2019年1月27日日曜日

会計監査実施法人に対するアンケート調査の第1次調査の結果についての感想

1.はじめに
 平成30年11月5日に「会計監査人の設置基準の引下げ延期」というタイトルでブログを書きましたが、このとき厚生労働省は同時に、会計監査人監査の対象となっている社会福祉法人に対してアンケートを実施しました。アンケートの詳細については日本公認会計士協会のページにも掲載されていますので御覧ください。
 このアンケートですが、会計監査実施法人に対するアンケート調査の第1次調査の結果大阪府のページに掲載されていました。こちらにつきましてはMMPG様よりお知らせいただきました。ありがとうございます。
 以下、感想を記載したいと思います。なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.「会計監査及び予備調査で発見に至った会計処理の誤り」
 P7では「会計監査及び予備調査で発見に至った会計処理の誤り」が記載されています。
 発生割合が大きい項目について上位3つを抜粋すると以下のとおりです。
  • 「賞与引当金、徴収不能引当金について」→35.2%
  • 「減価償却(国庫補助金等特別積立金取崩額を含む)の計算について」→24.2%
  • 「収益及び費用(人件費、事業費、事務費)への発生主義(実現主義)の適用について」→20.4%

 確かに、これらの科目についての誤りは多く見られました。
 簡単に主な誤りを記載すると、賞与引当金については①未計上であった場合や②計上していても法定福利費分を含めていなかった、というものが多く見られました。
 減価償却費については、減価償却費の計上というよりは減価償却累計額の期首残高の誤りが多く見られました。これは減価償却の計算方法の取扱が平成12年、平成23年、平成29年と3回にわたって改正されたため、この過程で固定資産管理ソフトへの入力誤りなどがあったためと推測されます。
 発生主義については、収益よりは費用の発生主義の適用不備が見られました。例えば、締日翌日から期末日までの期間に係る未払給与の計上漏れ、それに伴う法定福利費の計上漏れ経費の未払計上漏れ支払利息の未払費用計上漏れ、などです。
 なお、私の範囲内ですが、会計監査人監査の対象となる社会福祉法人では、月次決算で発生主義会計を適用している法人も多くみられました。こういった法人では重大なカットオフエラーは見受けられませんでした。
 逆に、月次決算を現金主義会計で行っていると、期末時に大きなカットオフエラーが生じやすい傾向がありました。やはり、常日頃から発生主義会計を行っていれば、期末に大きなエラーが生じるリスクは少なくなるといえます。
 この点は「月次決算と費用のカットオフエラー」にも記載しましたのでご参照いただけますと幸いです。

3.任意監査の効果
 平成28年度に任意監査を受けていた社会福祉法人は、上記2で示したものを含む会計処理の誤りが期末監査で生じることが非常に少なかったという結果も出ていました。
 厚労省の記載によると、以下のとおりです。

「平成28年度に任意で会計監査を受けている法人、受けていない法人で、誤りの発生割合と修正額を比較したところ、顕著な差がありました。平成28年度は任意になりますが、会計監査のアプローチが適正な財務報告に有効であることを示しています。」

 この点については、当ブログでも「会計監査人の設置基準の引下げ延期」においても「この点を踏まえると、社会福祉法人側では、設置基準の引き下げが決まってから予備調査を始めるのではなく、今の時点から予備調査を受け、任意監査契約を締結することが望まれます。この任意監査の期間に、内部統制の不備や会計上の誤りを修正していくわけです。そうすれば、法定監査に入ってから、監査法人に大きな指摘(金額の大きい会計上の誤りなど)を受ける可能性は低くなります。」と記載しましたが、そのとおりの結果となりました。

 なお、任意監査については「監査法人による任意監査」にも記載しましたが、監査法人の監査は、法定監査を受ける義務がない一定規模未満の会社や非営利法人等であっても、一定の要件を満たせば、任意監査契約を締結することで任意監査を受けることができます。

4.不正の抑止力
 会計監査による効果については、「カ.不正の発見可能性が高まり、不正の抑止力になった」の自由記載について、以下が紹介されていました。
  • 会計監査を通じて、実際に不正の発見はなかったが、不正の抑止力になっていると感じる。
  • ポイントとなるところについて改善することで、不正防止の環境が整いつつある。
  • 見られている感もあるので良いと思う。
 社会福祉法人については、経営者不正もありますが、従業員不正もよく発生しているという印象があります。
 従業員不正については、内部統制の運用上の不備よりは、そもそも、内部統制の仕組み(デザイン)自体が構築されていないという整備上の不備が多く見られます。
 従業員不正については、このブログでも上場企業も含めていろいろと事例を紹介してきましたが、まず仕組みそのものを構築する必要があります。そうしないと、管理者が不正の発生に気をつけていても、牽制が効いていないため、従業員不正の発生可能性が高くなってしまうからです。
 従業員不正の防止のための内部統制については、「平成30年度民間社会福祉施設長研修会で使用したレジュメについて」において、京都府の「平成30年度民間社会福祉施設長研修会」で使用したレジュメを紹介しています。京都府のページに資料が掲載されていますので、参考としていただけますと幸いです。
 

2019年1月21日月曜日

社外監査役の効果

1.はじめに
 先日、日本経済新聞などで、一定の要件を満たす会社には社外取締役の設置を義務付けるという会社法の改正が行われるという記事が掲載されていました。
 現行法では、「事業年度の末日において監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものが社外取締役を置いていない場合には、取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない。」(会社法327条の2)とされており、上場企業など一定の要件を満たす会社には、社外取締役の設置は法令上、義務付けられていませんが、実質的に設置を強制されているような体制となっています。
 次回の改正では、法令上、非上場の会社も含めて一定の要件を満たす会社には社外取締役の設置を義務付けるという方向のようです。

2.社外監査役の設置
 一方、監査役については、監査役会設置会社においては、監査役は、三人以上で、そのうち半数以上は、社外監査役でなければならないとされています(法335条③)。
 一定の要件を満たす株式会社において社外監査役の設置が義務付けられたのは旧商法時代です。このときの印象ですが、「社外監査役を設置してもガバナンスの強化にはつながらないのではないか」と当時は思いました。
 しかしながら、財務諸表監査を行うようになり、実務の世界に入ると、社外監査役はそれなりに効果があったのではないかと思うようになりました。

3.社外監査役の強み
 社外監査役には、当時は弁護士の方が多く就任していたという印象があります。近年では公認会計士も増えてきているようです。
 このように社外監査役は、本業を持っている人が就任するケースがほとんどだと思います。本業を持っている人の強みは、仮に社外監査役の地位を失っても、収入や生活に影響がないという点です。彼らは自分の事務所を持っていて、もともとそれなりの収入があります。そのため、たとえ会社に嫌われても監査役の職務を全うし、自分の意見もはっきり言いやすいというメリットがあります。従って、社外監査役の存在はガバナンスの強化につながっているのでは、と思っています。
 実際に、社外監査役として取締役にはっきりとモノを申していた方もいらっしゃいました。このような場合であれば、ガバナンスの強化につながっているといえます。

4.社内昇進による監査役の弱み
 一方、会社の従業員から出世して就任した監査役の場合は、取締役に意見を言える人はあまりいないという印象です。監査役はある意味「名誉職」であり、選んでくれた会社には恩義があります。また、それまで従業員だった人が取締役に対してモノをいうのはなかなか難しいと思います。さらに、上記の逆で、仮に監査役の地位を失ってしまうと、報酬がなくなってしまい生活の基盤となる収入がなくなってしまいます。そうなると大変なことになるので、取締役に対して反対意見を言うことはなく、無難に任期を過ごすということになる傾向になるようです。

5.監査法人との連携
 現在の監査制度では、監査基準委員会報告書260「監査役等とのコミュニケーション」というものがあり、監査人は監査役等と双方に報告などを行うことが求められていますが、この監査基準委員会報告書が制定される前から、監査法人と監査役とは「監査役面談」という形で、監査役と情報交換を行っていました。
 ただ、当時、一部の監査法人は、このような監査役等とのコミュニケーションを行っていなかった法人もあったようです。
 私が以前所属していた監査法人では、監査役の取締役会への出席状況を必ずチェックしていたのですが、とある上場企業では、監査役の出席率が極めて低いという状況でした。この要な場合、監査法人からは監査役に対して、必ず取締役会に出席するように(強い口調で)求めていました。実は、この上場企業は、それまでは別の大手監査法人が担当していたのですが、この監査法人は、監査役に対して欠席の多さを指摘していなかったようです。そのため、各監査役も甘く見て、取締役会を欠席することに対して何も思わなかったようです。
 しかしながら、監査役がこのような状況ではガバナンスの強化につながりません。このような場合は、監査法人・公認会計士がしっかりと指摘すべきです。その意味で、監査法人・公認会計士の存在は、取締役会、監査役の機能強化につながる可能性が高くなるといえます。
 なお、現在では少ないかもしれませんが、社外監査役の中には、例えば普段は東京に住んでいて、関西の会社の監査役を務めているような場合、遠隔地なので、取締役会に毎回出席するのは難しい、という人もいるという話を聞いたことがあります。しかしながら、取締役会に出席できないようであれば、監査役を引き受けるべきでありません。

5.最後に
 実務での実感として、社外監査役の設置は、それなりの効果があったと感じました。一定の会社において社外取締役の設置が義務付けられるようになるようですが、こちらも時間を経ながら、一定の効果が出てくるのではないかと思っています。

2019年1月13日日曜日

理事、監事の改選期における注意点~社会福祉法人

1.はじめに
 社会福祉法人では平成29年度から新制度が始まりました。そのため、平成31年度は理事、監事の改選期にあたります。
 そこで、理事、監事の改選期において、注意する点をあげたいと思います。

2.任期の確認
 役員の任期は「選任後二年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時までとする。ただし、定款によつて、その任期を短縮することを妨げない。」(社会福祉法(「以下」法)45条)とされています。
 ほとんどの理事、監事は平成29年6月に選任されたと思われますので、その理事、監事は(元号は変わりますが)平成31年度が改選期になります。

 注意すべきは、この間に理事、監事の交代があった場合です。
 「役員の任期の計算方法~公益法人・社会福祉法人」の再掲になりますが、例えば、平成30年3月に理事に選任された場合、平成31年度の定時評議員会の終結の時までが任期となりますので注意する必要があります。多くの社会福祉法人は6月に定時評議員会を開催するので、この場合だと、平成30年3月に選任された理事は平成31年(2019年)6月までが任期となります。期間は約1年3ヶ月となります。旧制度と異なり、丸々2年間ではなくなったので、注意が必要です。



3.監事の選任
 「監事選任における留意点~公益法人及び一般社団法人等、社会福祉法人」でも記載さいましたが、評議員会を開催するときに監事の選任に関する議案を評議員会に提出するには、監事(監事が二人以上ある場合にあっては、その過半数)の同意を得なければなりません(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)72条①、法43条③)。
 この趣旨は監事の地位の安定性を保つためですが、その手段として監事の同意書を書面でもらっておく必要があります。(就任承諾書とは異なります。)。

 再掲となりますが、埼玉県久喜市の公式ホームページ内の「社会福祉法人の運営について」という社会福祉法人向けのページに、Word版で監事の同意書のひな形が掲載されています。

4.就任承諾書
 今回、改選によって改めて選任されるので、就任承諾書も必要です。前回、記載したから今回は不要ということにはなりませんので注意が必要です。
 就任承諾書については、前回のものを使用すればよいですが、兵庫県の「社会福祉法人制度改革に関する資料について」にも掲載されていますので、ご紹介しておきます。
 
 その他、欠格事由などについても確認をしておく必要があります。

5.理事長の選定
 定時評議員会により、理事が選任されたら、その後に理事会を開催して理事長を選定する必要があります(法45条の13③)。
 理事長は理事であることが前提ですから、理事の任期が終了した時点で理事長の地位も消滅しています。従って、改選期においては改めて理事会で理事長を選定する必要がありますので失念しないようにする必要があります。
 
 なお、理事長選定のための理事会は、定時評議員会の直後に開催しても構いません。むしろ、日を空けてしまうとその間、理事長不在ということになってしまい、機関運営上好ましくありません。

 なお、この場合の開催方法ですが、「新理事による理事会の招集方法」にも記載したように、招集手続の省略によって開催すればよいでしょう(法45条の14⑨、一般法94条②)。
 招集手続の省略とは、理事及び監事の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができるというものですが、全員の同意は、書面でなくても問題はありません。口頭でも可能です。

 その他の方法では、同じく「新理事による理事会の招集方法」にも記載したように、決議の省略による方法でも構いません。