2017年12月25日月曜日

子会社の管理と統制環境

1.子会社の成り立ちによる分類
 現在は、上場企業はもちろん、非上場の中堅・中小企業クラスの会社も子会社を所有することは珍しくなくなりました。特に、グローバル化が進み、海外の子会社を所有することも珍しくありません。
 この子会社ですが、その成り立ちについて大きく分類すると以下の2つのケースがあります。

①親会社の一部門を分社化して設立されたケース
②親会社とは全く関係のない会社を買収して子会社化したケース

 これらのケースによって、その会社の組織風土は変わってきます。また、組織風土は内部統制の一要素である統制環境にも影響を与えます。
 近年、国内子会社や海外の子会社での会計上の不正事例がよく見られますが、これは概ね、親会社を含むグループ全体の内部統制に不備があったために発生したものといえます。この内部統制の不備は複合的な要因によって生じるものですが、子会社の場合、子会社の成り立ちが内部統制、とりわけ統制環境に影響を与えていることがあります。
 今回は、上記分類と統制環境の関係性について記載します。

2.統制環境
 ここで、統制環境という概念ですが、これは内部統制の基本的要素の一つであり、内部統制全体に影響を及ぼすものなので、非常に重要な要素となります。
 
 この統制環境については、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」のⅠ2(1)では、以下のように定義されています。

 「統制環境とは、組織の気風を決定し、組織内のすべての者の統制に対する意識に影響を与えるとともに、他の基本的要素の基礎をなし、リスクの評価と対応、 統制活動、情報と伝達、モニタリング及びITへの対応に影響を及ぼす基盤をいう。」

 とされています。
 そして、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」Ⅰ2(1)では、「組織の気風」として

「組織の気風とは、一般に当該組織に見られる意識やそれに基づく行動、及び当該組織に 固有の強みや特徴をいう。組織の気風は、組織の最高責任者の意向や姿勢を反映したものとなることが多い。組織が保有する価値基準や基本的な制度等は、組織独自の意識や行動を規定し、組織内の者の内部統制に対する考え方に影響を与える。」

 とされています。

 また、統制環境の例としては、以下のものがあります。 
 ① 誠実性及び倫理観
 ② 経営者の意向及び姿勢
 ③ 経営方針及び経営戦略
 ④ 取締役会及び監査役又は監査委員会の有する機能
 ⑤ 組織構造及び慣行
 ⑥ 権限及び職責
 ⑦ 人的資源に対する方針と管理

 なお、財務諸表監査上、統制環境を評価する上でもっとも重要なのは、ガバナンスが効いているか、具体的には、取締役会による監督や監査役会などによる監査が機能しているか、といった点です。

3.親会社の一部門を分社化して設立された子会社
 次に、子会社の成り立ちについてですが、親会社の一部門を分社化して設立された子会社について見てみます。
 親会社の一部門を分社化した場合は、子会社のトップや役員、従業員は親会社の人員が移籍することになります。そのため、その子会社は、親会社の組織風土や組織文化が引き継がれます。従って、統制環境の面でも、上記のような、経営者の意向及び姿勢、組織構造及び慣行といったいろいろな面が子会社に引き継がれます。
 このように見ていくと、概ね、親会社から分社化した子会社の統制環境は親会社に近いものとなっていることが多いです。もちろん、絶対的なものではないので、子会社の統制環境は独自に評価する必要があります。
 そうなると、親会社の統制環境がしっかりしていれば、どちらかというと、こういった子会社の統制環境もしっかりしている傾向があります。逆に、親会社の統制環境に問題があると、子会社の統制環境にも何らかの不備が出てくる可能性が高くなります。
 もちろん、こういった子会社も次第にプロパー社員も増えてくるのですが、組織とは不思議なもので、新しい人が毎年入社して、人員が入れ替わっていっても、組織のマインドは引き継がれるものです。特に日本の場合、現在も年功序列制は存在しますので、役員クラスは長年勤務してきた人が多くなります。そのため、親会社が持つ組織の気風が子会社にも長く根付く傾向があります。

4.親会社とは全く関係のない会社を買収して子会社化したケース
 一方、子会社の中には親会社とは全く関係のない会社を買収して子会社化したものもあります。
 このようなケースでは、その子会社の統制環境と親会社の統制環境は異なってきます。少なくとも、買収時点では全く異なっています。
 この場合、その子会社に対して、親会社が、統制環境の整備にどれぐらい力を入れているかが重要となります。これは、一朝一夕ではできませんので、それなりの年月がかかります。親会社の内部統制がしっかりしていても、子会社の統制環境に親会社の統制環境が反映されていないと、子会社での会計不正が生ずるリスクも高くなります。
 ここでは、このようなケースの子会社の統制環境の評価方法を考えてみます。

①買収してからの年数
 内部統制は人間によって動くものですから、人間の意識と行動を変えることが重要です。しかしながら、親会社が子会社の統制環境の整備に力を入れても、長年その会社で過ごしてきた人のマインドをドラスティックに変えることは非常に難しいものです。そうなると、意識改革にはそれなりの時間がかかります。
 少なくとも買収直後の子会社の場合、親会社の統制環境の影響は受けていないといえます。そのため、買収してからどれぐらいの年数が経過しているかという点は、統制環境の評価の一つの基準となります。あまり年数が経過していない場合、親会社が統制環境の整備に力を入れていても、その浸透度は浅い可能性があります。

②分権度
 子会社を買収した場合、権力と責任の移譲において、その子会社に権力と責任を大きく与えるか、それとも親会社のコントロール化に置いてあまり独立した権力と責任は持たせないようにするか、の2種類があります。いってみれば、分権的なグループか集権的なグループ化というものです。
 そのため、その子会社が分権度が高い会社なのか、それともそうではない会社なのかを判定することは一つの判断基準となります。
 買収したケースで、なおかつ分権度が高い子会社は、親会社の統制環境の影響を受けていない可能性が高いです。また、こういった子会社は、創立時からの風土や文化がそのまま受け継がれてきており、役員や従業員のマインドはほとんど変わっていないことが多いです。
 経験的に言うと、特に海外子会社の場合、この傾向が高いように見受けられます。すなわち、日本の会社が海外の会社を買収して子会社にした場合、その会社の役員や従業員はほとんどそのままで、会社の意思決定もこれまで通り、その会社に任せるという方式です。理由としては色々ありますが、例えば、以下のものが考えられます。

①現地のことは現地の人がよく知っているので現地人に任せるほうがよい
②分権化するほうが意思決定が早い
③日本人が関与すると現地人に反発されるおそれがあるので刺激しないで仲良く行うほうがよい
④現地に関与しようと思っても、現地の言語を読み書きできる日本人がおらず、さらに現地子会社にも日本語ができる人がいない。英語ができればまだよいが、英語もできない。(特に新興国)

 他にもあると思いますが、このような理由によって海外子会社を現地任せにするケースは多く見られます。特にM&Aは他社に情報が漏れないように短期間で行う傾向にあるため、相手がどのような会社なのかしっかりと把握できないまま子会社とすることもよくあります。また、M&A仲介会社などに任せたため、会社内容をしっかりと把握できなかったケースもよく見られます。
 
 このように、買収したケースで、なおかつ分権度が高い子会社の場合、親会社の統制環境や内部統制の仕組みそのものも影響を受けていないため、親会社では想定していなかった経営者不正や従業員不正が発生するリスクがあります。

③役員等の派遣とリーダーシップ
 親会社から役員や重要度の高い従業員をどの程度派遣しているかという点も判断基準となります。
 出向により、その子会社に常駐していれば、ある程度親会社の統制環境が子会社にも影響する可能性はあります。もっとも、これもその役員のリーダーシップによりけりで、強力なリーダーシップを持った役員だと、親会社の統制環境が子会社にも浸透するのですが、リーダーシップが弱い役員だと、その子会社のプロパー職員に押し切られてしまう可能性があります。
 従って、リーダーシップの強弱も判断のひとつになるでしょう。

5.最後に
 近年、国内子会社や海外子会社の会計不正がよく見られます。あくまで私見ですが、子会社の管理はその会社のプロパーや現地人に任せきりではダメです。親会社は強力なリーダーシップを発揮して、その子会社の統制環境を完全に変えるくらいの行動が必要です。内部統制については、最初は反発を食らうのが通常ですが、そこで折れては達成できません。嫌われてもよいので何度も同じことを繰り返し伝えることです。
 以上、参考としていただけますと幸いです。

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