1.はじめに
債権は貸倒見積高の算定にあたっては①一般債権、②貸倒懸念債権、③破産更生債権等に区分されます(金融商品会計基準27項)
では、これらの債権は貸借対照表ではどの区分に表示すればよいのかというと、この点については制度上、明記がありません。
そこで、今回は、債権の貸借対照表表示について記載します。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.貸借対照表での表示
貸借対照表のでの表示ですが、①一般債権と③破産更生債権等については問題はないでしょう。
①一般債権は流動資産に計上されます。科目名でいうと、受取手形、売掛金、リース債権、完成工事未収入金といった科目となります。
③破産更生債権等は固定資産のうち投資その他の資産に計上されます。こちらの科目名は破産更生債権等となります(財務諸表規則32条1項10号)。
ここまでは問題はないのですが、では②貸倒懸念債権についてはどの区分に表示すればよいのかが問題となります。
3.正常営業循環基準
(1)貸倒懸念債権の意義
まず、貸倒懸念債権の意義について記載します。
貸倒懸念債権とは「経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権」をいいます(金融商品会計基準27項(2))。
イメージとしては、まだ経営破綻には至っていないので相手方も苦しいながらも経営は続けているため回収可能性は残されているものの、請求を行ってもなかなか入金がされないような債権というものです。
(2)流動資産と固定資産の区分法
次に、貸借対照表の流動資産と固定資産の区分法について記載します。
まず、流動資産と固定資産の区分は「正常営業循環基準」によります。
次に、正常営業循環基準で区分できないものについては「1年基準」によります。
正常営業循環基準とは、文字通り、正常な営業サイクル(例:販売業でいえば、仕入→販売→入金)に属する資産及び負債は流動項目とし、それ以外は固定項目とするというものです。
一方、1年基準は、正常営業循環基準に該当しない科目について、決算日後1年以内に回収や支払が行われる資産及び負債を流動項目、1年を超える資産及び負債については固定項目とするものです。
この流動・固定分類については結構誤解されがちですが、まず第1次的には「正常営業循環基準」が適用されます。1年基準で区分するようなイメージを持たれている方も多いのですが、1年基準はあくまで2次的な区分法です。
正常営業循環基準によれば、1年で投資の回収ができないものも流動資産に計上されることがあります。例えば、長期請負工事における完成工事未収入金です。工事期間が1年を超える長期工事においては、請負工事に対する債権の回収も1年を超えてきます。しかしながら、この債権は長期工事という正常な営業サイクルに属するものなので、流動資産に計上されます。
(3)破産更生債権等が固定資産に区分される理由
そのため、 経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権である一般債権は当然のことながら流動資産に計上されます。正常な営業サイクルに属する債権だからです。
では、破産更生債権等が固定資産に区分される理由ですが、これは破産更生債権等は、経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権であることから、正常な営業サイクルから外れた債権であるためです。経営破綻に陥った場合、会社に対する売上債権については、こちらが請求を行っても支払ってはくれません。例えば、債権者集会を経た後、清算配当が払われる形となります。配当があればまだよいかもしれません。少なくとも全額の回収はまず無理です。すなわち、正常な営業サイクルからは外れてしまっています。
そのため正常営業循環基準により、固定資産に区分されるとされているものと解されます。
4.貸倒懸念債権の表示
これらを鑑みると、貸倒懸念債権は「経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権」であるため、貸倒懸念債権の状態では、まだ正常な営業サイクルに属している債権といえます。
このような入金が滞っている場合は、通常は取引は停止しますが、請求は続けていきます。その請求により、金額や入金時期は不規則ですが、少しづつ入金はされていくケースもあります。そのため、投資の回収を行っている状況にあることから、依然として正常な営業サイクルに属する債権といえます。
なお、参考ですが、「金融商品会計に関する実務指針」112項では、貸倒懸念債権の要件について具体的に記載しています。
「債務の弁済に重大な問題が生じているとは、現に債務の弁済がおおむね1年以上延滞している場合のほか、弁済期間の延長又は弁済の一時棚上げ及び元金又は利息の一部を免除するなど債務者に対し弁済条件の大幅な緩和を行っている場合が含まれる。」
「債務の弁済に重大な問題が生じる可能性が高いとは、業況が低調ないし不安定、又は財務内容に問題があり、過去の経営成績又は経営改善計画の実現可能性を考慮しても債務の一部を条件どおりに弁済できない可能性の高いことをいう。」
「財務内容に問題があるとは、現に債務超過である場合のみならず、債務者が有する債権の回収可能性や資産の含み損を考慮すると実質的に債務超過の状態に陥っている状況を含む。 」
従って、回収ペースは落ちているものの、債権の回収段階にある貸倒懸念債権は正常な営業サイクルに属しているといえますので、正常営業循環基準により流動資産に区分することが妥当といえます。
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