2017年6月25日日曜日

預金に関する内部統制

 今回は預金に関する内部統制について、内部統制の不備の例をあげながら、その対処法を記載します。

1.銀行印と預金通帳を同じ金庫に保管している
 銀行印と預金通帳を同じ金庫に保管していると、勝手に預金を引き出されるリスクがあります。盗難にあった場合も、銀行印と預金通帳がセットになると預金を引き出されるリスクがあります。
 実際に、数年前、大阪の公益法人で銀行印と預金通帳を同じ場所に保管していたため、預金を横領されたという事例がありました。
 そのため、銀行印と預金通帳は別の金庫に保管する必要があります。

2.預金担当者と経理担当者が同一人物である
 小口現金の時と同様、預金を扱う人と経理担当が同じ人だと、横領があっても帳簿操作されてしまい、発覚が遅れるリスクがあります。
 預金を扱う人と経理を担当する人は別にする必要があります。

3.預金担当者と購買担当者や営業担当者が同一人物である
 これも小口現金の時と同様です。
 今回は、架空仕入について記載します。架空仕入の例ですが、例えば、備品計100万円を実際には仕入れていないのに仕入れたものとして会計処理を行います。同時に請求書、納品書などの証憑も偽造します。このようにして、実際には仕入れてはいない備品について、偽造された請求書にもとづき100万円を支払います。入金口座は自分の銀行口座とします。単純な例ですが、このようにすると、会社の預金を自分の口座にいれて横領することができます。
 そのため、預金担当者と購買担当者など現場の業務を行う人は別の人にする必要があります。

4.残高証明書を預金担当者が入手している
 残高証明書を預金担当者が入手すると、本物の原本を隠蔽し、残高証明書を偽造されるリスクがあります。残高証明書の偽造の例は実際にあります。特に近年はパソコンやカラー印刷の技術が発達しているので、精巧なものを作成できる傾向にあります。
 これを防止するためには、残高証明書は預金担当者以外の上席が入手することが望まれます。そして、上席は入手した残高証明書に確認印を押印するようにします。このようにして残高証明書の原本を確実に入手する体制を構築する必要があります。

5.銀行勘定残高調整表を作成していない
 締後入金や未呈示小切手などがあると、帳簿残高と銀行残高証明書の金額が異なってきます。このような場合、帳簿残高と銀行残高の差異原因を把握し、銀行勘定残高調整表を作成しておくことが望まれます。
 銀行残高証明書を入手しているものの、帳簿残高との照合を行われていないケースもあります。差異が生じている場合、異常性の有無を確かめる必要があります。

6.定期預金証書が金庫に保管されていない
 定期預金証書を持ち出されると、不正に定期預金担保を設定されるリスクがあります。
 定期預金証書は金庫に保管する必要があります。
 また、不定期に金庫内を実査し、定期預金証書が持ち出されていないかどうかのチェックも行う必要があります。また、銀行残高証明書の入手にあたっては担保権の有無の証明まで求めるとよいでしょう。もちろん、担保の設定には承認を経るよう、業務プロセスを確立しておく必要もあります。

7.外貨建預金の期末換算が行われていない
 外貨建預金がある場合、期末に円換算する必要があります。この円換算を忘れるリスクがあります。また、使用するレートについても、担当者が適当に選択しないよう、金融機関のHPよりレート表を入手し、それに基づいて計算する必要があります。レート表には上席の印を押印することが望まれます。
 その他、為替差損益を逆に計上されていたケースもありました。



2017年6月18日日曜日

小口現金に関する内部統制

 今回は、小口現金に関する内部統制について記載します。
 公益法人や社会福祉法人においては、財務報告に係る内部統制が十分ではないところもあり、職員による横領などが発生することもあります。
 内部統制には、整備(デザインと業務への適用)と運用(デザインどおりに適切に運用されているかなど)がありますが、整備のうちデザインが不十分であったり、そもそも内部統制そのものが存在しないというケースもあったりします。
 内部統制の構築は何かと時間と手間がかかりますが、これにより例えば、職員や役員による横領などの不正を防止できる可能性が高まります。
 以下、内部統制の不備の例をあげながら、その対処法を記載します。

1.小口現金の担当者と会計担当者が同じ人である
 小口現金担当者と会計担当者が同じ人である場合、その人が小口現金を横領していてもなかなかその横領の事実が発覚しないという恐れがあります。
 例えば、Aさんが小口現金から1,000円をふところに入れたとします。実際の小口現金残高は1,000円少なくなります。しかし、現金出納帳の金額は、このままだと実際残高よりも1,000円多くなります。そこで、Aさんは、例えば「雑費」として1,000円支出したということにして現金出納帳に記載します。そうすると、実際残高と帳簿残高が一致してしまいます。
 このようになると、つじつまがあってしまうので、横領があっても発覚しなくなる可能性があります。
 そのため、小口現金の担当者と会計担当者は必ず別の人にする必要があります。

2.小口現金の担当者と営業担当者や購買担当者などが同じ人である
 この場合、例えば、営業担当者が契約書作成のために収入印紙が必要だ、として必要以上の収入印紙を購入し、必要額以外の印紙を金券ショップで換金するというケースが想定されます。
 そのため、小口現金の担当者と現金を扱う担当者は別にする必要があります。
 また、収入印紙、切手、回数券といった換金性があるものは、受払簿を作成し、毎月、棚卸を行う必要があります。

3.小口現金担当者が長期間同じ人である
 小口現金担当者が長期間同じ人だと、不正がなかなか発覚しなかったり、発覚が遅くなったりする恐れがあります。そこで、現金を扱う担当者は定期的に人事異動を行い、長期間、同じ人に行わせないようにする必要があります。
 もっとも、小規模なところでは人数の関係で、このような人事異動が困難なところもあるかと思います。その場合は、強制的に休暇をとらせて、その期間は別の人が業務を担当するという方法が考えられます。なお、これらの方法は金融機関でよく見られる方策です。

4.実査を毎日行っていない
 小口現金は、毎日、実査を行う必要があります。意外にも公益法人や社会福祉法人では毎日の実査が行われていない法人が見受けられます。
 また、実査を行うときは金種表を作成する必要があります。さらに、作成した金種表は上席の承認を受ける必要があります。
 小口現金出納帳についても、実査の結果と帳簿残高の一致を確認し、上席が承認印を押印する必要があります。
 実査を毎日行うことで、誤謬や不正が早く発見できるなどの効果があります。
 なお、上席が抜き打ちで実際残高と帳簿残高を照合するという方法もあります。

 以上、不備の例をあげましたが、これらはあくまで一部であり、他にも不備の例はあります。
 次回は、預金に関する内部統制について記載します。

2017年6月12日月曜日

理事及び監事の就任日~社会福祉法人

 6月も半ばに入りましたが、社会福祉法人では、これから下旬にかけて、新制度では初めての定時評議員会が開催される法人が多いと思います。この定時評議員会では、新理事や新監事が選任されます。
 そこで、今回は理事及び監事の就任日などについて記載します。

1.理事及び監事の就任日
 理事及び監事の就任日は、理事及び監事が就任を承諾した日となります。
 一方、理事及び監事の任期の起算日は、選任時(選任決議をした時)となります(Q&A問132参照。なお社会福祉法(以下「法」)45条)。
 具体例をあげると、評議員会の開催日が平成29年6月23日、就任承諾をした日が同年7月1日であるとすると、任期の起算日は同年6月23日となり、就任日は同年7月1日となります。

 実務上、新しい理事及び監事が就任する場合、例えば、前職の任期が残っているため、就任日を遅らせる必要性が生じることも想定されます。このような場合、就任承諾の日を評議員会終結の時よりも遅らせることはできます。
 しかし、Q&A問132に記載されているように、就任日を遅らせることで任期の起算日を遅らせることはできません。

【参考 Q&A問132より】
 任期の起算点を「就任時」とすると、就任承諾は被選任者の意向に委ねられる結果、評議員会の選任決議と就任承諾との間に長期間の隔たりがある場合などにおいて、任期の終期が評議員会の意思に反する事態が生じかねないため、任期の起算点は、評議員会における「選任時」となる。

2.任期の計算方法
 任期の起算日とは、任期を計算する最初の第一日をいいます。
 理事及び監事の任期は、新制度においては、ちょうど2年間という数え方ではなくなりました。
 まず、条文を引用します。法45条では、

 「役員の任期は、選任後二年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時までとする。ただし、定款によつて、その任期を短縮することを妨げない。」

 とされています。
 そうなると、必ずしも任期は2年間ちょうどとは限らず、2年間よりも長いケースや、2年間よりも短いケースもでてきます。
 例えば、平成29年6月23日に評議員会を開催した社会福祉法人が、平成31年6月26日に評議員会を開催するとします。(注:平成は平成30年で終了しますが便宜のため平成を使用します。)
 この場合、2年間よりも少し長い期間となりますが、問題はありません。その根拠を条文の要件に従ってみてみます。
 
 「選任後二年以内に終了する会計年度」ですから、この場合、平成29年6月23日から2年以内に終了する会計年度とは平成29年度と平成30年度となります。
 次に、これらの「会計年度のうち最終のもの」とは、平成30年度となります。
 そして、この平成30年度「に関する定時評議員会の終結の時まで」ですから、この場合の評議員会は平成31年6月26日の評議員会となります。
 逆に、平成31年6月21日に評議員会を開催した場合でも同じです。この場合は、2年間よりも少し短い期間となります。

 もう一つ見てみます。
 例えば、平成30年3月27日に評議員会が開催され、理事ないし監事が選任されたとします。この場合は、「選任後二年以内に終了する会計年度」とは、平成29年度と平成30年度となります。平成30年3月27日から2年以内に訪れる決算日は平成30年3月31日と平成31年3月31日です。平成32年3月31日だと2年を超えてしまうからです。
 この平成29年度と平成30年度のうち、「最終のもの」ですから、平成30年度となります。そのため、例えば平成31年6月24日に定時評議員会を開催する場合、任期はこの日までとなります。そうなると、任期の期間は約1年3ヶ月となります。

3.就任承諾書の記載方法
 理事及び監事は法人とは委任の関係にあたりますので(法38条)、就任にあたっては、本人の就任承諾が必要です。
 就任承諾にあたっては、通常、就任承諾書をいただくことになります。
 この就任承諾書において、就任期間を記載する場合ですが、任期の計算方法は上記2のようになりましたので、就任日はともかく、就任期間の終了日については具体的な日付を記載することは避けるほうがよいと考えられます。なぜならば、約2年後の定時評議員会の開催日を現時点で決定することは困難だからです。
 そのため、記載方法としては、「平成30年度定時評議員会の終結の時まで」といった書き方がよいでしょう。
 就任承諾書については、福岡市のページに雛形がありますので、参考とするとよいと思います。

2017年6月5日月曜日

理事長や監事が欠席した場合の理事会について~社会福祉法人

1.概要
 社会福祉法人においても、監事は理事会への出席が義務付けられました(社会福祉法(以下「法」)45条の18③、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)101条①)。
 また、理事会の議事録(書面で作成されている場合)の署名又は記名押印を行うのは、原則は、出席した理事全員と監事ですが、定款で定めることにより、出席した理事長と監事とすることができる旨が定められました(法45条の14⑥)。
 そこで、今回は、理事長や監事が欠席した場合の理事会成立の可否及び議事録への署名又は記名押印について説明します。

2.理事長が欠席した場合
 理事長が欠席した場合でも、定足数を満たしていれば理事会は成立します(法45条の14④)。

 次に、議事録への署名又は記名押印ですが、定款で、署名又は記名押印を行う者を出席した理事長及び監事としている場合、法令では、「定款で議事録に署名し、又は記名押印しなければならない者を当該理事会に出席した理事長とする旨の定めがある場合にあつては、当該理事長」(法45条の14⑥)と定められていることから、理事長が欠席した場合はこの要件を満たさないことになります。
 そのため、理事長が欠席した場合は、この容認規定は適用できないため、原則規定の適用となり、出席した理事全員と監事全員が署名又は記名押印を行うことになります。

3.監事が欠席した場合
 監事が欠席した場合でも、理事会は成立します。たとえ監事全員が欠席した場合でも理事会は成立します。

 次に、議事録への署名又は記名押印ですが、定款で、署名又は記名押印を行う者を出席した理事長及び監事としている場合について説明します。
 理事長が出席していれば、監事の一部が欠席していても、理事長と出席した監事が署名又は記名押印すれば問題はありません。
 また、監事全員が欠席した場合でも、理事長が出席していれば理事長のみの署名又は記名押印で問題はありません。

 なお、法令上の問題はなくとも、監事の欠席は、理事の職務の執行の監査を行うという監事の目的を達成するための手段を放棄していることになり、ガバナンス面で問題があります。従って、監事は全員が出席することが望まれます。
 なお、万が一、監事が欠席した場合は、理事会議事録にその旨、その理由を記載しておくとよいでしょう。記載する場所は、どこでも結構です。

 以上、参考としていただけますと幸いです。