2017年8月21日月曜日

公益法人の消費税(1)

 国内において事業者が行った資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供については消費税を課することとされています(消費税法(以下「法」)4条①)。
 事業者とは個人事業者および法人をいいますので(法2条①四)、公益法人であっても資産の譲渡等を行う場合は納税義務者となります。
 今回は、公益法人における消費税の留意点について記載します。なお、公益法人とは公益社団・財団法人、一般社団・財団法人を指すこととします。

1.不課税取引と非課税取引
(1)課税の要件
 これは公益法人に限らず、他の法人でも共通するのですが、非課税取引と不課税取引の区分が曖昧となっていることがよく見られます。
 まず、消費税の課税対象ですが、これは国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等となります。そのため、課税要件は①国内取引、②事業者が事業として行う、③対価を得て行う、④資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供、の4つとなります。この4つをすべて満たした取引が消費税の課税対象となります。

(2)不課税取引
 言い換えると、この4要件のうち1つでも満たさない取引は、課税要件を満たさないので消費税は課税されません。このような取引を不課税取引といいます。
 公益法人では収益において、以下の不課税取引がよく見られます。

(イ)受取補助金
(ロ)受取寄付金
(ハ)受取会費
 (ニ)受託金
 
  これらは、対価として支払われるものではないので、③の要件を満たしません。従って、課税の要件を満たしませんので、不課税取引となります。

 (3)非課税取引
  これに対して、非課税取引とは、上記の課税の要件4つを満たすものの、消費として課税対象になじまないものや社会政策的配慮から消費税を課さない取引をいいます。
  例えば、土地の譲渡及び貸付けは、消費という性質という面で課税対象になじまないので原則として非課税取引となっています。
  また、社会保険医療の給付、介護保険サービスの提供に係る取引、社会福祉法に定める第1種社会福祉事業、第2種社会福祉事業などに係る社会福祉サービスの提供といった取引は社会政策的配慮から消費税を課さないこととしています。
  公益法人においては、非課税取引として特徴的なものはありませんが、以下の取引に注意する必要があります。

 (イ)受取利息
 (ロ)投資有価証券の売却

 (ロ)の投資有価証券の売却は、どちらかというと財団法人で発生しやすい取引です。
 
 2.不課税取引と非課税取引を分ける理由
  不課税取引も非課税取引も消費税が課されないのだから、どちらも一緒ではないか、区分する必要があるのか、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
  しかしながら、この区分は重要です。なぜかというと、課税売上割合に影響が出てくるからです。
  課税売上割合は、分子を課税期間中の課税売上高、分母を課税期間中の総売上高として計算します(どちらも税抜)。
  分母の総売上高は国内の資産の譲渡等の対価の額の合計額となります。また、分子の課税売上高とは、国内の課税資産の譲渡等の対価の額の合計額となります。
  一見、同じように見えますが、分子には非課税売上が含まれないのに対して、分母には非課税売上が含まれるという違いがあります。
  一方、不課税取引はどうかというと、不課税取引は分母にも分子にも入りません。
  そのため、不課税取引と非課税取引を区分しておかないと、不課税取引にもかかわらず、課税売上割合の計算の分母や分子に混入してしまい、適正な課税売上割合を計算できなくなってしまいます。従って、この課税売上割合を適正に計算できないと、課税仕入に係る消費税額も適切に計算できなくなるため、結果として納付税額が正しく計算できなくなってしまうことになります。
  このように、消費税の納付税額を適正に計算するために、不課税取引と非課税取引の区分は特に売上の面で重要となります。

  続きは次回以降といたします。 
 

2017年8月6日日曜日

公益法人、社会福祉法人に係る源泉所得税

 公益法人や社会福祉法人などでは、源泉所得税の徴収漏れがよく見られます。税制上の優遇を受けているためか、源泉所得税の徴収義務があることに気づかないケースや源泉所得税の徴収義務がないと思っている法人も見られます。
 今回は、源泉所得税の徴収漏れが発生しやすい事例について記載します。

1.評議員、理事、監事への交通費
 評議員会、理事会を開催したときに、出席した評議員や理事、監事に「交通費」を支給することがあります。この支給する交通費が、実費であれば問題はありませんが、例えば、全員一律に5,000円とすると、源泉徴収義務が生じます。

 よく見られるのが、交通費を支給したいが一人一人、交通費の伝票を書いてもらうのは手間をかけてしまうので、全員同じ額で統一している、というケースです。
 このように、実費ではなく、実費を超える金額や実費とは関係がない一定の金額で支給すると、それは報酬となります。
 そのため、報酬基準では、役員等については無報酬である旨を定めていても、このように交通費を実費で支払っていない場合は、役員等に対して報酬を支払っていることになるので、報酬基準自体も改定が必要となります。

 なお、「お車代」という名称に関わらず、実質で判断されますので、この点も留意が必要です。
 また、物品で支払う場合も報酬・料金等に含まれるので、源泉徴収義務が生じます。

 公益法人FAQ「Ⅴ-6-②」社会福祉法人制度改革Q&A(平成29年7月11日現在)の「問154」もあわせて御覧ください。

2.講師への講師料や交通費
(1)「謝礼」、「お車代」として支払う場合
 公益法人や社会福祉法人では、市民講座などを開催される法人も多く見られます。
 このような市民講座などに招聘した講師への講師代として「謝礼」や「お車代」として支払っているケースがありますが、名称にかかわらず、報酬・料金等の性質を有するものは源泉徴収義務が生じます。そのため、「謝礼」や「お車代」という名称で支払った場合も、源泉所得税を徴収して納付する必要があります。
 また、1で記載したとおり、物品で支払う場合も報酬・料金等に含まれるので留意が必要です。

(2)交通費を支払っている場合
 市民講座などに招聘した講師に、講師料とは別に「交通費」を支給する場合も、実費であれば問題はありませんが、実費を超えて支払うような場合などは源泉徴収義務が生じます。
 もちろん、「お車代」といった名称は関係はありません。
 また、上記と同様、物品で支払う場合も報酬・料金等に含まれるので留意が必要です。
 
3.アルバイトの給与
 アルバイトの給与についても源泉徴収をする必要があります。
 これは、1~2日程度の日給のアルバイトであっても源泉徴収を行う必要がありますが、失念される法人が見受けられますので注意が必要です。
 このようなアルバイトとしては、例えば、観光協会などが、地元のお祭りを行うときに学生などを中心にアルバイトを採用するケースがあります。お祭りは、2~3日のところもあれば、1週間程度のところもありますが、いずれにしろアルバイトはお祭りの期間の数日程度です。このような短期間のアルバイトであっても源泉徴収が必要です。
  
4.個人事業者に対する報酬・料金等
 原稿料や講演料、弁護士・公認会計士・司法書士などの特定の資格を保有するものに対する報酬などについて、その報酬を受ける者が個人である場合は、報酬を支払う者は源泉徴収義務があります。

 しかしながら、ときどき個人なのか法人なのかがわかりにくいケースがあります。例えば「○○グループ」「○○事務所」「○○総研」「○○企画」といった名称です。こういった場合、名称を見て思い込みで法人だと決め込むと、源泉徴収を失念してしまうことがあるので注意が必要です。

 そこで、個人か法人かの判断がつきにくい場合は、以下の基準で判断します。
(1) 法人税を納付する義務があること。
又は
(2) 定款、規約又は日常の活動状況からみて個人の単なる集合体ではなく団体として独立して存在していること。

 これらのいずれかに該当する場合は、人格のない社団等に該当することになります。このように人格のない社団等であることを立証した場合は、支払者に源泉徴収義務は生じません(所得税法基本通達204-1)。

 なお、特定の資格者については、法人の場合「弁護士法人」「監査法人」「税理士法人」といった名称が必ずつきます。


 最後に、その他にも、源泉徴収漏れが生じやすいケースがありますが、別の機会に記載したいと思います。