2017年11月25日土曜日

予算統制と月次決算

1.公認会計士試験短答式試験・管理会計論
 平成29年12月10日(日)に、平成30年公認会計士試験第Ⅰ回短答式試験が行われます。公認会計士試験合格を目指している弊法人スタッフも第Ⅰ回短答式試験のため試験休暇に入りました。
 スタッフを激励しながら、金融庁の公認会計士・監査審査会に掲載されている過去の試験問題を見てみたところ、平成29年第Ⅱ回短答式試験の管理会計論に、こんな問題がありました。
 なお、今回は、予算統制と月次決算について記載しますが、それはこの問題がきっかけです。

平成 29 年試験 第Ⅱ回短答式試験問題 管理会計論
問題11
予算管理に関する次の記述のうち,正しいものの組合せとして最も適切な番号を一つ選 びなさい。( 5 点)

 ア.資本予算は設備投資予算に代表される長期予算であるが,短期予算としての総合予算 の中に組み込まれることがある。 

イ.予算編成の方法を大別すると,組織階層にかかわらせてトップ・ダウン方式又はボト ム・アップ方式の 2 つの予算編成のタイプが考えられる。トップ・ダウン方式にこだわり過ぎると,各部門担当者のやる気を阻害してしまい,予算統制の機能が損なわれるおそれがないとはいえない。 

ウ.予算による統制は,事前統制・期中統制・事後統制という活動に分類される。この場 合,各責任センターの予算と実績とを比較し,その分析結果を報告して是正措置を実施する活動は専ら事後統制として行われる。 

エ.予算スラックとは,参加型の予算編成の過程において,部門管理者が予算の厳格度を 緩和することによって形成される予算額をいう。それゆえ,収益予算を容易に達成可能な水準に低く設定したり,費用として許容される予算額を過少に見積もることによって形成される。

 1.アイ   2.アウ  3.アエ  4.イウ  5.イエ   6.ウエ 

 私も試しに解いてみました。
 ちなみに、公認会計士試験の短答式試験は絶対評価で各肢の◯✕を判定するのではなく、相対的に考えて解答を選択するという点が重要です。これは、以前、某専門学校の講師をしていた某法科大学院の某教授の教えです。

2.各肢について
(1)アについて 
 まず、アですが、まあどうなんでしょう。そういうこともあるのかもしれませんが、はっきり判断できません。こういう場合は保留です。
 「~することがある。」「必ずしも・・・とはいえない。」といった判断に迷う肢は無理に判定しないことです。
 短答式試験は保留をうまく使うことが大事です。

(2)イについて
 前半は◯です。予算編成にはトップ・ダウン方式ボトム・アップ方式があります。
 そこで後半の文章を考えます。後半は「トップ・ダウン方式にこだわり過ぎると,各部門担当者のやる気を阻害してしまい,予算統制の機能が損なわれるおそれがないとはいえない。 」と記載されています。これも、確かにトップ・ダウン方式にこだわり過ぎると、上からの押し付けのようになってしまい、各部門担当者の意見が反映されませんからやる気が失せるでしょう。このような「押し付け予算」は、各部門の予算は各部門の実情を反映したものではないので、そのような予算と実績を比較して差異分析しても「どうすりゃいいんだ。もっとこっちのことを考えろ。」となるかもしれません。そうなると、予算統制の機能の一つである行動の改善につながらない恐れもあります。
 そのため、◯のような気がしますが、こちらもはっきりと言い切れないのでとりあえず保留にしましょう。

(3)ウについて
 こちらが、今回のブログのきっかけとなった肢です。
 まず、「予算による統制は,事前統制・期中統制・事後統制という活動に分類される。」は◯です。
 次に、「この場合,各責任センターの予算と実績とを比較し,その分析結果を報告して是正措置を実施する活動は専ら事後統制として行われる。 」ですが、まあ概ねそうでしょう、ということで一見◯に思えるのですが、しかし、期中で月次決算において予算実績分析も行うし、どうなんでしょう、ということで判断しにくい肢です。
 この「専ら」という言葉のとらえ方が難しいですね。一般的に、予算と実績の比較は最終的には、期末時に行う予実分析が重要といえると思いますので、「専ら」といっても別におかしくはない感じもします。
 ということなので、この肢も保留です。

(4)エについて
 この肢は簡単です。予算スラックについて書かれていますが、後半の「それゆえ,収益予算を容易に達成可能な水準に低く設定したり,費用として許容される予算額を過少見積もることによって形成される。」という記述が誤りです。赤字の部分は「過大」が正しいです。従って、(エ)は✕です。
 予算スラックが生じるときは、部門担当者は費用の予算を過大に見積もっています。費用を多めに見積もっておくほうが、費用の予算目標を達成しやすいからです。予算目標を達成すれば、その部門担当者の評価が上がります。そうなると、部門担当者の出世や給料にも影響します。
 そのため、部門担当者は達成しやすい予算を組むという「予算の歪曲化」が生じるわけです。
 従って、部門予算を組むときは、部門からあがってきた予算をそのまま受け入れるのではなく、予算編成担当者は、各部門の限界を少し超えるぐらいの予算に変更させることがよいでしょう。
 ちなみに、このように、予算編成担当者と各部門の予算スラックをめぐる攻防を予算ゲームといいます。

3.総合判定
 (ア)から(エ)の肢を見てきましたが、(エ)は確実に✕なので選択肢の3,5,6が消えます。
 残るは1,2,4ですが、(ア)から(ウ)は保留にしてしまいました。そこで、この(ア)から(ウ)の中で、比較しながら相対的に考えると、(イ)はおそらく◯でしょう。そうなると、2が消えます。
 従って、最終的には(ア)と(ウ)を比較することになりますが、(ウ)は「専ら」という言葉のとらえかたが難しいのですが、期中の予算実績分析も行われること、一方、(ア)は誤っているとはいえないということを考えると、(ウ)が消えるということになりそうです。
 そうなると正解は1ということなります。公認会計士・監査審査会から公表された正解も1です。

 しかし、これはなかなか難しい問題です。
 ちなみに、TACの本試験特別座談会には「文意を読み取るのが難しいので、正答を2分の1まで絞れればそれで十分でしょう。」と記載されていました。つまり、間違ってもかまわないということです。

4.期中の予算統制
 そこで、本題ですが、(ウ)の記載にある「各責任センターの予算と実績とを比較し,その分析結果を報告して是正措置を実施する活動」は、実務上、期末の予算実績分析のみならず、期中の予算実績分析でも行われます。

 目的は色々ありますが、主として差異分析により、各行動の改善につなげることです。
 一番簡単な例は、費用の場合は経費節減活動です。例えば、水道光熱費が月次予算を上回った場合、長時間残業により電気代、エアコン代がかなりかかったことが原因だということがわかれば、残業時間を極力減らして、電気代、エアコン代を減少させようか、というものです。このような改善を予算実績の差異分析から導き出します。

 ただ、経費節減活動は正直、あまり劇的な効果は出ないことが多いです。費用を劇的に減少させるには業務プロセスそのものを変革させることです。
 このような例があります。
 あるお菓子メーカーは、原料メーカーから工業用チョコレートを固形で購入していましたが、あるときから原料メーカーは液体のままタンクローリーでチョコレートを納品するようにしたそうです。
 そうすると、お菓子メーカーでは、固形チョコレートのときと比較して、包装をほどく手間と人件費、固形チョコレートを溶解するコストと時間が劇的に減少したそうです。原料メーカーもチョコレートを冷やして固形にするためのコストと時間が減少しました。
 もっとも、この事例は費用減少の例ではなく、お互いが満足を得られるように工夫した事例なのですが、費用の減少の参考としても見ることができます。
 この事例から分かることは、創意工夫によって、業務プロセスを変革させていくことが必要だということです。

 このような、行動改善、ひいては業務プロセスの改善を行うためには、まず大前提として月次決算を行うこと、そして、翌月の早い時期に予算実績分析を行うことです。
 このとき、注意すべきは、月次決算は現金主義で行うのではなく、発生主義会計で行うことです。
 具体的には、未収、未払の計上、毎月の棚卸、減価償却費の月次計上、賞与引当金や退職給付引当金といった人件費に係る引当金の月次計上などです。

 このように、月次決算を発生主義会計で行い、早期に予算実績分析を行うことで、期中に活動の改善につなげることができ、期末に向けて予算達成に向けた行動を取ることができます。すなわち、予算上の利益を達成するすることにつながります。逆に言えば、月次決算で予算実績分析を行わなければ、活動の早期改善が行われないことになり、期末付近の決算見込時に慌てることになります。
 あと、余談ですが、この予算についても期中を通して硬直的ではなく、環境変化に応じて予算を改定していくことも必要です。
 
 以上、期中の予算統制について見てきましたが、株式会社のみならず、公益法人は財務3基準(特に収支相償)、社会福祉法人は社会福祉充実残額の有無の判定といった法令上の要求を満たす必要もありますので、期中から予算実績分析を行い、行動の改善につなげていくことが重要です。

2017年11月20日月曜日

債務超過の会社を連結子会社とした場合の問題点(1)

1.債務超過の会社の買収 
 今回は、債務超過の会社を連結子会社とした場合の論点について記載します。
 連結子会社とした会社が、連結後に業績悪化により債務超過となることはよくありますが、今回のブログは、すでに債務超過となっている会社を連結子会社とした場合を対象とします。
 ここで、債務超過の会社を買収することなどあるのか、と思われる方もいらっしゃると思いますが、実務では実際にこのようなことはあります。
 理由は様々ですが、例えば、①ターゲット企業が多数の顧客を保有している、②自社にない技術やノウハウを保有している、③シナジー効果が見込まれる、④他エリアに進出したい、⑤川上企業が川下に進出したい、といったことなどがあげられます。私の経験では、他の理由によるものもありましたが割愛します。

2.のれんの発生
 債務超過の会社を連結子会社とすると、連結財務諸表上、確実にのれんが発生します。
 のれんは、連結子会社の株式を取得した価額が、連結子会社の純資産を上回る場合に発生します。なお、「連結財務諸表に関する会計基準」24項では、「親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本との相殺消去にあたり、差額が生じる場合には、当該差額をのれん(又は負ののれん)とする。」としています。
 ここで、債務超過の会社の場合を考えてみると、債務超過の会社では純資産はマイナスとなります。債務超過とは貸借対照表の負債の額が資産の額を上回っている場合だからです。 
 そうなると、仮に子会社株式をゼロ円で取得したとしてものれんが発生します。

【設例】
・被買収会社の資産100、負債150、資本50、利益剰余金△100 
・子会社株式の取得価額0円(100%取得)
・資産の時価はないものとする。
・この子会社は非上場会社とする。

 連結財務諸表では、仕訳は以下のようになります。

(借方)資本金 50 (貸方)子会社株式 0
    のれん 50     利益剰余金 100

 このように、例えゼロ円で取得したとしてものれんが発生します。有償で取得すればより多くののれんが発生します。

3.のれんの評価
(1)追加償却
 このように債務超過の会社を連結すると、確実にのれんが発生するのですが、問題はその評価です。
 まず、個別財務諸表では、子会社株式の減損を検討する必要があります。上記設例では、非上場の子会社を想定していますが、時価のない株式の場合、株式の実質価額が取得原価に比べて50%程度以上低下した場合は著しく低下したと判断し、原則として子会社株式を減損します(金融商品会計基準第21項、金融商品会計に関する実務指針92項)。なお、連結財務諸表では、この子会社株式の評価損は振り戻されます。
 次に、「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」32項では、

「減損処理後の簿価が連結上の子会社の資本の親会社持分額とのれん未償却額(借方)との合計額を下回った場合には、株式取得時に見込まれた超過収益力等の減少を反映するために、子会社株式の減損処理後の簿価と、連結上の子会社の資本の親会社持分額とのれん未償却額(借方)との合計額との差額のうち、のれん未償却額(借方)に達するまでの金額についてのれん純借方残高から控除し、連結損益計算書にのれん償却額として計上しなければならない。」

 とされています。この場合は追加償却となります。計算要件を満たした場合は適用となります。

(2)のれんの減損
 また「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」32項では、「固定資産の減損に係る会計基準」及び「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」に従ってのれんの減損を行うとされています。すなわち、減損の兆候の把握→減損損失の認識→減損損失の測定という流れになります。

4.最後に
 債務超過の会社を連結子会社にすると、個別財務諸表では(イ)子会社株式の減損、連結財務諸表では(ロ)のれんの追加償却、(ハ)のれんの減損、という論点が出てきます。
 この論点を巡って、実務では会社と監査人の攻防戦が始まります。
 この点については別の機会に記載したいと思います。

2017年11月13日月曜日

監査法人による任意監査

1.法定監査と任意監査
 株式会社をはじめ、公益法人、社会福祉法人、医療法人などの非営利法人も一定規模以上の法人は、公認会計士又は監査法人の監査を受けなければならないことが法令上、規定されています。
 このように、各法人に関係する法令に基づいて行う監査を法定監査といいます。
 一方、法令には基づかないで、任意で監査契約を締結して行う監査を任意監査といいます。
 実は、この「任意監査」は、世間ではあまり知られていないようです。実際、「そんな監査があるのですか。」というお話を聞いたこともあります。
 そこで、今回は、任意監査について記載します。
 なお、以下、監査法人による監査を前提として記載します。また、本稿は私見であることにご留意ください。

2.任意監査を受ける方法
 任意監査は、監査法人と任意監査契約を締結すれば受けることができます。
 当たり前といえば当たり前なのですが、何故このようなことを記載したのかというと、監査法人の監査は、法令上の要件を満たした一定規模以上の会社や非営利法人などでなければ受けることができないのでは、と思われている方が意外に多いからです。
 しかしながら、上述したように、監査法人の監査は、法定監査を受ける義務がない一定規模未満の会社や非営利法人等であっても原則として受けることができます。
 今回は、以下、非営利法人である公益法人、社会福祉法人、医療法人について法定監査の要件と任意監査契約を締結する時の留意点を記載します。法定監査については、株式会社や学校法人なども対象となっているのですが、今回は割愛します。

(1)公益法人
(イ)法定監査の対象となる法人
 ①大規模一般社団法人及び大規模一般財団法人
  最終事業年度の貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である一般社団法人及び一般財団法人(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)②二、三)

 大規模一般社団法人及び大規模財団法人は「会計監査人」を設置しなければなりません(一般法62条、171条)。
 なお、会計監査人は公認会計士又は監査法人でなければなりません(以下同様)。

 ②公益社団法人及び公益財団法人
  以下のいずれかの要件を満たした公益社団法人及び公益財団法人(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下(「認定法」)5条十二、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行令(以下(「認定法施行令」)6条)
 (ⅰ)最終事業年度に係る損益計算書の収益の部に計上した額の合計額が1,000億円以上
 (ⅱ)最終事業年度に係る損益計算書の費用及び損失の部に計上した額の合計額が1,000億円以上
 (ⅲ)貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が50億円以上

 なお、認定法では、公益社団法人及び公益財団法人は原則として「会計監査人」を設置することとなっていますが、上記(ⅰ)~(ⅲ)のいずれも満たさない場合は「この限りでない」として、会計監査人の設置義務はないとしています。
 従って、(ⅰ)~(ⅲ)のいずれかを満たす場合は会計監査人を設置する必要があります。

 (ロ)任意監査を締結するにあたって
 (イ)に記載したように、法定監査の対象となる法人は「会計監査人」を設置しなければなりませんが、任意監査の場合は会計監査人を設置する必要はありません。すなわち、任意監査の場合、監査法人には会計監査人に就任してもらう必要はないということです。従って、社員総会又は評議員会の決議を経ることなく、代表理事と監査法人との間で監査契約を締結すればよいということになります。
  この場合、理事会の決議は必要なのかというと、それはその法人の任意となります。任意監査契約を締結するにあたって、理事会の決議が必要である旨は法令に定められていません。従って、理事会決議を経るかどうかは、その法人の判断となります。
  
 (ハ)任意で会計監査人を設置した場合
  なお、定款で定めることにより、任意で監査法人に会計監査人に就任してもらうという方法があります(一般法60条②、170条②)。しかし、会計監査人を設置すると、一般法に基づく監査となります。すなわち、法定監査となります。また、選任するには社員総会又は評議員会で選任手続が必要であるなど、一般法の制約を受けることになるので、面倒な面が出てきます。
  従って、会計監査人は設置しないで、(ロ)の任意監査契約を締結するほうがよいと考えられます。

(2)社会福祉法人
 (イ)法定監査の対象となる法人
 最終会計年度に係るサービス活動収益の額が30億円を超えている又は最終会計年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が60億円を超えている社会福祉法人(特定社会福祉法人)が対象となります(社会福祉法(以下「社福法」)37条、社会福祉法施行令13条の3、社会福祉法施行規則2条の6)。
 特定社会福祉法人は会計監査人を設置しなければなりません(社福法37条)。

 なお、平成31年度からは収益20億円又は負債総額40億円を超える社会福祉法人が法定監査の対象となるといわれていますが、まだ確定はしていません。

(ロ)任意監査を締結するにあたって
 これも、公益法人と同様です。任意監査を締結する場合は、評議員会の決議を経ることなく、理事長と監査法人との間で監査契約を締結すれば問題ありません。監査法人に会計監査人に就任してもらう必要はありません。理事会決議を経るかどうかは、その法人の任意です。
 
(ハ)任意で会計監査人を設置した場合
 社会福祉法人においても、定款で定めることにより、任意で会計監査人設置社会福祉法人になることもできますが(36条②)、2(1)(ロ)に記載したように、社福法に基づく法定監査となり、また社福法の制約を受けることになるので面倒です。

(3)医療法人
(イ)法定監査の対象となる法人
 法定監査の対象となる医療法人は以下の通りです(医療法51条②⑤、医療法施行規則33条の2)。
 (ⅰ)最終会計年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が50億円以上又は最終会計年度に係る損益計算書の事業収益の部に計上した額の合計額が70億円以上である医療法人
 (ⅱ)最終会計年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が20億円以上又は最終会計年度に係る損益計算書の事業収益の部に計上した額の合計額が10億円以上である社会医療法人
(ⅲ)社会医療法人債発行法人である社会医療法人

 医療法人については、公益法人や社会福祉法人と異なり、医療法において会計監査人の制度が設けられていませんので、法定監査の対象となる医療法人には会計監査人設置義務がありません。
 そのため、一般法や社福法で定められているような、会計監査人の選任手続などは定められていません。
 従って、理事長と監査法人との間で監査契約を締結することになります。理事会決議は法人の任意です。

(ロ)任意監査を締結するにあたって
 医療法人監査においては、会計監査人が存在しないので、公益法人や社会福祉法人のように気にすることはないと思います。従って、任意監査についても、理事長と監査法人との間で監査契約を締結することになります。こちらも理事会決議は法人の任意です。

 なお、任意監査の監査契約書の雛形は日本公認会計士協会のHPで任意監査契約書の様式」として掲載されています。

2017年11月7日火曜日

法人税等の表示~公益法人

 今回は、公益法人(一般社団法人及び一般財団法人、公益社団法人及び公益財団法人を指すものとします)における法人税、住民税及び事業税(以下「法人税等」)の表示について記載します。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

1.法人税等の表示
 法人税等については、正味財産増減計算書では以下のように表示します。

【表1】
Ⅰ 一般正味財産増減の部
 1.経常増減の部
 (1) 経常収益
  (中略)
  経常収益計
   (2) 経常費用
      事業費
  (中略)
  管理費
  (中略)
  経常費用計
  (中略)
  当期経常増減額
2.経常外増減の部
 (1) 経常外収益
  (中略)
  経常外収益計
 (2) 経常外費用
  (中略)
  経常外費用計
  当期経常外増減額
  税引前当期一般正味財産増減額
  法人税、住民税及び事業税
  当期一般正味財産増減額
  一般正味財産期首残高
  一般正味財産期末残高
Ⅱ 指定正味財産増減の部
  (以下省略)

 法人税等については、租税公課勘定を使って経常費用として計上されている公益法人がよく見られます。
 これは、内閣府公益認定等委員会 から出された「公益法人会計基準」の運用指針(以下「運用指針」)の様式2-1では、このように記載されていないためと推測されます。
 ちなみに、運用指針・様式2-1では、以下の表示となっています。


【表2】
 (略)
  当期経常外増減額
  当期一般正味財産増減額
  一般正味財産期首残高
  一般正味財産期末残高
 (以下省略)
 
 このように様式2-1では「法人税、住民税及び事業税」が記載されていません。そのため、租税公課勘定で会計処理されているものと推測されます。
 しかしながら、法人税等は、税引前当期正味財産増減額に対応する費用として、【表1】のように表示する必要があります。

 なお、公益法人会計基準に関する実務指針(日本公認会計士協会)では、「Q56:税効果会計を適用する場合の財務諸表の表示方法について教えてください。」の回答として、「正味財産増減計算書において、一般正味財産増減の部の当期一般正味財産増減額の前に、「税引前当期一般正味財産増減額」を記載し、その下に「法人税、住民税及び事業税」と「法人税等調整額」を 計上し、「当期一般正味財産増減額」を表示する。」とされています。
 従って、租税公課勘定として経常費用に計上されている公益法人は、正味財産増減計算書の記載を修正する必要があります。

 ただ、市販の会計ソフトをみていると、この【表1】のフォームに対応していないものが見受けられます。その場合は、エクセルにして正味財産増減計算書を修正せざるを得ないと思います。

2.租税公課を使用した場合の問題点
 租税公課勘定を使用して、経常費用に計上すると、公益社団法人及び公益財団法人において公益目的事業比率の算定に問題が生じます。
 公益社団法人及び公益財団法人では、公益目的事業を行うことを主たる目的とする必要があるため、毎事業年度における公益目的事業比率が50%以上であることが求められます。
 具体的な計算方法は、以下の通りです。(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)15条)、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行規則(以下「認定法施行規則」)13条①②より)

(イ)公益実施費用額 当該事業年度の損益計算書に計上すべき公益目的事業に係る事業費の額
(ロ)収益等実施費用額 当該事業年度の損益計算書に計上すべき収益事業等に係る事業費の額
(ハ)管理運営費用額 当該事業年度の損益計算書に計上すべき管理費の額

 (イ)÷((イ)+(ロ)+(ハ))≧50%

 なお、実務上、この公益目的事業比率は事業報告等に係る提出書類における別表5で計算されます。計算上、特定費用準備資金の積立額などの項目はあるのですが、ここでは省略します。
  事業費、管理費は【表1-1】のとおり、経常費用に計上されます。
  より詳細には、正味財産増減計算書内訳表を作成して、公益目的事業、収益目的事業、管理運営に係る収益や費用を集計するのですが、こちらもここでは省略します。

【表1-1】
Ⅰ 一般正味財産増減の部
 1.経常増減の部
 (1) 経常収益
  (中略)
  経常収益計
   (2) 経常費用
      事業費
  (中略)
  管理費
  (中略)
  経常費用計
  (中略)
  当期経常増減額

 そうなると、法人税等を事業費に計上した場合と【表1】のように法人税、住民税及び事業税として計上した場合とでは、公益目的事業比率が異なってきます。
 このように、法人税等を経常費用に計上する会計処理は、財務3基準の一つである公益目的事業比率の計算を歪めることにもなります。従って、会計上、適正な処理を行う必要があります。