2017年5月6日土曜日

「「社会福祉充実計画」の作成ガイド」P69について

1.概要と結論
 拙著「「社会福祉充実計画」の作成ガイド」(中央経済社)P69において、特例計算の対象となる法人として「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等」とあることから、「社会福祉協議会、共同募金会、助成等を主たる事業とする法人が想定され」、「これら以外の通常の社会福祉法人」は「特例計算の対象とならないと考えられます」と記載しております。
 しかしながら、現行制度は最終的に「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等」でなくても、特例計算の計算要件(「再取得に必要な財産」と「必要な運転資金(法人単位の資金収支計算書における事業活動支出に12分の3を乗じて得た額)の合計が「年間事業活動支出」を下回る場合)を満たせば、すべての法人において、この特例計算を適用できることとなりました。

2.このような記載となった理由
 P69がこのような記載となった理由ですが、簡潔に言うと、原稿の締切が平成29年1月末であったことから、その後の同年2月13日付で発出された「社会福祉充実計画の承認等に関するQ&A(vol.2)」を反映できなかったためです。
 この点については、以下、経緯を追いながら説明します。

(1)平成28年11月の案
 もともと、この「社会福祉充実計画の承認等に係る事務処理基準」(以下「事務処理基準」)の最初の案が出されたのは平成28年11月上旬でした。
 このときは、「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等」という要件は記載されておらず、計算要件を満たした法人は、この特例計算を適用できるというものでした。
 ちなみに、このときに示された計算要件は「社会福祉法に基づく事業に活用している不動産等」と「再取得に必要な財産」の合計額が「年間事業活動支出」を下回る場合、となっていました。

(2)平成28年12月の案
 次に、平成28年12月14日に厚生労働省社会・援護局福祉基盤課から第2案が発出されました。
 このとき、運転資金の特例について「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等であって」という要件が付け加わりました。
 ちなみに、計算要件は「社会福祉法に基づく事業に活用している不動産等」と「再取得に必要な財産」の合計額が「年間事業活動支出」を下回る場合、であり、11月の案と変わりはありません。
 推測ですが、この「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等であって」という要件がないと、計算要件を満たせば、どの法人も特例計算を適用できてしまい、社会福祉法人改革の目玉の一つである社会福祉充実計画の実施が少なくなってしまうため、この前提要件ともいえる要件を入れたのだと思います。
 そして、次が重要な点ですが、この案について、全国社会福祉法人経営者協議会(以下「経営協」)は、機関紙である「経営協情報」において、「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等」とあることから、特例計算の対象となるのは社会福祉協議会、共同募金会、助成等を主たる事業とする法人が想定され、これら以外の通常の社会福祉法人は特例計算の対象とならないと考えられる旨を公表しました。
 拙著P69の記載はこれに基づいたものです。
 
(3)平成29年1月の確定版
 そして、平成29年1月24日に確定版が発出されました。
 この確定版においても「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等であって」という要件は入っていました。
 しかしながら、計算要件が12月の案から変更されていました。上述のように、「再取得に必要な財産」と「必要な運転資金(法人単位の資金収支計算書における事業活動支出に12分の3を乗じて得た額)の合計が「年間事業活動支出」を下回る場合)を満たすというものです。当初の計算要件よりも、適用要件が緩和されたといってよいでしょう。「社会福祉法に基づく事業に活用している不動産等」は主に、土地・建物ですが、これらの金額はかなり大きな金額となることが多いからです。
 なお、この点について、「「社会福祉法第 55 条の2の規定に基づく社会福祉充実計画の承認等について(案)」に対する意見募集の結果について」では、18において、

「「主として施設・事業所の経営 を目的としていない法人等の特例」については、自治体からの公費の交付に係る運用や補助金を受けて設置された基金の保有などの実態を踏まえ、より弾力的に見直しをして欲しい。」 という意見に対して、

 「ご意見を踏まえ、社会福祉充実計画の承認等に係る事務処理基準の3の (7)の規定について、「再取得に必要な財産」と「必要な運転資金」との合計額 が年間事業活動支出を下回る場合には、「社会福祉法に基づく事業に活用している不動産等」及び「年間事業活動支 出」の合計額を控除する計算式に見直しを行うことといたしました。」

 と回答しています。

(4)平成29年2月のQ&A
 拙著の原稿の締切は上述のように平成29年1月末でした。ちなみに、このときは2回目の校正があり、それを受けて最終確認を行っていました。
 この原稿締切後の2月13日付で「社会福祉充実計画の承認等に関するQ&A(vol.2)」が発出されました。Q&Aは4月25日に改正されていますので、現在の番号でいうと問36にあたりますが、以下のQ&Aが記載されています。

問36 「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等の特例」については、「再取得に必要な財産」と「必要な運転資金」の合計額が法人全体の年間事業活動支出を下回る場合は、その適用を受けられるものと考えて良いのか。【事務処理基準3の(7)関係】 
(答) 1.貴見のとおり取り扱って差し支えない。 

 余談ですが、当初、私は、平成28年12月の案から計算要件が変更となったため、その確認のためのQ&Aなのかと思いました。推測ですが、この変更に至るまでに相当の圧力がかかったのではないかと思います。

(5)現在の経営協の見解
 経営協も、当初は「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等」とあることから、社会福祉協議会、共同募金会等以外の通常の法人は適用対象とはならない旨を表明していましたが、現在は「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等」でなくても、すなわち施設・事業所の経営を経営する法人であっても、計算要件を満たせば、通常の社会福祉法人であっても特例計算を適用できるという見解に変わっています。

 以上、拙著P69の記載について説明を行ってまいりました。
 原稿の締切の関係で、最終的な見解を反映できなかったことにつきましては、何卒ご容赦ください。
 今回のブログが参考となれば幸いです。

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