2017年9月10日日曜日

特別損失計上の危険性

 損益計算書においては、営業損益、経常損益、純損益の段階損益が設けられています。
 これらの段階損益が適正な数値ではない場合、財務諸表利用者の意思決定に影響が出てしまいます。そのため、収益と費用は適切な区分に計上する必要があります。
 今回は、本来は販売費及び一般管理費や営業外費用に計上すべき費用を特別損失に計上して、営業損益や経常損益を過大に計上する虚偽表示のリスクについて記載します。

1.特別損失の要件
 損益計算書における特別損失は、臨時的な損失を計上する区分です。すなわち、当該企業の通常の営業活動ではないイレギュラーな活動や事象から生じた費用・損失を計上する区分といえます。
 企業会計原則注解12では、特別損益に属する項目として、
(1) 臨時損益 イ 固定資産売却損益、ロ 転売以外の目的で取得した有価証券の売却損益。ハ 災害による損失」
を掲げています。ちなみに、注解12では前期損益修正が記載されていますが、現行会計では前期損益修正は計上されなくなりました。なお、「特別損益に属する項目であっても、金額の僅少なもの又は毎期経常的に発生するものは、経常損益計算に含めることができる。」とされていることから、金額が多額であることも要件の一つと解されます。
 しかしながら、上記のように、臨時性がないのに特別損失に計上して営業損益や経常損益を過大計上しているのではないかという疑念が生じる例も見られます。

2.貸倒引当金繰入額が特別損失に計上されている場合
 貸倒引当金繰入額が特別損失に計上されている場合は要注意です。
 貸倒引当金繰入額が特別損失に計上されるケースとして想定されるのは、貸倒懸念債権に係る貸倒引当金繰入額が多額に発生した場合です。貸倒懸念債権とは「経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権」をいいます(金融商品会計基準(以下「基準」27(2))。

 この貸倒懸念債権は経営破綻の状態には至っていませんから、一般債権と同じ科目で計上することになります。なお、破産更生債権等については「破産更生債権等」という科目で固定資産のうち、投資その他の資産として計上します(財務諸表規則32条①十)。
 そのため、貸倒懸念債権に係る貸倒引当金繰入額は、売掛金などの営業債権であれば販売費及び一般管理費に、貸付金などの営業外債権であれば営業外費用に計上することが妥当といえます。貸倒懸念債権に区分することは一見、臨時的に思えますが、通常の営業活動の中で生じたものですから、臨時ではありません。

 貸倒懸念債権の貸倒見積高については、財務内容評価法又はキャッシュ・フロー見積法を使用するのですが、一般債権と比べると大きな金額となるケースが多いです。そのため、特別損失に計上すると、営業損益や経常損益が過大計上となる恐れがあります。

 なお、私見ですが、破産更生債権等に対する貸倒見積高の計算についても、原則として同様の方法が妥当といえます。破産更生債権等とは、経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権ですが、これまでの営業活動の中で生じたものといえ、臨時性に乏しいといえるからです。ただし、災害により取引先が急に破綻したような場合は臨時性が認められる可能性はあります。

 実は、かなり昔ですが、過去に、日本公認会計士協会の品質管理レビューで「何でもかんでも下(特別損失のこと)に持ってくる会社には気をつけてください」というアドバイスをいただきました。理由は、上記のように営業損益、経常損益が過大計上されるおそれがあるためです。

3.棚卸資産の評価損
 棚卸資産の評価損について、特別損失に計上する要件は棚卸資産の評価に関する会計基準17項に要件と例示が明記されています。以下、引用します。

臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには、特別損失に計上する。臨時の事象とは、例えば次のような事象をいう。(中略)
 (1) 重要な事業部門の廃止 
 (2) 災害損失の発生

 あくまでも(1)(2)は例示ですが、(1)(2)そのもの、またはそれに近似するものでなければ、特別損失への計上は不可といえます。
 そのため、特別損失に棚卸資産の評価損が計上されている場合は、その理由について検証する必要があります。単に、多額であることを理由に特別損失に計上しないようにすることが必要です。 

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