2018年10月29日月曜日

建設仮勘定の留意点(1)

1.建設仮勘定とは
 建設仮勘定とは、必ずしも決まった定義があるわけではありませんが、建設が完成するまでに行った支出を仮勘定として集計した勘定科目といえます。イメージとしては、建設に関する支出を建物等が完成するまでプールしておく勘定といった感じです。
 ちなみに、英語では Construction in Progress といい、頭文字をとってCIPということもあります。

2.よくある問題点
 社会福祉法人では新しい介護施設などの建設、医療法人では新病棟の建設といったように、社会福祉法人や医療法人では建設に関する支出が比較的よく出てきます。
 しかしながら、個々の社会福祉法人や医療法人においては、毎年新施設や新病棟を建設するわけではないので、経理担当者にとっては建設仮勘定はあまり馴染みがない科目といえます。そのため、会計処理の誤りがよく見られます。
 会計処理の誤りには、金額が小さいものもあれば、大きいものもあります。建設仮勘定の会計処理を誤ると、どちらかというと金額が大きい誤りにつながることが多くなるので注意が必要です。
 
 以下、よく見られる会計上の問題点を記載します。

① 建設中の施設等にかかる支出は建設仮勘定で会計処理すべきところ、費用勘定で処理していた。
② 建設仮勘定を建物勘定に振り替えることを失念していた。
③ 建設仮勘定の建物勘定への振り替えのタイミングを誤った。
 
3.費用勘定で処理した場合の問題点
 建設に係る支出は、建物等が完成するまで建設仮勘定に計上する必要があります。
 しかしながら、これらを費用処理すると、建物が完成して建物勘定に振り替えたときに、建物の取得価額が本来の金額よりも少なくなってしまいます。
 その結果、減価償却費も本来の金額よりも小さくなってしまいます。
 これは、費用配分の誤りであり、適正な期間損益計算を阻害することになります。

4.建物勘定への振り替えの失念やタイミングを誤った場合の問題点
 建設仮勘定は建物が完成すると建物勘定に振り返る必要がありますが、これを失念したりタイミングを誤ったりすると、減価償却費の計上のスタートがズレる可能性が出てきます。「可能性」といったのは、減価償却の開始の時期は、建物が事業の用に供されたときから始めるためです。そのため、建物が完成したからといってすぐに可動するとは限らないためです。
 この場合も、本来計上されるべき費用が計上されないことになるので、適正な期間損益計算が行われないことになります。

5.不正リスク
 最後に、建設仮勘定は、建設に関係がない支出を建設仮勘定に計上することで、費用を減少させ、利益を増大させるという不正が行われるリスクもあります。
 このように、建設仮勘定は危険性が高い科目といえます。
 従って、施設や病棟などの建設が行われる期間においては、建設仮勘定の取扱については注意する必要があります。
 「建設仮勘定の留意点(2)」では、上記のような誤りを防ぐための内部統制について説明したいと思います。





2018年10月21日日曜日

消費税軽減税率制度のポイント(2)

1.コンビニのイートインコーナーは消滅する?
 先日、コンビニエンスストア業界が店内での飲食禁止を条件に、酒類を除く全ての飲食料品を軽減税率の対象とするということで財務省と調整しているというマスコミ報道がありました。この報道の発信源がどこで、また、どのような意図で報道されたのかは不明ですが、いったん、この報道を前提に記載します。

 「消費税軽減税率制度のポイント(1)」にも記載しましたが、店内飲食の場合は標準税率10%が適用され、テイクアウトのような持ち帰り販売の場合は軽減税率8%が適用となります。
 コンビニエンスストアのイートインコーナーは、店内飲食(食事の提供)に該当しますので、イートインコーナーで飲食することを前提に販売すれば、飲食料品であっても標準税率10%が適用されることになります。

 今回の報道が真実だとすれば、このようなコンビニエンスストア内での店内飲食は、平成31年10月1日以後は行うことができなくなるということになります。

2.抜け穴がある?
 産経新聞の平成30年10月3日付の記事「コンビニ業界が全食品を軽減税率対象で調整 消費増税で イートインは「休憩施設」」では、タイトル通りイートインコーナーを休息施設と位置づけるとしていますが、記事の中に

「購入した飲食料品がトレーに載せられて座席に運ばれたり、返却が必要な食器に盛られて提供されたりすると、外食と判断される。このため、そうしたサービスはできないようにして、全ての飲食料品を持ち帰りができる状態で販売するよう徹底する。コンビニ業界は、こうした施策で、取り扱う飲食料品は持ち帰りと定義でき、客がイートインで飲食したとしても税率は8%になるとみている。
 
 という記載があります。
 しかし、「店内飲食禁止」としているのであれば、客がイートインで飲食することはできないはずです。見て見ぬふりをするということでしょうか。もし、そうであれば、記事にもあるように、外食業界からは強い批判が出るのは必至です。
 このあたりは、産経新聞が誰からどのような取材をしたのかが不明なのでなんとも言えませんが、いずれにしろ、抜け穴がないように調整をする必要があります。
 
3.店内飲食と持ち帰り販売の判定方法
(1)判定時は課税資産の譲渡等を行う時
 このように、店内飲食は標準税率、持ち帰り販売は軽減税率がそれぞれ適用ということになるので、この両方を行っている飲食店等は販売時のレジ打ちが大変となることが予想されます。
 上記1.のコンビニエンスストア業界の話も、レジ打ちの対策という目的もあるようです。
 
 この店内飲食と持ち帰り販売の判定は、「消費税軽減税率制度のポイント(1)」でも記載したように事業者が課税資産の譲渡等を行う時に判定することになります。

(2)具体的な判定方法
 それでは、その判定は具体的にはどのようにすればよいのかという問題がありますが、「消費税の軽減税率制度に関する取扱通達」(以下「軽減通達」)の11では、例示として顧客に意思確認を行うことが示されています。

 以下、軽減通達の該当条文を引用します。

(持ち帰りのための飲食料品の譲渡か否かの判定)
11 事業者が行う飲食料品の提供等に係る課税資産の譲渡等が、食事の提供(改正法附則第34条第1項第1号イ《31年軽減対象資産の譲渡等に係る税率等に関する経過措置》に規定する「食事の提供」をいう。以下この項において同じ。)に該当し標準税率の適用対象となるのか、又は持ち帰りのための容器に入れ、若しくは包装を施して行う飲食料品の譲渡に該当し軽減税率の適用対象となるのかは、当該飲食料品の提供等を行う時において、例えば、当該飲食料品について店内設備等を利用して飲食するのか又は持ち帰るのかを適宜の方法で相手方に意思確認するなどにより判定することとなる。

 「適宜の方法」とされていますので、例えば、レジスペースで店員が「お持ち帰りですか、それとも店内で召し上がりますか?」と顧客にたずねるというものがあげられます。これは、ファーストフードなどでは、よく行われている方法です。
 
(3)張り紙も可
 もちろん、「適宜の方法」でよいので、これ以外の方法によっても可能です。
 先月、日本公認会計士協会京滋会で行われた研修では、大阪国税局課税第2課の担当者より、この判定方法としては、上記のほか、張り紙を掲示して申し出てもらう、という方法も考えられるという説明がありました。
 例えば、原則として持ち帰り販売とし、張り紙で「店内で飲食を希望される方は申し出てください。」と記載しておくという方法があります。その逆でもよいでしょう。

 その他にも、持ち帰りか店内飲食かを選択できるボタンをつけた端末をレジに置いて、顧客にボタンを押していただく、というのもよいかと思います。このような端末は見たことはありませんが、そのうちできるのではないかと個人的には予測しています。

2018年10月14日日曜日

経営難の病院を乗っ取る手口(1)

1.医療法人のハコ化
 最近、産経新聞に平成30年10月9日付で「「医療・福祉」の倒産最多 経営難、暴力団つけ込む 年間見込み」という記事が掲載されました。
 
 まず、記事の冒頭部分を引用します。

「医療⾏為などの診療報酬を主要な収⼊源とする「医療・福祉事業」の1〜8⽉の倒産件数が前年同期⽐40件増の196件に上り、年間件数が過去最多を更新する⾒込みであることが9⽇、⺠間信⽤調査会社「東京商⼯リサーチ」(東京)の調査で分かった。病院・医院の倒産に加え、⾝売りも続発。経営難につけ込んだ暴⼒団やブローカーらが、医療機関の診療報酬請求権を売買するなど暗躍している。

 赤文字ゴシックは私によるものですが、経営難に陥った医療法人等に対して、反社会的勢力がつけ込んでいることが記載されています。この記事では、その後、その乗っ取りの手口が具体的に記載されています。

2.資金繰りの悪化が招くハコ企業への転落
 以前、このブログでは「経営者による内部統制の無効化とハコ企業」というタイトルでブログを記載しました。
 このブログでは、資金繰りが悪化したときは内部統制の無効化が発生しやすくなり、その結果、「ハコ企業」に陥りやすくなることから、資金繰りは絶対に悪化させないようにする必要がある、という趣旨の文章を記載しました。
 資金繰りが悪化した上場企業の中には、この過程を通じてハコ企業になってしまったところも少なくないのですが、この点は医療法人、社会福祉法人、公益法人も注意する必要があるということも記載しました。理由は、こういった非営利法人は内部統制が脆弱であるためです。例えば、理事会や監事などのガバナンスも弱いため、外部の人間に簡単につけ込まれやすい傾向があるためです。

3.経営悪化の原因
 医療法人などの医療・福祉関係事業者の一部が経営難に陥り、資金繰りが悪化している理由はいろいろとありますが、記事にも記載されているように国家財政の悪化によって、診療報酬が抑制傾向にあることが原因の一つです。
 診療報酬は、公定価格なので自分で価格を決定することができません。一方で我が国の財政は悪化していますから保険による診療報酬の支払は極力少なくしたいところです。そのため、同じ医療業務を行っても、売上が段々と少なくなり、コスト削減に失敗してしまうと資金繰りが苦しくなっていくという図式です。
 このように、資金繰りが悪化すると、経営を続けていくことが苦しくなります。そうなると、冒頭に記載したように、資金の援助をちらつかせる外部の人間につけ込まれ、内部統制の無効化が次々と発生し、ハコ企業に陥ることになります。

4.診療報酬請求権の売却
 乗っ取りと利益を得る手口についても産経新聞の記事に記載されています。
 要約すると、

①理事長の権限が強いワンマン経営の病院に、トップの信頼を得て経営中枢に入り込む
②診療報酬請求権を売却して運転資金を工面するという提案を承諾させ、実際に金融機関に診療報酬請求権を売却する
③さらに金融機関からその診療報酬請求権を入手する
④ブローカーに診療報酬請求権を高値で売却する

 ということです。

 なお、この診療報酬請求権の売却ですが、これ自体は問題はありません。いわゆるファクタリングです。健全な法人でも、資金繰りをよくするためファクタリングを行っているところもあります。

 ファクタリングの会計処理は概ね以下のとおりです。

【仕訳例】
(1)売掛金1,000を金融機関に譲渡する

 (借方)未収金 1,000 (貸方)売掛金 1,000

(2)金融機関から950の入金があった。

 (借方)現金預金 950 (貸方)未収金 1,000
     支払手数料 50

 なお、支払手数料は非課税取引となりますので課税仕入にしないように注意する必要があります。

 今回はここまでとします。
 次回は診療報酬請求権が売却される背景について説明します。

2018年10月8日月曜日

消費税軽減税率制度のポイント(1)

1.軽減税率制度の概要
 消費税及び地方消費税(以下「消費税等」)の税率は、平成31年10月1日より8%から10%に引き上げられる予定です。
 この一方で、「酒類・外食を除く飲食料品」と「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」は消費税の軽減税率制度が適用され、これらに係る消費税率は8%となります。ただし、現行(消費税率6.3%、地方消費税率1.7%)とは異なり、軽減税率のもとでは同じ8%でも消費税率は6.24%、地方消費税率は1.76%となります。

2.軽減税率制度の対象となる人
 軽減税率制度は、一見すると飲食料品の売上や仕入を行う、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、売店、飲食業といった業者のみが対象となるように思えますが、このような業者のみならず、その対象はもっと幅広いものとなります。
 例えば、課税事業者で、飲食料品の売上がない場合でも、飲食料品の仕入がある場合は軽減税率制度の対象となります。どのような場合かというと、例としては会議のときに、会議費としてお茶やお菓子を購入する場合です。また、交際費として取引先へのお菓子などの食料品をお土産として購入する場合も該当します。福利厚生費として、従業員のためにおやつや飲み物を購入する場合も該当します。
 従って、軽減税率の対象は、非常に幅広いものとなり、かなり多くの事業者が対象となると想定されるので注意が必要です。

3.テイクアウトと店内飲食
 テイクアウトの場合は、飲食料品の販売となるため軽減税率の対象となります。一方、店内飲食の場合は標準税率(10%)が適用されます。
 この点について、先日、「コンビニに行ったとき、家で食べるつもりで弁当を買ったが、店を出るとき気が変わって、イートインで弁当を食べたときはどうなるのか?」という質問がありました。この類の質問・疑問は多くの人が持っているのではないかと思います。
 この場合は、軽減税率の対象となり、標準税率の適用は一切ありません。
 なぜかというと、軽減税率が適用されるかどうかの判定は、事業者が課税資産の譲渡等を行う時で行うことになるためです。
 具体的には、この場合、弁当を販売する時点で軽減税率か標準税率の適用かが決まるということになります。家で食べるつもりということで販売すれば、この時点で軽減税率の適用が決定されます。
 従って、一度決まった税率は、その後変わることは絶対にありません。