2017年9月2日土曜日

「時価を把握することが極めて困難と認められる株式」の評価

 「時価を把握することが極めて困難と認められる株式」については、取得原価をもって貸借対照表価額とするとされています(金融商品会計基準(以下「基準」)第19項(2))。 
 また、当該株式の発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額を行い、評価差額は当期の損失として処理(減損処理)しなければならない(基準第21項)とされています。
 今回は、この時価を把握することが極めて困難と認められる株式の評価の留意点について記載します。

1.概要
 時価を把握することが極めて困難と認められる株式とは、具体例としては非上場の株式会社の株式があげられます。
 このような株式は、時価がないので、時価がある株式と比べて評価が難しくなります。
 財務諸表監査上、被監査会社が時価を把握することが極めて困難と認められる株式を保有していると、その評価の妥当性を確かめることになります。具体的には減損の必要がないかどうかを見ることになります。

2.会社が収集すべき資料
 当然のことながら、こういった株式の評価は被監査会社側が行います。監査人はその評価の妥当性を検証します。
 このような株式には時価がありませんので、使用する資料としては、直近の財務諸表をタイムリーに入手する必要があります。
 ただし、被監査会社と投資先の会社の決算期が大きく離れている場合、例えば、被監査会社は3月決算であるのに対して、投資先は9月決算という場合、6ヶ月前の財政状態を基礎に算出することになりますので、タイムラグがあります。このような場合は、直近の試算表も合わせて入手する必要があります。

3.実質価額算定のときの留意点
 実質価額とは、投資先の純資産額に一定の調整を加えた金額を発行済株式総数で割って算出した金額です。
 この実質価額は、簿記で出てくるような問題は簡単ですが、実務上はなかなか難しい面があります。
 以下、実質価額を算定する上での留意点を列挙します。

(1)減価償却費の計上は適切か
 非上場の株式会社は、多くの場合、法人税法に基づいた、いわゆる税務会計で会計処理を行っています。この場合、減価償却費を計上していないときが時々見受けられます。これは法人税法では、減価償却費を計上しなくても問題はないからです。

 また、意図的に計上しない場合以外にも、減価償却費の計上を失念しているケースもあります。非上場の株式会社の中には現金主義会計で会計処理を行っているため、期中は減価償却費を計上せず、期末決算時に1年分の減価償却費をまとめて計上するという会社があります。この決算時に減価償却費の計上を忘れてしまい、その事業年度の減価償却費はゼロとなってしまっていることもあります。

 監査人は、このように投資先の会社が適切に減価償却費を計上しているかどうかを確かめる必要があります。

(2)土地などの不動産の評価は適切か
 簿記の問題でよく出てくるのは、投資先が保有している土地に含み益がある場合ですが、逆に保有している土地の価額が大きく下落していないかどうかも注意する必要があります。路線価などの時価情報を入手して、ある程度の金額を算定しておく必要があります。
 また、実質価額の算定は、書面による資料に基づくことが多いので、保有不動産がどのように使用されているのか、遊休資産ではないか、といったことまで踏み込むのは難しいのですが、重要性が大きい場合、視察を行う、取引確認のような形で確認書を郵送する、といったことも必要と考えられます。

(3)貸倒懸念債権、破産更生債権等はないか
 税務会計で処理している場合、会計上の貸倒引当金の設定と税法上の個別引当との範囲に乖離があるため、会計上では貸倒懸念債権や破産更生債権等で処理すべきなのに、必要な引当金を設定していないこともあります。
 もちろん、これも書面上で判断することは極めて困難なのですが、過去の財務諸表も入手して、①売掛金の回転期間を調べる、②税務申告書の内訳表を調べて、毎期膨らんでいる債権の有無を調べる、③膨らんでいなくても長期間滞留している債権がある可能性もあるので、毎期同じ金額の債権の有無を調べる、といった手続が必要と考えられます。

(4)棚卸資産の評価は適切か
 棚卸資産についても、長期滞留在庫がある場合もあります。この場合は、評価損を計上する必要があります。しかし、これも書面上で判断するのは難しいのですが、棚卸資産の回転期間を調べるなど、異常な変動などがないかを調べる必要があります。

4.最後に
 時価を把握することが極めて困難と認められる株式の評価は、「会計上の見積り」に属するものであり、必ずしも客観的ではない部分があるため、その評価は難しいものです。
 監査人は、効率性も注意しながら、実施可能な監査手続は実施し、より客観的な評価を行い、被監査会社が行った評価の妥当性を検証する必要があります。 


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