいケースもあります。
さらに、内部統制は複数の担当者の共謀によって有効に機能しなくなるという弱点もあります。すなわち、絶対的なものではないということです。
そのため、A社、B社も購買取引にかかる内部統制は存在していたのだとは思いますが、もしかしたら不備があったのかもしれませんし、内部統制の弱点が出てしまったのかもしれません。
5.内部通報制度
今回のケースは、A社のケースは内部通報制度により発覚し、B社の場合は、工場の同僚が不自然な取引に気づき、社内調査が行われて発覚したということです。
内部通報制度は内部統制の一つです。構築した内部統制を巧妙にくぐり抜けるケースもありますが、内部通報制度により内部統制の弱点を補えることもあります。
最近は、社会福祉法人や公益法人を見ることが多いのですが、内部通報制度を設けられていない法人が多く見られます。内部通報制度は、内部統制を強化する仕組みといえますので、内部通報制度を設けることが期待されます。
方法としては、例えば、顧問契約をしている法律事務所にホットラインを設けるという方法が考えられます。このようにすれば、従業員が安心して通報できるからです。会社内部の人間に通報する仕組みだと握りつぶされる恐れがありますし、従業員も消極的になりますので、外部に情報提供できる仕組みのほうがよいと考えられます。特に従業員数の少ない組織では外部窓口は有効と考えられます。
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