2018年11月5日月曜日

会計監査人の設置基準の引下げ延期

1.厚労省の事務連絡より
 平成30年11月2日付で、厚生労働省社会・援護局福祉基盤課は、事務連絡として公益社団法人全国老人福祉施設協議会宛で「「社会福祉法人における会計監査人に係る調査と 平成 31 年4月の引下げ延期について(周知)」を送付しました。
 
 これによると、

「今般、平成 28 年社会福祉法改正による会計監査人の設置を円滑に進めていくため、会計監査の実施による効果や導入する場合の課題等について、
(1)平成 29 年度の会計監査を実施した全ての社会福祉法人(約 400 法人)を対象とした調査
(2)収益 10 億円を超える法人又は負債 20 億円を超える法人(約 1,700 法人)を対象とした調査

を、二段階で実施いたします。

 とし、これに続けて

「このため、法人の準備期間等を考慮し、平成 31 年4月から会計監査人の設置基準を引下げることは行わないこととしましたので、貴団体の会員に周知をいただくようお願いいたします。

 と記載しています。(文中のゴシックと色付けは筆者)

 そのため、当初は、サービス活動収益が20億円を超える社会福祉法人または負債の部の合計額が40億円を超える社会福祉法人は、平成31年度より会計監査人の設置が義務付けられる予定でしたが、延期となりました。
 従って、平成31年度も引き続き、会計監査人の設置が義務付けられる社会福祉法人は、サービス活動収益が30億円を超える社会福祉法人または負債の部の合計額が60億円を超える社会福祉法人となります。
 ちなみに、これは私が所属する総合経営グループが会員となっているMMPG様より、本日の昼過ぎに参考情報として連絡があり知ることになったものです。

2.監査の準備期間
 前回は、私も傍聴人として参加した平成28年9月26日の社会保障審議会 (福祉部会)で、会計監査人の設置基準が発表されたので、9月下旬には発表があるかなと思っていたのですが、なかなか出てこないので今回は少し遅いなと感じてはいました。
 あくまで推測ですが、いろいろな力が働いたのかもしれません。

 なお、もともと厚労省は福祉部会で、
「・ 平成29年度、平成30年度は、収益30億円を超える法人又は負債60億円を超える法人
・ 平成31年度、平成32年度は、収益20億円を超える法人又は負債40億円を超える法人
・ 平成33年度以降は、収益10億円を超える法人又は負債20億円を超える法人
と段階的に対象範囲を拡大。
 ただし、段階施行の具体的な時期及び基準については、平成29年度以降の会計監査の実施状況等を踏まえ、必要に応じて見直しを検討する。
 
 としていたので、平成29年度以降の会計監査の実施状況等を踏まえるために何らかの調査を行うのだろうとは思っていましたが、これから行うとは想定していませんでした。

 ただ、私見ですが、平成29年度から実施した社会福祉法人の監査では、社会福祉法人側に十分な準備期間がなかったのでは、と感じました。
 ちなみに、上場会社の場合、上場準備期間があり最短で2年、状況によってはそれ以上の期間を経て上場に至るのですが、社会福祉法人の制度改革ではこのような期間がなかったと思います。
 そのため、多くの社会福祉法人は準備不十分なまま、いきなり法定監査に突入してしまったので、気の毒な感じがします。
 従って、今回、会計監査人の設置基準が延期となりましたが、監査の準備期間が設けられたという点ではよかったと個人的には思っています。

 この点を踏まえると、社会福祉法人側では、設置基準の引き下げが決まってから予備調査を始めるのではなく、今の時点から予備調査を受け、任意監査契約を締結することが望まれます。この任意監査の期間に、内部統制の不備や会計上の誤りを修正していくわけです。そうすれば、法定監査に入ってから、監査法人に大きな指摘(金額の大きい会計上の誤りなど)を受ける可能性は低くなります。
 従って、今回の延期を、監査の先延ばしでなく、監査を受けるための十分な準備期間の設置と捉えていただけますとよいかと思います。