2018年12月25日火曜日

公益財団法人を設立するときの注意点(2)

1.はじめに
 以前、「公益財団法人を設立するときの注意点(1)」では、親族規制について記載しました。
 今回は、公益財団法人を設立するまでの過程について記載します。

2.一般財団法人の設立
 公益財団法人を設立するには、まず、一般財団法人を設立する必要があります。いきなり、公益財団法人は設立できません。なぜかというと、公益財団法人とは、一般財団法人のうち、公益認定を受けた法人を指すからです(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下、認定法)4条2号)。すなわち、一般財団法人を設立し、その後、行政庁から公益認定を受けて公益財団法人に至るわけです。



3.一般財団法人の設立における留意点
 一般社団法人や一般財団法人の設立は簡単だ、という話をよく聞きます。しかしながら、これはケースによって異なります。もう少し具体的に言うと、財務会計がどの程度行われているかによって設立までの時間が異なってきます。
 確かに、一般財団法人の場合、定款を作成すれば、ほぼ手続きは終了といってもよいほど比較的簡単にできます。しかしながら、設立登記を行った後、2ヶ月以内に税務署などに設立時貸借対照表を届け出る必要があります。設立時貸借対照表を作成するには資産、負債の関係が明らかになっていなければなりません。これは登記手続きを行う前に終了させておきたいところですが、場合によっては意外に時間がかかります。

 以下、ケースに分けて説明します。

 まず、①全く活動実績がない新規設立の場合②それまで任意団体として活動してきた場合の2つに分けます。

①全く活動実績がない新規設立の場合
 この場合は、比較的簡単に設立できます。
 財務会計については、これまで活動実績がないため、会計帳簿はありません。従って、設立時貸借対照表を作成すればよいことになります。ただし、どのような財産を法人の資産にするのか、その範囲と金額について定める必要があります。金額については、現金預金であればわかりやすいですが、固定資産の場合は価額のつけ方が難しい場合もあります(文化財など)。

②それまで任意団体として活動してきた場合
 この場合、どのような会計を行ってきたかによって異なります。具体的には、複式簿記による会計を行ってきたかどうかによります。

(イ)複式簿記を行ってきた場合
 それまで、複式簿記による会計を行ってきた場合は、比較的スムーズに設立できます。複式簿記によれば、資産、負債、正味財産の関係が明らかになっているためです。そのため、設立時貸借対照表の作成にはそれほど時間はかかりません。もちろん、資産の実在性など、会計上適正である必要があるので、そのチェックに多少時間がかかる場合もあります。

(ロ)複式簿記を行っていなかった場合
 複式簿記を行っていなかった場合は、いわゆる単式簿記の方式になっているため、資産、負債の関係を明らかにするまでに時間がかかりやすい傾向にあります。
 現金や預金の残高の把握には時間はかからないことが多いですが、例えば、所有する固定資産については減価償却を行っていないため、減価償却を行った後の帳簿価額の計算に時間がかかることもあります。具体的には、いつ取得して、何年経過しているのか、取得価額はいくらだったのかといった情報の把握に意外に時間がかかります。
 負債に関しても、未払金を計上したことがないので、債務がどこまであるのかの把握に結構時間がかかります。

 このように、設立時貸借対照表を作成することは、一見、簡単なように見えますが、ケースによって完成するまでの時間が変わってきます。こういったところで、一般財団法人の設立までのハードルは異なってきますので、設立する場合は、現状の把握を行うことが必要です。 

2018年12月18日火曜日

LEDランプと修繕費

1.LEDの特徴
 LEDとははLight Emitting Diodeの頭文字をとったものです。日本語では発光ダイオードといいます。
 このLEDは従来の白熱灯・蛍光灯と比べて、少ない消費電力で使用でき、熱の発生も少なく、寿命も長いことが特徴です。
 そのため、企業等においても蛍光灯からLEDに変えるところが増えてきています。

2.収益的支出と資本的支出との関係
 従来の蛍光灯からLEDに取り替えた場合、その取替費用につき、税務上の処理が問題となります。

 税務上、資本的支出については、法人税法基本通達7-8-1では「法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額が資本的支出となる」とされています。

 また、収益的支出については、法人税法基本通達7-8-2で「法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の通常の維持管理のため、又はき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額が修繕費となる」とされています。

 LEDは、上記の通り、従来の白熱灯や蛍光灯と比べて機能が高いものといえます。
 そのため、LEDの取り替えにかかる支出は、感覚的には資本的支出になりそうな感じがします。

3.LEDへの取替費用は修繕費
 しかしながら、国税庁の質疑応答事例では、

「当社では、節電対策として自社の事務室の蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替えることを考えていますが、その取替に係る費用については、修繕費として処理して差し支えありませんか。」

という照会に対して、

蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替えることで、節電効果や使用可能期間などが向上している事実をもって、その有する固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増しているとして資本的支出に該当するのではないかとも考えられますが、蛍光灯(又は蛍光灯型LEDランプ)は、照明設備(建物附属設備)がその効用を発揮するための一つの部品であり、かつ、その部品の性能が高まったことをもって、建物附属設備として価値等が高まったとまではいえないと考えられますので、修繕費として処理することが相当です。」

という回答を出しています。

 なお、この質疑応答事例では注記として
平成29年7月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。
 この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。」

 とされていますが、上記の通り、LEDの取替費用は収益的支出として修繕費で処理して、まず問題はないと考えられます。
 修繕費としてよい理由は上記の国税庁の回答のとおりですが、私見では、これは日本政府がLEDを普及させたいという思惑があることから、税務上もLEDの普及を促進するために損金算入を認めてバックアップしているのではないかな、と思っています。
 
 なお、会計上の処理ですが、税務上の考えが会計上の考えになるわけではありませんが、このLEDの会計処理については、上記の国税庁の見解は会計の観点から見ても妥当ではないとはいえませんので、修繕費として処理して問題はないと考えられます。 

2018年12月9日日曜日

負ののれんとキャッシュ・フロー

1.はじめに
 ある上場企業で負ののれんを多額に計上していたことがマスコミに報じられていましたが、今回は負ののれんとキャッシュ・フローの関係についてお話したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.負ののれんとは
 通常、企業を子会社にするとき、時価評価後の純資産を上回る価額でその企業の株式を取得するので、のれんが発生します。
 しかしながら、種々の理由により逆に下回る価額でその企業の株式を取得すると、貸方に差額が生じます。この差額を負ののれんと呼んでいます。
 以下、設例を記載します。債務超過までには至っていないものの、業績が悪化している会社を100%子会社にしたというケースを想定しています。

【設例】
・被買収会社の資産180、負債150、資本50、利益剰余金△20 
・子会社株式の取得価額0円(100%取得)
・資産の時価はないものとする。
・この子会社は非上場会社とする。

 連結財務諸表では、仕訳は以下のようになります。

(借方)資本金 50 (貸方)子会社株式   0
               利益剰余金 20
               負ののれん 30

 子会社株式を純資産の額に相当する30を超える価額で購入すればのれんが発生しますが、30を下回る金額で購入したので、貸方に差額が発生したというわけです。
 この負ののれんは発生した事業年度の利益として計上します(企業結合会計基準33項)。
 この負ののれんは、全額が利益として計上されます。通常ののれんは「資産に計上し、20 年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する。」(企業結合会計基準32項)とされているため、毎期一定額が費用計上されるのれんとは対照的です。

 しかしながら、このような負ののれんが発生することはイレギュラーなケースといえます。場合によっては、その事業年度の利益を増加させたいために、取得価額を意図的に低くして、負ののれんを発生させるという会計操作が行われないとも限りません。
 そのため、制度会計では負ののれんの計上については、以下の手続きを行うことを要求しています(企業結合会計基準33項)。

 負ののれんが生じると見込まれる場合には、次の処理を行う。(中略) 
(1) 取得企業は、すべての識別可能資産及び負債(第 30 項の負債を含む。)が把握されているか、また、それらに対する取得原価の配分が適切に行われているかどうかを見直す。
(2) (1)の見直しを行っても、なお取得原価が受け入れた資産及び引き受けた負債に配分さ
れた純額を下回り、負ののれんが生じる場合には、当該負ののれんが生じた事業年度の利
益として処理する。 

 なお、監査を行う側としては、会社が上記(1)の手続きを適切に行っているかどうかの確認、及びその妥当性について検証する必要があります。

3.キャッシュ・フローとの関係
(1)負ののれんとキャッシュ・フローの関係
 しかしながら、負ののれんを計上して利益が増大したところで、負ののれんからはキャッシュの流入は行われていません。
 以前、「キャッシュ・フロー計算書作成の必要性(1)」で記載したように、利益が黒字だからといって会社が必ずしも資金繰りが順調とは限りません。いわゆる「黒字倒産」というケースもあります。まさに「勘定あって銭足らず」という状態です。
 従って、利益がプラスの場合でも、必ずキャッシュ・フロー計算書を確認し、特に営業キャッシュ・フローがどのような状態になっているのかを確認する必要があります。
 
(2)のれん償却費とキャッシュ・フローの関係
 逆に、営業損益がマイナスであっても、営業キャッシュ・フローはプラスというケースもあります。
 例えば、のれんの償却額が非常に大きい場合、それが原因で営業損失が計上されてしまうこともあります。このようなケースでキャッシュ・フロー計算書を作成してみると、実は、営業キャッシュ・フローはプラスというケースもあります。
 のれんの償却費はキャッシュアウトを伴わないので、営業損失が計上されていても、会社に営業損失に相当する資金流出が必ずしも発生しているとは言えないということです。 
 このような場合は、損益計算書では営業損失が計上されていて、一見、よくなさそうに見えるものの、資金繰りは順調というケースがあります。
 従って、同じく、損益計算書だけでなく、キャッシュ・フロー計算書もあわせて見ることが重要です。

2018年12月3日月曜日

大手電機メーカー元部長の不正発注

1.事件のあらまし
 平成30年11月27日なので少し前の話ですが、大手電機メーカーの開発部門の元部長が架空発注により4億4千万円を着服したとして逮捕されたというニュースがありました。
 もともと、平成29年に社内調査で不正が発覚し、元部長は懲戒解雇されていましたが、警視庁が捜査し逮捕に至ったものです。

 具体的な手口は、会社のページによると、この元部長が「取引先の当時取締役の協力を得て」、約8年間、「正規の取引を装って、試作品等の不正発注を繰り返し」たということです。これにより、元部長は「代金を自らに還流させ私的に流用した」ということです。
 会社のページでは「不正発注」と記載されており、マスコミでは「架空発注」と記載されています。こちらでは真実を知ることはできませんが、今回は「架空発注」ということで進めたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.架空取引を防止するための内部統制
 以前、「架空取引に係る内部統制」というタイトルで架空取引を防止するための内部統制を説明しました。
 このときも、同様に架空取引による事件が発生していました。
 大手電機メーカーなので、内部統制のデザイン(仕組み)はできていたのだと思いますが、このような架空取引の発生はよく発生します。ニュースにならない不正も世の中にはかなりあるのかもしれません。

 架空取引や水増し取引を防止するためには、

 ①発注者と発注担当者は別の人にする
 ②納品時の検収担当者は発注者とは別の人にする。
 ③支払いの担当者は、発注者や検収担当者とは別の人にする。
 ④支払い担当者は、発注書、納品書、請求書を照合する。
 
 という内部統制の仕組みを構築することが効果的ですが、大手電機メーカーであれば、このような仕組みは設けていると思います。
 今回、特徴的なのは「試供品等」を発注したという点です。色々なケースがあると思いますが、試供品となると、おそらく複数の会社の試供品を購入して、比較検討するでしょうから、相見積もりは行っていないと思います。そうなると、取引先が設定した価額で購入することになります。とはいえ、これはしょうがないと思います。
 
 ただ、それでも検収を発注依頼者とは別の人にして納品書に押印し、支払担当者は発注書、納品書、請求書を照合すれば、8年間という長期間の架空発注などの不正は防止できるのでは、と思うのですが、残念ながらそうはなりませんでした。
 今回は、開発部門ということのようなので、開発部門の中の内部統制に不備があったのかもしれません。

 架空取引の場合、相手先の協力があることが多く、実際、今回も取引先の取締役の協力があったということですが、考えられる可能性としては、このようなものかもしれません。

①取引先の取締役が、架空の納品書を元部長宛に送る。
②その納品書に元部長が、検収担当者の検収印を不正に使用し、押印する。
③開発部門から、発注書と納品書が支払担当者に送られる。
④取引先の取締役が架空の請求書を会社に送る。
⑤支払担当者は、照合するものの不正に気づかずに支払をしてしまう。

 仮に、上記の場合だと、検収印を不正に使用させないことが重要です。
 実際に、従業員の個人の印鑑が無断で使用され、不正に利用されたというケースがあります。従って、印鑑の管理は非常に重要です。
 
 他にももっと巧妙な手段もあるのだと思いますが、今回はここまでとします。