2018年6月23日土曜日

転売を目的としたパソコンの不正購入(2)

1.概要
 前回は、転売を目的としたパソコンの不正購入の事例を3件紹介しました。
 今回は、これらの事例をもとに、不正の発生原因とその対策を記載していきたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.不正の発生原因
(1)3つの事例について
 3つの事例は新聞記事によるものであり、実際に検証したものではありませんので、発生原因はあくまで推測ですが、新聞記事に記載されている事象をもとに不正の発生原因を探ってみたいと思います。
 まず、3つの事例の要約です。

(イ)大手メーカー子会社A社のケース
 元社員は、取引先に納入すると偽ってノートパソコン14台を卸業者に発注し、会社に約350万円を支払わせたが、パソコンは取引先に納入せずに自宅に届けさせ、埼玉県内のリサイクルショップに1台数万円で売却した。

(ロ)東証1部上場企業B社のケース
 元社員は、転売目的でパソコンを購入するため、上司の印鑑を無断で押すなどして書類を不正に作成し、代金約3600万円を会社の口座から家電量販店の口座に振り込ませた。

(ハ)大手メーカー子会社C社のケース
 元社員は、転売目的で業務に必要のないパソコン40台を取引先に発注し、会社に計約800万円を支払わせるなどした。パソコンはネットオークションで売却した。

(2)発生原因~(イ)と(ハ)のケース
 これらの不正の発生原因ですが、特に(イ)と(ハ)は職務の分掌が行われていなかったからではないでしょうか。言い換えると、例えば発注、検収といった業務を一人で行っていたのではないか、ということです。
 資産の購入の場合、通常、発注依頼→相見積もり→発注→納品→検収→請求書到着→会計入力→支払い、というプロセスがとられます。

 このとき、不正を防止するためには職務の分掌がとられる必要があります。
 例えば、検収を行う人は発注依頼者や発注担当者とは別の人にする必要があります。なぜかというと、これらを同じ人が担当すると、横流しのリスクがあるからです。
 発注依頼者と発注担当者も分ける必要があります。これらが同じ人だと、取引先と共謀して架空取引や水増契約のリスクがあるからです。
 このあたりは「架空取引に係る内部統制」にも記載したところですが、いま一度、記載いたします。

  • 発注依頼者と発注担当者は別の人にする。
  • 納品時の検収は発注依頼者、発注担当者とは別の人にする。
  • 支払いの担当者は、発注者や検収担当者とは別の人にする。
  • 支払い担当者は、発注書、納品書、請求書を照合する。
  • 支払い担当者と経理担当者は別の人にする。

 (イ)のケースは、パソコンが会社に納品されずに自宅に届けられたというのですから、発注依頼者と発注担当者が同じだったのではないでしょうか。発注依頼者と発注担当者が別であれば、発注担当者は会社に納品するように注文するはずだからです。これを1人で行える体制であったため、注文するときに自宅に納品するという指示を卸売業者に出せたのではないでしょうか。
 従って、発注依頼者と発注担当者は別の人にする必要があります。

 (ハ)のケースは、元社員は資機材発注担当者だったということなので、発注担当部門だったようです。この場合、発注担当部門が検収も行っていた可能性があります。発注担当者が検収も行うことができれば、横流しは可能です。
 従って、検収を行う人は、発注担当者とは別の人にする必要があります。

(3)発生原因~(ロ)のケース
 つぎに、(ロ)のケースですが、注目すべきは、上司の印鑑を無断で押すなどして書類を不正に作成したという点です。これだと、会社内部の人も気づきにくいと思います。少なくとも、発注依頼から発注までは何ら問題なく進んでしまったのではないでしょうか。
 印鑑の管理は重要です。印鑑の管理というと、代表者印や銀行印の管理が思い浮かぶと思いますが、個人の印鑑も勝手に使用されないよう、保管する必要があります。この事例以外にも、職員の印鑑を勝手に使用し、稟議書を不正に作成していたという事例もあります。
 従って、印鑑は個人の認印であっても鍵のついた引き出しにしまって、本人以外は使用できないようにする必要があります。

 さて、(イ)と(ハ)のケースは、大手企業の子会社であったため、親会社と同じレベルの内部統制を整備できていなかった可能性がありますが、(ロ)のケースは、東証1部上場企業である親会社での出来事のようなので、内部統制に無茶苦茶大きな不備はなかった可能性が高いと思います。
 そうなると、検収のプロセスに問題があった可能性があります。検収の担当者が元社員とは別の人であれば、納品後に横流しを防止できる可能性が高まるからです。もっとも、(ロ)のケースは、どのように転売したのかが記事では読み取れないので、なんとも言えません。

3.検収後の内部統制
 2では、事例をもとに発生原因とその対策を見てきましたが、パソコンのような資産の購入において横流しの防止を行うには、さらに以下の内部統制の整備・運用が必要です。 
  • 有形固定資産には管理番号シールを添付する。
  • 有形固定資産についても実査を行う。
  • 固定資産の対象とならない備品についても、管理表を作成し、実査を行う。
 なぜ、これらが必要なのかというと、検収の内部統制がしっかりしていても、検収後、ほったらかしにしていたら、誰かが持ち出して転売することも可能だからです。
 従って、資産の検収後も、このような内部統制の整備・運用が必要です。このようにすれば、横流しされた場合、すぐに発見することができますし、横流しの牽制にもつながります。