2018年12月9日日曜日

負ののれんとキャッシュ・フロー

1.はじめに
 ある上場企業で負ののれんを多額に計上していたことがマスコミに報じられていましたが、今回は負ののれんとキャッシュ・フローの関係についてお話したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.負ののれんとは
 通常、企業を子会社にするとき、時価評価後の純資産を上回る価額でその企業の株式を取得するので、のれんが発生します。
 しかしながら、種々の理由により逆に下回る価額でその企業の株式を取得すると、貸方に差額が生じます。この差額を負ののれんと呼んでいます。
 以下、設例を記載します。債務超過までには至っていないものの、業績が悪化している会社を100%子会社にしたというケースを想定しています。

【設例】
・被買収会社の資産180、負債150、資本50、利益剰余金△20 
・子会社株式の取得価額0円(100%取得)
・資産の時価はないものとする。
・この子会社は非上場会社とする。

 連結財務諸表では、仕訳は以下のようになります。

(借方)資本金 50 (貸方)子会社株式   0
               利益剰余金 20
               負ののれん 30

 子会社株式を純資産の額に相当する30を超える価額で購入すればのれんが発生しますが、30を下回る金額で購入したので、貸方に差額が発生したというわけです。
 この負ののれんは発生した事業年度の利益として計上します(企業結合会計基準33項)。
 この負ののれんは、全額が利益として計上されます。通常ののれんは「資産に計上し、20 年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する。」(企業結合会計基準32項)とされているため、毎期一定額が費用計上されるのれんとは対照的です。

 しかしながら、このような負ののれんが発生することはイレギュラーなケースといえます。場合によっては、その事業年度の利益を増加させたいために、取得価額を意図的に低くして、負ののれんを発生させるという会計操作が行われないとも限りません。
 そのため、制度会計では負ののれんの計上については、以下の手続きを行うことを要求しています(企業結合会計基準33項)。

 負ののれんが生じると見込まれる場合には、次の処理を行う。(中略) 
(1) 取得企業は、すべての識別可能資産及び負債(第 30 項の負債を含む。)が把握されているか、また、それらに対する取得原価の配分が適切に行われているかどうかを見直す。
(2) (1)の見直しを行っても、なお取得原価が受け入れた資産及び引き受けた負債に配分さ
れた純額を下回り、負ののれんが生じる場合には、当該負ののれんが生じた事業年度の利
益として処理する。 

 なお、監査を行う側としては、会社が上記(1)の手続きを適切に行っているかどうかの確認、及びその妥当性について検証する必要があります。

3.キャッシュ・フローとの関係
(1)負ののれんとキャッシュ・フローの関係
 しかしながら、負ののれんを計上して利益が増大したところで、負ののれんからはキャッシュの流入は行われていません。
 以前、「キャッシュ・フロー計算書作成の必要性(1)」で記載したように、利益が黒字だからといって会社が必ずしも資金繰りが順調とは限りません。いわゆる「黒字倒産」というケースもあります。まさに「勘定あって銭足らず」という状態です。
 従って、利益がプラスの場合でも、必ずキャッシュ・フロー計算書を確認し、特に営業キャッシュ・フローがどのような状態になっているのかを確認する必要があります。
 
(2)のれん償却費とキャッシュ・フローの関係
 逆に、営業損益がマイナスであっても、営業キャッシュ・フローはプラスというケースもあります。
 例えば、のれんの償却額が非常に大きい場合、それが原因で営業損失が計上されてしまうこともあります。このようなケースでキャッシュ・フロー計算書を作成してみると、実は、営業キャッシュ・フローはプラスというケースもあります。
 のれんの償却費はキャッシュアウトを伴わないので、営業損失が計上されていても、会社に営業損失に相当する資金流出が必ずしも発生しているとは言えないということです。 
 このような場合は、損益計算書では営業損失が計上されていて、一見、よくなさそうに見えるものの、資金繰りは順調というケースがあります。
 従って、同じく、損益計算書だけでなく、キャッシュ・フロー計算書もあわせて見ることが重要です。

0 件のコメント: