今回は、財務諸表監査の監査手続の一つである「確認」(Confirmation)について記載します。
平成29年度から一定規模の社会福祉法人は法定監査の対象となりました。当該社会福祉法人のほとんどは「確認」という監査手続を受けたことはないと推測されます。そこで、今回のブログでは「確認」の意義や目的を簡単に記載いたします。
1.意義
確認とは「紙媒体、電子媒体又はその他の媒体により、監査人が確認の相手先である第三
者(確認回答者)から文書による回答を直接入手する監査手続」をいいます(監査基準委員会報告書(以下「監基報」と称す。)505 5(1))
確認では、赤ゴシックの文書による回答を直接入手するという点が重要です。
また、この定義には記載されていませんが、監査人が当該文書を相手先に発送する、という点も重要です。
目的は、確認に係る文書の発送から回収に至るまで、当該文書を被監査会社の支配下に置かないためです。
これにより、強い証明力を持つ監査証拠を得ることができます。
なお、確認の文書は被監査会社、すなわち、監査を受ける側が作成します。
期末監査時は、監査人が監査意見を出して決算が確定するまでの残り時間が限られていますので、早期に決算を締めることが重要となります。
2.対象となる勘定科目など
(1)残高に対する確認
確認の主な対象は、預金、証券取引、受取手形、売掛金、貸付金、未収金、支払手形、買掛金、未払金、借入金、リース、外部保管の棚卸資産などです。他の科目でも必要と認めた場合は確認を行います。
これらは主に残高についての立証が目的なので「残高確認」といい、略して「残確」と呼ばれたりもします。
残高以外にも、例えば、金融機関に対する確認では、担保情報、デリバティブ取引の情報なども得ることができます。
大昔の話ですが、当時は預金について確認を行うことが監査基準に明確に定められていなかったこともあり、預金について確認を行わなかった結果、定期預金を担保に簿外で借入が行われていたことを看過してしまったことがあったそうです。このようなこともあったことから、金融機関に対する確認は必須です。
(2)法律事務所に対する確認
顧問契約を締結している法律事務所や弁護士に対しても確認を発送します。現在係争中の事案などの有無を回答していただき、重要な後発事象、重要な偶発債務として注記すべきものの有無を把握するためです。
なお、法律事務所に対する確認書には、期末時点で未払となっている弁護士報酬も記載していただきます。この回答によりカットオフエラーが見つかるときもよくあります。
また、顧問契約の締結の有無にかかわらず、スポットで法律事務所や弁護士に相談している場合も、確認を発送します。
(3)取引に対する確認
取引に対する確認を行うこともあります。これは「取引確認」という呼び方をすることもあります。
取引と言っても様々ですが、ソフトウェアの販売取引については取引確認を行うことが結構あるのではないかと思います。ソフトウェアは無形物なので、モノの動きが把握しにくく、また循環取引の恐れもあるので、ソフトウェアの販売の事実や内容について、相手先から回答を得るわけです。
余談ですが、かつて、某大手監査法人が、取引先の取引先に対して確認を行おうとしたところ、IT系の被監査会社から解任されたということがありました。解任理由は「信頼関係を損なった」という内容だったと思います。
推測ですが、現場の監査チームは循環取引の疑いがあると見たのだと思います。
もちろん、ソフトウェアに限らず、モノの売上などについても必要と認めた場合は取引確認を行うことがあります。
3.最後に
確認については、他にも多くの論点があるのですが、長くなるので別の機会に記載いたします。
2017年9月24日日曜日
2017年9月18日月曜日
特定費用準備資金の留意点~公益法人
行政庁から公益認定を受けた公益法人(公益社団法人又は公益財団法人)では(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)4条、2条3号)、一定の要件を満たした場合に限り特定費用準備資金を積み立てることができます。
特定費用準備資金は公益法人独特の科目であり、わかりにくい面が多いですが、今回は、その積立時期と積立上の留意点を記載します。
1.特定費用準備資金の意義
特定費用準備資金とは、将来の特定の活動の実施のために特別に支出する費用(事業費又は管理費として計上されることとなるものに限るものとし、引当金の引当対象となるものを除く。)に係る支出に充てるために保有する資金(当該資金を運用することを目的として保有する財産を含む。)をいいいます(認定法18条①柱書)。
これは、会計上では資産ですが、収支相償(注1)や公益目的事業比率といった認定法上では費用とみなす、とするものです。
(借方)新規事業準備積立金 50,000 (貸方)普通預金 50,000
このように会計上では単なる資産科目ですが(なお、貸借対照表では特定資産として計上します。)、公益法人の収支相償や公益目的事業比率の算定では、この50,000千円を「費用」とみなします。
例えば、公益目的事業で40,000千円の黒字が出ていたとします。このままでは収支相償を満たせませんが、この特定費用準備資金を積み立てることで、40,000千円-50,000千円=△10,000千円となり、収支相償を満たすことができます。(注2)
注1:収支相償とは、公益目的事業では赤字を出さなければいけないという認定法の基準です(認定法14条)
注2:実際には、特定費用準備資金の取崩しや前期までの繰越金などを考慮することもあり、ややこしい面があるのですが、ここでは単純な例とします。
2.特定費用準備資金の積立時期
それでは、この特定費用準備資金をどの時点で積立てる必要があるのか、という論点ですが、それは積立てようとする当該事業年度末日まで、です。
そのため、例えば3月決算の公益法人であれば、平成29年度に特定費用準備資金を積立てたいと考える場合、平成30年3月31日までに積立てておく必要があります。平成30年4月1日以後の決算作業や決算承認理事会などでは、平成29年度の特定費用準備資金は積立てられないので注意が必要です。
理由は、特定費用準備資金は会計上は資産ですから、事業年度末日の財政状態を示す貸借対照表に特定資産として計上する以上、当該事業年度末日までに積立てておく必要があるためです。
事業年度末日後に積立てても、それは翌事業年度の特定費用準備資金です。
これは、次の3も関係があります。
3.特定費用準備資金と銀行口座
特定費用準備資金は、その資金の積立のために専用の預金口座を設ける必要があります。すなわち、一つの預金口座を、貸借対照表上で流動資産の預金と固定資産(特定資産)の預金に分けてはいけないということです。
認定法では「他の資金と明確に区分して管理されていること。」が特定費用準備資金の要件の一つとして掲げられています(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行規則(以下「認定法施行規則」)18条③Ⅱ)。
なお、特定費用準備資金のために設ける預金は普通預金でも定期預金でもかまいません。一般的には普通預金のほうが、機動的に使用できるでしょう。毎期、頻繁に使用する特定費用準備資金であれば普通預金のほうがよいかもしれません。
このように、特定費用準備資金を設けるためには、新たに預金口座を作り、そこに流動資産の普通預金から振り返る必要があります。
そうなると、この振替は当該事業年度末日までに行わなければなりません。そうしないと、貸借対照表は事業年度末日の財政状態を示さなくなるからです。
例えば4月下旬に特定費用準備資金を設けようと考えたとしても、事業年度末日までに預金の振替が行われていませんから、貸借対照表に特定資産として特定費用準備資金を計上することはできません。
上記2で特定費用準備資金をその事業年度末日までに積立てる必要があるということが、この3に関係すると記載したのはこのためです。
(注3)以上の論点は、内閣府に確認済みです。
4.月次決算の必要性
このように、特定費用準備資金は当該事業年度末日までに計上しなければならないとなると、決算作業で公益目的事業の損益が明らかになった時点では手遅れとなります。
そのため、事業年度末日までに、精度の高い決算見込を行う必要があります。
そして、この決算見込を行うためには、毎月の月次決算を行うことが前提となります。
月次決算を行い、決算月前に決算見込を行えば、公益目的事業の黒字額が概算で把握できますので、これをクリアできる額を特定費用準備資金として積立て、流動資産の普通預金から、専用口座に移すことができます。多くの場合、特定費用準備資金は比較的大きな金額となりますので、直前になって行うのではなく、数か月前から準備しておく必要があります。
なお、特定費用準備資金の積立ては、決算月における事業計画承認を行う理事会で決議することが多くなると思います。この月のほうが、決算見込の数値がより明確になっているからです。
5.特定費用準備資金の計上要件
最後に、特定費用準備資金を計上するためには、以下の5つの要件を満たす必要があるのでご確認ください(認定法施行規則18条③)。
このうち、三の特定費用準備資金に係る規程の作成は失念されている公益法人が多いのでご留意ください。規程の作成や理事会での承認にも時間がかかりますので、作成されていない法人は早急な整備が必要です。
特定費用準備資金は公益法人独特の科目であり、わかりにくい面が多いですが、今回は、その積立時期と積立上の留意点を記載します。
1.特定費用準備資金の意義
特定費用準備資金とは、将来の特定の活動の実施のために特別に支出する費用(事業費又は管理費として計上されることとなるものに限るものとし、引当金の引当対象となるものを除く。)に係る支出に充てるために保有する資金(当該資金を運用することを目的として保有する財産を含む。)をいいいます(認定法18条①柱書)。
これは、会計上では資産ですが、収支相償(注1)や公益目的事業比率といった認定法上では費用とみなす、とするものです。
以下に例を示します。
【設例】
2年後に開始予定の新規事業のために特定費用準備資金50,000千円を流動資産の普通預金から振り替えて積み立てた。(単位:千円)
会計上の仕訳は以下のとおりです。これは預金の振替仕訳なので、特に難しくはないと思います。
このように会計上では単なる資産科目ですが(なお、貸借対照表では特定資産として計上します。)、公益法人の収支相償や公益目的事業比率の算定では、この50,000千円を「費用」とみなします。
例えば、公益目的事業で40,000千円の黒字が出ていたとします。このままでは収支相償を満たせませんが、この特定費用準備資金を積み立てることで、40,000千円-50,000千円=△10,000千円となり、収支相償を満たすことができます。(注2)
注1:収支相償とは、公益目的事業では赤字を出さなければいけないという認定法の基準です(認定法14条)
注2:実際には、特定費用準備資金の取崩しや前期までの繰越金などを考慮することもあり、ややこしい面があるのですが、ここでは単純な例とします。
2.特定費用準備資金の積立時期
それでは、この特定費用準備資金をどの時点で積立てる必要があるのか、という論点ですが、それは積立てようとする当該事業年度末日まで、です。
そのため、例えば3月決算の公益法人であれば、平成29年度に特定費用準備資金を積立てたいと考える場合、平成30年3月31日までに積立てておく必要があります。平成30年4月1日以後の決算作業や決算承認理事会などでは、平成29年度の特定費用準備資金は積立てられないので注意が必要です。
理由は、特定費用準備資金は会計上は資産ですから、事業年度末日の財政状態を示す貸借対照表に特定資産として計上する以上、当該事業年度末日までに積立てておく必要があるためです。
事業年度末日後に積立てても、それは翌事業年度の特定費用準備資金です。
これは、次の3も関係があります。
3.特定費用準備資金と銀行口座
特定費用準備資金は、その資金の積立のために専用の預金口座を設ける必要があります。すなわち、一つの預金口座を、貸借対照表上で流動資産の預金と固定資産(特定資産)の預金に分けてはいけないということです。
認定法では「他の資金と明確に区分して管理されていること。」が特定費用準備資金の要件の一つとして掲げられています(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行規則(以下「認定法施行規則」)18条③Ⅱ)。
なお、特定費用準備資金のために設ける預金は普通預金でも定期預金でもかまいません。一般的には普通預金のほうが、機動的に使用できるでしょう。毎期、頻繁に使用する特定費用準備資金であれば普通預金のほうがよいかもしれません。
このように、特定費用準備資金を設けるためには、新たに預金口座を作り、そこに流動資産の普通預金から振り返る必要があります。
そうなると、この振替は当該事業年度末日までに行わなければなりません。そうしないと、貸借対照表は事業年度末日の財政状態を示さなくなるからです。
例えば4月下旬に特定費用準備資金を設けようと考えたとしても、事業年度末日までに預金の振替が行われていませんから、貸借対照表に特定資産として特定費用準備資金を計上することはできません。
上記2で特定費用準備資金をその事業年度末日までに積立てる必要があるということが、この3に関係すると記載したのはこのためです。
(注3)以上の論点は、内閣府に確認済みです。
4.月次決算の必要性
このように、特定費用準備資金は当該事業年度末日までに計上しなければならないとなると、決算作業で公益目的事業の損益が明らかになった時点では手遅れとなります。
そのため、事業年度末日までに、精度の高い決算見込を行う必要があります。
そして、この決算見込を行うためには、毎月の月次決算を行うことが前提となります。
月次決算を行い、決算月前に決算見込を行えば、公益目的事業の黒字額が概算で把握できますので、これをクリアできる額を特定費用準備資金として積立て、流動資産の普通預金から、専用口座に移すことができます。多くの場合、特定費用準備資金は比較的大きな金額となりますので、直前になって行うのではなく、数か月前から準備しておく必要があります。
なお、特定費用準備資金の積立ては、決算月における事業計画承認を行う理事会で決議することが多くなると思います。この月のほうが、決算見込の数値がより明確になっているからです。
5.特定費用準備資金の計上要件
最後に、特定費用準備資金を計上するためには、以下の5つの要件を満たす必要があるのでご確認ください(認定法施行規則18条③)。
一 当該資金の目的である活動を行うことが見込まれること。
二 他の資金と明確に区分して管理されていること。
三 当該資金の目的である支出に充てる場合を除くほか、取り崩すことができないものであること又は当該場合以外の取崩しについて特別の手続が定められていること。
四 積立限度額が合理的に算定されていること。
五 第三号の定め並びに積立限度額及びその算定の根拠について事業報告に準じた備置き及び閲覧等の措置が講じられていること。
このうち、三の特定費用準備資金に係る規程の作成は失念されている公益法人が多いのでご留意ください。規程の作成や理事会での承認にも時間がかかりますので、作成されていない法人は早急な整備が必要です。
2017年9月10日日曜日
特別損失計上の危険性
損益計算書においては、営業損益、経常損益、純損益の段階損益が設けられています。
これらの段階損益が適正な数値ではない場合、財務諸表利用者の意思決定に影響が出てしまいます。そのため、収益と費用は適切な区分に計上する必要があります。
今回は、本来は販売費及び一般管理費や営業外費用に計上すべき費用を特別損失に計上して、営業損益や経常損益を過大に計上する虚偽表示のリスクについて記載します。
1.特別損失の要件
損益計算書における特別損失は、臨時的な損失を計上する区分です。すなわち、当該企業の通常の営業活動ではないイレギュラーな活動や事象から生じた費用・損失を計上する区分といえます。
企業会計原則注解12では、特別損益に属する項目として、
「(1) 臨時損益 イ 固定資産売却損益、ロ 転売以外の目的で取得した有価証券の売却損益。ハ 災害による損失」
を掲げています。ちなみに、注解12では前期損益修正が記載されていますが、現行会計では前期損益修正は計上されなくなりました。なお、「特別損益に属する項目であっても、金額の僅少なもの又は毎期経常的に発生するものは、経常損益計算に含めることができる。」とされていることから、金額が多額であることも要件の一つと解されます。
しかしながら、上記のように、臨時性がないのに特別損失に計上して営業損益や経常損益を過大計上しているのではないかという疑念が生じる例も見られます。
2.貸倒引当金繰入額が特別損失に計上されている場合
貸倒引当金繰入額が特別損失に計上されている場合は要注意です。
貸倒引当金繰入額が特別損失に計上されるケースとして想定されるのは、貸倒懸念債権に係る貸倒引当金繰入額が多額に発生した場合です。貸倒懸念債権とは「経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権」をいいます(金融商品会計基準(以下「基準」27(2))。
この貸倒懸念債権は経営破綻の状態には至っていませんから、一般債権と同じ科目で計上することになります。なお、破産更生債権等については「破産更生債権等」という科目で固定資産のうち、投資その他の資産として計上します(財務諸表規則32条①十)。
そのため、貸倒懸念債権に係る貸倒引当金繰入額は、売掛金などの営業債権であれば販売費及び一般管理費に、貸付金などの営業外債権であれば営業外費用に計上することが妥当といえます。貸倒懸念債権に区分することは一見、臨時的に思えますが、通常の営業活動の中で生じたものですから、臨時ではありません。
貸倒懸念債権の貸倒見積高については、財務内容評価法又はキャッシュ・フロー見積法を使用するのですが、一般債権と比べると大きな金額となるケースが多いです。そのため、特別損失に計上すると、営業損益や経常損益が過大計上となる恐れがあります。
なお、私見ですが、破産更生債権等に対する貸倒見積高の計算についても、原則として同様の方法が妥当といえます。破産更生債権等とは、経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権ですが、これまでの営業活動の中で生じたものといえ、臨時性に乏しいといえるからです。ただし、災害により取引先が急に破綻したような場合は臨時性が認められる可能性はあります。
実は、かなり昔ですが、過去に、日本公認会計士協会の品質管理レビューで「何でもかんでも下(特別損失のこと)に持ってくる会社には気をつけてください」というアドバイスをいただきました。理由は、上記のように営業損益、経常損益が過大計上されるおそれがあるためです。
3.棚卸資産の評価損
棚卸資産の評価損について、特別損失に計上する要件は棚卸資産の評価に関する会計基準17項に要件と例示が明記されています。以下、引用します。
「臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには、特別損失に計上する。臨時の事象とは、例えば次のような事象をいう。(中略)
(1) 重要な事業部門の廃止
(2) 災害損失の発生」
あくまでも(1)(2)は例示ですが、(1)(2)そのもの、またはそれに近似するものでなければ、特別損失への計上は不可といえます。
そのため、特別損失に棚卸資産の評価損が計上されている場合は、その理由について検証する必要があります。単に、多額であることを理由に特別損失に計上しないようにすることが必要です。
これらの段階損益が適正な数値ではない場合、財務諸表利用者の意思決定に影響が出てしまいます。そのため、収益と費用は適切な区分に計上する必要があります。
今回は、本来は販売費及び一般管理費や営業外費用に計上すべき費用を特別損失に計上して、営業損益や経常損益を過大に計上する虚偽表示のリスクについて記載します。
1.特別損失の要件
損益計算書における特別損失は、臨時的な損失を計上する区分です。すなわち、当該企業の通常の営業活動ではないイレギュラーな活動や事象から生じた費用・損失を計上する区分といえます。
企業会計原則注解12では、特別損益に属する項目として、
「(1) 臨時損益 イ 固定資産売却損益、ロ 転売以外の目的で取得した有価証券の売却損益。ハ 災害による損失」
を掲げています。ちなみに、注解12では前期損益修正が記載されていますが、現行会計では前期損益修正は計上されなくなりました。なお、「特別損益に属する項目であっても、金額の僅少なもの又は毎期経常的に発生するものは、経常損益計算に含めることができる。」とされていることから、金額が多額であることも要件の一つと解されます。
しかしながら、上記のように、臨時性がないのに特別損失に計上して営業損益や経常損益を過大計上しているのではないかという疑念が生じる例も見られます。
2.貸倒引当金繰入額が特別損失に計上されている場合
貸倒引当金繰入額が特別損失に計上されている場合は要注意です。
貸倒引当金繰入額が特別損失に計上されるケースとして想定されるのは、貸倒懸念債権に係る貸倒引当金繰入額が多額に発生した場合です。貸倒懸念債権とは「経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権」をいいます(金融商品会計基準(以下「基準」27(2))。
この貸倒懸念債権は経営破綻の状態には至っていませんから、一般債権と同じ科目で計上することになります。なお、破産更生債権等については「破産更生債権等」という科目で固定資産のうち、投資その他の資産として計上します(財務諸表規則32条①十)。
そのため、貸倒懸念債権に係る貸倒引当金繰入額は、売掛金などの営業債権であれば販売費及び一般管理費に、貸付金などの営業外債権であれば営業外費用に計上することが妥当といえます。貸倒懸念債権に区分することは一見、臨時的に思えますが、通常の営業活動の中で生じたものですから、臨時ではありません。
貸倒懸念債権の貸倒見積高については、財務内容評価法又はキャッシュ・フロー見積法を使用するのですが、一般債権と比べると大きな金額となるケースが多いです。そのため、特別損失に計上すると、営業損益や経常損益が過大計上となる恐れがあります。
なお、私見ですが、破産更生債権等に対する貸倒見積高の計算についても、原則として同様の方法が妥当といえます。破産更生債権等とは、経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権ですが、これまでの営業活動の中で生じたものといえ、臨時性に乏しいといえるからです。ただし、災害により取引先が急に破綻したような場合は臨時性が認められる可能性はあります。
実は、かなり昔ですが、過去に、日本公認会計士協会の品質管理レビューで「何でもかんでも下(特別損失のこと)に持ってくる会社には気をつけてください」というアドバイスをいただきました。理由は、上記のように営業損益、経常損益が過大計上されるおそれがあるためです。
3.棚卸資産の評価損
棚卸資産の評価損について、特別損失に計上する要件は棚卸資産の評価に関する会計基準17項に要件と例示が明記されています。以下、引用します。
「臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには、特別損失に計上する。臨時の事象とは、例えば次のような事象をいう。(中略)
(1) 重要な事業部門の廃止
(2) 災害損失の発生」
あくまでも(1)(2)は例示ですが、(1)(2)そのもの、またはそれに近似するものでなければ、特別損失への計上は不可といえます。
そのため、特別損失に棚卸資産の評価損が計上されている場合は、その理由について検証する必要があります。単に、多額であることを理由に特別損失に計上しないようにすることが必要です。
2017年9月2日土曜日
「時価を把握することが極めて困難と認められる株式」の評価
「時価を把握することが極めて困難と認められる株式」については、取得原価をもって貸借対照表価額とするとされています(金融商品会計基準(以下「基準」)第19項(2))。
また、当該株式の発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額を行い、評価差額は当期の損失として処理(減損処理)しなければならない(基準第21項)とされています。
今回は、この時価を把握することが極めて困難と認められる株式の評価の留意点について記載します。
1.概要
時価を把握することが極めて困難と認められる株式とは、具体例としては非上場の株式会社の株式があげられます。
このような株式は、時価がないので、時価がある株式と比べて評価が難しくなります。
財務諸表監査上、被監査会社が時価を把握することが極めて困難と認められる株式を保有していると、その評価の妥当性を確かめることになります。具体的には減損の必要がないかどうかを見ることになります。
2.会社が収集すべき資料
当然のことながら、こういった株式の評価は被監査会社側が行います。監査人はその評価の妥当性を検証します。
このような株式には時価がありませんので、使用する資料としては、直近の財務諸表をタイムリーに入手する必要があります。
ただし、被監査会社と投資先の会社の決算期が大きく離れている場合、例えば、被監査会社は3月決算であるのに対して、投資先は9月決算という場合、6ヶ月前の財政状態を基礎に算出することになりますので、タイムラグがあります。このような場合は、直近の試算表も合わせて入手する必要があります。
3.実質価額算定のときの留意点
実質価額とは、投資先の純資産額に一定の調整を加えた金額を発行済株式総数で割って算出した金額です。
この実質価額は、簿記で出てくるような問題は簡単ですが、実務上はなかなか難しい面があります。
以下、実質価額を算定する上での留意点を列挙します。
(1)減価償却費の計上は適切か
非上場の株式会社は、多くの場合、法人税法に基づいた、いわゆる税務会計で会計処理を行っています。この場合、減価償却費を計上していないときが時々見受けられます。これは法人税法では、減価償却費を計上しなくても問題はないからです。
また、意図的に計上しない場合以外にも、減価償却費の計上を失念しているケースもあります。非上場の株式会社の中には現金主義会計で会計処理を行っているため、期中は減価償却費を計上せず、期末決算時に1年分の減価償却費をまとめて計上するという会社があります。この決算時に減価償却費の計上を忘れてしまい、その事業年度の減価償却費はゼロとなってしまっていることもあります。
監査人は、このように投資先の会社が適切に減価償却費を計上しているかどうかを確かめる必要があります。
(2)土地などの不動産の評価は適切か
簿記の問題でよく出てくるのは、投資先が保有している土地に含み益がある場合ですが、逆に保有している土地の価額が大きく下落していないかどうかも注意する必要があります。路線価などの時価情報を入手して、ある程度の金額を算定しておく必要があります。
また、実質価額の算定は、書面による資料に基づくことが多いので、保有不動産がどのように使用されているのか、遊休資産ではないか、といったことまで踏み込むのは難しいのですが、重要性が大きい場合、視察を行う、取引確認のような形で確認書を郵送する、といったことも必要と考えられます。
(3)貸倒懸念債権、破産更生債権等はないか
税務会計で処理している場合、会計上の貸倒引当金の設定と税法上の個別引当との範囲に乖離があるため、会計上では貸倒懸念債権や破産更生債権等で処理すべきなのに、必要な引当金を設定していないこともあります。
もちろん、これも書面上で判断することは極めて困難なのですが、過去の財務諸表も入手して、①売掛金の回転期間を調べる、②税務申告書の内訳表を調べて、毎期膨らんでいる債権の有無を調べる、③膨らんでいなくても長期間滞留している債権がある可能性もあるので、毎期同じ金額の債権の有無を調べる、といった手続が必要と考えられます。
(4)棚卸資産の評価は適切か
棚卸資産についても、長期滞留在庫がある場合もあります。この場合は、評価損を計上する必要があります。しかし、これも書面上で判断するのは難しいのですが、棚卸資産の回転期間を調べるなど、異常な変動などがないかを調べる必要があります。
4.最後に
時価を把握することが極めて困難と認められる株式の評価は、「会計上の見積り」に属するものであり、必ずしも客観的ではない部分があるため、その評価は難しいものです。
監査人は、効率性も注意しながら、実施可能な監査手続は実施し、より客観的な評価を行い、被監査会社が行った評価の妥当性を検証する必要があります。
また、当該株式の発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額を行い、評価差額は当期の損失として処理(減損処理)しなければならない(基準第21項)とされています。
今回は、この時価を把握することが極めて困難と認められる株式の評価の留意点について記載します。
1.概要
時価を把握することが極めて困難と認められる株式とは、具体例としては非上場の株式会社の株式があげられます。
このような株式は、時価がないので、時価がある株式と比べて評価が難しくなります。
財務諸表監査上、被監査会社が時価を把握することが極めて困難と認められる株式を保有していると、その評価の妥当性を確かめることになります。具体的には減損の必要がないかどうかを見ることになります。
2.会社が収集すべき資料
当然のことながら、こういった株式の評価は被監査会社側が行います。監査人はその評価の妥当性を検証します。
このような株式には時価がありませんので、使用する資料としては、直近の財務諸表をタイムリーに入手する必要があります。
ただし、被監査会社と投資先の会社の決算期が大きく離れている場合、例えば、被監査会社は3月決算であるのに対して、投資先は9月決算という場合、6ヶ月前の財政状態を基礎に算出することになりますので、タイムラグがあります。このような場合は、直近の試算表も合わせて入手する必要があります。
3.実質価額算定のときの留意点
実質価額とは、投資先の純資産額に一定の調整を加えた金額を発行済株式総数で割って算出した金額です。
この実質価額は、簿記で出てくるような問題は簡単ですが、実務上はなかなか難しい面があります。
以下、実質価額を算定する上での留意点を列挙します。
(1)減価償却費の計上は適切か
非上場の株式会社は、多くの場合、法人税法に基づいた、いわゆる税務会計で会計処理を行っています。この場合、減価償却費を計上していないときが時々見受けられます。これは法人税法では、減価償却費を計上しなくても問題はないからです。
また、意図的に計上しない場合以外にも、減価償却費の計上を失念しているケースもあります。非上場の株式会社の中には現金主義会計で会計処理を行っているため、期中は減価償却費を計上せず、期末決算時に1年分の減価償却費をまとめて計上するという会社があります。この決算時に減価償却費の計上を忘れてしまい、その事業年度の減価償却費はゼロとなってしまっていることもあります。
監査人は、このように投資先の会社が適切に減価償却費を計上しているかどうかを確かめる必要があります。
(2)土地などの不動産の評価は適切か
簿記の問題でよく出てくるのは、投資先が保有している土地に含み益がある場合ですが、逆に保有している土地の価額が大きく下落していないかどうかも注意する必要があります。路線価などの時価情報を入手して、ある程度の金額を算定しておく必要があります。
また、実質価額の算定は、書面による資料に基づくことが多いので、保有不動産がどのように使用されているのか、遊休資産ではないか、といったことまで踏み込むのは難しいのですが、重要性が大きい場合、視察を行う、取引確認のような形で確認書を郵送する、といったことも必要と考えられます。
(3)貸倒懸念債権、破産更生債権等はないか
税務会計で処理している場合、会計上の貸倒引当金の設定と税法上の個別引当との範囲に乖離があるため、会計上では貸倒懸念債権や破産更生債権等で処理すべきなのに、必要な引当金を設定していないこともあります。
もちろん、これも書面上で判断することは極めて困難なのですが、過去の財務諸表も入手して、①売掛金の回転期間を調べる、②税務申告書の内訳表を調べて、毎期膨らんでいる債権の有無を調べる、③膨らんでいなくても長期間滞留している債権がある可能性もあるので、毎期同じ金額の債権の有無を調べる、といった手続が必要と考えられます。
(4)棚卸資産の評価は適切か
棚卸資産についても、長期滞留在庫がある場合もあります。この場合は、評価損を計上する必要があります。しかし、これも書面上で判断するのは難しいのですが、棚卸資産の回転期間を調べるなど、異常な変動などがないかを調べる必要があります。
4.最後に
時価を把握することが極めて困難と認められる株式の評価は、「会計上の見積り」に属するものであり、必ずしも客観的ではない部分があるため、その評価は難しいものです。
監査人は、効率性も注意しながら、実施可能な監査手続は実施し、より客観的な評価を行い、被監査会社が行った評価の妥当性を検証する必要があります。
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