2019年6月2日日曜日

スギHDとココカラファインが経営統合へ~両社の経営成績を比較してみると

1.はじめに
 本日、日本経済新聞に「スギHDとココカラ、経営統合検討 業界首位に 」という記事が掲載されていました。
 このブログでは、今年の3月31日に「ドラッグストア~もうすぐ業界再編?」というタイトルで、近いうちに大手ドラッグストアの業界再編が起こる可能性があることを記載しましたが、早速その動きが出てきました。
 今回は、両社の経営成績を見てみたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.経営成績の比較
(1)売上総利益率と営業利益率
 スギホールディングス株式会社(以下「スギHD」)とココカラファイン株式会社(以下「ココカラファイン」)の売上高から営業利益までを示すと以下のとおりです。
 経営成績については他にもいろいろな数値を比較する必要がありますが、今回は売上と営業利益の関係について見てみました。

 スギHDは2月決算なので、直近の有価証券報告書の数値を使用しました。
 一方、ココカラファインは3月決算なので、まだ2019年3月期の有価証券報告書が出ていません。従って、直近の数値として、四半期報告書の第3四半期(2018年12月期)の数値を使用してみました。
 
【スギHD】(単位:百万円)

前連結会計年度
(自 2017年3月1日
至 2018年2月28日)
当連結会計年度
(自 2018年3月1日
至 2019年2月28日)
売上高457,047488,464
売上原価325,481346,164
売上総利益131,565142,300
販売費及び一般管理費合計106,804116,483
営業利益24,76025,817
売上総利益率28.80%29.10%
営業利益率5.40%5.30%

(有価証券報告書を一部加工)


【ココカラファイン】(単位:百万円)

前第3四半期連結累計期間
(自 2017年4月1日
至 2017年12月31日)
当第3四半期連結累計期間
(自 2018年4月1日
至 2018年12月31日)
売上高296,036303,510
売上原価217,985222,531
売上総利益78,05180,979
販売費及び一般管理費67,69771,530
営業利益10,3539,448
売上総利益率26.40%26.70%
営業利益率3.50%3.10%
(四半期報告書を一部加工)

 期間が異なるので、規模の比較はできませんが、直近の数値を使って近い時期における利益率の比較を行いたいと思います。
 まず、売上利益率は、スギHDのほうが約2.4ポイント高くなっています。
 営業利益率も、スギHDのほうが約2ポイント高くなっています。
 以上より、スギHDのほうがココカラファインよりも全体的な利益率は高いといえます。
 ちなみに、私がいま住んでいる京都では、ココカラファインは京都市営地下鉄の四条駅や烏丸御池駅といった主要駅の駅ナカに出店しています。また、大丸近くや四条通沿いなどにもあり、場所が良いところにあるという印象です。そのため、賃借料が高いという背景があるのかもしれません(有価証券報告書をもとに、電卓で計算した結果、売上高に対する賃借料の割合はスギHDは4.47%(2019年2月期)、ココカラファインは5.68%(2018年3月期)でした。)

(2)売上利益率の2期比較
 次に、会社の2期比較をしてみると、両社とも売上総利益率は若干上昇しています。これを見ると、一見、仕入の値下げ努力をしたのかなとも見えるのですが、棚卸資産回転期間(在庫回転期間)(年)を比較してみると以下のようになりました(前期と当期の売上高と棚卸資産額を使用して簡便的に計算してみました。実務では平均残高を使用します。)。

 スギHD      1.384ヶ月→1.465ヶ月 
 ココカラファイン  1.885ヶ月→1.888ヶ月 

 売上原価は期首棚卸残高+当期仕入額-期末棚卸残高で計算しますので、期末在庫が増加すると売上原価が減少する傾向にあります。そのため、在庫が増えると売上総利益が増えるという、一見するともうかっているように見えてしまうというトラップがあります。
 そのため、棚卸資産回転期間を見てみましたが、スギHDは若干回転期間が長くなっていますので、もしかすると期末在庫が増加した結果、売上原価が減少し、売上総利益率が上昇したのかもしれません(注:あくまでも推測です。)
 なお、両社とも扱っている品種、構成、金額は異なりますので、本来は品種別にきめ細やかに回転期間を見ていく必要があります。従って、これはあくまでもおおまかな参考数値です。

(3)営業利益率の2期比較
 営業利益率を2期比較で見ていくと、スギHDは5.40%5.30%と0.1ポイントの減少、ココカラファインは3.50%から3.10%と0.4ポイントの減少となりました。
 従って、スギHD、ココカラファインともに営業利益率が若干低下傾向にあります。
 これは、「ドラッグストア~もうすぐ業界再編?」で記載したように、人件費の上昇が背景にあるものと推測されます。
 ちなみに、スギHDについて給料手当及び賞与の額を売上高で割った数値を出してみると、9.7%から10.0%となり、0.3ポイントの上昇となっていました。とはいえ、営業利益率の低下は0.1ポイントにおさえていることから、販管費の節減に努められたのではないかと推測されます。

(4)販売実績から見える各社の特徴
 最後に、有価証券報告書の「第2 【事業の状況】」の「3 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」に記載されている「③ 仕入及び販売の実績」のうち、販売実績について見てみます。
 なお、ココカラファインについては四半期報告書にはこのデータが載っていないため、2018年3月期の有価証券報告書の数値を使いました。

【スギHD】

当連結会計年度
(自 2018年3月1日
至 2019年2月28日)
構成比率(%)
調剤(百万円)91,07318.60%
物販(百万円)394,18780.70%
その他(百万円)3,2030.70%
合計(百万円)488,464100.00%
(有価証券報告書を一部加工)



【ココカラファイン】(単位:百万円)

当連結会計年度
(自 2017年4月1日
至 2018年3月31日)
構成比率(%)
ドラッグストア・調剤事業
医薬品108,48730.90%
一般用医薬品53,74815.30%
調剤54,73815.60%
化粧品104,51029.80%
健康食品10,5163.00%
衛生品40,96511.70%
日用雑貨47,78213.60%
食品38,37010.90%
全店計350,633100.00%
卸売37,849
小 計388,482
介護事業2,484
セグメント間消去△2
合 計390,963
(有価証券報告書を一部加工)

 販売実績による構成比率を見てみると、スギHDのほうが、若干、調剤に力を入れているという印象です。

 なお、「③ 仕入及び販売の実績」の開示範囲は各社によって異なるので、このスギHDとココカラファインのように、明確な比較はできません。
 しかしながら、他の大手ドラッグストアの仕入れ実績と販売実績を比較すると、各社の特徴がよくわかります。

 例えば、ウエルシアホールディングス株式会社(以下「ウエルシア」)の2019年2月期の有価証券報告書の情報をもとに販売構成比率を出してみましたが、これを見るととココカラファインとの違いがわかります。

【ウエルシア】

区分金額(百万円)構成比率(%)
医薬品・衛生介護品・ベビー用品・健康食品163,77721.00%
調剤129,81116.70%
化粧品136,24517.50%
家庭用雑貨116,65415.00%
食品172,97122.20%
その他59,6877.70%
合計779,148100.00%

 食品の売上構成を見てみると、ココカラファインはドラッグストア・調剤事業における割合が10.90%であるのに対して、ウエルシアは22.20%となっています。
 また、医薬品はココカラファインが30.90%であるのに対して、ウエルシアは21.00%、化粧品はココカラファインが29.80%であるのに対して、ウエルシアは17.5%となっています。
 これを踏まえると、ウエルシアはココカラファインと比べて食品の販売に力を入れているのでは、という推測ができます。
 食品の販売に力を入れるのは、食品の安売りで客を呼び寄せるためです。食品の粗利益率は低いですが、食品の安売りでやって来たお客が、ついでの買い物で、粗利益率の高い薬品や化粧品を購入してもらって利益を出すというビジネスモデルです。
 実際、私の知っている範囲では、食品の品種の数や食品コーナーの面積はココカラファインよりもウエルシアのほうが上です。
 このような構成比較は他のドラッグストアも比較すると各社の方向性が見えてくるのですが、今回はここまでとします。