2019年5月12日日曜日

役員選任の決議方法の実務~個別決議と一括決議

1.はじめに
 平成29年(2017年)5月28日のブログ「機関運営の留意点~公益法人及び社会福祉法人共通」では、役員の選任方法として複数人を一括して決議する一括決議は不可であり、各役員等について個別に決議する個別決議を行う必要があることを記載しました。
 とはいえ、法人によっては改選時の役員候補者数が数十名というところもあり、まともに個別決議を行うと膨大な時間がかかってしまうという実務上の問題点もあります。
 そこで、今回は役員の選任決議の実務について記載したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.平成29年5月28日のブログの再掲
 まず、平成29年5月28日のブログを再掲します。

  「役員(理事及び監事)は公益法人では社員総会又は評議員会で、社会福祉法人では評議員会で選任することになりますが、この選任は各役員について個別に決議を行う必要があると解されます。すなわち、一括決議は不可と解されます。

  趣旨は、役員の選任という重要な意思決定について、法は理事の選任議案の内容をすべての社員ないし評議員に通知すると規定するなど(一般法38条①Ⅴ、同法施行規則4条③イ、一般法181条①Ⅲ、同法施行規則58条①、社福法45条の9⑩、同法施行規則2条の12)、慎重に審議を行うことを要求していますが、これを個別決議ではなく、一括決議にしてしまうと、社員又は評議員の意思が反映されないことになり、法の趣旨が没却されてしまうからです。

  例えば、理事候補がA,B,C,D,E,F,Gの6名がいるとします。評議員のうちXはA~Gの6名につき選任案に賛成ですが、評議員YはA~Fの選任には賛成であるものの、Gについては選任に反対と考えているとします。
  このとき、一括決議により「評議員全員の賛成により理事候補全員の選任について異議なしとします」としてしまうと、評議員Yの意思が反映されない結果となってしまいます。そうなると、評議員会で慎重に審議を行い役員を選任するという法の目的が達成されなくなります。
  そのため、役員の選任決議は一括決議ではなく、個別決議で行う必要があります。」(引用終)

 3.内閣府「特に留意する事項について」
  この役員選任の決議方法は、実は法令で明記されているわけではありません。法の趣旨を鑑みると、一括決議はふさわしくないということです。

  ただし、全くどこにも記載されていないものなのかというとそうではなく、公益法人の場合は、平成20年10月10日に内閣府公益認定等委員会から出された「移行認定又は移行認可の申請に当たって定款の変更の案を作成するに際し特に留意すべき事項について 」(以下「特に留意する事項について」)のP12~13にこの論点の記載がなされています。
  
  引用すると以下のとおりです。

 「法は、社員総会又は評議員会に理事の選任権を形式的に付与しているだけでなく、理事の選任過程の適正を確保するため、種々の方策を講じている。 
                  (中略)
  このように、法及び公益法人認定法は、あらゆる規律を通して、選任手続を可能な限り慎重ならしめ、社員総会(評議員会)における実質的な審議を経て適正に理事が選任されるための種々の方策を講じている。
                  (中略) 
  また、理事の選任議案を社員総会(評議員会)で決議する方法について、例えば、4人の理事の選任議案の決議(採決)を4人一括で決議(採決)することとした場合には、本来、1つ1つの議案(1人1人の理事の選任議案)ごとに賛成又は反対の意思を表明することができるはずの社員(評議員)に対して、全議案についてすべて賛成か又はすべて反対かという投票を強制することとなり、上記の法の趣旨が没却されることとなる。」

 とし、結論として、

 「このような法の趣旨及び考え方を踏まえ、
 ① 公益社団法人が、定款の定めにより、社員総会の普通決議の決議要件(定足数)を大幅に緩和し、あるいは撤廃することは許されない(問題の所在①)
 ② 社員総会又は評議員会で理事の選任議案を採決する場合には、各候補者ごとに決議する方法を採ることが望ましく 、特例民法法人の移行に際し、その定款(の変更の案)に、社員総会又は評議員会の議事の運営方法に関する定めの一つとして、「理事の選任議案の決議に際し候補者を一括して採決(決議)すること」を一般的に許容する旨の定めを設けることは許されない(問題の所在②)こととなる。 」

 と記載しています。
  公益法人の立入検査で、行政庁が一括決議が不可であることを指摘する場合、この「特に留意する事項について」が根拠となっています。

 4.実務上の対応策
  しかしながら、上述したように、役員候補者数が30名や40名といった数十名となる法人の場合、各候補者ごとに決議する方法を採ると相当な時間がかかってしまいます。
  また、それなりの法人になると、総会はホテルの会議場などを借りることが多いですが、1時間あたりの費用も大きいものがあります。
  ついでにいうと、多くの法人では、総会終了後は懇親会があります。そのため、懇親会が始まる時刻までには総会を終了させる必要がありますが、個別決議をまともにやると時間が読めなくなります。
  
  そこで、実務上は、以下の対応策が考えられます。
 
 ①まず、議長が、役員の選任については各候補者ごとに決議を行う方法が原則であることを説明する。
 ②ただし、時間と手数の関係上、一括して決議を行いたい旨を説明するが、一括決議に反対する人がいれば、申し出てほしいことをアナウンスする。
  あるいは、一括決議を行うことについて、社員または評議員に対して賛否を問う。
 ③反対する人がいなければ、全員が一括決議に賛成したということになる。また、賛否を問うた場合、賛成多数であれば、もちろん、一括決議に賛成したということになる。
 ④以上の手続を経た上で一括決議で進める。
 
  このような方法は、株式会社の株主総会の実務ではよく見られます。
  あくまで、私見ですが、参考としていただけますと幸いです。