貸付金とは、他の法人や個人に金銭を融資することです。
この貸付金は当然のことながら、貸付金勘定で処理します。
しかしながら、時々、貸付金勘定以外の科目で会計処理されている時もあります。これは意図的に貸付金勘定以外の科目で処理して隠蔽しようとするケースもあれば、隠蔽しようとする意図はまったくなく、監査人の判断で事実上の貸付金であると判断されるケースもあります。
今回は、貸付金勘定以外で処理されている実質的な貸付金について記載します。
1.立替金で処理されているケース
貸付金勘定以外の科目で処理されやすい科目としては、まず立替金があります。
立替金でよく見られるのは、例えば、社長などの役員等が負担すべき費用を会社が一時的に支払うケースです。その後、役員が会社に相当のお金を支払えば、本来の勘定に振り替えます。
頻度が僅かであり、金額も少額で、立替期間が短く、最終的に費用になれば会計上は無茶苦茶大きな問題はないのですが(ただし、その立替行為が妥当なのかどうかという内部統制上の問題は検討する必要があります。また、役員等であれば会社が関連当事者取引として認識しているかどうかも確かめる必要があります。)、この立替金が長期間、精算されず立替金のままで残っている場合は、役員等に対する実質的な貸付金と判断すべきです。
もちろん、これが対会社であっても同様です。
この立替金は貸付金に科目を振り替えていただき、さらに債権の区分(一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等)により、妥当な貸倒引当金を設定する必要があります。
2.仮払金で処理されているケース
仮払金のケースは注意が必要です。この場合は、意図的に行っている可能性が高いといえます。
そもそも、内容が不明であったり、未定であったりする取引を行うこと自体に問題があります。仮払金で処理しても妥当な取引は、例えば、受取利息の源泉所得税、旅費交通費の仮払、消費税等の中間納付ぐらいでしょうか。
そのため、仮払金が期末に残ると問題があるという認識は多くの会社等で認識されており、期末に多額の仮払金が計上されるケースは少ないといえます。従って、仮払金は期末残高の前期比較ではなく、期中の動きを見る必要があります。
具体的には、総勘定元帳の閲覧により期中の仮払金の出入りを見ます。このとき、多額の仮払金が出たり入っていたりするような場合は異常な取引である可能性があります。
考えられるケースとしては、例えば、社内の融資基準に満たないような相手先に、ある部門が会社には隠して他社に融資している、社内の人間が自分の口座に入れて着服している、といったケースが想定されます。
もちろん、支出したままでは残高が残ってしまいますから、期末が近づいたら一時的に返金してもらうわけです。
このようなケースも実質的な貸付金ですが、一時的とはいえ返金はされているので、期末残高としては残りません。
このような場合の対処法としては、こういった取引をやめていただくことです。
なお、仮払金の期中の動きをみるという手続は、監査人の側だけではなく、会社等の内部統制の一環としても有効です。
3.土地や商品で処理されているケース
最後に、特殊なケースをあげてみます。タイトルに土地、商品をあげましたがあくまでも一例です。
マスコミ報道で見た事例をあげてみます。仮にA社とします。このA社は保有する土地を担保に金融機関から融資を受けていましたが、返済が滞ったため土地を競売にかけられたそうです。この土地は、とある不動産会社が落札したのですが、その不動産会社の役員は、このA社の創業家が別に経営する会社の役員だったそうです。なお、この不動産会社は競売の2日前に設立されたということです。
そして、競売後、このA社は落札価額の3倍以上の額で土地を買い戻したそうです。さらに、この土地の売買後、不動産会社は創業家に1億円を貸し付けたということです。
記事だけなのでなんとも言えないのですが、これだけから見ると、このA社のお金が不動産会社(おそらく実質的にペーパーカンパニーではないかと推測されます)をスルーして、創業家にまわったといえそうです。
この場合の会計処理ですが、A社側の仕訳は
(借方)土地 ・・・ (貸方)現金預金 ・・・
で通常は完結することになります。
しかし、私見ですが、この土地の価額は落札価額の3倍以上であり、しかも、その差額分が最終的に創業家に渡ったのであれば、おそらく、当初から創業者に渡す目的で行われたと推測されますので、差額分は創業家に対する実質的な貸付金と見ることもできます。すなわち、土地の金額の一部は貸付金に振り替えるということです。
このような相場よりも異常な価額で取引されるケースは関連当事者取引で時々見られます。商品などについても、市場より随分と高い価格で取引されたケースを監査で見たことがあります。
関連当事者取引については、一定の金額以上の取引については注記で開示する必要があり、これにより、異常な取引を行うことを牽制していますが、それでも異常な取引は行われることがあります。
通常の相場よりもかけ離れた価額で取引された場合、少なくとも取引内容や取引理由をチェックし、その差額分がどこに流れていったのかを確かめる必要があります。
全てのケースでその差額が実質的な貸付金であるとは言い切れませんが、検討をする必要はあるといえるでしょう。
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