2018年9月12日水曜日

社会福祉法人向けセミナー~Web申込みについて


 平成30年10月に開催する社会福祉法人向けのセミナーですが、Web申込みもできます。
  
 Web申込みのページはこちらです。

 皆様のご参加をお待ちしています。



2018年9月9日日曜日

公益財団法人を設立するときの注意点(1)

1.はじめに 
 公益財団法人(公益認定を受けた一般財団法人をいいます。(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)2条Ⅱ)は、個人が寄附した場合でも一定の要件を満たせば、譲渡所得税について非課税になるなど税法上のメリットがあるため、近年、富裕層を中心に公益財団法人を設立したいというニーズが非常に高まっています。
 確かに、公益財団法人は個人、法人にとって税法上のメリットがありますが、公益法人は個人や法人が節税を行うために設けられた制度ではありませんので、あくまで、公益の増進のために行うという意思をもって設立することが必要です。
 今回は、この公益財団法人を設立するにあたっての注意点を記載していきます。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.税法上のメリットの例
(1)譲渡所得税の非課税
 個人が土地や有価証券といった財産を法人に寄附(法人に対する贈与又は遺贈のほか、法人を設立するための財産の提供)を行った場合、原則として、その時における価額に相当する金額(時価)により、これらの資産の譲渡があつたものとみなされることから、資産の取得時から寄附時までの値上がり益に対して所得税が課税されることになります(所得税法59条①Ⅰ)。
 しかしながら、これらの財産を公益法人等に寄附した場合に、その寄附が一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、譲渡所得税については非課税となります。すなわち、税金は課せられません(租税特別措置法40条)。

(2)相続税の非課税
 個人が相続財産を公益法人に寄附した場合、原則として、その寄附をした財産や支出した金銭は相続税の対象とはならず、非課税となります。すなわち税金は課せられません(租税特別措置法70条)。

3.親族規制
(1)ファミリー経営は不可
 公益法人には、このような税法上のメリットがあるため、相続税対策や事業承継対策として公益財団法人を設立したいという富裕層は非常に多くなってきています。
 しかしながら、公益財団法人はあくまで公益の増進を目的とする法人なので、この目的を第一にして設立を行う必要があります。すなわち、税法上のメリットを得るために設立する法人ではありませんから、自分の好きなように運営できるものではないということを知っておく必要があります。

(2)親族規制の内容
 公益法人は上記の通り、公益の増進を目的として運営される法人なので、特定の一族による支配運営が行われると、その一族の私利私欲のために公益財産が悪用される恐れがあります。
 そこで、公益法人では親族規制を設けています。
 具体的には、まず、各理事について、当該理事及びその配偶者又は三親等内の親族(これらの者に準ずるものとして当該理事と政令で定める特別の関係がある者を含む。)である理事の合計数が理事の総数の3分の1を超えないものであるというものです。これは監事についても、同様です(認定法5条Ⅹ)。
 評議員については、法令上は親族規制は設けられていませんが、上記の譲渡所得税の非課税の特例の適用を受けるためには、評議員についても親族規制を設ける必要があります(租税特別措置法40条)。

(3)許容範囲はどこまでか
 親族規制は、3分の1規定とも言われることがありますが、「3分の1を超えない」ということが要件となっていますので、3分の1まではOKということになります。
 具体例では、理事が6人いる場合、2人までは配偶者や三親等内の親族等であっても問題はないということなります。

(4)三親等内の親族とは
 三親等内の親族は本人及び配偶者の曽祖父・曾祖母や叔父・叔母を含みます。従って、範囲は広いものとなります。ただし、従兄弟姉妹(いとこ)は四親等なので、範囲外となります。
 参考資料として社会福祉法人向けのものですが、兵庫県が親族関係図を公表していますので、ご参照ください。

(5)特別の関係がある者
 特別の関係がある者とは以下のとおりです(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行令4条)。
 以下をご覧になってもわかるように、範囲は広いものとなります。
 自分の会社の使用人(従業員)を理事にはめ込んで、ワンマン経営を行おうということも不可です。

一 当該理事と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
二 当該理事の使用人
三 前二号に掲げる者以外の者であって、当該理事から受ける金銭その他の財産によって生計を維持しているもの
四 前二号に掲げる者の配偶者
五 第一号から第三号までに掲げる者の三親等内の親族であって、これらの者と生計を一にするもの

4.最後に
 このように、公益法人になるためには、まず親族の3分の1規定をクリアする必要があります。すなわち、自分のファミリーや自社の従業員とは全く関係のない外部の人を評議員、理事、監事にする必要があるということです。
 ポイントとしては、せっかく作った公益法人が悪意のある人間に乗っ取られることがないよう、信頼のおける人に就任していただくことです。
 従って、人選には時間をかける必要があります。
 公益法人はファミリーのみで構成することはできませんから、すぐには人は集まりません。結局、一朝一夕では公益法人は設立できないということをおさえておく必要があります。
 なお、注意点は他にもまだまだありますので続きを次回以降、記載していきたいと思います。
 

2018年9月1日土曜日

キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)と資金繰り(1)

1.概要
 今回は、近年、経営指標としても注目されているキャッシュ・コンバージョン・サイクル(Cash Conversion Cycle 以下「CCC」)について記載します。
 CCCとは、簡単に言うと資金を投下してから資金が回収されるまでの期間をいいます。このCCCの数値が小さければ、資金効率がよいということになります。
 
2.CCCの仕組み
(1)計算式と図
 計算式は以下のとおりです。

 CCC=売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-仕入債務回転期間

 計算式だけだとわかりにくいので、図で示してみます。

【図1】

 この場合の仕入は掛仕入、売上は掛売上を前提としています。
 上図から分かる通り、CCCは掛仕入の代金を支払ってから売掛金の回収が完了するまでの期間です。資金の投下のために出ていったお金が、成果として入ってくるまでの期間ともいえるでしょう。
 これからも分かる通り、この期間が短ければ短いほどよいことになります。逆に、長いということは、お金が入ってくるまでの期間が長いということですから、資金繰りが苦しくなります。
 そのため、CCCが長くならないようにするとともに、CCCを短くしていくことが資金繰りのためには重要です。

(2)資金繰りの重要性
 以前、「事業計画と資金繰表~継続企業の前提(2)」では「企業の継続性が成り立たなくなるとは、経営が破綻するということですが、より具体的に言うと、資金繰りがショートするということです。」と述べました。企業の存続は資金繰りにかかっています。そのため、資金繰りの管理は非常に重要です。
 しかしながら、現実には資金繰りの管理がうまく行かず、破綻するケースも見られます。特に、損益計算上では黒字なのに、資金繰りがショートする「黒字倒産」のケースも見受けられます。これは「キャッシュ・フロー計算書作成の必要性(1)」「キャッシュ・フロー計算書作成の必要性(2)」で述べたように、発生主義会計のもとでは「収益・費用」と「収入・支出」にタイミングのズレがあることから、発生主義会計の損益計算書のみを見ていると、キャッシュ・フローが盲点になってしまうからです。
 従って、キャッシュ・フロー計算書を作成し、キャッシュ・フローを管理する必要があるというわけです。
 ただし、キャッシュ・フロー計算書は結果を示したものに過ぎず、ここからキャッシュ・フローを改善するにはどのような手段をとればよいのかということになると、キャッシュ・フロー計算書のみでは苦しいものがあります。
 しかしながら、今回のCCCは資金繰りの指標を示すものなので、CCCを計算してCCCを短くする方策をとり、資金繰りを管理することで、資金繰り及びキャッシュ・フローの改善につながります。

3.公認会計士試験より
 最後に、平成30年度の公認会計士試験にもCCCの問題が出ていましたので紹介します。
 ちなみに、なぜ知っているのかというと、身近に受験生がいるので公認会計士試験については気になっているためです。なお、試験問題は金融庁の公認会計士・監査審査会のこちらのページで見ることができます。
 CCCが出ていたのは会計学(午前)の問題です。(会計学(午前)は管理会計論です。)
 そこで、会計学(午前)の第2問問題1の一部を引用してみます。ぼやけていますがご容赦ください。
 
(平成30年公認会計士試験論文式試験会計学(午前)の問題より)

 問2では、20☓1年と20☓2年のCCCが問われています。
 「ク」の欄は簡単に求めることができます。
  CCC=売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-仕入債務回転期間 ですから、

 62+58-51=69日 となります。
 
 なお、この会計学(午前)第2問問題1は、見たところとても時間がかかるのでまともに手をつけてはいけない問題です。その中で「ク」だけは単独でできる問題でした。
 
 ちなみに、以前にもCCCの問題は管理会計論で問われています。

4.最後に
 CCCは以前より管理会計の世界で紹介されていたものですが、近年CCCを重視する企業も増えています。
 中小企業などではキャッシュ・フロー計算書やCCCを取り入れられていないところが多く見られますが、資金繰りの管理・改善のためにぜひ、導入していただきたいと思います。


2018年8月29日水曜日

社会福祉法人向けセミナー開催のお知らせ

 平成30年10月に社会福祉法人向けセミナーを開催することになりました。
 テーマは、会計監査でよく問題となる主要論点の解説です。

 会場は以下の3会場です。セミナー開始時刻はいずれも14時00分です。

 10月4日(木)   ハートピア京都
 10月9日(火)   阪急グランドビル
 10月11日(木) 神戸国際会館

 現在、平安監査法人HPへのアップロードを準備中ですが、先行して以下のページを印刷していただき、FAXでお申し込みいただいても結構です。
 FAX番号は 075-256-1231 です。

 今回はどの会場も席数数が少なくなっていますので、ぜひお早めにお申し込みください。
 
 皆様のご来場をお待ちしております。
 
 

2018年8月26日日曜日

公益法人の立入検査のポイント(1)

1.概要
 8月も終わりに近づき、9月になろうとしています。9月になると行政庁による公益法人の立入検査が本格的に始まります。もちろん、8月に実施しているところもありますが、どちらかというと9月以降が多くなります。
 公益法人の制度改革以後、ほぼすべての公益法人(公益認定を受けた一般社団法人及び一般財団法人をいいます。以下同じ。)には立入検査が入っていますが、近年設立された公益法人やこれから公益法人を設立しようとされる方もいらっしゃると思います。特に、事業承継や相続税対策のために今後、公益法人を設立したいという方は多くいらっしゃいます。
 そこで、今回は公益法人の立入検査のポイントについて記載したいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.立入検査とは何か
 立入検査の根拠は、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)の第27条①に求められます。
 認定法27条①では「行政庁は、公益法人の事業の適正な運営を確保するために必要な限度において、内閣府令で定めるところにより、公益法人に対し、その運営組織及び事業活動の状況に関し必要な報告を求め、又はその職員に、当該公益法人の事務所に立ち入り、その運営組織及び事業活動の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。」と定められています。
 これを根拠に、行政庁が立入検査を行うわけです。
 立入検査は、条文のとおり、公益法人の事業について適正な運営ができているかどうかを調べるために行われます。
 具体的には、大きく分けて①機関運営や公益事業の実施といったガバナンス面と②内部統制を含む会計面について調べられます。

3.行政庁ごとの実施例
 立入検査のスタイルは行政庁によって異なります。
 私もこれまで数多くの立入検査に立ち会ってまいりました。
 ここでは、私の知っている範囲で各行政庁の立入検査の実施状況を記載してみます。ただし、私の記憶違いもあるかもしれませんので、あくまで参考でお願いいたします。

(1)内閣府
 日数:1日
 時刻:午前11時~午後4時頃
 人数:2名
 内容:ガバナンス面と会計面(事業報告等を含む)
 頻度:概ね4年に1回
 特徴:内閣府はプロパー職員は少なく、大抵他の省庁から出向されている方です。
東京から出張されるので、関西あたりに来られるときは日帰りになります。

(2)京都府
 日数:1日
 時刻:午後1時~午後5時30分
 人数:3~4名 うち1名は公認会計士
 内容:ガバナンス面と会計面
 頻度:概ね3年に1回
 特徴:①京都府は、ガバナンス面と会計面のそれぞれについて担当者がつき、同時並行で検査を行っていきます。会計面は公認会計士が行います。時間が午後のみと短い分、役割分担を行って効率的に行うということだと思います。そのため、担当者数も多めになります。
②事前に立入検査のチェックポイントが送られてきます。これにより、どのようなことを検査されるのかを事前に知ることができます。
③事業報告等については立入検査当日は見ないことになりました。

(3)滋賀県
 日数:1日
 時刻:午前10時(だったと思います)~午後5時30分
 人数:2名
 内容:ガバナンス面と会計面(事業報告等を含む)
 頻度:概ね3年に1回
 特徴:①滋賀県は前半をガバナンス面、後半を会計面といった感じで進めていました。役割分担はなく、ガバナンス面、会計面を二人で一緒に見ていました。
 ②滋賀県は滋賀県公益認定等委員会のHPで、立入検査実施計画を公表し、どの年度にどの公益法人に立入検査を行うのかというスケジュールを公表しています。また、立入検査チェックシートも公表しています。これにより、どのようなことを検査されるのかを事前に知ることができます。

(4)大阪府
 日数:1日
 時刻:午前10時~午後5時30分
 人数:3~4名 うち1名は公認会計士
 内容:ガバナンス面と会計面(事業報告等を含む)
 頻度:4年に1回
 特徴:ガバナンス面と会計面についてそれぞれ担当者がつき、同時並行で行っていきます。京都府と同じスタイルですが、大阪府は終日実施します。
 頻度は4年に1回となったそうです。

(5)兵庫県
 日数:1日
 時刻:午前9時30分~午後5時30分
 人数:2名
 内容:ガバナンス面と会計面(事業報告等を含む)
 頻度:概ね3年に1回
 特徴:事業報告等の担当者、ガバナンス面・会計面の担当者がいて、同時並行で行っていきます。
 事前に準備していただきたい資料のリストが送られてきます。

 日数は、どの行政庁も通常は1日です。ただし、ごくまれに2日間にわたって行われるところもあるそうです。
 また、終了時刻ですが、予定よりも早い時刻に終わることもよくあります。

4.最後に
 今回は、立入検査の概要面について記載しました。
 公益法人であれば、立入検査は必ず実施されます。これから公益法人を設立することを考えられている方は、公益法人は設立したら終わりではなく、設立後もいろいろな規制が続くということを知っていただきますようお願いいたします。

2018年8月18日土曜日

組織化の理論と実務(4)

1.概要
 今回は組織化を行うための手段として伝統的組織論に基づく管理原則を紹介したいと思います。
 この管理原則は、集団を組織として機能させるためには、押さえておくべき基本原則です。組織化が行われていない、あるいは組織化が不十分な会社等はこの管理原則に不備が見られることが非常に多いです。

 管理原則にはいろいろなものがありますが、ここでは数回にわたって(1)命令一元化の原則、(2)専門化の原則、(3)スパン・オブ・コントロール、(4)権限責任一致の原則、(5)階層化の原則、(6)権限委譲の原則、をあげてみたいと思います。

2.命令一元化の原則
(1)意義
 命令一元化の原則とは、部下は直属の上司一名から命令や指示を受けるべきであるとする原則です。

 なぜかというと、部下が複数の上司から命令や指示を受けると、部下が混乱するからです。具体例を上げると、二人の上席からそれぞれ期限のある仕事をふられると、ふられた部下としては、2つも同時に期限のある仕事を進めることは困難となりどうすればよいのか困ってしまいます。
 また、A部長とB部長とで主張が異なるというケースもあります。そうなると部下はどちらの方針で行動すればよいのかわからなくなってしまいます。

 このように、複数の上司から命令や指示を受けると、部下が混乱してしまい業務を効率的に行うことが困難となってしまいます。これは、結果として組織全体の業務効率が落ちることにつながります。
 従って、部下は直属の1名の上司から命令・指示を受ける体制とすることを原則とする必要があります。

 なお、命令一元化の原則は絶対的なものではなく、ファンクショナル組織やマトリックス組織のように、複数の上司により命令・指示が出るという組織もあります。

(2)命令一元化の原則確立の方法
 組織化がうまく行っていない会社等ではこの命令一元化の原則が取り入れられていないケースが多く見れらます。これは階層化の原則や権限委譲の原則にもつながるのですが、職務権限規程に基づいた指揮命令系統が確立されていないことが原因です。
 そのため、例えば、スタッフが課長から指示を受けて行ったことが、翌日部長にひっくり返されて、また仕事を一からやり直さなければならないといった理不尽なことが起きてしまいます。

 命令一元化の原則を確立するには、職務権限規程と組織図をしっかりと作り、指揮命令系統を具体的に定めるとともに、上の人間や他の部署の人間が権限を無視して口出しをしないという組織風土を醸成することも必要です。

 そのためには、トップの役割が重要となります。このような組織風土は、役員や従業員任せではなかなか形成されません。役員や従業員の多くは、現状を変えることに抵抗があるためです。そのため、トップは現状の組織風土を破壊する意気込みでドラスティックに改革を行う必要があります。
 
3.専門化の原則
(1)意義と効果
 専門化の原則とは、業務を細分化し、その細分化した業務について専門的に行うこととする原則です。

 専門化については、業務プロセスを細分化し、ひとつひとつの作業を単純化することから始まります。これは「組織化の理論と実務(3)」で触れた業務の標準化につながります。このように標準化された各業務を特定の人間が行うことが専門化となります。
 具体例をあげると、営業であれば営業を、経理であれば経理を、法務であれば法務を、といったように会社の業務を細分化してそれぞれの業務について専門的に業務を行うということです。

 このように、特定の業務を専門的に行うと、経験値が高まり業務のスピードが高まります。また、長い期間、専門的に行うため、その業務に対する深度も増します。その結果、組織全体として業務の効率化が進みます。

(2)中小企業における問題点
 一見すると、専門化の原則は当然のように思われるかもしれませんが、この専門化の原則が取り入れられていない会社等は実は多く見られます。特にいわゆる中小企業では、その傾向が強く見られます。

 例えば、管理部という部署があり、その下に総務課、経理課といった課を組織上は設けているのですが、実際は経理課の職員が総務の業務も行っていたり、管理部長が営業も行っていたり、というケースが見られます。

 これは中小企業では人が少ないことが原因なのですが、一方で、トップの意識に問題があることが原因と思われるケースも多く見られます。すなわち、トップが「管理系の人間は売上に貢献していないのだから、そんなに人を置く必要はない。」と考え、管理系の業務の人員を極端に少なくしているケースがあるのです。そのため、管理系の人員が不足し、経理の人が総務も行うということが起こってしまうわけです。

 これでは、専門化が実現できません。例えば、経理の人は経理の仕事のみを行うことで、スキルが向上し業務スピードも上がってきます。しかし、経理の人が総務の仕事も行うようだと、経理業務のスピードが上がらないどころか、大量の業務をこなさなければならず、業務効率が下がってしまいます。これは結果的に会社全体の業務効率が落ちる結果となります。

 確かに、ホワイトカラーの人員と人件費が必要以上に多いと、間接部門の肥大化となり、会社全体の収益性は落ちます。バブル崩壊後の日本企業では、直接に収益を生み出さない間接部門が肥大化していたところが多かったため、リストラクチャリング(事業の再構築)を進めていきました。
 しかしながら、管理業務の人員が少なすぎると、上記のように、逆に業務の効率性が落ち、収益性も落ちてしまいます。

 従って、専門化の原則を進めるために必要な最低限の人員は揃えて、専門化を促進し、会社全体の業務効率を上げていく必要があります。

2018年8月5日日曜日

監事監査のあり方~公益法人・社会福祉法人共通

1.概要
  公益認定を受けた公益社団法人は、理事会の設置が公益認定のための要件となっていますので(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)5条十四  ハ)、監事の設置が必要です(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」61条)。また、一般財団法人は監事を設置しなければならないとされているので(一般法170条①)、公益認定を受けた公益財団法人も監事が設置されています。
  また、社会福祉法人では、社会福祉法で監事を置かなければならないと定められていますので(社会福祉法(以下「社福法」36条①)、社会福祉法人も必ず監事が設置されています。
  今回は、この監事による監事監査のあり方について記載していきたいと思います。
  なお、本稿は私見であることにご留意ください。

 2.監事監査の内容
監事は、理事の職務の執行を監査するとされています(一般法99条、社福法45条の18①)。監事監査には会計監査業務監査が含まれます。会計監査については、計算関係書類の適正性について監査を行います。また業務監査は、理事の職務の遂行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実がないかどうかについて監査を行います。
 監事は監事監査を行うと、その内容を記載した監査報告書を発行します(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行規則36条及び45条、社会福祉法施行規則2条の27及び2条の36)。

3.監事監査の現状
 このように監事は会計監査と業務監査を行う義務があります。従って、監事は会計監査と業務監査を行った上で、自ら結論を形成し、監査報告書を作成し、署名押印を行う必要があります。
 しかしながら、行政庁名は伏せますが、監査を行わないで監査報告書に署名押印のみを行っている監事がいるのではないか、ということで公益法人の立入検査では、本当に監事が会計監査と業務監査を行ったのかを確かめるようになってきています。
 具体的には、監事が監査を行ったことを示す証拠の提示が求められてきています。
 このとき提示するものとしては監事が行った監査手続とそれに対する結果や指摘事項などを示した書面が望ましいといえます。名称は「監事監査レポート」、「指摘事項一覧」など様々で、決まったものはありません。
 ちなみに、監査法人による株式会社の財務諸表監査では、監査役レポートの提示を求めています。内部統制を構成する要素で最も重要なのは統制環境ですが、統制環境が適切に機能しているかどうかは、ガバナンスが機能しているかどうかを見る必要があるからです。このガバナンスが機能しているかどうかの判定の手段の一つが監査役レポートです。すなわち、監査役レポートを見れば、監査役がどのようなレベルの監査を行っていて、ガバナンスがどのぐらい効いているのかといったことを知る上で一つの目安となるからです。

4.監事監査のあり方
 すでに決算期を過ぎた法人で、このような監事監査レポートが作成されていない法人は、今から監事に作成してもらうことはできませんので、このまま行くしかありません。しかしながら、今後は監事には監事監査レポートを作成してもらう必要があるといえます。見方を変えると、監事は自分が監査を行ったことを示すためにも監事監査レポートを作成する必要があります。もちろん、適切に監査を行うことが前提です。
 また、よく見られるのは、監事監査を行っている場合でも、決算時に設けられた監事監査の日にやって来て数時間で終わり、というものですが、期末後の日に数時間、決算書、残高証明書、元帳を見ても実効性のある監査は期待できません。従って、今後は期末決算時だけではなく、期中にも監事監査を行うことが望まれます。
 実際、中間時、期末時の少なくとも年2回、監事監査を行っている法人は存在します。また1~2時間で終えるのではなく、朝から夕方まで1日かけてしっかりと行っています。
 さらに、実効性のある監査を行うためには、年間の監査計画も作成する必要があります。
 上述のように、監事監査がしっかりと機能しているかどうかは、内部統制の最重要要素である統制環境に影響を与えます。統制環境は内部統制のすべての要素に影響を与えますから、監事がしっかりとその役割を果たしていないと、法人の内部統制全体に悪い影響を与えることになります。
 従って、法人運営を行うにあたっては、監査を適切に行うことができる監事を選任する必要があるといえます。

2018年7月29日日曜日

組織化の理論と実務(3)

1.概要
 前回までは、テイラーの科学的管理法と現代企業での実務の応用について説明しました。
 今回は、自動車のフォードが生み出したフォード生産方式と実務への応用について記載していきたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください

2.フォード生産方式
(1)T型フォードの成功
 20世紀初頭の米国において、自動車は富裕層の持ち物でした。しかし、フォードは低価格のT型フォードを市場に投入し、富裕層しか持つことができなかった自動車を大衆も持つことができるようにしました。
 大衆もT型フォードを購入できたのは、その低価格ですが、この低価格化を実現するために、フォードは生産方式において「標準化」「移動組立方式」をとりいれました。
 これにより、短期間で大量生産が可能となり、製造原価も抑えることができるようになりました。

(2)標準化
 T型フォードは、全て色は黒色で、種類も同じでした。これはフォードが大量生産を行うために、部品や作業を標準化したからです。
 具体的には、設計をシンプルにし、シャーシ、エンジン、ブレーキといった部品も単一のものとし、細分化しました。また、生産ラインも細分化し、一つ一つの作業を単純化しました。

(3)移動組立方式
 ベルトコンベアで仕掛品が次々と流れてきて、工員がそれぞれの場所で組み立てていくというのは現代の工場ではごく自然のシステムですが、当時は斬新なものでした。
 細分化された部品を、細分化された生産ラインで、それぞれが単純作業により組み立てていくことで、大量生産が可能となりました。
 また、単純作業であるため、熟練工は必ずしも必要ではなく、非熟練工であっても作業を行うことができるようになりました。

3.実務への応用
(1)サービス業や管理業務でも可能
 このように、業務を細分化し、単純化することで短時間で大量生産するという方式はメーカーに限定した話のように思われますが、サービス業や管理業務でもこの方式を導入することは可能です。

(2)ある会計事務所の例
 私が聞いた話では、ある会計事務所は各別表の担当者が決まっていて、流れ作業で税務申告書を作成しているということです。具体的には、交際費担当者、寄附金担当者、減価償却費担当者などいろいろな別表担当者がいて、顧客担当の税理士や専門職員から提出された数値表の数値を、それぞれの別表担当者が税務申告ソフトに入力していくということのようです。さらに、これらの入力担当者は税理士などではなくパートタイムの職員が行っているそうです。
 この事例はまさにフォード生産方式の応用といえます。
 別表ごとに入力担当者を決めて入力していくというのは、業務を細分化して単純作業にするという標準化にあたりますし、流れ作業で行っていくことは移動組立方式にあたります。さらに、上述のように移動組立方式では一つ一つの作業が単純化されているため、非熟練工でも作業を行うことができるようになりましたが、この例においても単純な入力作業であるため税務の専門家ではないパートタイムの職員でも行うことができます。
 このように税務申告書作成業務にフォード生産方式を取り入れることで、大量の税務申告書の作成が可能となり、売上も大きな額となっているようです。

(注)聞いた話をもとにしたイメージ図です

4.最後に
 このような「標準化」と「移動組立方式」を導入するためには、まず業務プロセスを把握しておかなければなりません。
 しかしながら、日本の中小企業、非営利法人で自社の各業務の業務プロセスを把握しているところは少数です。
 現在、働き方改革が問題となっていますが、業務の効率化を行うためには、その前提として自社の業務プロセスをしっかりと把握することが必要です。
 

2018年7月22日日曜日

組織化の理論と実務(2)

1.課業管理と作業研究
 課業管理を行うには課業(task)を設定する必要があります。この課業の設定のためには作業研究を行う必要があります。
 作業研究とは、具体的には時間研究動作研究を行うことです。
 これにより、ある業務の各プロセスにどのぐらいの時間がかかっているのか、また、どのような動作によって行われているのかを調べます。そして、この結果に基づいて、作業の時間と動作を標準化し、課業を設定します。

2.自社の業務プロセスの把握
(1)概要
 テイラーの科学的管理法は、工場での作業を対象に行ったものなので、どちらかというと単純作業についての管理法といえます。
 しかしながら、19世紀後半から20世紀初めと異なり、現代の企業は第3次産業が発展していますので、必ずしもそのまま当てはまるというわけではありません。
 とはいえ、課業管理すらできていない企業等があるのも事実なので、企業等の生産性をあげるには、まず課業管理から始めていく必要があります。そのためには、上記のように、時間研究と動作研究が必要です。

(2)業務プロセスの可視化
 この時間研究と動作研究ですが、管理業務や役務提供業務の場合は、その前に業務プロセスの可視化を行う必要があります。
 具体的には、フローチャートを作成して、自分たちが行っている業務がどのようなプロセスから成り立っているのかを客観的に把握する必要があるということです。
 また、このフローチャートを文書化したものが業務記述書です。
 まず、このように業務のプロセスを明らかにした上で、時間研究と動作研究を行うほうが効果的といえます。
 ちなみに、上場企業では内部統制監査が義務付けられていますが、大抵の企業は①フローチャート、②業務記述書、③リスクコントロールマトリックス(RCM)を作成しています。これらを俗に「3点セット」と呼ばれています。これらは制度上、作成を要求されているわけではないのですが、この3点セットを作成する実務が定着しています。なお、金融庁は必ずしも3点セットを作成する必要はないと公表しています。



3.差別的出来高給制の応用
 差別的出来高給制もテイラーの科学的管理法の重要な一つです。これは課業を達成できた労働者には標準的な賃金よりも多くの賃金が支払われるのに対して、課業を達成できなかった労働者に対しては標準的な賃金よりも少ない賃金しか支払われないというものです。
 ただし、これは大昔の工場の単純労働作業を前提にしたものであり、現代企業では導入することは現実的ではありません。
 しかしながら、課業の達成度により従業員を評価することで、昇給や昇格に反映させるということは可能です。
 この従業員の評価を昇給や昇格に反映するということは、どの企業等でも行っていることではあると思いますが、問題はこれまでに述べたように、作業研究に基づいた課業を設定していないがゆえに、その評価が客観的ではないという点です。評価が客観的でないと、従業員は不満を持ち、不信感を持ちます。そうなると、モチベーションの低下に繋がり、企業等の生産性は低下してしまいます。
 従って、重要なのは作業研究の妥当性です。ここが科学的、客観的に行われないと、課業の量の妥当性にも欠陥が出てしまいます。その結果、従業員の評価についても妥当性を欠くことになります。

4.標準化と点数化
(1)主観性の排除
 課業の設定は、作業研究の結果に基づいた作業の時間と動作の標準値に基づくことになりますが、ここは上記のように、科学的、客観的に行う必要があります。とりわけ、標準値の妥当性には注意する必要があります。
 そして、課業の達成度に基づいた従業員の評価は客観的に行う必要があります。言い換えれば、従業員の評価においては主観性を排除する必要があるということです。
 それでは、主観性を排除するにはどのようにすればよいのかということですが、参考として、ここでは全くの別ジャンルであるプロ野球について紹介したいと思います。

(2)米国球団の点数化による数値評価
 現在のアメリカのメジャーリーグ球団では、選手を評価する際、主観性を排除し、点数化した数値評価を行うことが主流になっています。
 具体的には、いくつかの評定基準を設けて、それぞれに点数をつけていき、その点数を合計した総合点で評価するというものです。この点数をつける際には、相対的な評価は行いません。あくまで絶対評価による採点です。
 参考として、巨人軍のお家騒動で有名となった清武英利氏の『巨魁』(WAC)より一部を引用してみます。
(清武英利著『巨魁』(WAC) P231より)

 当時、巨人でも、ベースボール・オペレーション・システム(BOS)という選手の評価を数値化するシステムを導入して、主観性を排除した選手評価を行うことにしたそうです。この本には、当時の様子が詳しく書かれているのですが、その中に上の図表も掲げられています。
 これによれば、直球(ストレート)の平均球速が152キロ~158キロの投手は80点、また直球(ストレート)の最速が158キロ以上の投手は80点という点数がつけられます。
 これを、直球制球値、防御率、与四死球率、奪三振率といった様々な評定基準によっても行い、総合評価を行うというわけです。
 このようにすれば、これまでスカウトの主観により評価してきたものが、数値により客観化されます。そうすれば、主観性を排除でき、誰もが納得する評価を行うことができます。
 さらには、この評価を行うことで、それまで目につかなかった埋もれた才能を持つ選手も発掘することもできます。「マネー・ボール」で有名となったビリー・ビーンのアスレチックスはこれにより強くなりました。

(3)企業実務への応用
 (2)は野球の世界の話でしたが、業務の達成度を点数化することは企業実務でも可能です。例えば、上の図ではないですが、ある業務の課業を日数で設定し、課業日数で達成した場合は70点、課業日数より少ない日数で達成すれば、75点、85点・・・、逆に課業日数を超えれば65点、60点・・・という評価を行えば客観的な評価を行うことができます。
 もちろん、上記のように、その前提には作業研究に基づいた標準値の妥当性が重要となります。とても達成できないノルマを課せられると従業員の心身に過剰なストレスがかかりブラック企業化してしまいます。
 また、企業や業務によっていろいろな形態がありますので、全員が納得する形で課業を設定することが重要です。 

2018年7月16日月曜日

組織化の理論と実務(1)

1.はじめに
 社会には、株式会社を始め、さまざまな人の集合体があります。監査法人や会計事務所、非営利法人である公益法人、社会福祉法人、医療法人なども人の集合体です。
 しかしながら、このような人の集合体が必ずしも「組織」として機能しているとは限らず、結果として非効率な業務となり、得られたであろう利益を逸失していることも少なくありません。得られたであろう利益とは、会計上の利益に限らず、優秀な人材であったり、時間であったり、世間の評判であったりと有形のみならず無形のものも含まれます。場合によっては、いま社会で問題となっている「ブラック企業」と化してしまいます。
 そこで、今回はこれまでとジャンルは異なりますが、「組織化」についての方法とその背景にある理論について記載していきたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.「組織化」のメリット
 「組織」というと何となく人間性が失われた無味乾燥的なイメージがあるかもしれません。よく「組織の歯車になりたくない」という話も聞かれますが、これは組織という概念に、このようなネガティブなイメージがあるからかもしれません。
 確かに、組織にはそのようなネガティブな面があることも事実ですが、それは行き過ぎた場合であって、人の集まりを組織化することで、いろいろなメリットもあります。
 例えば、役割分担をすることで、一人で時間をかけて何種類もの作業を行わなければならないところを、それまでよりも短い時間で目標を達成することができます。また、個人では達成が難しい大きな目標も、組織で行えば達成することもできます。そうすれば、金銭的な利益も増え、給料が上がる機会も増えてきます。

3.「組織化」のための理論の必要性 
 このように個人の集団を組織化することで、いろいろなメリットを享受することができるのですが、組織化を順調に進められるところは必ずしも多くはありません。その原因の一つは、組織化を進めたいと考えても、その背景にある理論を知らないことにあります。
 組織化といっても、思いつきで行うと効果は出ません。組織化に向けては経営学の理論がありますので、まずはこれが基本になります。もちろん、人間の集団であり、さらに取り巻く環境もさまざまですから絶対的にベストという組織は存在しません。しかしながら、組織の理論を基礎にして組織化を進めるほうが、その過程で生じるトラブルやロスを少なくできます。

4.テイラーの科学的管理法と実務への応用
(1)概要 
 経営学の組織論にはいろいろな理論がありますが、その理論のスタートして挙げられるのは「テイラーの科学的管理法」です。この「テイラーの科学的管理法」が基礎になり、今日の組織論が築かれています。従って、「テイラーの科学的管理法」を知ることが組織化を行うにあたっては必要といえます。
 
(2)内容
 テイラーの科学的管理法の主な内容は①課業管理、②作業研究、③差別的出来高給制、④職能別職長制、です。
 ただし、これらの内容については、世の中の書物やWeb上でも詳細に解説が行われていますので、本稿では簡単に書きたいと思います。
 本稿では、むしろ内容の解説よりも、(イ)これらが生み出された背景と現代の企業等との共通点、(ロ)現代の企業等がどのように実務に応用すればよいのか、を記載したいと思います。

5.課業管理
(1)意義
 課業管理とは、1日に行うべき仕事量を設定して、その達成度を管理することです。

(2)現代企業との共通点
(ⅰ)組織的怠業
 課業管理は、この後に説明する作業研究や差別的出来高給制と密接に結びつきます。
 19世紀後半から20世紀はじめのアメリカ社会では、賃金はいわゆる「出来高払い」でした。すなわち、建前では仕事を行えば行うほど、それに応じて賃金が支払われるということです。
 しかしながら、この場合、仕事をすればするほど賃金が増大するため、雇用主側にとっては大きな負担となります。そのため、雇用主は賃金が高くなると労働者の賃率を下げるという行動に出ます。これが繰り返し行われると、労働者側は「働けば働くほど損になる」と考えるようになります。このような考えが労働者全体にも広がり、次第に労働者集団においても「あまり働かないようにしよう」という共通認識が生まれます。そして、ついには労働者が組織的に働かないような行動をとるようになります。これを組織的怠業といいます。
 
(ⅱ)現代の企業の状況
 現代の企業においても、組織的怠業とまではいきませんが、個人レベルでわざと仕事を一生懸命行わないようにしようとする傾向は見られます。
 その理由は以下のとおりです。
 仕事がよくできる人は、仕事にかかる時間も短く能率的に業務を行うことができます。これを見た上司は「彼・彼女は仕事がよくできる」という高い評価を行いますが、同時に、仕事がよくできるということで、さらに仕事を振るようになります。
 一方、仕事を振られた従業員は、命じられた仕事を終了したにもかかわらず、さらに仕事が増えることになります。それで給料が増えればよいですが、特別手当がつくことはあまりありません。それどころか残業が増大し、しかもサービス残業となるケースも多く見られます。その結果、実質賃金は低下することになります。
 これが続くと、仕事を振られた従業員は「働けば働くほど損になる」と考えるようになります。
 その結果、従業員は「仕事を一生懸命やって早く終わらすと、さらに仕事を振られる。それだったら、わざと遅く行ったほうがいい。そのようにして『いつも手が一杯で忙しい』と思わせれば仕事が振られなくなる。」と考えるようになります。
 これは、上述のように19世紀後半から20世紀初めのアメリカの労働者に共通するところがあるといえます。

(ⅲ)実務への応用
 従業員がこのようにわざと仕事を遅く進めるようになると、会社としては大きな機会損失が発生します。すなわち、本来であれば、もっと業務が効率的に早く進んでいろいろな収益を得る機会が増えたかもしれないのに、その機会を得られない可能性があるということです。その結果、会社は成長しないことになりますし、さらには日本経済の国際的競争力も進まないことになります。
 しかしながら、このようなことになるのは従業員の自覚に問題があるのではなく、会社の組織のあり方に問題があります。これは、上述のアメリカの組織的怠業を見れば明らかです。大昔のアメリカはこのような状況であったために、テイラーの科学的管理法が生み出されたのです。
 そこで、このようになってしまう原因を明らかにする必要がありますが、ヒントになるのがテイラーの科学的管理法です。
 上述のように課業管理は、作業研究や差別的出来高給制と密接な関係がありますが、企業がこのような状況に陥る原因は、まずこの課業管理がしっかりとできていないことに原因があります。
 課業は1日に行うべき仕事量であり、いわゆるノルマです。モノを売る営業では達成すべき販売数や売上高が定められていますが、サービス系や管理業務系では、私が見たところ、一人あたりの課業を具体的、客観的に設定している会社はあまり多くありません。どちらかというと主観的に不明確な量の業務を命じている感じです。
 テイラーの科学的管理法が生み出された背景には、まだまだいろいろなものがありますが、次回以降、順次説明しながら、組織改革のポイントを説明していきたいと思います。


2018年7月7日土曜日

キャッシュ・フロー計算書作成の必要性(2)

1.「収入・支出」と「収益・費用」の違い
 キャッシュ・フロー計算を行うにあたっては、「収入・支出」「収益・費用」の違いを知っておくことが重要です。
 一見すると「収入・支出」と「収益・費用」は何となく同じような感じがしますが、これらは異なります。例えば、前受金のように、収入(キャッシュイン・フロー)があったからといって収益になるとは限りませんし、有形固定資産の購入のように支出(キャッシュアウト・フロー)があったからといって費用になるとは限りません。
 このように、「収入・支出」の認識と「収益・費用」の認識にはタイミングのズレが生じます。キャッシュ・フロー計算書はこのタイミングのズレを調整し、「収益・費用」を「収入・支出」の関係にする計算書です(間接法の場合)。

2.タイミングのズレが生じる理由
 「収入・支出」の認識と「収益・費用」の認識にタイミングのズレが生じるのは、現行の会計が発生主義会計で行われているためです。
 例えば、100万円の売上があり、それを掛売上とした場合、

(借方)売掛金 100 (貸方)売上 100

 という仕訳をおこします(単位は万円)。
 これは発生主義会計による仕訳です。これが現金主義会計であれば、売上時点で100万円の収入はないので、売上の認識は行いません。

 もう一つ例を挙げると、100万円の現金払いで機械を購入した場合、

(借方)機械 100 (貸方)現金 100

 という仕訳をおこします(単位は万円)。
 現金主義会計であれば、100万円の支出があったため、機械の購入時点で100万円の費用を計上することになります。
 しかしながら、発生主義会計のもとでは、購入時点で全額を費用認識は行いません。費用は減価償却費という形で、耐用年数期間に渡って費用計上します。

 このように、現行の会計は発生主義で行われているため、「収入・支出」の認識と「収益・費用」の認識にタイミングのズレが生じます。
 ただし、これはあくまでタイミングのズレであって、収益は必ず収入に結びつきますし、費用も必ず支出に結びつきます。
 実は、企業会計原則では、第二 一Aで「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。」と定めています。
 発生主義会計を行っていると、「収入・支出」の概念を忘れがちですが、「収益・費用」は「収入・支出」と結びついているということを知っておく必要があります。

3.貸借対照表と損益計算書の関係
 我が国の会計基準は、利益計算において長らく収益費用アプローチと呼ばれる方法をとってきました。その下では、貸借対照表は損益計算の連結環と呼ばれます。
 詳細は割愛しますが、この場合、貸借対照表は「収入・支出」と「収益・費用」のズレをおさめているものというイメージでよいと思います。
 例えば、売掛金は収益として認識しているものの、収入はまだありませんので「収益・未収入」となります。機械などの有形固定資産は支出したものの費用にはなっていませんので「支出・未費用」です。このあたりはシュマーレンバッハの貸借対照表論が参考になります。

4.間接法の考え方
 前回、間接法に触れましたが、間接法は当期純利益に貸借対照表項目や非資金損益などを加算減算して営業活動によるキャッシュ・フローを算定する方法です。
 間接法では、当期純利益という損益計算書項目に、売掛金の増減額や買掛金の増減額の貸借対照表項目が加算減算されるので、初めての人だと「何で当期純利益に貸借対照表科目を足したり引いたりするのか」「売掛金が増加したとき何で当期純利益から減算するのか」と思われるかもしれません。
 しかしながら、これまでみてきたように、貸借対照表は「収入・支出」と「収益・費用」のズレをおさめているものと見ることができますので、貸借対照表科目の増減を当期純利益に加算減算することで、当期純利益から営業活動によるキャッシュ・フローを算出することができます。
 例えば、売掛金が期首から期末にかけて20万円増加したとします。売掛金は「収益・未収入項目」ですから、損益計算では収益として認識しているものの、キャッシュ・フロー計算では未収入なので、収益と収入に20万円のズレが生じているということを表しています。この場合だと、収益が収入よりも20万円多いので、収益の額を収入の額にするには、収益から20万円減算することが必要です。 
 従って、間接法では、売掛金が増加した場合、当期純利益から減算するというわけです。
 以下に、利益計算とキャッシュ・フロー計算の関係を図表で記載しました。
 参考としていただけますと幸いです。