2019年6月2日日曜日

スギHDとココカラファインが経営統合へ~両社の経営成績を比較してみると

1.はじめに
 本日、日本経済新聞に「スギHDとココカラ、経営統合検討 業界首位に 」という記事が掲載されていました。
 このブログでは、今年の3月31日に「ドラッグストア~もうすぐ業界再編?」というタイトルで、近いうちに大手ドラッグストアの業界再編が起こる可能性があることを記載しましたが、早速その動きが出てきました。
 今回は、両社の経営成績を見てみたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.経営成績の比較
(1)売上総利益率と営業利益率
 スギホールディングス株式会社(以下「スギHD」)とココカラファイン株式会社(以下「ココカラファイン」)の売上高から営業利益までを示すと以下のとおりです。
 経営成績については他にもいろいろな数値を比較する必要がありますが、今回は売上と営業利益の関係について見てみました。

 スギHDは2月決算なので、直近の有価証券報告書の数値を使用しました。
 一方、ココカラファインは3月決算なので、まだ2019年3月期の有価証券報告書が出ていません。従って、直近の数値として、四半期報告書の第3四半期(2018年12月期)の数値を使用してみました。
 
【スギHD】(単位:百万円)

前連結会計年度
(自 2017年3月1日
至 2018年2月28日)
当連結会計年度
(自 2018年3月1日
至 2019年2月28日)
売上高457,047488,464
売上原価325,481346,164
売上総利益131,565142,300
販売費及び一般管理費合計106,804116,483
営業利益24,76025,817
売上総利益率28.80%29.10%
営業利益率5.40%5.30%

(有価証券報告書を一部加工)


【ココカラファイン】(単位:百万円)

前第3四半期連結累計期間
(自 2017年4月1日
至 2017年12月31日)
当第3四半期連結累計期間
(自 2018年4月1日
至 2018年12月31日)
売上高296,036303,510
売上原価217,985222,531
売上総利益78,05180,979
販売費及び一般管理費67,69771,530
営業利益10,3539,448
売上総利益率26.40%26.70%
営業利益率3.50%3.10%
(四半期報告書を一部加工)

 期間が異なるので、規模の比較はできませんが、直近の数値を使って近い時期における利益率の比較を行いたいと思います。
 まず、売上利益率は、スギHDのほうが約2.4ポイント高くなっています。
 営業利益率も、スギHDのほうが約2ポイント高くなっています。
 以上より、スギHDのほうがココカラファインよりも全体的な利益率は高いといえます。
 ちなみに、私がいま住んでいる京都では、ココカラファインは京都市営地下鉄の四条駅や烏丸御池駅といった主要駅の駅ナカに出店しています。また、大丸近くや四条通沿いなどにもあり、場所が良いところにあるという印象です。そのため、賃借料が高いという背景があるのかもしれません(有価証券報告書をもとに、電卓で計算した結果、売上高に対する賃借料の割合はスギHDは4.47%(2019年2月期)、ココカラファインは5.68%(2018年3月期)でした。)

(2)売上利益率の2期比較
 次に、会社の2期比較をしてみると、両社とも売上総利益率は若干上昇しています。これを見ると、一見、仕入の値下げ努力をしたのかなとも見えるのですが、棚卸資産回転期間(在庫回転期間)(年)を比較してみると以下のようになりました(前期と当期の売上高と棚卸資産額を使用して簡便的に計算してみました。実務では平均残高を使用します。)。

 スギHD      1.384ヶ月→1.465ヶ月 
 ココカラファイン  1.885ヶ月→1.888ヶ月 

 売上原価は期首棚卸残高+当期仕入額-期末棚卸残高で計算しますので、期末在庫が増加すると売上原価が減少する傾向にあります。そのため、在庫が増えると売上総利益が増えるという、一見するともうかっているように見えてしまうというトラップがあります。
 そのため、棚卸資産回転期間を見てみましたが、スギHDは若干回転期間が長くなっていますので、もしかすると期末在庫が増加した結果、売上原価が減少し、売上総利益率が上昇したのかもしれません(注:あくまでも推測です。)
 なお、両社とも扱っている品種、構成、金額は異なりますので、本来は品種別にきめ細やかに回転期間を見ていく必要があります。従って、これはあくまでもおおまかな参考数値です。

(3)営業利益率の2期比較
 営業利益率を2期比較で見ていくと、スギHDは5.40%5.30%と0.1ポイントの減少、ココカラファインは3.50%から3.10%と0.4ポイントの減少となりました。
 従って、スギHD、ココカラファインともに営業利益率が若干低下傾向にあります。
 これは、「ドラッグストア~もうすぐ業界再編?」で記載したように、人件費の上昇が背景にあるものと推測されます。
 ちなみに、スギHDについて給料手当及び賞与の額を売上高で割った数値を出してみると、9.7%から10.0%となり、0.3ポイントの上昇となっていました。とはいえ、営業利益率の低下は0.1ポイントにおさえていることから、販管費の節減に努められたのではないかと推測されます。

(4)販売実績から見える各社の特徴
 最後に、有価証券報告書の「第2 【事業の状況】」の「3 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」に記載されている「③ 仕入及び販売の実績」のうち、販売実績について見てみます。
 なお、ココカラファインについては四半期報告書にはこのデータが載っていないため、2018年3月期の有価証券報告書の数値を使いました。

【スギHD】

当連結会計年度
(自 2018年3月1日
至 2019年2月28日)
構成比率(%)
調剤(百万円)91,07318.60%
物販(百万円)394,18780.70%
その他(百万円)3,2030.70%
合計(百万円)488,464100.00%
(有価証券報告書を一部加工)



【ココカラファイン】(単位:百万円)

当連結会計年度
(自 2017年4月1日
至 2018年3月31日)
構成比率(%)
ドラッグストア・調剤事業
医薬品108,48730.90%
一般用医薬品53,74815.30%
調剤54,73815.60%
化粧品104,51029.80%
健康食品10,5163.00%
衛生品40,96511.70%
日用雑貨47,78213.60%
食品38,37010.90%
全店計350,633100.00%
卸売37,849
小 計388,482
介護事業2,484
セグメント間消去△2
合 計390,963
(有価証券報告書を一部加工)

 販売実績による構成比率を見てみると、スギHDのほうが、若干、調剤に力を入れているという印象です。

 なお、「③ 仕入及び販売の実績」の開示範囲は各社によって異なるので、このスギHDとココカラファインのように、明確な比較はできません。
 しかしながら、他の大手ドラッグストアの仕入れ実績と販売実績を比較すると、各社の特徴がよくわかります。

 例えば、ウエルシアホールディングス株式会社(以下「ウエルシア」)の2019年2月期の有価証券報告書の情報をもとに販売構成比率を出してみましたが、これを見るととココカラファインとの違いがわかります。

【ウエルシア】

区分金額(百万円)構成比率(%)
医薬品・衛生介護品・ベビー用品・健康食品163,77721.00%
調剤129,81116.70%
化粧品136,24517.50%
家庭用雑貨116,65415.00%
食品172,97122.20%
その他59,6877.70%
合計779,148100.00%

 食品の売上構成を見てみると、ココカラファインはドラッグストア・調剤事業における割合が10.90%であるのに対して、ウエルシアは22.20%となっています。
 また、医薬品はココカラファインが30.90%であるのに対して、ウエルシアは21.00%、化粧品はココカラファインが29.80%であるのに対して、ウエルシアは17.5%となっています。
 これを踏まえると、ウエルシアはココカラファインと比べて食品の販売に力を入れているのでは、という推測ができます。
 食品の販売に力を入れるのは、食品の安売りで客を呼び寄せるためです。食品の粗利益率は低いですが、食品の安売りでやって来たお客が、ついでの買い物で、粗利益率の高い薬品や化粧品を購入してもらって利益を出すというビジネスモデルです。
 実際、私の知っている範囲では、食品の品種の数や食品コーナーの面積はココカラファインよりもウエルシアのほうが上です。
 このような構成比較は他のドラッグストアも比較すると各社の方向性が見えてくるのですが、今回はここまでとします。 

2019年5月19日日曜日

巨人がPwCコンサルティングと契約~デジタルトランスフォーメーションの実現に向けて

1.はじめに
 プロ野球・読売巨人軍はPwCコンサルティング合同会社とオフィシャルサプライヤー契約を締結したと、令和元年5月17日付で発表しました(「「PwCコンサルティング」とオフィシャルサプライヤー契約 革新的・先進的な来場者サービス開発へ」)。

 内容は、PwCコンサルティング合同会社が「オフィシャル・デジタルトランスフォーメーション・アドバイザー」となるというものだということです。
 このデジタルトランスフォーメーションですが、球団公式ページでは「「デジタルトランスフォーメーション」(通称:DX)とは、テクノロジーを活用してビジネスモデル全体を改善し、変化するビジネス環境に適応させることで、最終消費者にとってより優れた価値を提供できる状態にすることを意味します。」と記載されています。

2.デジタルトランスフォーメーションが起こすイノベーション
 デジタルトランスフォーメーションは、行政庁においても、日本であらゆる分野で導入を進めるべく、様々な研究が進んでいます。
 例えば、総務省の情報通信白書平成30年版では、デジタルトランスフォーメーションは段階を経て社会に浸透し、影響を及ぼすと記載されています。
 同白書によれば、以下のような段階を経て社会が変革していくとされています。
①「まず、インフラ、制度、組織、生産方法など従来の社会・経済システムに、AI、IoTなどのICTが導入される。」
②「次に、社会・経済システムはそれらICTを活用できるように変革される。さらに、ICTの能力を最大限に引き出すことのできる新たな社会・経済システムが誕生することになろう。」
③「その結果としては、例えば、製造業が製品(モノ)から収集したデータを活用した新たなサービスを展開したり、自動化技術を活用した異業種との連携や異業種への進出をしたり、シェアリングサービスが普及して、モノを所有する社会から必要な時だけ利用する社会へ移行し、産業構造そのものが大きく変化していくことが予想される。」

3.巨人は遅れている?
 いま、なぜ巨人がPwCコンサルティングとデジタルトランスフォーメーションに関する契約を締結した理由は、推測ですが観客動員、ファン獲得においてITの推進が遅れているという危機感があったのではないかと思います。というのは、現在のプロ野球球団にはソフトバンク、楽天といったIT系の企業が参入していますが、これらの球団は観客動員などにおいて自社のITテクノロジーを導入して様々な工夫をしているからです。
 例えば、ソフトバンク「AIチケット」というものを発売しています。ソフトバンクホークスの公式ページの説明によれば、「過去の販売実績データに加えて、リーグ内の順位や対戦成績、試合日時、席種、席位置、チケットの売れ行きなど多様なデータから、試合ごとの需要をAI (機械学習) により予測し、需要に応じて価格が変動するチケット」ということです。
 また、楽天は、今年から球場での完全キャッシュレスを始めました。公式ページの説明によれば、「チケット・グッズ・飲食等をお買い求めの際、原則として現金がご利用いただけなくなります。」ということです。
 チケットレス化も進んでいます。BCN+Rというサイトの記事によれば、チケットの電子化によるチケットレスを導入しているのは、オリックス、埼玉西武、中日、阪神、福岡ソフトバンク、北海道日本ハム、横浜DeNAの7球団ということです。
 しかしながら、各球団でこういった取り組みが進む中、残念ながら盟主・巨人の名前が出てきません。
 なぜ、巨人がこのような取り組みを行っていないのかというと、これも推測ですが「やりたいと思っているし、やらないとまずいという意識はあるものの、導入するための人材や技術がそろっていない」からではないかと思います。
 このあたりについては長くなるので、次回「変わるプロ野球のビジネスモデル」というタイトルで記載したいと思います。

2019年5月12日日曜日

役員選任の決議方法の実務~個別決議と一括決議

1.はじめに
 平成29年(2017年)5月28日のブログ「機関運営の留意点~公益法人及び社会福祉法人共通」では、役員の選任方法として複数人を一括して決議する一括決議は不可であり、各役員等について個別に決議する個別決議を行う必要があることを記載しました。
 とはいえ、法人によっては改選時の役員候補者数が数十名というところもあり、まともに個別決議を行うと膨大な時間がかかってしまうという実務上の問題点もあります。
 そこで、今回は役員の選任決議の実務について記載したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.平成29年5月28日のブログの再掲
 まず、平成29年5月28日のブログを再掲します。

  「役員(理事及び監事)は公益法人では社員総会又は評議員会で、社会福祉法人では評議員会で選任することになりますが、この選任は各役員について個別に決議を行う必要があると解されます。すなわち、一括決議は不可と解されます。

  趣旨は、役員の選任という重要な意思決定について、法は理事の選任議案の内容をすべての社員ないし評議員に通知すると規定するなど(一般法38条①Ⅴ、同法施行規則4条③イ、一般法181条①Ⅲ、同法施行規則58条①、社福法45条の9⑩、同法施行規則2条の12)、慎重に審議を行うことを要求していますが、これを個別決議ではなく、一括決議にしてしまうと、社員又は評議員の意思が反映されないことになり、法の趣旨が没却されてしまうからです。

  例えば、理事候補がA,B,C,D,E,F,Gの6名がいるとします。評議員のうちXはA~Gの6名につき選任案に賛成ですが、評議員YはA~Fの選任には賛成であるものの、Gについては選任に反対と考えているとします。
  このとき、一括決議により「評議員全員の賛成により理事候補全員の選任について異議なしとします」としてしまうと、評議員Yの意思が反映されない結果となってしまいます。そうなると、評議員会で慎重に審議を行い役員を選任するという法の目的が達成されなくなります。
  そのため、役員の選任決議は一括決議ではなく、個別決議で行う必要があります。」(引用終)

 3.内閣府「特に留意する事項について」
  この役員選任の決議方法は、実は法令で明記されているわけではありません。法の趣旨を鑑みると、一括決議はふさわしくないということです。

  ただし、全くどこにも記載されていないものなのかというとそうではなく、公益法人の場合は、平成20年10月10日に内閣府公益認定等委員会から出された「移行認定又は移行認可の申請に当たって定款の変更の案を作成するに際し特に留意すべき事項について 」(以下「特に留意する事項について」)のP12~13にこの論点の記載がなされています。
  
  引用すると以下のとおりです。

 「法は、社員総会又は評議員会に理事の選任権を形式的に付与しているだけでなく、理事の選任過程の適正を確保するため、種々の方策を講じている。 
                  (中略)
  このように、法及び公益法人認定法は、あらゆる規律を通して、選任手続を可能な限り慎重ならしめ、社員総会(評議員会)における実質的な審議を経て適正に理事が選任されるための種々の方策を講じている。
                  (中略) 
  また、理事の選任議案を社員総会(評議員会)で決議する方法について、例えば、4人の理事の選任議案の決議(採決)を4人一括で決議(採決)することとした場合には、本来、1つ1つの議案(1人1人の理事の選任議案)ごとに賛成又は反対の意思を表明することができるはずの社員(評議員)に対して、全議案についてすべて賛成か又はすべて反対かという投票を強制することとなり、上記の法の趣旨が没却されることとなる。」

 とし、結論として、

 「このような法の趣旨及び考え方を踏まえ、
 ① 公益社団法人が、定款の定めにより、社員総会の普通決議の決議要件(定足数)を大幅に緩和し、あるいは撤廃することは許されない(問題の所在①)
 ② 社員総会又は評議員会で理事の選任議案を採決する場合には、各候補者ごとに決議する方法を採ることが望ましく 、特例民法法人の移行に際し、その定款(の変更の案)に、社員総会又は評議員会の議事の運営方法に関する定めの一つとして、「理事の選任議案の決議に際し候補者を一括して採決(決議)すること」を一般的に許容する旨の定めを設けることは許されない(問題の所在②)こととなる。 」

 と記載しています。
  公益法人の立入検査で、行政庁が一括決議が不可であることを指摘する場合、この「特に留意する事項について」が根拠となっています。

 4.実務上の対応策
  しかしながら、上述したように、役員候補者数が30名や40名といった数十名となる法人の場合、各候補者ごとに決議する方法を採ると相当な時間がかかってしまいます。
  また、それなりの法人になると、総会はホテルの会議場などを借りることが多いですが、1時間あたりの費用も大きいものがあります。
  ついでにいうと、多くの法人では、総会終了後は懇親会があります。そのため、懇親会が始まる時刻までには総会を終了させる必要がありますが、個別決議をまともにやると時間が読めなくなります。
  
  そこで、実務上は、以下の対応策が考えられます。
 
 ①まず、議長が、役員の選任については各候補者ごとに決議を行う方法が原則であることを説明する。
 ②ただし、時間と手数の関係上、一括して決議を行いたい旨を説明するが、一括決議に反対する人がいれば、申し出てほしいことをアナウンスする。
  あるいは、一括決議を行うことについて、社員または評議員に対して賛否を問う。
 ③反対する人がいなければ、全員が一括決議に賛成したということになる。また、賛否を問うた場合、賛成多数であれば、もちろん、一括決議に賛成したということになる。
 ④以上の手続を経た上で一括決議で進める。
 
  このような方法は、株式会社の株主総会の実務ではよく見られます。
  あくまで、私見ですが、参考としていただけますと幸いです。 

2019年5月4日土曜日

財務諸表などの日付表示~令和元年を迎えて

1.令和元年がスタート
 平成31年4月30日をもって平成が終了し、翌日5月1日より、元号が平成から令和に変わりました。新しい元号の始まりです。
 我が国は元号を使用する国なので、元号を使用するのが原則ですが、一方で西暦も使用されています。西暦とは「キリスト生誕の年と信じられている年を紀元とする西洋の暦」(コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典より)でありますので、本来は我が国の暦の数え方としてはなじまないものです。しかしながら、世界の主要各国がキリスト教徒の関係で西暦を使用していることから、国際化が進んだ我が国でも元号と併記して使用されています。
 従って、元号を使用することが基本ではあるのですが、戦後の我が国では、昭和、平成、令和と3つの元号が使用されており、しかも、年の途中で元号が変わっているので、年数などを数えるときに手間取ってしまうことは否めません。

2.財務諸表などの日付表示
 元号の改廃は、有価証券報告書、計算書類等などの年度表示にも影響があります。
 非営利法人おいても、公益法人が作成する計算書類等、社会福祉法人が作成する計算関係書類の年度表示をどうすればよいのかという問題が出てきます。

 ちなみに、内閣府が各都道府県知事及び各指定都市市長宛に、平成31年4月2日付で出した「元号を改める政令等について」では、以下の申し合わせ事項が示されています。

〇改元日前までに作成した文書において、改元日以降、「平成」の表示が残っていても、有効であること
改元日以降に作成する文書には、「令和」を用いること。やむを得ず「平成」の表示が残る場合でも有効であるが、混乱を避けるため、訂正等を行うこと
〇元号を改める政令の公布日から施行日前までに作成し公にする文書には、「平成」を用いること
〇法令については、「平成」を用いて改元日以降の年を表示していても、有効であり、原則、改元のみを理由とする改正は行わないこと
〇国の予算における会計年度の名称については、原則、改元日以降は「令和元年度」とすること

3.有価証券報告書
 それでは、決算書などではどうでしょうか。
 まずは有価証券報告書です。

 この有価証券報告書については、税務研究会のコラム「有報の日付表示、あなたは和暦派?それとも西暦派?【1分で読める!「経営財務」記者コラム】」では、「有報における開示に関する規定を定めた「企業内容等の開示に関する内閣府令」の第三号様式」に触れています。

 コラムによると、「【提出日】については「平成 年 月 日」となっており、【事業年度】も同様に当該様式上は和暦で示されている。」ため、「和暦表示をしなければならないように思えるが、実務上は全て西暦表示でも問題はないという。特別な手続き等は不要で、西暦表示に統一したい企業は、任意で西暦に変更ができる。」ということです。
 さらに、同コラムでは、有価証券報告書において西暦表示を行っている企業数を調べた結果「トヨタ自動車や日立製作所、ファーストリテイリングなど、500社以上が西暦表示」であったということです。

実際、トヨタ自動車の直近の有価証券報告書の表紙を見てみると

【事業年度】2018年3月期
      (自  2017年4月1日  至  2018年3月31日)

 と記載されていました。

 従って、有価証券報告書においては元号表記でも西暦表記でもどちらでもよいということになります。

4.会社法における計算書類等
 次に、計算書類等です。計算書類等は会社法に定められたものなので、会社法に定めるすべての会社が対象となります。
 この計算書類等については、知る限り、日付表示に制限はありません。従って、元号でも西暦でも問題はありません。
 元号で表記されている会社でも、西暦を併記しているところもあります。
 
5.公益法人の計算書類等と定期提出書類
 一般社団法人・一般財団法人及び公益社団法人・公益財団法人では、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律において計算書類等を作成することが義務付けられています。
 こちらの計算書類等においても日付表示に制限はありません。従って、どちらでもよいということになります。なお、私が見る限りでは元号表示が多い印象です。

 しかしながら、あくまで私見ですが、公益認定を受けた一般財団法人及び一般財団法人(公益法人)では、元号で記載するほうがよいと思います。
 理由は、計算書類等は定期提出書類(事業報告等の提出書類)と一緒に提出しますが、定期提出書類は元号表示になるため、それにあわせておくほうがよいためです。

 以前、このブログで公益法人インフォメーションの電子申請がリニューアルされたことを書きましたが、エクセルで作成された新システムでは、日付表示はプルダウンとなっていて、そのリストには元号しか載っていません。ちなみに、新元号が発表される前の段階の事業計画書等の提出書類にかかるプルダウンメニューのリストには「平成」と「令和」ではなく、「平成」と「新元号」という表示で載っていました。

 従って、公益法人においては、元号表示がよいと思います。

6.社会福祉法人の計算関係書類
 社会福祉法人は、すべての法人が計算関係書類、社会福祉充実残額計算シートをWAMネットを通じて所轄庁に提出します。
 このとき提出する計算関係書類は社会福祉充実残額計算シート内で作成しますが、社会福祉充実残額計算シートでは、すでに元号表示が行われているので、すべての法人の計算関係書類は元号表示となります。

 この点は、同じ非営利法人であっても公益法人とは異なるところです。公益法人の場合は統一された書式というものはなく、各法人の自由となるからです。そのため、元号か西暦かという問題が出てきますが、社会福祉法人では所轄庁の提出書類に関しては元号で統一されているので、選択に困る点はありません。

 ただし、理事会や評議員会で使用する計算関係書類では、元号と西暦の併用表示でもよいと思います。

2019年4月28日日曜日

連結キャッシュ・フロー計算書~原則法と簡便法

1.連結キャッシュ・フロー計算書の作成方法
 連結キャッシュ・フロー計算書の作成方法には原則法簡便法があります。
 原則法とは、親会社及び連結子会社が作成した個別キャッシュ・フロー計算書を単純合算し、相殺消去や科目の振替といった連結修正を行って、連結キャッシュ・フロー計算書を作成する方法です。
 一方、簡便法とは、連結損益計算書並びに連結貸借対照表の期首残高と期末残高の増減額の分析及びその他の情報から作成する方法です(日本公認会計士協会・連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針(以下「実務指針」)47項)。

2.「作成基準」と「実務指針」
 現行制度において規定されている会計基準は、旧大蔵省時代の企業会計審議会が策定した「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」(以下「作成基準」)です。
 実務指針47項にも記載がありますが、作成基準では第二の三で「連結キャッシュ・フロー計算書の作成に当たっては、連結会社相互間のキャッシュ・フローは相殺消去しなければならない。」と規定されています。この規定があるため、制度上は、原則法という言葉は使用していないものの、各連結会社の「キャッシュ・フロー計算書」を連結する方法(原則法)を原則としていると考えられています。
 しかしながら、実務指針では簡便法も認められるとしています。そのため、連結キャッシュ・フロー計算書の作成実務においては、原則法と簡便法の2つが認められているというわけです。
 整理すると、以下の関係になります。

・作成基準(企業会計審議会)  →原則法
・実務指針(日本公認会計士協会)→原則法の他、簡便法も認められる

 なお、多くの会計基準や実務指針は、企業会計基準委員会(ASBJ)に移り、企業会計基準や企業会計基準適用指針となったのですが、連結キャッシュ・フロー計算書については、会計基準や実務指針が、まだASBJに移っていない状態です。
 
3.「簡便法」が原則と思っている人が多い?
 以上のように、連結キャッシュ・フロー計算書の作成方法には原則法と簡便法があるのですが、結構、「簡便法」が原則的な方法と思われている方が多くいらっしゃいます。
 ときどき、公認会計士の中にもこのような思い違いをしている人がいます。
 しかしながら、あくまで、各連結会社が作成した個別キャッシュ・フロー計算書を連結する方法が原則です。

【図1】(C/S…Cash Flow Statement)


4.実務上は簡便法
 とはいえ、会計実務では原則法よりも簡便法が使用されることが圧倒的に多いです。
 理由は、簡便法のほうが作成しやすいですし、作成時間も原則法よりも短くてすむからです。
 原則法だと、まず、すべての連結会社が個別キャッシュ・フロー計算書を作成しなければなりません。親会社では当然、個別キャッシュ・フロー計算書を作成しますが、連結子会社のすべてが個別キャッシュ・フロー計算書を作成するとなると、結構面倒です。
 有価証券報告書の作成義務がある会社であれば、個別キャッシュ・フロー計算書を作成しますが、それ以外の会社になると、個別キャッシュ・フロー計算書の作成義務はありません。そのため、個別キャッシュ・フロー計算書の作成義務がない会社でもキャッシュ・フロー計算書を作成するとなると、時間と手間がかかりますし、精度も必ずしも高くはないかもしれません。会社によってはキャッシュ・フロー計算書の作成能力が乏しい会社もあります。
 このような理由から、まず、連結会社が個別キャッシュ・フロー計算書を作成するのに時間と手間がかかってしまいます。
 そして、次の段階では、個別キャッシュ・フロー計算書を単純合算した後、相殺消去や科目振替といった修正仕訳を反映しなければなりません。これは直接法であっても間接法であっても同じです。従って、ここでも時間と手間がかかります。
 しかしながら、簡便法であれば、すでに作成した連結損益計算書、連結貸借対照表、連結株主資本等変動計算書を使って作成できますので、原則法と比較して時間と手間は大幅に削減できます。
 このような理由から、実務上は原則法よりも簡便法を適用する会社の方が多いというわけです。
 簡便法しか知らない、という方も多いかと思いますが、実は簡便法は容認規定であることを知っておく必要があります。

2019年4月22日月曜日

公益法人~事業報告等に係る提出書類作成における留意事項

1.はじめに
 3月決算の公益法人(公益認定を受けた一般社団法人又は一般社団法人をいいます(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)2条ⅰ~ⅲ))は、決算書を作成した後、事業報告等に係る提出書類の作成を行うことになります。
 今回は、別紙4における別表の作成上の留意点を記載します。
 ただし、留意点については、いろいろとあるため、誤りやすい点のうち重要なものについて記載したいと思います。

2.別表A
(1)A(1)~過去に生じた剰余金の加算
 別表A(1)での留意点は、過去に収支相償を満たさなかった場合に生じた剰余金がある場合、経常収益計の2欄に加算することを忘れないようにする点です。
 この剰余金は正味財産増減計算書には出てこないので、別途、計算シートを作成して管理しておく必要があります。過去の別表A(1)をひっくり返して、その場で電卓で計算すると、誤る可能性が高くなるので、ひとまとめにしておくほうがよいと思います。

(2)A(3)~利益の繰入額は1円未満端数切り上げ
 収益事業等から生じた利益の繰入額を計算するとき、通常、1円未満の端数が生じると思います。この1円未満の端数の扱いですが、これは切り上げになります。(内閣府の手引きP32参照)
 また、ここに至るまでの計算(管理費の按分、按分後の費用の控除)では、端数には手を付けず、そのまま計算します。その結果算出された収益事業等から生じた利益に50%を乗じた数値においてのみ1円未満の端数切り上げという処理を行います。
 この点は間違いが多いところです。ここを四捨五入、切り上げといった処理をしてしまうと、正味財産増減計算書内訳表の他会計振替額とA(3)で計算した結果に1円の差異が生じるなど、何かと具合が悪くなります。
 従って、正味財産増減計算書内訳表の他会計振替額を計算するときは、エクセルでワークシートを作成して計算過程をしっかりと残しておくことが望まれます。

3.別表B
(1)別表B(5)での特定費用準備資金積立額・取崩額の記載忘れ
 別表B(5)は公益目的事業会計、収益事業等会計、法人会計の費用を計算し、公益目的事業比率を計算する計算シートですが、Ⅴ、Ⅵの特定費用準備資金の当期積立額、当期取崩額の記載漏れに注意する必要があります。また、取崩額の欄はマイナス額で記載する点にも注意する必要があります。

 なお、旧システムでは、別表B(1)がシステムに組み込まれていたのに対して、B(5)はエクセルだったため、計算結果がリンクしていませんでした。しかし、新システムではB(1)、B(5)どちらもエクセルになり、計算結果もリンクするようになったので、B(5)を作成すれば、B(1)も自動的に作成されるようになりました。

4.別表C
(1)別表C(2)~財産目録と一致させる
 別表C(2)では公益目的保有財産や特定費用準備資金の帳簿価額について記載するシートですが、名称、場所・物量、並び順は財産目録と一致させる必要があります。行政庁は財産目録との一致状況を必ず見ています。言い換えると、財産目録は、別表C(2)のためにあるといってもよいでしょう。従って、財産目録もC(2)を意識して、不整合が生じないように作成する必要があります。また、財産目録には、共用割合を明記しておく必要があります。
 なお、新システムでは、資産取得資金、特定費用準備資金は様式チェックにより自動反映する方式となりました。

(2)別表C(1)~対応負債の計算は有利選択
 別表C(4)では4に「対応負債の額の計算」という欄があります。
 この対応負債の計算方法には2種類ありますが、4のタイトルの横にはカッコ書きで「(次の2つの方法のうち、いずれかを選択し、○を記載してください)」と記載されていますので、どちらか有利な方を選ぶことになります。
 この選択は、特に会計に携わっている方だと「継続適用」しないといけないのでは、と思ってしまいがちですが、これは選択となります。
 ときどき、施行規則22条7項の計算式と22条8項の計算式を入れ替えると、従前では遊休財産額の保有上限額を超過してしまっていたものが、セーフになるケースがあります。

2019年4月15日月曜日

公益法人・公益目的事業比率~F(2)表の作成の実務

1.はじめに
 公益法人(公益認定を受けた公益社団法人又は公益財団法人をいいます。(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)2条ⅰ~ⅲ)も3月決算の法人が多いため、4月に入ると決算の時期に入ります。
 決算が終わると、決算数値を前提に、定期提出書類を作成することになります。
 定期提出書類については、いろいろな書類がありますが、今回は経費の配賦にかかるF(2)表の作成にかかる留意点について記載したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.公益目的事業比率
 公益法人では、財務3基準の一つである、公益目的事業比率をクリアしなければなりません。
 具体的には、①公益目的事業の費用、②収益事業等の費用、③法人会計の費用について、①公益目的事業の費用÷(①公益目的事業の費用+②収益事業等の費用+③法人会計)という計算式で算出された割合が50%以上となることが必要となります(認定法15条)。
 なお、これらの費用は、必ずしも会計上の費用とは限らず、みなし費用(例:特定費用準備資金の積立額)なども含みます。
 公益法人は公益目的事業を行うことが目的にもかかわらず、収益事業等や管理費の割合のほうが大きいとなると、本来の目的を達していないことになるためです。そのため、公益目的事業をしっかりと行うようにするために、公益目的事業比率の基準が設けられています。

3.経費の配賦
 このように、公益法人の事業において発生した費用は、①公益目的事業の費用、②収益事業等の費用、③法人会計の費用のいずれかの費用とする必要がありますが、必ずしも、①~③のそれぞれにおいて固有に発生する費用とは限りません。
 そこで、①~③において共通に発生する費用については配賦計算を行う必要があります。
 この配賦計算については、法令で絶対的に定められた基準というものはありません。内閣府から示されているのは、FAQ問Ⅴ-3-②の例示で示された配賦基準ぐらいです。
 FAQ問Ⅴ-3-②では、(イ)建物面積比、(ロ)職員数比、(ハ)従事割合、(ニ)使用割合が掲げられています。
 なお、FAQ問Ⅴ-3-②では「これ以外に適当と判断した基準があれば、それを採用していただいても構いません。」と記載されています。従って、(イ)~(二)は例示列挙ということになります。

4.決算の実務
 公益法人の経理などに携わっている方は、ここまではご存知の方が多いと思います。
 しかしながら、決算を終えて、いざF(2)表を作成する段階となると、時間がかかったり、どのように進めればよいのか迷ったりする方が結構多く見られます。また、F(2)の数値にミスが生じ、提出後、行政庁から補正提出を求められるケースもよく見られます。
 原因の一つは、F(2)表を作成するときに、基礎資料が存在しないためであることがあげられます。
 言い換えると、正味財産増減計算書内訳表を作成するときには、何らかの配賦割合で計算しているのですが、そのときの配賦割合を資料として残していないため、F(2)表を作成するときに、配賦基準はわかっているものの、配賦割合はどのように記載すればよいのかがわからなくなってしまうというものです。
 例えば、ある費用は職員数比で配賦することになっているのに、F(2)表で職員数比で配賦計算してみたら、正味財産増減計算書内訳表の数値とあわない、ということもあります。そうなると、正味財産増減計算書内訳表の数値とF(2)表の数値が整合しなくなり、どうすればよいのか困ってしまうことになります。
 従って、正味財産増減計算書内訳表を作成するときには、F(2)表の作成も意識して、配賦割合、計算過程、計算結果を資料として残しておくことが必要です。
 可能であるならば、正味財産増減計算書内訳表を作成するときに、一緒にF(2)表も作成しておくというのも一つの方法です。

5.直接対応は記載不要
 F(2)表の作成の実務として、知っておくべきは「直接対応」については記載はする必要はないというものです。
 F(2)表は、公益目的事業会計、収益事業等会計、法人会計にまたがって発生する費用について、配賦基準と配賦割合を示す表なので、ある会計に直接的に発生し、配賦計算をする必要がない費用については記載はする必要はありません。
 この直接対応まで記載してしまうと、かなりの時間がかかります。逆に言えば、直接対応を記載しなければ、F(2)の作成時間はかなり短くなります。
 なお、この点は複数の行政庁と確認済みです。

6.端数処理
 F(2)表で困るのは、端数処理の関係で、公益目的事業会計、収益事業等会計、法人会計の各数値の合計と費用の合計額が1円あわないときがあることです。
 そのため、F(2)表を作成したあとは、計算チェックを行う必要があります。
 しかしながら、これらを電卓で検算していると時間がかかるし、非常に疲れます。
 そこで、おすすめの方法をご紹介します。それは、1の位の数値を足し算し、その数値と合計額の1の位の数値が一致しているかどうかをチェックするというものです。
 例えば、何らかの配賦割合により、公益5,122、収益2,569、法人658という結果になったとします。一方合計額は8,350円とします。
 それぞれを足すと5,122+2,569+658=8,349となり、1円不足します。
 この場合、法人会計あたりで1円を調整する必要がありますが、これをすべて計算しているととても疲れます。
 しかしながら、1の位のみを計算すれば、2+9+8=19となり1の位は9となります。これは合計額の8,350の1の位の0とは一致しません。そうすれば、この行は端数処理による不整合があることがすぐに分かります。
 このようにしていけば、時間の節約につながるのではないかと思います。
 
 以上、参考としていただけますと幸いです。

2019年4月7日日曜日

2018年度(平成30年度)修了考査~合格率急落の理由を推測すると・・・

1.対受験者数合格率56.1%
 平成31年4月5日(金)に、修了考査の合格発表がありました。
 修了考査とは、公認会計士試験に合格し、補習所を卒業した公認会計士試験合格者が受験する試験です。この修了考査に合格しないと公認会計士として登録できません(他に、登録の要件として実務要件があります。)
 今回の合格発表で驚いたのは合格率です。日本公認会計士協会のサイトによると対受験者数合格率が56.1%となっていました。(ちなみに、対受験願書提出者数合格率は51.8%)
 これは驚きました。なぜかというと、修了考査の対受験者数合格率は10年以上、70%前後で推移していたからです。
 ちなみに、平成29年度は69.3%だったので13.2ポイントの大幅な下落となりました。
 しかしながら、当然ではありますが、日本公認会計士協会からは合格率が大幅に下落した理由については一切コメントはありません。
 そこで、今回は合格率が急落した理由を推測してみようと思います。なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.税理士会へのアピール?
 完全な推測なので、保証はありませんが、この合格率の急落を見て、私が最初に思ったのは、税理士会へのアピールではないかというものです。すなわち、税法ができない人は合格させていませんよ、ということではないかということです。
 とはいっても、何のことか不明の方も多いと思いますので、まず、日本公認会計士協会と日本税理士会連合会との関係の歴史を簡単に書きます。

3.業際問題
 税理士になるには、まず税理士試験を合格する必要があります(税理士法3条1項1号)。
 しかしながら、公認会計士は、税理士試験に合格しなくても、税理士法3条1項4号により、自動的に税理士となる資格を有することになり、所定の手続きを経て税理士登録をすると、税理士として業務を行うことができます。すなわち、試験を受けなくても税理士になることができます。
 これに対して、6~7年前でしょうか、日本税理士会連合会が「公認会計士も税理士試験の税法科目に合格しなければ税理士登録できないようにすべき」と主張し始めました。これは、当時、公認会計士試験合格者数が大幅に増加していたため、公認会計士による税理士登録者が大幅に増加することによる警戒感があったものと思われます。
 この問題はそれ以前にも、昔から度々発生した論点なのですが、このときは税理士会がかなり強行だったため、お互いが新聞広告を出すなど、かなり泥沼化していました。
 しかし、最後は日本公認会計士協会による主張で手打ちになりました。

4.国税審議会における実務補習の指定
 このとき、日本公認会計士協会にとって大きかったのは、補習所で税法の講義を行っていることでした。公認会計士の場合は、公認会計士試験に合格してもすぐに会計士登録はできず、補習所の講義の受講と定期考査をパスして卒業する必要があります。これは我が国の公認会計士制度において長く行われてきた制度です。
 当時の業際問題では、この補習所の実績が評価されたと聞いています。そこで、最終的には、税理士法を改正することにより補習所の講義を国税審議会が指定する研修とすることなどにより決着しました。
 日本公認会計士協会のサイトから一部引用すると、以下のとおりです。

「平成29年4月1日以後に公認会計士試験に合格した者のうち税理士資格を取得できるのは、公認会計士法第16条第1項に規定する実務補習団体等が実施する研修のうち財務省令で定める税法に関する研修を修了した者とされるとともに、当該研修は、改正税理士法施行規則第1条の3第1項において国税審議会が指定する研修とされました。」

「 なお、実務補習規程等の関係規程の改正の主なポイントは、以下のとおりです。
・実務補習の充実策の一環として、監査科目だけではなく、税法科目も重要な科目と位置付け、考査の合格基準について従来の税法科目の考査2回で各回4割以上の取得に加え、税法科目全体で6割以上の取得を設ける。
・税法科目の考査2回については全国統一問題で同一日時に実施する。
・実務補習の考査及び修了考査の問題をウェブサイトで公表する。」

 なお、「平成29年11月1日以後に実務補習所に入所する補習生(再入所を含む。)から適用」するということです。

 一方、日本税理士会連合会のサイトでも同じ内容が記載されていますが、考査と修了考査については以下のことも記載されています。

「考査及び修了考査の試験問題の過去5年分が公開され、研修運営状況が国税審議会に定期的に報告されることともされており、税理士試験との同等性等について継続的に確認されていくことになります。」

5.税理士試験との同等性
 要するに、補習所の税法の考査と修了考査の税法試験については、税理士試験と同じレベルである必要がある、ということですが、今回の修了考査もこれが背景にあったのではないかと私は推測しています。
 平成30年度の修了考査を受験する公認会計士試験合格者は、主に平成27年合格の人になると思いますので、上記の税理士法改正の影響は受けてはいません。しかしながら、国税審議会における実務補習の指定制度が平成30年から本格的に始まっていますので、今回の修了考査も、制度開始元年の試験にあたるといえばあたります。
 修了考査の税法試験も税理士試験と同じレベルであるとするならば、合格する人も、税理士試験を合格するレベルの人とする必要があります。となると、必然的に採点も厳しくなると思います。
 もともと、修了考査の税法は問題量が無茶苦茶多く、とても制限時間内で完答できるレベルではないものです。試験時間は3時間ですが、4時間分の問題量があると言われています。
 従って、受験者の税法の点数はあまり高くないはずですが、最終的には総点数の60%を基準として修了考査運営委員会が相当と認めた得点比率が合格基準となっていますので、必ずしも税法の点数が芳しくなくても、合格は可能です。また、おそらく総点数の60%を満たしている受験生も多くはないと思いますので、最終的には相対評価で合格を決めているものと推測されます。
 ただし、「満点の40%に満たない科目が1科目でもある場合は、不合格となることがあります。」とされています。いわゆる足切りです。
 修了考査も税理士試験と同じレベルという建前となった現在、前回までよりは、採点を厳しくした可能性があります。もしかしたら、これまでよりも足切りが多くなったのかもしれません。
 このように、今回の修了考査の合格率の大幅な下落は、税法科目の採点が厳しくなり、税理士試験に合格できないレベルの受験生は合格させていませんよ、という税理士会へのアピールではないかというのが私の推測ですが、もちろん、何があったのかは不明ですし、真相は闇の中です。
 いずれにしろ、税法科目は計算が多く、差がつきやすい科目なので受験される方は、しっかりと勉強する必要があります。

2019年3月31日日曜日

ドラッグストア~もうすぐ業界再編?

1.最近のドラッグストアの経営成績
 平成31年3月19日の日本経済新聞に「ドラッグストア、消耗戦に 売上高増も利益減 
人件費増、爆買い鈍化が重荷」(会員専用)という見出しの記事が掲載されていました。
 会員専用の記事なので、内容の詳細は記載できないのですが、記事によると、ドラッグストアは店舗数拡大などにより売上は増加しているものの、マツモトキヨシホールディングス(以下HD)、サンドラッグ、ココカラファイン、スギHD、ウエルシアHDの大手5社のうち、18年度第3四半期にマツモトキヨシHDを除く4社が「営業減益」となった、ということです。

 ここからは私の補足ですが、少し記事の見出しや説明に「?」と思う点があります。
 見出しも含めて、記事や掲載されているグラフは、あたかも営業利益の金額が減少しているような印象をもたらす書き方なのですが、読んでみると、どうも営業利益率の減少のことを言っているようです。ちなみに、営業利益率とは売上高に対する営業利益の割合のことで営業利益÷売上高で算出されます。
 例として、ウエルシアの四半期報告書をみると、第2四半期、第3四半期ともに前期と比較すると、売上高、営業利益ともに金額は増加しています。しかしながら、営業利益率は前期と比較すると下落しています。(第二四半期は4.2%から3.9%、第3四半期は3.8%から3.4%)。

2.営業利益率下落の理由
 ということで、今回の論点は大手ドラッグストアの営業利益率の下落ということで進めていきますが、その構造は簡単にいうと、売上高は増加しているものの、特に薬剤師の数が不足しているため薬剤師の給料を含めた人件費が増加し、売上高増加の割には営業利益は伸びていない、というものです。

 売上高が増加しているのは、店舗数が増加してるためですが、この店舗数が増加している理由の一つは市場シェア拡大のためと考えられます。
 ある地域に大手が複数店を出店すると、多くの場合、その近隣には他のドラッグストアは出店しにくくなります。このようにして、その地域の住民がそのドラッグストアに流れるようにして、主要な地域を押さえていくというわけです。
 しかし、そうなると、薬剤師の数も必要となり、人件費が増加します。
 それだけではなく、営業時間の拡大も人件費増加の原因となっています。例えば、ウエルシアの場合、24時間営業を始めましたが、営業時間が長くなれば、店舗スタッフへの夜勤手当が発生しますし、アルバイトの時給単価も夜間の場合は昼間よりも高くなります。夜勤勤務の人手の確保も必要です。
 近年、ドラッグストアの営業時間は長くなる傾向にありますが、その結果、それに伴う給与手当も増加するので、売上高も増加するものの、一方で人件費も増加するため営業利益の増加率が売上高の増加率よりも低くなる傾向になります。

3.業界再編?
 他にもドラッグストアの経営成績が低下するリスク要因はあるのですが、これらを総合して、日経の記事では、成長を続けてきたドラッグストアが試練の時を迎えているという内容を記載しています。
 業界再編が終了した感じがするドラッグストアですが、今後の先行きが不透明となると、再度業界再編が起こる可能性があります。
 実は、株式会社日本M&Aセンターは、業界再編には法則があるとして、その一つに「50:70の法則」を掲げています。
 これは、上位10社のシェアが約50%に達すると、大手が中小を買収するなどの業界再編が起こり、さらに上位10社のシェアが70%に達すると、上位10社の統合が始まるというものです。そして、最終的には大手4社に集約されて、業界再編が終了するということです(「業界再編時代のM&A戦略」渡部恒郎著(幻冬舎)P37~39)。
 これは、理論や科学に基づくものではなく、経験則に基づく指標であり、シェアをどの指標で見るのかで変わってくるとは思いますが、上記の「業界再編時代のM&A戦略」(2015年9月に発刊された本ですが)は、ドラッグストアについても「ドラッグストア業界の再編は最終局面へ向かっている」と記載しています。
 現状は、まだ大手が中小ドラッグストアを吸収合併している状況が続いています。例えば、2018年1月のサンケイビズでは「ドラッグストア、首位めぐりM&A火花 成長頭打ち…安値攻勢強化」というタイトルで、大手ドラッグストアのM&Aを紹介しています。
 この50:70の法則に従えば、市場シェアを売上高で見た場合、ウエルシア、ツルハ、マツモトキヨシといった上位10社の売上高合計が業界売上高の約70%に達すると、大手同士のM&Aが起こるということになります。実際は、どのタイミングで大手同士が動くのかは予測できませんが、営業利益率が下落傾向にある状況を鑑みると、もうそろそろ業界再編が起こってもおかしくはないのかもしれません。
 一見、好調に見えるドラッグストアですが、各社、気を抜けない状況が続いているようです。 

2019年3月24日日曜日

平成を振り返って~iモードとブラックベリー

1.はじめに
 平成31年4月1日に新しい元号が発表され、5月1日からは新しい元号に変わります。
 新しい元号に変わるまでにあと約2ヶ月となりました。そのため、最近は「平成最後の・・・」というフレーズをよく耳にします。例えば、「平成最後の甲子園」、「平成最後の大相撲」といった具合です。
 平成が終わるといっても、時代が変わるような感覚が現時点では全くないのですが、一つの区切りということで、平成の時代を振り返ってみたいと思います。
 そこで、今回は平成の間に起こったイノベーションについて回想してみたいと思います。

2.iモードとブラックベリー
(1)初めてのアメリカ
 平成といっても、西暦でいうと1989年1月8日から2019年4月30日までなので約30年間あるのですが、イノベーションという点で私が強烈に印象に残っているのは、アメリカに初めて会計監査に行った平成19年12月から現時点までの約11年間です。
 初めて会計監査に行ったときは、同時にアメリカ合衆国にも初めて行ったときでもあるのですが、当時、日本とアメリカの携帯電話は現在とは全く違うものでした。

(2)iモード
 平成19年ごろは日本ではスマートフォンはまだ普及しておらず、今でいう「ガラケー」が主流でした。この「ガラケー」ですが、当時は「ケータイ」という呼び方をしていました。
 このケータイでは、通話ができることはもちろんですが、日本のケータイではメールやインターネットを使用することができました。今では当然のように思えますが、実は、これは画期的なことでした。
 これを牽引したのがNTTドコモのiモードでした。このiモードですが、コトバンクのブリタニカ国際大百科事典の解説によると、以下のように記載されています。

「エヌ・ティ・ティ・ドコモ (NTTドコモ) が 1999年2月から開始した携帯電話のインターネット接続サービス。携帯電話を使って情報サービス提供者が提供する各種サービスをオンラインで利用することができる。電子メールの送受信をはじめ,チケット予約やタウン情報など各種情報サービスのほか,銀行振り込みなどモバイル・バンキングの利用が可能である。(中略) 契約数の増加は著しく,2000年8月には 1000万を突破。 1999年4月以降,日本移動通信 IDOや第二電電 DDI系のセルラーなどほかの事業者も同様のサービスを開始した。」
 
 iモードによって、日本のケータイは飛躍的に便利になりました。
 そして、日本人のライフスタイルは大きく変わったといっても過言ではなかったと思います。
 ケータイでニュース、天気、交通案内も知ることができるようになり、場所を問わずリアルタイムで様々な情報を知ることができるようになりました。また、着信メロディ(着メロ)、デコレーションメール(デコメ)などが流行り、これを発信する会社も多数現れました。
 当時、日本のケータイは、他の先進国よりも進んでいたと思います。実際、iモードは他国の通信会社に技術を供与して「世界進出」を行おうとしていました。

(3)ブラックベリー
 一方、アメリカではどうだったかというと、日本のiモードのようなインターネット接続サービスは進んでおらず、ケータイは通話中心の使い方でした。
 そのような中、アメリカではブラックベリー(Black Berry)というスマートフォンがありました。これはビジネスマン中心に使用されていたものでした。
 ブラックベリーは、今のスマートフォンの原型のようなものです。私が見せてもらったのは黒色のもので、上3分の2ぐらいが画面で、下3分の1ぐらいにアルファベットのキーボードがついていたと記憶しています。
 いまのスマートフォンは全体が画面で、文字を入力するシーンのときに下の方にキーボードが出てくるというものですが、ブラックベリーはキーボードそのものがついていました。キーボードはパソコンと同様、アルファベットが並んでいるものでした。
 Webで画像検索すれば、いくつか出てくるのでご覧いただければよいかと思います。
 このブラックベリーであれば、通話はもちろん、メール送受信やWeb閲覧もできました。

 ちなみに、ブラックベリーをコトバンクのASCII.jpデジタル用語辞典でみてみると、以下のように記載されています。
 
「カナダのリサーチ・イン・モーション社が開発したスマートフォン。キーボードを搭載し、電子メール、Web閲覧、スケジュールやアドレス帳の管理、通話、インスタントメッセージ、オフィス文書の閲覧などが可能。会社メールを暗号化して安全に転送できることと、メールを即時着信するプッシュ型の電子メールを採用し、すぐに連絡が取れることから、ビジネス用のメール端末として人気が高い。日本では、NTTドコモが販売している。」

 上記のように、私はアメリカに行ったとき、初めてブラックベリーを見ましたが、日本ではiモードが浸透していたため、正直なところ、私自身はものすごく画期的な製品には見えませんでした。聞く限り、機能的にはそれほど変わらないと思ったからです。もちろん、アメリカ居住者ではないため、ブラックベリーを使ったことはなく、使っている人からの話と外観だけの判断ではありますが。
 しかし、私の印象とは裏腹に、アメリカやヨーロッパではブラックベリーの人気は高かったようで、市場シェアも高まっていったそうです。
 
3.平成を振り返って
 しかしながら、iモードもブラックベリーも当時の勢いは続かず、いまでは完全な下火となってしまいました。
 原因は、アップルのiPhoneとグーグルのAndroidがスマートフォン市場で圧倒的なシェアをとったからです。
 私が初めてアメリカに行ったのが平成19年(2007年)12月でしたが、ウィキペディアを見てみると、iPhoneは2007年1月に、Androidは2008年にそれぞれ発売されたということです。従って、私がブラックベリーを知った時期は、ブラックベリーの終わりの始まりだったといえそうです。
 このときから約10年で市場は一変しました。今の若い人はiモードといっても知らない人が多いと思います。私も、10年の間にこれほど激変するとは予測しませんでした。
 当時、日本のケータイのほうがアメリカよりも進んでいたはずなのですが、今では見る影もありません。
 アメリカは平成とは無関係ですが、それでも平成を振り返ってみると、強烈な印象として残っているのが、この携帯電話、スマートフォンのイノベーションです。
 「時代は繰り返す」とはいいますが、このイノベーションの歴史をリアルに知っているがゆえに、次の10年後、いや5年後や3年後かもしれませんが、また人間の生活をドラスティックに一変させるイノベーションが出てくるのだろうと思っています。
 未来を予測するのはなかなか難しいですが、少なくとも現在の技術は、今後間違いなく古いものになるということは間違いありません。そのため、現状に満足していると時代に取り残されます。
 従って、常に、いま起こっていることは古いものなんだ、という認識を持つことが大事だと思っています。

2019年3月17日日曜日

貸倒懸念債権の貸借対照表上での表示

1.はじめに
 債権は貸倒見積高の算定にあたっては①一般債権、②貸倒懸念債権、③破産更生債権等に区分されます(金融商品会計基準27項) 
 では、これらの債権は貸借対照表ではどの区分に表示すればよいのかというと、この点については制度上、明記がありません。
 そこで、今回は、債権の貸借対照表表示について記載します。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.貸借対照表での表示
 貸借対照表のでの表示ですが、①一般債権と③破産更生債権等については問題はないでしょう。
 ①一般債権は流動資産に計上されます。科目名でいうと、受取手形、売掛金、リース債権、完成工事未収入金といった科目となります。
 ③破産更生債権等は固定資産のうち投資その他の資産に計上されます。こちらの科目名は破産更生債権等となります(財務諸表規則32条1項10号)。
 ここまでは問題はないのですが、では②貸倒懸念債権についてはどの区分に表示すればよいのかが問題となります。

3.正常営業循環基準
(1)貸倒懸念債権の意義
 まず、貸倒懸念債権の意義について記載します。
 貸倒懸念債権とは「経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権」をいいます(金融商品会計基準27項(2))。
 イメージとしては、まだ経営破綻には至っていないので相手方も苦しいながらも経営は続けているため回収可能性は残されているものの、請求を行ってもなかなか入金がされないような債権というものです。

(2)流動資産と固定資産の区分法
 次に、貸借対照表の流動資産と固定資産の区分法について記載します。
 まず、流動資産と固定資産の区分は「正常営業循環基準」によります。
 次に、正常営業循環基準で区分できないものについては「1年基準」によります。
 正常営業循環基準とは、文字通り、正常な営業サイクル(例:販売業でいえば、仕入→販売→入金)に属する資産及び負債は流動項目とし、それ以外は固定項目とするというものです。
 一方、1年基準は、正常営業循環基準に該当しない科目について、決算日後1年以内に回収や支払が行われる資産及び負債を流動項目、1年を超える資産及び負債については固定項目とするものです。

 この流動・固定分類については結構誤解されがちですが、まず第1次的には「正常営業循環基準」が適用されます。1年基準で区分するようなイメージを持たれている方も多いのですが、1年基準はあくまで2次的な区分法です。

 正常営業循環基準によれば、1年で投資の回収ができないものも流動資産に計上されることがあります。例えば、長期請負工事における完成工事未収入金です。工事期間が1年を超える長期工事においては、請負工事に対する債権の回収も1年を超えてきます。しかしながら、この債権は長期工事という正常な営業サイクルに属するものなので、流動資産に計上されます。

(3)破産更生債権等が固定資産に区分される理由
 そのため、 経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権である一般債権は当然のことながら流動資産に計上されます。正常な営業サイクルに属する債権だからです。
 では、破産更生債権等が固定資産に区分される理由ですが、これは破産更生債権等は、経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権であることから、正常な営業サイクルから外れた債権であるためです。経営破綻に陥った場合、会社に対する売上債権については、こちらが請求を行っても支払ってはくれません。例えば、債権者集会を経た後、清算配当が払われる形となります。配当があればまだよいかもしれません。少なくとも全額の回収はまず無理です。すなわち、正常な営業サイクルからは外れてしまっています。
 そのため正常営業循環基準により、固定資産に区分されるとされているものと解されます。

4.貸倒懸念債権の表示
 これらを鑑みると、貸倒懸念債権は「経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権」であるため、貸倒懸念債権の状態では、まだ正常な営業サイクルに属している債権といえます。
 このような入金が滞っている場合は、通常は取引は停止しますが、請求は続けていきます。その請求により、金額や入金時期は不規則ですが、少しづつ入金はされていくケースもあります。そのため、投資の回収を行っている状況にあることから、依然として正常な営業サイクルに属する債権といえます。

 なお、参考ですが、「金融商品会計に関する実務指針」112項では、貸倒懸念債権の要件について具体的に記載しています。
債務の弁済に重大な問題が生じているとは、現に債務の弁済がおおむね1年以上延滞している場合のほか、弁済期間の延長又は弁済の一時棚上げ及び元金又は利息の一部を免除するなど債務者に対し弁済条件の大幅な緩和を行っている場合が含まれる。」
債務の弁済に重大な問題が生じる可能性が高いとは、業況が低調ないし不安定、又は財務内容に問題があり、過去の経営成績又は経営改善計画の実現可能性を考慮しても債務の一部を条件どおりに弁済できない可能性の高いことをいう。」
財務内容に問題があるとは、現に債務超過である場合のみならず、債務者が有する債権の回収可能性や資産の含み損を考慮すると実質的に債務超過の状態に陥っている状況を含む。 」

 従って、回収ペースは落ちているものの、債権の回収段階にある貸倒懸念債権は正常な営業サイクルに属しているといえますので、正常営業循環基準により流動資産に区分することが妥当といえます。