1.医療法人のハコ化
最近、産経新聞に平成30年10月9日付で「「医療・福祉」の倒産最多 経営難、暴力団つけ込む 年間見込み」という記事が掲載されました。
まず、記事の冒頭部分を引用します。
「医療⾏為などの診療報酬を主要な収⼊源とする「医療・福祉事業」の1〜8⽉の倒産件数が前年同期⽐40件増の196件に上り、年間件数が過去最多を更新する⾒込みであることが9⽇、⺠間信⽤調査会社「東京商⼯リサーチ」(東京)の調査で分かった。病院・医院の倒産に加え、⾝売りも続発。経営難につけ込んだ暴⼒団やブローカーらが、医療機関の診療報酬請求権を売買するなど暗躍している。」
赤文字ゴシックは私によるものですが、経営難に陥った医療法人等に対して、反社会的勢力がつけ込んでいることが記載されています。この記事では、その後、その乗っ取りの手口が具体的に記載されています。
2.資金繰りの悪化が招くハコ企業への転落
以前、このブログでは「経営者による内部統制の無効化とハコ企業」というタイトルでブログを記載しました。
このブログでは、資金繰りが悪化したときは内部統制の無効化が発生しやすくなり、その結果、「ハコ企業」に陥りやすくなることから、資金繰りは絶対に悪化させないようにする必要がある、という趣旨の文章を記載しました。
資金繰りが悪化した上場企業の中には、この過程を通じてハコ企業になってしまったところも少なくないのですが、この点は医療法人、社会福祉法人、公益法人も注意する必要があるということも記載しました。理由は、こういった非営利法人は内部統制が脆弱であるためです。例えば、理事会や監事などのガバナンスも弱いため、外部の人間に簡単につけ込まれやすい傾向があるためです。
3.経営悪化の原因
医療法人などの医療・福祉関係事業者の一部が経営難に陥り、資金繰りが悪化している理由はいろいろとありますが、記事にも記載されているように国家財政の悪化によって、診療報酬が抑制傾向にあることが原因の一つです。
診療報酬は、公定価格なので自分で価格を決定することができません。一方で我が国の財政は悪化していますから保険による診療報酬の支払は極力少なくしたいところです。そのため、同じ医療業務を行っても、売上が段々と少なくなり、コスト削減に失敗してしまうと資金繰りが苦しくなっていくという図式です。
このように、資金繰りが悪化すると、経営を続けていくことが苦しくなります。そうなると、冒頭に記載したように、資金の援助をちらつかせる外部の人間につけ込まれ、内部統制の無効化が次々と発生し、ハコ企業に陥ることになります。
4.診療報酬請求権の売却
乗っ取りと利益を得る手口についても産経新聞の記事に記載されています。
要約すると、
①理事長の権限が強いワンマン経営の病院に、トップの信頼を得て経営中枢に入り込む
②診療報酬請求権を売却して運転資金を工面するという提案を承諾させ、実際に金融機関に診療報酬請求権を売却する
③さらに金融機関からその診療報酬請求権を入手する
④ブローカーに診療報酬請求権を高値で売却する
ということです。
なお、この診療報酬請求権の売却ですが、これ自体は問題はありません。いわゆるファクタリングです。健全な法人でも、資金繰りをよくするためファクタリングを行っているところもあります。
ファクタリングの会計処理は概ね以下のとおりです。
【仕訳例】
(1)売掛金1,000を金融機関に譲渡する
(借方)未収金 1,000 (貸方)売掛金 1,000
(2)金融機関から950の入金があった。
(借方)現金預金 950 (貸方)未収金 1,000
支払手数料 50
なお、支払手数料は非課税取引となりますので課税仕入にしないように注意する必要があります。
今回はここまでとします。
次回は診療報酬請求権が売却される背景について説明します。
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