株式会社をはじめ、公益法人、社会福祉法人、医療法人などの非営利法人も一定規模以上の法人は、公認会計士又は監査法人の監査を受けなければならないことが法令上、規定されています。
このように、各法人に関係する法令に基づいて行う監査を法定監査といいます。
一方、法令には基づかないで、任意で監査契約を締結して行う監査を任意監査といいます。
実は、この「任意監査」は、世間ではあまり知られていないようです。実際、「そんな監査があるのですか。」というお話を聞いたこともあります。
そこで、今回は、任意監査について記載します。
なお、以下、監査法人による監査を前提として記載します。また、本稿は私見であることにご留意ください。
2.任意監査を受ける方法
任意監査は、監査法人と任意監査契約を締結すれば受けることができます。
当たり前といえば当たり前なのですが、何故このようなことを記載したのかというと、監査法人の監査は、法令上の要件を満たした一定規模以上の会社や非営利法人などでなければ受けることができないのでは、と思われている方が意外に多いからです。
しかしながら、上述したように、監査法人の監査は、法定監査を受ける義務がない一定規模未満の会社や非営利法人等であっても原則として受けることができます。
今回は、以下、非営利法人である公益法人、社会福祉法人、医療法人について法定監査の要件と任意監査契約を締結する時の留意点を記載します。法定監査については、株式会社や学校法人なども対象となっているのですが、今回は割愛します。
(1)公益法人
(イ)法定監査の対象となる法人
①大規模一般社団法人及び大規模一般財団法人
最終事業年度の貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である一般社団法人及び一般財団法人(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)②二、三)
大規模一般社団法人及び大規模財団法人は「会計監査人」を設置しなければなりません(一般法62条、171条)。
なお、会計監査人は公認会計士又は監査法人でなければなりません(以下同様)。
②公益社団法人及び公益財団法人
以下のいずれかの要件を満たした公益社団法人及び公益財団法人(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下(「認定法」)5条十二、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行令(以下(「認定法施行令」)6条)
(ⅰ)最終事業年度に係る損益計算書の収益の部に計上した額の合計額が1,000億円以上
(ⅱ)最終事業年度に係る損益計算書の費用及び損失の部に計上した額の合計額が1,000億円以上
(ⅲ)貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が50億円以上
なお、認定法では、公益社団法人及び公益財団法人は原則として「会計監査人」を設置することとなっていますが、上記(ⅰ)~(ⅲ)のいずれも満たさない場合は「この限りでない」として、会計監査人の設置義務はないとしています。
従って、(ⅰ)~(ⅲ)のいずれかを満たす場合は会計監査人を設置する必要があります。
(ロ)任意監査を締結するにあたって
(イ)に記載したように、法定監査の対象となる法人は「会計監査人」を設置しなければなりませんが、任意監査の場合は会計監査人を設置する必要はありません。すなわち、任意監査の場合、監査法人には会計監査人に就任してもらう必要はないということです。従って、社員総会又は評議員会の決議を経ることなく、代表理事と監査法人との間で監査契約を締結すればよいということになります。
この場合、理事会の決議は必要なのかというと、それはその法人の任意となります。任意監査契約を締結するにあたって、理事会の決議が必要である旨は法令に定められていません。従って、理事会決議を経るかどうかは、その法人の判断となります。
(ハ)任意で会計監査人を設置した場合
なお、定款で定めることにより、任意で監査法人に会計監査人に就任してもらうという方法があります(一般法60条②、170条②)。しかし、会計監査人を設置すると、一般法に基づく監査となります。すなわち、法定監査となります。また、選任するには社員総会又は評議員会で選任手続が必要であるなど、一般法の制約を受けることになるので、面倒な面が出てきます。
従って、会計監査人は設置しないで、(ロ)の任意監査契約を締結するほうがよいと考えられます。
(2)社会福祉法人
(イ)法定監査の対象となる法人
最終会計年度に係るサービス活動収益の額が30億円を超えている又は最終会計年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が60億円を超えている社会福祉法人(特定社会福祉法人)が対象となります(社会福祉法(以下「社福法」)37条、社会福祉法施行令13条の3、社会福祉法施行規則2条の6)。この場合、理事会の決議は必要なのかというと、それはその法人の任意となります。任意監査契約を締結するにあたって、理事会の決議が必要である旨は法令に定められていません。従って、理事会決議を経るかどうかは、その法人の判断となります。
(ハ)任意で会計監査人を設置した場合
なお、定款で定めることにより、任意で監査法人に会計監査人に就任してもらうという方法があります(一般法60条②、170条②)。しかし、会計監査人を設置すると、一般法に基づく監査となります。すなわち、法定監査となります。また、選任するには社員総会又は評議員会で選任手続が必要であるなど、一般法の制約を受けることになるので、面倒な面が出てきます。
従って、会計監査人は設置しないで、(ロ)の任意監査契約を締結するほうがよいと考えられます。
(2)社会福祉法人
(イ)法定監査の対象となる法人
特定社会福祉法人は会計監査人を設置しなければなりません(社福法37条)。
なお、平成31年度からは収益20億円又は負債総額40億円を超える社会福祉法人が法定監査の対象となるといわれていますが、まだ確定はしていません。
(ロ)任意監査を締結するにあたって
これも、公益法人と同様です。任意監査を締結する場合は、評議員会の決議を経ることなく、理事長と監査法人との間で監査契約を締結すれば問題ありません。監査法人に会計監査人に就任してもらう必要はありません。理事会決議を経るかどうかは、その法人の任意です。
(ハ)任意で会計監査人を設置した場合
社会福祉法人においても、定款で定めることにより、任意で会計監査人設置社会福祉法人になることもできますが(36条②)、2(1)(ロ)に記載したように、社福法に基づく法定監査となり、また社福法の制約を受けることになるので面倒です。
(3)医療法人
(イ)法定監査の対象となる法人
法定監査の対象となる医療法人は以下の通りです(医療法51条②⑤、医療法施行規則33条の2)。
(ⅰ)最終会計年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が50億円以上又は最終会計年度に係る損益計算書の事業収益の部に計上した額の合計額が70億円以上である医療法人
(ⅱ)最終会計年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が20億円以上又は最終会計年度に係る損益計算書の事業収益の部に計上した額の合計額が10億円以上である社会医療法人
(ⅲ)社会医療法人債発行法人である社会医療法人
医療法人については、公益法人や社会福祉法人と異なり、医療法において会計監査人の制度が設けられていませんので、法定監査の対象となる医療法人には会計監査人設置義務がありません。
そのため、一般法や社福法で定められているような、会計監査人の選任手続などは定められていません。
従って、理事長と監査法人との間で監査契約を締結することになります。理事会決議は法人の任意です。
(ロ)任意監査を締結するにあたって
医療法人監査においては、会計監査人が存在しないので、公益法人や社会福祉法人のように気にすることはないと思います。従って、任意監査についても、理事長と監査法人との間で監査契約を締結することになります。こちらも理事会決議は法人の任意です。
なお、任意監査の監査契約書の雛形は日本公認会計士協会のHPで「任意監査契約書の様式」として掲載されています。