2019年2月24日日曜日

病院・診療所のIT化戦略の必要性

1.はじめに
 病院や診療所の収益は診療報酬が基本となります。しかしながら、診療報酬は国の財政状況の悪化により、抑制傾向にあります。
 診療報酬は保険から入ってくるものについては確実に入金されるため、滞留の心配はありませんが、診療報酬が下落傾向にあるということは、全体の売上が下がることにつながる可能性が高くなります。
 一方、費用面については、病院や診療所の規模や種類によって異なる面はありますが、人件費、地代家賃、減価償却費といった固定費が占める割合が多くなってきます。
 このような収益費用構造において利益を確保するには、やはり、一人でも多くの患者を確保して収益をあげていくことが必要になってきます。固定費は稼働率によって変動しない費用なので、収益の増大が利益の増大につながるためです。
 今回は、この患者数の確保という点において、IT化によって可能となる方策を考えてみたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.ITの活用事例
 患者数の確保のためにITを活用しているかどうかは、病院や診療所によってかなり異なります。極端に言えば、ITを活用している病院・診療所とITを活用していない病院・診療所に二分化されているともいえます。
 ここで、病院・診療所名は伏せますが、ある病院・診療所の例を紹介します。

 この病院・診療所では、予約をホームページから行うことができます。
 予約には時間予約と順番予約があります。時間予約とは、文字通り、希望する時間帯を指定して予約できるものです。例えば、午前10時から10時30分の間に予約を入れるといった具合です。

 次に順番予約とは、時間帯を指定するのではなく、予約順が決まるというものです。例えば、時間予約ができるのが午後の診療は15時から18時までの間で、18時以降は順番予約のみとします。この場合、18時以降に予約を入れる場合は、ホームページから申し込んだ順に、診察の順番が決まっていきます。ホームページにアクセスして順番予約をするときに、先に1番、2番の人の診察順が決まっていれば、自分は3番というわけです。順番なので何時何分になるのかは決まっていません。

 さらに、この病院・診療所では、順番予約の場合、診察の順番が近づいてきた場合、登録したメールアドレスにメールが届きます。さらに、ホームページ上でも、どの番号までの患者の診療が終了したのかがわかります。スマートフォンを使えば、手元で自分の順番がどこまで近づいてきているのかを、場所を問わずリアルタイムで把握することができます。

3.顧客満足の追求の必要性
 このシステムの最大のメリットは、待合室での待ち時間を大幅に削減できることです。
 病院・診療所に行ったとき、すでに多数の患者の受付が行われており、いまから1時間どころか2時間待ち、といった経験をされた方は少なくないと思います。
 病院・診療所に行くときは、何かしら体調不良の場合ですから、こんなときに2時間待ちなんて大変苦痛です。
 どの病院・診療所にも雑誌や新聞が置いてありますが、自分の読みたいものが置いてあるとは限らないし、体調不良のときに雑誌や新聞を1時間~2時間の間、読むのは疲れます。今の時代ならばスマートフォンがありますが、それでも体調不良のときにスマホを1~2時間見るのは疲れます。それに、最近はそうでもないようですが、医療機関内のスマートフォン禁止というところもあります。
 
 このように、病院・診療所にたどり着いたのはよいものの、長時間待たされるのは患者にとってはうんざりです。
 しかしながら、上記の予約システムならば、時間予約の場合はその時間帯に行けば、待ち時間はあるものの、長時間の待ち時間は生じません。また、順番予約の場合も、自分の順番が近づいてくるまで、例えば自宅にいるとか、会社員の場合であれば、オフィスで仕事を続ける、あるいは夜ご飯をすませる、といった時間の活用も可能です。

 これは、患者の待ち時間に係るストレスを軽減するという、いわば顧客満足を達成するためのシステムともいえます。
 もちろん、病院・診療所は最新の医療技術、最新の医療機器、ドクターの腕が必要です。しかしながら、こういった有形の資産において、他の病院・診療所とものすごく大きな差がなければ、ここで紹介した顧客満足を達成することができる無形の資産を持っている病院・診療所に患者は流れていきます。
 別の言い方をすると、「患者は待っていて当たり前」という上目線的な発想は、もう持ってはいけないということです。

 今回は、ITの活用による待ち時間の軽減というテーマを取り上げましたが、今後、病院・診療所の経営は、本業の医業だけではなく、いかに顧客満足を向上するようにするかといった、顧客(患者)視線の経営がますます必要になってきます。
 このようなことは以前から言われてきたことですが、意外にも実践しているところと実践していないところがはっきり別れてしまっています。しかしながら、診療報酬が今後、ますます抑制されることははっきりしていますので、ITを最大限に活用した顧客満足達成のための経営を行うことが望まれます。


2019年2月18日月曜日

日本発のイノベーションがなかなか出てこない理由

1.はじめに
 いま、NHKの朝の連続テレビ小説では「まんぷく」が放映されています。
 「まんぷく」は日本のイノベーションの一つでもある「インスタントラーメン」が生まれた物語を描いています。
 この「インスタントラーメン」とは安藤百福氏が発明した「チキンラーメン」です。
 「まんぷく」でも描かれていますが、研究室という名の小屋で、小麦粉に味付けや添加物を入れて麺にし、お湯でもどすという実験を試行錯誤しながら何度も繰り返します。ついに、ある日、天ぷらをヒントに、麺を油であげるという製法を開発します。これにより、油であげた麺にお湯をかければ2分で食べることができるという世界初のインスタントラーメンが生まれました。
 上記のように、このインスタントラーメンは日本が誇るイノベーションの一つです。
 
2.日本のイノベーションは少ないのか
 今日のタイトルは「日本発のイノベーションがなかなか出てこない理由」としましたが、では、日本からはイノベーションが本当に少ないのかというと、必ずしもそんなことはないと思います。
 昨年9月に日本公認会計士協会京滋会の研修旅行で、イノベーションを生み出す思考法の一つと言われるデザインシンキング(Design Thinking)の体験学習のため、アメリカ・カリフォルニア州のMenlo Collegeを訪れましたが、このとき担当されたBruce Paton教授は「日本はイノベーションがなかなか出てこないというが、かつて日本ではいろいろなイノベーションがあり、アメリカ人も日本のイノベーションを学んでいた。」という説明がありました。
 ちなみに、そのときに配られたレジュメでは、「ウォークマン」「新幹線」「マリオブラザーズ」「ピカチュウ」の写真が掲載されていました。
 実際に、かつての日本には日本発のイノベーションによる製品はいろいろなものがありました。
 自動改札機もそうですし、LEDもそうです。
 とはいえ、日本で開発されたものもガラパゴス化して世界には普及しないなど、世界に普及したイノベーションがあまり多くないのは事実かもしれません。

3.権威主義がイノベーションを阻害する
 LEDは東北大学名誉教授の故西澤潤一教授が開発したものですが、西澤教授は、その他にもPINダイオードや光ファイバーなど数々の発明を行います。
 しかしながら、その人生は苦闘の連続だったといいます。
 なぜかというと、西澤教授が発明した独創的な技術が日本ではなかなか認められなかったからです。
 PINダイオードを発明し、学会で発表したとき学会は「米国の誰も、そんなことはいっていないのだから、お前のいうようなことはあるはずはない。実験が間違っているのだろう」(「異才時代」竹村健一著(学研)P136より)という冷たい反応だったそうです。
 しかし、その後、アメリカで西澤教授と同じ内容の論文が次々と発表されると、あわてて日本のメーカーが米国のメーカーの特許を導入しようとしたそうです。
 この竹村健一氏の本では「こうしたいきさつは日本人がいかに「権威」に弱く、創造力を認めていく風土に欠けているかをよく示している。」と記載されていますが、確かに理科系の分野ではヒエラルキーが存在していて、下位の者が上位の者を追い抜こうとすることを認めない傾向があります。
 また、西澤教授がある実験で定説と異なる結果が得られたとき、所員に新しい理論としてまとめるよう指示したとき、その所員は「本にはこのように書いてあります。だから、この実験は間違いではないか」(同著P138より)と言ったそうです。
 これも権威主義の弊害といえます。「本に書いてあるから」としてしまっては、それ以上の発展は望めません。本の内容を信じてしまっていることが問題と言えます。もしかしたら本の内容が間違っているかもしれません。本に書かれたことはあくまで過去の情報です。過去情報なのですから、それに依存してしまっては未来情報は開拓できないといえるでしょう。
 この点で、デザインシンキングではニーズを探るとき、アンケートやインタビューは行わないそうです。なぜかというと、アンケートやインタビューから得られた回答は「常識的」な回答しか得られないからです。つまり大多数の人間が考えていることは過去情報といえます。過去情報から全く新しい未来情報は生まれにくいのです。
 そこで、デザインシンキングでは「観察」を重視します。人間の行動を観察して潜在的ニーズを発見するというわけです。なぜかというと、人間の行動が人間の欲求を表しているからです。
 このように、イノベーションを起こすには、権威主義からの脱却がひとつのカギになると思います。

2019年2月11日月曜日

公益法人インフォメーション~電子申請システムリニューアル

1.概要
 少し前になりますが、公益法人informationの電子申請システムが新しくなりました。
 以前のシステムは、何かと使いづらい面がありました。この点は、内閣府や行政庁も認識されていたようで、ある行政庁の説明会では「現状の公益法人インフォメーションは使いにくいので、新しいシステムに移行します。」という説明をしていたという話を公益法人関係者から聞いたことがあります。
 実際、私も、ある行政庁関係者とこんな会話がありました。

「今の公益法人インフォメーションはいかがですか?」
「う~ん・・・」
「ですよね・・・ いろいろと使いづらい点があり申し訳ございません。」

2.どのように使いづらかったのか
(1)保存が面倒
 では、どのように使いづらかったのかかというと、まず、とにかく注意しないと保存ができなかったという点です。
 実際に公益法人インフォメーションを使用された方はよくご記憶だと思いますが、まず各別紙、別表の作成を行ったときは、右下の「登録」ボタンとクリックする必要があります。
 普通の感覚では「登録」ボタンを押せば登録されて保存されたものと思うのですが、実はそれだけでは不十分で、その後に出てくる別紙や別表の一覧が出てくる画面の下の方にある「一時保存」というボタンをクリックする必要がありました。
 この2段階の操作を行って初めて、作成した別紙、別表が公益法人インフォメーションに保存されます。
 もちろん、手順を踏めば問題はないのですが、結構多くの人がトラップに陥って、せっかく作成した別表、別紙を保存できず、また一から作成するという悲劇を起こしてしまいました。
 なぜかというと、旧システムではパソコンを一定時間使用しないままだと、画面がクラッシュしてしまったからです。結構この時間が短くて、私の記憶だと5分位だったと思います。
 そうなると、登録ボタンはクリックしたものの、一時保存をクリックしていていなかったために、パソコンをしばらく動かさなかったことから画面がクラッシュし、時間をかけて作成した別表、別紙が保存されなかったという、泣くに泣けない悲劇が起こってしまったというわけです。

(2)「自動計算」の仕組みがまちまち
 別紙、別表はいろいろと数値を入力するとことがありますが、自分でクリックしないと計算結果が反映されないところもあれば、勝手に自動計算されるところもありました。このあたりがまちまちなので、計算ボタンのクリックを忘れてしまう人もよくいました。
 私の記憶では、別紙1の収支相償の欄で計算ボタンのクリックし忘れが多かった印象があります。ただ、これは旧システムの表記が紛らわしかったからだと思います。旧システムの手引きが削除されてしまったため、記憶に頼るしかないのですが、あたかも自動的に別表A(1)の計算結果が反映されるような表記だったと記憶しています。
 かと思えば、別紙1の遊休財産の計算結果や別表H(1)の計算結果は自動的に反映されていました。
 このように、画面によって、どれがボタンをクリックしないといけないのか、自動計算されるのかが分かりづらく、ミスが生じるということもありました。

(3)その他
 その他では、行の追加や削除に時間がかかり使いづらかったという記憶があります。
 役員名簿や社員総会・評議員会・理事会の議事内容を記載する欄がありますが、このあたりでは、行を追加したり削除することが多くなります。このとき、エクセルのようにサクサクと行かないので、時間がかかります。
 また、別表B(5)や別表F(1)(2)のように一部がエクセルになっているという謎の構造もありました。それだったらこれらもシステムにして、計算結果が自動反映されるようにすれば時間の短縮になるのに、と思ったこともあります。

3.新システムはエクセルで作成
 このような旧システムでしたが、新システムではエクセルで作成するという形式に変わりました。
 まだ、電子申請は行ったことはありませんが、まずエクセル一式が入った圧縮ファイルをダウンロードするところから始まります。
 このエクセルについては、事業報告等の提出の場合は「流用」ができます。このあたりは旧システムと同様です。しかしながら、事業計画等や届け出については流用はありませんでした。もっとも、流用しなくても大きな問題はない書類ではあります。
 なお、たまたまだったのかはわかりませんが、私がダウンロードしたときは妙に時間がかかりました。従って、早めにダウンロードしておくほうがよいかと思います。
 エクセルには計算式が組み込まれていますので、必要なところは自動計算されます。このあたりは旧システムよりも使いやくすくなったという印象です。
 また、エクセルなので行の追加や削除も行いやすくなりました。
 さらに、エクセルなので、旧システムのように画面がクラッシュして保存されないということもありません。エクセルの保存ボタンをクリックすればよいので使いやすくなりました。
 このエクセルを新システムにアップロードして提出するという流れです。

 ただし、旧システムと異なる点もあります。
 新システムでは、提出する前に「様式チェック」というものがあります。これをクリアしないと申請できません。
 これは形式的なチェックなので、数値の誤りまではチェックされません。
 試しに、この様式チェックを使ってみましたが、こちらも妙に時間がかかりました。このあたりは今後改善されるではないかと思いますが、今年の電子申請は早めに行うほうがよいと思います。

2019年2月3日日曜日

日EU・EPA発効~その効果とビジネスへの影響

1.はじめに
 2019年2月1日付で日EU・EPAが発効されました。(注:マスコミなどでは「日欧EPA」と呼んでいますが、政府、各省庁は「日EU経済連携協定(日EU・EPA協定)」と呼んでいます。ここでは「日EU・EPA」と記載することにします。)
 これにより、日本とEUとの間で巨大な自由貿易圏が誕生しました。日本からの輸出、日本からの輸入についても関税が引き下げられ、最終的にはゼロとなります。一部品目については、発効日の2019年2月1日付で即時撤廃、すなわち関税がゼロとなりました。

2.そもそもEPAとは何か
 2018年12月30日にはTPP(Trans-Pacific Partnership 環太平洋パートナーシップ)が発効され、こちらもアジア太平洋地域に巨大な自由貿易圏が誕生しました。
 ここで、EPAやTPPと、自由貿易圏を巡っていろいろな用語が出てきます。自由貿易圏についての言葉であるということはわかりますが、どのような違いがあるのでしょうか?

 自由貿易の促進については、もともと1995年に発足したWTO(World Trade Organization 世界貿易機関)が発端です。このWTOにより自由貿易を発展させていこうという動きが始まりました。しかしながら、原則として、現在加盟している全164の加盟国及び地域のすべての同意が必要であるため、先進国と発展途上国との対立もあり、全会一致は困難なものとなりました。

 そこで、2国間で協定を締結する動きが出てきました。2国間であれば、WTOよりも交渉などを進めやすいからです。このようにしてできたのがFTA(Free Trade Agreement 自由貿易協定)です。このFTAは「特定の国や地域の間で,物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的とする協定」です(外務省HPより)。

 このFTAは、関税などの削減・撤廃を目的としてものですが、こういった貿易面のみならず、「貿易の自由化に加え,投資,人の移動,知的財産の保護や競争政策におけるルール作り,様々な分野での協力の要素等を含む,幅広い経済関係の強化を目的とする協定」(外務省HPより)がEPA(Economic Partnership Agreement 経済連携協定)です。簡単に言ってしまえば、EPAは貿易のみならず、ヒトやサービス、種々の規制といった面についても自由化していこうというものといえます。

 さらに、2国間の協定から、さらに範囲を広げて地域で協定を締結しようという流れも出てきました。このようにすれば、各国とそれぞれに協定を締結するよりも、一度に複数の国と協定を締結できるので効率的です。そのような中で誕生したのがTPP(Trans-Pacific Partnership 環太平洋パートナーシップ)です。
 今回の日EU・EPAも、日本とEUの間での協定ですが、地域間での協定といえます。
(参考:経済産業省「【60秒解説】TPP、EPA、FTA・・・何が違う?」)

3.日EU・EPAとTPPの参加国
(1)日EU・EPA
 日EU・EPAは、日本とEUの協定となりますので、EU加盟国が参加国となります。
 
 日本・ベルギー・ブルガリア・チェコ・デンマーク・ドイツ・エストニア・アイルランド・ギリシャ・スペイン・フランス・クロアチア・イタリア・キプロス・ラトビア・リトアニア・ルクセンブルク・ハンガリー・マルタ・オランダ・オーストリア・ポーランド・ポルトガル・ルーマニア・スロベニア・スロバキア・フィンランド・スウェーデン・英国

(2)TPP
 TPPの参加国は日本を含めて11カ国です。そのため「TPP11(イレブン)」という呼び方をすることもあります。
 
 日本・オーストラリア・ブルネイ・カナダ・チリ・マレーシア・メキシコ・ニュージーランド・ペルー・シンガポール・ベトナム

 TPPは米国が不参加を表明したことにより先行きが危ぶまれましたが、日本の安倍首相のリーダーシップによりTPPの実現に至りました。そのため、他国は日本にとても感謝をしているということです。

4.ビジネスへの影響
 今回の日EU・EPAでは、輸入ワインの関税が即時撤廃となり、小売業では値下げセールが行われるなど、輸入品に注目が集まっています。しかしながら、上記のように、EPAは貿易のみならず、ヒトやサービスといった面でも自由化が進められていきます。
 ちなみに、FTAやEPAについては、日本はすでに多数の国と締結しています。外務省のHPによると、2018年8月現在で

 シンガポール,メキシコ,マレーシア,チリ,タイ,インドネシア,ブルネイ,ASEAN全体,フィリピン,スイス,ベトナム,インド,ペルー,オーストラリア,モンゴルが発行済で、これにEUが加わりましたので、16カ国及び地域と発行済ということになります。

 このEPAはヒトやサービス面の自由化も促していると書きましたが、現在、我が国ではインドネシア、ベトナム、フィリピンとのEPAにより介護人材の受け入れが進んでいます。このように、少子化が進む我が国において、ヒトの移動も行われています。ちなみに技能実習生制度はEPAとは異なる制度です。
 
 このように、貿易面だけでなく、さまざまな分野においてEPAの効果が徐々に出てきますので、どのような自由化が進んでいるのかを常にチェックすることが必要です。


2019年1月27日日曜日

会計監査実施法人に対するアンケート調査の第1次調査の結果についての感想

1.はじめに
 平成30年11月5日に「会計監査人の設置基準の引下げ延期」というタイトルでブログを書きましたが、このとき厚生労働省は同時に、会計監査人監査の対象となっている社会福祉法人に対してアンケートを実施しました。アンケートの詳細については日本公認会計士協会のページにも掲載されていますので御覧ください。
 このアンケートですが、会計監査実施法人に対するアンケート調査の第1次調査の結果が大阪府のページに掲載されていました。こちらにつきましてはMMPG様よりお知らせいただきました。ありがとうございます。
 以下、感想を記載したいと思います。なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.「会計監査及び予備調査で発見に至った会計処理の誤り」
 P7では「会計監査及び予備調査で発見に至った会計処理の誤り」が記載されています。
 発生割合が大きい項目について上位3つを抜粋すると以下のとおりです。
  • 「賞与引当金、徴収不能引当金について」→35.2%
  • 「減価償却(国庫補助金等特別積立金取崩額を含む)の計算について」→24.2%
  • 「収益及び費用(人件費、事業費、事務費)への発生主義(実現主義)の適用について」→20.4%

 確かに、これらの科目についての誤りは多く見られました。
 簡単に主な誤りを記載すると、賞与引当金については①未計上であった場合や②計上していても法定福利費分を含めていなかった、というものが多く見られました。
 減価償却費については、減価償却費の計上というよりは減価償却累計額の期首残高の誤りが多く見られました。これは減価償却の計算方法の取扱が平成12年、平成23年、平成29年と3回にわたって改正されたため、この過程で固定資産管理ソフトへの入力誤りなどがあったためと推測されます。
 発生主義については、収益よりは費用の発生主義の適用不備が見られました。例えば、締日翌日から期末日までの期間に係る未払給与の計上漏れ、それに伴う法定福利費の計上漏れ、経費の未払計上漏れ、支払利息の未払費用計上漏れ、などです。
 なお、私の範囲内ですが、会計監査人監査の対象となる社会福祉法人では、月次決算で発生主義会計を適用している法人も多くみられました。こういった法人では重大なカットオフエラーは見受けられませんでした。
 逆に、月次決算を現金主義会計で行っていると、期末時に大きなカットオフエラーが生じやすい傾向がありました。やはり、常日頃から発生主義会計を行っていれば、期末に大きなエラーが生じるリスクは少なくなるといえます。
 この点は「月次決算と費用のカットオフエラー」にも記載しましたのでご参照いただけますと幸いです。

3.任意監査の効果
 平成28年度に任意監査を受けていた社会福祉法人は、上記2で示したものを含む会計処理の誤りが期末監査で生じることが非常に少なかったという結果も出ていました。
 厚労省の記載によると、以下のとおりです。

「平成28年度に任意で会計監査を受けている法人、受けていない法人で、誤りの発生割合と修正額を比較したところ、顕著な差がありました。平成28年度は任意になりますが、会計監査のアプローチが適正な財務報告に有効であることを示しています。」

 この点については、当ブログでも「会計監査人の設置基準の引下げ延期」においても「この点を踏まえると、社会福祉法人側では、設置基準の引き下げが決まってから予備調査を始めるのではなく、今の時点から予備調査を受け、任意監査契約を締結することが望まれます。この任意監査の期間に、内部統制の不備や会計上の誤りを修正していくわけです。そうすれば、法定監査に入ってから、監査法人に大きな指摘(金額の大きい会計上の誤りなど)を受ける可能性は低くなります。」と記載しましたが、そのとおりの結果となりました。

 なお、任意監査については「監査法人による任意監査」にも記載しましたが、監査法人の監査は、法定監査を受ける義務がない一定規模未満の会社や非営利法人等であっても、一定の要件を満たせば、任意監査契約を締結することで任意監査を受けることができます。

4.不正の抑止力
 会計監査による効果については、「カ.不正の発見可能性が高まり、不正の抑止力になった」の自由記載について、以下が紹介されていました。
  • 会計監査を通じて、実際に不正の発見はなかったが、不正の抑止力になっていると感じる。
  • ポイントとなるところについて改善することで、不正防止の環境が整いつつある。
  • 見られている感もあるので良いと思う。
 社会福祉法人については、経営者不正もありますが、従業員不正もよく発生しているという印象があります。
 従業員不正については、内部統制の運用上の不備よりは、そもそも、内部統制の仕組み(デザイン)自体が構築されていないという整備上の不備が多く見られます。
 従業員不正については、このブログでも上場企業も含めていろいろと事例を紹介してきましたが、まず仕組みそのものを構築する必要があります。そうしないと、管理者が不正の発生に気をつけていても、牽制が効いていないため、従業員不正の発生可能性が高くなってしまうからです。
 従業員不正の防止のための内部統制については、「平成30年度民間社会福祉施設長研修会で使用したレジュメについて」において、京都府の「平成30年度民間社会福祉施設長研修会」で使用したレジュメを紹介しています。京都府のページに資料が掲載されていますので、参考としていただけますと幸いです。
 

2019年1月21日月曜日

社外監査役の効果

1.はじめに
 先日、日本経済新聞などで、一定の要件を満たす会社には社外取締役の設置を義務付けるという会社法の改正が行われるという記事が掲載されていました。
 現行法では、「事業年度の末日において監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものが社外取締役を置いていない場合には、取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない。」(会社法327条の2)とされており、上場企業など一定の要件を満たす会社には、社外取締役の設置は法令上、義務付けられていませんが、実質的に設置を強制されているような体制となっています。
 次回の改正では、法令上、非上場の会社も含めて一定の要件を満たす会社には社外取締役の設置を義務付けるという方向のようです。

2.社外監査役の設置
 一方、監査役については、監査役会設置会社においては、監査役は、三人以上で、そのうち半数以上は、社外監査役でなければならないとされています(法335条③)。
 一定の要件を満たす株式会社において社外監査役の設置が義務付けられたのは旧商法時代です。このときの印象ですが、「社外監査役を設置してもガバナンスの強化にはつながらないのではないか」と当時は思いました。
 しかしながら、財務諸表監査を行うようになり、実務の世界に入ると、社外監査役はそれなりに効果があったのではないかと思うようになりました。

3.社外監査役の強み
 社外監査役には、当時は弁護士の方が多く就任していたという印象があります。近年では公認会計士も増えてきているようです。
 このように社外監査役は、本業を持っている人が就任するケースがほとんどだと思います。本業を持っている人の強みは、仮に社外監査役の地位を失っても、収入や生活に影響がないという点です。彼らは自分の事務所を持っていて、もともとそれなりの収入があります。そのため、たとえ会社に嫌われても監査役の職務を全うし、自分の意見もはっきり言いやすいというメリットがあります。従って、社外監査役の存在はガバナンスの強化につながっているのでは、と思っています。
 実際に、社外監査役として取締役にはっきりとモノを申していた方もいらっしゃいました。このような場合であれば、ガバナンスの強化につながっているといえます。

4.社内昇進による監査役の弱み
 一方、会社の従業員から出世して就任した監査役の場合は、取締役に意見を言える人はあまりいないという印象です。監査役はある意味「名誉職」であり、選んでくれた会社には恩義があります。また、それまで従業員だった人が取締役に対してモノをいうのはなかなか難しいと思います。さらに、上記の逆で、仮に監査役の地位を失ってしまうと、報酬がなくなってしまい生活の基盤となる収入がなくなってしまいます。そうなると大変なことになるので、取締役に対して反対意見を言うことはなく、無難に任期を過ごすということになる傾向になるようです。

5.監査法人との連携
 現在の監査制度では、監査基準委員会報告書260「監査役等とのコミュニケーション」というものがあり、監査人は監査役等と双方に報告などを行うことが求められていますが、この監査基準委員会報告書が制定される前から、監査法人と監査役とは「監査役面談」という形で、監査役と情報交換を行っていました。
 ただ、当時、一部の監査法人は、このような監査役等とのコミュニケーションを行っていなかった法人もあったようです。
 私が以前所属していた監査法人では、監査役の取締役会への出席状況を必ずチェックしていたのですが、とある上場企業では、監査役の出席率が極めて低いという状況でした。この要な場合、監査法人からは監査役に対して、必ず取締役会に出席するように(強い口調で)求めていました。実は、この上場企業は、それまでは別の大手監査法人が担当していたのですが、この監査法人は、監査役に対して欠席の多さを指摘していなかったようです。そのため、各監査役も甘く見て、取締役会を欠席することに対して何も思わなかったようです。
 しかしながら、監査役がこのような状況ではガバナンスの強化につながりません。このような場合は、監査法人・公認会計士がしっかりと指摘すべきです。その意味で、監査法人・公認会計士の存在は、取締役会、監査役の機能強化につながる可能性が高くなるといえます。
 なお、現在では少ないかもしれませんが、社外監査役の中には、例えば普段は東京に住んでいて、関西の会社の監査役を務めているような場合、遠隔地なので、取締役会に毎回出席するのは難しい、という人もいるという話を聞いたことがあります。しかしながら、取締役会に出席できないようであれば、監査役を引き受けるべきでありません。

5.最後に
 実務での実感として、社外監査役の設置は、それなりの効果があったと感じました。一定の会社において社外取締役の設置が義務付けられるようになるようですが、こちらも時間を経ながら、一定の効果が出てくるのではないかと思っています。

2019年1月13日日曜日

理事、監事の改選期における注意点~社会福祉法人

1.はじめに
 社会福祉法人では平成29年度から新制度が始まりました。そのため、平成31年度は理事、監事の改選期にあたります。
 そこで、理事、監事の改選期において、注意する点をあげたいと思います。

2.任期の確認
 役員の任期は「選任後二年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時までとする。ただし、定款によつて、その任期を短縮することを妨げない。」(社会福祉法(「以下」法)45条)とされています。
 ほとんどの理事、監事は平成29年6月に選任されたと思われますので、その理事、監事は(元号は変わりますが)平成31年度が改選期になります。

 注意すべきは、この間に理事、監事の交代があった場合です。
 「役員の任期の計算方法~公益法人・社会福祉法人」の再掲になりますが、例えば、平成30年3月に理事に選任された場合、平成31年度の定時評議員会の終結の時までが任期となりますので注意する必要があります。多くの社会福祉法人は6月に定時評議員会を開催するので、この場合だと、平成30年3月に選任された理事は平成31年(2019年)6月までが任期となります。期間は約1年3ヶ月となります。旧制度と異なり、丸々2年間ではなくなったので、注意が必要です。



3.監事の選任
 「監事選任における留意点~公益法人及び一般社団法人等、社会福祉法人」でも記載さいましたが、評議員会を開催するときに監事の選任に関する議案を評議員会に提出するには、監事(監事が二人以上ある場合にあっては、その過半数)の同意を得なければなりません(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)72条①、法43条③)。
 この趣旨は監事の地位の安定性を保つためですが、その手段として監事の同意書を書面でもらっておく必要があります。(就任承諾書とは異なります。)。

 再掲となりますが、埼玉県久喜市の公式ホームページ内の「社会福祉法人の運営について」という社会福祉法人向けのページに、Word版で監事の同意書のひな形が掲載されています。

4.就任承諾書
 今回、改選によって改めて選任されるので、就任承諾書も必要です。前回、記載したから今回は不要ということにはなりませんので注意が必要です。
 就任承諾書については、前回のものを使用すればよいですが、兵庫県の「社会福祉法人制度改革に関する資料について」にも掲載されていますので、ご紹介しておきます。
 
 その他、欠格事由などについても確認をしておく必要があります。

5.理事長の選定
 定時評議員会により、理事が選任されたら、その後に理事会を開催して理事長を選定する必要があります(法45条の13③)。
 理事長は理事であることが前提ですから、理事の任期が終了した時点で理事長の地位も消滅しています。従って、改選期においては改めて理事会で理事長を選定する必要がありますので失念しないようにする必要があります。
 
 なお、理事長選定のための理事会は、定時評議員会の直後に開催しても構いません。むしろ、日を空けてしまうとその間、理事長不在ということになってしまい、機関運営上好ましくありません。

 なお、この場合の開催方法ですが、「新理事による理事会の招集方法」にも記載したように、招集手続の省略によって開催すればよいでしょう(法45条の14⑨、一般法94条②)。
 招集手続の省略とは、理事及び監事の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができるというものですが、全員の同意は、書面でなくても問題はありません。口頭でも可能です。

 その他の方法では、同じく「新理事による理事会の招集方法」にも記載したように、決議の省略による方法でも構いません。

2018年12月25日火曜日

公益財団法人を設立するときの注意点(2)

1.はじめに
 以前、「公益財団法人を設立するときの注意点(1)」では、親族規制について記載しました。
 今回は、公益財団法人を設立するまでの過程について記載します。

2.一般財団法人の設立
 公益財団法人を設立するには、まず、一般財団法人を設立する必要があります。いきなり、公益財団法人は設立できません。なぜかというと、公益財団法人とは、一般財団法人のうち、公益認定を受けた法人を指すからです(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下、認定法)4条2号)。すなわち、一般財団法人を設立し、その後、行政庁から公益認定を受けて公益財団法人に至るわけです。



3.一般財団法人の設立における留意点
 一般社団法人や一般財団法人の設立は簡単だ、という話をよく聞きます。しかしながら、これはケースによって異なります。もう少し具体的に言うと、財務会計がどの程度行われているかによって設立までの時間が異なってきます。
 確かに、一般財団法人の場合、定款を作成すれば、ほぼ手続きは終了といってもよいほど比較的簡単にできます。しかしながら、設立登記を行った後、2ヶ月以内に税務署などに設立時貸借対照表を届け出る必要があります。設立時貸借対照表を作成するには資産、負債の関係が明らかになっていなければなりません。これは登記手続きを行う前に終了させておきたいところですが、場合によっては意外に時間がかかります。

 以下、ケースに分けて説明します。

 まず、①全く活動実績がない新規設立の場合と②それまで任意団体として活動してきた場合の2つに分けます。

①全く活動実績がない新規設立の場合
 この場合は、比較的簡単に設立できます。
 財務会計については、これまで活動実績がないため、会計帳簿はありません。従って、設立時貸借対照表を作成すればよいことになります。ただし、どのような財産を法人の資産にするのか、その範囲と金額について定める必要があります。金額については、現金預金であればわかりやすいですが、固定資産の場合は価額のつけ方が難しい場合もあります(文化財など)。

②それまで任意団体として活動してきた場合
 この場合、どのような会計を行ってきたかによって異なります。具体的には、複式簿記による会計を行ってきたかどうかによります。

(イ)複式簿記を行ってきた場合
 それまで、複式簿記による会計を行ってきた場合は、比較的スムーズに設立できます。複式簿記によれば、資産、負債、正味財産の関係が明らかになっているためです。そのため、設立時貸借対照表の作成にはそれほど時間はかかりません。もちろん、資産の実在性など、会計上適正である必要があるので、そのチェックに多少時間がかかる場合もあります。

(ロ)複式簿記を行っていなかった場合
 複式簿記を行っていなかった場合は、いわゆる単式簿記の方式になっているため、資産、負債の関係を明らかにするまでに時間がかかりやすい傾向にあります。
 現金や預金の残高の把握には時間はかからないことが多いですが、例えば、所有する固定資産については減価償却を行っていないため、減価償却を行った後の帳簿価額の計算に時間がかかることもあります。具体的には、いつ取得して、何年経過しているのか、取得価額はいくらだったのかといった情報の把握に意外に時間がかかります。
 負債に関しても、未払金を計上したことがないので、債務がどこまであるのかの把握に結構時間がかかります。

 このように、設立時貸借対照表を作成することは、一見、簡単なように見えますが、ケースによって完成するまでの時間が変わってきます。こういったところで、一般財団法人の設立までのハードルは異なってきますので、設立する場合は、現状の把握を行うことが必要です。 

2018年12月18日火曜日

LEDランプと修繕費

1.LEDの特徴
 LEDとははLight Emitting Diodeの頭文字をとったものです。日本語では発光ダイオードといいます。
 このLEDは従来の白熱灯・蛍光灯と比べて、少ない消費電力で使用でき、熱の発生も少なく、寿命も長いことが特徴です。
 そのため、企業等においても蛍光灯からLEDに変えるところが増えてきています。

2.収益的支出と資本的支出との関係
 従来の蛍光灯からLEDに取り替えた場合、その取替費用につき、税務上の処理が問題となります。

 税務上、資本的支出については、法人税法基本通達7-8-1では「法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額が資本的支出となる」とされています。

 また、収益的支出については、法人税法基本通達7-8-2で「法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の通常の維持管理のため、又はき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額が修繕費となる」とされています。

 LEDは、上記の通り、従来の白熱灯や蛍光灯と比べて機能が高いものといえます。
 そのため、LEDの取り替えにかかる支出は、感覚的には資本的支出になりそうな感じがします。

3.LEDへの取替費用は修繕費
 しかしながら、国税庁の質疑応答事例では、

「当社では、節電対策として自社の事務室の蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替えることを考えていますが、その取替に係る費用については、修繕費として処理して差し支えありませんか。」

という照会に対して、

「蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替えることで、節電効果や使用可能期間などが向上している事実をもって、その有する固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増しているとして資本的支出に該当するのではないかとも考えられますが、蛍光灯(又は蛍光灯型LEDランプ)は、照明設備(建物附属設備)がその効用を発揮するための一つの部品であり、かつ、その部品の性能が高まったことをもって、建物附属設備として価値等が高まったとまではいえないと考えられますので、修繕費として処理することが相当です。」

という回答を出しています。

 なお、この質疑応答事例では注記として
「平成29年7月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。
 この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。」

 とされていますが、上記の通り、LEDの取替費用は収益的支出として修繕費で処理して、まず問題はないと考えられます。
 修繕費としてよい理由は上記の国税庁の回答のとおりですが、私見では、これは日本政府がLEDを普及させたいという思惑があることから、税務上もLEDの普及を促進するために損金算入を認めてバックアップしているのではないかな、と思っています。
 
 なお、会計上の処理ですが、税務上の考えが会計上の考えになるわけではありませんが、このLEDの会計処理については、上記の国税庁の見解は会計の観点から見ても妥当ではないとはいえませんので、修繕費として処理して問題はないと考えられます。 

2018年12月9日日曜日

負ののれんとキャッシュ・フロー

1.はじめに
 ある上場企業で負ののれんを多額に計上していたことがマスコミに報じられていましたが、今回は負ののれんとキャッシュ・フローの関係についてお話したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.負ののれんとは
 通常、企業を子会社にするとき、時価評価後の純資産を上回る価額でその企業の株式を取得するので、のれんが発生します。
 しかしながら、種々の理由により逆に下回る価額でその企業の株式を取得すると、貸方に差額が生じます。この差額を負ののれんと呼んでいます。
 以下、設例を記載します。債務超過までには至っていないものの、業績が悪化している会社を100%子会社にしたというケースを想定しています。

【設例】
・被買収会社の資産180、負債150、資本50、利益剰余金△20 
・子会社株式の取得価額0円(100%取得)
・資産の時価はないものとする。
・この子会社は非上場会社とする。

 連結財務諸表では、仕訳は以下のようになります。

(借方)資本金 50 (貸方)子会社株式   0
               利益剰余金 20
               負ののれん 30

 子会社株式を純資産の額に相当する30を超える価額で購入すればのれんが発生しますが、30を下回る金額で購入したので、貸方に差額が発生したというわけです。
 この負ののれんは発生した事業年度の利益として計上します(企業結合会計基準33項)。
 この負ののれんは、全額が利益として計上されます。通常ののれんは「資産に計上し、20 年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する。」(企業結合会計基準32項)とされているため、毎期一定額が費用計上されるのれんとは対照的です。

 しかしながら、このような負ののれんが発生することはイレギュラーなケースといえます。場合によっては、その事業年度の利益を増加させたいために、取得価額を意図的に低くして、負ののれんを発生させるという会計操作が行われないとも限りません。
 そのため、制度会計では負ののれんの計上については、以下の手続きを行うことを要求しています(企業結合会計基準33項)。

 負ののれんが生じると見込まれる場合には、次の処理を行う。(中略) 
(1) 取得企業は、すべての識別可能資産及び負債(第 30 項の負債を含む。)が把握されているか、また、それらに対する取得原価の配分が適切に行われているかどうかを見直す。
(2) (1)の見直しを行っても、なお取得原価が受け入れた資産及び引き受けた負債に配分さ
れた純額を下回り、負ののれんが生じる場合には、当該負ののれんが生じた事業年度の利
益として処理する。 

 なお、監査を行う側としては、会社が上記(1)の手続きを適切に行っているかどうかの確認、及びその妥当性について検証する必要があります。

3.キャッシュ・フローとの関係
(1)負ののれんとキャッシュ・フローの関係
 しかしながら、負ののれんを計上して利益が増大したところで、負ののれんからはキャッシュの流入は行われていません。
 以前、「キャッシュ・フロー計算書作成の必要性(1)」で記載したように、利益が黒字だからといって会社が必ずしも資金繰りが順調とは限りません。いわゆる「黒字倒産」というケースもあります。まさに「勘定あって銭足らず」という状態です。
 従って、利益がプラスの場合でも、必ずキャッシュ・フロー計算書を確認し、特に営業キャッシュ・フローがどのような状態になっているのかを確認する必要があります。
 
(2)のれん償却費とキャッシュ・フローの関係
 逆に、営業損益がマイナスであっても、営業キャッシュ・フローはプラスというケースもあります。
 例えば、のれんの償却額が非常に大きい場合、それが原因で営業損失が計上されてしまうこともあります。このようなケースでキャッシュ・フロー計算書を作成してみると、実は、営業キャッシュ・フローはプラスというケースもあります。
 のれんの償却費はキャッシュアウトを伴わないので、営業損失が計上されていても、会社に営業損失に相当する資金流出が必ずしも発生しているとは言えないということです。 
 このような場合は、損益計算書では営業損失が計上されていて、一見、よくなさそうに見えるものの、資金繰りは順調というケースがあります。
 従って、同じく、損益計算書だけでなく、キャッシュ・フロー計算書もあわせて見ることが重要です。

2018年12月3日月曜日

大手電機メーカー元部長の不正発注

1.事件のあらまし
 平成30年11月27日なので少し前の話ですが、大手電機メーカーの開発部門の元部長が架空発注により4億4千万円を着服したとして逮捕されたというニュースがありました。
 もともと、平成29年に社内調査で不正が発覚し、元部長は懲戒解雇されていましたが、警視庁が捜査し逮捕に至ったものです。

 具体的な手口は、会社のページによると、この元部長が「取引先の当時取締役の協力を得て」、約8年間、「正規の取引を装って、試作品等の不正発注を繰り返し」たということです。これにより、元部長は「代金を自らに還流させ私的に流用した」ということです。
 会社のページでは「不正発注」と記載されており、マスコミでは「架空発注」と記載されています。こちらでは真実を知ることはできませんが、今回は「架空発注」ということで進めたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.架空取引を防止するための内部統制
 以前、「架空取引に係る内部統制」というタイトルで架空取引を防止するための内部統制を説明しました。
 このときも、同様に架空取引による事件が発生していました。
 大手電機メーカーなので、内部統制のデザイン(仕組み)はできていたのだと思いますが、このような架空取引の発生はよく発生します。ニュースにならない不正も世の中にはかなりあるのかもしれません。

 架空取引や水増し取引を防止するためには、

 ①発注者と発注担当者は別の人にする
 ②納品時の検収担当者は発注者とは別の人にする。
 ③支払いの担当者は、発注者や検収担当者とは別の人にする。
 ④支払い担当者は、発注書、納品書、請求書を照合する。
 
 という内部統制の仕組みを構築することが効果的ですが、大手電機メーカーであれば、このような仕組みは設けていると思います。
 今回、特徴的なのは「試供品等」を発注したという点です。色々なケースがあると思いますが、試供品となると、おそらく複数の会社の試供品を購入して、比較検討するでしょうから、相見積もりは行っていないと思います。そうなると、取引先が設定した価額で購入することになります。とはいえ、これはしょうがないと思います。
 
 ただ、それでも検収を発注依頼者とは別の人にして納品書に押印し、支払担当者は発注書、納品書、請求書を照合すれば、8年間という長期間の架空発注などの不正は防止できるのでは、と思うのですが、残念ながらそうはなりませんでした。
 今回は、開発部門ということのようなので、開発部門の中の内部統制に不備があったのかもしれません。

 架空取引の場合、相手先の協力があることが多く、実際、今回も取引先の取締役の協力があったということですが、考えられる可能性としては、このようなものかもしれません。

①取引先の取締役が、架空の納品書を元部長宛に送る。
②その納品書に元部長が、検収担当者の検収印を不正に使用し、押印する。
③開発部門から、発注書と納品書が支払担当者に送られる。
④取引先の取締役が架空の請求書を会社に送る。
⑤支払担当者は、照合するものの不正に気づかずに支払をしてしまう。

 仮に、上記の場合だと、検収印を不正に使用させないことが重要です。
 実際に、従業員の個人の印鑑が無断で使用され、不正に利用されたというケースがあります。従って、印鑑の管理は非常に重要です。
 
 他にももっと巧妙な手段もあるのだと思いますが、今回はここまでとします。