2018年3月25日日曜日

監事選任における留意点~公益法人及び一般社団法人等、社会福祉法人

1.監事の選任
 公益法人及び一般社団法人等も3月決算の法人が多く、多くは6月に社員総会や評議員会が開催されていますが、監事について、現監事の重任や新監事の選任を予定されている法人も多いかと思います。
 監事はこの社員総会又は評議員会の決議によって選任されます(一般社団法人及び一般財団に関する法律(以下「一般法」)63条、197条)。重任の場合も、当然のことながら、社員総会又は評議員会の決議によって選任されます。
 今回は、この監事の選任手続の留意点について記載します。
 この論点は、社会福祉法人についても同様なので、一緒に記載します。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.監事の選任に関する監事の同意
 上記の通り、公益法人及び一般社団法人等では、社員総会又は評議員会で、社会福祉法人では評議員会で監事が選任されます。
 そのため、社員総会や評議員会を開催するときに監事の選任に関する議案を社員総会や評議員会に提出する必要がありますが、この監事の選任に関する議案を社員総会や評議員会に提出するには、監事(監事が二人以上ある場合にあっては、その過半数)の同意を得なければなりません(一般法72条①、197条、社会福祉法(以下「社福法」)43条③)。なお、社福法43条③は一般法72条を準用する旨の規定です。
 これは、監事の地位の安定性を保つためです。例えば、理事が現監事を煙たがり、自分にとって都合のよい監事を選任して監事の構成を変えてしまおうとすることも想定されます。そうなると、独立的な立場で理事の職務執行の監査を行うという監事の意義が失われる恐れがあります。すなわち、理事の暴走が助長され、ガバナンスが効かなくなる恐れがあるということです。
 そこで、法は監事の選任前に、現監事の同意により理事の恣意的な監事構成への介入を防ぎ、ガバナンスを保とうとしているというわけです。
 従って、この監事の同意については、監事の同意書書面でもらっておく必要があります。これは、就任承諾書とは異なりますので注意が必要です。

3.監事の同意書
 この監事の同意書ですが、埼玉県久喜市の公式ホームページ内の「社会福祉法人の運営について」という社会福祉法人向けのページに、Word版でひな形が掲載されています。
 この久喜市のひな形をもとに、公益社団法人・一般社団法人、公益財団法人・一般財団法人のひな形を作成してみました。
 なお、久喜市のHPにも記載されているように、ひな形に記載されている内容が含まれていれば形式はどのようなものでも結構です。

(1)公益社団法人・一般社団法人の場合


(2)公益財団法人・一般財団法人の場合
    


 なお、社会福祉法人向けにつきましては、上記久喜市のHPを御覧ください。

4.同意書を入手するタイミング
 監事の同意書を入手するタイミングですが、久喜市のひな形では「同意書を得る時期は評議員会の前であればよいですが、理事会での審議をスムーズにするためにも可能であれば理事会前に事前に得ておくのも1つの方法です。理事会の場で終了後に徴しても構いません。」と記載されています。
 私見では、理事会前に同意書にサインしていただき、理事会で報告するのがよいのではないかと思います。

5.社員総会、評議員会での提示
 この同意書は、社員総会や評議員会で監事の選任に関する議案を提案するときに一緒に提示することになります。
 
6.同意を得ずに監事の選任決議を行った場合
 監事の選任について、監事の同意を得ずに社員総会や評議員会で選任決議を行った場合、「社員総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき」に該当しますので、社員総会又は評議員会の決議の取消し事由となります(一般法266条①一、社福法45条の12)。
 仮に、決議の取消しとなった場合、遡及的に無効となります。すなわち、監事の選任決議は無効となります。従って、注意が必要です。

2018年3月17日土曜日

公益法人の特徴(2)~行政庁から人事異動される方へ

1.一般法人と公益法人の関係
(1)公益法人と一般社団法人等との関係
 公益法人には公益社団法人と公益財団法人の2種類があります。一方で、一般社団法人と一般財団法人という社団法人と財団法人もあります。
 4種類あるので、これらがどのように異なるのかが、最初はわかりにくいかもしれません。
 まず、これらの関係ですが、まず一般社団法人と一般財団法人という法人があり、そのうち公益認定を受けたものが公益社団法人、公益財団法人という関係にあります。 
 これらの関係を表にしたものが【表1】です。

     
【表1】

(2)条文での記載内容
 上記の関係について、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下「認定法」)では以下のように記載しています。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 公益社団法人 第四条の認定を受けた一般社団法人をいう。
二 公益財団法人 第四条の認定を受けた一般財団法人をいう。
三 公益法人 公益社団法人又は公益財団法人をいう。

(公益認定)
第四条 公益目的事業を行う一般社団法人又は一般財団法人は、行政庁の認定を受けることができる。

 言ってみれば、一般社団法人と一般財団法人という大きなくくりがあり、その中に公益認定を受けた公益社団法人と公益財団法人がある、という位置づけになります。


2.適用される法令
(1)法律、政令、府省令
 公益法人の運営においては、まず以下の法律が適用されます。

①一般社団法人及び一般財団法人に関する法律
②公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律

 なお、上記①②に加えて③「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」をあわせて「公益三法」と呼ばれることもあります。ただし、③は公益法人の制度改正において移行法人について定めたものなので、公益法人では使用しません。

 さらに、上記①②の法律の下に政令と府省令があります。政令は「施行令」、府省令は「施行規則」という呼び方をします。 

(2)公益法人と法令の適用関係
 上記1では「一般社団法人と一般財団法人という法人があり、そのうち公益認定を受けたものが公益社団法人、公益財団法人という関係」という関係性を述べました。
 そうなると、公益法人において、上記①②の適用関係も明らかとなります。すなわち、まず公益法人においても「①一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」が適用されます。まず、これが基本的な位置づけとなります。
 次に、一般社団法人及び一般財団法人では①のみとなりますが、公益法人では②も適用されます。
 ①では、法律名もそうですし、条文においても「一般社団法人」、「一般財団法人」という言葉が出てくるので、公益社団法人や公益財団法人に適用される法律ではないのではないか、と思ってしまうかもしれません。
 しかしながら、上記1でみたように、公益法人も、まずは一般社団法人又は一般財団法人であるという関係にありますから、上記①が適用されるというわけです。
 なお、法令については、公益法人インフォメーションの公益法人制度関係法令とガイドライン」というページに、適用される法令の一覧が記載されています。



2018年3月11日日曜日

公益法人の特徴~行政庁から人事異動される方へ

1.行政庁の人事異動
 すでに3月になりましたが、行政庁では3月末になると人事異動が発令され、公益法人(公益認定を受けた一般社団法人及び一般財団法人)に異動となる方もいらっしゃると思います。
 しかしながら、公益法人は、特に会計面での仕組がわかりにくいので、慣れるのに時間がかかることが多いようです。
 そこで、少し早いですが、公益法人の特徴を簡単に記載します。

2.財務三基準
(1)財務三基準とは
 公益法人の最も大きな特徴は、いわゆる「財務三基準」です。
 すなわち、(イ)収支相償(しゅうしそうしょう)、(ロ)公益目的事業比率、(ハ)遊休財産、の3つについて一定の基準をクリアしなければならないというものです。
 これらは、財務会計の数字をベースに計算します。「ベースに」というのは、財務会計の中では財務三基準の計算はできないということです。言い換えると、財務会計とは別の世界で計算するということです。

(2)別表との対応関係
 これを具体的にいうと、公益法人は毎事業年度の経過後3ヶ月以内に事業報告等に係る提出書類を行政庁に提出しなければならないのですが(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)22条①)、この中に別紙4という書類があり、さらにその中に別表AからHまでの書類があります。この別表A~Cにおいて、財務三基準を計算します。
 財務三基準と別表の対応関係は次のとおりです。

 収支相償の計算→別表A
 公益目的事業比率→別表B
 遊休財産の計算→別表C

(3)財務三基準の意義
 以下では、財務三基準のそれぞれについて簡単に記載します。
(イ)収支相償
 公益法人は「その公益目的事業を行うに当たり、当該公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得てはならない。」とされています(認定法14条)。
 簡単に言うと、公益目的事業では赤字にしなければならないということです。
 「会計上、公益目的事業会計で赤字にすればよいのだから簡単ではないか」と思われるかもしれませんが、計算が複雑な面もあり、なかなかややこしい面があります。
 実は、この話をすると長くなるので、今回はここまでにいたします。

(ロ)公益目的事業比率
 公益法人は「毎事業年度における公益目的事業比率が百分の五十以上となるように公益目的事業を行わなければならない。」とされています(認定法15条)。
 公益法人であるにも関わらず、収益事業の比重が高いとなってしまうと、その目的が達成されません。そのため、簡単に言うと、公益実施費用額が公益実施費用額、収益等実施費用額及び管理運営費用額の合計の50%を超えるようにしなければならないというものです。こちらの「費用」も会計上の費用と必ずしも一致はしないので注意が必要です。

(ハ)遊休財産
 「公益法人の毎事業年度の末日における遊休財産額は、公益法人が当該事業年度に行った公益目的事業と同一の内容及び規模の公益目的事業を翌事業年度においても引き続き行うために必要な額として、当該事業年度における公益目的事業の実施に要した費用の額を基礎として内閣府令で定めるところにより算定した額を超えてはならない」とされています(認定法16条)。
 この趣旨は、公益法人は遊休財産、すなわち、自由に使える財産をため込んではならないというものです。保有している財産は、極力、公益目的事業、収益事業等、管理運営目的のために使用してください、ということです。

3.最後に
 今回は、財務三基準について非常に簡単に記載いたしました。
 2回目は、機関運営について記載したいと思います。

【参考】
 大阪府から「財務三基準等計算確認シート」が公表されています。



2018年3月5日月曜日

実査の留意点(1)

1.概要
 3月に入りましたが、日本の多くの会社は3月決算が多いので、3月末日が決算日となります。また、公益法人も3月決算の法人が多く見られます。公益法人は外郭団体系の法人も多く、地方自治体の予算との関係があるためです。社会福祉法人は、法令で3月決算と決まっています(社会福祉法45条の23②)。従って、全ての社会福祉法人は3月決算となります。医療法人も3月決算の法人が多く見られます。
 このような3月決算の会社等のうち、法令で公認会計士又は監査法人の監査を受けなければいけない会社等や任意で公認会計士又は監査法人の監査を受けている会社等は、3月末日あたりに公認会計士又は監査法人による実査が行われます。
 このうち、社会福祉法人で会計監査を受けている法人は、今回が初めての実査となります。
 そこで、今回は実査について、留意点を記載します。なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.実査の対象
(1)無形固定資産は実査の対象とはならないのか
 実査の対象は、絶対的に決まっているものではありませんが、通常、現金、預金通帳、証書、有価証券、手形、切手、印紙、有形固定資産などです。
 無形固定資産については、姿かたちがないので実査の対象とされていないことが多く、そのため実査を行っていない公認会計士や試験合格者がよく見られますが、無形固定資産についても、方法を工夫すれば、種目によっては実在性の立証は可能です。
 例えば、固定資産台帳に載っているソフトウェアについて、業務の担当者の席に赴いて、パソコンを開いていただき、そのソフトウェアを稼働していただきます。そうすることで、そのソフトウェアが実在しているかどうかを確かめることはできます。もちろん、担当者には、そのソフトウェアの使用状況を質問します。
 大抵の場合は、実在性に問題はないのですが、ときどき、業務の担当者が経理担当者に「こんなソフトウェアありましたっけ?」と言っているときもあります。
 よくあるのは、最初の頃は使用していたものの、購入後、しばらくして他社からより性能のよいソフトウェアが発売されたため、そちらに乗り換えたというケースです。そのため、以前のソフトウェアが使用されずに忘れ去られているというものです。
 また、上の方の判断で業務用ソフトウェアを購入したのはよいのですが、現場ではそのソフトウェアに関心がなく、使用しないでそのままほったらかしにしている、というケースもあります。
 その他、購入したのはよいですが、実務に使用してみると使い勝手が悪いので、すぐに他のソフトウェアに切り替えたというケースもあります。

(2)ソフトウェアの評価の妥当性
 そうなると、評価の妥当性の問題が出てきます。
 ソフトウェアは通常5年で償却するので、帳簿価額がゼロ円になるのは早いのですが、ソフトウェアの進展は日進月歩です。新しいソフトウェアが発売されると、償却期間中でも、上記のように新しいソフトウェアに乗り換えるケースは珍しくありません。
 この場合、以前のソフトウェアは遊休資産と考えられます。昔は、このようなソフトウェアについては個別に評価減を行う実務がよく見られました。現在の制度会計では、固定資産の評価は減損会計基準に従いますので、使用していないソフトウェアは遊休資産とみて、(イ)重要なものについては、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位として取り扱い、(ロ)重要性の乏しいものは、これまでの使用状況等に鑑みて、資産グループに含めて取り扱う、とすることが妥当と考えられます(私見です)。

3.アサーション
 このように、実査は「実物検査」の略とも言われるように、実在性の立証を目的とするものですが、同時に、評価の妥当性の判断を行うときもあります。監査を行う公認会計士等は監査手続を機械的に行わず、現場の状況を見て適宜判断することが必要です。