2018年6月30日土曜日

キャッシュ・フロー計算書作成の必要性(1)

1.はじめに
 今回はキャッシュ・フロー計算書について記載します。
 キャッシュ・フロー計算書の作成方法については、多くのサイトで紹介されていますので、当ブログでは作成方法について多くは触れず、主に中小企業向けに、キャッシュ・フロー計算書の有用性を記載していきたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.キャッシュ・フロー計算の目的
 キャッシュ・フロー計算書は、1会計期間のキャッシュ・インフローとキャッシュ・アウトフローを示すので、資金の流入と流出を知ることができます。
 損益計算書の収益と費用は発生主義で計上されているので、収益と費用は必ずしもその期間の資金の流入と流出を表してはいません。そのため、損益計算書での損益計算のみを行っていると、資金繰りの悪化に気づかず、黒字にもかかわらず、突然資金ショートを起こすリスクもあります。これを「黒字倒産」といいます。
 逆に、損益計算書では赤字であっても、キャッシュ・フローはプラスというケースもあります。
 上場企業など金融商品取引法監査の適用を受ける会社では、キャッシュ・フロー計算書の作成・開示が義務付けられていますが、そうではない会社、特にいわゆる中小企業ではキャッシュ・フロー計算書を作成している会社は多くありません。
 しかしながら、キャッシュ・フロー計算書は、1会計期間の資金の流入と流出を知ることができるため、非常に有用です。従って、ぜひ作成されることをおすすめします。
 また、作成されるときは、月次決算とあわせて、キャッシュ・フロー計算書も月次で作成すると有用です。

3.作成のためのツール
 キャッシュ・フロー計算書には、営業活動によるキャッシュ・フローの示し方として直接法間接法がありますが、実務上、間接法を採用している会社のほうが圧倒的に多いです。理由は、間接法のほうが作成しやすいからです。
 そこで、間接法で作成することを前提に、作成のためのツールを記載します。キャッシュ・フロー計算書の作成のツールとしては、実務上は精算表を使用して作成することが多いです。
 精算表では、前期と当期の貸借対照表の数値の差額を、キャッシュ・フロー計算書に落とし込むような形で数値を入力していきます。この精算表では、タテの列とヨコの列に検算式が組み込まれていますが、どの列もゼロになるように入力する必要があります。入力誤りがあれば、ゼロになりませんので、誤った場合はすぐにわかることになります。
 ただし、精算表は、自分で一から作成するのは非常に難しいので、Web上で公開されているテンプレートを利用するほうがよいです。「キャッシュ・フロー計算書 精算表」と検索すると、いろいろなサイトが出てきますので、使いやすいものを選ぶとよいでしょう。

4.精算表の作成方法
 精算表は便利なツールです。しかしながら、最初は精算表を作成するのにも時間がかかると思います。というのは、科目設定の仕方や入力の仕方については、初めての人だとわかりにくいからです。
 そこで、最初は、顧問の公認会計士や税理士など、精算表を使ったキャッシュ・フロー計算書の作り方を知っている会計専門家に作成してもらうのがよいと思います。一回設定をしてもらえば、後は貸借対照表の数値を入力すれば、概ね完成に近づきます。
 そして、最初の数回は会計専門家が作成しますが、その後は会社の経理部で自製し、チェックをしてもらうという流れになるとよいと思います。

5.精算表の見本
 精算表については、日本公認会計士協会の会計制度委員会報告第8号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」にも記載されています。
 日本公認会計士協会のHPで見ることができるのですが、探しにくいと思いますので、順序を記載しておきます。
 ホーム→専門情報→実務指針等公表物一覧→報告書 と進んでください。(「会計制度委員会報告」なので「報告書」のカテゴリーとなります。)
 この中に、【会計制度委員会報告】の欄がありますので、委員会報告の8号の「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」をクリックすればPDFファイルがダウンロードされます。
 この中の設例に精算表も紹介されています。
 以下は、設例に記載されている精算表の一部を抜粋したものです。文字がぼやけていますがご了承ください。




2018年6月23日土曜日

転売を目的としたパソコンの不正購入(2)

1.概要
 前回は、転売を目的としたパソコンの不正購入の事例を3件紹介しました。
 今回は、これらの事例をもとに、不正の発生原因とその対策を記載していきたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.不正の発生原因
(1)3つの事例について
 3つの事例は新聞記事によるものであり、実際に検証したものではありませんので、発生原因はあくまで推測ですが、新聞記事に記載されている事象をもとに不正の発生原因を探ってみたいと思います。
 まず、3つの事例の要約です。

(イ)大手メーカー子会社A社のケース
 元社員は、取引先に納入すると偽ってノートパソコン14台を卸業者に発注し、会社に約350万円を支払わせたが、パソコンは取引先に納入せずに自宅に届けさせ、埼玉県内のリサイクルショップに1台数万円で売却した。

(ロ)東証1部上場企業B社のケース
 元社員は、転売目的でパソコンを購入するため、上司の印鑑を無断で押すなどして書類を不正に作成し、代金約3600万円を会社の口座から家電量販店の口座に振り込ませた。

(ハ)大手メーカー子会社C社のケース
 元社員は、転売目的で業務に必要のないパソコン40台を取引先に発注し、会社に計約800万円を支払わせるなどした。パソコンはネットオークションで売却した。

(2)発生原因~(イ)と(ハ)のケース
 これらの不正の発生原因ですが、特に(イ)と(ハ)は職務の分掌が行われていなかったからではないでしょうか。言い換えると、例えば発注、検収といった業務を一人で行っていたのではないか、ということです。
 資産の購入の場合、通常、発注依頼→相見積もり→発注→納品→検収→請求書到着→会計入力→支払い、というプロセスがとられます。

 このとき、不正を防止するためには職務の分掌がとられる必要があります。
 例えば、検収を行う人は発注依頼者や発注担当者とは別の人にする必要があります。なぜかというと、これらを同じ人が担当すると、横流しのリスクがあるからです。
 発注依頼者と発注担当者も分ける必要があります。これらが同じ人だと、取引先と共謀して架空取引や水増契約のリスクがあるからです。
 このあたりは「架空取引に係る内部統制」にも記載したところですが、いま一度、記載いたします。

  • 発注依頼者と発注担当者は別の人にする。
  • 納品時の検収は発注依頼者、発注担当者とは別の人にする。
  • 支払いの担当者は、発注者や検収担当者とは別の人にする。
  • 支払い担当者は、発注書、納品書、請求書を照合する。
  • 支払い担当者と経理担当者は別の人にする。

 (イ)のケースは、パソコンが会社に納品されずに自宅に届けられたというのですから、発注依頼者と発注担当者が同じだったのではないでしょうか。発注依頼者と発注担当者が別であれば、発注担当者は会社に納品するように注文するはずだからです。これを1人で行える体制であったため、注文するときに自宅に納品するという指示を卸売業者に出せたのではないでしょうか。
 従って、発注依頼者と発注担当者は別の人にする必要があります。

 (ハ)のケースは、元社員は資機材発注担当者だったということなので、発注担当部門だったようです。この場合、発注担当部門が検収も行っていた可能性があります。発注担当者が検収も行うことができれば、横流しは可能です。
 従って、検収を行う人は、発注担当者とは別の人にする必要があります。

(3)発生原因~(ロ)のケース
 つぎに、(ロ)のケースですが、注目すべきは、上司の印鑑を無断で押すなどして書類を不正に作成したという点です。これだと、会社内部の人も気づきにくいと思います。少なくとも、発注依頼から発注までは何ら問題なく進んでしまったのではないでしょうか。
 印鑑の管理は重要です。印鑑の管理というと、代表者印や銀行印の管理が思い浮かぶと思いますが、個人の印鑑も勝手に使用されないよう、保管する必要があります。この事例以外にも、職員の印鑑を勝手に使用し、稟議書を不正に作成していたという事例もあります。
 従って、印鑑は個人の認印であっても鍵のついた引き出しにしまって、本人以外は使用できないようにする必要があります。

 さて、(イ)と(ハ)のケースは、大手企業の子会社であったため、親会社と同じレベルの内部統制を整備できていなかった可能性がありますが、(ロ)のケースは、東証1部上場企業である親会社での出来事のようなので、内部統制に無茶苦茶大きな不備はなかった可能性が高いと思います。
 そうなると、検収のプロセスに問題があった可能性があります。検収の担当者が元社員とは別の人であれば、納品後に横流しを防止できる可能性が高まるからです。もっとも、(ロ)のケースは、どのように転売したのかが記事では読み取れないので、なんとも言えません。

3.検収後の内部統制
 2では、事例をもとに発生原因とその対策を見てきましたが、パソコンのような資産の購入において横流しの防止を行うには、さらに以下の内部統制の整備・運用が必要です。 
  • 有形固定資産には管理番号シールを添付する。
  • 有形固定資産についても実査を行う。
  • 固定資産の対象とならない備品についても、管理表を作成し、実査を行う。
 なぜ、これらが必要なのかというと、検収の内部統制がしっかりしていても、検収後、ほったらかしにしていたら、誰かが持ち出して転売することも可能だからです。
 従って、資産の検収後も、このような内部統制の整備・運用が必要です。このようにすれば、横流しされた場合、すぐに発見することができますし、横流しの牽制にもつながります。
 

 

 




2018年6月19日火曜日

転売を目的としたパソコンの不正購入(1)

1.概要
 先日、セミナー「従業員不正を防止するために構築すべき内部統制」を開催しました。
 レジュメを作成するにあたり、近年の従業員による不正事例を調べていたところ、転売を目的としたパソコンの不正事例が平成24年から平成30年までの新聞記事で3件見つかりました。こんなに同じ事例が頻繁に起こるものなのかと少々驚きました。
 そこで、今回はこのパソコンの不正購入にかかる不正事例をご紹介したいと思います。

2.大手メーカー子会社A社のケース
 元・・・・子会社社員逮捕=転売狙いパソコン発注容疑-警視庁
(2018年5月17日 時事通信)

 時事通信によると、元社員は「子会社の・・・・(現・・・・・、東京)の販売担当者だった2014年1月下旬~4月下旬ごろ、計7回にわたり、取引先に納入すると偽ってノートパソコン14台を卸業者に発注し、・・・・に約350万円を支払わせ、同社に損害を与えた疑い。同署によると、パソコンは取引先に納入せずに自宅に届けさせ、埼玉県内のリサイクルショップに1台数万円で売却していた。」ということです。

3.東証1部上場企業B社のケース
 会社パソコン365台購入装い転売 元社員の男に懲役4年 高松地裁
(2017年8月8日 産経新聞)

 産経新聞によると、「横山浩典裁判官は判決理由で、上司の印鑑を無断で押すなどして書類を不正に作成し、適切な購入手続きを装った計画的、巧妙な手口で常習性は極めて高いと指摘」し、「判決によると、平成27年1月~28年6月、自ら購入した計365台のパソコンを・・工業が購入したと装い、代金約3600万円を社名義の口座から家電量販店名義の口座に振り込ませた。」ということです。

4.大手メーカー子会社C社のケース
 会社のパソコン、転売目的で購入 背任容疑で男を逮捕 
(2012年3月8日 日本経済新聞)

 日本経済新聞によると、元社員は「転売目的でパソコンを不正発注し」、「パソコンをネットオークションで売却し、借金返済や遊興費に使っていた。計約320台(7千万円相当)を不正発注した可能性がある。」
 「逮捕容疑は、・・・・・・・・システムサービス(東京・千代田)で所属グループの資機材発注を担当していた2010年2~4月、業務に必要のないパソコン40台を取引先に発注し、会社に計約800万円の損害を与えた疑い。」ということです。

5.特徴
 3つのケースをご紹介しましたが、特徴的なのはうち2社が大手企業の子会社であるということです。
 もうひとつの特徴は、これはあくまで推測ですが、内部統制のデザインそのものに不備があったのではないかと思われることです。
 パソコンは昔と比べると購入しやすい価格になりましたが、それでも決して安くはないものです。これを堂々と会社のお金を使って購入し、転売しているのですから驚きます。
 こういった従業員不正が発生する理由は、上記の通り、内部統制の不備にあると推測されますが、次回以降、この不備とその対策について記載していきたいと思います。

2018年6月9日土曜日

役員の任期の計算方法~公益法人・社会福祉法人

1.概要
 6月になりましたが、公益法人及び一般社団法人等や社会福祉法人におかれましても理事会や社員総会、評議員会の開催準備が進んでいるものと思われます。
 今回は、平成29年6月12日に掲載した「理事及び監事の就任日~社会福祉法人」のうち役員の任期の計算方法について、補足する形で記載します。

2.役員の任期
(1)公益法人及び一般社団法人等
 役員の任期について、まず公益法人及び一般社団法人等ですが、法令では理事及び監事の任期についてそれぞれ、次のように規定されています。

(イ)理事の任期
「理事の任期は、選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時までとする。ただし、定款又は社員総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。」(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)66条)。

(ロ)監事の任期
「監事の任期は、選任後四年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時までとする。ただし、定款によって、その任期を選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時までとすることを限度として短縮することを妨げない。」(一般法67条)。
 
 実務では、監事の任期については、ただし書きを適用している法人が多く見受けられます。理由は、これにより理事と監事の任期が同じになるため、手続を行いやすくなるからです。

(2)社会福祉法人
 社会福祉法人については、理事と監事に分けず、役員としての任期が定められています。

「役員の任期は、選任後二年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時までとする。ただし、定款によつて、その任期を短縮することを妨げない。」(社会福祉法45条)

(3)留意点
 社会福祉法人では、以前は任期は「2年」という定め方がされていましたが、新社会福祉法になってからは上記のような規定となりましたので、必ずしも丸々2年とは限らないという点に留意する必要があります。

3.任期の計算方法
 任期の計算方法について、平成29年6月12日のブログでは図がなかったので、わかりにくい面もあったかと思います。
 そこで、今回は図を用いて説明します。

【図1】

 なお、【図1】は、公益・一般財団法人や社会福祉法人が評議員会を開催して役員を選任するケースです。公益・一般社団法人では「評議員会」が「社員総会」になります。

(1)(A)のケース
 (A)のケースは、期末日前の✕2年3月20日に臨時評議員会や臨時社員総会が開催されて役員が専任されるケースです。
 この場合、「選任後二年以内に終了する会計年度」とは✕2年3月31日に終了する会計年度と✕3年3月31日に終了する会計年度となります。
 次に、選任後二年以内に終了する会計年度のうち最終のもの」は✕3年3月31日に終了する会計年度となります。
 従って、選任後二年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで」とは、✕3年3月31日に終了する会計年度に関する定時評議員会や定時社員総会、すなわち、✕3年6月△日に開催される定時評議員会、定時社員総会の終結の時までとなります。
 このケースでは、就任期間は約1年3ヶ月となります。

(2)(B)のケース
 (B)のケースは、いわば通常のケースです。
 こちらも同様に、「選任後二年以内に終了する会計年度のうち最終のもの」とは✕3年3月31日に終了する会計年度となります。
 従って、「選任後二年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで」とは、✕3年6月△日に開催される定時評議員会、定時社員総会の終結の時までとなります。
 この場合、就任期間は2年間よりも数日短い、または数日長いということが多くなると思います。

(3)(C)のケース
 (C)のケースは期末日後、定時評議員会・定時社員総会の前である✕1年4月20日に就任したケースです。
 こちらも同様に、「選任後二年以内に終了する会計年度のうち最終のもの」とは✕3年3月31日に終了する会計年度となります。
 従って、「選任後二年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで」とは、✕3年6月△日に開催される定時評議員会、定時社員総会の終結の時までとなります。
 この場合、就任期間は約2年2ヶ月となります。

4.最後に
 (B)のケースは間違えることが少ないのですが、(A)や(C)のケースは失念されるケースが多いので注意が必要です。特に(A)のケースは間違えやすいので注意が必要です。
 (A)や(C)のケースで役員を選任した場合、【図1】のような時系列表を記載して、任期を確認するとよいでしょう。そのうえで、就任承諾書には就任期間として「○年度の評議員会(社員総会)の終結の時までとする。」と記載します。
 さらに、管理表を作成し、○年度の定時評議員会・定時社員総会ではどの役員の改選となるのかを記載しておくとよいと思います。