2017年12月11日月曜日

公益認定一発取消しの危険性~公益法人

1.公益認定の取消し
 公益社団法人及び公益財団法人とは、一般社団法人及び一般財団法人のうち、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)第4条の認定を受けた法人をいいます(認定法2条、4条)
 公益認定は、一回認定を受ければ安泰というものではなく、法令を遵守しなければ取消されることがあります。これを「公益認定の取消し」といいます(認定法29条)。  
 この公益認定の取消しには、2つのケースがあります。そのうちの一つは、公益認定が一発で取消されるケースです。
 今回は、主にこの一発取消しについて記載します。

2.勧告や命令が出たとき
 上記のように公益認定が取消されるケースには2つのケースがありますが、その1つは、勧告や命令が出たときに、公益法人自ら認定取消しの申請が行われて、公益認定の取消しとなるケースです。以下、具体的に説明します。

 認定法には、公益認定の基準のいずれかに適合しなくなったときや公益法人の事業活動等を遵守していないとき(財務3基準を満たしていないなど)などの一定の要件を満たしたときに、行政庁はその公益認定を取り消すことができるという制度があります(認定法29条②)。

 このケースの場合は、通常、事前にその公益法人に対して行政庁から勧告があります(認定法28条①)。というのは、行政庁は、認定法28条第2項各号のいずれかに該当すると疑うに足りる相当な理由がある場合には、当該公益法人に対し、期限を定めて、必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができる、とされているからです。
 なお、勧告が行われると、勧告の内容が公表されます(認定法28条②)。

 また、勧告を受けた公益法人が、正当な理由がなく、その勧告に係る措置をとらなかったときは、当該公益法人に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができます(認定法29条③)。これを命令といいます。命令が出た場合はその旨が公示されます(認定法29条④)。

 このような勧告や命令が出た場合、公益法人自ら認定の取消しの申請が行われ、公益認定の取消しに至るということが見られます(認定法29条①四)。

 3.勧告や命令なしに一発で取消されるとき
  しかしながら、このような勧告や命令がなく、一発で公益認定が取消されるときがあります。
  実際に、今年の3月、埼玉県入間市の公益社団法人でこのケースでの公益認定取消しがありました。
  理由は平成24年2月に刑法第235条(窃盗)の罪により懲役1年6月の判決を受け、刑が確定し、平成25年7月に刑の執行を終えた者が、刑の執行を終わった日から5年を経過しない日に法人の役員に就任した。」というものです。
      
    上記(1)に記載したのは、認定法29条2項の規定ですが、実は、その前項、すなわち、認定法29条1項に「行政庁は、公益法人が次のいずれかに該当するときは、その公益認定を取り消さなければならない。」という規定があります。
  すなわち、一定の法律要件を満たした場合は、有無を言わさず即時に公益認定取消しとなるということを定めています。

  「次のいずれか」というのは認定法29条1項の1号から4号のことを指しますが、このうち、1号は第六条各号(第二号を除く。)のいずれかに該当するに至ったとき。」とされています。
  この6条は何を定めた条文なのかというと、役員等の「欠格事由」を定めた条文です。今回の埼玉県入間市の公益社団法人のケースは、この欠格事由に抵触したケースです。

  認定法第6条では「(中略)次のいずれかに該当する一般社団法人又は一般財団法人は、公益認定を受けることができない。」として、第1号に「その理事、監事及び評議員のうちに、次のいずれかに該当する者があるもの」と定めています。そして、イからロの4つを掲げていますが、このうちハに禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることがなくなった日から五年を経過しない者という条文が掲げられています。埼玉県入間市の公益社団法人は、上記の通り、窃盗罪で懲役刑を受けた者が刑の執行が終わった日から5年を経過しない日に役員に就任したことから、認定法29条①一に抵触し、勧告や命令が発せられることなく、行政庁から認定を取消されたものです。

  このように、理事、監事、評議員の中に欠格事由に抵触する者がいると、一発で公益認定を取消されるので十分注意する必要があります。欠格事由の規定が整備されたときは、連座制暴力団に関する規定が注目されましたが、刑罰者については盲点になっている感があります。

  なお、公益社団法人及び公益財団法人は一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)の規定も適用されますので、一般法65条の規定も注意しておく必要があります。一般法65条では、①法人、②成年被後見人若しくは被保佐人等、③一般法などの法令違反により刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者、④③以外の法令の規定に違反し、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)については、役員になることができないとされています。
  ただし、認定法は一般法に優先して適用されます。

 4.「欠格事由」規定の対策
  このように、認定法第6条1号ハの規定に抵触すると、一発で公益認定が取消しになり、その公益法人にとっては極めて大きな影響が出ますから、常時注意する必要があります。

  ほとんどの公益法人では、理事、監事、評議員の就任の際、候補者から就任承諾書とともに「履歴書」「確認書」をいただいていると思います。
  そこで、対策としては、この履歴書と確認書が重要となりますが、全員から提出していただくのは当然として、形式的にならないようにする必要があります。
  特に、確認書については、よく読まないで署名押印する人がかなりいると推測されますので、公益法人の担当者は、必ず口頭で、上記条文の内容を説明することが有効と考えられます。特に、新しく理事、監事、評議員に就任される人に対しては、十分な口頭説明と確認書の熟読が必要です。

  この履歴書と確認書は、重任する時も必ず入手する必要があります。「前回、頂いたので、何度も同じ書類を提出していただくのは何なので・・・」と入手を躊躇される方もいらっしゃるかもしれませんが、躊躇することはありません。必ず、提出してもらってください。また、理事、監事、評議員の候補者の中には「前回、提出したではないか」と言う人もいるかもしれませんので、選任決議後に何も説明せずに郵送で送りつけるのではなく、選任決議が行われる前に、例えば、決算承認理事会などの場で、事前に説明しておくとよいと思います。

  さらに、就任期間中にも欠格事由に該当していないか注意する必要があります。連座制(6条①イ)については、上記2の通り、勧告などが出れば危険な兆候といえますので、該当役員に辞任を促す必要があります。この勧告などについては公益法人インフォメーションで確認することができますので、事務局や総務部の担当者は日々チェックすることが望まれます。
  次に、今回の論点である刑罰者については、就任期間中に法令違反を起こしていても、法人側ではなかなか気づかない事が多いと推測されます。
  対策としては、理事会や評議員会で、交通事故や脱税などの法令違反を起こしていないかどうか、もし該当者がいれば後日自己申請をしていただきたい旨を事務局から毎回お知らせするという方法が考えられます。そして、もしこのような法令違反者がいれば、その時点で辞任していただくのがよいのではないかと考えられます。