今回は、源泉所得税の徴収漏れが発生しやすい事例について記載します。
1.評議員、理事、監事への交通費
評議員会、理事会を開催したときに、出席した評議員や理事、監事に「交通費」を支給することがあります。この支給する交通費が、実費であれば問題はありませんが、例えば、全員一律に5,000円とすると、源泉徴収義務が生じます。
よく見られるのが、交通費を支給したいが一人一人、交通費の伝票を書いてもらうのは手間をかけてしまうので、全員同じ額で統一している、というケースです。
このように、実費ではなく、実費を超える金額や実費とは関係がない一定の金額で支給すると、それは報酬となります。
そのため、報酬基準では、役員等については無報酬である旨を定めていても、このように交通費を実費で支払っていない場合は、役員等に対して報酬を支払っていることになるので、報酬基準自体も改定が必要となります。
なお、「お車代」という名称に関わらず、実質で判断されますので、この点も留意が必要です。
また、物品で支払う場合も報酬・料金等に含まれるので、源泉徴収義務が生じます。
公益法人FAQ「Ⅴ-6-②」、社会福祉法人制度改革Q&A(平成29年7月11日現在)の「問154」もあわせて御覧ください。
2.講師への講師料や交通費
(1)「謝礼」、「お車代」として支払う場合
公益法人や社会福祉法人では、市民講座などを開催される法人も多く見られます。
このような市民講座などに招聘した講師への講師代として「謝礼」や「お車代」として支払っているケースがありますが、名称にかかわらず、報酬・料金等の性質を有するものは源泉徴収義務が生じます。そのため、「謝礼」や「お車代」という名称で支払った場合も、源泉所得税を徴収して納付する必要があります。
また、1で記載したとおり、物品で支払う場合も報酬・料金等に含まれるので留意が必要です。
(2)交通費を支払っている場合
市民講座などに招聘した講師に、講師料とは別に「交通費」を支給する場合も、実費であれば問題はありませんが、実費を超えて支払うような場合などは源泉徴収義務が生じます。
もちろん、「お車代」といった名称は関係はありません。
また、上記と同様、物品で支払う場合も報酬・料金等に含まれるので留意が必要です。
3.アルバイトの給与
アルバイトの給与についても源泉徴収をする必要があります。
これは、1~2日程度の日給のアルバイトであっても源泉徴収を行う必要がありますが、失念される法人が見受けられますので注意が必要です。
このようなアルバイトとしては、例えば、観光協会などが、地元のお祭りを行うときに学生などを中心にアルバイトを採用するケースがあります。お祭りは、2~3日のところもあれば、1週間程度のところもありますが、いずれにしろアルバイトはお祭りの期間の数日程度です。このような短期間のアルバイトであっても源泉徴収が必要です。
4.個人事業者に対する報酬・料金等
原稿料や講演料、弁護士・公認会計士・司法書士などの特定の資格を保有するものに対する報酬などについて、その報酬を受ける者が個人である場合は、報酬を支払う者は源泉徴収義務があります。
しかしながら、ときどき個人なのか法人なのかがわかりにくいケースがあります。例えば「○○グループ」「○○事務所」「○○総研」「○○企画」といった名称です。こういった場合、名称を見て思い込みで法人だと決め込むと、源泉徴収を失念してしまうことがあるので注意が必要です。
そこで、個人か法人かの判断がつきにくい場合は、以下の基準で判断します。
(1) 法人税を納付する義務があること。
又は
(2) 定款、規約又は日常の活動状況からみて個人の単なる集合体ではなく団体として独立して存在していること。
これらのいずれかに該当する場合は、人格のない社団等に該当することになります。このように人格のない社団等であることを立証した場合は、支払者に源泉徴収義務は生じません(所得税法基本通達204-1)。
なお、特定の資格者については、法人の場合「弁護士法人」「監査法人」「税理士法人」といった名称が必ずつきます。
最後に、その他にも、源泉徴収漏れが生じやすいケースがありますが、別の機会に記載したいと思います。