拙著「「社会福祉充実計画」の作成ガイド」(中央経済社)の第7節では、月次決算について記載しました。
社会福祉法人においては、社会福祉充実残額の有無を決算見込みの段階で把握しておくことが有用となるため、その手段として月次決算の実施が前提となります。
この月次決算は発生主義会計によって行う必要がありますが、今回は、拙著第7節の補完として、発生費用のカットオフエラーの防止について記載します。
なお、今回のテーマは社会福祉法人だけではなく、株式会社、公益法人などと共通のテーマです。
1.発生費用のカットオフエラーとは
「カットオフエラー」という用語ですが、これは発生収益や発生費用が本来計上されるべき会計期間に計上されないことをいいます。
現在の会計は発生主義によって会計処理が行われます。発生主義とは、収益や費用の発生事実が生じたときに収益や費用を認識するというものです。従って、必ずしも現金預金の収入や支出があったときに収益や費用を計上するとは限りません。
例えば、7月中旬に業者にエアコンの修理を行ってもらったとします。そして、エアコン業者からは7月の修理代として8月3日に請求書が来て、10日に支払ったとします。
この場合、7月にエアコン修繕が行われたのですから、この修繕費は7月の費用となります。8月10日の支払時に費用として認識してしまうと、本来認識すべき月がズレてしまいます。このように、収益や費用の認識期間を誤ってしまうことをカットオフエラーといいます。
なお、仕訳は
(借方)修繕費 ・・・ (貸方)未払金 ・・・
とします。
2.カットオフエラーが生じる原因と防止策
(1)請求書が届いてから費用認識をしている
取引先から請求書が届いた時点で、該当月に係る費用計上を行うことは、経理の手段としては必ずしも誤っているとはいえませんが、この場合、取引先から請求書が届くのが遅いと、発生費用の未計上となるリスクがあります。
例えば、月次決算を10営業日で締めているとします。5月の月次決算を例にとると、6月の10営業日を過ぎた6月15日頃に5月分の請求書が届いたとします。
この場合、請求書が届いてから費用認識をする方式だと、月次決算が締まった後に費用計上することになってしまう可能性が高くなります。すなわち、6月に5月の費用を計上することになってしまい、本来、計上すべき5月に費用が計上されなくなってしまいます。
そのため、請求書に基づいて費用認識を行う方式だと、カットオフエラーが生じるリスクがあります。
このような、カットオフエラーを防止するためには「支払予定表」を作成することが有用です。
支払予定表を作成しておけば、その月に認識すべき費用を網羅的に把握することができます。また、資金繰り管理にも役立ちます。
従って、月末にはこの支払予定表にもとづいて、未払金の計上を行うとカットオフエラーのリスクは少なくなります。
なお、取引内容によっては、請求書が届くまで金額が把握できない場合もあります。その場合は、取引先に協力していただき、事前にメールやFAX等で金額を知らせていただくという方法も考えられます。
余談ですが、経験上、法律事務所や会計事務所は請求書の発送が遅いときが結構多いです。このような事務所は総務が請求書発行を管理しておらず、各クライアント担当者が請求書発行などを行っているからだと推測されます。担当者は自分の通常業務で忙しいので請求書発行を忘れてしまうわけです。そのため、本来発送すべき時期に発送することを忘れてしまい、請求書が届くのが遅くなるものと推測されます。
(2)請求書が他部署に届いたままとなっている
支払予定表に基づけば、ある程度カットオフエラーは防止できるのですが、それでも、単発の取引については漏れが出てくるときもあります。稟議書で把握すればある程度の網羅性も確保できるのですが、必ずしも絶対に大丈夫とは限りません。
このような単発の取引に係る請求書が経理部に届けばよいのですが、営業部などの他部署に届き、しかも経理部に回されずにそのままとなっているケースが見られます。そして、決算が締まった後に、経理部にその請求書を持ってこられると決算数値が変わってしまい、厄介なことになります。
このようなケースを防止するためには、決算前に経理部から他部署に対して、他部署に届いた請求書は漏れなく、経理部に持ってくるように呼びかけておくことが有用です。すなわち、全社体制で決算に協力することを依頼するわけです。
そのためには、経理部は普段から他部署とのコミュニケーションが欠かせません。
この経理部の他部署とのコミュニケーションですが、カットオフエラーの防止だけではなく、後発事象や偶発債務などの把握においても重要となってきます。この点については、別の機会に記載したいと思います。
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