2018年2月18日日曜日

敷金の論点

1.概要
 今回は、敷金に関する会計上の論点を記載します。
 敷金は、特に大きなリスクはない科目ですが、一部に注意すべき論点があります。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.敷引きと消費税
 関西地方でよく見られる商習慣として、「敷引き」(しきびき)というものがあります。これは賃貸契約を行ったとき、敷金のうち貸主に対して一部金額は返還しないということを契約により定めるものです。
 この場合、消費税の課税関係については、敷引き部分は権利の設定の対価となるため、資産の譲渡等の対価として課税の対象となります消費税法基本通達5-4-3)。この処理については、失念されているケースがよく見られますので注意が必要です。
 なお、敷引きの会計処理ですが、会計基準で一定の処理が定まっていないため、会計慣行によることになります。よく見られるのは、税務上、敷引きは法人税法上の繰延資産に該当するため、長期前払費用として計上し、原則5年(賃貸契約期間が5年未満の場合は契約期間)で償却するというものです。私見では、会計上もこのような償却処理でよいと考えられますが、償却期間は、もし賃貸契約期間が5年以上の場合は、賃貸契約期間が妥当と考えられます。 

【設例1】
・期首に敷金10,000を支払った。
・敷金のうち2,000は敷引きとして家主に返還しない契約となっている。
・賃貸契約は5年である。
・当社は消費税等の納税義務者である。
・税抜処理を行っている。

【仕訳例】
①敷金の支払時
(借方)敷    金 8,000    (貸方)現金預金 10,000
    長期前払費用 1,852
    仮払消費税等  148

②期末時
(借方)長期前払費用償却 370  (貸方)長期前払費用 370


3.資産除去債務
(1)会計処理
 制度会計上は、「建物等の賃借契約において、当該賃借建物等に係る有形固定資産(内部造作等)の除去などの原状回復が契約で要求されていることから、当該有形固定資産に関連する資産除去債務を計上しなければならない場合」があります(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 9項)。
 ただし、「当該賃借契約に関連する敷金が資産計上されているときは、当該計上額に関連する部分について、当該資産除去債務の負債計上及びこれに対応する除去費用の資産計上に代えて、当該敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、そのうち当期の負担に属する金額を費用に計上する方法によることができる」(同適用指針 9項)。
 すなわち、原則は敷金についても、一定の要件を満たす場合、資産除去債務を計上する必要がありますが、容認処理として、敷金の回収不能部分を見積もって、その金額を一定期間において償却処理することができるというものです。

【設例2】
・期首に敷金10,000を支払った。
・敷金のうち2,000は原状回復費用に充てられるため返還が見込めないと認められたことから、当社の同種の賃借建物等への平均的な入居期間(5 年)で費用配分する。
・資産除去債務の負債計上及びこれに対応する除去費用の資産計上を行わない方法による。

【仕訳例】
①敷金の支払時
(借方)敷金 10,000 (貸方)現金預金 10,000

②期末時
(借方)費用(敷金の償却) 400 (貸方)敷金 400

(2)償却期間
 敷金に関する資産除去債務に係る論点の一つに、償却期間があります。
 同適用指針では27項において、「当期の負担に属する金額は、同種の賃借建物等への平均的な入居期間など合理的な償却期間に基づいて算定することが適当と考えられる。 」と記載されています。これはあくまで例示なので、合理的な償却期間であれば問題はありません。言い換えると、根拠のない非合理な償却期間は認められないということです。
 設定する場合は、例えば、過去の入居期間の実績を集計し「過去はこのような平均期間であり、今回も平均期間である◯年の入居を予定している。従って、償却期間は◯年とする。」といったように、根拠を文書化しておく必要があります。

(3)原状回復費用の見積り
 原状回復費用の見積りについては、私の経験上、業者に見積り額の算出を依頼すれば金額を算出してくれるところが多かったと記憶しています。そのため、業者に見積り依頼をしてみるとよいと思います。可能な限り客観性をもたせることが重要です。

(4)消費税の課税関係
 資産除去債務に係る敷金の償却の場合、回収が最終的に見込めないと認められる部分の金額については消費税の課税の対象とはならないと考えられます。
 消費税の課税の対象は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等ですが、回収が最終的に見込めない部分の金額は、あくまでも見積もりであるため、対価性がないといえるからです。敷引きの場合は、賃貸借契約において、一定金額は返還しないと定められているため、対価性が認められます。しかし、資産除去債務に係る敷金の場合は単なる将来の見積であり、反対給付として対価を受け取る取引とはいえないからです。