2017年5月28日日曜日

機関運営の留意点~公益法人及び社会福祉法人共通

 社会福祉法人制度が改革され、機関運営の方法も大きく変わりました。今回は、この機関運営における留意点を数点記載します。
 なお、この機関運営の留意点は、公益法人においても同じなので、公益法人及び社会福祉法人共通のものとして記載します。なお、本稿の「公益法人」とは、一般社団法人及び一般財団法人と公益認定を受けた一般社団法人及び一般財団法人を指します。

1.理事会の開催回数
 理事会は必ず、実際に開催することが必要です。その回数ですが、原則として年4回以上の開催が必要です。ただし、容認として年2回以上の開催とすることもできます。
 以下、具体的に記載します。
 
 理事会を実際に開催することの必要性の根拠ですが、これは、公益法人の場合は代表理事、社会福祉法人の場合は理事長、及び業務執行理事は原則として3ヶ月に1回以上自己の職務の執行の状況を理事会に報告しなければならないとされているためです(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)91条②、社会福祉法(以下「社福法」)45条の16③)。
 3ヶ月に1回以上ですから、12ヶ月÷3ヶ月=4となるため、最低年4回の開催が必要になるというわけです。

 しかし、上記の通り、年2回以上の開催とすることもできます。ただし、これは定款に定めがあることが要件です(一般法91条②ただし書き、社福法45条の16③ただし書き)。具体的には、定款で毎事業年度ないし毎会計年度に4箇月を超える間隔で2回以上その報告をしなければならない旨を定めることが必要です。
 そのため、この規定が定款に定められていない場合は、原則通り年4回以上の開催となります。この点はご注意ください。
 従って、今一度、自法人の定款がどのようになっているかを確認することが必要です。

 なお、この容認規定における「4箇月を超える間隔」とは、事業年度ないし会計年度におけるものです。すなわち、年度においてカウントするものです。具体例をあげると、3月決算の法人において、6月に決算承認理事会を開催、翌年の3月に予算承認理事会を開催する場合があげられます。この場合、6月から翌年3月までは、4ヶ月を超えるのでこの要件を満たすことになります。
 よくある質問として、「3月と6月では4ヶ月を超えていないのではないか」という質問がありますが、上記の通り、年度でカウントしますので、4月初日から3月末日までの期間が対象となります。すなわち、この場合の6月は翌事業年度(翌会計年度)になります。

 最後に、この規定があることから、理事会の全てを決議の省略による方法(いわゆる「みなし決議」)によることはできません。この点も十分にご注意ください。


 2.役員選任の決議方法
  役員(理事及び監事)は公益法人では社員総会又は評議員会で、社会福祉法人では評議員会で選任することになりますが、この選任は各役員について個別に決議を行う必要があると解されます。すなわち、一括決議は不可と解されます。

  趣旨は、役員の選任という重要な意思決定について、法は理事の選任議案の内容をすべての社員ないし評議員に通知すると規定するなど(一般法38条①Ⅴ、同法施行規則4条③イ、一般法181条①Ⅲ、同法施行規則58条①、社福法45条の9⑩、同法施行規則2条の12)、慎重に審議を行うことを要求していますが、これを個別決議ではなく、一括決議にしてしまうと、社員又は評議員の意思が反映されないことになり、法の趣旨が没却されてしまうからです。

  例えば、理事候補がA,B,C,D,E,F,Gの6名がいるとします。評議員のうちXはA~Gの6名につき選任案に賛成ですが、評議員YはA~Fの選任には賛成であるものの、Gについては選任に反対と考えているとします。
  このとき、一括決議により「評議員全員の賛成により理事候補全員の選任について異議なしとします」としてしまうと、評議員Yの意思が反映されない結果となってしまいます。そうなると、評議員会で慎重に審議を行い役員を選任するという法の目的が達成されなくなります。
  そのため、役員の選任決議は一括決議ではなく、個別決議で行う必要があります。
 
 3.社員総会又は評議員会の議事録
  社員総会又は評議員会の議事録には、議事録の作成に係る職務を行った者の氏名を記載する必要があります(一般法57条①、同法施行規則11条③Ⅵ、一般法193条①、同法施行規則60条③Ⅶ、社福法45条の11①、同法施行規則2条の15③Ⅶ)。
  これは忘れやすいのでご注意ください。なお、理事会議事録についてはこの規定がありませんので、必ずしも議事録の作成に係る職務を行った者の氏名の記載は必要ありません。
  
  この議事録の作成に係る職務を行った者ですが、その資格については公益法人、社会福祉法人ともに規定がありませんので、事務職員でも問題はありません。余談ですが、株式会社では株主総会の議事録の作成に係る職務を行った者は取締役となっています(会社法318条①、同法施行規則72条③Ⅵ)。
  また、氏名の記載なので、押印は必要ありません。

  具体的な記載方法ですが、拙著「「社会福祉充実計画」の作成ガイド」(中央経済社)P115の【図表3-32】に記載していますので、参考としていただけますと幸いです。

2017年5月21日日曜日

新理事による理事会の招集方法

 平成29年4月1日の新社会福祉法施行後に初めて行われる定時評議員会では、新理事及び新監事が選任されます。新理事が選任されると、理事会を開催して新理事長を選定する必要があります。
 今回はこの新理事を選定するための理事会の招集方法について説明します。

1.定時評議員会と同日に開催する方法
 決算承認の場合を除いて、評議員会と理事会は同日に開催することができます。
 同日開催の場合、定時評議員会終了後、すぐに新理事による理事会を開催することになります。

 ここで、理事会の招集の原則的な方法を記載します。
 理事会は原則として各理事が招集しますが、理事会を招集する理事を定款又は理事会で定めたときは、その理事が招集します(社会福祉法(以下「法」)45条の14①)。
 理事会を招集する者は、理事会の日の一週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各理事及び各監事に対してその通知を発しなければなりません(法45条の14⑨、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」第94条①)。

 以上が、理事会の招集方法の原則ですが、この方法だと、招集通知を原則として1週間前まで、又は定款で定めた場合はそれよりも短い期間前までに発しなければなりません。そうなると、定款で1週間よりも短い期間を定めた場合でも、最短で1日前までとなるでしょうから、同日開催は困難となります。

 そこで、実務上、同日開催を行うために使われるのが、招集手続の省略です(法45条の14⑨、一般法94条②)。
 この招集手続の省略とは、理事及び監事の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができるというものです。
 この全員の同意は、書面でなくても問題はありません。口頭でも可能です。

 次に、株式会社や公益法人の実例に基づいた、実務での具体的な方法例を記載します。
 まず、定時評議員会には、新理事候補及び新監事候補が出席します。そして、この定時評議員会で、新理事と新監事が選任されます(法43条①)。
 定時評議員会が終了したら、新理事及び新監事に理事会を招集する旨を呼びかけて、集まってもらいます。評議員会が終了した会場に集合するという方法でもよいですし、別の部屋に移動するという方法もあります。このようにして新理事及び新監事が全員集合すれば完了です。これが、実務で見られる招集手続の省略です。

 このようにして、定時評議員会終了後、同日に理事会を開催し、理事長を選定します(法45条の13③)。
 
2.決議の省略による方法
 定時評議員会の日に新理事候補や新監事候補が集まることができないという場合もあるかと思います。また、理事会を開催すると、理事及び監事に報酬を支払わなければならないので、理事会の開催は極力やめたいと考えている法人もあるかと思います。

 このような場合、決議の省略により、理事長を選定することもできます。
 決議の省略とは、定款で定めることを要件に、理事が理事会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき理事(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をし、さらに、監事が当該提案について異議を述べなければ、当該提案を可決する旨の理事会の決議があったものとみなす、というものです(法45条の14⑨、一般法96条)。
 ちなみに、この決議の省略による方法は、実務では「みなし決議」と呼ばれることもあります。

 この決議の省略により、理事全員が同意し、さらに監事が意義を述べなければ、理事や監事が実際に集まらなくても、書面又は電磁的記録(電子メールなど)により理事長を選定することができます。

 具体的な方法ですが、実務で使用するのは、①通知文、②議案書、③同意書及び確認書、④議事録です。
 このうち、①~③を書面にして郵送したり、電子メールで送信したりするなどして、理事及び監事全員に送ります。留意点としては監事に確認書を送るのを忘れないことです。
また、このうち、電子メールを使用する場合は、電子メールが実際に本人に届いているか、また、返信がなりすましでないかを確認するなどの注意が必要です。 
 ④議事録ですが、この場合、理事会の決議が省略されたのみであり、理事会は行われたのですから、当然必要となります。

 なお、この理事会の決議の省略を行うためには定款でその旨を定める必要があります。ただし、社会福祉法人においては、厚生労働省から公表された新定款の定款例にあらかじめ記載されていたので、定款への記載漏れはほとんどないと推測されます。 

3.定時評議員会終結の一定期間後に理事会を開催する方法
 これは、定時評議員会終結後、数日後に理事会を開催するというものです。 
 この場合は、通常の理事会の招集手続により、理事会が開催されることになるでしょう。
 もちろん、この方法でも問題はありませんが、前回記載したように、旧理事の任期が終了した時点で旧理事長の任期も終了することになります。そのため、定時評議員会開催日から新理事による理事会開催日までの間は、理事長が不在ということになります。従って、この方法の場合、なるべく日をあけないで速やかに理事会を開催する必要があります。

2017年5月12日金曜日

社会福祉法人における決算承認までのスケジュール

 多くの社会福祉法人においては、平成29年6月に定時評議員会が開催され、決算が承認されることと思います。そこで、今回は、新社会福祉法における、決算承認のスケジュールにかかる留意点を記載いたします。

1.決算承認理事会と定時評議員会の間隔
 決算承認のための理事会と定時評議委員会は、中2週間(中14日間)以上あけることが必要です。
 これは、計算書類等は、定時評議員会の日の2週間前の日から5年間、その主たる事務所に備え置かなければならないとされているからです(法45条の32①)。その趣旨は、評議員が決算の承認の可否を行うにあたり、事前に準備と判断の機会を与えるためです。
 従って、例えば6月23日に定時評議員会を開催する場合は、理事会は6月8日までに開催する必要があります。(「2週間後」ではないので、ご留意ください。)
 なお、これは決算の承認時のみに適用されるものです。通常の理事会と評議員会は同日開催しても問題はありません。

2.新理事長の選定
 定時評議員会が終了したら、速やかに新理事による理事会を開催して新理事長を選定する必要があります(法45条の13③)。
 その理由は以下のとおりです。
 附則14条により旧理事の任期は、施行日以後最初に招集される定時評議員会の終結の時までとするとされています。すなわち、旧理事の任期は今年の定時評議員会の終結の時点で終了します。
 一方、理事長は理事であることが前提なので、旧理事の任期が終了した時点で旧理事長の任期も終了することになります。
 そこで、定時評議員会で新理事が選任されたら(法43条①)、速やかに理事会において新理事長を選定する必要があるというわけです。

 なお、上記の通り、この場合は評議員会と理事会は同日に開催しても問題はありません。むしろ、同日開催のほうが望ましいといえます。なぜならば、定時評議員会の日よりも後の日に理事会を開催すると、その間は、理事長が存在しない空白の期間となってしまうからです。従って、同日開催できない場合は、なるべく間を空けないで理事会を開催することが望まれます。

 なお、社会福祉法人制度改革Q&A(平成29年4月25日現在)問149においては、
「平成29年度の新理事による理事会の開催(理事長の選定等)について、新評議員による定時評議員会(決算、新役員等)と同日に開催しなくてもよいのか。【8/22付けブロック別担当者会議FAQ問13同旨】」という質問に対して、

「1.評議員会で新理事が選任された後、新理事による理事会を開催し、速やかに新たな理事長を選定することが必要である。
2.なお、理事会の招集手続きの省略等により同日開催することも可能であり、同日開催としない場合にも、速やかに理事会において理事長選定を行うことが必要である。」という回答が記載されています。

 次回は、新理事による理事会の開催方法について記載します。

2017年5月6日土曜日

「「社会福祉充実計画」の作成ガイド」P69について

1.概要と結論
 拙著「「社会福祉充実計画」の作成ガイド」(中央経済社)P69において、特例計算の対象となる法人として「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等」とあることから、「社会福祉協議会、共同募金会、助成等を主たる事業とする法人が想定され」、「これら以外の通常の社会福祉法人」は「特例計算の対象とならないと考えられます」と記載しております。
 しかしながら、現行制度は最終的に「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等」でなくても、特例計算の計算要件(「再取得に必要な財産」と「必要な運転資金(法人単位の資金収支計算書における事業活動支出に12分の3を乗じて得た額)の合計が「年間事業活動支出」を下回る場合)を満たせば、すべての法人において、この特例計算を適用できることとなりました。

2.このような記載となった理由
 P69がこのような記載となった理由ですが、簡潔に言うと、原稿の締切が平成29年1月末であったことから、その後の同年2月13日付で発出された「社会福祉充実計画の承認等に関するQ&A(vol.2)」を反映できなかったためです。
 この点については、以下、経緯を追いながら説明します。

(1)平成28年11月の案
 もともと、この「社会福祉充実計画の承認等に係る事務処理基準」(以下「事務処理基準」)の最初の案が出されたのは平成28年11月上旬でした。
 このときは、「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等」という要件は記載されておらず、計算要件を満たした法人は、この特例計算を適用できるというものでした。
 ちなみに、このときに示された計算要件は「社会福祉法に基づく事業に活用している不動産等」と「再取得に必要な財産」の合計額が「年間事業活動支出」を下回る場合、となっていました。

(2)平成28年12月の案
 次に、平成28年12月14日に厚生労働省社会・援護局福祉基盤課から第2案が発出されました。
 このとき、運転資金の特例について「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等であって」という要件が付け加わりました。
 ちなみに、計算要件は「社会福祉法に基づく事業に活用している不動産等」と「再取得に必要な財産」の合計額が「年間事業活動支出」を下回る場合、であり、11月の案と変わりはありません。
 推測ですが、この「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等であって」という要件がないと、計算要件を満たせば、どの法人も特例計算を適用できてしまい、社会福祉法人改革の目玉の一つである社会福祉充実計画の実施が少なくなってしまうため、この前提要件ともいえる要件を入れたのだと思います。
 そして、次が重要な点ですが、この案について、全国社会福祉法人経営者協議会(以下「経営協」)は、機関紙である「経営協情報」において、「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等」とあることから、特例計算の対象となるのは社会福祉協議会、共同募金会、助成等を主たる事業とする法人が想定され、これら以外の通常の社会福祉法人は特例計算の対象とならないと考えられる旨を公表しました。
 拙著P69の記載はこれに基づいたものです。
 
(3)平成29年1月の確定版
 そして、平成29年1月24日に確定版が発出されました。
 この確定版においても「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等であって」という要件は入っていました。
 しかしながら、計算要件が12月の案から変更されていました。上述のように、「再取得に必要な財産」と「必要な運転資金(法人単位の資金収支計算書における事業活動支出に12分の3を乗じて得た額)の合計が「年間事業活動支出」を下回る場合)を満たすというものです。当初の計算要件よりも、適用要件が緩和されたといってよいでしょう。「社会福祉法に基づく事業に活用している不動産等」は主に、土地・建物ですが、これらの金額はかなり大きな金額となることが多いからです。
 なお、この点について、「「社会福祉法第 55 条の2の規定に基づく社会福祉充実計画の承認等について(案)」に対する意見募集の結果について」では、18において、

「「主として施設・事業所の経営 を目的としていない法人等の特例」については、自治体からの公費の交付に係る運用や補助金を受けて設置された基金の保有などの実態を踏まえ、より弾力的に見直しをして欲しい。」 という意見に対して、

 「ご意見を踏まえ、社会福祉充実計画の承認等に係る事務処理基準の3の (7)の規定について、「再取得に必要な財産」と「必要な運転資金」との合計額 が年間事業活動支出を下回る場合には、「社会福祉法に基づく事業に活用している不動産等」及び「年間事業活動支 出」の合計額を控除する計算式に見直しを行うことといたしました。」

 と回答しています。

(4)平成29年2月のQ&A
 拙著の原稿の締切は上述のように平成29年1月末でした。ちなみに、このときは2回目の校正があり、それを受けて最終確認を行っていました。
 この原稿締切後の2月13日付で「社会福祉充実計画の承認等に関するQ&A(vol.2)」が発出されました。Q&Aは4月25日に改正されていますので、現在の番号でいうと問36にあたりますが、以下のQ&Aが記載されています。

問36 「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等の特例」については、「再取得に必要な財産」と「必要な運転資金」の合計額が法人全体の年間事業活動支出を下回る場合は、その適用を受けられるものと考えて良いのか。【事務処理基準3の(7)関係】 
(答) 1.貴見のとおり取り扱って差し支えない。 

 余談ですが、当初、私は、平成28年12月の案から計算要件が変更となったため、その確認のためのQ&Aなのかと思いました。推測ですが、この変更に至るまでに相当の圧力がかかったのではないかと思います。

(5)現在の経営協の見解
 経営協も、当初は「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等」とあることから、社会福祉協議会、共同募金会等以外の通常の法人は適用対象とはならない旨を表明していましたが、現在は「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等」でなくても、すなわち施設・事業所の経営を経営する法人であっても、計算要件を満たせば、通常の社会福祉法人であっても特例計算を適用できるという見解に変わっています。

 以上、拙著P69の記載について説明を行ってまいりました。
 原稿の締切の関係で、最終的な見解を反映できなかったことにつきましては、何卒ご容赦ください。
 今回のブログが参考となれば幸いです。