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2019年8月30日金曜日

大手コンビニで水増契約

1.はじめに

大手コンビニ会社で、社員が水増契約を行い、4億3千万円を私的流用していたというニュースがありました。会社のニュースリリースを見ると

「当社のIT部門の元従業員(50代男性・在籍35年)が、2011年から2019年までの約9年間にわたって取引先と共謀し、業務委託料の水増しにより予備費の名目で取引先にプールさせ、これを私的用途に使用していました。金額は合計約4.3億円となります。」

 と記載されていました。
 非常に多額の横領ですが、日本経済新聞の記事などを見た限りでは、私がこれまで記載した内部統制の不備の典型例のような感じもします。


2.不正の背景

水増契約の場合、通常、取引先に協力者がいます。今回も取引先の男性が共謀していたということです。
 また、この大手コンビニ会社のIT部門を担当する男性は、長くこの部門を担当し、また、システム委託を一人で担当していたと報道されています。
 これらから推測すると、共謀関係が生じたのは、このIT部門の職員が一人で長く担当していたためと考えられます。同じ担当者同士が長い間、取引を行っていると人間関係が深くなります。そうなると、共謀関係も生じるリスクがあるというわけです。

3.どのような内部統制の不備か

水増契約の対策については、過去のブログ「転売を目的としたパソコンの不正購入(2)」でも記載しましたが、発注依頼者と発注担当者を分けることが有効です。このときのブログでは「発注依頼者と発注担当者も分ける必要があります。これらが同じ人だと、取引先と共謀して架空取引や水増契約のリスクがあるからです。」と記載しました。
 今回のケースでは、詳細は不明ですが、IT部門のシステム委託を一人で担当していたということから、発注依頼者と発注担当者が分けられていなかった可能性が高いと思います。
 実際、朝日新聞の記事では「男性社員が04年ごろからこの取引先への業務委託を1人で担っていたため、チェック機能が働かなかったなどと説明。」と記載されています。
 これは、内部統制のデザインに問題がある、典型的な不備といえそうです。

4.システムやサービスの特性

今回はシステムの業務委託ということですが、こういった取引は有形ではなく無形のサービスであるため、目に見えません。そのため、システム取引やサービス取引は注意する必要があります。これも過去のブログ「架空取引に係る内部統制」においても、「サービス提供の場合、サービスを受けたかどうかの確認が難しいケースもあります。」と記載しました。すなわち、サービス取引は成果物が目に見えないものなので、有形のものと比べるとわかりにくいのです。
 過去にも新幹線の受発注システムで架空取引が行われたこともありました。

5.内部通報制度

今回のケースは内部通報制度で発覚したということです。
 「架空取引に係る内部統制」でも「内部通報制度は内部統制の一つです。構築した内部統制を巧妙にくぐり抜けるケースもありますが、内部通報制度により内部統制の弱点を補えることもあります。」と記載したとおり、内部通報制度を設けることは非常に有効です。
 また、内部通報制度により社外の弁護士らが調査していたということですが、同ブログでも「方法としては、例えば、顧問契約をしている法律事務所にホットラインを設けるという方法が考えられます。このようにすれば、従業員が安心して通報できるからです。」と記載しました。
 内部通報制度はこのように外部の弁護士などにつながるようにするのがよいと思います。

6.まとめ

今回のケースも典型的な内部統制の不備という印象です。
 我が国の会社は、どちらかというと社員が悪いことをするという前提で内部統制を構築する傾向はあまりないように感じます。
 一方で、内部統制の強化は、自社内で従業員の不正が起こって初めて行うということが多くみられます。
 確かに、従業員を性悪説で見ることは、我が国では会社の社風にあわないところが多いかもしれませんが、一度起こると、企業イメージも悪化するので、念には念を入れて不正を防止する内部統制の構築に力を入れるべきだと思います。

2019年7月27日土曜日

契約書に係る監査上の論点~吉本興業の「契約書なし」をみて

1.吉本興業の「契約書なし」問題
 吉本興業の、いわゆる闇営業問題に関連して、吉本興業が所属タレントと契約書を作成していなかったという論点が出てきました。
 さらに、この「契約書なし」問題に関して公正取引委員会の山田昭典事務総長が「契約書面が存在しないということは、競争政策の観点から問題がある」と述べたというニュースも出てきました。(契約書なし「競争政策上、問題」=公取事務総長、吉本興業に懸念」(時事通信)「吉本興業の契約書なし、「問題がある」 公取委総長発言」(朝日新聞)
 私は、闇営業問題に関心はないのですが、この「契約書なし」問題を見て思い出したことがあったので、今回は、財務諸表監査における契約書にかかる論点を記載したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.「契約書なし」の会社
(1)契約書を作成する意義
 財務諸表監査を行うとき、内部統制のデザインの評価や運用評価、実証テストを行いますが、この過程で取引の契約についても、どのように行われているのかを見るために契約書の閲覧などを行います。
 当然のことながら、まずは取引の契約を締結した場合は契約書の作成が必要です。一応、民法上は口頭でも契約は成立するのですが、企業の内部統制上、契約書を作成することが必要です。そうしないと、金額や支払相手などが不明確になるため、例えば、架空取引や水増し請求による過大支払いなどが行われてしまい会社に損害が発生するリスクがあるからです。(「架空取引に係る内部統制」「経営者による内部統制の無効化とハコ企業」参照)

(2)地方でよく見られるケース
 上場会社では何らかの取引を行うときは、まず間違いなく契約書を交わしていますが、「経営者による内部統制の無効化とハコ企業」でも記載したように、資金繰りが逼迫した企業では内部統制の無視・無効化が横行し、契約書を取り交わさないで取引を行っていたケースも見られました。
 
 このように上場会社レベルでは「契約書なし」というのはイレギュラーなケースですが、非上場会社や非営利法人では「契約書なし」というケースが時々出てきます。特に、この「契約書なし」は地方でよく見られるという印象があります。
 何度か見たのは、地元の工務店と工事契約を締結するケースです。なぜかというと、地方では、地域の人は昔からの顔なじみで、お互いによく知っているため、わざわざ契約書を作成する必要はないという文化ができてしまっているからのようです。
 そのため、契約書を作成しなくても「まあ、別にいいじゃないか」というお互いの信頼関係で物事が進んでしまうというわけです。

 また、非上場会社あたりでは「収入印紙の節約をしたいから」という理由で契約書を作成しない会社も時々見られます。
 
 しかしながら、契約書を作成しないと上記のように、会社に損害が生じるリスクがあるので、契約書は作成する必要があります。

3.契約書の偽造
 立命館大学早稲田大学の教授や公認会計士・監査審査会会長を務められた千代田邦夫教授は、公認会計士資格も保有されており、旧二次試験合格後は会計士補として監査業務にも携われていました。
 その千代田教授の著作「監査論の基礎」(税務経理協会)の前書きの中に、契約書の偽造を発見したときの話が記載されています。
 千代田氏が会計士補として、ある会社の監査に行ったとき、売上の監査を行うために売買契約書の提示を求めたそうです。しかし、会社は何かと理由をつけて提示してこなかったため、おかしいなと思い何とか粘ったところ、やっと出てきたのは契約書のコピーだったそうです。そこで、千代田氏が閲覧したところ、おかしなところに気づいたといいます。何かというと、契約書のコピーは何通もあったようですが、収入印紙の消印の位置がどの契約書も同じだったのだそうです。ますます怪しいと思い、問い詰めると、ついに担当者が白状したそうです。会社が何をしたのかというと、セロファン紙の間に収入印紙を挟み込み、その上から割印を行い、これを偽造した契約書においてコピーをしたということです。
 
 なお、監査の現場では契約書類や証憑類は必ず原本を確認するようにしています。そうしないと、この話のように不正が行われても看過してしまう可能性があるからです。そのうえで監査調書にするためにコピーをとることになります。
 ちなみに、私の場合は「原本確認の上、森がコピー」と記載して原本を確認したことを記すようにしています。このようにすれば、会社がコピーしてきたものをそのまま受け取っていないということがわかるからです。
 
4.監査法人の「契約書なし」問題
 以上は、会社等と取引先との契約に関してでしたが、最後に監査法人と契約している公認会計士との契約について触れたいと思います。これは吉本興業とタレントとの契約と同じケースとなります。
 監査法人も契約している非常勤の公認会計士とは非常勤契約に係る契約書を作成する必要があります。もちろん、常勤の公認会計士とは雇用契約を締結していますから雇用契約書の作成が必要です。
 日本公認会計士協会は、監査法人に対して品質管理レビューを行っていますが、この品質管理レビューのときは、非常勤会計士と交わした契約書の有無は必ずチェックしています。そのため、通常の監査法人であれば、非常勤会計士との契約書は作成しています。
 監査法人だったら当然であろう、と思われるかもしれませんが、どうもこの業界では長い間、それこそ吉本興業のように契約書が作成されず、契約関係があいまいになっていた時期が続いていたようです。おそらく、もともと、この業界は徒弟制度が長く続いていたため、「何でそんなもの作らないといけないんだ」という感覚があったのだと思います。
 しかしながら、日本公認会計士協会による品質管理レビューで、非常勤会計士との契約書の有無はチェックするようになったため、品質管理レビューを受ける監査法人では契約書を作成するようになりました。

2019年3月3日日曜日

キャッシュレスが及ぼす経営への効果

1.ロイヤルホールディングスによる完全キャッシュレス店
 TBS系列の放送局では毎週日曜日午前7時30分から「がっちりマンデー」という番組が放送されています。平成31年2月24日(日)の放送では「視察が殺到する会社!」というタイトルで、多数の同業他社などが視察に訪れる会社を特集していました。
 その中で、東京の馬喰町(ばくろちょう)にある「ギャザリングテーブルパントリー」というお店が紹介されていました。恥ずかしなら、私も今になって初めて知ったのですが、このお店は、ロイヤルホールディングスが行った実験店舗で、完全キャッシュレス化を行ったお店ということです。
 さらに、この馬喰町のお店は完全キャッシュレスのためレジや金庫がないことに加え、ガス台もないお店であるため、どのような運営を行っているのかということで、同業他社が視察に訪れているのだそうです。
 余談ですが、私が知っている馬喰町は繊維問屋の町で、夜になると人通りが全くなくなり、車しか通っていない寂しい町という印象がありますが、最近はお洒落な店も開店しているようで昔とは変わってきているようです。

2.キャッシュレスが及ぼす効果
(1)レジ締めの時間が大幅に短縮
 番組では、キャッシュレスがどのような効果をもたらしたのかという点を紹介していましたが、番組を見て「なるほど」と思いました。
 キャッシュレス化となると、普通は、(イ)客が現金を支払わなくてよいので、多額の現金を持ち歩かなくてもよい、(ロ)小銭が増えない、(ハ)財布からお金を出す手間が省けるので支払いが早くなる、といった「客視点」のメリットしか思い浮かばないのではないかと思います。
 しかしながら、このギャザリングテーブルパントリーでは、完全キャッシュレス化により、店長はじめ全従業員の労働時間が大幅に減少したそうです。
 なぜかというと、現金がまったくないため、いわゆる「レジ締め」が一瞬で終わるからです。現金を取り扱う店舗だと、閉店後にレジデータを集計し、レジ内の現金を数えて、レジデータに基いた残額と一致しているかどうか、といった作業を行いますが、このレジ締めには時間がかかります。このとき、現金残高がデータと一致していないと、その原因を探らないといけなくなり、さらに時間がかかります。
 しかし、完全キャッシュレスの店舗では、この作業が不要となるため、レジ締めにかかる時間がほとんどなくなりました。そのため、閉店後の労働時間の大幅な削減となったということです。
 ちなみに、学生時代、あるコンビニエンスストアでアルバイトをしていた友人によると、そのコンビニエンスストアでは、実際在高が過大の場合、その過大分は店舗のものとなるのに対して、過少の場合はレジを担当していた店員が補填しないといけなかったそうです。
 
(2)釣り銭の準備、現金の持ち運び作業の消滅
 また、完全キャッシュレス化となれば、当然のことながら釣り銭はいりません。従って、金融機関から釣り銭用の現金を持ってくる必要はありません。
 さらに、現金の場合、売上金は金融機関に入金するために金融機関まで持ち運びしなければなりませんが、この作業も不要になります。
 このような作業がなくなることで労働時間の短縮につながります。

(3)スペースの確保
 番組では完全キャッシュレス化により、レジや金庫を置く必要がなくなったので、スペースの確保につながった、と紹介していました。
 確かに、レジのスペースは結構取りますし、金庫も数百キロの大金庫を置くのが通常なので、こちらもスペースをとります。
 レジのスペースがなくなれば、その分、テーブルと椅子を増加できますので稼働率が上がれば売上の増加につながります。
 なお、支払いは、電子マネーやクレジットカードの場合、店員がテーブルまでやって来てそこで支払いを行うようです。

(4)注文はセルフサービス
 ギャザリングテーブルパントリーでは、客からのオーダーも各テーブルに置いてあるタブレットを使用してセルフサービスで注文します。
 ちなみに、このタブレットを使ったセルフオーダー方式は、ギャザリングテーブルパントリーだけではなく、例えば大戸屋でも導入されています。
 この方式であれば、店員がテーブルに行って注文を聞いて厨房に伝えるという作業がなくなります。このような作業は一日何回も行うので、これがなくなれば、他の作業に時間を回せますし、人手不足の中、少ない人数でも店をまわすことが可能となります。
 さらに、平成30年7月にはLINE Payを使った「セルフテーブル決済」を導入したということです。これは「注文用タブレット端末において、お支払い方法にLINE Payを選択すれば、お客様ご自身のスマートフォンひとつでスムーズに支払いを完了することができる」(ロイヤルホールディングスのHPより)という仕組みということです。
 上記のように、電子マネーやクレジットカードの場合は、店員がテーブルまで行く必要がありますが、セルフテーブル決済の場合は、それも不要ということになります。
 なお、最近では、平成31年2月1日にQRコードで決済できる「Alipay」と「WeChat Pay」が、12日には 「PayPay」が導入されました。これらもセルフテーブル決済に使用できます。

3.まとめ
 キャッシュレス化は、顧客にとってのメリットもありますが、労働者にとって労働時間の削減といった大きなメリットがあることがわかりました。また、いろいろとウェブサイトを見てみると、労働者にとっては労働時間の削減のみならず、現金を扱うことへのプレッシャーからの開放といった精神面の安定といったメリットもあるということです。
 また、人手不足が叫ばれる中、これまでよりも少ない人員で運営できるというメリットもあります。
 こういったメリットは、現在問題となっている「働き方改革」への一つの対応策となります。
 このギャザリングテーブルパントリーは実験店ということですが、こういった効果が明らかになったため、多数の同業他社が見学に来て、その効果を自社にももたらそうと考えているのだと思います。
 キャッシュレスの促進化は最近始まったばかりですが、外食産業を始め、小売店にとっては、働き方改革のための大きなツールとなるため、働き方改革とリンクして、今後短期間で一気に普及するものと予測します。

2018年12月3日月曜日

大手電機メーカー元部長の不正発注

1.事件のあらまし
 平成30年11月27日なので少し前の話ですが、大手電機メーカーの開発部門の元部長が架空発注により4億4千万円を着服したとして逮捕されたというニュースがありました。
 もともと、平成29年に社内調査で不正が発覚し、元部長は懲戒解雇されていましたが、警視庁が捜査し逮捕に至ったものです。

 具体的な手口は、会社のページによると、この元部長が「取引先の当時取締役の協力を得て」、約8年間、「正規の取引を装って、試作品等の不正発注を繰り返し」たということです。これにより、元部長は「代金を自らに還流させ私的に流用した」ということです。
 会社のページでは「不正発注」と記載されており、マスコミでは「架空発注」と記載されています。こちらでは真実を知ることはできませんが、今回は「架空発注」ということで進めたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.架空取引を防止するための内部統制
 以前、「架空取引に係る内部統制」というタイトルで架空取引を防止するための内部統制を説明しました。
 このときも、同様に架空取引による事件が発生していました。
 大手電機メーカーなので、内部統制のデザイン(仕組み)はできていたのだと思いますが、このような架空取引の発生はよく発生します。ニュースにならない不正も世の中にはかなりあるのかもしれません。

 架空取引や水増し取引を防止するためには、

 ①発注者と発注担当者は別の人にする
 ②納品時の検収担当者は発注者とは別の人にする。
 ③支払いの担当者は、発注者や検収担当者とは別の人にする。
 ④支払い担当者は、発注書、納品書、請求書を照合する。
 
 という内部統制の仕組みを構築することが効果的ですが、大手電機メーカーであれば、このような仕組みは設けていると思います。
 今回、特徴的なのは「試供品等」を発注したという点です。色々なケースがあると思いますが、試供品となると、おそらく複数の会社の試供品を購入して、比較検討するでしょうから、相見積もりは行っていないと思います。そうなると、取引先が設定した価額で購入することになります。とはいえ、これはしょうがないと思います。
 
 ただ、それでも検収を発注依頼者とは別の人にして納品書に押印し、支払担当者は発注書、納品書、請求書を照合すれば、8年間という長期間の架空発注などの不正は防止できるのでは、と思うのですが、残念ながらそうはなりませんでした。
 今回は、開発部門ということのようなので、開発部門の中の内部統制に不備があったのかもしれません。

 架空取引の場合、相手先の協力があることが多く、実際、今回も取引先の取締役の協力があったということですが、考えられる可能性としては、このようなものかもしれません。

①取引先の取締役が、架空の納品書を元部長宛に送る。
②その納品書に元部長が、検収担当者の検収印を不正に使用し、押印する。
③開発部門から、発注書と納品書が支払担当者に送られる。
④取引先の取締役が架空の請求書を会社に送る。
⑤支払担当者は、照合するものの不正に気づかずに支払をしてしまう。

 仮に、上記の場合だと、検収印を不正に使用させないことが重要です。
 実際に、従業員の個人の印鑑が無断で使用され、不正に利用されたというケースがあります。従って、印鑑の管理は非常に重要です。
 
 他にももっと巧妙な手段もあるのだと思いますが、今回はここまでとします。



 
 


2018年10月14日日曜日

経営難の病院を乗っ取る手口(1)

1.医療法人のハコ化
 最近、産経新聞に平成30年10月9日付で「「医療・福祉」の倒産最多 経営難、暴力団つけ込む 年間見込み」という記事が掲載されました。
 
 まず、記事の冒頭部分を引用します。

「医療⾏為などの診療報酬を主要な収⼊源とする「医療・福祉事業」の1〜8⽉の倒産件数が前年同期⽐40件増の196件に上り、年間件数が過去最多を更新する⾒込みであることが9⽇、⺠間信⽤調査会社「東京商⼯リサーチ」(東京)の調査で分かった。病院・医院の倒産に加え、⾝売りも続発。経営難につけ込んだ暴⼒団やブローカーらが、医療機関の診療報酬請求権を売買するなど暗躍している。

 赤文字ゴシックは私によるものですが、経営難に陥った医療法人等に対して、反社会的勢力がつけ込んでいることが記載されています。この記事では、その後、その乗っ取りの手口が具体的に記載されています。

2.資金繰りの悪化が招くハコ企業への転落
 以前、このブログでは「経営者による内部統制の無効化とハコ企業」というタイトルでブログを記載しました。
 このブログでは、資金繰りが悪化したときは内部統制の無効化が発生しやすくなり、その結果、「ハコ企業」に陥りやすくなることから、資金繰りは絶対に悪化させないようにする必要がある、という趣旨の文章を記載しました。
 資金繰りが悪化した上場企業の中には、この過程を通じてハコ企業になってしまったところも少なくないのですが、この点は医療法人、社会福祉法人、公益法人も注意する必要があるということも記載しました。理由は、こういった非営利法人は内部統制が脆弱であるためです。例えば、理事会や監事などのガバナンスも弱いため、外部の人間に簡単につけ込まれやすい傾向があるためです。

3.経営悪化の原因
 医療法人などの医療・福祉関係事業者の一部が経営難に陥り、資金繰りが悪化している理由はいろいろとありますが、記事にも記載されているように国家財政の悪化によって、診療報酬が抑制傾向にあることが原因の一つです。
 診療報酬は、公定価格なので自分で価格を決定することができません。一方で我が国の財政は悪化していますから保険による診療報酬の支払は極力少なくしたいところです。そのため、同じ医療業務を行っても、売上が段々と少なくなり、コスト削減に失敗してしまうと資金繰りが苦しくなっていくという図式です。
 このように、資金繰りが悪化すると、経営を続けていくことが苦しくなります。そうなると、冒頭に記載したように、資金の援助をちらつかせる外部の人間につけ込まれ、内部統制の無効化が次々と発生し、ハコ企業に陥ることになります。

4.診療報酬請求権の売却
 乗っ取りと利益を得る手口についても産経新聞の記事に記載されています。
 要約すると、

①理事長の権限が強いワンマン経営の病院に、トップの信頼を得て経営中枢に入り込む
②診療報酬請求権を売却して運転資金を工面するという提案を承諾させ、実際に金融機関に診療報酬請求権を売却する
③さらに金融機関からその診療報酬請求権を入手する
④ブローカーに診療報酬請求権を高値で売却する

 ということです。

 なお、この診療報酬請求権の売却ですが、これ自体は問題はありません。いわゆるファクタリングです。健全な法人でも、資金繰りをよくするためファクタリングを行っているところもあります。

 ファクタリングの会計処理は概ね以下のとおりです。

【仕訳例】
(1)売掛金1,000を金融機関に譲渡する

 (借方)未収金 1,000 (貸方)売掛金 1,000

(2)金融機関から950の入金があった。

 (借方)現金預金 950 (貸方)未収金 1,000
     支払手数料 50

 なお、支払手数料は非課税取引となりますので課税仕入にしないように注意する必要があります。

 今回はここまでとします。
 次回は診療報酬請求権が売却される背景について説明します。

2018年9月29日土曜日

平成30年度民間社会福祉施設長研修会で使用したレジュメについて

 平成30年8月7日にキャンパスプラザ京都で開催された「平成30年度民間社会福祉施設長研修会」で使用した資料が京都府の平成30年度民間社会福祉施設長研修会 会議資料というページに掲載されています。

 私のレジュメは「資料3」として掲載されています。
 京都府による指導監査の重点ポイントが記載された資料も掲載されています。

 「社会福祉法人会計でのチェックポイント」というタイトルですが、内容は内部統制です。もともと京都府がこのタイトルを「仮題」として設定されていたのですが、そのまま使用しました。 

 参考としていただけますと幸いです。 


2018年4月5日木曜日

平安監査法人バリューアップセミナー開催のお知らせ

【お知らせ】
 平成30年6月6日(水)に、平安監査法人バリューアップセミナーを開催することになりましたのでお知らせいたします。先日4月の開催とお知らせしましたが変更となりました。ご了承ください。

 会場は、京都のヒロセビル1階(京都市中京区烏丸通二条下ル秋野々町529番地)です。地下鉄烏丸御池駅より北へ約5分です。マンガミュージアムより少し北側です。
 13時より受付開始です。

 私は第1部で「従業員不正を防止するために構築すべき内部統制」を担当します。
 第2部は「2018年税制改正後の事業承継成功のシナリオ」です。こちらは事業承継についてです。

 当日のセミナーでは、実際に起った不正事例をあげながら、その不正が起こった原因とそれを防止するための内部統制について具体的にお話したいと思います。
 
 皆様のご参加をお待ちしております。
 よろしくお願いいたします。



2018年2月27日火曜日

架空取引に係る内部統制

1.はじめに
 2月に入って、東証1部上場企業2社で役員と従業員の不正事例がありました。
 社名は伏せますが、東証の業種区分では1社はサービス業(以下A社)、もう1社は電気機器に分類される会社(以下B社)です。
 もちろん、内部のことはわかりませんので、あくまで外からの視点であり、推測の部分があることをお断りしておきます。また、本稿は私見であることにご留意ください。

2.両社の不正事例
 A社はサービス業ですが、A社のIRによると、出版事業部担当の取締役が取引先と結託し、A社に対して架空請求や水増し請求を行い、キックバックや不適切な利益供与を受けている疑いが強まったということです。これは内部通報により発覚したということです。
 一方、B社は、報道によると、工場で経理を担当していた従業員が務していた工場や事業所で、支払いに必要な書類を偽造し、自分で開設した架空口座に送金していたということです。こちらも、工場の同僚が不自然な取り引きに気付き、不正が発覚したということです。

3.架空取引による不正
 物品の購入や経費の支払いにおいて、実際に行っていない取引を、証憑類の偽造などにより、あたかも取引を行ったように装い、会社の現金預金を引き出し、自分の口座に入金するという手口は、昔から行われている典型的な不正の手口です。架空仕入、架空請求などいろいろな呼び方がありますが、本稿では架空取引と称します。
 以前、私が担当した弊社のセミナーで、「社会福祉法人が構築すべき内部統制」というタイトルで、社会福祉法人の不正事例を紹介したことがあります。架空取引による着服もいくつか紹介しましたが、発注から支払いまでを一人で行っているケースが多く見られました。
 発注から支払いを一人で行うと、不正の発生の可能性が非常に高くなります。そのため、購買取引についての内部統制の整備・運用が必要となります。

4.購買取引に係る内部統制
 購買取引に係る不正を防止するための内部統制のポイントを簡単に書くと次のとおりです。
 ①発注者と発注担当者は別の人にする
 ②納品時の検収担当者は発注者とは別の人にする。
 ③支払いの担当者は、発注者や検収担当者とは別の人にする。
 ④支払い担当者は、発注書、納品書、請求書を照合する。

 他にも内部統制のポイントはありますが、とりあえず上記をまず記載します。この中でも②は重要といえます。発注担当者が検収も行ってしまうと、架空仕入や横流しなども可能となってしまうからです。
 例えば、商品100個を注文したということにして、架空の発注を行い、さらに偽の納品書を作成して100個納品されたということにします。納品書には納品を確認した旨の検収印も押印します。そして、さらに偽の請求書を発行し、発注書、納品書、請求書を支払い担当に回します。支払い担当者は、発注に基づいて正しく納品されたと思ってしまい、請求書に基づいて、架空口座に入金してしまう、というわけです。
   ただし、不正の場合、かなり巧妙な手口があるので、A社とB社の事例も外から見るだけでは、何とも言えません。また、サービス提供の場合、サービスを受けたかどうかの確認が難しいケースもあります。
 さらに、内部統制は複数の担当者の共謀によって有効に機能しなくなるという弱点もあります。すなわち、絶対的なものではないということです。
 そのため、A社、B社も購買取引にかかる内部統制は存在していたのだとは思いますが、もしかしたら不備があったのかもしれませんし、内部統制の弱点が出てしまったのかもしれません。

5.内部通報制度
 今回のケースは、A社のケースは内部通報制度により発覚し、B社の場合は、工場の同僚が不自然な取引に気づき、社内調査が行われて発覚したということです。
 内部通報制度は内部統制の一つです。構築した内部統制を巧妙にくぐり抜けるケースもありますが、内部通報制度により内部統制の弱点を補えることもあります。
 最近は、社会福祉法人や公益法人を見ることが多いのですが、内部通報制度を設けられていない法人が多く見られます。内部通報制度は、内部統制を強化する仕組みといえますので、内部通報制度を設けることが期待されます。
 方法としては、例えば、顧問契約をしている法律事務所にホットラインを設けるという方法が考えられます。このようにすれば、従業員が安心して通報できるからです。会社内部の人間に通報する仕組みだと握りつぶされる恐れがありますし、従業員も消極的になりますので、外部に情報提供できる仕組みのほうがよいと考えられます。特に従業員数の少ない組織では外部窓口は有効と考えられます。

2017年12月25日月曜日

子会社の管理と統制環境

1.子会社の成り立ちによる分類
 現在は、上場企業はもちろん、非上場の中堅・中小企業クラスの会社も子会社を所有することは珍しくなくなりました。特に、グローバル化が進み、海外の子会社を所有することも珍しくありません。
 この子会社ですが、その成り立ちについて大きく分類すると以下の2つのケースがあります。

①親会社の一部門を分社化して設立されたケース
②親会社とは全く関係のない会社を買収して子会社化したケース

 これらのケースによって、その会社の組織風土は変わってきます。また、組織風土は内部統制の一要素である統制環境にも影響を与えます。
 近年、国内子会社や海外の子会社での会計上の不正事例がよく見られますが、これは概ね、親会社を含むグループ全体の内部統制に不備があったために発生したものといえます。この内部統制の不備は複合的な要因によって生じるものですが、子会社の場合、子会社の成り立ちが内部統制、とりわけ統制環境に影響を与えていることがあります。
 今回は、上記分類と統制環境の関係性について記載します。

2.統制環境
 ここで、統制環境という概念ですが、これは内部統制の基本的要素の一つであり、内部統制全体に影響を及ぼすものなので、非常に重要な要素となります。
 
 この統制環境については、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」のⅠ2(1)では、以下のように定義されています。

 「統制環境とは、組織の気風を決定し、組織内のすべての者の統制に対する意識に影響を与えるとともに、他の基本的要素の基礎をなし、リスクの評価と対応、 統制活動、情報と伝達、モニタリング及びITへの対応に影響を及ぼす基盤をいう。」

 とされています。
 そして、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」Ⅰ2(1)では、「組織の気風」として

「組織の気風とは、一般に当該組織に見られる意識やそれに基づく行動、及び当該組織に 固有の強みや特徴をいう。組織の気風は、組織の最高責任者の意向や姿勢を反映したものとなることが多い。組織が保有する価値基準や基本的な制度等は、組織独自の意識や行動を規定し、組織内の者の内部統制に対する考え方に影響を与える。」

 とされています。

 また、統制環境の例としては、以下のものがあります。 
 ① 誠実性及び倫理観
 ② 経営者の意向及び姿勢
 ③ 経営方針及び経営戦略
 ④ 取締役会及び監査役又は監査委員会の有する機能
 ⑤ 組織構造及び慣行
 ⑥ 権限及び職責
 ⑦ 人的資源に対する方針と管理

 なお、財務諸表監査上、統制環境を評価する上でもっとも重要なのは、ガバナンスが効いているか、具体的には、取締役会による監督や監査役会などによる監査が機能しているか、といった点です。

3.親会社の一部門を分社化して設立された子会社
 次に、子会社の成り立ちについてですが、親会社の一部門を分社化して設立された子会社について見てみます。
 親会社の一部門を分社化した場合は、子会社のトップや役員、従業員は親会社の人員が移籍することになります。そのため、その子会社は、親会社の組織風土や組織文化が引き継がれます。従って、統制環境の面でも、上記のような、経営者の意向及び姿勢、組織構造及び慣行といったいろいろな面が子会社に引き継がれます。
 このように見ていくと、概ね、親会社から分社化した子会社の統制環境は親会社に近いものとなっていることが多いです。もちろん、絶対的なものではないので、子会社の統制環境は独自に評価する必要があります。
 そうなると、親会社の統制環境がしっかりしていれば、どちらかというと、こういった子会社の統制環境もしっかりしている傾向があります。逆に、親会社の統制環境に問題があると、子会社の統制環境にも何らかの不備が出てくる可能性が高くなります。
 もちろん、こういった子会社も次第にプロパー社員も増えてくるのですが、組織とは不思議なもので、新しい人が毎年入社して、人員が入れ替わっていっても、組織のマインドは引き継がれるものです。特に日本の場合、現在も年功序列制は存在しますので、役員クラスは長年勤務してきた人が多くなります。そのため、親会社が持つ組織の気風が子会社にも長く根付く傾向があります。

4.親会社とは全く関係のない会社を買収して子会社化したケース
 一方、子会社の中には親会社とは全く関係のない会社を買収して子会社化したものもあります。
 このようなケースでは、その子会社の統制環境と親会社の統制環境は異なってきます。少なくとも、買収時点では全く異なっています。
 この場合、その子会社に対して、親会社が、統制環境の整備にどれぐらい力を入れているかが重要となります。これは、一朝一夕ではできませんので、それなりの年月がかかります。親会社の内部統制がしっかりしていても、子会社の統制環境に親会社の統制環境が反映されていないと、子会社での会計不正が生ずるリスクも高くなります。
 ここでは、このようなケースの子会社の統制環境の評価方法を考えてみます。

①買収してからの年数
 内部統制は人間によって動くものですから、人間の意識と行動を変えることが重要です。しかしながら、親会社が子会社の統制環境の整備に力を入れても、長年その会社で過ごしてきた人のマインドをドラスティックに変えることは非常に難しいものです。そうなると、意識改革にはそれなりの時間がかかります。
 少なくとも買収直後の子会社の場合、親会社の統制環境の影響は受けていないといえます。そのため、買収してからどれぐらいの年数が経過しているかという点は、統制環境の評価の一つの基準となります。あまり年数が経過していない場合、親会社が統制環境の整備に力を入れていても、その浸透度は浅い可能性があります。

②分権度
 子会社を買収した場合、権力と責任の移譲において、その子会社に権力と責任を大きく与えるか、それとも親会社のコントロール化に置いてあまり独立した権力と責任は持たせないようにするか、の2種類があります。いってみれば、分権的なグループか集権的なグループ化というものです。
 そのため、その子会社が分権度が高い会社なのか、それともそうではない会社なのかを判定することは一つの判断基準となります。
 買収したケースで、なおかつ分権度が高い子会社は、親会社の統制環境の影響を受けていない可能性が高いです。また、こういった子会社は、創立時からの風土や文化がそのまま受け継がれてきており、役員や従業員のマインドはほとんど変わっていないことが多いです。
 経験的に言うと、特に海外子会社の場合、この傾向が高いように見受けられます。すなわち、日本の会社が海外の会社を買収して子会社にした場合、その会社の役員や従業員はほとんどそのままで、会社の意思決定もこれまで通り、その会社に任せるという方式です。理由としては色々ありますが、例えば、以下のものが考えられます。

①現地のことは現地の人がよく知っているので現地人に任せるほうがよい
②分権化するほうが意思決定が早い
③日本人が関与すると現地人に反発されるおそれがあるので刺激しないで仲良く行うほうがよい
④現地に関与しようと思っても、現地の言語を読み書きできる日本人がおらず、さらに現地子会社にも日本語ができる人がいない。英語ができればまだよいが、英語もできない。(特に新興国)

 他にもあると思いますが、このような理由によって海外子会社を現地任せにするケースは多く見られます。特にM&Aは他社に情報が漏れないように短期間で行う傾向にあるため、相手がどのような会社なのかしっかりと把握できないまま子会社とすることもよくあります。また、M&A仲介会社などに任せたため、会社内容をしっかりと把握できなかったケースもよく見られます。
 
 このように、買収したケースで、なおかつ分権度が高い子会社の場合、親会社の統制環境や内部統制の仕組みそのものも影響を受けていないため、親会社では想定していなかった経営者不正や従業員不正が発生するリスクがあります。

③役員等の派遣とリーダーシップ
 親会社から役員や重要度の高い従業員をどの程度派遣しているかという点も判断基準となります。
 出向により、その子会社に常駐していれば、ある程度親会社の統制環境が子会社にも影響する可能性はあります。もっとも、これもその役員のリーダーシップによりけりで、強力なリーダーシップを持った役員だと、親会社の統制環境が子会社にも浸透するのですが、リーダーシップが弱い役員だと、その子会社のプロパー職員に押し切られてしまう可能性があります。
 従って、リーダーシップの強弱も判断のひとつになるでしょう。

5.最後に
 近年、国内子会社や海外子会社の会計不正がよく見られます。あくまで私見ですが、子会社の管理はその会社のプロパーや現地人に任せきりではダメです。親会社は強力なリーダーシップを発揮して、その子会社の統制環境を完全に変えるくらいの行動が必要です。内部統制については、最初は反発を食らうのが通常ですが、そこで折れては達成できません。嫌われてもよいので何度も同じことを繰り返し伝えることです。
 以上、参考としていただけますと幸いです。

2017年7月30日日曜日

実質的な貸付金

 貸付金とは、他の法人や個人に金銭を融資することです。
 この貸付金は当然のことながら、貸付金勘定で処理します。
 しかしながら、時々、貸付金勘定以外の科目で会計処理されている時もあります。これは意図的に貸付金勘定以外の科目で処理して隠蔽しようとするケースもあれば、隠蔽しようとする意図はまったくなく、監査人の判断で事実上の貸付金であると判断されるケースもあります。
 今回は、貸付金勘定以外で処理されている実質的な貸付金について記載します。

1.立替金で処理されているケース
 貸付金勘定以外の科目で処理されやすい科目としては、まず立替金があります。
 立替金でよく見られるのは、例えば、社長などの役員等が負担すべき費用を会社が一時的に支払うケースです。その後、役員が会社に相当のお金を支払えば、本来の勘定に振り替えます。
 頻度が僅かであり、金額も少額で、立替期間が短く、最終的に費用になれば会計上は無茶苦茶大きな問題はないのですが(ただし、その立替行為が妥当なのかどうかという内部統制上の問題は検討する必要があります。また、役員等であれば会社が関連当事者取引として認識しているかどうかも確かめる必要があります。)、この立替金が長期間、精算されず立替金のままで残っている場合は、役員等に対する実質的な貸付金と判断すべきです。
 もちろん、これが対会社であっても同様です。

 この立替金は貸付金に科目を振り替えていただき、さらに債権の区分(一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等)により、妥当な貸倒引当金を設定する必要があります。

2.仮払金で処理されているケース
 仮払金のケースは注意が必要です。この場合は、意図的に行っている可能性が高いといえます。
 そもそも、内容が不明であったり、未定であったりする取引を行うこと自体に問題があります。仮払金で処理しても妥当な取引は、例えば、受取利息の源泉所得税、旅費交通費の仮払、消費税等の中間納付ぐらいでしょうか。

 そのため、仮払金が期末に残ると問題があるという認識は多くの会社等で認識されており、期末に多額の仮払金が計上されるケースは少ないといえます。従って、仮払金は期末残高の前期比較ではなく、期中の動きを見る必要があります。
 具体的には、総勘定元帳の閲覧により期中の仮払金の出入りを見ます。このとき、多額の仮払金が出たり入っていたりするような場合は異常な取引である可能性があります。
 考えられるケースとしては、例えば、社内の融資基準に満たないような相手先に、ある部門が会社には隠して他社に融資している、社内の人間が自分の口座に入れて着服している、といったケースが想定されます。
 もちろん、支出したままでは残高が残ってしまいますから、期末が近づいたら一時的に返金してもらうわけです。

 このようなケースも実質的な貸付金ですが、一時的とはいえ返金はされているので、期末残高としては残りません。
 このような場合の対処法としては、こういった取引をやめていただくことです。

 なお、仮払金の期中の動きをみるという手続は、監査人の側だけではなく、会社等の内部統制の一環としても有効です。

3.土地や商品で処理されているケース
 最後に、特殊なケースをあげてみます。タイトルに土地、商品をあげましたがあくまでも一例です。

 マスコミ報道で見た事例をあげてみます。仮にA社とします。このA社は保有する土地を担保に金融機関から融資を受けていましたが、返済が滞ったため土地を競売にかけられたそうです。この土地は、とある不動産会社が落札したのですが、その不動産会社の役員は、このA社の創業家が別に経営する会社の役員だったそうです。なお、この不動産会社は競売の2日前に設立されたということです。
 そして、競売後、このA社は落札価額の3倍以上の額で土地を買い戻したそうです。さらに、この土地の売買後、不動産会社は創業家に1億円を貸し付けたということです。
 
 記事だけなのでなんとも言えないのですが、これだけから見ると、このA社のお金が不動産会社(おそらく実質的にペーパーカンパニーではないかと推測されます)をスルーして、創業家にまわったといえそうです。

 この場合の会計処理ですが、A社側の仕訳は

(借方)土地 ・・・ (貸方)現金預金 ・・・
 
 で通常は完結することになります。

 しかし、私見ですが、この土地の価額は落札価額の3倍以上であり、しかも、その差額分が最終的に創業家に渡ったのであれば、おそらく、当初から創業者に渡す目的で行われたと推測されますので、差額分は創業家に対する実質的な貸付金と見ることもできます。すなわち、土地の金額の一部は貸付金に振り替えるということです。
 
 このような相場よりも異常な価額で取引されるケースは関連当事者取引で時々見られます。商品などについても、市場より随分と高い価格で取引されたケースを監査で見たことがあります。
 関連当事者取引については、一定の金額以上の取引については注記で開示する必要があり、これにより、異常な取引を行うことを牽制していますが、それでも異常な取引は行われることがあります。

 通常の相場よりもかけ離れた価額で取引された場合、少なくとも取引内容や取引理由をチェックし、その差額分がどこに流れていったのかを確かめる必要があります。
 全てのケースでその差額が実質的な貸付金であるとは言い切れませんが、検討をする必要はあるといえるでしょう。

2017年6月18日日曜日

小口現金に関する内部統制

 今回は、小口現金に関する内部統制について記載します。
 公益法人や社会福祉法人においては、財務報告に係る内部統制が十分ではないところもあり、職員による横領などが発生することもあります。
 内部統制には、整備(デザインと業務への適用)と運用(デザインどおりに適切に運用されているかなど)がありますが、整備のうちデザインが不十分であったり、そもそも内部統制そのものが存在しないというケースもあったりします。
 内部統制の構築は何かと時間と手間がかかりますが、これにより例えば、職員や役員による横領などの不正を防止できる可能性が高まります。
 以下、内部統制の不備の例をあげながら、その対処法を記載します。

1.小口現金の担当者と会計担当者が同じ人である
 小口現金担当者と会計担当者が同じ人である場合、その人が小口現金を横領していてもなかなかその横領の事実が発覚しないという恐れがあります。
 例えば、Aさんが小口現金から1,000円をふところに入れたとします。実際の小口現金残高は1,000円少なくなります。しかし、現金出納帳の金額は、このままだと実際残高よりも1,000円多くなります。そこで、Aさんは、例えば「雑費」として1,000円支出したということにして現金出納帳に記載します。そうすると、実際残高と帳簿残高が一致してしまいます。
 このようになると、つじつまがあってしまうので、横領があっても発覚しなくなる可能性があります。
 そのため、小口現金の担当者と会計担当者は必ず別の人にする必要があります。

2.小口現金の担当者と営業担当者や購買担当者などが同じ人である
 この場合、例えば、営業担当者が契約書作成のために収入印紙が必要だ、として必要以上の収入印紙を購入し、必要額以外の印紙を金券ショップで換金するというケースが想定されます。
 そのため、小口現金の担当者と現金を扱う担当者は別にする必要があります。
 また、収入印紙、切手、回数券といった換金性があるものは、受払簿を作成し、毎月、棚卸を行う必要があります。

3.小口現金担当者が長期間同じ人である
 小口現金担当者が長期間同じ人だと、不正がなかなか発覚しなかったり、発覚が遅くなったりする恐れがあります。そこで、現金を扱う担当者は定期的に人事異動を行い、長期間、同じ人に行わせないようにする必要があります。
 もっとも、小規模なところでは人数の関係で、このような人事異動が困難なところもあるかと思います。その場合は、強制的に休暇をとらせて、その期間は別の人が業務を担当するという方法が考えられます。なお、これらの方法は金融機関でよく見られる方策です。

4.実査を毎日行っていない
 小口現金は、毎日、実査を行う必要があります。意外にも公益法人や社会福祉法人では毎日の実査が行われていない法人が見受けられます。
 また、実査を行うときは金種表を作成する必要があります。さらに、作成した金種表は上席の承認を受ける必要があります。
 小口現金出納帳についても、実査の結果と帳簿残高の一致を確認し、上席が承認印を押印する必要があります。
 実査を毎日行うことで、誤謬や不正が早く発見できるなどの効果があります。
 なお、上席が抜き打ちで実際残高と帳簿残高を照合するという方法もあります。

 以上、不備の例をあげましたが、これらはあくまで一部であり、他にも不備の例はあります。
 次回は、預金に関する内部統制について記載します。