2017年12月25日月曜日

子会社の管理と統制環境

1.子会社の成り立ちによる分類
 現在は、上場企業はもちろん、非上場の中堅・中小企業クラスの会社も子会社を所有することは珍しくなくなりました。特に、グローバル化が進み、海外の子会社を所有することも珍しくありません。
 この子会社ですが、その成り立ちについて大きく分類すると以下の2つのケースがあります。

①親会社の一部門を分社化して設立されたケース
②親会社とは全く関係のない会社を買収して子会社化したケース

 これらのケースによって、その会社の組織風土は変わってきます。また、組織風土は内部統制の一要素である統制環境にも影響を与えます。
 近年、国内子会社や海外の子会社での会計上の不正事例がよく見られますが、これは概ね、親会社を含むグループ全体の内部統制に不備があったために発生したものといえます。この内部統制の不備は複合的な要因によって生じるものですが、子会社の場合、子会社の成り立ちが内部統制、とりわけ統制環境に影響を与えていることがあります。
 今回は、上記分類と統制環境の関係性について記載します。

2.統制環境
 ここで、統制環境という概念ですが、これは内部統制の基本的要素の一つであり、内部統制全体に影響を及ぼすものなので、非常に重要な要素となります。
 
 この統制環境については、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」のⅠ2(1)では、以下のように定義されています。

 「統制環境とは、組織の気風を決定し、組織内のすべての者の統制に対する意識に影響を与えるとともに、他の基本的要素の基礎をなし、リスクの評価と対応、 統制活動、情報と伝達、モニタリング及びITへの対応に影響を及ぼす基盤をいう。」

 とされています。
 そして、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」Ⅰ2(1)では、「組織の気風」として

「組織の気風とは、一般に当該組織に見られる意識やそれに基づく行動、及び当該組織に 固有の強みや特徴をいう。組織の気風は、組織の最高責任者の意向や姿勢を反映したものとなることが多い。組織が保有する価値基準や基本的な制度等は、組織独自の意識や行動を規定し、組織内の者の内部統制に対する考え方に影響を与える。」

 とされています。

 また、統制環境の例としては、以下のものがあります。 
 ① 誠実性及び倫理観
 ② 経営者の意向及び姿勢
 ③ 経営方針及び経営戦略
 ④ 取締役会及び監査役又は監査委員会の有する機能
 ⑤ 組織構造及び慣行
 ⑥ 権限及び職責
 ⑦ 人的資源に対する方針と管理

 なお、財務諸表監査上、統制環境を評価する上でもっとも重要なのは、ガバナンスが効いているか、具体的には、取締役会による監督や監査役会などによる監査が機能しているか、といった点です。

3.親会社の一部門を分社化して設立された子会社
 次に、子会社の成り立ちについてですが、親会社の一部門を分社化して設立された子会社について見てみます。
 親会社の一部門を分社化した場合は、子会社のトップや役員、従業員は親会社の人員が移籍することになります。そのため、その子会社は、親会社の組織風土や組織文化が引き継がれます。従って、統制環境の面でも、上記のような、経営者の意向及び姿勢、組織構造及び慣行といったいろいろな面が子会社に引き継がれます。
 このように見ていくと、概ね、親会社から分社化した子会社の統制環境は親会社に近いものとなっていることが多いです。もちろん、絶対的なものではないので、子会社の統制環境は独自に評価する必要があります。
 そうなると、親会社の統制環境がしっかりしていれば、どちらかというと、こういった子会社の統制環境もしっかりしている傾向があります。逆に、親会社の統制環境に問題があると、子会社の統制環境にも何らかの不備が出てくる可能性が高くなります。
 もちろん、こういった子会社も次第にプロパー社員も増えてくるのですが、組織とは不思議なもので、新しい人が毎年入社して、人員が入れ替わっていっても、組織のマインドは引き継がれるものです。特に日本の場合、現在も年功序列制は存在しますので、役員クラスは長年勤務してきた人が多くなります。そのため、親会社が持つ組織の気風が子会社にも長く根付く傾向があります。

4.親会社とは全く関係のない会社を買収して子会社化したケース
 一方、子会社の中には親会社とは全く関係のない会社を買収して子会社化したものもあります。
 このようなケースでは、その子会社の統制環境と親会社の統制環境は異なってきます。少なくとも、買収時点では全く異なっています。
 この場合、その子会社に対して、親会社が、統制環境の整備にどれぐらい力を入れているかが重要となります。これは、一朝一夕ではできませんので、それなりの年月がかかります。親会社の内部統制がしっかりしていても、子会社の統制環境に親会社の統制環境が反映されていないと、子会社での会計不正が生ずるリスクも高くなります。
 ここでは、このようなケースの子会社の統制環境の評価方法を考えてみます。

①買収してからの年数
 内部統制は人間によって動くものですから、人間の意識と行動を変えることが重要です。しかしながら、親会社が子会社の統制環境の整備に力を入れても、長年その会社で過ごしてきた人のマインドをドラスティックに変えることは非常に難しいものです。そうなると、意識改革にはそれなりの時間がかかります。
 少なくとも買収直後の子会社の場合、親会社の統制環境の影響は受けていないといえます。そのため、買収してからどれぐらいの年数が経過しているかという点は、統制環境の評価の一つの基準となります。あまり年数が経過していない場合、親会社が統制環境の整備に力を入れていても、その浸透度は浅い可能性があります。

②分権度
 子会社を買収した場合、権力と責任の移譲において、その子会社に権力と責任を大きく与えるか、それとも親会社のコントロール化に置いてあまり独立した権力と責任は持たせないようにするか、の2種類があります。いってみれば、分権的なグループか集権的なグループ化というものです。
 そのため、その子会社が分権度が高い会社なのか、それともそうではない会社なのかを判定することは一つの判断基準となります。
 買収したケースで、なおかつ分権度が高い子会社は、親会社の統制環境の影響を受けていない可能性が高いです。また、こういった子会社は、創立時からの風土や文化がそのまま受け継がれてきており、役員や従業員のマインドはほとんど変わっていないことが多いです。
 経験的に言うと、特に海外子会社の場合、この傾向が高いように見受けられます。すなわち、日本の会社が海外の会社を買収して子会社にした場合、その会社の役員や従業員はほとんどそのままで、会社の意思決定もこれまで通り、その会社に任せるという方式です。理由としては色々ありますが、例えば、以下のものが考えられます。

①現地のことは現地の人がよく知っているので現地人に任せるほうがよい
②分権化するほうが意思決定が早い
③日本人が関与すると現地人に反発されるおそれがあるので刺激しないで仲良く行うほうがよい
④現地に関与しようと思っても、現地の言語を読み書きできる日本人がおらず、さらに現地子会社にも日本語ができる人がいない。英語ができればまだよいが、英語もできない。(特に新興国)

 他にもあると思いますが、このような理由によって海外子会社を現地任せにするケースは多く見られます。特にM&Aは他社に情報が漏れないように短期間で行う傾向にあるため、相手がどのような会社なのかしっかりと把握できないまま子会社とすることもよくあります。また、M&A仲介会社などに任せたため、会社内容をしっかりと把握できなかったケースもよく見られます。
 
 このように、買収したケースで、なおかつ分権度が高い子会社の場合、親会社の統制環境や内部統制の仕組みそのものも影響を受けていないため、親会社では想定していなかった経営者不正や従業員不正が発生するリスクがあります。

③役員等の派遣とリーダーシップ
 親会社から役員や重要度の高い従業員をどの程度派遣しているかという点も判断基準となります。
 出向により、その子会社に常駐していれば、ある程度親会社の統制環境が子会社にも影響する可能性はあります。もっとも、これもその役員のリーダーシップによりけりで、強力なリーダーシップを持った役員だと、親会社の統制環境が子会社にも浸透するのですが、リーダーシップが弱い役員だと、その子会社のプロパー職員に押し切られてしまう可能性があります。
 従って、リーダーシップの強弱も判断のひとつになるでしょう。

5.最後に
 近年、国内子会社や海外子会社の会計不正がよく見られます。あくまで私見ですが、子会社の管理はその会社のプロパーや現地人に任せきりではダメです。親会社は強力なリーダーシップを発揮して、その子会社の統制環境を完全に変えるくらいの行動が必要です。内部統制については、最初は反発を食らうのが通常ですが、そこで折れては達成できません。嫌われてもよいので何度も同じことを繰り返し伝えることです。
 以上、参考としていただけますと幸いです。

2017年12月19日火曜日

租税特別措置法第40条~定款変更を行った社会福祉法人の留意点

1.新定款の作成
 平成29年4月1日より新しい社会福祉法人制度が始まりました。この新制度の施行にあたり、定款も施行日までに変更して所轄庁の認可を受けなければならないとされたため(社会福祉法(以下「法」)附則7条)、全ての社会福祉法人は厚生労働省や所轄庁が提示した「定款例」に基づいて必要な事項の変更を行いました。
 法令上は、施行日までに所轄庁の認可を受けなければならないとされていましたが、3月末ギリギリの提出だと間に合わないおそれがあることから、所轄庁によっては、かなり早い時期の提出を求めていました。平成28年12月中に提出を求めていた所轄庁もあったと記憶しています。

2.租税特別措置法第40条
 しかし、その間、極めて重大な問題が発生しました。
 実は、厚生労働省や所轄庁が示した「定款例」では、租税特別措置法第40条の基準を満たしていないのではないか、というのです。そのため、一部所轄庁では、租税特別措置法第40条の基準を満たす定款例も示し始めました。
 ちなみに、この租税特別措置法第40条の規定とは、譲渡所得に関する特例です。すなわち、個人が法人に対して財産を贈与又は遺贈した場合は、原則として時価で譲渡したとみて、財産を贈与又は遺贈した個人に対して譲渡所得が生じて所得税が課されますが、租税特別措置法40条に定める要件を満たした場合、国税庁の承認を得れば非課税となるというものです。その適用要件の一つに、一定の要件を満たした定款の作成があります。以下に示す事業計画及び収支予算については評議員会の承認を受けることを定款で定める」というのもその要件の一つです。
 しかしながら、この租税特別措置法第40条は、一度要件を満たさなくなったら、過去に遡って取り消すことができるものとなっています。そのため、厚生労働省や所轄庁が示した定款例に従って新定款を作成した場合、法令上は、過去に遡って、財産を贈与又は遺贈した個人に所得税が課される可能性が出てくるということになります。
 そのため、そんなことになっては大変だ、ということで、個人の寄付を受けたことのある法人では、一部の所轄庁が示した租税特別措置法第40条の要件を満たした定款を作成したところがかなりあった模様です。
 結局、厚生労働省が国税庁が問い合わせをした結果、租税特別措置法第40条の適用を前提としない定款例に沿った内容の定款に改正しても、直ちに非課税承認は取消されることはないということにはなりました。(租税特別措置法第40条第1項後段の規定の適用を受けようとする場合における社会福祉法人定款例について(平成29年2月2日付社援発0202第4号照会に対する回答」参照)

3.評議員会の開催の留意点
(1)臨時評議員会の開催
 上記に示したように、租税特別措置法第40条の適用を受けるためには幾つかの要件がありますが、その一つに定款で事業計画及び収支予算については評議員会の承認を受ける必要がある旨を定めるというものがあります。
 おそらく、この適用を受けるための定款を作成した法人では、この法人の事業計画書及び収支予算書については、毎会計年度開始の日の前日までに、理事長が作成し、理事総数(現在数)の三分の二以上の同意及び評議員会の承認を受けなければならない。これを変更する場合も、同様とする。」と定款に定められていると思います。
 そのため、租税特別措置法第40条適用を受けるための定款を定めた場合は、期末前に臨時評議員会を開催する必要があります。その開催時期は通常3月です。従って、3月の評議員会開催をスケジュールに組んでおく必要があります。

(2)招集の決定
 このときの留意点は、評議員会を開催するためには、理事会で評議員会の招集の決定を行う必要があるという点です。そのため、評議員会開催日の前に理事会を開催する点に注意する必要があります。
 この招集決定のための理事会ですが、実際に開催してもよいですし、決議の省略による方法(いわゆる「みなし決議」)でも問題はありません。過去のブログ(「決議の省略~実務上の留意点」)にも記載したように、法令上、提案内容に制限はありません。ただし、軽微な事項について行うことが適当といわれています。私見ですが、この点について、評議員会の招集の決定は特に問題となるところはないと考えられます。
 なお、決議の省略の場合は、理事及び監事全員から同意・確認を得る必要がありますので、この点も留意する必要があります(法45条の14⑨、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)96条)。
 このときに、事業計画及び収支予算を承認するための理事会の開催日も決定しておくとよいでしょう。

(3)同日開催でも可
 事業計画及び収支予算については、上記のように評議員会の決議の前に理事会の決議も経ることになります。
 このときの開催日ですが、同日開催としても問題はありません。中14日以上の間隔を開けなければならないのは決算承認理事会と定時評議員会のときです。理由は(理事会の承認を受けた)計算書類等を定時評議員会の日の2週間前の日から主たる事務所に備え置かなければらないとされているからです(法45条の32①)。
 ただし、同日開催といっても、評議員会のメンバーと理事会のメンバーが同じ部屋で同時進行で行うことは避けることが望まれます。旧制度では、このような形式で行われていた法人が多いと思いますが、この方式だと、例えば、理事が評議員に口出しをする可能性もあり、そうなると、理事会の上に立って、理事の監督を行うという評議員会の意義が没却するおそれがあるからです。
 そこで、同日開催する場合は、例えば、同じ会議室を使用するにしても午前中に理事会、午後に評議員会という形で行うのがよいかと思います。なお、議案の説明のために評議員会に一部の理事が同席することは問題はありません。
 もちろん、同日開催ではなく、何日かの間隔をあけて開催しても結構です。

 なお、この事業計画及び収支予算の承認の理事会は、実際に開催することが望まれます。これは、事業計画及び収支予算の承認は、法人にとって重要な事項であり、決議の省略にはふさわしくないという点もありますが、理事長及び業務執行理事は自己の職務の執行の状況を理事会に報告しなければならないからです(法45条の16③)。おそらく、多くの法人が、定款で4月を超える間隔で2回以上その報告をしなければならない旨を定められていると推測されますが、この自己の職務の執行の状況の報告は理事会を実際に開催する必要があります。また、議事録にはその旨を明記する必要があります。

4.スケジュール
 最後に、事業計画及び収支予算承認のための臨時評議員会開催までのスケジュールを簡単にまとめると、以下の通りかと思います。

 ①理事会で臨時評議員会の招集の決定を行う(決議の省略でも可)。
 ②①の理事会で、事業計画及び収支予算承認のための理事会開催日も決定しておく。
 ③理事会の招集、評議員会の招集を行う(基本的には1週間前までだが、定款で短縮可なので定款を確認しておく。)。
 ④事業計画及び収支予算承認のための理事会を開催する(3月)。
 ⑤事業計画及び収支予算承認のための臨時評議員会を開催する(3月)。
 
 以上、参考としていただけますと幸いです。 

2017年12月11日月曜日

公益認定一発取消しの危険性~公益法人

1.公益認定の取消し
 公益社団法人及び公益財団法人とは、一般社団法人及び一般財団法人のうち、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)第4条の認定を受けた法人をいいます(認定法2条、4条)
 公益認定は、一回認定を受ければ安泰というものではなく、法令を遵守しなければ取消されることがあります。これを「公益認定の取消し」といいます(認定法29条)。  
 この公益認定の取消しには、2つのケースがあります。そのうちの一つは、公益認定が一発で取消されるケースです。
 今回は、主にこの一発取消しについて記載します。

2.勧告や命令が出たとき
 上記のように公益認定が取消されるケースには2つのケースがありますが、その1つは、勧告や命令が出たときに、公益法人自ら認定取消しの申請が行われて、公益認定の取消しとなるケースです。以下、具体的に説明します。

 認定法には、公益認定の基準のいずれかに適合しなくなったときや公益法人の事業活動等を遵守していないとき(財務3基準を満たしていないなど)などの一定の要件を満たしたときに、行政庁はその公益認定を取り消すことができるという制度があります(認定法29条②)。

 このケースの場合は、通常、事前にその公益法人に対して行政庁から勧告があります(認定法28条①)。というのは、行政庁は、認定法28条第2項各号のいずれかに該当すると疑うに足りる相当な理由がある場合には、当該公益法人に対し、期限を定めて、必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができる、とされているからです。
 なお、勧告が行われると、勧告の内容が公表されます(認定法28条②)。

 また、勧告を受けた公益法人が、正当な理由がなく、その勧告に係る措置をとらなかったときは、当該公益法人に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができます(認定法29条③)。これを命令といいます。命令が出た場合はその旨が公示されます(認定法29条④)。

 このような勧告や命令が出た場合、公益法人自ら認定の取消しの申請が行われ、公益認定の取消しに至るということが見られます(認定法29条①四)。

 3.勧告や命令なしに一発で取消されるとき
  しかしながら、このような勧告や命令がなく、一発で公益認定が取消されるときがあります。
  実際に、今年の3月、埼玉県入間市の公益社団法人でこのケースでの公益認定取消しがありました。
  理由は平成24年2月に刑法第235条(窃盗)の罪により懲役1年6月の判決を受け、刑が確定し、平成25年7月に刑の執行を終えた者が、刑の執行を終わった日から5年を経過しない日に法人の役員に就任した。」というものです。
      
    上記(1)に記載したのは、認定法29条2項の規定ですが、実は、その前項、すなわち、認定法29条1項に「行政庁は、公益法人が次のいずれかに該当するときは、その公益認定を取り消さなければならない。」という規定があります。
  すなわち、一定の法律要件を満たした場合は、有無を言わさず即時に公益認定取消しとなるということを定めています。

  「次のいずれか」というのは認定法29条1項の1号から4号のことを指しますが、このうち、1号は第六条各号(第二号を除く。)のいずれかに該当するに至ったとき。」とされています。
  この6条は何を定めた条文なのかというと、役員等の「欠格事由」を定めた条文です。今回の埼玉県入間市の公益社団法人のケースは、この欠格事由に抵触したケースです。

  認定法第6条では「(中略)次のいずれかに該当する一般社団法人又は一般財団法人は、公益認定を受けることができない。」として、第1号に「その理事、監事及び評議員のうちに、次のいずれかに該当する者があるもの」と定めています。そして、イからロの4つを掲げていますが、このうちハに禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることがなくなった日から五年を経過しない者という条文が掲げられています。埼玉県入間市の公益社団法人は、上記の通り、窃盗罪で懲役刑を受けた者が刑の執行が終わった日から5年を経過しない日に役員に就任したことから、認定法29条①一に抵触し、勧告や命令が発せられることなく、行政庁から認定を取消されたものです。

  このように、理事、監事、評議員の中に欠格事由に抵触する者がいると、一発で公益認定を取消されるので十分注意する必要があります。欠格事由の規定が整備されたときは、連座制暴力団に関する規定が注目されましたが、刑罰者については盲点になっている感があります。

  なお、公益社団法人及び公益財団法人は一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)の規定も適用されますので、一般法65条の規定も注意しておく必要があります。一般法65条では、①法人、②成年被後見人若しくは被保佐人等、③一般法などの法令違反により刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者、④③以外の法令の規定に違反し、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)については、役員になることができないとされています。
  ただし、認定法は一般法に優先して適用されます。

 4.「欠格事由」規定の対策
  このように、認定法第6条1号ハの規定に抵触すると、一発で公益認定が取消しになり、その公益法人にとっては極めて大きな影響が出ますから、常時注意する必要があります。

  ほとんどの公益法人では、理事、監事、評議員の就任の際、候補者から就任承諾書とともに「履歴書」「確認書」をいただいていると思います。
  そこで、対策としては、この履歴書と確認書が重要となりますが、全員から提出していただくのは当然として、形式的にならないようにする必要があります。
  特に、確認書については、よく読まないで署名押印する人がかなりいると推測されますので、公益法人の担当者は、必ず口頭で、上記条文の内容を説明することが有効と考えられます。特に、新しく理事、監事、評議員に就任される人に対しては、十分な口頭説明と確認書の熟読が必要です。

  この履歴書と確認書は、重任する時も必ず入手する必要があります。「前回、頂いたので、何度も同じ書類を提出していただくのは何なので・・・」と入手を躊躇される方もいらっしゃるかもしれませんが、躊躇することはありません。必ず、提出してもらってください。また、理事、監事、評議員の候補者の中には「前回、提出したではないか」と言う人もいるかもしれませんので、選任決議後に何も説明せずに郵送で送りつけるのではなく、選任決議が行われる前に、例えば、決算承認理事会などの場で、事前に説明しておくとよいと思います。

  さらに、就任期間中にも欠格事由に該当していないか注意する必要があります。連座制(6条①イ)については、上記2の通り、勧告などが出れば危険な兆候といえますので、該当役員に辞任を促す必要があります。この勧告などについては公益法人インフォメーションで確認することができますので、事務局や総務部の担当者は日々チェックすることが望まれます。
  次に、今回の論点である刑罰者については、就任期間中に法令違反を起こしていても、法人側ではなかなか気づかない事が多いと推測されます。
  対策としては、理事会や評議員会で、交通事故や脱税などの法令違反を起こしていないかどうか、もし該当者がいれば後日自己申請をしていただきたい旨を事務局から毎回お知らせするという方法が考えられます。そして、もしこのような法令違反者がいれば、その時点で辞任していただくのがよいのではないかと考えられます。

2017年12月3日日曜日

経営者による内部統制の無効化とハコ企業

1.内部統制の限界
 内部統制は、事業体にとって何らかの形で設けられているものですが、限界があります。すなわち、絶対的なものではないということです。
 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」Ⅰ 3で挙げられている限界は次の4つです。

(イ) 内部統制は、判断の誤り、不注意、複数の担当者による共謀によって有効に機能しなくなる場合がある。
(ロ) 内部統制は、当初想定していなかった組織内外の環境の変化や非定型的な取引等には、必ずしも対応しない場合がある。
(ハ) 内部統制の整備及び運用に際しては、費用と便益との比較衡量が求められる。
(ニ) 経営者が不当な目的の為に内部統制を無視ないし無効ならしめることがある。 

 なお、内部統制は①業務の有効性及び効率性、②財務報告の信頼性、③事業活動に関わる法令等の遵守、④資産の保全の4つの目的を達成するために設けられたものであり、財務報告の信頼性の確保のみを目的としたものではないことに留意する必要があります。

 今回は(4)についてどのような状況で起こりやすいのか、そのためにどのように対処すればよいのかという点を、やや特殊なケースについて説明します。

2.経営者による内部統制の無効化が起こりやすい状況
(1)経営成績の悪化 
 どのような状況で起こりやすいのか、と記載しましたが、まず経営者による内部統制の無効化のリスクは常に存在します。そのことを前提として、財務報告に係る場合について、とりわけ起こりやすい状況となると、経営成績が悪化しているときです。このような状況下では、経営者による不正な財務報告のリスクが高まります。いわゆる粉飾決算です(監査基準委員会報告書240「財務諸表監査における不正」3)。

(2)資金繰りの悪化
 もう一つ、経営者による内部統制の無効化が起こりやすい状況があります。それは資金繰りが悪化したときです。
 資金繰りの悪化が起こると、ファイナンスについて経営者による内部統制の無効化が起こりやすくなります。
 資金繰りが悪化しているときは、財政状態や経営成績が極度に悪化しているときです。この状況の下では、資金繰りが回らず、融資先への元本・利息の返済の遅延、取引先への支払いの遅延、テナント料の支払いの遅延、国税・地方税の納付の遅延などが発生し、ひいては、給与支払いの遅延が発生することもあります。

3.ファイナンスに係る内部統制の無効化
(1)時間との戦い
 資金繰りが極度に悪化しているときは、企業は必死です。資金がショートすれば、会社が破綻するからです。このような状況では、時間との戦いがあります。内部統制で定められた手続を遵守すると、時間が間に合わなくなり資金調達ができなくなる恐れがあります。
 そのため、経営者は内部統制で定められた手続を守らなくなり、経営者の内部統制の無効化が発生しやすくなります。

(2)資金繰り悪化の悪循環
 ここで、資金繰りが悪化していく状況の一例を記載します。(上場企業を例とします。)
 まず、資金繰りが悪化している企業は、財政状態や経営成績が極度に悪化している企業です。このような企業では、まず銀行などの金融機関が手を引いていきます。特に、継続企業の前提に関する注記が記載されると決定的です。まず、金融機関は新たに融資することはありません。
 金融機関から融資が不可能となると、次に、企業はノンバンクから融資を行うようになります。金利は高いですが、何とか資金を確保する必要がありますので、やむを得ません。
 しかし、ノンバンクへの返済も滞り、ノンバンクからの融資も行うことができなくなると、企業は窮地に追い込まれます。
 信用不安が広がり、取引先からはキャッシュでの支払いを要求されたり、取引を打ち切られたりします。商業を営んでいる場合、仕入先との取引を打ち切られると、商品を仕入れることができません。そうなると、売るものがないので売上もあげられません。そのため、営業キャッシュ・フローがさらに悪化します。従って、ますます資金繰りが悪化します。
 さらに、上記の通り、その間に、テナント料の支払いの遅延、国税・地方税の納付の遅延などが発生します。
 税金を長期に渡って滞納すると、担保に取られた定期預金などを差し押さえることもあります。そうなると、定期預金を動かせなくなります。
 上場企業の場合は、借入以外に新株発行という手段がありますが、実は、実務上のカベがあります。具体的には、このような状況では公募増資が非常に困難となるからです。なぜかというと、このように財政状態や経営成績が極度に悪化した企業の株価は非常に低いものとなっているからです。建前としては、株価がいくらであっても、公募増資によりファイナンスはできるはずなのですが、株価が極度に低い場合、通常、証券取引所が「証券市場の混乱を招く」という理由でGOサインを出しません。従って、公募増資によるファイナンスの道も絶たれることになります。

(3)事業会社からの借入
 このような状況になると、コンサルタントやアレンジャーと称する人物が現れ、ファイナンスの「手助け」をしてきます。
 エクイティファイナンスによる、いわゆる「不公正ファイナンス」を行うことが目的なのですが、まずは借入金による形で融資を行ってくることが多いと思います。なぜかというと、第三者割当による新株発行や新株予約権付社債の発行となると取締役会の決議が必要ですが(会社法199条②、201条①、362条④五など。)、取締役会を開催するとなると時間がかかります。
 しかし、借入金であれば基本的に代表取締役単独でできます(多額の借財の場合は取締役会決議が必要(362条④二))。資金繰りが逼迫していますから、まず早く資金を得られる借入金で資金調達を行うというわけです。
 実は、この段階で経営者の内部統制の無効化が発生することが多いです。
 借入を行うときは、返済計画の作成や金銭消費貸借契約書の作成、法務部によるリーガルチェックなどを行いますが、事業会社からの借入のときには、このような手続を無視して借入を行ってしまうのです。金銭消費貸借契約書すら作成しないことも珍しくありません。相手がどのような会社で、どのような人物なのかもノーチェックです。なぜかというと、早く資金がほしいからです。
 ここで借入を行って一時しのぎが行われた後、第三者割当増資、MSCB、DESといった形でファイナンスが行われます。取締役会の決議が必要ですが、実際に行っていないケースもあるかもしれません。
 そして、新株を得て株主となった割当先の事業会社を通して役員が送り込まれます。役員が送り込まれると、内部から支配されます。
 こうやって、上場企業がハコ企業となっていきます。

4.医療法人、社会福祉法人、公益法人も注意
 以上は、上場企業がハコ化していくケースでしたが、医療法人、社会福祉法人、公益法人(とりわけ一般財団法人、公益財団法人)も注意する必要があります。なぜかというと、このような非営利法人は多くの法人で、内部統制が脆弱だからです。
 これらの法人でも、乗っ取りの事例が見られます。きっかけとしては、やはり資金繰りが悪化したときが多いようです。資金繰りが悪化した法人にとっては救世主のように思えますから、自称コンサルタントなどの主導でファイナンスが行われ、さらに役員が送り込まれ、支配権が奪われて私物化されるという流れです。
 このような、非営利法人の乗っ取りを防ぐためには、絶対的な方法はありませんが、以下の点に留意する必要があるでしょう。
 上記のように、このような資金繰りが悪化したした時は、経営者による内部統制の無効化が極めて発生しやすくなります。
 そこで対策としては、何といっても資金繰りを悪化させないことです。そのためには、財務会計面では、①月次決算を行う、②予算実績分析を必ず行う、③資金繰表を作成する、④中長期計画を作成する、などといった作業が必要です。
 これらを支えるのは、このような作業を実際に行わせるようにするための社内制度、社内規程、評価制度といった会計面での内部統制です。前回の「予算統制と月次決算」で述べたように、行動の改善に落とし込む作業も必要です。すなわち、管理会計の実践も必要となります。
 このように財務会計、管理会計の両方の側面により、資金繰りの管理を適切に行うことができれば、非営利法人の乗っ取りも一定のレベルで防止できるものと考えられます。