2017年12月19日火曜日

租税特別措置法第40条~定款変更を行った社会福祉法人の留意点

1.新定款の作成
 平成29年4月1日より新しい社会福祉法人制度が始まりました。この新制度の施行にあたり、定款も施行日までに変更して所轄庁の認可を受けなければならないとされたため(社会福祉法(以下「法」)附則7条)、全ての社会福祉法人は厚生労働省や所轄庁が提示した「定款例」に基づいて必要な事項の変更を行いました。
 法令上は、施行日までに所轄庁の認可を受けなければならないとされていましたが、3月末ギリギリの提出だと間に合わないおそれがあることから、所轄庁によっては、かなり早い時期の提出を求めていました。平成28年12月中に提出を求めていた所轄庁もあったと記憶しています。

2.租税特別措置法第40条
 しかし、その間、極めて重大な問題が発生しました。
 実は、厚生労働省や所轄庁が示した「定款例」では、租税特別措置法第40条の基準を満たしていないのではないか、というのです。そのため、一部所轄庁では、租税特別措置法第40条の基準を満たす定款例も示し始めました。
 ちなみに、この租税特別措置法第40条の規定とは、譲渡所得に関する特例です。すなわち、個人が法人に対して財産を贈与又は遺贈した場合は、原則として時価で譲渡したとみて、財産を贈与又は遺贈した個人に対して譲渡所得が生じて所得税が課されますが、租税特別措置法40条に定める要件を満たした場合、国税庁の承認を得れば非課税となるというものです。その適用要件の一つに、一定の要件を満たした定款の作成があります。以下に示す事業計画及び収支予算については評議員会の承認を受けることを定款で定める」というのもその要件の一つです。
 しかしながら、この租税特別措置法第40条は、一度要件を満たさなくなったら、過去に遡って取り消すことができるものとなっています。そのため、厚生労働省や所轄庁が示した定款例に従って新定款を作成した場合、法令上は、過去に遡って、財産を贈与又は遺贈した個人に所得税が課される可能性が出てくるということになります。
 そのため、そんなことになっては大変だ、ということで、個人の寄付を受けたことのある法人では、一部の所轄庁が示した租税特別措置法第40条の要件を満たした定款を作成したところがかなりあった模様です。
 結局、厚生労働省が国税庁が問い合わせをした結果、租税特別措置法第40条の適用を前提としない定款例に沿った内容の定款に改正しても、直ちに非課税承認は取消されることはないということにはなりました。(租税特別措置法第40条第1項後段の規定の適用を受けようとする場合における社会福祉法人定款例について(平成29年2月2日付社援発0202第4号照会に対する回答」参照)

3.評議員会の開催の留意点
(1)臨時評議員会の開催
 上記に示したように、租税特別措置法第40条の適用を受けるためには幾つかの要件がありますが、その一つに定款で事業計画及び収支予算については評議員会の承認を受ける必要がある旨を定めるというものがあります。
 おそらく、この適用を受けるための定款を作成した法人では、この法人の事業計画書及び収支予算書については、毎会計年度開始の日の前日までに、理事長が作成し、理事総数(現在数)の三分の二以上の同意及び評議員会の承認を受けなければならない。これを変更する場合も、同様とする。」と定款に定められていると思います。
 そのため、租税特別措置法第40条適用を受けるための定款を定めた場合は、期末前に臨時評議員会を開催する必要があります。その開催時期は通常3月です。従って、3月の評議員会開催をスケジュールに組んでおく必要があります。

(2)招集の決定
 このときの留意点は、評議員会を開催するためには、理事会で評議員会の招集の決定を行う必要があるという点です。そのため、評議員会開催日の前に理事会を開催する点に注意する必要があります。
 この招集決定のための理事会ですが、実際に開催してもよいですし、決議の省略による方法(いわゆる「みなし決議」)でも問題はありません。過去のブログ(「決議の省略~実務上の留意点」)にも記載したように、法令上、提案内容に制限はありません。ただし、軽微な事項について行うことが適当といわれています。私見ですが、この点について、評議員会の招集の決定は特に問題となるところはないと考えられます。
 なお、決議の省略の場合は、理事及び監事全員から同意・確認を得る必要がありますので、この点も留意する必要があります(法45条の14⑨、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)96条)。
 このときに、事業計画及び収支予算を承認するための理事会の開催日も決定しておくとよいでしょう。

(3)同日開催でも可
 事業計画及び収支予算については、上記のように評議員会の決議の前に理事会の決議も経ることになります。
 このときの開催日ですが、同日開催としても問題はありません。中14日以上の間隔を開けなければならないのは決算承認理事会と定時評議員会のときです。理由は(理事会の承認を受けた)計算書類等を定時評議員会の日の2週間前の日から主たる事務所に備え置かなければらないとされているからです(法45条の32①)。
 ただし、同日開催といっても、評議員会のメンバーと理事会のメンバーが同じ部屋で同時進行で行うことは避けることが望まれます。旧制度では、このような形式で行われていた法人が多いと思いますが、この方式だと、例えば、理事が評議員に口出しをする可能性もあり、そうなると、理事会の上に立って、理事の監督を行うという評議員会の意義が没却するおそれがあるからです。
 そこで、同日開催する場合は、例えば、同じ会議室を使用するにしても午前中に理事会、午後に評議員会という形で行うのがよいかと思います。なお、議案の説明のために評議員会に一部の理事が同席することは問題はありません。
 もちろん、同日開催ではなく、何日かの間隔をあけて開催しても結構です。

 なお、この事業計画及び収支予算の承認の理事会は、実際に開催することが望まれます。これは、事業計画及び収支予算の承認は、法人にとって重要な事項であり、決議の省略にはふさわしくないという点もありますが、理事長及び業務執行理事は自己の職務の執行の状況を理事会に報告しなければならないからです(法45条の16③)。おそらく、多くの法人が、定款で4月を超える間隔で2回以上その報告をしなければならない旨を定められていると推測されますが、この自己の職務の執行の状況の報告は理事会を実際に開催する必要があります。また、議事録にはその旨を明記する必要があります。

4.スケジュール
 最後に、事業計画及び収支予算承認のための臨時評議員会開催までのスケジュールを簡単にまとめると、以下の通りかと思います。

 ①理事会で臨時評議員会の招集の決定を行う(決議の省略でも可)。
 ②①の理事会で、事業計画及び収支予算承認のための理事会開催日も決定しておく。
 ③理事会の招集、評議員会の招集を行う(基本的には1週間前までだが、定款で短縮可なので定款を確認しておく。)。
 ④事業計画及び収支予算承認のための理事会を開催する(3月)。
 ⑤事業計画及び収支予算承認のための臨時評議員会を開催する(3月)。
 
 以上、参考としていただけますと幸いです。 

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